ドルフィンウェーブTB   作:月想

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おまた!(軽)
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第6話『海津見学園-コーチと用務員、時々ボディーガード-』

「ふぅ...。」

 

我ながら惚れ惚れする。

素晴らしい輝きだ。

先ほどまで曇りに曇っていた窓が、なんということでしょう。

透き通り白い輝きを放っております。

おばあちゃんの知恵袋はやはり馬鹿に出来ない。

 

「わー、すっかり用務員が様になっちゃってんね、りんりん。いい顔しちゃってー。」

 

背後から聞こえる声の主は、制服姿の伊澄さんだった。

意外にもあまり着崩すことはなく、制服の体裁は保てている。

 

「あれ?授業はどうしたの?」

「ちょいちょい。ギャルファッションだけど不良娘じゃないって。さっき昼休みのチャイム鳴ってたっしょ。そんなに熱中してたん?」

「え?あ...。」

 

腕時計を確認すると、確かに時刻は12:30を過ぎていた。

廊下の窓掃除に集中し過ぎてしまっていたらしい。

 

「ランチまだっしょ?入華っちが捜してたから、早く食堂行こうよ。」

「入華が?何か用事かな...。」

「りんりんってば鈍感系主人公みたいでマジウケるんですけど。用がなくても一緒にいたい女心に決まってんじゃん。」

「私も女なんだけど...。」

 

私が女心を分からないとすると自己理解すら出来ないことに?

...くだらない考察は早々にやめ、バケツを手に一度用務員室に向かうことにする。

 

「食堂ね。先に行っててくれる?片付けちゃうから。」

「はいはーい。なる早でよろよろー。」

 

KIRISHIMAの会社員である私が何故この学校、『海津見学園』にいるのか。

その話は一週間前までに遡る。

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

「これで毎朝一緒に登校できますね、コーチ!」

「オフィスワークを想像してたのに...。」

 

ワダツミ観光、もといKIRISHIMAの実情確認となった土曜日を終え、日曜日は資料を用いての勉強会となった。

ジェットバトルの基本、ルール、ポイントなど。試合の様子を映像で見つつ入華たちに質問し、ジェットバトルの理解を深めた一日だった。

勉強会後、得た知識を元にトレーニングメニューを考えていたら、いつの間にか深夜を超え徹夜しかける程に熱中してしまっていた。

続く月曜日。

眠い目を擦り、それでも気合いを入れて出社した私。

その私を見て監督が一言。

 

「何故ここにいる?」

 

存在を否定されたのかと思った。

『!?』とあからさまに顔に出ていたであろう私を見るうちに思い出したのか

 

「そういえば言っていなかったか。」

 

と切り出した内容が『練習の時以外の勤務先が海津見学園という学校であり、そこで用務員として労働する』といったものだった。

ちょうど空きが出ていた為そうなったと言われたが、わけが分からなかった。

またしても言葉が出ない私の様子に得心がいったのか、監督が学園についての説明をしてくれた。

曰く。

『海津見学園』は中等部と高等部を兼ね備えたワダツミの有名学校である。

ジェットバトルの協会が運営に関わっている学園らしく、参加企業から数人は学園の業務に携わることとなっているそうだ。

カリキュラムも学生選手用のものがあり、ワダツミの学校である以上、ジェットバトルはやはり重要視されている様子。

 

まあ、つまり入華たちが通っているのだからそのコーチが働くのが妥当だろ?という安易な発想である。

よりによって用務員とは。 

業務内容は清掃と備品補充。

いや私じゃなくてもよくない?と思ったのがまたまた顔に出たのか、監督はクスりと笑い、話を結ぶ。

 

「まあ、君の本分はコーチングだ。その対象が学生なら、君も学校に行ってコミュニケーションを取った方が会社で座っているよりいいだろう?用務員はついでということで。」

 

と、いうわけで。

今私は入華と二人並んで海津見学園の職員室前に来ていた。

入華は転入初日、私は用務員としての初出勤の挨拶の為である。

 

「失礼します!」

 

扉を開くと授業中ということもあり、中にはほとんど人がいなかった。

ただ一人を除いて。

 

「こんな時間にお客さんとは珍しいね。......ああ、そう言えば今日だったか。すっかり失念していたよ。」

 

白衣に短パン、ベレー帽の少女。

髪は銀髪で恐らく外国人だろう。

およそ職員室らしい要素が見当たらない少女が一人、カップを手にして寛いでいた。

 

「......迷子?」

「学校で?」

「君たち。容姿が幼いのは認めるが、せめて学生と間違えてくれないか?」

 

眉をひくつかせて少女が抗議してくる。

つまり迷子でも学生でもないらしい。

 

「ボクはシュネー・ヴァイスベルグ。この学園のれっきとした講師だ。」

「先生なの!?」

「もっとも、君たちの見込み通り、年齢は学生たちと同じくらいだけどね。」

「もしかして、飛び級ってこと...?」

「ああ。大学は既に卒業済だよ。」

 

本当にあるんだな、飛び級なんて。

つまりこのシュネー先生は高校生の年齢(16くらいかな?もっと低くても違和感ないけど)にして学園の講師まで勤める天才少女ということだ。

すごい。初めて会った。サインもらった方がいいかな?

 

「KIRISHIMAのサキミヤイルカくんと、コーチのチサキリンくんだね。話は講師として聞いているよ。タイミング的に、ボクが学園を案内すべきだろうね。ついてきてもらえるかい?」

「は、はい。」

「コーチコーチ、本当に先生なんですかね?小さくてすっごく可愛いのに。」

「そういうのは聞こえないように言ってくれないかな?」

 

未だに信じられないらしい入華を睨みつつ、シュネー先生は私たちに学園を案内してくれた。

主要な教室に食堂、体育館。

最後にこれから私がお世話になる用務員室だ。

 

「ここがこれから君の専用部屋になる用務員室だ。最低限の設備はあるから、オフィスとしても使えると思うよ。」

「ありがとうございます。」

「名前とは裏腹に意外とキレイなお部屋ですね!遊びに来てもいいですか?」

「クラスの教室があるでしょ?」

 

用務員室が学生の溜まり場になる未来が見えた。

当たり前のように伊澄さんとかいそうだ。

 

「案内はこれくらいかな。イルカくんの入学手続きは済んでいるから、今日のところは帰宅してくれて構わないよ。リンくんはこの後業務の説明だけさせて欲しい。それが終わったら、今日は自由にしてもらって構わない。」

「今日は案内ありがとう、シュネちゃん!」

「入華、シュネー先生だから。ね?」

「あはは...。まあ、好きに呼んでくれて構わないよ。」

 

フレンドリーなのはいいが大人としては冷や冷やしてしまう。

みちるはいつもこんな気持ちだったりするのだろうか?

 

そんなこんなで、入華はみちるに挨拶してから帰宅することになり。

私はシュネー先生から用務員の仕事内容を教えてもらうこととなった。

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

業務説明を受け終わり、シュネー先生と別れこの後の予定を考える。

業務は明日からでいいらしいし、今日は早く練習メニューを完成させたい。

午後の時間を使えば何とかなるかな。

そんなことを考え用務員室に戻っていると。

 

「はい。大丈夫です。今から向かいますから。」

 

一人の生徒が通話しながら廊下を歩いているのが見えた。

 

「おかしいな。まだ授業中の時間なんだけど。」

 

先ほど聞いた時間割的にまだ昼休みには早い。体調が悪くて早退とか?

にしては元気そうだが。

 

学園に関わる大人としては、無視してはいけない気がする。

先生じゃないし、あまり気は進まないが、勇気を出して話掛けてみることにした。

 

「あの、そこの君。」

「え?」

 

よく見ると、見覚えがある女の子だ。

黒髪にモデルみたいなスタイル。

ちょっと機嫌の悪そうな目。

 

「誰、って...。あんた...あの時の!」

「あの時...?」

 

少女が驚いて声を上げる。

ここ数日色々あったせいで記憶が...。

 

「......は?まさか、覚えてないわけ?」

「...。」

「......あっそ。あんたからして見れば日常茶飯事ってわけ。今だって私がサボってるんじゃないかって思って、声掛けてきたんでしょ。お節介好きだよね、本当。」

「お節介...。......あれ?もしかして、絡まれてた女の子?」

 

私の言葉にため息を吐いて頷く少女。

そうか、ここの生徒だったんだ。

少女は不機嫌そうに腕を組んでこちらを睨んでくる。

 

「何であんたがここにいるわけ?先生だったってこと?」

「先生ではないんだけど。一応用務員というか、何というか。」

「用務員…?用務員の分際で生徒指導しようとしたっての?」

「分際って...。違うよ、授業中に何で外にいるのか気になっただけ。」

 

さっきからやたら攻撃的だな。

元から機嫌が悪かったのか、覚えてなかったのが気に入らなかったのか。

 

「はぁ。......授業はサボってない。仕事なの、これから。許可は取ってる。疑うなら先生に聞けば?」

「仕事?」

「そ、仕事。内容を言う義務も義理もないでしょ?じゃ、急ぐから。」

 

そう言うとそそくさと通り過ぎて行ってしまう。

仕事って何の仕事だろう?

学校が許可するなんて、実は芸能系の有名人だったりするんだろうか?

とりあえず、不機嫌にしてしまったようだ。

今度会ったら謝らないと。

 

「......あ、名前聞いてないや。」

 

見えなくなる背中に、今度はちゃんと覚えておこうと誓うのであった。

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

時刻は15:30。

スミノエさん(後から思い出した)に出鼻を挫かれ、昼休みを終えてから、用務員の備品等を確認。

その後練習メニューを考えていたら、あっという間に放課後となっていた。

今日はまだ練習もないので帰宅しようかと廊下を歩いていると、見知った顔が集まっているのが見えた。

 

「お、りんりんじゃん。一昨日振りだねー。」

「伊澄さん。やっぱりここの生徒だったんだ。」

 

ちょりーす!シャンシャンじゃん、元気?☆

...とは流石に言えず。

やっぱりいた学生服姿の伊澄さんに普通の挨拶をする。

 

「コーチ、お疲れ様です。」

「お疲れ様、みちる。学校で会うことになるとは思ってなかったけど。」

「そう、ですね。...学校でもクールですね、コーチ。」

「クール?」

 

よく分からないが、とりあえず伊澄さんと話ていたらしいみちる。

知り合いというのは本当だったわけだ。

 

「そだ。りんりんも一緒に行こ。今日練習ないんだよね?なら暇っしょ?」

「暇...。一応社会人なんだけど。行くって、どこに?」

「これからアパレルブランドの...一昨日入華とコーチが行ったGalateaで、モデルさんのイベントがあるんですよ。」

「Galateaって、ルイスさんの?」

「そだよー。ちょい待ち、えーっとね...。」

 

何やら検索しているのか、慣れた手つきでスマホを操作する伊澄さん。

それを不思議な顔で見ているみちるが何となく気になるが...。

 

「ほら、この人!ワダツミじゃめっちゃ人気の有名モデルなんだよ?」

「......SHION...しおん?」

 

見せてもらった写真にはSHIONの文字と共にモデルさんが一人写っていた。

染めた茶髪に出るとこが出たモデル体型。

クールな表情とGalateaのポップな衣装がお互いを引き立たせている。

 

「クールでカッコいいんですよ、SHIONさん!」

「へー、綺麗な人だね。ファンなの?」

「もち!ワダツミの女子高生は皆好きと言っても過言じゃないっしょ。」

 

伊澄さんはともかく、みちるもこういうの好きなんだ。

 

「コーチも一緒にどうですか?入華にはもう連絡したので。」

「ま、まあ、今日なら行けなくもないけど...。」

「じゃあ決まり!ほら、早く行って並ばなくちゃ!」

「あ、ちょっと!引っ張らないで...。」

 

伊澄さんに腕をロックされ、連行される私。

若い子の人気モデルのイベントなんて、私が行くと浮いちゃうと思うんだけどなぁ。

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

伊澄さんに引っ張られて数十分。

一昨日振りに訪れたGalatea前には、既に行列が出来ていた。

 

「あ、コーチ!ここでーす!入華でーす!」

「あそこか。みちる、回収。」

「は、はい。い、入華ー!?」

 

行列に押し流されている入華をみちるに回収に向かわせるが、みちるはみちるで流されかけている。

ふむ、人選ミスだったか。

 

「入華っちはあそこで、えーっと...。あ、いたいた。りんりん、ちょっとここで待っててね。」

「え?あ、うん。」

 

伊澄さんも救助に向かうのだろうか。

人集りに突入していき、1、2分で何かを引っ張って戻ってきた。

何かって言うか、誰...?

 

「き、桐利!?何でここに...!?」

「そりゃいるっしょ。あたしもGalatea好きだし。見波こそ、何でここにいるのかなー?」

「そ、それは...!」

 

全身黒っぽい服装に、一筋紫に染めた髪が印象的な女の子。

ビジュアル系?なのかな。

ロックとか好きそうなファッションだ。

 

「りんりんお待たせー。これ、あたしの相方の見波。ワダツミ最強コンビになる予定なんで、よろよろー。」

「相方...お笑い芸人?」

「違います!...じゃなくて。クックックッ。否。我は鋼の魔獣を駆り、大海を制する者なり。」

「...?」

 

何だか急によく分からないことを言い出したぞ?

隣の伊澄さんが笑いを我慢しているのが見える。

 

「教えてやろう。我こそが煉獄の操者と契りを交わしし闇の使徒。黒瀬見波、人は我に畏敬と畏怖を込め、ダークウェーブと呼ぶ。クックックッ。貴様も我が同胞となりたいのか?」

「は、はぁ...?」

 

恐らく自己紹介なのだろうが、雑音が入り過ぎている。

黒瀬さんのこの感じ。まさか彼女は...。

 

「桐利ちゃんのパートナーで、ライダーの方なんですね!私、KIRISHIMAのライダーの咲宮入華です!仲良くして下さい!」

「わっ、びっくりした。いつの間に、って...入華?黒瀬さんの言葉が分かるの?」

「コーチは分からないんですか?」

 

そんな不思議そうに見詰められても。

コミュ力が極まると思春期特有の持病ですら意に介さないとでも言うのだろうか。

 

「あはは!面白いっしょ、うちの見波。今時珍しい邪気眼タイプの......って誰が煉獄だ!燃えたくて燃えてるんじゃないっての!」

「クックックッ。何を言う桐利よ。先日も自ら明らかな種火を投下していたではないか。」

「あれはデビュー前にKIRISHIMAのニューフェイスを見せてあげようと思っただけで...。」

 

所謂中二病というやつだろうが、見た感じ普通にいい子みたいだ。

崩れ落ちているみちるを支え、立ち上がらせる。

 

「笑い方も、クールに...。」

 

見波さんを見て何か考えているらしい。

行列を改めて見ると、漸く列整理が始まったようだ。

 

「急いで並んだ方がいいんじゃないかな?」

「あ、やば!見波が変なこと言うから!」

「桐利が無理矢理引っ張って来るからでしょう!」

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

『ハーイみんな!今日は私たちのイベントに集まってくれてありがとう!Galateaのチーフデザイナー、ヘリー・ルイスよ!』

 

ルイスさんの挨拶に一斉に歓声が湧く。

モデルだけではなく、デザイナーまで大人気らしい。

列に並びつつ、遠くに見えるルイスさんの開会宣言を聞いている。

入華なんかは手を振って呼び掛けているが、やっぱりこないだのことでルイスさんに懐いたのだろう。

 

『今日はうちの一押しモデル。SHIONのファンイベントになるわ。それじゃあ、行くわよ?主役の登場です!』

 

カーテンが開くと同時に、また大きな歓声が上がる。

後ろ過ぎてよく見えないが、話の流れ的にモデルさんが登場したのだろう。

 

『さあ、SHION。ファンの皆に一言あるわよね?』

『......どうも。』

『...それだけ?』

『...。』

『あ、あはは。』

 

今のやり取りのどこに興奮したのか分からないが

「すてきー!」とか

「カッコいいー!」とか

黄色い歓声がまたまた上がっていた。

訓練されたファンしかいないのだろうか?

余計にここにいるのが気まずい。

 

『ちゃ、ちゃんとSHIONもみんなに会えて喜んでるのよ!気を取り直して、今日はSHIONとの握手会になるわ!みんな楽しんでいってね!』

 

すかさずフォローを入れるルイスさん。

カリスマキャラだと思っていたけど、結構苦労人なのかもしれない。

握手会が始まり、漸く列が消化されていく。

やっぱり抜けるか迷っているうちにいつの間にか私の番が回って来そうになる。

ルイスさんがこちらに気づいたのか、こっちを見て笑っている。

何だか恥ずかしい...。

入華が先に終え、ついに私の番。

こういうイベントは初めてだから、緊張しつつSHIONさんと向き合う。

今日はトレーニングウェアの宣伝なのだろうか、オシャレ着じゃなくてユニフォームのような物を着ている。

テンション低めのSHIONさんがこちらを見た途端、驚いたように目を見開いた。

 

「嘘、何でここに...!」

「?こ、こんにちは?」

 

手を差し出すと握手してくれるが、さっきまでのクールはどこへやら、何かに動揺してるらしい。

...あれ?何だかこの眼というか、顔に覚えがあるような。

 

「...スミノエさん?」

「!?つ、次!」

 

SHIONさんが促したことで強制的に握手は終了、移動させられてしまった。

ルイスさんが不思議そうに眺めていたけど、その後悪そうな笑顔になっていたのが気になった。

髪型は違うけど、あの反応といい間違いない。

仕事って、そういうことか。

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

握手会を終え、またみんなと合流する。

各々感想を言い合っているが、頭の中はSHIONさん、もといスミノエさんのことで一杯だ。

......別にファンになったわけじゃなくて。

正体を隠してるのかとか、バレたらまずいのかとか、次会った時気まずいなとかである。

あの髪はウィッグなのだろうか。

 

「コーチ?どうしました?」

「あ、いや。何でもないよ。」

 

考えても仕方ない。

今日のところは忘れて、早く帰って練習メニューの作成をしなくては。

 

「クールでしたね、SHIONさん。」

「みちるセンパイはあのモデルさんが本当に好きなんですね!」

「年近そうなのにあの大人雰囲気は何なんだろうね。芸能人オーラ?」

「クックックッ。我が盟友もある一点では名を売る者として勝っているではないか。」

「誰が炎上芸人だ!」

 

何だか盛り上がって、いつまでも話していそうな雰囲気だ。

申し訳ないけど先に帰らせてもら...

 

「待って...!」

「!?...スミノエさん?」

 

呼び止められたと思ったら、その声の主は入華たちではなく件のスミノエさんだった。

制服姿で髪は黒髪に戻っている。

 

「ちょっと、こっち来て...!」

「へ?あの...!」

 

必死の形相で腕を掴まれ、引っ張られてしまう。

奇しくもこの前とは逆だな、などと考えていたら裏路地の方までやって来てしまった。

遠くから入華の私を呼ぶ声が聞こえる。

 

「...何で分かったわけ?」

「...何の話?」

「そういうの、いいから。てか何で名前知ってんの?」

「...前送った時に、表札に名前が。」

「...まあ、そっか。確かに。案外目敏いんだね、あんた。」

 

段々落ち着いて来たらしいスミノエさん(認定)の様子を見て、こっちからも話を聞いてみようとする。

 

「モデルのこと、秘密なの?」

「一般の人にはね。親にはちゃんと説明してるし。こういうの、バレると色々面倒だから。」

「そう、だよね。」

 

芸能人が身バレして日常生活を穏やかに送れなくなる話はよく聞く。

そういうリスクを考え、モデルであることを隠しているのだろう。

 

「何か、ごめん...。」

「何で謝るわけ?別に、私が油断してたせいだし...。責めたくて連れてきたわけじゃなくて。」

 

気まずそうに頭を抑えている。

何だか今日この子にずっとストレスしか与えてない気がする。

 

「とにかく、私がSHIONだってことは絶対に秘密にして欲しいの。もしバレたら仕事とか学校とか。色々ダメになるかもだし。」

「う、うん。分かった。」

「もしバラしたりしたら許さないからね。」

「は、はい...。」

 

すごい圧だ...。とても年下とは思えない。

あのナンパも本当は一人で何とか出来たのではないだろうか。

 

「話はまとまったかしら?」

「ヘリーさん!?」

 

いつからいたのだろうか、いつの間にか後ろにいたルイスさんにスミノエさんが驚きの声を上げる。

 

「裏路地とは言え人が通る可能性はゼロじゃないのよ?秘密の話をするなら場所くらい用意してあげるのに。」

「それは、あの...。ごめんなさい...。」

「ふふっ、素直でよろしい。じゃあ、続きはお店の方でしましょうか。

リンさんも、いいわね?」

「は、はい。...続き?」

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

「ボディーガード...?」

「そう!ボディーガードというより付き添い人って感じかしら。紫苑が下校する時に家まで送って欲しいの。」

「何もそこまでしなくても...。」

「こないだもあなた絡まれたんでしょ?仕事の時は私がいるからいいけど...。

一流デザイナーとして、私には大切な一押しモデルの安全を守る義務があるの。」

 

Galateaの控え室、というかルイスさんの部屋に招かれ聞かされた話がこれだ。

ボディーガードって...。

私よりちゃんとした人を雇った方がいいのでは?

 

「私じゃなくても、って顔してるわね。残念かもしれないけど、あなた以上の適任はいないの。」

「...私の仕事のこと知ってるの、ヘリーさんと母さん、後あんただけだから。」

「そう、なんだ...。」

「それに、もうすでに実績もあるんでしょう?」

 

あれは運が良かった方で、もしかしたらもっと危ないことになってたかもしれないし。

だけど、こないだのナンパがよくあることだとすると放ってはおけないんだよね...。

うーん。

 

「ね?お願い!都合が付く時だけでいいし、お礼もするから!」

「...分かりました。ただし、本当に都合が付く時だけですし、スミノエさんの安全をちゃんと確保する方法が見つかるまでですからね。」

「やった!よろしくお願いするわね、リン!」

 

いつの間にか呼び捨てになってるし...。

我ながら安請け合いが過ぎるが、この場合首を突っ込んでしまった私が悪い。

せめていい方法が見つかるまで責任を果たすことにしよう。

 

「ほら、紫苑もちゃんと挨拶しなさい。」

「成り行きだけど、よろしくね。スミノエさん。」

「...紫苑でいい。」

「え?」

「住乃絵紫苑。名前。」

 

またまた気まずそうに、というか恥ずかしそうに、そっぽを向きながらの自己紹介だった。

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

「はぁ。ボディーガードかぁ...。」

 

コーチなのになぜ、コーチング開始前に用務員だのボディーガードだの、よく分からない肩書きが立て続けに増えるのか。

ここ最近一日一日が濃すぎる。

今日も今日とて疲れた。

入華たちは先に帰したし、今日はもう帰ろう、スーパーに寄ってお惣菜で済まそうか。などと考えながら歩き、目的地のスーパーに到着したところ。

何か鋭い視線を感じた。

人間、余計な時ほど勘が働くものである。

気配を追うとスーパー前の、カプセルコーナーが目に入った。

所謂ガチャポンというやつである。

その一角に一人、似つかわしくない雰囲気を纏った女性がいるのが見える。

青白い綺麗なロングヘアー。

赤く煌めく双眸が、確かにこちらを鋭く射抜いていた。

 

「あ...ど、どうも...。」

「...待っていましたよ、チサキリン。」

 

待っていたっていつから?というか何で?というか何でガチャポン前?

これ以上関わったらまずい気がするが、当然無視も出来ず、仕方なくナユキさんに近づいていく。

よく見ると人気なのか、ガチャポンの一山がみんな同じ種類のもので構成されていた。

 

「フェニックス、フェニ夫...?ストラップ。」

 

名前も然ることながら見た目もパイナップルなのか怪獣なのか、モチーフすら判然としないマスコットキャラがそこには描かれていた。

全30種類。様々なフェニ夫を集めて友達に自慢しちゃおう!だそうだ。

誰に自慢出来ると言うのか。引かれるでしょ、流石に。

ナユキさんの手にはカプセルがすでにあり、あの特徴的なパイナップル頭が透けて見えていた。

...好き、なのだろうか...?

 

「...。」

 

無言でこちらを見ながら、カプセル台の前を空けるように一歩下がるナユキさん。

 

「...まさか、私にも引けと?」

「...。」

 

コクリ、と頷いて応えられた。

いや、なぜ?ホワイ?

意味が分からずカプセル台とナユキさんを交互に見るが一向に視線を逸らしてくれない。

 

仕方なく財布を取り出し、中から100円玉を三枚見繕う。

何気に300円とは強気な。

私の子どもの時はガチャポンと言えば100円が相場で、と心で愚痴愚痴しつつお金を投入。

お馴染みのガチャッという音に懐かしさを感じ回し切ると、カプセルが1つ落ちてきた。

 

「...どれだ?これ。」

 

中身を確認するとナユキさんのフェニ夫とは違う、全身メタリックな色をした謎のフェニ夫が出てきた。

一覧を見てみるが、同じ見た目のものは写っていない気がする。

変だなと思っていると、カプセルが地面に落下する音が聞こえた。

落としたのはナユキさんだ。

 

「ば、ばかな...。それは、幻の...メタリックフェニ夫...!」

「メタリック...?」

「全30種類と言いつつ実は5boxに1つの割合で入っているという、シークレットレア...!」

「へ、へー...。」

 

ナユキさんの表情を見て察した。

また、やってしまったらしい。

 

「またしても、貴女は私から勝利を...!」

「あ、あの!欲しいならこれあげるから元気を...。」

「情けは不要です!...チサキリン。次こそ私が。必ず、絶対的な勝利を!」

 

言うや否や駆け出していってしまった。

勝負だったんだ、これ。

ナユキさんの忘れたフェニ夫を拾いつつ、手元のメタリックフェニ夫を眺める。

 

「変わったところだよね、ワダツミ...。」

 

次から次に起こる予想外の出来事に、本当にやっていけるのか心底不安になる輪なのであった。




日常回は楽()
キャラ紹介を兼ねるパートが今です。
後二話くらいすればスポ根らしくなる、はず。

このキャラがメインの話を見たいって子は誰ですか?

  • 入華
  • みちる
  • 杏里
  • 詩絵
  • エレン
  • 氷織
  • シュネー
  • 桐利
  • 見波
  • 乙姫
  • 夕離
  • 紫苑
  • ヘリー
  • セレナ
  • ヴィーナ
  • かな
  • 由芽
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