ちょっと不幸なイッセーくん   作:高町廻ル

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挨拶代わりに死戦

「ここだな」

 

 結界の中心である目的地、そこは一軒家だった。

 現時刻は八時を過ぎたあたり。普通であれば外からでも光が漏れているのが確認できて生活感が確認できて然るべきシチュエーション。

 

「ほんとに中にいるのか?」

 

 結界の影響なのか、そもそも電気をつけていないのか、外から人の気配は確認出来なかった。

 

『何かしらの罠があるのか、相手は侵入者に気がついている可能性もある、気を付けていけよ』

「おう」

 

 そう言って彼は玄関の扉を開ける。扉には鍵がかかっていなかった。

 

「うっ…」

 

 入った瞬間彼の鼻をつんざく血の匂い。彼は咄嗟に手で鼻を覆う。

 忘れるはずもない十年前の忌々しい景色、それを想起させる死の香り。

 そしてもう既に手遅れである事に気がつく。もっと早く来ていれば助けられたのかもしれないと、そんな悔恨が胸を埋め尽くす。

 玄関から見えるリビングに繋がっていると思われるドアから僅かながら光が漏れている。まるで吸い寄せられる様にその部屋へと彼は入る。

 

「こいつは…」

 

 リビングと一体型のキッチン、中央には食卓用のテーブルが鎮座しており、奥の方には大型のテレビとそれを囲むように配置されたソファー。

 本当にごく一般的な家庭の一コマ。

 

 だがこの家の家主達と思われる切り刻まれ血まみれの死体が壁に上下逆さまで吊られている事を除けば。

 

「『悪いことをする人はお仕置きよ』って聖なるお方の言葉を借りたのさー」

 

 死体に目が釘付けだったイッセーは横からそう話しかけられ、すぐさま声のする方へと意識を向ける。

 決して周りへの警戒を怠っていたわけでは無かった。それでも近くまで接近を許したのは結界の影響か、それとも相手の技量が高いのか。

 彼の視界に写ったのは白髪の神父服を着た男だった。そしてこの現場を作ったと思われる相手。

 

「テメェがやったのか?」

「んー?あー、そいつらは悪魔をよく呼ぶ常習犯だそうです〜悪魔に魂を売ったなら殺さないとね!」

 

 イッセーは可能な限り気迫を出した表情でそう問い詰めた。

 普通の人であれば間違いなく気圧されるであろうそれも相手の神父には通用しなかった。

 恐らくだが既に何度も命のやり取りをして恐怖という感情が焼き切れた摩滅的存在が目の前にいた。

 

「どうやら悪魔じゃない様でござんす…召喚中断したら悪魔どもがすっ飛んできて油断したところをチョンパ!ってお話がこんなめんどくせぇのが釣れちゃって…」

 

 神父が何やら呟いているのを見てイッセーは今更ながらどうしようかと考えていた。

 元々何かが起きていると思い偵察のつもりで来ていた。そして既にこの家の家主達は殺害された以上は、これ以上この場に留まるのは賢い判断ではなくなっていた。

 先ほどからふざけている風の神父も、その態度とは裏腹に一度もイッセーから意識を外していない。

 

「へえ~死体ガン見しても驚かないなんて中々手慣れてますなぁ~同じ穴のムジナだったりするでござんす?」

 

 相手はふと思った事を口にする。

 もし仮に一般人がこの現場に紛れ込んでしまったのであればもっと動揺するか恐怖で動けなくなってしかるべきだった。だが目の前の男は惨殺死体を見ても大きな動揺は見せない。

 

「快楽殺人鬼と、一緒にすんじゃねぇ」

 

 確かに死体は見慣れてしまったものだった。今でもあの日の事を夢に見る事もある。

 だがそれは目の前の神父のように好き好んで生き生き死にをかけた戦いを行ったわけでは無い。好きで殺めたわけではない。

 

「いやー俺ってば悪魔と魅入られた人間殺して生活してるエクソシストなわけですよ。そしてこいつらは悪魔に魅入られた人として終わってる奴らなわけですわ。人間として終わってんだから殺さないとね!」

 

 その意見に間違っていると思いつつも、同時に例のはぐれ悪魔の事も思い出していた。

 あのようなバケモノが存在するからこそ真面目にルールを守る人たちが割を食う。規則を守らないものが守る者の足を引っ張る、それはどの世界でも共通項。

 目の前の神父はそれ以前の問題のように感じるが。

 

「まぁそっちの常識なんざどうでもいいや。可能ならここから立ち去りたいところだが…」

 

 目の前の神父は間違っているとは思っていたが、それを説こうとしたところで相手は効く耳を持たないのは火を見るよりも明らかだった。無駄な事に時間を割く気は無かった。

 

「おいおいおい、この現場見られちゃったら簡単に返すわけにはいかないねぇ…」

「俺は、悪魔じゃないぜ?」

「この結界を認識して潜り込める時点で普通じゃないっての」

「見境なしか、イカれてんな」

 

 イッセーは左手に籠手を装着する。

 神父は懐から柄と拳銃を取り出す。その柄からブィンと空気を切る音がして光の刃が生まれる。

 相手は剣を横薙ぎにして切り裂こうとしてくる。だがイッセーはそれを後ろに飛んでかわさず、あえて敵の方へと飛び込んむ。

 

「んなっ…」

 

 神父は相手が後ろに下がった瞬間に足を拳銃で撃ち抜くつもりだった。だが相手が取ったのは真逆の前進という選択。

 

「ふがっ!?」

 

 イッセーは相手の懐に飛び込むと思いっきり相手に頭突きを食らわせる。その痛みに神父はうめき声をあげる。

 だが攻撃を受けて後ろに向かってたたらを踏む相手の、拳銃を持っている左腕を強引に掴んで相手を引き寄せる、そして空いている方の手で裏拳に引き寄せる力を加えつつねじ込んで吹き飛ばす。

 吹き飛んだ相手は壁に叩きつけられる。

 

「割と本気で叩き込んだんだけどな…」

 

 手ごたえはあったがうまくいなされた。

 相手は倒れこんでいたがむくりと立ち上がった。相手の片腕を見ると手首が折れ曲がっていた。攻撃を受ける瞬間、顔面への一撃を避けるために苦肉の策として腕を捨てたのだ。

 

「ってぇ…」

 

 神父は鼻を抑えながら怨嗟にまみれた視線を向ける。殺気ムンムンというやつだ。

 そんな安い殺気を見せられたところで怯みはしないが。

 

「しぶとい。倒れとけば、見逃してやった」

「てめええぇぇ…やってくれんじゃねえかよぉぉ!決めた!テメエはおれちゃまの殺害リストトップにインだぜ!!」

「お前なんかに、後れを取るわけねえだろ。諦めろ」

 

 いまだに殺気を緩める気のない相手に対して呆れながらも構えなおす。引く気が無いのであればとことんやるだけだった。

 

「い、いやあああっ!!!!」

 

 するとそこで二人のピリついた雰囲気を切り裂く悲鳴がこだまする。

 

「シスターさん……?」

 

 この場にいるのがそぐわない相手の登場にイッセーは困惑してしまう。この血みどろの戦場とは対極に位置するような存在。

 そこには今日会ったばかりの少女がいた。

 

「おんやー?これは助手のアーシアちゃんじゃありませんか。結界はしっかり貼り終わったのかな?」

「ふ、フリード神父…これはいったい…?」

 

 いまだに目の前の惨殺死体を見てこの状況を呑み込めていない様子のアーシア。彼女からすればいきなり地獄にポツンと取り残されたような現実味のない光景だろう。

 フリードと呼ばれた男はその反応が面白いのか声色が楽しげだった。

 

「!あ、あなたは…」

 

 彼女は死体に目を奪われていたがそこでイッセーに気が付いた。今日困っている自分を助けてくれた優しい気のいい高校生を。

 そんな彼が腕に赤い籠手を着けて戦っている光景を。

 

「あらら?お二人は既にお知り合いのようです?あんらまぁ…聖女のアーシアちゃんは既に中古品でありましたか!」

 

 フリードはどうやら顔見知りであるのを知って下品極まりない発言をする。

 そんな一人で盛り上がっている相手を見ながらもイッセー自身かなりショックを受けていた。

 アーシアと呼ばれていた少女がこのような惨殺を行うような人間の下についている事実が。

 

「さぁアーシアちゃんの神器で治しておくれ!」

 

 フリードはそんな事をぬかす。

 アーシアが持っている神器は傷を治す力、それを使えば折れた手首も簡単に治癒するのだろう。

 

「わ、私はっ…」

 

 アーシアは躊躇ってしまった。

 彼女を構成する大部分である優しさという感情は、怪我を見ればたとえどんな悪党や敵勢力であっても癒やさなければいけないと思ってしまう。

 だが目の前の惨状がそれを躊躇わせてしまう。

 可能性だけで言えば、フリードではなくイッセーが惨殺を行った可能性も無い話ではない。だが自然とその可能性は無いと本能で理解できてしまっていた。

 そしてもし殺人を行ったフリードを癒したとして、それをイッセーに見られるこの状況に拒否感が出てしまう。

 

「おいこのアマぁ!さっさと治せ!!」

 

 フリードは一向に首を縦に振らない相手に苛立ったのか折れていない方の腕で殴りつけようとする。

 それを見た瞬間、頭の中にある糸の一つが切れた。

 

「いい加減にしろよクソ神父!!」

 

 彼は足元にある木片の一つを掴んで相手に投げつける。

 その言葉これまで相手に伝える為にあえて言語を合わせたカタコトではなく日本語だった。

 フリードは咄嗟に後ろに飛んで避ける。その際に大きく舌打ちをしていた。

 本来であればそこまで大袈裟なアクションで避けるまでもない牽制、だが深手を負ったこの状況では敵の動きに対して過敏になっていた。

 

『…………』

 

 二人の間に距離と殺気が充満する。

 アーシアはその光景に震えていた。自分に向けられていないはずなのに体の震えが止まらない。

 

 すると突然床下が輝き始める。

 

「何事さ?」

 

 フリードはそれを見て疑問符を浮かべる。

 イッセーはそのリアクションを見て今から誰が出てくるのかを察した。

 

「助けに来たよ」

 

 木場の口から出た頼もしい一言。

 光が弾けるとそこから出て来たのはグレモリー眷属達面々。

 

「あらあらこれは…」

 

 朱乃は部屋の惨状を見てそう漏らす。

 ジャンプして飛んで来たら戦闘中であり、部屋には惨殺死体。場慣れしているとはいえ決して楽しいものでは無いだろう。

 

「ひゃっほう!悪魔の団体さんに一撃目!!」

 

 フリードは折れていない方の腕で剣を持ち切り込みに行く。この不利な状況でも殺意を失わないのは見上げた根性だった。

 だが木場の反応速度はその光剣を受け止め、鍔ぜりあう。

 

「どうしてここが?」

 

 イッセーはそれを見ながらもリアスに問いかける。

 

「今日召喚予定の人と連絡が取れなくなったから心配になって来たのよ。いざ近くまで来たら結界が張られていて迂闊に入れなかったんだけど、結界が解けたからここにジャンプして来たのよ」

 

 それを聞いて彼はなるほどと思う。

 結界が解けたのはそれを張っていたアーシアの精神が乱れたせいだろう。

 

「おうおう!そいつも悪魔の手先ってかぁ?こりゃぁ最優先で殺さないとね!!」

 

 イッセーが親し気に悪魔と話しているのを見てフリードはヒートアップしていく。

 自分の邪魔をする忌々しい人間が悪魔と繋がっているという、殺意の理由べたべたソース上塗り状況に涎が止まらないのだろう。

 

「なるほど…『はぐれ悪魔祓い』というわけか」

 

 木場は相手の言動からおおよそ事を測った。

 だがフリードは蔑称であるはぐれと言われても逆に嬉しそうにしていた。

 

「あいあい!はぐれだもん、はぐれちゃったもん!ヴァチカンなんて糞食らえって感じだぜい!俺的には快楽悪魔狩りさえできれば満足満足大満足って感じだぜい!」

「一番厄介なタイプだねキミは。悪魔を狩る事だけが生き甲斐、一番の有害だ」

「悪魔さまに言われたかないのよぉ!精一杯今日一日を生きてんのよ!糞虫みてえな連中に言われたかないでざんす!」

「悪魔にもルールはあります」

 

 二人のやり取りを聞いていた朱乃は微笑みながらそう言う。表情こそ穏やかだが分かる人には分かる、目は座っている。

 Sとかの次元の話ではなく心の奥底から怒りという感情が漏れている。

 それはリアスたちも同じようで、怒りを滲ませている。たとえそれに慣れていたとしてもここまで言われて何も感じないはずはない。

 

「!部長。この家に堕天使らしき者たちが複数近づいておりますわ。このままではこちらが不利になります」

 

 そんな中で朱乃は敵影を察知していた。

 フリードたちが遅いからやってきたのか、同じように悪魔たちを察知してやって来たのか。とにかくこの場に留まっていれば大勢に囲まれて乱戦になってしまう。

 

「朱乃、本拠地に戻るわよ。転移の準備を」

「はい」

 

 リアスにそう指示されて朱乃は足元に陣を描き始める。

 

「イッセー、早く入ってちょうだい」

 

 彼女は早くテレポート用のそれに入るように指示を出す。

 

「…………」

 

 リアスは自身眷属の安全とイッセーとの契約を守るために、危険なこの場所から撤退すると言っている。

 その判断は間違っていない。誰一人としてその意見に異を唱えない。

 

「あのシスターさんも!」

 

 イッセーはすぐさま首を縦には振るどころか提案をする。

 この場所が危険という事はここに残るアーシアはいったいどうなってしまうのかと、そう思ってしまった。もしここで逃げたらそれは彼女を見捨てるのではないのかと考えてしまった。

 

「無理よ。あの子の事はよく知らないけど、堕天使の下僕、私は悪魔。その要求は飲めないわ」

 

 イッセーの葛藤を取り付く島もなくリアスは切り捨てた。

 

「逃がすかっての!」

 

 フリードはこの状況でも諦めず殺そうとしてくるが、小猫が部屋に置いてあるソファーを投げつける。明らかに小さな体に見合わない大きさのはずだがダンボールの空箱を持ち上げるかのように軽々と投げつける。

 だがそれを神父はあっさりと一刀両断する。

 木場はその隙をつき、イッセーの首根っこを掴んで無理矢理テレポートの陣の中へ連れていく。

 

「ありがとうございます」

 

 アーシアは一言お礼を口にした。

 日本語は理解できなかったはずだが、イッセーが自分も連れて行くことを提案したのは雰囲気で理解出来た。

 だがイッセーはその言葉よりも転移する寸前に見た寂しそうな表情が脳裏に焼き付いて仕方なかった。

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