一周年迎えとるし...。
年内には一章終了予定です。本当です...。
「コーチ!やりましたよー!」
「当然の結果ね。」
新人戦二日目。
初日、日向重工という強敵に逆転勝利を掴み取ったKIRISHIMA。
勢いに乗ったのか、二回戦は大差をつけての圧勝となった。
いかに初戦が厳しい相手だったのかがよく分かる。
嬉々として帰ってきた二人からは、確かな自信の色が見て取れる。
今日行われるブロック決勝に勝てば、明日の最終日でも、彼女たちの勇姿を見ることができる。
優勝が現実味を帯びてきたことに浮き足立たないように、改めて気を引き締める。
「入華、みちる。まだ二回戦まで勝っただけ。目標は優勝なんだから、気を抜かないようにね。」
「は、はい!」
「はい、ガンバります!」
二人に念の為注意をしつつ、モニターで次の試合、すなわちブロック決勝の相手を確認する。
『決まったー!Aブロック決勝にKIRISHIMAに続いて進んだのは!』
『なんとなんと!新進気鋭のデザイナー&モデルコンビ!NereIdesだよー!!』
停車したヴァルヴァラの上でポーズを決める二人。
笑顔のヘリーさんに、冷めた表情の紫苑。
モニター越しに感じるその視線に、私は少しの気まずさを感じていた。
――――――――――――――――――――――――――――
午前の試合が全て終了し、一時間程昼休憩の時間となった。
「今日はラーメンと、ギョウザドッグは外せないですよね!あ!あとお刺身の屋台まであるみたいなんですよ!」
昨日あれだけ食べたというのに、入華は今日出店の屋台まで把握している。
このまま三日間全屋台制覇となりそうだ。
「お前な、だらしない腹でユニフォーム着るつもりかって、昨日も言っただろ。」
「大丈夫です!腹八分目に抑えますから!」
「お前の八分目はアタシら全員分の倍以上だろうが!」
嗜める杏里に自信満々に答える入華だが、全然安心出来ない。
すぐに試合なのだから動ける程度に抑えて欲しいし、万が一はみ出たお腹を見て妊娠疑惑とか出たらどうしよう。
心配し過ぎだろうが、想像したら怖すぎた。
「入華、すぐに試合だし、空腹じゃないくらいに抑えた方が...。」
私も一言言っておこうと言葉を紡いだ所で、視線の先に気になる人影が見えた気がした。
「コーチ?」
「ごめん、ちょっと先に食べてて!」
小走りで入華たちから離れ、その人影を追う。
あの帽子と後ろ姿、間違いない。
「紫苑!」
「...。」
屋台で購入した焼きそばを下げ、目立たないように下を見ながら歩いている後ろ姿がピタリと止まる。
振り返ったその顔は、嫌そうな、めんどくさそうな表情をしている。
やっぱり紫苑だ。
「あの、私。その、謝りたくて...。」
「......。」
紫苑の過去を知ったあの日。
あの日以降、私は紫苑と会話出来ていなかった。
ヘリーさんからも「紫苑が会いたくないと譲らない。」と送迎係の仕事はなくなり、学校でも会わなくなっていた。
入華が悲しそうに「誘っても断られちゃいます...。」と話していたのを思い出す。
やっぱり、嫌われてしまったのだと思う。
踏み込み過ぎてしまった。
そういうのが嫌いな子だと分かっていたのに。
過去を教えてくれたのもあり、心を開いてくれたのだと。
だから、その気持ちに応えたくて、つい差し出がましいことを言ってしまった。
もう許してくれないかもしれない。
でも、せめて謝罪だけはしたい。
そう思ったのだが、いざ対面すると恥ずかしいことに緊張して、口調がしどろもどろになってしまう。
「......はぁ...。」
そんな私を情けないと思ったのか、溜め息を吐く紫苑。
罪悪感が高まり、より焦って言葉が出なくなってしまう。
「...別に。私も、まあ...。子どもっぽいよね。」
「え...?」
帽子を深く被りつつ、僅かに見える頬は少し赤らんで見える。
「場所、変えよっか...。」
――――――――――――――――――――――――――――
偶々空いていたベンチに、二人並んで腰掛ける。
チラリと顔色を窺うも、紫苑は紫苑で気まずそうにしてる。
「ブロック決勝進出、おめでとう...。」
「...ありがと。」
「次勝ったら準決勝だね。」
「...対戦相手、KIRISHIMAなんだけど。」
「あ、そ、そっか...。」
何気ない会話から始めようとしたらよく分からないボケをかましてしまった。
余計に気まずい。
「あの...。」
「なに?」
「......怒ってる..?」
「...怒ってた。」
「やっぱり...。」
「怒ってたって言ったでしょ?別に、今は怒ってないってこと。そりゃあ、お父さんの気持ちがどうたらとか、私の内面見透かしたみたいなこと言われたし。あの時はウザいと思ったけどさ。」
まあ、そうだよねと思い俯く私を横目に、少し表情を柔らかくして紫苑が続ける。
「輪さんがお人好しでお節介なのは知ってるし。嫌な気分にしたくて言ったわけじゃないのは、分かるから。...距離取ってたのは、まあ。気まずいし。...分かるでしょ?」
「...うん。」
「...ごめん。」
「...ぷっ。」
目を反らしながら謝る紫苑の姿に、思わず笑ってしまう。
「ちょっと!何笑ってんの!やっぱり今のなし!絶交だから!」
「ごめんごめん。久しぶりに話しても、やっぱり紫苑は紫苑だったから。つい嬉しくて。」
「何それ。...意味わかんないっての。」
不機嫌そうに腕を組む姿に漸く緊張も解け、紫苑も気にしていてくれたのかと何だか嬉しくなってしまった。
「紫苑の気持ちも考えないで色々言ってごめん。触れられたくないこと、誰にでもあるよね。」
「......ある。私も全部話しちゃったから。お互い様でしょ?」
「そう言ってくれると、ありがたいかな。」
「じゃあ、この話はこれでおしまいってことで。」
紫苑が立ち上がり、そのままスタジアムの方に向けて歩き出す。
あの焼きそば、ヘリーさんと食べるのかな?などと考えて後ろ姿を見送っていると、紫苑が何かを思い出したかのように「あ。」と声を上げた。
彼女は振り返り、今まで見たことないような、そんなとびきりのいい笑顔を見せて。
「入華が負けたらさ、全部輪さんのせいってことだよね。」
容赦ない言葉で、私の胸を抉っていった。
――――――――――――――――――――――――――――
「私悪くない私悪くない私悪くない...」
「何ぶつぶつ言ってんだ?」
「よしよし、コーチはいいこ、いいこね~。」
年下のお姉ちゃんに慰められる私。
ちなみに何があったかは伝えていないが、顔色が悪い私に保護欲を掻き立てられたそうだ。
不思議と落ち着く。
「顔色が悪いわ。これは、クール...?」
「次はブロック決勝ですね!よーし!ガンバるぞー!」
そもそも二人が負けるなんてあり得ない。
不安になるなんて入華とみちるに失礼だ。
入華の声で我に返り、気持ちを切り替えることに成功する。
「コーチ、ちょっといいですか?」
「いいけど、どうしたの?」
入華に促され、部屋の隅に移動する。
他の皆は不思議そうな顔をしているが、わざわざ追求することはせずそのまま雑談してくれている。
「次は、紫苑ちゃんと試合ですよね。」
「うん。...あのね、実はさっき...」
入華も私のせいで紫苑と疎遠になっていたことを思い出して、紫苑と仲直り出来たことを報告する。
勿論、負けたら云々の話はなしで。
「そうなんですね!じゃあ、また紫苑ちゃんとお昼を食べられるようになるってことですか?」
「素直じゃないから、勝手にすればって言われるんだろうけどね。」
嬉しそうに笑う入華。
紫苑と気まずくなっていることが気になっていたのかと、呼ばれた理由を早合点していたのだが。
「紫苑ちゃん、前にわたしが好きなものを聞いても、答えてくれなかったんです。」
「それは...。そう、だったね。」
『別に。』と不機嫌そうに答えていたのを思い出す。
「本当に好きなものがないのか、言いたくないだけなのか。わたしには分からないですけど...。わたしは好きなものがたくさんあります!ジェットバトルもごはんも大好きで、毎日楽しくて楽しくて。」
「入華...。」
「だから、わたしがジェットバトルが好きで、楽しいって気持ちを伝えたいです!それで紫苑ちゃんにもわたしとの試合を楽しんでもらえて、好きになってくれたらいいなって。すみません、うまく言えてないかもですけど...。」
恥ずかしそうに笑う入華の姿に、やっぱりこの子は太陽のような子だなと思う。
彼女なら、もしかしたら。
入華の気持ちが嬉しくて、お礼を込めて優しく頭を撫でる。
「うん。入華の楽しくて好きって気持ち。紫苑に教えてあげて。」
「はい!いってきますね、コーチ!」
――――――――――――――――――――――――――――
『さあ、午後になって、いよいよブロック決勝が始まる時間だぞ!』
『みんなお昼ごはんはもう食べたかな?トモちんは少食だからー、出店のわたあめひとつでお腹いっぱいになっちゃったよー?☆』
『差し入れのお好み焼きと焼きそば両方食べてただろ...。』
『トモちん知らなーい☆』
相変わらずのボケ?を交えた実況が響く中、私たちはKIRISHIMA側のベンチに座り、選手の入場を待っていた。
『まずはAブロックの決勝戦からだ!』
『選手入場!前評判を覆し今や注目の的!優勝宣言は伊達じゃないかも!?チームKIRISHIMA!』
久々利さんの紹介に合わせて入華たちが入場する。
一回戦とは違い、観客も大きな歓声を上げてくれている。
ここまでの試合でKIRISHIMAに対する見方が変わってきたのだろう。
あの子たちの頑張りが報われたようで、正直とても嬉しい。
『一回戦の逆転勝利はもちろん、二回戦では圧勝と言っていいレベルの試合を見せてくれたKIRISHIMA。この試合も魅せてくれそうで、個人的には大注目のチームだぞ!』
『ただ相手も一筋縄じゃない!ダークホースとはこの二人のこと!モデルとデザイナーの異色コンビ!チームNereIdes、Galateaの入場でーす!』
反対側のゲートからはワインレッドの車体を輝かせ、『SHION』となった紫苑と観客席に手を振りながらヘリーさんが入場してきた。
こちらも声援が大きく、やはりこのファンの多さには舌を巻いてしまう。
『ここまで危なげなく勝ち進んできたGalateaの二人。なんと言っても提携会社はあのKAZAMI!KAZAMI仕込みのテクニックに期待だ!』
『うう、すごい人気...。トモちんも、負けてられない!歌います!』
『や め ろ 。』
KAZAMIから指導員の派遣などはないはずだが、合同練習自体はあったと聞いている。
まさかあの二人...。
そのわずかな機会だけで技術を身に付けたのだろうか。
実際紫苑は一度教えただけでテクニックをものにしていたし、ヘリーさんも要領が良さそうだ。
「KAZAMIの提携会社か。油断出来ないな。」
「うん...。」
エクシールとヴァルヴァラがスタートラインに並ぶ。
「紫苑ちゃん!いい試合にしようね!」
「...。」
「もう、シオンったら。」
会話を挟む余裕もなく、スタートランプが点灯する。
『Aブロック決勝戦!』
『KIRISHIMA VS NereIdes!』
『『スタンバイ!!』』
「「「「ゴー!」」」」
勢いよくスタートする両者。
以前見た時とは段違い。冷静にマシンを乗りこなす紫苑、引き離せない入華。
苦手だったはずのコーナーも危なげなく曲がりきり、そのまま差がほぼ出ずに先行争いが終了した。
結果は...?
『僅差で先行はKIRISHIMAだ!』
『判定が必要になった場合は改めてスタートの合図を出すよ!』
すぐに体勢を整えるGalateaの二人。
入華とみちるも攻撃の準備は万端のようだ。
『スタンバイ!』
『ゴーー!!』
【D/NEREIDES:S900】
【A/KIRISHIMA:E150】
リスタートを挟んでの先行ターン。
みちるが構えているのはアサルトライフルだ。
「流れを掴む!」
アサルトライフルは10発当てるごとにスピードがアップする効果を持つ。
当てれば次に繋がる定番の一手だ。
装填分放つが、直撃したのは30発のうちちょうど10発のみ。
狙いが正確なみちるにしてはかなり外している。
「次!」
動揺することなくすぐさまショットガンを構えるみちる。
わずかだがスピードアップ効果は発動しているのだ、そのまま接近し近距離でショットガンを当てさえすれば十分なダメージを与えたことになる。
そのはずだが...。
「ここ...!」
一度速度を落とし、即座にアクセルを踏み込む紫苑。
マシンが激しく揺れることもお構いなしに制御し切り、至近距離での弾丸を避けることに成功した。
「紫苑ちゃん、上手い...!」
「このくらい普通でしょ。」
『スピードアップからのショットガンを決めようとしたKIRISHIMA!SHION選手のテクニックにしてやられてしまったぞ!』
『簡単お手軽コンボだけど、外した時痛すぎるんだよね~』
うちの武器種はハンドガン、アサルトライフル、ショットガン、そしてスナイパーライフル。
残りエネルギー50では、まともな火力を出せる銃がない。
コンボを前提にしている分、外した時のリカバリーが効かないのが弱点だ。
「みちるセンパイ、次に繋げましょう!」
「ええ!」
再びアサルトライフルを構え、落ち着いて放っていく。
残りエネルギーを全て注ぎ込み、何とか更に20発当てることに成功する。
ダメージは少ないが、スピードアップは相手ターンにも持ち越せる。
冷静な判断だ。
【D/NEREIDES:S870】
【A/KIRISHIMA:E0】
『わずか30ダメージでKIRISHIMAの先行は終了!スピードアップでしのぎ切れるのか!?』
NereIdesの攻撃が始まる。
「さあシオン。ワタシたちのショーを始めましょうか。」
「一応試合なんだから、真面目にやってよね。」
「勿論分かっているわ。でもアピールは大事でしょ?」
スピードの差もあって、どんどん離れていく両者。
そんな中ヘリーさんが取り出したのは。
「入華!スナイパーライフルよ!」
「そう簡単に当てられませんよー!」
更にエンジンを吹かせるKIRISHIMAに対し、照準を合わせるヘリーさん。
スナイパーライフルは強力だが、取り扱う難易度はトップクラス。
ヘリーさんの性格とも合わないと思っていたが、まるでこちらの動きを予測するかのようにエクシールの車体に命中させてきた。
「え!?」
「あら、やっぱりコントロールパネルは難しいのね。」
「スナイパーライフルなんて使う予定なかったでしょ。」
「だって盛り上がると思わない?みちるが得意な武器で、ワタシたちが勝利したら。」
「はぁ...。まあ、どうでもいいけど。」
『長距離でも見事KIRISHIMAを狙撃したルイス選手!デザインだけでなく、射撃の腕もピカイチのようだぞ!』
『あれ?スナイパーなんて今まで使ってたっけ?』
どうやら本当にみちるへの当て付けで銃を変えてきたらしい。
アドリブで当ててくるとか、初心者に出来る芸当じゃないでしょ...。
「次は私らしく、派手にいくわよ!」
スピードを上げるヴァルヴァラ。
ガトリングガンを乱射しながら一気にエクシールに近づいてくる。
「無茶苦茶なはずなのに!?」
テキトーにばら蒔いているように見えるのに、面白いくらい着弾している。
結局エネルギーが尽きるまで弾丸は放たれ、最終的に40発が直撃していた。
【D/KIRISHIMA:S780】
【A/NEREIDES:E0】
『初手とは裏腹にド派手な射撃を見せたNereIdesチーム!』
『半分以上しっかり当てて、着実にリードしてきたよ!』
「ヘリーちゃん、なかなかやり手やね。」
「ああ。あのSHIONってモデルも、賑やかしで来たわけじゃないみたいだな。」
当然と言えば当然だが、あの二人はここまで上がってきた強者だ。
決して油断出来る相手じゃない。
だとしても、まだまだこれから。
入華とみちるはこんなもんじゃない。
「倍返しよ!」
「いきますよー!」
【D/NEREIDES:S870】
【A/KIRISHIMA:E150】
ターンが切り替わると同時にすぐさまハンドガンを構え射撃。
7発のうち5発が着弾。
「見えた!」
「ちっ...。」
流れるようにスナイパーライフルを構え、間もなく命中させた。
1ターン目の攻防で相手の動きを把握し、得意技をぶつけきった。
この大会の中で、みちるは確実に成長してる!
【D/NEREIDES:S580】
【A/KIRISHIMA:E0】
『おおっとKIRISHIMA!一瞬で最早十八番となったスナイパークリティカルを叩き込んだ!』
『あんなあっさりやるもんじゃないんだけどねー。あの子やっぱりすごいかも。』
「なかなかやるじゃない。楽しくなってきたわ!」
「ちゃんとやり返してよね。」
「任せなさい!」
【D/KIRISHIMA:S780】
【A/NEREIDES:E150】
仕返しとばかりにハンドガンを手に接近、入華はフェイントを交え回避しようとするが、動きを読まれタイミングよく弾丸がヒット。
7発中5発、クリティカル発動条件を許してしまった。
「バンバン撃つわよ!!」
ショットガンをジャグリングするパフォーマンス。
読み辛いタイミングで放たれた弾丸は、見事至近距離で直撃してしまった。
【D/KIRISHIMA:S530】
【A/NEREIDES:E10】
『まさに返す刀!クリティカルの仕返しで、またしてもNereIdesが逆転したぁ!』
『派手なパフォーマンス!トモちんもあれくらいできるから!』
『何対抗してるんだ...。』
残ったエネルギーを使い切るその直前、ヘリーさんが紫苑に耳打ちしているのが見えた。
「さあシオン!勝ちにいくわよ!」
「......悪く思わないでよね。」
【Ignition!S.P.skill!】
「きた、SPスキル...!」
紫苑がパネルを操作した次の瞬間、エクシールから一回戦と同じ警報音が鳴り響いた。
同時に、真っ直ぐ走っていたはずのエクシールの挙動が無茶苦茶なものに変わる。
「わっわっ!?」
「い、入華!?」
『ここにきてNereIdes、ついにSPスキルを発動だ!』
『急にマシンがフラフラになったけど、どうしたんだろ?船酔い?』
観客や選手、私たちみんなが困惑する中、得意気に声を上げるヘリーさん。
「SPスキル『感電』を発動させてもらったわ!効果はマシン制御の強制変更!ハンドルからアクセル、ブレーキの感覚まで、しばらくぐちゃぐちゃになってしまうの!」
「またインチキ効果かよ!?」
ヘリーさんから聞かされるSPスキル『感電』の効果に、ライダーである杏里が悪態を吐く。
そんなの、下手したら周回遅れで負けになるんじゃ...!?
『またしても凶悪なSPスキルがKIRISHIMAを襲う!早く何とかしないと、エネルギー0を待たずに反則負けになっちゃうぞ!?』
『KAZAMIから提供されたスキルかな?マシンが動かないと射撃も難しくなるし、これはまずいよ~?』
【D/NEREIDES:S580】
【A/KIRISHIMA:E150】
攻撃ターンにも関わらず、エクシールは不規則に進んだり止まったり。
向かう方向も定まらない状態だ。
「ほらほら、急がないとこのままアナタたちの負けよ!」
「っ...!」
みちるがアサルトライフルを放つも距離が遠く当たる気配が微塵もない。
入華は何も言わず、ひたすらマシンのハンドルを傾けたり、アクセルを踏み込んで放してを繰り返している。
「当たれ...!」
残る手立てとしてスナイパーライフルを放つも、冷静に紫苑は回避。
結局ダメージを与えられないまま、KIRISHIMAのターンは終了してしまう。
【D/KIRISHIMA:S530】
【A/NEREIDES:E150】
NereIdesのターン。
相変わらず満足に動けないKIRISHIMAに、容赦なくヘリーさんのガトリングが突き刺さっていく。
『これは惨い!回避もできないKIRISHIMAに対し、銃弾の雨が直撃していく!!』
『うわぁ、一方的...。』
【D/KIRISHIMA:S450】
【A/NEREIDES:E70】
80ダメージ。一撃も漏らさず直撃した。
止めとばかりに、再び構えられるショットガン。
「こんなもんか...。」
入華を見据える紫苑の表情に、失望の色が浮かんだように見えたのは、私の気のせいだろうか。
【Ignition!S.P.skill!】
――――――――――――――――――――――――――――
◼️□side.紫苑◼️□
「紫苑ちゃん!いい試合にしようね!」
相変わらずのキラキラ具合だった。
距離を空けてたし、少しはしおらしくなるかと思ってたんだけど。
まあ、変に仲直りとかしなくて済むし、これはこれでいいか。
「みちるセンパイ、次に繋げましょう!」
いつも楽しそうでプラス思考。
そんなに『これ』が好きなんだろうか。
好きとか楽しいとか。
この子はそれに人生を賭けちゃってるんだなって思うと、バカみたいって気持ちより、自分が余計に場違いに思えてきて。
何というか、すごくめんどくさい。
試合は意外と五分と五分。
あの人が余計な指導をしてくれたおかげでそこそこいい勝負になってしまった。
ヘリーさんもなんだかんだ上手いし。
「......悪く思わないでよね。」
だから使った。
KAZAMIから提供された、感電のSPスキル。
KIRISHIMAは最新スキルがないから、これが決め手になるとは思ってた。
案の定、KIRISHIMAのマシンはまともに動かなくなって、エネルギーにもかなりの差が出来た。
入華の表情は見えないけど、マシンをガチャガチャしてる姿は自棄になってるようにも見える。
「こんなもんか...。」
どれだけ好きで楽しくても、結局勝負には関係ない。
会社のコネとか、マシンの性能とか。
ジェットバトルも仕事と同じ。
好きや楽しいじゃ何も変わらない。
入華も輪さんも。
そしてお父さんも。
やっぱり報われないってこと。
そう思った。
【Ignition!S.P.skill!】
【D/KIRISHIMA:S470】
【A/NEREIDES:E0】
KIRISHIMAのマシンをエネルギーフィールドが包んで、弾丸を弾いた。
『KIRISHIMA、大ダメージのピンチにSPスキル絶対防御を使用したぞ!』
『また懐かしいやつ。一撃だけダメージをゼロに出来るんだっけ?』
一発だけしか防げないの?
まだエナジーチャージの方がいいと思える残念スキルに、内心引いていると。
「入華、もういけそう?」
「はい、お待たせしましたセンパイ!」
水飛沫の先に、あの輝く目に変わらない力強さを宿した、笑顔のままの入華が見えた。
【D/NEREIDES:S580】
【A/KIRISHIMA:E150】
「紫苑ちゃん!勝負だよっ!」
動かないはずのマシンが、真っ直ぐこちらに向けて走り出した。
「は!?」
『な、なななんと!?感電スキルの発動中にも関わらず、咲宮選手エクシールを走らせているぞ!?』
スキルを使う前と変わらない速度、走り方で私を追い掛けて来てる。
どういうこと?バグでも起きたわけ?
『どどどうなってんの!?教えてKIRISHIMAのコーチさん!』
「私!?」
カメラが指名された輪さんに向けられ、モニターに輪さんが映し出される。
「こほん...。恐らく、慣れただけかと。」
「......は?」
会場全体が静かになる。
みんな理解出来てない。私もだ。
「感電はまったく動かせなくなるのではなく、操作感を大幅にいじられるという効果でしょう。言ってしまえば、『慣れさえすれば動かせる』ということです。」
『いや、え...。そうだとしても...』
「さっきのターンだけでそんなこと...!?」
「できるよ。」
思わず声を出してしまった私に、輪さんが即答する。
「入華はジェットバトルが大好きだから。あの子の好きは、勝利を手繰り寄せる。」
「また、それ...っ!」
好きだから勝てる?また意味分かんないことばっか言って!
「シオン!来るわよ!」
「っ...!」
気付けば距離を詰められ、ハンドガンの射程内までエクシールが迫ってきていた。
感電による車体の揺れも今はなく、狙いすましたみちるの射撃が私たちを捉える。
「しまっ...!」
慌てて回避行動に出るも、既に放たれた弾丸をほとんど避けることが出来ず、追加で撃たれた1発を含め合計5発被弾してしまった。
「まだまだ!ジェットバトル、楽しいね!紫苑ちゃん!」
「私は全然楽しくないっての...!」
更に接近してくるKIRISHIMA。
本当に楽しそうな入華にイラついた。
勝てそうだと思ってるから楽しいだけでしょ!
「さっきのお返しよ!」
ショットガンが弾け、車体が大きく飛び上がる。
当てられた。クリティカルを、至近距離で。
「っ...ざっけんなっ!」
『劣勢だったKIRISHIMA!ハンドガンからのショットガンクリティカルを見事成功!逆転だ逆転だぁー!』
【D/NEREIDES:S330】
【A/KIRISHIMA:E0】
会場から歓声が上がる。
嬉しそうで、楽しそうな入華たちの顔。
なんか、ムカつく。
このまま勝てると思ってる、観客ももう終わったみたいな雰囲気で。
なんか。
なんか、すごく。
「私だって...!」
「シオン...?」
忙しくてくたびれてて、やりたくもなかったけど。
それでも練習した。
輪さんのアドバイスで上手くなれて、そこそこ勝っちゃうかもなって思った。
それを好きだからとか、無茶苦茶言って。
そんなことで負けたらさ。
「紫苑ちゃん!このまま、私たちが勝っちゃうよ!」
「まだ終わってないでしょ!」
「紫苑ちゃんじゃ私には勝てないよ!」
「うっさい!やんなきゃ分かんないでしょうが!」
私の反応が面白いのか、ニヤリと笑ってみせる入華。
ああムカつくムカつくムカつく!!
この子に負けるなんて絶対嫌!
私だって...!
「ヘリーさん、勝つよ...!」
「シオン、アナタ...。...ええ、もちろんよ!」
仕方ないから本気でやってあげる!
輪さんも入華も、絶対泣かせてやるから!
――――――――――――――――――――――――――――
◼️□side.輪◼️□
そこからの攻防はまさに一進一退だった。
KIRISHIMAの逆転で勢いのまま終わると思った試合。
次の瞬間、再び逆転を見せたNereIdesの姿に、会場全体がこの試合が簡単には終わらないことを理解した。
より情熱的になったNereIdes側のプレイングに、感電がなくなりよりテクニックが輝き出したKIRISHIMA。
SPスキルを使い果たした後の純粋な白熱バトルに、観客は息を呑んだ。
結局お互いにダメージを受けないターンもありつつ、今大会最長の試合時間を記録した頃。
水面に選手が放り出された。
落ちたのは、ヘリーさんだった。
『き、決まったーーー!!全14ターンにも及ぶ死闘が今決着!!』
『Aブロック勝者は、KIRISHIMAだあぁーーー!!!』
歓声で他は何も聞こえない会場に、声なき叫びが響いているのが私には分かった。
あの紫苑の顔には、『悔しさ』が。
全力を尽くしたからこその、すっきりとした悔しさが、そこには確かにあるのが見えた。
――――――――――――――――――――――――――――
「しおーん!」
「はぁ...。」
全ブロックの勝者が決まり、二日目の試合が全て終了した夕方。
そのまま寮で作戦会議をしようという話になり、屋台で食事を買っていくこととなった。
買い出しを入華たちに任せ、私は紫苑に会いに来ていた。
昼と同じベンチに一人腰掛けている。
「何でいるわけ?」
「ヘリーさんから聞いた。」
「はぁ...。」
「ため息ばっかりだと老けるよ?」
「あんたのせいなんだけど?」
ご機嫌斜めの様子。
ヘリーさんには
「あら、やっぱり仲直りできてたのね!試合前にシオンがすっきりした顔をしていたの!」
と言われていたのだが、怒っているようにしか見えない。
「試合、すごかったね。」
「負けた相手に勝った側が何?嫌味?」
「そうじゃなくてさ。本気だったよね。」
「......別に。」
顔を背ける紫苑が反抗期の子どもみたいで、ちょっと可愛く思える。
「入華って、あんなに性格悪かったの?」
「あはは。紫苑に本気で来て欲しくて、挑発したんじゃないかな?」
「.....まあ、だよね。乗った私が悪いか。」
「楽しかった?」
「......。」
押し黙る紫苑。
意地悪な質問だと思う。
彼女の口から聞きたいだけで、試合を観ていれば誰でも分かることだった。
「......別に。」
やっぱり言えないか。
と内心諦めていると。
「好きとか楽しいとか。相変わらずそれが一番大事なんて思わないけど。
入華のその気持ち?のせいで、私が負けたのは事実みたいだし。」
帽子を深く被り直し、夕陽を眺めて頷く紫苑。
「まあ、今日のところは認めてあげなくもないかな。」
気のない感想とは裏腹に、確かに浮かべた笑顔。
「楽しかったんだ?」
「何ニヤニヤしてんの?ウザいって。」
「素直じゃないんだから。」
「はいはい...。」
夕陽と同じ色に染まった頬を隠しながら、観念したように言葉を吐き出す。
「......気晴らしには、なった。」
今日の笑顔が、彼女の明日を紡いでいくんだなと。
今までの鬱々とした気持ちが、清々しい澄みきったモノに変わっていく。
そんな感覚に浸っていた私。
ニヤつく姿にまたしても嫌悪を示され、本当に絶交されそうになったのは、
入華たちにはナイショだ。
『麻汐とトモちんの出張!ラジオDolphinWave』
「三日目の参戦権を無事に手に入れたKIRISHIMA!」
「本当に優勝できるかも!と浮かれていると、ひょんなことから選手たちに撤退の話がバレちゃった!?」
「大事な試合前夜にトラブル発生!準決勝は!?その先の決勝戦はどうなっちゃうんだ!?」
「次回!ドルフィンウェーブTB第16話!」
『擦れ違い。知らない私と、知らないあなた。』
「来週も要チェックだよ!」
このキャラがメインの話を見たいって子は誰ですか?
-
入華
-
みちる
-
杏里
-
詩絵
-
颯
-
エレン
-
氷織
-
シュネー
-
桐利
-
見波
-
乙姫
-
夕離
-
紫苑
-
ヘリー
-
セレナ
-
ヴィーナ
-
かな
-
由芽