試合がなければこんなもんよ←
試合描写大変です...。本来の4人対4人用ルール悩み中。
誰かタスケテ。
今回から入華についてキャラに独自解釈、原作との差異が出てくるかと思います。
解釈違いすみません。
二日目の夕方。
紫苑と別れて、夕凪寮に戻ろうとスタジアムを出たタイミングで、見覚えのある後ろ姿があった。
「陽南監督?」
「ん?...地咲か。」
「お疲れ様です。お一人でどうされたんですか?」
「ああ、いや...。」
人気がなくなったスタジアムを、ただただ眺めている。
少し言い淀み、先ほどより幾分明るい表情でこう続けた。
「彼女たちの夢が、本当に終わらずに済むのではないかと、少し楽観的になってしまってね。」
「......明日で、全てが決まりますね。」
「ああ。当たり前だが、今日までの試合は全て見ていた。咲宮も都条も、本当に強くなった。私や杏里、彩戸の新人の頃より熱く、才気溢れるバトルだった。年甲斐もなく興奮してしまったよ。」
そう話す監督の表情は、本当に楽しそうで嬉々としている。
私まで嬉しくなってしまう。
「入華とみちるのこと、誇りに思います。」
「私もだ。地咲、何度目かもう分からないが、改めてありがとう。君を選んだことを、私は誇りに思うよ。」
「面と向かってだと照れちゃいますね...。」
「杏里と違って私は素直なんだ。」
いよいよ明日だ。
明日の結果で、全てが決まる。
「撤退なんて、しないですよ。入華たちが勝って、ここからKIRISHIMAが復活するんですから。」
「......ああ、そう信じるよ。これから作戦会議なんだろう?早く行かないと...」
ガシャッ...。
「?」
ビニールか何かが落ちた音がして、後ろを振り返る私たち。
落ちていたのは屋台の焼きそばパックだ。
何人分かの、これから宴会でもするような。
「...!」
「いる、か...?」
落としたのは入華だった。
拾おうともせず、こちらを呆然と見つめている。
どうしたのだろう、そもそも先に帰っていたはずなのに、一人で何故ここにいるんだろう。
などと暢気なことを考えた後で、先ほどまでの監督との会話を思い出す。
「どこから、聞いていたの...?」
急速に血の気が引いていく。
入華の表情、様子。聞くまでもなく、『全て』を聞かれてしまっていたことを物語っている。
「て、撤退って...。なんのこと、ですか...?」
「...咲宮、落ち着いて聞いて欲しい。」
「撤退ってKIRISHIMAがじゃないですよね!?ジェットバトルを、辞めるってことじゃないですよね!?」
すがるような瞳に、震える声。
入華の目が、私を真っ直ぐ射抜く。
私は一瞬誤魔化すべきかと考えるが、彼女の様子に、そんな不誠実なことは出来ないと悟る。
そんな私の思いを察するように、監督が首肯し、説明するように促してくれた。
「...黙っていてごめん。新人戦で入華たちが優勝出来なかったら、KIRISHIMAはジェットバトルから...撤退するの。」
「......嘘、ですよね...?」
「本当は私がコーチになった日から、入華が選手になった時から決まっていたことだったの。このことを選手に伝えたら、確実に余計なプレッシャーを与えてしまう。だから、教えられなかった...。」
入華は私と監督を交互に見て、耐えられなくなったように胸を抑えて後ずさる。
その表情には覚えがあった。
夢を失ったと理解した時の、あの時の自分の顔。
「わたしの、憧れ...。なくなっちゃうの...?」
「入華、聞いて。まだなくなるって決まったわけじゃ」
「っ...!」
落とした焼きそばも気に留めず走り去ってしまう入華。
すぐに追いかけようとするが、監督に呼び止められる。
「待て地咲!今の咲宮に私たちの言葉は届かない。」
「でも放っておくなんて...!」
「落ち着くまで待つしかない。...こうなった以上、都条と彩戸にも説明する。咲宮は一旦、彼女たちに任せよう。」
「......はい...。」
油断して軽率に外で話していたこと。
黙っていた言い訳をしたこと。
何より入華のあの表情を見なくて済む、そう楽観的に思い込んでいた自分に腹が立つ。
私は入華たちの為に黙っていたんじゃない。
本当のことを話して、彼女たちを悲しませる役になりたくなかっただけだ。
私は結局、自分しか見えていないんだ。
――――――――――――――――――――――――――――
◼️□side.みちる◼️□
『わたし、コーチを待ってますね!』
そう言ってスタジアムに残った入華。
焼きそばは預かってあげるべきだったかな?と思ったけど、きっとコーチを待つ間に自分の分を食べたいということだろう、とクールに理解する私。
私と詩絵さん、杏里さんは先に夕凪寮のコーチの部屋の前にやって来ていた。
「入華ちゃんはコーチんことてげ好きっちゃね。」
「なーんか懐いてるよな。その割にあんまり話してるイメージないけどよ。」
「言われてみれば、確かに。」
あまりコーチと入華が二人で話しているのを見たことがない気がする。
勿論会話自体はしているけど、私や杏里さん、詩絵さんがいる時はお互い以外と話していることが多いかも。
「ふふっ、好きで尊敬してる相手とは、思わず距離を取ってしまうもんやっちゃが。」
「はーん。つまりグイグイ来られてるアタシはナメられていると見ていいんだな?」
「そんな極端な...。杏里さんのことも、入華はすごく尊敬してると思いますよ?」
「面倒な先輩やね~。」
「冗談だよ冗談。」
私もグイグイ?されてると思うけど、ちゃんと尊敬される先輩でいられてるのかな?
ちょっと不安になってきた...。
「何だ?大好きな後輩とコーチが仲良しで妬けるってか?」
「ち、違いますよっ!妬いてるとか、クールじゃないですし...。」
最初は私よりクールなコーチに対抗意識?みたいなものもあったけど、今は違うし。
私も待っていれば良かったかな、と考え始めたタイミングで。
「入華ちゃん...?」
「え?」
息を切らしながら赤い髪を揺らし、入華がこちらに向かって来ているのが見えた。
「入華?どうしてあんなに急いで...。それにコーチは?」
疑問を浮かべている間に、当の入華が私たちの前に辿り着く。
先ほどまでの笑顔はなく、何か酷く慌てていて、悲しそうな顔をしている。
「みちる、センパイ...っ。」
「っ?どうしたの、入華?」
入華は私に抱き着き、その体を震わせている。
尋常じゃない様子に、私と詩絵さんは目を見合わせる。
「KIRISHIMAがっ...。私たちの夢が、なくなっちゃうんです...っ!」
「へ!?」
「え...?」
「......。」
KIRISHIMAがなくなるって...。
どういうこと?会社がなくなる?
それとも、チームのこと...?
昔、一度だけ噂として聞いた話を思い出す。
『このまま成績が奮わなければ、事業撤退も有り得る』だったっけ。
何で今頃その噂を入華が...。
「はぁ...。...地咲がバラした、わけないか。こんなタイミングで話すわけないしな。偶然知っちまったってとこか。」
「杏ちゃん...?」
「ま、明日の試合が終わればどうせ分かることだ。」
杏里さんは溜め息を吐きつつ、面倒そうに頭を掻いた後。
真剣な表情で言葉を続けた。
「明日の新人戦準決勝、そして決勝。お前らが負ければ、それでKIRISHIMAはジェットバトルを辞める。負けたら、全部終わりってことだ。」
――――――――――――――――――――――――――――
◼️□夕凪寮・輪の部屋◼️□
部屋中に重い空気が流れる。
説明義務があると同行してくれた監督と共に帰宅した私。
こんなに気が進まない帰宅は二度とないだろう。
中には、落ち込んで下を向いている入華とみちる。
表情は晴れないながらも挨拶をしてくれる詩絵。
そして、割りといつも通りだったのに監督を見た途端に気まずそうにする杏里。
状況を見るに、入華からみんなにバレて、杏里が説明をしてくれたのだろう。
机の空いているところに座る。
選手たちを見回し、監督が口を開く。
「話は杏里から聞いたようだね。」
「はい...。」
「もう知らないふりも意味ないからな。」
「まずは謝罪からだ。...すまなかった。君たちに説明義務はあったが、黙っていたのは私の判断だ。地咲にも私が指示していた。」
「監督、それは...。」
訂正しようとする私を手で静止する監督。
あくまでも自分だけの責任とするつもりなのだ。
この子たちを騙していたのは私だって同じなのに...。
「......やっぱり、本当、なんですね...。」
「...ああ。君たちが試合に負ければ、そこで上層部はジェットバトル部門に見切りをつける。」
「っ...!何でなんですか!?私も、みちるセンパイも。詩絵さんや杏里さんだってがんばってるのに!」
入華が声を荒げて監督に問い掛ける。
自分たちの努力は無駄なのか、認めてもらえないものなのか。
いつもの彼女からは考えられない表情。
その悲痛さが私、監督。この場にいる全員に突き刺さる。
「ちょっと勝てなくなっていたからって...。監督や歴代の選手の方々の...わたしたちのKIRISHIMAをなくすなんて...っ!」
「会社というのはそういうものだ。そうしなければ生き残っていけないんだよ。」
「でも...!」
「落ち着けよ。」
納得出来ず反論しようとする入華を杏里が抑える。
いつもと違い真剣な表情だ。
「杏里さんはいいんですか!?KIRISHIMAがなくなっちゃっても...!」
「良くねぇ。だが、まだ無くなるって決まったわけじゃない。入華とみちるが勝てば、それで済む話だろうが。」
「それはそう、やっちゃが...。」
明日の試合次第で存続の可能性はある。
しかし、新人の二人に背負わせるには重過ぎる役割だ。
詩絵は勿論、そう話す杏里でさえ、二人に託さざるを得ない状況を不甲斐なく感じているのが分かる。
再び沈黙が場を支配する。
何か、コーチとしてこの子たちに言えることは...。
「...ば、いいんですよね...。」
「みちる...?」
か細い声の主は、先ほどまで黙りこんでいたはずのみちるだった。
「勝てば、いいんですよね...!」
「みちるセンパイ...?」
不安を押し殺すように拳を握り締め、私たちを見渡すみちる。
「やります、私。勝ちます、新人戦。勝って、私たちのKIRISHIMA、守りますからっ...!」
震えながらも強い意志を放つ瞳。
会った頃の彼女とは違う、プレッシャーに折れない心。
「強くなったね、みちる...。」
この大会で感じていたみちるの成長。
選手としても、一人の人間としても。
とても強くなったんだな、と思わず泣きそうになってしまうくらいの感動だった。
「都条...。君の気持ちに感謝を。重荷を背負わせて、本当にすまない。」
「謝らないで下さい。私だって...私だってKIRISHIMAのガンナーなんです。これからもずっと。だから、負けません。」
「みちるちゃん、立派やっちゃが...。」
みちるの覚悟に場の空気も変わってきたが、依然として浮かない表情の者が一人。
「私、これからも入華と一緒に走りたい。たくさん勝って、優勝して...。夢を叶えて行きたいの。だから入華。私と一緒に、戦ってくれる...?」
「みちるセンパイ...。わたしは...。」
手を差し伸べるみちるに、答えられない入華。私の知っている彼女らしくない、落ち込んだ顔が更に下を向く。
「っ...。」
「入華!?」
次の瞬間、脇目も振らず外に飛び出して行ってしまった。
前向きになろうとした雰囲気は、再びお通夜のように静まり返った。
「入華...。」
あの子に私は、このまま何も出来ないのだろうか。
――――――――――――――――――――――――――――
事実、伊澄桐利は機嫌が悪かった。
優勝を誓った試合は初戦敗退。
そんなキャラではないと自認していたはずが、気付けば尊敬する先輩の柔らかい胸で泣き崩れていた。
間違いなく人生で一番悔しい瞬間だった。
泣き明かして部屋で目覚めたのはお昼前。
「寝過ごした!」
と急いで配信を確認するも、日向を下したKIRISHIMAは既に二回戦を勝利で終えていた。
「まあ、アタシらに勝っといて優勝しなかったら詐欺っしょ!」
と強がってみたらまた炎上していた。
相変わらずコメント欄は賛否両論で混沌としている。
朝(?)から更に機嫌を悪くした彼女は考えた。
ジェットバトルを一度忘れよう。
一種の防衛反応である。
シャワーを浴び、髪を手入れし、メイクを済ませた。
ストレス発散が必要だった。
彼女はワダツミの街に繰り出した。
やけ食い、やけ買いの暴虐の限りを尽くそうと考えたのだ。
始めは見波を誘うことも考えたが、嫌でもジェットバトルのことを思い出してしまうし、昨日の落ち込み様は桐利の比ではなかった。
完全に邪気眼様子が抜けていたし、何なら幼児退行まで併発していた気がする。
刃兼さんにバブみを感じるとは思わなかった。
そんなわけで、伊澄桐利は一人、ワダツミのショップというショップを回った。
服、アクセサリー、アニメ、ゲーム、漫画。
気になっていたスイーツや普段は戦慄する程の高カロリーなジャンクフード。
実に爽快だった。
彼女は幸せだった。
後に今日のクレジット請求を見た未来の彼女と、体重が?(数字は伏せられている)kg増えた明後日の彼女の分も、幸せだった。
一息吐こうと彼女はカフェに立ち寄った。
そこでふと、スマホで動画でも見ようと思い立った。
何を見ようかと考えるまでもなく、手が自然と新人戦の生配信を表示していた。
「しまった!」
と思いすぐ消そうとするが、試合をしていたのはあのKIRISHIMAとNereIdesだった。
次の瞬間には、彼女の目は試合に釘付けだった。
控えめに言って、マジやばな試合だった。
みちるは相変わらず狙撃が上手すぎるし、ヘリーのパフォーマンスと実益を併せ持つ動きは桐利にとっても理想的なものだ。
やっぱりSHIONはカッコいいし。
何より、友人である入華は本当に楽しそうに走っていた。
どんなピンチでも笑顔を絶やさず、逆境の中でそのライディングを磨き上げていった。
「スゴいな...。いいな...。」
そんな彼女たちを尊敬して、でも羨ましくて。
「やっぱり、忘れられっこないじゃん。」
アタシだってジェットバトルが好きなんだから。
彼女の足は、自然とジェットバトルショップに向いた。
そこにあるレプリカの日向ユニフォームを見て、彼女は決意を新たにした。
「まだ始まったばっかじゃん。」
負けたなら次勝てばいい。
勝てないなら練習すればいい。
自分は日向のドルフィンなのだ。
こうしてはいられないと思った。
荷物を置いて、見波のお尻を叩こう(比喩表現)。
二人で疲れ果てるまで練習しよう。
刃兼さんと夕離さんにも声をかけて、全力でしごいてもらおう。
「次はアタシたちがめっちゃ楽しんで圧勝する番だし!」
そう決意し、夕凪寮に向かっていたところで。
――――――――――――――――――――――――――――
「入華っち?」
「!...きり、ちゃん...。」
そこにいたのは件の友人でライバル、咲宮入華だった。
今朝の自分なら足早に去ろうとするだろうが、今は違う。
「準決進出おめ!ブロック決勝見たよ!めっちゃアガる試合だったじゃん!次は負けないかんね!」
「...。」
あれ?と桐利は思う。
いつもの入華であれば
「ありがとう!また楽しいバトルしようね!」
と、某大人気モンスターアニメの主人公ばりの反応をしてくれそうなものだが。
よく見れば表情が暗いし、何だか雨晒しにされた子犬みたいな雰囲気だった。
「どしたん?らしくないじゃん?」
「っ...。」
答えない入華にシリアスな雰囲気を感じ取り、思考する桐利。
こういう時、面倒見がいいお姉さんキャラならどうしていただろうか。
答えはすぐに出た。
「......ね、暇なら付き合ってよ。お気に入りのバーがあるんだ。」
「へ...?」
勿論、未成年の彼女にお気に入りのバーなどない。
着いたのはワダツミではお馴染みのカフェ、カナロアだった。
少しホッとした様子の入華。
桐利の珍妙な誘いが逆に良かったのか、ほんの少し雰囲気が普段に近くなっていた。
「ね、何があったわけ?話してみなよ。」
「でも...。」
入華は迷う。
一応会社のあれこれを話すことになるし、対戦相手であった桐利を不快にさせる可能性もある。
普段のみちるや輪が聞いていれば、イキりーこにそんな話は絶対にしてはいけないと止めていただろう。
しかし、今はそうは言っていられない緊急事態。
ぽつりぽつりと、KIRISHIMAの実情を話していった。
『うわ、重っ...。』
内心ドン引きした桐利だったが、未だかつてない友人の姿に気を引き締め、本腰を入れて相談に乗ることにした。
「みちるちゃんはやる気なんでしょ?入華っちはそれでも戦えないわけ?」
「わたしも、みちるセンパイと一緒に戦いたいとは思うんだけど...。」
入華は俯きながらジュースを一口。
言い淀んでいた続きを語る。
「試合の時、負けたくない、勝ちたいって思ってるよ?だけど、一番はやっぱり、楽しいジェットバトルをしたい...。なのに、負けちゃいけない、負けたらわたしの夢も、みんなの居場所もなくなっちゃうと思ったら、楽しくて大好きなジェットバトルが、急に怖いものに変わっちゃって...。」
「なるほどね~...。」
この子のスゴさの原動力は、やっぱり『楽しい』と『好き』なんだなと桐利は理解する。
それを尋常じゃない責任で縛られて、上手くやれる気がしないと。
普通に負けただけで泣いていた自分だ、入華の立場であれば戦えなくなる自信がある。
その上でどう答えてあげるべきか考える。
やがて今日の出来事を思い出す。
そして一言。
「負けてもいいんじゃない?」
「へ...?」
本日二度目の困惑顔。
しまったとばかりに急いで訂正する。
「あっ違う違う!KIRISHIMAがなくなってもいいってことじゃなくてさ。」
「...じゃあ、どういうこと?」
「アタシさ、昨日KIRISHIMAに負けて、実はすっごい落ち込んで。ジェットバトルのことなんか忘れてやるーってなったんだよね。」
「っ...。」
「いやいや恨み言じゃなくて!色々なことして忘れようとしたんだけどさ。でも結局、ダメだった。だって好きなんだもん。ジェットバトル。」
「...。」
「入華っちはさ、ジェットバトル大好きっしょ?」
「うん...。」
「じゃあさ、明日負けちゃって、KIRISHIMAがなくなったら、ジェットバトル嫌いになる?」
「それは...。」
「なんないよ、アタシ知ってんだから。好きって気持ちは夢が破れたくらいじゃ消えてくれないよ。」
「好きは、消えない...?」
「そそ。そりゃあ、居場所がなくなるのと、新人戦優勝は重さがダンチだけどさ。夢が叶わなかったってとこは同じじゃん?んで、アタシの今の夢は入華っちとみちるちゃん負かして泣かせることなわけ。夢は変わってナンボなんじゃない?」
ハッとした表情の入華に、手応えを感じてしまっている辺りが桐利らしいが。
確かに今の入華に必要な考え方ではあった。
「入華っちの好きで楽しいって気持ちだけは諦めちゃダメっしょ。人生長いし?何なら、ウチ来る?レギュラーは渡さないけどねー。」
「......そう、だね。うん...。全部なくなるわけじゃない...。」
「颯ちゃんとりんりんだってそうっしょ?最初の夢が叶わなくても、今は新しい夢見て頑張ってんだし。アタシいいこと言うな~!」
「コーチと颯ちゃんも...。」
目に見えて元気になっていく入華に達成感を覚えつつ、とどめとばかりにウィンクをひとつ。
「大丈夫だって!アタシらに勝ったんだし、優勝なんて楽勝楽勝!」
「あはは...。...うん!ありがとう、桐利ちゃん!」
笑顔を取り戻した友人の姿が嬉しくて、つい奢ると言ってしまったのが運の尽き。
支払い請求に震えが止まらなくなったのは、また別のお話である。
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◼️□side.輪◼️□
風が気持ちいい。
一度頭をスッキリさせたくて、海岸まで散歩に来ていた。
みちるたちは今頃明日の試合の対策を考えているのだろうか。
コーチとして働くこともせず、逃げているだけの自分に腹が立つ。
入華に何を伝えらいいのか。
みちるだって、本当は不安なはずだ。
私はどうしたら、どうすべきなのだろう...。
「輪さん...?」
顔を上げてみれば、いつも通りの私服姿、ジョギング中の颯が立っていた。
「?...颯か。こんばんは。」
「こんばんは。何、してるの?」
「...何をしてるんだろうね。」
颯は私の返答に首を傾げながらも、何かを察したように隣に座ってくれた。
風がそよいでは二人の間を吹き抜けていく。
そうして座っていると、珍しく颯の方から話出した。
「準決勝進出、おめでとう。」
「...ありがとう。KAZAMIも、おめでとう。」
「ありがとう、ございます。」
そして、また無言。
静かな時間が過ぎる。
間を置いて、再び颯が口を開く。
「...ジェットバトルは、楽しい。」
「そっか...。」
「入華も、楽しそうだった。」
「そう、だね。」
入華の名前に少し動揺するも、何とか相槌を返す。
「あんなに楽しそうなバトル、初めて見た。だから。」
「...。」
少し微笑んだかと思いきや、直ぐ様真剣な表情に変わった颯。
「私は入華と戦いたい。」
「!...意外だね、颯は戦う相手なんて関係ないタイプの人だと思ってた。」
「そう、だった。...だけど、入華は違う。私と似てるけど、違う風。あの子と戦えば、また新しい風を、感じられる気がする。」
「新しい風...。」
入華も颯も、勝ちたい気持ちが一番というわけじゃない。
楽しくて、好きなことだから、止まれない。
根っからのライダーバカなのだ。
そんな子に勝つことを強いるしかない。
私だって、その辛さはよく分かるはずなのに。
「入華も、きっと颯と戦いたいと思ってるよ。」
「そう、かな?」
「...うん。」
「......輪さん、辛そう。」
「え...?」
気付けば顔を覗き込んで、透き通るような瞳が私を見つめていた。
「輪さんの話、聞かせて欲しい。」
「私の、話?」
「輪さんの、昔の話。」
「!......。」
そういえば、颯から陸上とケガの話を聞いていたのだったか。
今の話題に関係があるのか、と頭では思ってしまうが、何か話してしまいたい気持ちが強くなる。
ワダツミに来てからも、ずっとしこりのように残り続けている過去。
いずれ誰かに話す時が来るかもと思っていた。それまで忘れていようとしたこと。
......同じ痛みを知る颯になら、話してもいいのかもしれない。
「...ちょっと、辛気くさい話になるよ。」
――――――――――――――――――――――――――――
本当に大したことない、必然的な流れから私の夢は始まった。
父はバイクの整備士、母は元プロレーサー。
颯と同じ所謂サラブレッド?で、杏里とも似た境遇だった。
『輪』という如何にもな名前も、二人のバイクバカが名付けにまでバイク愛を爆発させた結果である。
私が小さい頃から母のレースを見ていたし、父も意味もよく分からない専門用語で説明しながら、バイクの良さを熱弁してきた。
そんな英才教育を受ければ当然、私も日を追うごとにバイクを好きになっていって。
小学生の頃には立派なバイクバカ。
まだ乗れもしないのに、将来はプロレーサーになると夢見ていたわけだ。
ポケットバイクのスクールに通い始め、初めて感じた風の感覚。
あれは今思い出しても、最高の気持ちよさだった。
実力的にも、小さな大会ではあったが優勝を経験し、トロフィーに喜んでくれる両親の顔が嬉しくて、好きな気持ちに勝ちたい気持ちが加わった。
そして、高校生になり本物のバイクに乗れるようになった。
私は直ぐ様プロ試験に合格し、夢を叶えた。
でもそれだけじゃ満足出来ない。
私の母はとても速かった。
優秀な成績を残し、誰よりバイクを愛していた。
そんな母を私は尊敬していて。
憧れていたプロレーサー。その先は間違いなく母だった。
母のようになりたくて、私はくる日もくる日もバイクに乗り続けた。
成績は上々。
レースで優勝を重ね、いつしか私は『期待の星』『日本から世界を取る逸材』とまで言われるようになっていた。
今思えば、少し持て囃され過ぎていたと思う。
この時に取材を受けたこともあったし、夢がどんどん見えてきている感覚があった。
そして、23歳になった頃。
母が優勝した、日本で一番を決めるレースがあった。
勝ちたかった。
これに勝てれば、いよいよ私は憧れを越えていける。
そう思って気合いを入れてレースに望んだ。
今までのどのレースより厳しい、いずれのレーサーも一流で、速い。
あと少し。あと少しの差だと思った。
私は危険を承知で、一か八かの無茶なコーナリングをした。
それがいけなかった。
......酷い事故だった。
愛車はグシャグシャ、私も死ぬ可能性が何度もあったという。
私が目覚めたのは、レースから一週間が過ぎた頃だった。
それからは本当に辛かった。
まともに動かせない体、厳しいリハビリ。
一人で出歩けるようになるまで一年がかかった。
それでも。
それでも私は、レースに戻りたかった。
夢を諦めたくなかった。
だから必死に頑張った。
だけど。
「もう選手としては...。」
現実は現実。
人の体に奇跡なんて、そうそう起きてはくれなかった。
体は日常生活、軽い運動をするには問題ない状態となったが、長時間、または激し過ぎる運動を連日行うのは無理な状態だった。
「ごめんね、私もう、お母さんみたいになれないや...。」
そう言った私を、私以上に涙を流し、抱きしめてくれた母。
その姿と感触は、一生忘れられない傷になった。
これが私の夢が始まって、呆気なく終わるまでの話。
私が自分自身で、自分を殺してしまった話。
――――――――――――――――――――――――――――
「それで、バイクを見ると辛いから、家を離れてまったく別のことをしようと思ったの。勉強も高校生レベルだし、まともな就職も大変でね。そんな時に、KIRISHIMAからオファーがあったんだ。」
「......。」
颯は何も言わず、でも確かに同じ痛みを感じている証として、私の手を強く握る。
「辛かった、ね...。」
「うん...。」
風が涙をさらって吹き抜ける。
冷たい感触が、より颯の温かさを感じさせる。
「やっぱり、輪さんの風。私と同じ。」
「颯と同じ、かな...?」
颯はコクりと頷き、少し微笑む。
「輪さんと一緒だと、走ってなくても、楽しい。...輪さんに、コーチになって欲しい。」
「へ...?」
冗談なのか、本気なのか。
どちらとも取れる、そんな雰囲気だった。
私は少し考えて、真剣に返答することにした。
「ありがとう。そう言ってもらえて、すごく嬉しいよ。」
「本当?」
「うん。...だけど、ごめんね。私はKIRISHIMAのコーチだから。入華たちの夢が叶うのを見るのが、今の私の夢なの。」
「......うん。それで、いいと思う。」
颯はまるでそれを聞きたかったと言うようにまた笑顔になり、私の手を離した。
「...ははっ。夢なら、諦めちゃダメだよね。」
「...私は、走れるなら、走りたい。」
「そうだよね。私まだ、走ってるんだ。」
何も話してないのに、ここまで分かってもらえるなんて。
本当に颯は、不思議で優しい子だ。
目が覚めた気がする。
出来ることをしないといけない。
私はコーチで、みちるは今も対策会議中だ。
入華だって、きっと戻ってくる。
戻らないなら捜しに行こう。
悩んでいる時間はない。
「ありがとう、颯。スッキリしちゃった。」
「...よかった。趣味の、お礼。」
「義理堅い。でも、明日は負けないよ!」
「私も。負けたら、氷織さんが恐い。」
「はは!想像でもすごい迫力だよ。」
呑気に笑う私は知らなかった。
今日の自分が如何に間が悪く、無神経で。
コーチ失格であったのかを。
「入華、戻ってるかな?」
――――――――――――――――――――――――――――
◼️□side.みちる◼️□
映像が水しぶきで一杯になり、ドルフィンが落下した姿が映し出される。
勝利した対戦相手は息を吐くこともなく、まるで興味がないとばかりに空を見上げる。
あまりのことに戦慄する私。
「これがKAZAMIの実力だ。」
「っ...。」
「みちるちゃん...。」
「なんて、クールなのっ...!」
「いやそっちかよっ!!?」
頭を叩かれてしまった。
痛い...。
「ボケてる場合かよ...。いいか!抽選の結果、準決はお前たちなら問題ない。だが決勝は確実にKAZAMIとやることになる。ムカつくが、こいつらの実力は他とは段違いだ。」
「ライディングは冷静で柔軟。射撃も、よく練習しちょるし、作戦通りに動く理論も流石やね。」
「あのお嬢様口だけじゃなかったんだな。相馬に関しては嫌でも氷織のやつがちらつく走りをしやがる。問題はこっからだ。」
試合映像を再生し直し、決着のシーンを流す杏里さん。
「日向にNereIdes。どっちも苦戦した相手だが、その一番の原因はSPスキルだ。どいつもこいつもシングルじゃ凶悪過ぎるインチキ効果。」
「事前に分かっちょれば、まだ対策のしようもあるっちゃが...。」
「ああ。KAZAMIはここまで、一回もSPスキルを使っていない。SPスキルなしで、準決まで上がって来やがった。」
そう。今までの三回の試合、その全てが圧勝。スキルなしでの技術のみでの圧倒。
「強い...。」
「SPスキルは大したことないかも、なんて期待すんなよ?今までと同レベルか、それ以上の隠し球があるはずだ。」
「はい...。」
「杏ちゃん、何か作戦は...?」
杏里さんは気まずそうに頭を掻き、ため息を吐いて私の方を見る。
「相手は才能も、練習量も十分。氷織とシュネーの理論まで取り込んで、マシンの性能もピカイチだ。旗色は悪い。」
「......。」
「だが、みちるも入華も才能なら負けてない。お前らは強くなった。練習に打ち込んできたのはこっちだって同じだ。...だから敢えて言うぞ。お前たちの感覚に任せる。」
「へ...?」
クールじゃない、すっとんきょうな声を上げてしまう私。
更にバツが悪そうになる杏里さん。
「アタシは、結局あいつらKAZAMIに勝てなかった。そんなアタシの言う通りに戦ったところで、限界はある。」
「杏ちゃん、そげなこと...。」
「いいんだよトシエ。でも、お前たちはまだ負けてない。明日の決勝に進むまでの試合で、お前らはどんどん成長した。可能性を見せてくれた。だからきっと。入華とみちるだからこそ、見て感じられるものがあるはずだ。それを信じて戦え。」
「私たちだから、見て、感じられる...。」
「ああ。...信じるぞ、みちる。」
「...はい!」
杏里さんは私の頭をワシワシと撫でてくれた。
「は、恥ずかしいですっ!クールじゃありませんっ!?」
「10年早いってんだよ。」
「ふふっ。...あとは、入華ちゃんやっちゃけど。」
タイミングよく、私のスマホから通知音がする。
画面を見ると、エコチャの通知が表示されていた。
「入華からです!」
「やっとか。」
「どんげね...?」
画面には短い言葉で。
【入華】:勝ちます。負けません。
とだけ記載されていた。
「入華...。よかった、一緒に戦ってくれるのね。」
「......。」
「杏ちゃん?」
「...妙だな。立ち直ったって言うなら、あいつは直接言いに来ないか?」
「それは、確かに...。」
コーチも心配してるだろうし。顔くらい出してくれるとは思う。
「地咲も帰って来ないし。何やってんだろうな、あの熱血コンビ。」
「熱血なのはさっきまでの杏ちゃんね。」
「あ、あはは...。」
杏里さんと詩絵さんのやり取りに笑ってしまうが、何故か胸騒ぎがする。
拭えない不安と、それでも勝たなくちゃいけない決意が、胸の中でぶつかり合ってる。
まだ見ぬ明日を想像して、眠れない夜は更けていくのだった。
「ついに始まった新人戦最終日!」
「準決勝を軽々と勝ち上がる、優勝候補KAZAMIにKIRISHIMA!」
「長かった新人戦もついに決着だね!でも咲宮選手の様子がちょっとおかしいような?」
「泣いても笑ってもこれが最終決戦だ!」
「KIRISHIMAの命運やいかに!?」
「優勝宣言を実現するのはどちらなんだ!?」
「「次回!ドルフィンウェーブTB!第17話!」」
『決勝戦!vsKAZAMI ~風見る鳥は海をも翔るか~』
「「来週も要チェック」」「だ!」「だよ!」
このキャラがメインの話を見たいって子は誰ですか?
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入華
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みちる
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杏里
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詩絵
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颯
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エレン
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氷織
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シュネー
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桐利
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見波
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乙姫
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夕離
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紫苑
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ヘリー
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セレナ
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ヴィーナ
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かな
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由芽