改めてジェットバトルのルールを見直しました。
1話から修正しているので、違和感がある方はそちらも合わせて確認お願いします←
ルールまとめたものを投稿予定になります。
「まーたーまーけーたー!!くやしーー!!」
私がKIRISHIMAのコーチになってから、1ヶ月が経過した。
コーチ業にしても、用務員業にしても、それなりに馴染んできたと思う。ついでにボディーガードという名の送迎係も。
入華たちはトレーニングと浦見の協力(?)もあり、メキメキ上達している。
しかし、何か足りない気がする。
私自身、この1ヶ月でジェットバトルに触れ、学んできた。
もうまったくの素人ではない。
知識量としては選手に及ばないが、元プロ選手としての感覚が何かを訴えている。
「輪ちゃん、お疲れさま~。」
考え込んでいると、試合を終え水に濡れた由芽が一足先に戻って来ていた。
「お疲れ様、由芽。今日もありがとね。」
「いいえ~。お嬢がKIRISHIMAに行きたいって、自分から言ってますから。」
「その割にめちゃくちゃ悔しがってたけど。」
由芽とは何だかんだ毎週末に飲むようになり、今では呼び捨て、敬語なしで話す友達となっていた。
お互いに知り合いでは唯一の同い年だし、打ち解けるのに時間は掛からなかった。
「お嬢、輪ちゃんがくれるお菓子を毎回楽しみにしてるんだよ?」
「気に入って貰えたなら嬉しいよ。作るのは簡単なんだけどね。」
試みに作ってみたクッキーを気に入ってくれたらしい。
かなちゃんには毎回練習に協力してもらってるし、もう少し気合いを入れたものを用意すべきか。
「こらー!由芽!KIRISHIMAとなに仲良くしてるのよ!」
「かなちゃん、お疲れ様。これ、いつものお礼ね。」
「やったー!おいしいからもらってやるわ!」
素直で可愛い。これは由芽がどんなにわがままを言われても従ってしまう気持ちが分かる。
「いつもありがとう。」
「かな様の頭をなでるなんて生意気よー。」
言葉とは裏腹に笑顔のかなちゃん。
癒される。
母性本能が刺激される。
「コーチ~!」
試合を終えた入華とみちる、付き添いの詩絵も戻ってきた。
一試合終えてもまだまだ元気そうだ。
「あ!かなちゃんいいなぁ。1つちょうだい?」
「ダメー!これは私がもらったやつなんだからー!」
入華たちともそれなりに打ち解け、試合後すぐに帰ってしまうこともなくなっていた。
「詩絵、ちょっと相談があるんだけど。」
「相談?ええけど...。」
楽しそうに会話する入華たちはそのままに、私は予てよりの違和感について、詩絵に相談することにした。
「入華とみちる、何かが足りない気がするんだ。」
「足りない?」
「うん。何か違和感があるんだ。実力は向上しているとは思うんだけど。」
「......二人共まだ新人やし、足りないもんだらけやとは思うっちゃが...。」
「それは、まあ...。そうなんだけどね...。」
言葉に詰まる私を見て、詩絵は少し思案した後何かを思い付いたように手を叩いた。
「遠征なんてどんげね?」
「遠征?......どこかに練習しに行くってこと?」
「練習試合を申し込むとよ。浦見の二人以外と試合してみれば、具体的な問題点が見つかるかもしれんとよ?」
「なるほど。でも、そんな簡単に試合させてくれるとこなんてあるの?」
チームの実力とか、マシンの性能とか。
敵情視察と思われるんじゃないだろうか?
「そこは心配せんでもええっちゃが。昔からのお得意様がおるかいね。」
「それって、私の知ってるところ?」
私の疑問に自信満々に答える詩絵。
意外というか、盲点というか。
確かにあそこなら、お願いを聞いてくれるかもしれない。
―――――――――――――――――――――――――――――
◼️□その週・土曜日◼️□
「コーチ、みちるセンパイ!ついに来ましたね!!」
「ここが、伊澄さんの。」
「日向重工...。」
そう。
詩絵の言っていた練習相手とは、あのギャルタイフーンこと伊澄桐利の所属する老舗。
『日向重工』であった。
詩絵が連絡したところ二つ返事でOKをもらえたようで、その週末に早速試合をすることとなったのだ。
来ているのは私と入華、みちるだけ。
詩絵に関してはお留守番となっている。
昨夜まで試合に向けてマシンのメンテなんかをやってくれていたらしく、少々お疲れのようだった。
世話好きなのはいいのだが、こちらとしては頑張り過ぎないか心配になってしまう。
今度何かしらお礼をしなければ。
「意外と地味な感じですね!」
「入華、そんな大きな声で...。」
「日向の人の前では言わないようにね...。」
取引先に悪印象を持たれたら大変だ。
きっとみんなが監督に叱られる。
怖いんだからあの人。本気出すと。
「あの、コーチ...。」
「どうしたの?」
みちるが何やらモジモジしながら耳打ちしてくる。
......要約すると。緊張したらお花を摘みに行きたくなった。
入華に聞かれたらクールなセンパイのイメージが崩れる、だそうだ。
昭和のアイドルかな?
「入華、みちる。先にお手洗いとか済ませておきなさい。ご挨拶は先に私が済ませておくから。」
「お手洗いですか?でも私、そんなには...。」
「聞いたでしょ入華!準備は念入りにしないと!何しろ初めての遠征なのだから!」
「え、あ!?こ、コーチ~!またのちほど~!?」
ズルズル入華を引き摺り、すごい勢いでロビーへ向かって行くみちる。
あの姿もクールかどうか非常に怪しいと思うが。みちるに待ち合わせ場所は伝えてあるが、ちゃんと覚えているか心配だ。
気を取り直して、待ち合わせ場所に独り向かうことにする。
会社のフロントでもいいが、分かるようなら敷地内の道場に来て欲しいとのこと。
敷地に道場があるなんて、また古風な。
まるで警察署みたいだ。
「.....あった。」
本当にあった。
奥まった木に囲まれたスペースに、隠れるようにその建物はあった。
なかなか立派な道場だ。
『刃兼流』と書かれた看板が立て掛けられている。
何の武道だろう?刃と書かれているからには刀関係だろうか。
想像しながら道場に近づく。
「ふっ...!はっ...!」
「甘いぞ...!」
何やら気合いの入った声が聞こえる。
練習中かな、と中を覗いてみると。
「そこだ...!」
「うぐっ...!?」
女性が女性を畳に叩きつけていた。
突然のバイオレンス。
倒された方の女性が苦しそうに息を吐き出す。
私はヤバいところに来てしまったのではないか?
そう不安になったところで、今度は倒した方の女性と目が合ってしまう。
「見学者か...?」
「すみませんでした。」
90℃のお辞儀を済ませ綺麗に反転、その場を立ち去ろうとするが。
「......ちさき、りん...?」
「へ?」
名前を呼ばれ振り返ってみると、先ほどの倒された女性には見覚えがあった。
長い髪に宝石のような瞳。
くじ引きパンとフェニ夫ガチャでお馴染み、ナユキヒオリ(漢字不明)さんだ。
よく見れば格好までいつも通りである。
「知り合いか?」
「私の勝利を阻む、ライバルです。」
「ほう。お前がそこまで見込む御仁とはな。」
「は、え...?」
状況が掴めない。
何故ナユキさんがいるのか。
何故ライバル呼ばわりなのか。
何故私服のままなのか。
というか、黒髪ロングの道着姿がよく似合うこの人。
何故そんな面白そうにこちらを見るのか。
何か勘違いしてませんか?
「......そういえば、そろそろKIRISHIMAとの約束の時間だな。ということは、彼女が例の新人コーチか?」
「!......KIRISHIMAの、コーチ...。」
混乱する私を尻目に、二人は何やら納得したように頷いている。
「地咲輪殿とお見受けする。本日はよくいらっしゃいました。......それでは、早速お手合わせ願いましょうか。」
......終わった。
さようなら、入華、みちる。
―――――――――――――――――――――――――――――
◼️□刃兼道場内◼️□
「はぁ。びっくりした...。」
「申し訳ございません、怖がらせるつもりはなかったのですが。」
死を覚悟して青ざめた、私の姿に漸く違和感を感じたのか、道着を着た女性、『刃兼さん』は事情を説明してくれた。
刃兼さんは詩絵が連絡をしていた、まさにその人であり、日向重工のキャプテンだ。
先ほどの『お手合わせ』とは練習試合のことであり、KIRISHIMAに向かって言ったつもりだったとか。
ちなみにここの道場は刃兼さんが師範を務めており、ナユキさんは所謂道場破りとのこと。
一度負かしたらそれ以来何度も勝負を挑まれるようになり、先ほどのように毎回相手をしているのだとか。
......この人見境がないな。
まさか私以外にも勝負を吹っ掛ける相手がいるとは。どれだけ勝負にこだわっているのか。
「この敗北は無駄にはしません。次こそ、私が勝利を手にします。」
「うむ。その意気やよし。確かに腕は上がっているようだが、まだ勝たせてやるわけにはいかないな。」
鋭い視線を交差させる二人。
迫力が尋常じゃない、たぶんかなちゃんなら泣いてる。
「......今日は失礼します。お手合わせありがとうございました。」
綺麗に座り礼を刃兼さんにしたと思えば、すぐに立ち上がり立ち去っていこうとする。
「待て永雪。これからKIRISHIMAと練習試合を...。」
「結構です。今のKIRISHIMAに、興味はありません。」
KIRISHIMAを知ってる?
興味ないって...。
「...チサキリン。全ては、あなた次第です。」
「私、次第...?」
「決着はいずれ必ず。今日はその時ではない、ということです。」
それだけ言って、今度こそ本当に立ち去ってしまう。
その後ろ姿には、確かな強さと威厳が見えていて。
「決着...。......まさかっ!今度はステゴロで挑んでくるつもりじゃ...!?」
ナユキさんの鋭い瞳を思い出して体が震え出す。
やはり私は生い先短いのかもしれない。
助けて、お母さん...。
―――――――――――――――――――――――――――――
◼️□side.みちる◼️□
「ふぅ...。よかった、間に合って。」
これから初めての遠征だと思ったら、急に緊張してきてしまった。
緊張してトイレに行きたくなるなんて...。
まるで子どもだ。
クールなセンパイはそんなことしないのに。
コーチのおかげで何とか誤魔化せたけど、入華が知ったら幻滅しちゃうかも。
手を洗いながら、心の中で反省する。
コーチに相談に乗ってもらって、少しはマシになったと思ったのに。
時々成長出来ているのか不安になる。
入華はどんどん上達してる。
きっと、いずれは杏里さんとだって渡り合えるようになる。
そんな入華の相棒として、先輩として。
私は本当にふさわしいんだろうか。
「......はぁ。気落ちしてる場合じゃないよね。」
今は考えても仕方ない。
試合に集中しないと。
外で入華が待っていると思い、ハンカチで手を拭きながら出てみると。
「お待たせ...って。......入華?」
待っているはずの入華がいない。
辺りを見回すが、どこにも見当たらない。
まさか、迷子になったのかな?
好奇心旺盛な入華なら、どこかに勝手に進んでしまってもおかしくない。
どうしよう。
今日は土曜日で日向重工の社内には誰もいない。
部外者が社内でうろうろし過ぎるのもまずいし、このままもし見つからなかったら?
練習試合の時間を過ぎてしまったら、日向の選手にも、コーチにも迷惑を掛けてしまう。
私が先輩として入華を見てないといけなかったのに。
「どうしよう...どうしよう...!?」
「何やってんだ?お前。」
「!?あ、あの...。」
誰もいないと思っていたら、いつの間にか誰かが私の近くまで来ていた。
長い髪をポニーテールにしたスタイルのいい女の人。ゴーグルを首に下げていたり、へそ出しファッションだったりで、ワダツミでは珍しい、奇抜な格好をしている。
「部外者か?」
「ち、違います...!私はKIRISHIMAの、選手で!今日は練習で、後輩とはぐれちゃって...!?」
動揺して上手く話せなくなってしまう。
落ち着かなきゃ!落ち着いて私!
「きりしま...?......ふぅん?」
「そ、そうです!KIRISHIMAの、ガンナーで!」
「信用出来るかよ。」
「へ!?」
女の人は一瞬ニヤッと笑ったかと思うと、すぐに真剣な表情になり私を睨み付けた。
「お前、スパイだな?」
「す、スパイ!?」
「うちの技術を盗みに来たスパイだろ。産業スパイってやつ。」
「ち、違います!私はKIRISHIMAで...!」
「なら証明してみろよ。」
「証明...!?」
こんな時の為に名刺が......ない!?
詩絵さんに念のため持ち歩くよう言われてたのに!?
「証明出来ないのか?やっぱりスパイなんじゃないか。」
「違います!スパイなんかじゃ...!?」
女の人はどんどんこちらに詰め寄ってきて、いつの間にか私は壁に追い詰められていた。
「怪しいもの持ってないか調べさせろ。」
「調べるって、え...?」
ゆっくりと女の人の手が、私の体に近づいてくる。
緊張とパニックでいっぱいになった私は、近づいてくる手への恐怖が抑えられず。
「きゃあぁぁぁーーーっっ!!!」
自分の物とは思えない、とても大きな悲鳴を上げた。
「わっ!?うっせ。冗談だって。別に取って食ったりは...。」
「みちるセンパイ...!?」
「いる、か...?」
私の悲鳴が届いたのか、行方不明だった入華が駆けつけた。
入華は私の状況を見るや否や決意したように頷き、近くにあった赤いボタンに手を掛ける。
「痴漢ですね!みちるセンパイ!今助けますから!」
「あ、ちょっ!そのボタンは!?」
次の瞬間。
耳をつんざく警報音が、会社、もといワダツミに響き渡った。
―――――――――――――――――――――――――――――
「夕離!貴様っ!!いったい何度問題を起こせば気が済むのだ!!!」
「うわ、声でけーよ。通報ボタンを押したのはあのKIRISHIMAのひよっこだろ?」
「貴様が都条を脅かしたからだろう!!今日という今日は許さんっ!!!」
何か、知らない間にすごいことになっていた。
刃兼さんとお茶をしながら入華たちを待っていると、突然甲高い警報音が響いた。
驚いて社内に駆け込むと、気絶したみちると慌てる入華。そしてめんどくさそうに頭を掻くポニーテールの女性、暮無さんがいた。
幸い通報はすぐ刃兼さんが連絡したことで不発に終わったが、大騒ぎになったのは事実。
刃兼さんは一頻り私たちに謝罪した後、暮無さんへ鬼の形相で説教を始めた。
すごい迫力だ。
かなちゃんはもちろん、エレンちゃんも泣きそう。
「冗談であのみちるセンパイを怖がらせるなんて...。恐ろしい人ですね、夕離さん。」
「あ、うん。......そうだね。みちるのクールを突破するなんて、只者じゃないよ。たぶん。」
みちるがクールじゃないというより、暮無さんがスゴすぎるという解釈になったらしい。
後ろでみちるがホッとしているが、それでいいのかクールセンパイ。
意外とハードル低そうだな。
「はいはい、アタシが悪かったよ。これでいいか?」
「何だその態度は!?それに謝るなら都条と咲宮にだ!!」
「めんごめんごー。」
「貴様ぁ!!!」
あー、ダメだ。
このままだと一生収拾が着かない。
今日は試合しに来たのだ。すでに選手のメンタルがボロボロな気がするが、とにかく軌道修正しなくては。
「あの、刃兼さん。もう結構ですから。」
「そういうわけには!この戯けの首を差し出して、お詫びしなくては気が済まないのです!」
「いや、いらないですって。首。」
戦国時代か。
今度は私が卒倒するでしょ。
「とにかく、大丈夫ですから。うちも冗談を真に受けてしまいましたし、今日は試合をさせて頂く為に来たんです。このままでは、試合せずに終わってしまいそうですから。」
「それは...そう、ですね。いや、こちらが全面的に悪いのですが。あなた方の目的が果たせないのでは、余計にこちらの罪が重くなる。」
分かってくれたみたいだ。
これで何とか練習試合は出来るだろう。
気を取り直して、試合の準備を。
ムニュ。
......むにゅ?
「KIRISHIMAのコーチ、話が分かるねぇ。気に入ったよ、りんだっけ?見た目乙姫っぽいのに優しくて助かる助かる。胸も乙姫と違って柔らかいしな。」
「胸...。」
私の胸を、暮無さんの手が揉んでいた。
「Cはあるか?乙姫と違って!」
「キャーーッ!?」
「こんの大馬鹿があぁぁっ!!!」
―――――――――――――――――――――――――――――
「いっってぇー...。頭蓋骨割れてるだろ、これ。」
「こほん。改めて、私が日向重工のキャプテン、刃兼乙姫だ。日向のマシン部門の長も務めている。咲宮、都条、それに地咲コーチの話は彩戸から聞いている。よろしく頼む。」
「はい!よろしくお願いしますね、乙姫さん!」
「「よろしくお願いします...。」」
みちると二人、下を向きながら挨拶する。
はぁ。同性とは言え、胸を触られるなんて。
......初めてだったのに。
私達のしょぼくれた姿に刃兼さんが眉をひくつかせながら、犯人である暮無さんを指差す。
まだ痛いのか、刃兼さんに打たれた頭を未だ抑えている。
「そしてこの阿呆が。私のパートナーの暮無夕離。嘆かわしいことに、これが日向の武器部門の長だ。申し訳ない。」
「おい、人をアホとかこれとか失礼だろー。道場の名が泣くぞー。」
「貴様ぁ!!!」
反省とかそういう心を持ち合わせていないのだろうか。
あんなに痛そうにしているのに、まだ刃兼さんを挑発している。
どういうメンタルしてるんだ...。
「あの、桐利ちゃんと見波ちゃんはいないんですか?」
「そういえば、見当たらないわね。てっきりあの二人が練習試合の相手だと思っていたけど。」
ナイス話題転換だ二人共。
このまま彼女たちに主導権を握らせていればいずれ血の海が広がる可能性がある。
「......ああ、あの二人とは知り合いだったか。残念だが、今日は伊澄と黒瀬は休みだ。練習試合とはいえ、新人戦で戦う者同士が先んじて勝負するのは如何なものかと思ってな。」
「じゃあ、私たちの対戦相手って...。」
暮無さんがニヤリと笑って、入華の問いに答える。
「あたしらだ。」
「ひっ!?」
トラウマになっているのか、みちるが小さな悲鳴を上げる。
「私と夕離が相手をさせてもらう。これでもマシンと武器への理解は深いつもりだ。実力に不足はないことを約束しよう。」
「日向のトップ、そのお二人が相手...。」
刃兼さんの自信は本物だ。
入華たちにはない覇気、ベテランの風格が見て取れる。
これは厳しい戦いになるな...。
「ワクワクして来ました!頑張りましょう!みちるセンパイ!コーチ!」
「え、ええ。......やりましょう、入華。」
「うむ、よし!いい気合いだ。準備しろ夕離!」
「へいへい。熱っ苦しいよなぁ、相変わらず。」
何だかんだ、選手たちの気合いは十分だ。
私も見極めなくては。
KIRISHIMAに足りないもの、勝利に必要なものを。
―――――――――――――――――――――――――――――
◼️□日向重工・水上練習場◼️□
というわけで、紆余曲折あったが何とか練習場まで移動出来た。
選手たちはもうスタンバイ済みである。
入華たちはいつものユニフォームにウェットスーツを重ね着した姿。
刃兼さんたちはユニフォームにジャケットを羽織ったような姿だ。
なかなか好きなファッションである。
何となく自衛隊っぽいな。
そして実は一番楽しみにしていた、日向の専用マシン。
名前は『HEX-WL』。
黒い車体と流線形のボディが美しい。
かなり高級らしいが、それに見合う高性能、高耐久とのこと。
「ふむ。いいね。」
好き。クジラみたいで可愛いし。
燻銀の良さがあるよね、日向重工。
私がマシンに見惚れている間に、選手たちの準備が出来たらしい。
スタートラインにエクシールとヘクスが並ぶ。
「「スタンバイ!」」
「「ゴー!」」
ついに始まった練習試合。
試合冒頭はライダー同士のタイマン勝負。
インコースは入華だが、刃兼さんはまだ余力を残して走っているように見える。
「ここだ!」
「なっ!?」
二つ目のコーナーで刃兼さんが動いた。
急激にスピードが上がり、エクシールは離されてしまう。
乗っている刃兼さんは勿論、暮無さんにも負荷がかかるはずだが、二人共涼しい顔をしている。
そのままレース順位は変わらず、先行は日向重工が手にすることとなった。
「すみませんみちるセンパイ!」
「切り換えていきましょう!」
【D/KIRISHIMA:S900】
【A/HIMUKA:E150】
すぐにターンを行い、迎撃体勢となるKIRISHIMA。
あの子たちも成長している。
最初の試合とは違うのだ。
「手加減などするなよ夕離!」
「あたしがそんなキャラかよ。」
夕離さんは手始めとばかりにハンドガンを構え即座にトリガーを引く。
「入華!」
「はい!」
目視も難しい弾丸を、紙一重で回避していく。
通常、真後ろからの攻撃を避けるのは難しいが、ジェットバトルは二人一組の勝負。
ガンナーであるみちるが、振り返りながら弾道を予測し、体を倒す。
それを感じることで、入華がマシンを操作し回避を成功させる。
繊細な動きだが、ジェットバトルでは基本の、必要不可欠な技術だ。
「まあ、このくらいは避けるよな。」
「落ち着いている。新人としてはいい動きだ。」
外してやったとばかりに余裕そうな日向コンビ。
次に取り出したのはグレネードランチャーだ。
グレネードランチャーは確か、厄介なスキルが付いていたはず。
「乙姫、あれやるぞ。」
「了解した。しくじるなよ。」
ヘクスが唸りを上げ、一気にスピードが上がる。
至近距離から確実に当てるつもりだろうか?
「至近距離で当てるつもりよ!」
「させません!」
エクシールも負けじとそのエンジン音を響かせ、追い縋るヘクスを引き離す為速度を上げていく。
どちらかが気を抜けば一瞬で距離を離される。
そんなデッドヒートに思えたのだが。
「え!?」
急に日向が速度を緩め、KIRISHIMAから離れていく。
「この辺か。」
「やれ!夕離!」
急な動きに驚いたその一瞬。
波がみちるの視界を遮ったタイミングで、遠距離からグレネードランチャーが発射された。
「しまっ...!?」
「きゃあ!?」
直前にスピードを出していた為、急なハンドリングが出来ないエクシール。
そのままグレネードの直撃を受けてしまった。
【Skill Successful:Speed Down】
スキル発動の文字がモニターに表示される。
グレネードランチャーはダメージだけではなく、炸裂させた相手の速度を一時的に落とすことが出来るのだ。
ガクンと速度を落としたエクシールに、すかさずヘクスが肉薄する。
「油断大敵ってな。」
追い付くと同時に日向のショットガンがエクシールを捉える。
【D/KIRISHIMA:S750】
【A/HIMUKA:E0】
グレネードで速度を落とし近づき、近距離でこそ真価を発揮するショットガンを叩き込む。単純だが強力なコンボだ。
何より駆け引きが上手い。
みちると入華が素直なことを考慮した上での作戦だろう。
「強い...!」
「どうした。もう降参か?」
刃兼さんが入華を挑発する。
案外、ジェットバトルに関しては日向の二人は似た者同士なのかもしれない。
「まさか!今度はこっちの番です!」
「そうよ、任せて入華!」
攻守交代のターンを滑らかに行い、今度は狙撃体勢に移るKIRISHIMA。
勝負は始まったばかり。まだまだ逆転出来るはずだ。
みちるはアサルトライフルを取り出し照準を定める。
アサルトライフルは30発のうち、10発が当たれば自分たちのマシン速度が上がる特殊効果がある。
当たりさえすれば一気にチャンスが広がるのだが。
「当たらない...!?」
流れるように弾丸を回避していく。
暮無さんが目視してはいるが、まるで撃つ位置が分かっているかのように避けている。
「そんな、弾切れ...!?」
「素直なのは好きだぜ?反応や考えてることが単純で分かりやすいしな。」
「っ...!まだまだ!」
スピードを上げ、ヘクスとの距離を縮めようとするエクシール。
みちるの手にはショットガンが握られていた。
「受けて立とう。」
「え...!?」
その様子を見た刃兼さんは、あろうことかスピードを緩めエクシールの接近を許す。
「バカにしないで...!」
流石に嘗められていると思ったのか、珍しくみちるが苛立ちを見せながらショットガンを放つ。
普通なら直撃するはずの位置関係。
しかし。弾丸は車体には触れず、少しの波を立てるに留まった。
「宙返り!?」
まるで私たちの、初めてのジェットバトルの意趣返し。
入華の得意な宙返り、それを刃兼さんは回避に使った。
何事もなく着地し、走行を継続する。
「これくらい出来て当然だろ?お前らジェットバトル初めてかー?」
「夕離。度を越えた挑発はスポーツマンシップに反する。」
「質問してるだけだろ?ほら、びっくりしてないでさっさと攻撃しないと、時間切れになるぞー?」
「みちるセンパイ!」
「分かってるわ!分かってる、けど...!」
残りエネルギーは50。
エネルギー全てを使い、ハンドガンを5発放つも結果は変わらず。
【HIMUKA:S900】
【KIRISHIMA:S750】
KIRISHIMAの攻撃は、一撃も日向を捉えることはなかった。
―――――――――――――――――――――――――――――
それからも一方的な試合展開が続き、5ターン目のKIRISHIMA攻撃ターン。
【HIMUKA:S900】
【KIRISHIMA:S450】
ここまでKIRISHIMAの攻撃は一度も日向に当たっていない。
実力が違い過ぎる。
回避、攻撃の精度が段違いだ。
これが新人とベテランの差なのだろうか。
「KIRISHIMAの新人、もう少しやると思っていたが。」
「これならうちの新人コンビの方が強いな。」
「ごめんなさい入華。私のせいで...。」
「みちるセンパイ...。」
勝負は決着したように見える。
みちるは既にメンタルがやられてしまっている。
だけど、本当にここまでなの...?
所詮新人はここまでと、そう思って諦めてしまうのか?
「みちるーーー!!!!」
「コーチ...?」
諦めて欲しくない。
そう思った時には必死に、全力で声を張り上げていた。
伝えなきゃ、私にはそれしか出来ないから。
「クールでカッコいいセンパイになるんでしょ!?チャレンジするのがキミの強さでしょ!?なら最後まで諦めないで!!戦って!!!」
「私の、強さ...。」
勝てなくてもいい。負けて泣いたっていい。
だけど、最後の最後まで諦めちゃダメだ。
それじゃ、みちるの頑張ってきたものが水の泡になってしまう。
それが何より、一番ダメだ。
「そうです!まだ、まだ終わってません!みちるセンパイ!もう一回、私を信じてくれますか...!?」
「入華...。」
入華の瞳に闘志が宿る。
あの子は決して諦めない。
後はみちるがどうするかだ。
「......信じるわ。一回だけなんて言わない。ずっと信じてる。だって私は、入華のパートナーだもの。」
「はい!私たちで勝ちましょう!!」
みちるから諦めの色が消える。
そうだ、そうだよ。
みちるのすごいところは、入華の為にどこまでも頑張れるところなんだから。
「全力でいきます...!!」
SP Skill:Energy Charge
モニターにSPスキル使用と表示され、エクシールが緑色の光に包まれる。
エナジーチャージ。
効果は単純、1ターンに使用出来るエネルギーを倍にするというものだ。
「エナジーチャージ?随分懐かしいもん使ってんな。」
「油断するな夕離。先ほどとは目が違う。」
SPスキルについて学んだことがある。
このスキルは平等に見えて、実はマシンの性能、そして会社の開発力に大きく左右される。
SPスキルは、そのほとんどが自社開発プログラムである。
マシンのスペック、つまり容量が大きいほど強力なスキルが使える。
条件としてワダツミにおいては、全日本UMIJET連盟の認可を受ける必要がある。
認可を受けていないスキルを無理に使おうとすると(公式では勿論失格)、デメリットが発生する。こないだのかなちゃんが使用したものがそれだ。
認可を受けた正式なSPスキルは、まさに非の打ち所のない切り札。
SPスキルのタイミングが勝敗を左右すると言ってもいい。
エナジーチャージはジェットバトル初期から存在する定番のスキルだが、今では最新の自社製SPスキルを使うのがセオリーであり、はっきり言って時代遅れのスキルだ。
マシン性能、自社製スキルの開発の遅れ。
KIRISHIMAの実情は、こんなところにまで表れているということだ。
しかし、今はそれに賭けるしかない。
「準備OKよ!」
「行きますよー!」
ツインハンドガンを構えるみちるの声に入華が応え、ついに攻撃が始まる。
スピードを上げつつ、左右に激しくブレながら走るエクシール。
不規則にくねくねと動くマシンの挙動は、見ているだけで酔いが回りそうだ。
あれでは照準を合わせることも出来ないのでは?
「何だ?自棄にでもなったか?」
案の定銃身を明後日の方向を向き、まるで定まっていない。
しかし、みちるは迷うことなくそのトリガーを引いた。
ガンッ!
「なに...!?」
「うそ、当たった...!?」
同時に放たれた弾丸は、予想とは裏腹に今までかすりもしなかったヘクスに直撃した。
間を置くことなく3発の弾丸が放たれ、またしても全て直撃する。
「紛れじゃねーな!?」
「なるほど、分からないのは私たちだけということか!」
答えは単純。
不規則に思える挙動、それをみちるは理解し把握しているのだ。
入華のハンドリング、わずかな動き、傾き。
その全てを一瞬で把握し、それに合わせてわすがに照準をずらしておく。
エクシールが動くことで、その照準は正しい狙いとなる。
一瞬のタイミングのずれも許されない神業。
それを二人の信頼が可能にした。
「冷静に、狙い撃つ...!」
不安定なはずのマシン上でスナイパーライフルを構え、放つ。
まだエクシールの挙動を読みきれない日向はついに大ダメージを受けることとなった。
【HIMUKA:S610】
【KIRISHIMA:E170】
ハンドガンは5発当てると次弾のダメージをクリティカルに。
スナイパーライフルはクリティカル時のダメージが3倍になる。
みちるの得意戦術が上手くはまり、実に290ものダメージを与えることができた。
「まだまだいくわよ!」
ツインハンドガンから弾丸が幾度も放たれる。
流石に慣れてきたのか、ヘクスの動きが変わり半分外してしまう。
「手加減すんなよ乙姫!」
「しているように見えるか!?」
それでもまた、5発の弾丸が直撃。
トドメとばかりに一気にエクシールがヘクスに接近。
ショットガンを至近距離で叩き込むことに成功した。
「やっ、た... !」
「ちっ...!」
【HIMUKA:S360】
【KIRISHIMA:S450】
1ターンで540ダメージ。絶望的状況から、ついにKIRISHIMAは逆転に成功した。
「油断するなって言ったのは乙姫だったよなー?」
「油断などしていない。これがKIRISHIMAの底力だ。」
「感心してる場合か?......まったく。ちょっと本気出してやるよ。今日は奢れ。」
「仕方あるまい。外すなよ、夕離!」
再び日向の攻撃ターン。
先ほどまでとは打って変わって、速度を上げエクシールとの距離を詰めていく。
暮無さんは何も構えていないようだが...?
「二人とも!!!なにか、くるよー!!!」
「......うぷ。き、気持ち悪い...。」
......へ?
「み、みちるセンパイ...。私も、お昼に食べた、ラーメンが暴れて...。」
エクシールの速度が落ちている。
どうやら、先ほどまでの無理な挙動が祟り二人して酔ってしまったらしい。
こんな大事な場面で。
「このドジっ娘コンビーーーっ!?」
「ハハハ!面白くて退屈しない奴らだなー!お礼にいいもん見せてやるよ?」
ハンドガンを取り出すと同時に、狙い定める動作もなしに弾丸を連射。
きっちり5発、エクシールに直撃させる。
『クイックドロウ』
暮無さんはまるで西部劇のガンマンのようにハンドガンを弄びながら収納。
ロケットランチャーを取り出す。
「これで仕舞いだ!!」
急ブレーキをかけると同時に暮無さんがジャンプ、エクシール目掛けてロケットランチャーを放つ。
「きゃあ!?」
予想外の動きに反応することも出来ず、エクシールは被弾。みちるが派手に水上に投げ出される。
一方の暮無さんはそのまま落ちれば反則負けとなるところを、刃兼さんが着地点で見事に受け止めたことで無事生還していた。
【HIMUKA:S360】
【KIRISHIMA:S0】
試合終了。
私たちの初遠征試合は、完膚なきまでに見事な敗北で幕を閉じたのだった。
―――――――――――――――――――――――――――――
◼️□日向重工・社屋前◼️□
「うむ。諦めないその姿勢、よし!気に入ったぞ咲宮!」
「ありがとうございます、乙姫さん!うぷ...。今度は、ギョウザが...。」
「ほれほれ、さすってやるよ?」
「うぅ、やめてください、揺らさないで...。」
試合を終えたらノーサイド。
無事仲良くはなれたようだが、相変わらず吐きそうらしい。
「今日はありがとうございました。KIRISHIMAに足りないもの、何か分かった気がします。」
「そうですか。それならば、試合を受けた意味があったというもの。......咲宮も都条も、二人共いい選手です。2ヶ月後が楽しみだ。」
「......あーあ。乙姫がやる気になっちまった。こりゃ、あの二人死ぬぞ~?」
「お前もだ夕離。その性根から叩き直してやろう。」
「めんどくせー...。」
この敗北は無駄にしない。
KIRISHIMAに足りないもの。
それは『戦いに常などないという覚悟』だ。
ジェットバトルという戦いに定石、予想通りなどない。
予想外の事態に対応し、相手に予想外を叩き付ける柔軟性が必要なのだ。
それを身に付けられれば、きっと二人は優勝できる。
敗北はしたが、この一戦で彼女たちはその可能性を十分見せてくれた。
後は私のコーチング次第。
その為に、まずはやるべきことがある。
スマホを取り出し、詩絵に電話をする。
「もしもし詩絵?急で申し訳ないんだけど、教えて欲しいことがあって。」
―――――――――――――――――――――――――――――
◼️□ワダツミ・観光区◼️□
「あーあ。負けた負けた。まったく今日はツイてないねー。」
居酒屋前で一人愚痴を言う後ろ姿を見つける。
会うのは二度目だが、間違いない。
「こんな日はパーっとやって悪い運を吹き飛ばさなきゃな。......ああ、でもなぁ。最近負け続きで手持ちも心許ないし、我慢してコンビニで一杯に留めるのもありだよなぁ...。どーしよっかなぁ。」
「じゃあ、奢ってあげようか?」
「マジ!?サンキュー!じゃあ、やっぱり今日はパーっと!......って。」
「こんばんは。」
「......あんたかよ。何しに来たんだよ?もう会わないって話しただろ?」
喜色満面が一転して、不機嫌、あるいは気まずそうな表情に変わる。
陽南杏里。
一度は物別れとなった彼女に会いに来たのには勿論理由がある。
「私と取引してくれないかな?」
「取引...?」
「入華とみちるのコーチング、手伝って欲しいんだ。」
Q.りんちゃんのモデルっておるん?
A.見た目イメージはシャニマスの風野灯織です。
スーツの似合う美人さんです。
このキャラがメインの話を見たいって子は誰ですか?
-
入華
-
みちる
-
杏里
-
詩絵
-
颯
-
エレン
-
氷織
-
シュネー
-
桐利
-
見波
-
乙姫
-
夕離
-
紫苑
-
ヘリー
-
セレナ
-
ヴィーナ
-
かな
-
由芽