ちょっと不幸なイッセーくん   作:高町廻ル

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教会に突入しよう

「殺気ムンムンって感じだな」

 

 ボロボロの教会、側から見れば廃屋にしか見えないが建物全体から禍々しいオーラは溢れており、複数人の気配があった。

 

「正直来てくれて助かった」

 

 イッセーはお礼を言った。

 最初は増援など不要だと思っていたが、複数人に取り囲まれれば流石に分が悪い。

複数を相手している間にアーシアを確保され逃げられたら一人ではどうしようもない。

 

「部長の指示だし、それに何よりもう僕たちは仲間じゃないか」

「……」

 

 イッセーは木場からスッと出てきたそのセリフに言葉を詰まらせてしまう。正直そんな事を言ってもらえるとは思っていなかったからだ。

 

「そうか」

「うん、それに僕個人としては君の思いを尊重したいとも思ってるんだ。個人的には堕天使や神父は好きじゃないんだ、憎いほどにね」

「そうか…」

 

 聞いていないところまで口を開いて話し始めた。

 その事実にどう向き合えばいいのか測りかねる。それがどの様な意図から出されたサインなのか分からない。

 

「…………」

 

 小猫は黙って身を屈めながら教会を見つめていた。会話が聞こえていない訳では無いはずだが無視を決め込んでいる。

 ただ今向き合う事ではないのは確かだ。

 

「とりあえず突撃だな。時間もないしもうこっちが来てるのもバレてるだろ」

 

 イッセーは気を取り直してそう言う。

 すると木場は懐から紙を取り出す。それは建物の図面のようなものだった。

 

「相手の陣地に攻め込む時のセオリーだよね」

「ふうん…」

 

 イッセーは思うところはあったがこの場でそれを口にしない。

 彼は開かれた地図をのぞき込む。辺り一帯の施設の位置と建物の簡単な間取りがあった。

 それは彼の幼い事の記憶とほぼ相違は無かった。

 

「仮にアーシアを監禁するなら何処だろうな。離れの物置とか?」

 

 イッセーは思った意見を述べる。

 

「あるとしたら聖堂の祭壇の下かな」

「なんで?」

「はぐれ達は神聖な場所をあえて選んで事に及ぶんだ。自分達を見捨てた神の領域を汚す様にね」

「イカれてんな」

 

 木場はその意見を否定し、持論を述べる。

 それに対して素直すぎる単語を口にする。そんな事などしても神にも天使にも届きはしないだろうとイッセーは思った。

 そんなくだらない細末事などに気を配ってくれる様な神ならとっくにアーシアを救って然るべきだからだ。

 

「…………」

 

 するとそこで小猫は黙って立ち上がる。

 

「どうしたの?」

「もう気が付かれてます」

「まじか」

 

 イッセーからの問いかけにすぐさま答える。

 男二人もその後ろについていく。

 そして教会の聖殿前の大扉に立つ。

 

「聖堂まで寄り道なしで行くぞ」

 

 イッセーのその一言に他の二人は静かに頷く。自ら相手陣地に乗り込む事の重みをその肩に感じながら。

 彼は思いっきり扉を殴り無理矢理開ける。そして迷うことなく飛び込んでいく。

 聖堂までたどり着く。そこには長椅子と祭壇があり、薄暗く古びているがゆえにある不気味さを除けば普通に見えた。だが聖人の彫刻はあえて首より上だけが破壊されており、この場の気味の悪さに味を付けていた。

 

―パチパチパチパチ…

 

 すると講堂内に響き渡る拍手。三人が音のする方へ視線を向けるとそこには柱の影から姿を現す男。

 

「再会だねぇ…感動的だねぇ」

 

 それはフリードと呼ばれていた白髪の神父だった。

 その姿を見てイッセーは不快そうに目を細める。

 

「クソ神父か」

「おやおやつれないねぇ…」

「俺が再会したいのはアーシアだからな」

「アーシアちゃんならその祭壇の下の地下祭壇にいますぞ?」

 

 フリードは余裕の表れか、それとも何も考えていないのか簡単に居場所をばらした。それがブラフである可能性は当然あるが。

 

「じゃあどいてもらうぜ。死にたくないならさっさとここから消えろ」

「もう勝ったつもりですかぁ…?」

 

 フリードはやり取りをしながらもそこで相手がどうしようもなく変わってしまった事に気が付いたようだった。

 

「テメエまさか…」

「ああ…俺は悪魔になった」

 

 イッセーは若干だが苦し気の含まれた表情でそう言った。胸糞の悪い相手だとしても悪魔を異形を嫌悪する視線を受けるのは気分の良いものでは無かった。自分も向けて来たその視線に苦しくなる。

 それに対して神父は歓喜と狂気に顔を染めた。

 

「最高だねぇ!俺としてはお前は殺したいやつランキング上位だったわけですよ!それが悪魔に見出されて転生してくれるなんてさいっこう!一気に殺したい悪魔ランキングを駆け抜けちゃって不動のトップに躍り出たってわけです!」

 

 そう言って片手に光剣、もう片方に銃を構えて戦闘用意をする。

 イッセーもそれを見て神器を構える。それを見てここまで黙って様子を見ていた木場と小猫の両名も構える。

 

「悪魔になる前の俺に勝てない時点で勝機なんてないって分からないのか」

 

 半分困惑といった感じでそう言う。

 実際に前戦った際に悪魔以前に神器の力もほとんど使わずに無傷で相手に手傷を負わせた。あの戦いから殆ど時間は経っていないため大幅な変化や強化があったとは考え辛かった。

 そして何より三体一の時点で有利不利はハッキリとしていた。

 

『Boost!!』

「!」

 

 神器が起動する。フリードは前には無かった神器という要素に警戒心を一層高めた。

 イッセーは相手に攻撃の隙すら与えずに制圧しようと考え、何の小細工も無い正面突撃を敢行した。

 

「はや―」

 

 フリードの口からそんな言葉が漏れる。

 相手が速いと認識するよりも速く距離を詰めた。もはや防御もカウンターも割り込ませる隙も無いタイミング。

 

「ぶへ!」

 

 だがイッセーはフリードを通り抜けて後ろの壁に突撃してしまい情けない声を漏らした。

 

『…………』

 

 フリードだけでなく、味方であるはずの木場も小猫も呆然とそのみっともない姿を見つめる。

 

「いてて…」

 

 恥ずかしさ半分、困惑半分のリアクションを取るイッセー。実際ほとんど痛くは無かったのだが自分の情けない姿を誤魔化す為の動き。

 

『なるほど』

 

 ドライグはこの状況の分析が済んだようで声を漏らす。だが口調はどこか呆れた感じだった。

 

(なんか分かったのか?)

『どうやら悪魔になった事で元々持て余していた力が無駄に倍増して、これまで以上に力を制御出来なくなっているようだ』

(俺は倍化の力ですっ転んだのか…?)

『元々力のコントロールも出来ていなかったその上に悪魔の力を無理矢理上乗せすればそうなる』

(なんだドライグのせいか)

『違う。お前が力を使うのが下手なせいだ』

(仕方ないだろ…下手に特訓したら正体バレるんだから…)

 

 悪魔になった事で力が底上げされる。そして赤龍帝の籠手は持ち主の力を倍化させ続ける能力を持っいる。

 今のイッセーは水がいっぱいに入ったバケツから、小さなおちょこに水を注ぐような繊細かつ困難な作業を強いられている状態。

 

「あぶねぇ!?」

 

 イッセーは素早くその場から飛び出す。彼の逃げた場所には弾痕の後がダダン!と撃ち込まれる。それを慌ててかわすが。

 

「ひゃっほう!」

 

 フリードはその隙を見逃すまいと握っていた光の剣で斬りかかろうとする。

 イッセーは小さく舌打ちをし、とっさに籠手を盾にしようと相手と自分の間に滑り込ませる。

 キインッ!と硬度のある物同士がぶつかる鈍い音が響く。木場が自身の鞘に納めていた剣を取り出し受け止めたのだ。

 

「…………」

 

 イッセーはちょっとだけ思ってしまった。仲間の窮地にすんでの所で助ける騎士、これはとても画になると。そう言う方向の趣味では無いのだが、男としての憧れという目線でついつい見とれてしまう。

 

(余計なこと考えてる場合かっ)

 

 彼は慌てて鍔ぜりあう二人から距離を取る。

 

「…潰れて」

 

 小猫はこれまで沈黙のまま宣教を見守っていたが、隙が出来たと聖堂内の明らかに自身よりも全長の長い長椅子を持ち上げるとフリードに向かって投げつける。

 フリードは自身に飛んでくるそれを認識するや、木場の押し込もうとしてくる力を逆に利用し後ろに大きく飛ぶことでかわす。

 

『…………』

 

 フリード一人を取り囲む三人の悪魔という一方的な状況。明らかに有利なのは悪魔側。

 

「んーんー!これってピンチって奴ですかねぇ、絶対絶命ですかねぇ…俺様的にはここで死ぬのは勘弁願いたいねぇ…ってことでトンズラこきますわぁ…」

 

 先ほどまで殺意満々だというのに突然やる気のスイッチが切れてしまう。

 

「いやーここで悪魔殺せないのは不本意なんだけどねぇ、死ぬのはもっと勘弁なんだよね!」

 

 先ほどまでの勢いから一変して既に視線がガラス窓の方へと向く、口で時間を稼いで脱出口とタイミングを伺っているのだ。

 

「レイナーレは死ぬぞ」

 

 イッセーは事実を伝える。レイナーレと何度か対峙して、脅威になるとは思えなかったのだ。

 

「確かにねぇ、でも仕方ないよね!あんなのエロ妄想の元ネタが限度ですわ。ってなわけではいちゃらばっ!」

 

 そう言い放つとフリードは隠し持っていた閃光球を地面に叩きつける。

 そして周りから光が失せるとそこには誰もいなかった。

 

「行くか、あのクソ神父を追っかけてる時間もないしな」

 

 イッセーのその言葉に木場と小猫の二人も頷く。

 三人はすぐさま地下に繋がる扉を見つけて飛び込んでいく。

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