「さっきの試合はなんだ...!お前みちるとコミュニケーション取ってんのか!?」
「......。」
新人戦、三日目。
準決勝を終えたKIRISHIMAは、勝利を納めたにも関わらず、その空気は最悪だった。
「杏里さん!大丈夫です、私。きっと偶々、偶々調子が悪かっただけで...。」
「偶々なわけあるか!どういうつもりだ!答えろ、入華!」
「っ...。」
「杏ちゃん!とにかく落ち着いて...!」
問い詰める杏里に、まるで答えない入華。
入華の様子がおかしいことは、みんな恐らく気付いていた。
朝の集合の際も元気がなく、必要最低限の返事しかしなかった。
昨日のことだが、撤退の話にショックを受け、出ていった入華は、結局最後まで私の部屋に戻ることはなかった。
代わりにみちるにはエコチャが届いていて、内容的には立ち直ったように思えた。
しかし、やはり顔を見せない彼女が心配で、部屋を訪ねてみることに。
インターホンを鳴らしても返事はなく。
私からのチャットも何も返信が来なかった。
どうしようもなくて、私たちは当日、入華が来てくれることを祈るしかなかった。
前途の通り、元気がないとはいえ来てくれたことに安心し、準決勝に送り出したのだが。
試合中、みちるからの作戦提案、速度と距離感の要望を悉く無視し。
無理矢理短期決戦の試合運びをしてしまった。
何とか勝ったから良いものの、普段からは考えられない雑なゲームメイク。
終了と共に杏里から猛追及を受けることとなった。
「......なあ、入華。どうしちまったんだよ。そんなに撤退の話を引き摺ってんのか...?お前勝つって、昨日アタシたちに言ってくれただろ...。」
「...勝ちますよ...。」
「だからあんなんじゃ勝てないって...!」
「勝ちます...!!」
「っ...!」
「入華...?」
「.....勝ちます。絶対、負けません...。颯ちゃんにだけは!」
そう言って出ていってしまう入華。
引き留めようとするが、私をチラリと見る目が、悲しさと不安と、不信に満ちた瞳に見えて。
声を上げることも出来ず、そのまま入華の背中を見送ることしか出来なかった。
「くそっ...。こんなことしてる場合じゃないってのに。」
「...私のせい、だよね...。」
「コーチは悪くないとよ。隠しちょった理由、入華ちゃんもよく分かっちょるはずやっちゃが。」
「じゃあ、何で...。」
「だ、大丈夫ですよコーチ!私、入華を捜してきますね!」
無理矢理の笑顔を浮かべ、みちるも控え室を後にする。
昨日の今頃は、みんな優勝目指して前向きに一丸となっていたはずなのに。
『準決勝を終え、ついに優勝を争う二チームが決定したところで、選手たちの休息も兼ねたエキシビションを行うぞ!』
『初日に話した通り!登場するのは現ワダツミ最強チーム!』
『チームKAZAMI!氷の絶対女王!永雪氷織選手!』
『白き智将!シュネー・ヴァイスベルグ選手~!』
――――――――――――――――――――――――――――
◼️□side.みちる◼️□
実況のお二人が永雪さんとシュネー先生を紹介する声が聞こえる。
エキシビションが始まったらしい。
予定では大体一時間後に決勝戦だ。
それまでに入華と話をしないと。
私は駆け足気味に通路を進む。
あの子はユニフォーム姿のままだし、そう遠くには行っていないとは思う。
...私もユニフォームのまま飛び出してきたので、スタジアムから出ていないことを祈る。
人混みをこの格好で歩くのは、ちょっと...。
「いた...!」
神様にお願いが届いたのか、自動販売機横のベンチに入華を見つけた。
似合わない暗い表情で俯いている。
心を落ち着けて、クールに、クールに。
私は入華のクールで優しい先輩なんだから。
「入華、こんなところにいたのね。」
「みちる、センパイ...。」
私を呼ぶ時はいつも笑顔だったのに、今は泣き出しそうな、罪悪感の籠った表情を浮かべている。
そのらしくなさに面食らってしまうが、努めてクールに隣に座る私。
「どうしたの、って聞いても、教えてくれないのよね?」
「......ごめん、なさい。」
答える代わりに謝罪をする入華。
さっきの試合と、悩みを言えないこと。
両方に対する謝罪なんだろうな、と理解する。
「次はいよいよ決勝戦ね。新人戦の優勝は目前。勿論目標にはしていたけれど、ここまで来れて本当に嬉しいわ。」
「...。」
相変わらず俯いたままの入華に、素直な気持ちを話していく。
「私たちの勝敗に、KIRISHIMAの命運が掛かってる。正直、怖いわ。監督たちの前では、強がっちゃったけど。」
「...。」
気持ちが伝わればいいなと思い、入華の手に私の手を重ねる。
少しピクッと反応するけど、拒む様子はない。
「でも、負けない。きっと勝てる。そう思えるのがなんでか、分かる?」
「...?」
「入華と一緒だからよ。入華と二人でなら、きっと勝てる。私はそう信じてる。」
「センパイ...。」
日向との試合で、私を信じてると言ってくれた入華。
彼女が信じてくれる私だからこそ、勝てると信じられる。
それはどんな状況だって変わらない。
「杏里さんが言った通り、KAZAMIは強い。今までのどのチームより。入華が今普通のコンディションじゃないのは分かってる。でも、勝ちたいっていう気持ちだけは一緒よね?」
「はい...。」
頷く入華の手を強く握り、その暗い瞳を見つめる。
「クールにいきましょう。一番厄介なのは、今まで一度も使っていないKAZAMIのSPスキル。だからこちらは万が一に備えて、絶対防御を温存する。発動のタイミングは私に任せてもらえる?」
「それは...。」
「私の、勝ちたいって気持ちを信じて。」
「......分かりました。」
握った手を指切りの形にする。
話したいことは話せた。
後は入華を信じるだけだ。
ベンチから立ち上がり、慣れないウィンクをしてみる。
「もうすぐ入華の誕生日よね。今日勝って、祝勝会とまとめて豪華に祝いましょう。きっと今までで一番楽しい瞬間になるわ。」
そう決意を込めて、明るく振る舞う。
大丈夫、きっと大丈夫だから。
――――――――――――――――――――――――――――
◼️□side.輪◼️□
『決まったーー!これが女王の貫禄!圧倒的、いや!絶対的勝利だーー!!』
『うわぁ~...容赦なさすぎでしょ...。』
エキシビションマッチは呆気なく幕を閉じた。
映し出されるのは涼しい表情の女王。
圧倒的だった。
相手が弱いわけではなく。
あの二人が強すぎるのだ。
あらゆる弾丸を難なく回避し、放つ弾丸は面白いくらいに当たりまくる。
SPスキルすら使わずの完勝だ。
その光景に歯噛みする杏里と詩絵。
KIRISHIMAにとっての最大の壁がどれだけ高いのか、改めて思い知らされた。
実況の二人と永雪さんたちが合流し、インタビューが始まる。
『今日も圧倒的な勝利でしたね!』
『当然です。』
『ヒオにとってはエキシビションであっても負けは許されないからね。』
『KAZAMIに負けは許されない、です。』
『流石のストイックさですね~...。』
表情一つ変えずに『勝って当然』と受け答える永雪さんに久々利さんも若干引き気味だ。
『次はいよいよ決勝戦です!必然なのか、対戦カードは優勝宣言をしたKAZAMI、そしてKIRISHIMAとなりましたが、それぞれのチームにコメントをお願いします!』
『そうですね...。』
すかさず質問を挟んだ村早さん。
答えを思案する様子の氷織さん。
開会式を思い起こさせる光景だ。
『KAZAMIが勝ちます。颯さん、エレンさんも分かっているとは思いますが。負けはありません。』
『お、おぉ...。』
相変わらずの圧を感じるが、二人の実力を信じているからこその発言にも思える。
『き、KIRISHIMAへは何か~...?』
『はい。決勝でKAZAMIが勝ったとしても。今の全力のKIRISHIMAにKAZAMIが勝利したということにはなりません。』
『と、言うと...?』
『中央大会。全員で、全力で来なさい。待っていますよ。』
そう言って永雪さんは僅かに頬を弛める。
しかし瞳は強く輝いたまま。
叩き潰すのが楽しみだと言わんばかりにギラついていた。
「全員で...。」
「...まったく。しつこい女王様だぜ。」
口調のわりに眉根を寄せて真剣な面持ちの杏里に、そんな杏里を不安気に見つめる詩絵。
仮にKIRISHIMAが存続したとして、その時杏里がいてくれるかは今も分かっていないのだ。
「そもそも、今日負けたら次なんてないのにな。そうなった時の氷織の表情、それはそれで面白そうだな。」
「杏ちゃん。二人の前ではそげなこと、絶対言わんでね。」
「分かってるよそんなこと...。」
永雪さんの挑戦に素直に応えることが出来ず、控え室にはまた重い空気が流れる。
『KIRISHIMAへ女王からの挑戦状だー!新人戦が終わっても、まだまだ熱いバトルが待っているみたいだぞ!』
『ジェットバトルファンのみんな!中央大会も絶対見に来てね!』
実況の二人が上手くまとめ、会場は拍手と歓声で溢れている。
エキシビションが終了したということは、いよいよ運命の戦いが始まるということだ。
「お待たせしました!」
「......。」
タイミングよく、みちると、そして入華が帰ってきた。
様子は、やはり変わらない。
いつもの太陽のような明るさは陰ったままだ。
「おい。大丈夫なのか?」
「大丈夫です!二人で話しましたから!」
「みちるには聞いてない。こいつに聞いてんだ。」
「...勝ちます。大丈夫です。」
「...そうか。信じるからな。」
杏里は不満を抑えた様子で、入華に頷いてみせる。
今はもう信じるしかない。
だけど、何か私も...。
「入華!あのね、試合前に話を...」
「っ...。」
入華は何も答えず、みちるに隠れるようにして私から遠ざかる。
みちるは驚いたように私と入華を交互に見るが、私に申し訳なさそうに目配せをして、入華を連れて出ていってしまった。
試合の準備に向かったのだろう。
「...嫌われちゃった、みたいだね。」
「コーチ...。」
詩絵が慮って手を握ってくれるが、それでも胸が冷たく鋭く痛む感覚がある。
気にしている場合じゃない。そう分かっていても、ショックでしばらく動けなくなってしまった。
誰一人として気持ちを整理できないまま、時間は残酷なほど早く、決勝戦開始まで進んでしまった。
――――――――――――――――――――――――――――
『さあさあ!いよいよ!いよいよこの時が来たぞ!!』
『麻汐ちゃんテンションたかっ...。こほん。三日間に渡る新人戦もついにクライマックス!ファイナルバトルの幕開けだよー!』
三日間聴き続け、今や実況と言えば!とまで思える二人の声に、再び会場が熱気に包まれる。
新人戦、その決勝戦。
ジェットバトルの大会として初の新人に絞った試合、さらにあまり試合としてはメジャーでないシングル戦ということもあり、古くからのジェットバトル好きからはあまり期待されていなかった本大会。
しかし、いざ始まってみると評判は上々。
シンプルなルールだからこそ、個々の実力が際立ち、新人の実力はチームの地力を表す。好きなチームの状況理解や、中央大会での優勝予想にもかなりの材料を提供してくれた。
その評判を支えていたのは主に2チーム。
1つは以前よりワダツミにて最強を誇る、チームKAZAMI。
もっぱら氷織&シュネーペアの圧倒的実力で有名なチームだったが、それに負けない程の可能性を見せる新人コンビ。
ライダー相馬颯は抜群のセンスに、型に囚われない自由なライディングが見事。
ガンナーの風見エレンは親の七光りではなく、確かな修練と冷静な判断力を併せ持ち、その秀才さを遺憾なく発揮してくれた。
実に納得の決勝戦進出。まったく隙のない優勝候補だ。
それとは対称的に、誰もが予想していなかったダークホース。
決勝戦でKAZAMIとぶつかる相手となったのは、すっかり落ち目の古参チーム、KIRISHIMAだった。
かつての栄光はすっかりKAZAMIに塗り潰され、下手をすればチームがなくなりそうとまで言われたこのKIRISHIMA。
開会式での優勝宣言を鼻で嗤うものもいる中、KAZAMIに次ぐ優勝候補である日向重工をギリギリの戦いで勝利。
その後も快勝、ブロック決勝は大会内随一の一進一退の攻防だった。
ライダー咲宮入華はその情熱的な走りが過去のトップ選手たちを彷彿とさせ、ガンナー都条みちるは、クールな見た目に違わぬ冷静な狙撃を何度も命中。歴代でも類を見ないポテンシャルを感じさせた。
回を進むごとに観客を魅力し、味方に付け、ついに決勝戦進出を果たした。
その姿はKIRISHIMAの復活を印象付け、最強である永雪氷織からも挑戦を期待される等、今や一番の注目株となった。
そんな対称的な2チーム。
KAZAMIが圧倒するのか、KIRISHIMAが反撃の狼煙を上げるのか。
今後のワダツミを左右する一戦が、今始まるのである。
――――――――――――――――――――――――――――
◼️□side.みちる◼️□
気付けばスタジアム。
視界に映る入華の背中に、冷たく伝わるエクシールの振動。
隣には対戦相手、KAZAMIの二人がマシン『SURF ACE』を唸らせ佇んでいた。
実況のお二人が私たちの紹介をしてくれていたはずだけど、まったく耳に入らない。
これで全部が決まる。
集中、集中。
いつもなら慌てる私だけど、今日だけは違う。
負けられない。
入華と、コーチと。杏里さん、詩絵さん。
KIRISHIMAのみんなの居場所を守らなきゃ。
そんな決意を込めて、スタジアムに広がる青を見つめる。
「......。」
対照的に、エレンさんは私を横目で見ながら、相馬さんに何やら耳打ちをしている。
リラックスした雰囲気が、いつもの刺々しい態度と明らかに違う。
強者の余裕というやつだろうか。
「...入華。」
「......。」
意外なことに相馬さんが入華に話し掛けるが、答えない入華。
「入華と戦うの、楽しみだった。新しい風、感じられる気がして。だから、いい試合にしようね。」
「っ...。颯ちゃんには、負けないから...!」
「入華...?」
相馬さんからの素直な気持ちに対し、彼女らしくない敵意を返す入華。
動揺する相馬さんと、そんな痛々しい入華に居たたまれない気持ちになってしまう。
なぜ、どうして...。
それを問うこともできないまま、ついにスタートランプが点灯する。
『新人戦!ファイナルバトル!』
『スタンバイッ!!』
「「「「ゴーーーー...ッ!!!」」」」
一斉に唸りを上げるマシンたち。
今までにない負担が体を襲う。
「っ...!?」
は、速いっ!こんな速度じゃカーブを曲がるのもっ...!
「無茶苦茶するわね...!」
「上げるよ...!」
入華の表情は見えないが、速度を緩める様子はない。
KAZAMIも負けじとスピードを上げ、激しい水しぶきを上げながら両マシンはコーナーに差し掛かる。
『おおっと!両チームかなりの速度でコーナーに突っ込んだぞ!』
『下手したらクラッシュするレベルじゃん!?気合い入り過ぎじゃない!?』
転覆、激突。
すれすれでそれらを回避し、これまでで一番の速度で先行争いを終える私たち。
無茶苦茶だけど、今は言ってる場合じゃない!
『決勝の栄えある先行はなんとKIRISHIMAだぁーー!!』
『KAZAMIはちょっと後手に回った感あるねー。』
【D/KAZAMI:S900】
【A/KIRISHIMA:E150】
急ターンにぐらつきながらも、なんとかアサルトライフルを構える私。
「まずはこれで...!」
距離が離されないうちにアサルトライフルで速度を上げておきたい。
狙い定めて弾丸を連射する。だけど。
「っ...!」
「颯、合わせて。」
「うん。」
エレンさんが的確に弾道を予想し、それを相馬さんが感じ取る。
最初の数発を除き、弾丸は水面を叩き上げるだけで数を減らしていく。
「まだ...!」
リロードし、更に弾丸をばら蒔くが結果は同じ。
まるでこちらの動きを読まれているような。
【D/KAZAMI:S890】
【A/KIRISHIMA:E90】
わずかにスピードが上がるエクシールだが、60発も撃って当たったのはたった10発。
悔しさに歯噛みつつ、接近しようとアクセルを踏み抜く入華の動きを見て、ショットガンを取り出す。
『アサルトライフルはかなり外れてしまったKIRISHIMA!ショットガンでダメージを取り返せるか!?』
KAZAMIも更に速度を上げ、思ったように距離が詰められない。
この距離で当てることは出来るけど、このままじゃボーナスが入らない。
「みちるセンパイ!まだですか...!」
「この距離じゃギリギリボーナス範囲外なの!撃つのはまだ早いわ...!」
焦りが目に見える姿に内心動揺する。
もう少し、あとちょっと...!
「そこ...!」
「甘いわ!」
範囲内に入った瞬間、弾丸を発射。
イメージでは直撃したはずだった。
だけど実際は掠りもしない。
タイミングを読まれ、車体を大きく跳ねさせることにより回避されてしまった。
『これは痛い!!KIRISHIMA痛恨のミス!!』
『なんか調子悪そうだよね~。』
タイミングを急ぎ過ぎた。時間はまだまだあるにも関わらず、焦りで台無しにしてしまった。
このままじゃダメだ。クールに、クールになれ私。
弾丸は外れたというより、躱された。
その時の動きを思い出して、狙いを修正するんだ。
「っ...!?」
「イメージ通りね。」
わずかに残ったエネルギー20。
意味のない残りでも、私にとっては次に繋がる弾丸。
ハンドガン2発を、今度は車体に命中させた。
【D/KAZAMI:S870】
【A/KIRISHIMA:E0】
『KIRISHIMAの先行ターンはわずか30ダメージで終了だ!』
『最後の2発はまだまだ心折れてない証拠だね!』
せっかくの先行ターンはほとんど不発。
でもすぐに気持ちを切り替え、エレンさんの弾道を見極めようと目を凝らす。
「少し抑えて。」
「うん。」
私たちの1ターン目とは反対に距離をわざと空けるKAZAMI。
エレンさんの手に握られているのはグレネードランチャーだ。
「入華!」
「っ!」
いつも通り体を倒し入華に避ける方向を伝えるが、わずかにタイミングが遅れてしまう。
「そこよ!」
「しまっ...!?」
すかさずグレネードが炸裂し、エクシールの速度がガクッと下がる。
「飛ばすよ。」
グレネードを放ったタイミングから加速していたSURF ACE。
こちらからも、あちらからも近づく形となり、距離がどんどん詰められていく。
「くらいなさい!」
今度はロケットランチャーが放たれ、回避動作をすることもなく、エクシールの車体はその場で大きく跳ねた。
『KAZAMI強し!豪快かつ的確な射撃!先行KIRISHIMAとは対照的にたった2発を確実に命中させたぞ!』
『このシンプル戦法でここまで勝って来てるんだよね。改めてヤバすぎ、KAZAMI。』
【D/KIRISHIMA:S650】
【A/KAZAMI:E0】
「すみません...!」
「大丈夫、切り替えていきましょう!」
あまりにも痛いダメージ。
1ターン目はKAZAMIにしてやられた。
だけど諦めるにはまだ早い。
ここから逆転するんだ!
「反撃開始よ!」
――――――――――――――――――――――――――――
◼️□side.輪◼️□
「あのバカ何が大丈夫だ...!」
杏里の静かな怒声がベンチ内に響く。
入華の様子は明らかに普通ではない。
先行争いの無茶なライディング、みちるを急かすような言動。
みちるとだけでも和解出来たのかと思ったが、やはり本調子ではないようだ。
「杏ちゃんもコーチも落ち着いて。」
「落ち着いてられるか!このままじゃ惨敗だぞ!」
「大丈夫やかい。みちるちゃんの目、まだ死んじょらん。」
「目...。」
詩絵の見つめる先、みちるの表情。
あれだけ上手く差を広げられたにも関わらず、みちるは諦めた様子はなく、その瞳はギラギラと闘志に燃えていた。
『反撃開始よ!』
ハンドガンを取り出したみちるは距離もそう近くない中で、弾丸を発射。
先ほどとは打って変わって、5発全てをKAZAMIに命中させた。
『やっと調子出てきた!?確定クリティカル発動だよー!』
流れるようにスナイパーライフルを構えるみちる。
「みちるの得意コンボ!」
『クールに決める!』
遠距離から放った弾丸は、KAZAMIの複雑な動きも構わず炸裂。
お返しとばかりにSURF ACEを大きく跳ねさせた。
「よし!みちるのやつドジなくせに、こういう時は決めるんだよなぁ!」
「ね、言った通りやっちゃろ?コーチ。」
「うん...まだ、まだ諦められないね。」
【D/KAZAMI:S580】
【A/KIRISHIMA:E20】
『劣勢と思われたKIRISHIMA!最早十八番となったスナイパークリティカルで逆転に成功したぞ!』
「ふむ。1ターン目でハヤテくんの動きを読まれたようだね。」
「ええ。こちらも少し気が緩んでいたようですし。」
KAZAMI側ベンチからの鋭い視線に、エレンちゃんの表情が少し青くなったように見える。
『まずいわ氷織がカンカンよ...。颯!動きを変えなさい!』
『任せて。』
風向きが変わる、とは違うが。
何か颯のライディングが変化する。
みちるも違和感を感じたようで、残ったエネルギーを使ってハンドガンを放つ。
しかしまるで1ターン目の焼き直しのように避けられてしまった。
「相手にもこっちの射撃のくせ、見抜かれたみたいだな...。」
「ここからが本番だね。」
【D/KIRISHIMA:S650】
【A/KAZAMI:E150】
ターンが切り替わり、KAZAMIの2ターン目。
アサルトライフルを取り出したエレンちゃんは、狙いを定めたままエクシールを観察している。
その冷静な様子に緊張が高まる。
『見えたわ!』
火花が飛び散り、一気に弾丸がばら蒔かれる。
今度はみちるに合わせて回避行動を取れた入華だったが、それすらも読まれたのか、ほとんどの弾丸が炸裂。
マシンが速度を上げ、KIRISHIMAに迫る。
【D/KIRISHIMA:S630】
【A/KAZAMI:E120】
「蜂の巣にしてやるわ!」
近づきながらガトリングガンを乱射。
回避を試みるも、雨のように降り注ぐ弾丸がエクシールを襲う。
『入華っ!速度を落として!』
『は、はいっ...!』
咄嗟の判断で速度を落とし、何とか弾幕の嵐から抜け出す。
どれだけのダメージが入ったか...。
【D/KIRISHIMA:S540】
【A/KAZAMI:E0】
『KAZAMI逆転!ド派手なガトリングを見事命中させていったぞ!』
『冷静なのに大胆。お手本みたいな戦い方だよね。流石大手!』
自慢気に胸を張るエレンちゃんに、悔しさを込めた目で睨む入華。
『な、何よ...。どうしたのよ、あいつ。』
『...分からない。でも。』
普段とは違う彼女に、困惑した様子の二人。
颯の表情が一際険しくなる。
『私が戦いたかったのは、今の入華じゃない。』
――――――――――――――――――――――――――――
序盤はややKAZAMI有利の中、KIRISHIMAもそれに対応する一進一退の攻防。
しかし、試合の中盤。
焦りが募り、精細さを欠いていくKIRISHIMAと、氷のように冷静沈着、風のように自由な動きをキープしたままのKAZAMI。
エネルギー差はターンが進むにつれ広がっていき。
明らかにKIRISHIMAが劣勢状態で、終盤を迎えていた。
【KIRISHIMA:S320】
【KAZAMI:S400】
KAZAMIの攻撃ターン。
アサルトライフルで加速を狙うが、KIRISHIMAも意地を見せ、弾丸を全て回避する。
しかし、KAZAMIはエネルギーをまだ残した状態。
だめ押しとばかりに再びロケットランチャーがエクシールに向けられた。
「センパイっ...!」
「待って入華!まだKAZAMIは切り札を使ってない...!」
みちるの制止も聞かず、パネルを操作する入華。
それを確認し、まるで呆れたような顔でトリガーを引くエレン。
【Ignition!S.P.skill!】
エクシールが障壁に包まれ、ロケットランチャーの弾丸を阻む。
『KIRISHIMA、ここで切り札のSPスキルを使用したぁ!』
『当たってたら虫の息だもんね。しょうがないか。』
煙が晴れ、エクシールがモニターに映される。
危険を回避したにも関わらず、KIRISHIMAの二人の表情は曇っていた。
息を切らしながらモニターから手を離し、すぐにハッとした様子でみちるを見る入華。
悔しそうな、悲しそうな顔でそんな入華を見つめるみちる。
時間として一瞬、しかし、それが永遠に感じられるほどの痛みが、冷たく二人の心を傷つけていた。
「センパイ、わたし...っ。」
「......いいのよ。まだ試合は終わってないわ。」
攻撃ターンとなり、再び走り出すエクシール。
KAZAMIのエネルギーは残り400と、決して多いわけではない。
しかし、KAZAMIはまだ奥の手を隠しており、KIRISHIMAのエネルギーは更に少ない。
このターンで勝負を決める必要があるKIRISHIMA。
みちるが構えたのは、これまでの試合でも決定打となった愛銃。スナイパーライフルだった。
理論上、スナイパーライフルを2回クリティカルさせれば、エネルギー400は全て削り取ることが出来る。
それが甘過ぎる期待なのは、みちるもよく分かっていた。
それでもやるしかなかった。
彼女も、そして入華も直感していたのだ。
『次』はないと。
それしかない、みちるの体勢がぐらつくことも承知の上で、入華はエクシールを今出来る最高速で走らせる。
狙うは確定クリティカルとなる、コントロールパネル。
手に汗を滲ませながら、これ以上の接近は出来ないと悟った瞬間。
スタジアムに風切り音が鳴り響く。
結果は着弾。
歯噛みするエレン。
しかし、コントロールパネルを射抜けなかった。
その動揺がいけなかった。
みちるは感触を忘れないうちに次弾を発射。
予測された攻撃を、KAZAMIが飛び上がることで回避した。
愕然とするKIRISHIMA。
対するKAZAMIは、この瞬間勝利を確信していた。
「まだ...まだ終わってない...!」
「いいえ、終わりよ。」
動揺しながら、まだ諦めないと叫ぶみちるに、エレンは冷たく勝利宣言をする。
【Ignition!S.P.skill!】
KAZAMIにターンが移ると同時に、SPスキルの使用がモニターに表示される。
エレンの持つライフルから、たった一発の弾丸が放たれ、エクシールに命中した。
「え...?」
すぐに変化は表れた。
エクシールの周りに氷の棘が発生し、動きを阻むように密集していく。
同時にスピードが落ち、ハンドルがまったく動かなくなってしまった。
「なに、何で...!」
「これは、感電...?」
『違います。』
モニターに映し出される女王が、混乱する群衆に語りかける。
『SPスキル、氷結。効果はマシンの制御停止と、発動後の一撃を倍のダメージにするというものです。』
『何だよ、それ...。』
暗闇、感電も大概だが、これは段違い過ぎる。あまりの効果に驚愕する杏里。
『条件として、効果の籠った弾丸を当てる必要があるけどね。まあ、シングル戦では些か凶悪過ぎる効果なのは認めるよ。』
『だからこそ、このスキルは使用せず、大会を勝利する予定でしたが。』
補足としてシュネーが付け加えるが、既に使用されている以上最早どうでもいいことだ。
「手加減してたわけじゃないわ。でもこれ以上は時間の無駄。もうあんたたちに勝機はない。」
「そんな、ことっ...!」
「動いて...動いてよぉ...!!」
みちる、入華の慟哭が響くが、エクシールは何も答えず、時が止まったように凍りついていた。
「...今の入華は、違う。すごく、残念。」
颯の悲しそうな呟きと共に、エクシールは爆発に包まれ。
みちるだけでなく、入華もまた車体から投げ出された。
『試合終了!』
『新人戦優勝は、絶対王者KAZAMIだあぁーー!!!』
――――――――――――――――――――――――――――
□◼️side.入華□◼️
「動いて...動いてよぉ...!!」
必死にハンドルを動かしてみるけど、エクシールはいつもみたいに答えてくれなくて。
何も考えられない、そんな怖さだけを感じてたら、いつの間にか冷たい水の中に沈んでた。
わたしはいつもキラキラした輝きを見せてくれる海が大好きで、そんな姿に何となく温かさを感じてた。
だからすごく不思議な気分。
水の中は冷たくて、光がどんどん遠くに行って。
暗くて、寒くて。
すごく寂しい。
いつもと全然違うよ。
光と一緒に、みんなの顔が浮かんでは、遠ざかってく。
みちるセンパイ、杏里さん、詩絵さん。
最後に、コーチ。
わたしの大切な輝き、居場所。
行かないでって手を伸ばす。
その手の先にまたコーチが見えた気がしたところで。
わたしの意識は切れてしまった。
「っ...!!」
もがきながら泳ぐ気持ちで体を起こす。
水の中の苦しさを忘れるように、息を何度も吸って吐く。
そうして息も落ち着いてきた頃に、ようやく周りを見る余裕が出来てきた。
窓から差す夕陽が眩しい。
自分の体を見ると、ユニフォームに上着、ベッドの上に寝ているみたい。
鼻にお薬の匂いが届いて、ここが医務室なんだと分かった。
「入華...!よかった、目を覚ましてくれて...。」
隣を見ると、そこにはいつものスーツ姿じゃない、ジャージ姿の輪さんが座っていた。
すごく安心した表情だけど、同じくらい疲れているように見えた。
「心配、したよ。みちるはすぐに上がってきたのに、入華が全然上がってこなくて...。恥ずかしいことしちゃった。」
困ったような、無理矢理の笑顔。
そっか。あの時の輪さんは、本物の輪さんだったんだ。
「コーチ、試合は...?」
「っ...。」
すっきりしない頭は、今日の輪さんへの態度をすっかり忘れてたみたい。
いつもと同じように話し掛けるわたし。
輪さんは表情を強張らせながら答えてくれた。
「入華も、みちるも。よく頑張ったんだよ。だから...。」
「......そう、ですか...。」
ああ、やっぱり。
負けちゃったんだ、わたし。
絶対に負けられない試合だったのに。
「入華っ...。」
「...。」
気付けば輪さんの顔がボヤけてる。
あれ?って思って目を擦るけど、ずっとボヤけたまま。
手には雨漏りみたいに水がたくさん落ちてくる。
泣いてるって気付くのにすごく時間がかかった。
輪さんが何かを言ってくれてるけど、頭には入ってこなくて。
「わたしの夢、なくなっちゃった...っ。」
その言葉を聞いて、輪さんもわたしと同じように泣き出してしまった。
大丈夫です、わたし。大丈夫ですから。って言いたいのに。
光が届かない影で生まれた気持ちが、抑えられなくなってしまって。
「コーチは、違いますよね...。」
「えっ...?」
「コーチはわたしじゃなくても、颯ちゃんのコーチに、なるんですよねっ...。」
「何の、話...?」
それでも話してくれないコーチに、心が耐えきれなくなった。
「見たんですっ...!きのう、颯ちゃんと、コーチになってほしいって...!嬉しいって言って、ました...!」
「!ま、待って入華!それは違っ...!」
「ちがくないですっ...!」
自分が何を言ってるのかも分からない。
ただ涙と一緒に溢れる感情を、輪さんにぶつけるしかなかった。
「コーチの昔の話、わたしも聞きたかった...!いつか話してくれるって思ってっ...!なのに...何で、颯ちゃんなんですかっ...!!」
「っ...!」
「わたしじゃ、ダメなんですかっ...!?わたしは弱いから...だから、信じてくれないんですかっ...!?」
ベッドから起き上がり、脇目も振らず部屋から駆け出す。
辛くて、悲しくて、情けなくて。
KIRISHIMAから、みんなから。輪さんから。
とにかく離れたかった。
「入華っ...!!」
輪さんのわたしを呼ぶ声が、ずっと廊下に響いてる。
こうしてわたし、咲宮入華は。
大切なものを全部なくして、逃げ出した。
「次回。ドルフィンウェーブTB。」
「第一部、最終話。」
『咲宮入華』
このキャラがメインの話を見たいって子は誰ですか?
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入華
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みちる
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杏里
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詩絵
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颯
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エレン
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氷織
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シュネー
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桐利
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見波
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乙姫
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夕離
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紫苑
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ヘリー
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セレナ
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ヴィーナ
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かな
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由芽