ドルフィンウェーブTB   作:月想

12 / 22
気づいたら一月経ってましたね←
KAZAMI回だと言ったな?あれは嘘だ!
ヒオシュネ「「!?」」
場面転換多めです。漫画感覚で見ていただけると幸いです。


第12話『趣味は人を表す。でも大体評価が上がることはない。』

『夕凪寮』

 

私や入華が暮らしているこの寮。

ジェットバトル関係者の中でも、主に選手や選手に関わるポジションの人間が集められている。

セキュリティの都合らしいが、特に厳しい門限があるわけでもなく、ほとんどただのアパート状態だ。

非常に快適で気に入っている。

そんな夕凪寮だが、実は入華以外にも多くの知人が住んでいたりする。

例えば日向の伊澄さんと黒瀬さん。

初めて知ったのは学校での雑談時。

寮で出会したことがなかった為、知らなかったのは私だけだった。

特に黒瀬さんは謎だ。

前に一度黒瀬さんのような人がふわふわモコモコの服で出掛けるのが見えたが、本人の好みとは違いそうだし、恐らく他人の空似というやつだろう。

伊澄さんは急に訪問してきたり、夜通しパーティーしようぜ!などと声をかけられたりすることもなく、意外に静かで落ち着いている。

ただ、時々すごい悲鳴が聞こえてくる時がある。

 

『やばいやばいマジヤバ!?』

『ギャー山火事!?山火事じゃー!?』

 

とか。

かなり悲痛な叫びなので非常に心配になる。

黒瀬さん曰く

『いつものことだから放っておけ。』

とのことだが、やはり一度聞いてみるべきだろうか。

 

来たばかりの頃も思ったが、やはりワダツミは広いようで狭いなと感じる。

こちらに実家があるメンツ以外はほぼこの寮に集まっていると言える。

つまり、寮を同じくする知人は日向コンビだけではない。

 

「颯、おはよう。」

「?......コーチさん。おはようございます。」

 

褐色の肌にサラサラのポニーテール。

ワダツミ最強企業、KAZAMIのホープである颯だ。

彼女もまた、この夕凪寮に住むご近所さん(?)なのだ。

 

「まだ、早いのに。珍しいね...。」

「颯が毎朝走ってるのを知ってたから、私も走ろうと思って。」

「そう、なんだ。」

 

時刻は朝5時頃。

日が昇るのは大分早くなり、すでに明るくなってきているが、普通の人はもう少し眠りたい時間帯だ。

前々からランニングの習慣はあったが、ワダツミに来てからバタバタしていて、サボりがちになっていた。

颯と知り合いになれたこともあり、一度一緒に走ってみたいと機会を窺っていたのだ。

 

「一緒に走っていいかな?付いて行けなかったら、置いてっちゃっていいから。」

「......うん、いいよ。」

「ありがとう。よろしくね。」

「よろしく、お願いします。」

 

表情は変わらないが、快く了承してくれた。

前回、偶然すれ違った時はあっさり離されてしまったが、今度はちゃんと付いて行かないと!

気合いを入れ、颯とのランニングを開始した。

 

――――――――――――――――――――――――――――

 

「ハァ...ハァ...っ。」

「大丈夫...?」

 

情けなく砂浜に突っ伏す私。

30分ほどランニングを行ったわけだが、颯の速度は想像以上に速く、軽めに行うはずの朝の運動が私にはハードトレーニングとなっていた。

何とか離されずに済んだが、それも途中颯が遠慮してくれたおかげだ。

 

「ハァ...ハァ...と、年かな...?」

「......若くて、キレイ。だと思う。」

「あはは...。ありがとう。ごめんね?私に合わせてもらっちゃったみたいで...。」

「ううん...。」

 

疲労困憊な私と対称的に、颯はまだまだ余裕そうな顔で少し微笑んでみせる。

 

「誰かと走るの、久しぶりだった。......すごく、楽しかった。」

「ふふっ、颯は優しいね。私も、楽しかったよ。」

 

颯といると不思議と落ち着いて、穏やかになれる。

砂浜に二人座って朝日が昇っていくのを眺める。

 

「ワダツミっていいなぁ...。」

「ここの風は、気持ちいい。」

 

潮風が心地よい。

いつの間にか上がっていた息も、汗も。

すべてすっきりとした満足感に変わっていた。

 

「輪、さん。」

「どうしたの?」

 

さっきまで静かに微笑んでいた颯だが、途端に真剣な表情に変わり私を見つめる。

 

「相談、してもいい?」

 

――――――――――――――――――――――――――――

 

「新しい趣味?」

 

夕凪寮に戻りながら颯から持ち掛けられた相談事。

それは走ること以外の、『新しい趣味』を見つけたいという話だった。

 

「エレンに、ずっと走ってたらケガが心配。それ以外の趣味を見つけて、体を休ませて欲しいって。」

「へぇ。エレンちゃん、颯にはすごく優しいよね。」

 

意外な思いやりを見せるなと感心した。

私たちにはすごく刺々しかったし、内と外で対応が変わるタイプなのかな?

まあ、何だかんだ優しい子なのは伝わってくるのだが。

 

「エレンは、優しい。......少し、口が悪いけど。KAZAMIが大好きで、大切。」

「......そうだね。それは間違いない。」

「それで、他の人に趣味を聞いて、参考にしなさいって。だからまず、入華に話してみた。そしたら、輪さんならきっと助けてくれるって。」

「な、なるほど。ハードル高めになってるね...。」

 

趣味なら同年代の入華たちの方が詳しいのではないかとも思うが、そこまで頼られてしまっては無下にするわけにはいかない。

 

「相談、受けてくれる...?」

「うん、私でよければ。」

「ありがとう。......よろしく、お願いします。」

 

こうして、颯の趣味探しを手伝うこととなった。

週末までに色々と考えておかなければ。

 

――――――――――――――――――――――――――――

 

「何でこの庶民がいるわけ!?」

「こんにちは、エレンちゃん。」

 

もうすっかり自由行動が出来なくなった恒例の土曜日。

颯と夕凪寮で待ち合わせし、とりあえず商業区に向かおうと思ったところで、物凄いドリフトを決めて高級車が私たちの目の前に停車した。

 

『颯!エレンが直々に趣味探しを手伝ってあげるわ!』

 

どや顔で現れたのはご存知、エレンお嬢様だった。

いつもの箱入り娘な服ではなく、白い清楚なワンピース姿だ。

こういった服装だと、金髪と相まって高貴さが増して『ちゃんとお嬢様なんだな。』と感心してしまう。

 

「今日は、輪さんと約束してた。急に来たのは、エレンの方。」

「うっ...!だ、だってエレンが颯に趣味探しの話をしたんだし...。一応、手伝わないとって思って...。」

「責任感があっていい子だね。」

「エレンは、優しい。」

「ちょっと!なに庶民まで優しい顔になってるのよ!子ども扱いする気!?」

「よしよし。」

「子ども扱いしないで!」

「どうどう。」

「馬扱いか!?」

 

私の中でエレンちゃんのイメージが

『悪役令嬢』から『責任感の強い良い子』になった。

かなちゃんに通じるものがある。

しばらくプンスカしているエレンちゃんを颯が宥め、漸く三人で趣味探しを決行することとなった。

 

「それで?庶民はいったい、どうやってエレンのパートナーであるこの颯にふさわしい趣味を探そうとしていたの?まあ、どうせ庶民らしい短絡的な作戦しかないんでしょうけど。」

「いちいち刺々しいなぁ。そんな言い方してると、一週間おやつ抜きにするからね?」

「あんたは私のお母さんか!?どのポジションから話てるのよ!?」

 

作戦なら、勿論ある。

 

ふっふっふっ。このワダツミで無駄に広がった人脈を活かす時が来たようだな(二回目)。

 

「何一人で笑ってるのよ...。」

「......少し、恐い。」

 

――――――――――――――――――――――――――――

 

◼️□趣味探し~みちるの場合~◼️□

 

『残念だよ。君の任務は失敗だ。』

 

大画面に映し出される派手な爆発と、臨場感溢れる大音量が響く。

誰もが息を呑むクライマックスシーン。

私たちは、映画館にいた。

流れているのは有名なスパイ映画の続編だ。

私はあまり詳しくないが、それでもやはり名作故の安定感は感じる。

特にバイクシーンは良かった。

俳優さんが運転しているのか、スタントさんが演じているのか。

どちらにせよ刺激的な走りだった。

ポップコーンを1粒掴み、口に放り込む。

映画を見る時に食べるポップコーンって、何でこんなに美味しいんだろうか。

流石に昼食前の為、一番小さいサイズを二人で分けている。

そういえば、と。私は連れのみんなの様子を確認してみる。

私の左隣、颯はやはりいつも通りの表情で映画をじっと眺めている。

面白いのか、面白くないのか。どちらとも取れる様子だ。

その隣にはエレンちゃん。

腕組みをして、これまた映画をじっと見ている。不思議と大人っぽく見える表情だ。

確か、彼女の趣味は美術鑑賞だったか。

映画もある意味芸術、芸能の世界。

お嬢様はその辺りの審美眼も磨いていて、この映画を真面目に評価しているのかもしれない。

そして、私の右隣。

この『映画観賞』を趣味としている彼女。

 

「あ、あわわわ...!?」

 

我がKIRISHIMAが誇るクール先輩、みちるである。

映画に感情移入しているのか、ものすごくアワアワしている。

小声に留めている辺り、流石クールな女と言ったところだろう。

以前から映画観賞が趣味と聞いていた為、ポピュラーな趣味としてまず試してみようと、みちるに案内を頼んだのだ。

見るのがスパイ映画だと聞いて意外に思う颯とエレンちゃんに反して、事情を知る私は、参考にし過ぎないよう釘を刺す算段を立てていた。

今更だが、映画観賞が趣味と言うには色んなジャンルに興味を持てる『楽しみ方』を知る必要がある。

ただ映画を観に来て、じゃあ趣味にしよう!と颯がなるだろうか?

何だかただ休日に映画を観ているだけな気がするが、まあ面白かったしいいだろう。

 

......みちる。ちなみにさっきから飲んでるそのウーロン茶。

私が飲んでたやつだからね?

ウーロン茶とオレンジジュースの違いが分からなくなるなんて。

コーチは君のことが、本当に心配です。

クールになれ、みちる。

ステイクール。

 

――――――――――――――――――――――――――――

 

◼️□趣味探し~入華の場合~◼️□

 

「ヤサイマシマシニンニクアブラでお願いします!」

「はいよ!」

「......は?」

「残りのお嬢さん方はニンニク入れますか?」

「...。」

「え、ん...?」

「あ、すみません。三人共そのままでお願いします...。」

「はいよ!」

 

お昼時。

食事と言えばこの子と言うことで、趣味がジェットバトル、もとい『美味しいモノを食べること』な入華についていくことにしたのだが。

 

「豚ラーメン大ヤサイマシマシニンニクアブラウズラトッピングの方!」

「はい!」

「ひぇ...。」

「な、何よあれ...!?」

「......山、だね。」

 

入華の前に置かれた巨大などんぶり。

まずラーメンのくせに麺が見えない。

一面をもやしとキャベツが覆い、最早小高い山となっている。

それを支えるように、寄り掛かるように取り囲むチャーシュー。

可愛いウズラ卵も盛られている。

見るだけで圧倒されるこのビジュアル。

有識者の中で『二郎系』と呼ばれるカテゴリーのラーメンだ。

コストに見合わない圧倒的な量が特徴的で、主に若い男性にカルト的人気を誇っているらしい。

当たり前だが、少食の女性が食べ切れるモノではない。

入華のオススメの店、と聞いて少々不安になっていた。

結果は予想を簡単に越えられたわけだが。

ありがたいことに、『女性にオススメ!スーパーミニラーメン』というのがあったので三人共それを選んでおいた。

君子危うきに近付かず、というやつである。

 

「入華、流石にその量は食べ過ぎ...」

「コーチ、お静かにお願いします。これは私とこのラーメンとの真剣勝負なんです。集中しないと。」

 

今まで見たことのないような真剣な表情で、入華は箸を手に取る。

まるでジェットバトルの試合前だ。

 

「この世のすべての食材に感謝を込めて。いただきます!」

 

手を合わせた後、教育に良さそうな挨拶をして箸を割る入華。

すごい勢いで野菜を口に運んでは飲み込んでいる。

颯もエレンちゃんも、まるで曲芸を見せられたように驚き目を見開いていた。

私たちの前にもついにラーメンがやって来る。

スーパーミニと言うが、どう見ても世間一般のラーメンより量が多い。

颯とエレンちゃんが心配だが、私も人の心配をする余裕はない。

 

「いただきます...。」

 

入華。

確かに美味しいラーメンだと思う。

だけど、君の場合趣味の記載を変える必要があると思うんだ。

今度修正しておこうね。

 

『趣味:フードファイト』

 

って...。

 

――――――――――――――――――――――――――――

 

◼️□趣味探し~色んな人の場合~◼️□

 

【ヘリー】:これがコレクションの一部よ

 

エコチャのメッセージと共に画像が送られてくる。

高級そうな、所謂お人形さんが数体写っていた。

日本人にはあまり馴染みがないが、衣装までしっかり個性的な辺り、ヘリーさんのファッション好きが表れる彼女らしい趣味なのかもしれない。

 

「可愛い...。」

「気に入った?」

「でも、高そう...。」

 

【ヘリー】:人形用のお洋服も作ったりするのよ!

【りん】:デザイナーさんらしい趣味ですね!

【りん】:すごく素敵だけど、高そうですね?

【ヘリー】:まあ、良いものはある程度ね

【ヘリー】:安くても可愛いのは多いわよ?

 

「だって。」

「そうなんだ。...少し、考えてみるね。」

 

素敵な趣味だが、颯にはいまいちウケが悪そうだ。

 

【りん】:ちなみに、セレナさんの趣味とかは?

【ヘリー】:あの子は悪趣味よ

【りん】:悪趣味...?

【ヘリー】:剥製集め

【りん】:あっ、ふーん...

【ヘリー】:まあ、普通の女の子には向かないわね

 

確かに、颯が見たら「可哀想...。」とだけ言って悲しそうな顔をしそうだ。

セレナさん本人から聞かなければどこが好きかは分からないが、とりあえず颯に提案する必要はないだろう。

そうこうしてると、また別の人からエコチャが届いた。

 

【刃兼】:もっぱら休日は稽古に当てている。

【りん】:予想通りですね

【刃兼】:我ながら面白味がないとは思うが。

【りん】:健康的ですけど、刃兼さんにとっては仕事も兼ねてませんか?

【刃兼】:それもそうだが、嫌ではないのだ。

【刃兼】:技術向上は勿論、心の鍛練にもなる。

【りん】:ストイックですね!

【夕離】:だからむねも平らなんだよ

 

刃兼さんの趣味について聞いていると、夕離からもエコチャが届いた。

そういえば、三人のグループチャットで話していたんだった。

 

【夕離】:運動なんてほどほどにしないと、乙姫みたいにナイチチになるぞー

【りん】:夕離は何が趣味なの?

【夕離】:アタシか?

【夕離】:銃いじり

 

「銃の扱いならエレンに勝てるわけないわ!何せハワイでお父様から」

 

後ろでエレンちゃんが何やら自慢話を展開しているが、気になるのは颯だ。

何やら胸の辺りをペタペタ触って考えごとをしているようだが。

 

【夕離】:いじるのもぶっぱなすのも好きだぞー

【りん】:ガンナーらしい趣味だね

【夕離】:ジェットバトルも実弾ならなー

【りん】:いや、ダメでしょ

 

何それ、こわい。

死人が出るじゃん。

 

【りん】:あれ?そういえば刃兼さんは?

【夕離】:ショックで寝込んだか?

【夕離】:ま、寝込んでもまな板はまな板だけどなー

【夕離】:まな板が嫌なら休みはゆっ

 

変なところでメッセージが途切れてしまう。

打ち間違いかな?

 

【夕離】:不適切な発言申し訳ない。

【夕離】:ご友人には素敵な趣味が見つかるように願っていると伝えて欲しい。

【りん】:え?

【夕離】:この阿呆の始末をつける。

【夕離】:では。

 

それっきり、日向大人コンビのチャットにメッセージはこなかった。

ニュースにはなっていなかったので、恐らく生きてはいるだろう。

何故まったく反省しないのかは謎だが、夕離の元気な姿をまた見れたらいいな。うん。

 

「武道に、銃...。」

「運動系は怪我に障ると大変だし、颯はライダーだもんね。」

「それはもう見事な射撃だったの。百発百中、流石風見家の令嬢だって全員が称賛して」

 

やはり実際に会って聞いて、体験しないと楽しさが分かり辛いか。

また別のところを目的地にし、趣味探しの旅は続くのだった。

 

――――――――――――――――――――――――――――

 

◼️□趣味探し~りこみなの場合~◼️□

 

「クックックッ。待っていたぞ、我が同胞よ。」

「お邪魔、します。」

「狭い部屋ね。KAZAMIならもっといい寮を提供出来るわ。」

「勧誘しないの。黒瀬さん、こんにちは。今日は急にごめんね?」

 

向かったというより、戻ったというべきか。

私たちがいるのは出発点である夕凪寮。

その一室である、黒瀬見波さんの部屋だった。

試しに連絡してみたところ、快く趣味について教えてくれることになった。

 

「構わんさ。深淵を覗き見ようとするその気概。無下にするのは闇を統べる者の名に恥じる所業。」

「あ、ありがとう...。」

「お、きたきた。ハロハロりんりん。狭いとこだけど寛いでねー。」

「私の部屋なのに...。」

「あ、あはは。こんにちは、伊澄さん。」

 

部屋の中に入ると、まるで自分の部屋のように私服で寛いでいる伊澄さんがいた。

エコチャに彼女がいる旨は事前に聞いていたが、かなり気を抜いているように見える。

 

「もう、りーこって呼んでよ。ずっ友でしょ?」

「う、うん。ごめん、りーこ...。」

 

伊澄さん、もといりーこ。

距離感の詰め方が相変わらず異次元である。

20代半ば過ぎの女には厳しいノリだ。

よく見ればすでにテレビで何か視聴しているようだが...。

 

「あー!?ずるい!先見てる!」

「巻き戻すからだいじょーぶだって。てか、やっぱり見波も見たいんじゃん?」

「そ、それは...。クックックッ。これは所詮戯れ。我の真に馴染む法典は別の」

「はいはい邪気眼乙。」

 

促され、ソファーに三人並んで座る。

りーこがリモコンを操作し、流れていた番組が最初からになった。

 

『すっごーい!』

『キミは泳ぎが得意なフレンズなんだね!』

 

テレビアニメ。

今や日本が世界に誇る文化となったそれは、趣味としては非常にポピュラーなものだ。

アニメを始めとした漫画、ゲーム。

所謂サブカルチャーと呼ばれるものが好きで堪らない人を、『オタク』と呼ぶ。

まあ、オタク自体は何かが好き過ぎる人という意味で、別にサブカルだけに使う言葉ではないが。

 

「着ぐるみ...?」

「CGアニメーションなんて、テレビにしては珍しいわね。」

 

動物のコスプレ?をした女の子がたくさん出てくるアニメのようだ。

不思議そうに眺める私たちに対して、りーこと黒瀬さんは目を輝かせ楽しそうに視聴している。

 

「今の台詞マジヤバ!これ流行語大賞確定っしょ!」

「可愛い~!声も見た目も癒されるね~!」

「テンション高っ...!?ていうか、あんたキャラ違い過ぎでしょ!?」

「こっちが見波の素だから。ま、後3年もしたらこれがデフォになるだろうし、しばらく我慢してねー。」

 

二人がサブカルが好きだというのは話に聞いていたが、相当熱が入っているようだ。

黒瀬さんに関してはエレンちゃんのツッコミすら耳に入っていない。

 

「これはもう記事にするしか...ってんぎゃー!?」

「な、何!?」

 

スマホを手に取ったと思えば、次の瞬間悲鳴を上げるりーこ。

スマホの画面を見ると、何かの通知がひっきりなしに届いているのが見える。

 

「クックックッ。またしても煉獄の業火を常世に打ち放ったか、桐利よ。」

「感想言っただけなのに!?何でまた炎上すんの!?」

 

わけも分からず、りーこにみんなの視線が集中する。

ひとしきり騒いでため息を吐いた後、りーこは落ち込みながらも事情を説明してくれた。

りーこの趣味の1つが『ブログ』。

基本的には日向の宣伝をしたり、好きなアニメやゲームの話をするといったような、りーこのファンサイトのような扱いらしい。

しかし、これには少々問題がある。

定期的にコメント欄が批判と擁護の声で一杯になるのだ。

所謂『炎上』である。

黒瀬さん曰く。

りーこは思ったことをすぐに感想として呟き、その発言がどう見えるかを考えないらしい。

尚且つ、彼女はミーハーな部分が目立ち、どうもコメントが薄っぺらくなりがちで、それがにわかに厳しいオタクたちの怒りに触れるとのこと。

何も学んでおらず、ひたすら炎上する姿から付いた渾名が

『フェニックス』『シン・フェニ夫』

またの名を。

 

「民草は彼奴を、畏怖と憐憫と侮蔑と嘲笑を込めて、こう呼ぶ。『イキりーこ』、と。」

「ぷっ。」

「アタシをその名で呼ぶなー!?てかりんりんも笑うな!!」

「だって、なかなかのワードセンスだし...ふふっ。」

 

イキりーこはその渾名を聞くなりいつもの余裕はどこへやら、トラウマを抉られるようにじたばたしている。

私が気にしていた彼女の悲鳴は、全てこの炎上に対するものだったらしい。

呟く度に炎上しているのだろうか、週に2、3回では済まない頻度で叫んでいた気がするが。

それはそれで騒音で炎上しそうである。

 

「落ち着け、煉獄の担い手よ。炎上商法こそ貴殿の本領ではないか。」

「誰が炎上芸人だ!好きでやってるんじゃないっての!うぇーん...好きなことを話してるだけなのに~...。」

「大変そう、だね。」

「まあ、ネットリテラシーの身に付いてない若者にはありがちな話ね。ジェットバトルの選手なら、企業イメージを損なわないよう配慮するのが常識よ。」

「グサッ!?」

 

うわぁ。エレンちゃんのドの付く正論がイキりーこを容赦なく貫く。

不死鳥、堪らずダウン。蘇生間に合いません。

 

「ネットは恐い。勉強になったね。」

「...うん。」

 

これもやはり、颯の趣味には向かないようだ。

 

――――――――――――――――――――――――――――

 

◼️□趣味探し~由芽の場合~◼️□

 

 

【挿絵表示】

 

「何でこの私がこんな格好を...!」

「少し、恥ずかしい...。」

 

場所は変わってワダツミの貸しスタジオ。

今度は比較的頼みやすい、友人である由芽のターンだったのだが。

 

「はわ~。お嬢様メイドなんてオタクの夢じゃないですか~。それに、颯さんの褐色も眩しくて堪りません~。」

 

由芽の趣味。それは『コスプレ』だった。

前に一度聞いたことはあったが、衣装も手作りの本格派だ。

あれよあれよという間にエレンちゃんまで着替えさせられている。

自分が着るのも、人に着せるのも好きらしい。

 

「じゃあ次はこちらを~。」

「嫌よ!私はお人形じゃないんだから!」

 

◼️~10分後~◼️

 

 

【挿絵表示】

 

「何よこの耳!?どこから持って来たのよ!?」

「......意外と、動きやすい。」

「きゃ~ネコミミ魔法少女(ツンデレ)キタコレ!お似合いですよ可愛い~。」

「と、当然よ!何でも着こなせるんだから!」

 

◼️~30分後~◼️

 

 

【挿絵表示】

 

「私の美しさに見惚れなさい!」

「エレン、楽しそう。」

「ダメダメセクシー過ぎます~!」

「...。」

 

すっかりノリノリのお嬢様である。

これはエレンちゃんの新しい扉が開いたと見える。

 

「どう、かな?」

 

少し恥ずかしそうに、颯が感想を聞いてくる。

元から長身でスレンダーなのもあり、モデルのように着こなしている。

 

「とてもよく似合ってて、可愛いと思うよ。」

「そっか。...よかった。」

 

微かに笑う彼女の姿に、まさに微笑みってやつだなと感心し、癒される私なのであった。

 

――――――――――――――――――――――――――――

 

◼️□趣味探し~輪の場合~◼️□

 

「輪さんの趣味、教えて欲しい。」

 

そう颯が言ったのは、ちょうど夕方に差し掛かる頃だった。

私の話はしていなかったと気づいたが、今までの流れからも考えて、やはり彼女にはインドアな趣味は受けが悪そうだと思った。

恐らくゲームは気に入らない可能性が高いだろう。

......そうなると、私にはもう1つしか候補がなかった。

本当は色々思い出すから、見るのも触るのも避けていたんだけど。

入華たちと出会って、私は新しい夢を見つけた。

もういい加減、踏ん切りを付けるべきタイミングかな。

そう思い、私は颯とエレンちゃんを連れてワダツミのレンタル店に向かった。

物珍しいように店内を見ていた二人を気にも掛けず、私は久しぶりに見る『それ』に。

興奮と恐怖と、ちょっぴりの悲しさを感じていて。

それでも触れたその感触に、胸がぽかぽかするような安心感があった。

 

――――――――――――――――――――――――――――

 

鳴り響くエンジン音。

肌に感じる潮風と、潮の香り。

タイヤから伝わる地面の感触。

握ったハンドルの固さ。

ヘルメットから見た少し狭い、色の変わった景色。

固く冷たい車体に身を預け、その鋼から伝わる確かな熱さが胸を温める。

風に吹かれているのか、風を切り裂いているのか。

確かに私がそこにいて、すぐ遠ざかっていくような感覚。

何もかも吹き飛んで、溶けていく。

 

「...風、気持ちいい...。」

 

ふと我に帰ると、背中から腰に絡む腕に気づく。

 

「大丈夫?恐くないかな?」

「大丈夫。...もっと、速く。」

 

更に強く絡みつく腕に、マシンに加え、彼女とも一体となったような気持ちになる。

 

「よーし。じゃあ、ちゃんと掴まっててね!」

 

アクセルを踏み込み、更に加速する。

夕焼けがマグマのように形を失って、その輝きを増していく。

ワダツミの景色を、風になって吹き抜ける。

 

「あぁ...やっぱり、いいなぁ...。」

「......。」

 

ヘルメットがあってよかった。

こんな顔してるなんて、誰にも見せたくないから。

 

「こぉらぁーー!!何で私だけ留守番なのよーー!?!?」

 

しんみりしていたところに、後ろからすっとんきょうな声が聞こえてきた。

ミラーには、このバイクに追い付こうとする豪奢なリムジンの姿が。

中から到底お嬢様とは思えない程の怒声を上げるエレンちゃんが顔を出している。

 

「しょうがないでしょー!二人乗りが限界なのー!」

「あんたプロでしょ!?二人くらい頑張って乗せなさいよーー!!」

「無茶苦茶言うなぁ、あの金髪ちゃん。」

「ふふっ、私たちに、付いてこれるかな...?」

 

いつになく挑戦的な物言いに、笑顔の颯。

そんな姿を見ているだけで、ツーリングを気に入ってくれたのだと分かる。

 

「この風、好き。走るのとも、ジェットバトルとも違う。輪さんの風、感じる。」

「私の風、か。」

 

私にもまだ、風を感じることが出来るのかな?

痛くないのに痛む足に意識を向けて、またアクセルを踏み込む。

何でもいい、今はただ走りたい。

私だってたまには、羽目を外してやんちゃしたい時だってあるのだ。

 

「このまま撒いちゃうから、絶対に離しちゃダメだよ!」

「うん...!」

 

趣味探しの旅は、一先ずお開きとなった。

色々見て回ったのはいいが、分かったことはただひとつ。

結局、『走る』のが好きな人は『走る』ことを止められない。

足が痛かろうが、マシンに乗れなかろうが関係ない。

体は風を求めて、心が止まることを許さない。

私が、そして颯がジェットバトルを見つけたのは、つまりそういうことだ。

私たちは今、ワダツミにいて。走っている。それだけで十分だ。

趣味探しをしながら、実は人生の意味を探していたのかもしれない。

そんなくさい考えも、今は心地よく胸に落ちていく。

久しぶり、ただいま。いらっしゃい。

私は今日初めて、夢と夢が出会う瞬間を感じた気がした。

 

「何キレイにまとめようとしてるのよばか庶民!?待ちなさい!!逃げるな!!颯も何とか言いなさいよ!?待って!!置いてかないでよーー!?!?」

 

後日。

涙ながらに怒鳴り散らすエレンちゃんに、颯と二人謝り倒した。

最後に「今度は乗せなさいよね。」、と赤くなりながら言うお嬢様に、またしてもときめいてしまった26歳独身女なのであった。




実は意図的に描写を省いているキャラがいます。
この後の展開の為ですが、気付かれている方はいるでしょうか?
そろそろワダツミカップ始めたいので、次回で日常回は一旦終了予定になります。
こんな知名度も文才もない作品を毎回見て頂き、本当にありがとうございます!
読んで頂いていると思うだけで、モチベになります。
気軽に感想書いて頂けたら更に喜びます←
リクエスト含め、お待ちしてます!!

このキャラがメインの話を見たいって子は誰ですか?

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