この物語の中での彼女はこういう女の子です。
解釈違いであれば申し訳ありませんが、これからも楽しんで頂ければ幸いです。
物心ついた時、って言うんだっけ。
とにかく小さくて、幼稚園くらいの頃。
わたしはもう、海が好きだった。
実際に遊んでいたわけじゃないけど、遠くから眺める青くてキレイで深い海は、キラキラと輝いていて。
その中にたくさんの生き物が泳いでることにワクワクしてたと思う。
水族館で見るお魚さんはみんな好きだったけど、特にイルカが可愛くて大好きだった。
『イルカさんみたいに優しくて、自由に楽しく、仲間と生きていく人になって欲しいな。』
わたしの名前はそういう理由で付けたって、お母さんは言ってた。
そんな風に聞いてたから、海はやっぱりわたしには特別で。
小学生に入る頃には
『わたしもイルカさんみたいにおよぐもん!』
って言い出して、水泳教室に通ったりした。
何となく将来を考え始めていたそんな時。
わたしにとっての、運命の出会いがあった。
『陽南選手避ける避ける!後ろに目が、いや波も風も彼女に味方しているのか!?圧倒的強さ!!強い強い強いぞKIRISHIMAー!!』
家族でワダツミの観光地区に旅行に行った時、たまたま試合をやってた。
今思えば何かに引き寄せられるみたいにわたしは駄々をこねて、スタジアムに連れて行ってもらった。
そこでわたしは、『ジェットバトル』に出会った。
キラキラの海を駆ける高速のマシン。それを手足のように操る選手に、水の弾丸が弾けるフィールド。
衝撃だった。
歓声を浴びる陽南監督、つまり『KIRISHIMA』は、一際輝いて見えて。
わたしは今までで一番の感動を覚えていた。
それで、実況の人が選手をドルフィンと呼んでいることに気付き。
『おかーさん!どるふぃん、ってなーに?』
『ドルフィンはね、イルカさん、って意味よ。』
『イルカさん!?...どる、ふぃん...いるか。...わたしだ!』
運命だと思った。
ジェットバトルのドルフィンこそ、わたしの求めてた輝きだって。
そう決めた瞬間だった。
そこからはもう、ジェットバトル一辺倒。
ドルフィンになる為に必要な勉強とか、UMIマシンの運転技術を調べたりして。
そんなことをしていたら、いつの間にか中学生になってた。
『おねぇ、おしゃれしないの?もう中学なんだから、そんないもいもじゃモテないよ?』
『うーん、また今度ね。』
妹から心配されるくらいジェットバトルにしか興味がなくて、年頃の女の子らしいおしゃれとか、まったく気にしてなかったと思う。
今思えばかなり恥ずかしい。
具体的には、まだ小学生の時の服を着てたり...。
や、やっぱりこの話はなしでっ!
...お友だちはいたけど、ジェットバトルをよく知らない子ばかり(きっとそれが普通)で、わたしの夢を理解してくれる人は誰もいなかったと思う。
お父さんもお母さんも、この時は流石にわたしを心配してた。
ドルフィンはスポーツ選手だし、安定してなれるものじゃなかったから。
わたしがみちるセンパイに出会ったのは、そんな寂しさに負けそうになっていた頃。
『あ、あの...!それ、ジェットバトルの本、ですよね...!?』
『え!?あ、そ...そう、だけど...。』
学校の中庭で、わたしも持ってる参考書を読む込んでいるのが見えて。
思わず声を掛けてしまった。
初対面で急に話し掛けてきたわたしに、みちるセンパイは最初は驚いてたけど、すぐに優しくお話してくれて。
『センパイは、ドルフィンになるんですか...?』
『ガンナーに興味があって。進路も色々考えていたんだけど、一回試しに受けてみることにしたの。』
『そうなんですね。ちなみに、どこの会社を...』
『霧島っていう会社なんだけど』
『KIRISHIMA!?』
『ひっ!?』
『あ、ごめんなさい!わたしも、KIRISHIMAのライダーにずっとなりたくて、だから!』
『...そうだったの。じゃあ、私たちは同じということになるわね。』
『同じ...?』
『一緒に霧島のドルフィンになりましょう。私がガンナーで、あなたがライダー。そうなったら素敵だと思わない?』
『!...はい...はい!わたし、絶対になります!』
『お互いがんばりましょうね。私は都条みちる。あなたは?』
『咲宮、入華です。入華って呼んでください!みちるセンパイ!』
クールで優しいわたしの大好きなセンパイ。
わたしの夢を認めてくれた、初めての人。
みちるセンパイがいたから、わたしは夢を諦めずにいられた。
それからしばらくして、みちるセンパイはKIRISHIMAに合格。
いち早く夢を叶えたセンパイに背中を押されて、わたしも本格的な勉強を開始。
教習所で免許を取得して、面接の勉強。
見た目も大事だからとみちるセンパイと妹に指導されて、今の髪型と服装に落ち着いたのもこの頃。
そうして高校生になり。
いよいよわたしは、KIRISHIMAのドルフィン採用試験を受験することになった。
ジェットバトルの知識を問われる筆記。
内面を見られる面接。そして、ライダーの実技試験。
全部緊張したけど、子どもの頃からの夢を叶える為に、全力で頑張れた。
『合、格...。』
結果は、合格。
わたしは泣いて喜んだし、家族もみんな同じように泣いてお祝いしてくれた。
その日は徹夜でみちるセンパイとお喋り。
これからのことをたくさん話して過ごした。
...今思えば、何となくセンパイの反応がぎこちなかったのは、その頃もう、KIRISHIMAの実情を知っていたからなのかもしれない。
そんなことも分からず、わたしは夢を叶えた、
その希望で胸をいっぱいにして、ワダツミに向かった。
そこでわたしに、三度目の運命の出会いが。
『私は大丈夫。君は平気?ケガはしてない?』
ぶつかってきたわたしを心配してくれる、優しい人。
最初の印象は美人で、カッコよくて。少し監督に似てるかなって思った。
その時はそれっきりの縁だと思ってたんだけど。
『彼女が今日からお前たちのコーチだ。』
監督から紹介された、さっきのお姉さん。
名前は地咲輪さん。
好きな食べ物は玉子焼きで、元プロのオートレーサー。
色々聞きたいことがあったけど、初日でテンションが高くなってたせいか、困り顔の輪さんも気にせず自己紹介をしちゃったっけ。
その後かなちゃんたちとの、初めてのジェットバトルがあって。
エクシールに乗れる幸せ、みちるセンパイと一緒に戦える幸せ。ジェットバトルが出来た幸せでいっぱいだった、あの時。あの瞬間は、一生忘れられない。
『やりました!初勝利ですよ、コーチ!』
『うん。二人共すごかったよ。』
初勝利にはしゃぐわたしを、
そう笑顔で褒めてくれたのが嬉しくて。
『夢の先を見続けられるように、一緒に頑張ろう。』
『あ...。は、はい。よろしくお願いします!』
わたしの夢を聞いても笑わず、認めてくれた初めての大人の人。
監督ともみちるセンパイとも違う、不思議な憧れみたいなものが、わたしの中に生まれた。
それからおしゃれとか、体重とか。
何か悩み事があれば、コーチに相談するようにして。
その度に真剣に、優しく応えてくれる輪さんが大好きになった。
輪さんは色んな人に好かれてて、みちるセンパイや紫苑ちゃん、それに颯ちゃんたちの相談事にも乗ってあげてることも知ってた。
輪さんと一緒に帰ろうとした時とか、お休みの日にお出かけに誘おうとした時とか、
そんな場面に出会すことが多くて。
邪魔しちゃいけないって、いつも気付かれないように離れてた。
ちょっと寂しかったけど、そんな大人気の輪さんがわたしのコーチなのが、すごく誇らしかった。
『そんなの、私嫌です!杏里さんだって、本当は嫌に決まってます!だから!だから私、新人戦優勝してみせます!勝って、杏里さんに。私たちはまだ終わってないって、そう伝えてあげたいんです!』
杏里さんとKIRISHIMAの実情を知ったからこそ、負けたくないと思った新人戦。
初めてのジェットバトル繋がりのお友達、桐利ちゃんと見波ちゃん。
あんまり話してくれないけど、本当は優しい紫苑ちゃんに、わたしを励ましてくれたヘリーさん。
みんなすごく強くて、そんなライバルをわたしたちは乗り越えていった。
あとひとつ。
あと一回勝てば優勝。
しかも相手はあのKAZAMI。
颯ちゃんとのバトル、絶対に楽しくなるってワクワクしてた。
そんな最高の気分で決勝を迎えようとしてた夕方。
『撤退なんて、しないですよ。入華たちが勝って、ここからKIRISHIMAが復活するんですから。』
輪さんと二人で話しながら帰ろうとか、もしかしたら褒めてくれるかもとか、考えるんじゃなかった。
わたしは輪さんと監督が必死に隠そうとしていた秘密を知ってしまった。
KIRISHIMAがなくなる。
わたしの、わたしたちの夢がなくなる。
なぜ、どうして。
がんばってるのに。これからなのに。
急に道がなくなって、どこまでも落ちていくような感覚。
耐えられなくなって、引き止める輪さんにも構わず逃げ出す。
そのままみちるセンパイにもそのことを伝えてしまって。
わたしたちが勝てばいい。
それはそうだけど、あれだけ望んで叶えた夢が、一瞬で消えるかもしれない。
そう考えるだけで、楽しみだった決勝戦が怖くて堪らなくなった。
初めてだった。ジェットバトルが嫌になったのは。
『やります、私。勝ちます、新人戦。勝って、私たちのKIRISHIMA、守りますからっ...!』
みちるセンパイはやっぱりすごい。
こんな状況でも前を向いて、勝とうとしてる。
なのにわたしは臆病で。
センパイの差し出した手を掴めずに、気付けば部屋を飛び出してた。
『好きって気持ちは夢が破れたくらいじゃ消えてくれないよ。』
偶然会った桐利ちゃんの言葉に勇気をもらった。
もしKIRISHIMAを失ったとしても、わたしの夢は消えてなくなるんじゃなくて、変わっていくんだって思えた。
負けたくない、これからもKIRISHIMAでいたい。その気持ちは変わらないけど、でも。
絶望することはないんだ。
そう考えたら気持ちがすごく楽になって。
桐利ちゃんにいっぱいありがとうを言って、いっぱいパフェを食べさせてもらった。
「がんばろう。コーチとセンパイ、みんなに謝って、明日は絶対に勝つんだ...!」
そう息巻いて夕凪寮に向かう。
空はすっかり暗くて、暑い夏でも風が吹くと涼しい。
坂の途中で、ふと海が見たくなった。
もう一度、小さい頃憧れた場所を確認しておきたくて。
『輪さんの話、聞かせて欲しい。』
あの日は本当に間が悪かった。
海岸に人影、輪さんと颯ちゃんだった。
思わず隠れて様子を窺う。
何で隠れちゃったんだろう、余計出ていきにくい...。
そう慌てていると、二人の会話が聞こえてきて。
内容が輪さんの『過去』だと分かった瞬間、頭が真っ白になった。
わたしがずっと聞きたかったこと。
聞きたくても、聞けなかったこと。
その壮絶さに、聞かなくてよかったとも思えた。
子どもの頃からの夢を失う。どれだけ辛いか、今のわたしには想像だけでどうにかなってしまいそうだった。
そんな過去を持つ人に、わたしは今まで何度夢を語っただろう。
何度笑顔で好きなものを伝えただろう。
輪さんはそれに何度、笑顔で応えてくれただろうか。
わたしは一体何度、輪さんを傷つけていたのだろうか。
わたしに話してくれるわけがなかった。
そんなことも分からない、子どものわたしには。
敵わないな、と思った。
颯ちゃんには、輪さんの『痛み』が分かるから。
でも、これからは違う。
わたしは知ってしまったから。
これからはきっと上手くやれる。
明日、試合に勝ったら今までのことを謝ろう。
もう傷つけたりしない。
だから、これからもわたしのコーチでいて欲しい。
わたしを好きになって欲しい。
輪さんも、KIRISHIMAも。
失ったりなんか...。
『輪さんに、コーチになって欲しい。』
『ありがとう。そう言ってもらえて、すごく嬉しいよ。』
「......え...?」
そこからの記憶は曖昧。
気付けば涙で顔をぐちゃぐちゃにして、自分の部屋で横になっていた。
覚えてるのは、ひたすら『捨てられた』と言ってくる自分と、『そんなはずない』と叫ぶ自分。
天使と悪魔が普通出てくるところだけど、二人の自分はどちらも涙でひどい顔をしてた。
一日で何もかもが変わって、もう頭も心もついていけない。めちゃくちゃだ。
泣いて、怒って。また泣いて。
最後に残ったのは、颯ちゃんにだけは負けたくないって気持ちだけだった。
すごく汚くて、ドロドロした感情が胸にあった。
それは朝になって、試合当日になっても変わらなかった。
みちるセンパイの声も、杏里さんの怒った声も。
全部フィルターがかかってるように、よく聞こえなくて。
輪さんの姿を見ると胸がズキッとして、話すことなんて出来なかった。
誰の声も届かない水の底に、ずっとひとりでいるような感覚。
『負けたら終わり。KIRISHIMAも。輪さんも。全部ぜーんぶなくなっちゃうよ?』
そんな自分の声だけが、ひたすら頭に響く。
決勝戦の前、みちるセンパイの手があたたかくて、一度は底から浮き上がれた気がした。
でも違った。
颯ちゃんの顔を見た瞬間、また水底に逆戻り。
気付いたら本当に体が水に沈んでた。
『コーチの昔の話、わたしも聞きたかった...!いつか話してくれるって思ってっ...!なのに...何で、颯ちゃんなんですかっ...!!』
『っ...!』
『わたしじゃ、ダメなんですかっ...!?わたしは弱いから...だから、信じてくれないんですかっ...!?』
輪さんは悪くない。
分かっていても抑えられなくて。
黒い気持ちを全部ぶつけて、わたしはまた逃げ出した。
これがわたしの夢が始まって、呆気なく終わるまでの話。
わたしが自分自身で、わたしの夢を殺してしまった話。
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あれから、何日が経ったんだろう。
暗い部屋の中にずっといて、ごはんも気付いた時に冷蔵庫から何かをつまむ程度。
不思議と食欲はなくて、こんな形でダイエットに成功するなんて思ってなかった。
エコチャやインターホンも、今はもう鳴ってない。
そういえば、KIRISHIMAの選手じゃなくなるんだから、この寮も出ていかなくちゃいけないんだ。
考えた側から、もうどうでもいいと思ってしまう。
ジェットバトルももう出来ない。
わたしの夢は消えないって思ってたけど、変わることもなく、自分でズタズタにして捨ててしまった。
いつまでこうしてるつもりなんだろう。
いつまでもこうしてるしかない。
もう、何もする気になれない。
ピンポーン。
恐らく数日前には鳴らなくなったインターホンが、再びわたしの耳に届いた。
今さら誰だろう。
みちるセンパイ?杏里さん?詩絵さん?それとも桐利ちゃんかな。
誰でも関係ない。だからこそ、もういいんじゃないかとも思った。
誰でもいい、「もう構わないで。」「ここからも、もういなくなるから。」「もうわたしは終わったから。」と伝えてしまおう。
その方がきっと楽だと思った。
よろけながら、ゆっくり玄関まで歩いていく。
インターホンはさっきの一度しか鳴らされてなかった。
鍵を開ける音が響く。
力なくドアを開けていく。
久しぶりで、より一層眩しいワダツミの太陽の下。
ドアの前に立っていたのは。
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◼️株式会社KIRISHIMA本社 第二会議室◼️
「お願いします!もう一度、もう一度彼女たちにチャンスを...!」
会議室に悲痛な女性の声が響く。
重役が着席する中、ひとり立ち上がり頭を下げる女性。
KIRISHIMAの、ジェットバトル部門撤退を決める最終会議。
実質的責任者である陽南監督は、会議とは名ばかりの、既に結論が出ている会議であるにも関わらず、上層部の決定に異を唱えた。
「彼女たちの可能性は見たはずです!まだまだ成長途中、再びKIRISHIMAがトップに立つ未来が、きっと来ます!ですから...!」
「陽南くん。君の気持ちはよく分かる。」
中心に座る、柔和な表情の男性が陽南監督の言葉を遮る。
「君のわが社への貢献は計り知れない。君が監督でいる以上、望みを捨てる必要はないと判断したから、ここまで待つことにしたんだ。しかし、結果は出た。会社というのは、希望があるからといつまでもそれを追い求めているわけにはいかない。切り捨てる、拾う。それは適切なタイミングでなければ、意味をなさないんだ。KIRISHIMAにとって、今やジェットバトル部門は経営を圧迫する存在でしかない。会社の為には、過去の栄光は捨てる必要がある。どうか、分かって欲しい。」
「それは重々承知しております。ですが、どうか...どうか後一度だけ...!」
男性の言うことが正しいのは理解している。だが、彼女はそれでも諦められなかった。
自分が駄々をこねているだけなのは分かっている。
だが新人戦で見せたあの二人の、あの輝き。
どれだけの恥を重ねようと、譲ってはいけないと心が叫んでいた。
「失礼します。」
バタン!と、勢いよく会議室の扉が開く。
その先にいたのは、監督によく似たスーツ姿の女性。
陽南監督は驚き、その後すぐに目元を鋭くする。
「杏里。ここは正式な会議の場だ。選手が立ち入る場所ではない。下がりなさい。」
「お言葉ですが監督。重々承知の上で参った次第です。」
監督によく似た女性、娘である陽南杏里は、母親の言葉にも動じず、ただ堂々と部屋に入っていく。
会議室はざわつくが、先ほどの男性は表情を崩さず、杏里へと視線を移していた。
「社長、ご無礼申し訳ございません。直にお話したいことがあり、こちらに伺わせて頂きました。」
「話したいこと。随分と急だが、用件は何かな?」
「はい。KIRISHIMAの、ジェットバトル部門撤退について、待って頂きたく存じます。」
杏里の言葉に、周囲は呆れた様子で息を吐く。
これでは本当に子どもの駄々ではないか。
そう思ったのだ。
「その話は、君のお母様である監督からも聞いているよ。しかしそれは出来ない。KIRISHIMAにはもう、ジェットバトルを続けるだけの利点はないんだ。」
「何故、でしょうか。社長は最後の判断材料として、新人戦優勝を条件としました。それは何故ですか。」
質問の意図を考えつつ、社長は理由を素直に話すことにする。
「ジェットバトルはやはり人気商売だからね。選手の実力、人気がそのまま利益に繋がる。君のお母様が活躍していた頃はスゴかった。私もファンだったしね。現状、それらは全て風見に独占されてしまっている。新人戦は業界でかなり注目された試みだった。この風見一強の中で、次代を担う新人が風見を下す。そうなれば、再びKIRISHIMAが台頭する火種になると考えたわけだ。結果は頑張ったが、敗北で終わったがね。」
社長の回答を予想していたのか、杏里は頷きこう切り返す。
「社長のお考えには賛同致します。新人戦は確かにチャンスでした。ですが、それを踏まえて提案致します。撤退のご判断は、早計かと。」
周囲がざわつき、社長に対して無礼ではないかと野次まで飛び始める。
だが、社長はやはり微動だにせず、杏里に先を促した。
「ほう、早計と。理由を聞こうか。」
「はい。まず一点目、例え新人戦で優勝したとしても、それは所詮ひよっこ同士の小競り合い。真の意味でKAZAMIを打倒したことにはなりません。」
「ならば、どうすれば打倒したことになる?」
「それが二点目です。ジェットバトルの本筋はアタッカー、ディフェンダーが揃ったチーム戦。そのチーム戦で、KAZAMIに勝利します。新人戦よりも、注目が集まる大会で。」
「それは、どの大会かな。」
「ワダツミ中央大会。イザナギ杯で、KIRISHIMAが優勝します。」
杏里の言葉に、今度は監督までざわつく。
「ワダツミで最も大きな大会。それに出場して優勝すれば、撤退をやめて欲しいと言うんだね?」
「そうです。」
「ふむ。それは現実的ではないな。チーム戦には4人の選手がいる。咲宮くん、都条くん。ブランクはあるが、彩戸くんしか今うちに選手はいないだろう?」
「...私が出ます。」
「杏里...?」
「...復帰します。私と、彩戸、都条。そして咲宮。これで4人です。」
杏里の復帰宣言。
先ほどからざわつきっ放しの会議室が、さらに賑やかになっていく。
「ほほう。だがそれにも問題があるぞ?申し込みは監督がすでにしていると考えても、大会まではもう二日しかない。ブランクがある君が勝てるほど、甘い大会ではないと思うが?」
「勝ちます...!」
杏里の強くなった語気に、部屋全体が静まり返る。
「新人戦、見ていたんでしょう。あの二人は負けはしたが準優勝。途中強敵を何度も下し、戦う度に成長していった。決勝はアタシに言わせれば、実力の半分も出せちゃいない。入華も、みちるも。あんなもんじゃ終わらないんだよ...!」
敬語も忘れて新人たちの可能性を語る杏里。
社長はその表情を厳しくし、語気を強めて返答する。
「君の話をしている。風見から、お母様から逃げ出した君が勝てるのかね?かつてのエースでは役不足だと言っている。私を、KIRISHIMAを期待させられるものが、今のお前にあるのか。」
「......確かにアタシは逃げた。KAZAMIから、母さんから、トシエからも。今だって、本当は逃げ出したくてたまらない。...だけどな。どれだけ逃げても、アタシの心からジェットバトルが、好きだって気持ちがいなくなってくれないんだ。それをあいつらが思い出させてくれた。無理かどうかなんて関係ない!アタシは、アタシたちはもう一度走らなくちゃいけないんだ!!」
「っ...。」
叫ぶ娘の姿に、帰ってきてくれた娘の姿に、陽南監督は思わず涙を浮かべてしまう。
理屈も常識もかなぐり捨てて、かつてのエースは『KIRISHIMA』に啖呵を切る。
もう一度走りたい、走らせろと。
「ごちゃごちゃ言ってねーでアタシらに全部賭けてみろ。ここにいる全員。あんたも、アタシのファンにしてやるよ!おっさん...!」
次回、第二部『イザナギカップ編』開幕。
KIRISHIMAの運命や、如何に。
このキャラがメインの話を見たいって子は誰ですか?
-
入華
-
みちる
-
杏里
-
詩絵
-
颯
-
エレン
-
氷織
-
シュネー
-
桐利
-
見波
-
乙姫
-
夕離
-
紫苑
-
ヘリー
-
セレナ
-
ヴィーナ
-
かな
-
由芽