ちょっと不幸なイッセーくん   作:高町廻ル

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やり遂げた瞬間が一番隙だらけになるらしい

「本気でこんなトラップで守れるなんて思っているのかしら」

 

 ライザーの眷属の一人が霧がかった森の中を丁寧に罠に引っかからないように探索する。

 彼女たち兵士三人組は体育館組が暴れている間に、相手本陣である旧校舎に入って女王へとプロモーションをして撤退する役割を担っている。

 兵士三人が女王になった所でリアス・グレモリーに勝てるなどと自惚れていない。少しでもパワーアップを図り、その下僕を倒すなり、時間稼ぎをすればいいのだから。

 

「あっ、あれが本陣ね」

 

 一人が旧校舎を見つける。残りの二人もそれを視界に入れて向かう。

 三人の心の中に余裕が生まれる。細かいトラップを複数個用意する事で少しでも時間を稼ぐ、無い所に罠があるのではと思い込ませることで少しでも人手不足を補おうとする策。

 

『えっ』

 

 だが校舎を前にして建物が揺らめいて空気へと溶けた。校舎の姿すらも虚像だった。

 

「残念だったね」

 

 語り掛けてくる男の声。それは腰に帯剣した木場だった。

 三名は慌てて声のする方向へと振り返る。

 

「もうここはうちの『女王』が作った結界の中さ」

「しまったっ…!」

 

 そのセリフに一人が歯噛みする。

 目の前の簡単なトラップばかりを気にして攻略しているつもりになって、少しでも注意を向けていれば気が付いていたであろう大きな結界の入り口を見逃した事実に。

 

「結構好みだから迷っちゃうけど。まさか私達三人を相手に勝てるつもりかしら?」

 

 この状況でも強気でいる。

 実際に三体一の状況どちらが有利なのか、算数が分かっていれば誰でも分かる状況。それでもなお不意打ちの一つもしない相手に素人ではと思い込み、心に何とか余裕を作ろうとする。

 

「試してみるかい?」

 

 彼は一言そう言って剣を抜いた。

 凪のような爽やかさがあったが、三人は助からないことを既に悟っていた。だがそれでも直接戦闘に向けて構える。

 舞台は既に整えられている。木場は負ける気がしなかった。

 

 

『ライザー・フェニックス様の「兵士」三名、リタイア』

 

 二分後、一方的な蹂躙を伝えるアナウンスが流れた。

 

 

 ―ドォン!!

 

「ッ!?」

 

 突如発生した割れるような炸裂音に小猫は一瞬背筋が凍る。

 そしてドシャッ!と誰かが地面に叩きつけられる。

 

「っ…ぐぅ…!」

 

 正体はフードを被り魔導士の姿のライザーの女王だった。

 フードは既にボロボロでなんとかリタイアしないように意識を保っている状態。

 

「テイク」

 

 朱乃の冷静な一言。巫女服を身に纏った彼女が上空高くで雷を纏いながらいつものニコニコフェイスで宣言する。

 

「これは…」

「言い方は悪くなるけど…兵士の女の子達は明らかに捨て駒だったから何か罠があるかもって思ったんだよ。だから朱乃さんに上から見てもらってたんだ。そしたら案の定」

(まぁ俺一人で気がついたわけじゃないけど…)

 

 ちょっとしてやったりな感じだが、内心は少しだけビビっている。一歩間違えば、何か読みを外せば敵の攻撃の格好の的になっていたからだ。

 冷静に考えればリアスが考えられる作戦は、ゲームのプロプレイヤーであるライザーも同じような行動を取る事は難しくなかった。

 相手の女王はギリッと睨む。地面に這いつくばらされている現状が屈辱で仕方ないのだろう。

 また何より眷属を一方的に失っただけという結果も許せないのだ。一方的にやられてでも捨て駒になった者達への覚悟に報いれなかったのだから。

 

「これを使うことになるとはね…」

 

 懐から小瓶を取り出す、液体が入っていることだけ遠目からでも何となくは分かる。

 

「それはっ!」

 

 朱乃だけはそれが何なのか気がついたようだった。

 相手はそれをあおった途端、手ひどくやられた傷がみるみる消えていく。

 

「なんだあれ…」

「フェニックスの涙」

 

 イッセーの疑問に小猫が答える。

 

「ふ、フェニックスの涙?」

 

 初めて聞くそれに疑問しかない。勉強会では教えられていない。

 小猫が知っている事からゲームでは必要のない事と思っていたのだ。

 

「フェニックス家の悪魔の人が作れる回復薬のようなものです」

「そんなのありなのかよ…いやでも体育館の子達は使ってなかったよな」

「二個までなら使用は認められてますから…」

 

 回復役がいるのはこちら側のアドバンテージだと思っていただけに出鼻を挫かれた気分になる。あと一回は相手の眷属が復活すると考えなければいけないという事だ。

 リアスは本来描いていた結果とは細部が異なる状況、それに対して追加で指示を出す。

 

『朱乃、その女王はあなたが押さえてちょうだい。二人は予定通りに裕斗と合流』

 

 早期に相手の女王が出てくるハプニングはあったが、結果として一度の回復は潰せた。

 もし仮にフェニックスの涙を知らない状態で戦っていたら朱乃は情報の差で間違いなく負けていた。

 

「朱乃さん!その人は任せます!」

 

 イッセーは小猫を連れて木場が潜んでいる森の方へと走っていく。

 相手の女王は背中を見せる相手に対して魔力攻撃を加えようとするが、朱乃がスッと降りてきて間に入り立ちふさがる。

 何故かその言葉を貰うと彼女の心に勇気が溢れてくるような気がする。

 

「任せてください。この方は私が責任を持って倒しますわ」

 

 朱乃その宣言に、相手は水を差されて苦そうな顔をする。

 不意打ちとはいえ半端な悪魔であれば戦闘不能に追い込まれない、少なくともそれくらいの実力を相手は備えていた。

 だが食らった一撃のせいで涙を使わなくては戦場に復帰出来なかった。まだ未成人の転生悪魔だというのに上級悪魔レベルの力を有している、それが姫島朱乃。

 

「雷の巫女。あなた結構な注目株なのよ?」

「あら嬉しいですわ、ユーベルーナさん。『爆弾王妃』と呼んだ方がよろしいですか?」

「その呼び名、好きじゃないの」

 

 二人の間で大きな爆発が起こった。

 

 

 二人は朱乃から背を向けて運動場へと走っていた。

 

『ライザー・フェニックス様の「兵士」三名、リタイア』

「これは…」

「木場だな。やったんだな」

 

 二人はアナウンスから作成通り事が進んだことに安堵した。

 この時点でライザーの眷属は合計七名失った事になる。

 兵士がイコールで弱いという話では無いが、まだ騎士や僧侶といった転生時の力が強い面子は残っているため余談は許されない。

 

『体育館倉庫裏だよ』

 

 インカムから木場の声が聞こえる。その内容からこちらが見える場所にいるのが分かる。

 

「よう」

「上手くいってるみたいだね」

「始まって即退場じゃ申し訳ないからな。一人もかけてないし」

 

 グラウンドからは死角になる倉庫の裏手に木場はいた。

 その姿は怪我一つない、爽やかに仕事をこなしたに違いない。

 

「うん。小猫ちゃんも無事でよかった。怪我はないかい?」

「大丈夫です」

 

 小猫も入れてお互いに健闘を称え合ったところで意識を試合に戻す。

 

「敵はどうなんだ」

「さっき見た段階ではこのグラウンドに『騎士』『戦車』『僧侶』が一人ずついるよ。隠れて待機している可能性もあるけど」

 

 この場所で待機している間も魔力的な力か、もしくは使い魔等で情報収集はしていたのかスラスラと情報を話す木場。

 イッセーは素直に思った事を言う。

 

「すげえ厳重じゃねえか。割と主力だよな駒的に」

 

 木場は苦笑い。小猫も呆れたような雰囲気を。

 

「体育館を破壊したからね。個々の守りを強化して来ているんだ」

「読み通りと言えばそうなんだろうけどな」

 

 ライザーが攻めるとしたらグラウンドから森を迂回するルートと体育館を使うルート。一つしか使えないのなら主力が集中する場所も限られてくる。そしてそれはリアス側も同じ。

 

「体育館のようにはいかないな」

 

 イッセーは少しだけ思った。先ほど以上に神器の力を開放しなければこの先は厳しい、一人一人はそこまで苦戦しないがいまだに数が多い。

 

「怖いのかい?」

 

 木場はそれを見て意外そうにする。

 イッセーの手は僅かながら震えていたからだ。小猫も驚く、先ほどの戦闘では見惚れてしまうくらいには落ち着いて場を制圧していたからだ。

 

「……まぁそうだな。別に傷つけあうのがってわけじゃない。繕おうってわけじゃないけど、力のコントロールが未熟だからってだけだ。そんなに落ち着けるお前が羨ましいよ」

 

 特訓と慣れのおかげから以前よりも神器の力をコントロールして引き出せるようにはなったがそれでも暴走と隣り合わせ。長時間戦い続ければ必ずボロが出る。

 木場と小猫はイッセーに比べて鍛えた時間も実戦の経験も上。自身に何が出来て、何が出来ないのか、それを理解して立ち回る事が出来る。

 

「まあなんだ。俺は二人ほど実戦経験ないし、格下と戦ったことはあるけど同格格上とはやりあったことが無いからな、否が応でも緊張するさ」

「そうだね。でも僕も」

 

 木場もまた小さく手が震えていた。

 そしてその事を告白した事実にイッセーと小猫は驚く。いつもすまし顔でなんでもこなしてしまう男が弱さを見せた事に。

 

「初めての悪魔同士での真剣勝負。一瞬だって油断も隙も見せられない。これは部長にとっても僕たち眷属悪魔にとっても全てをぶつけあう場なんだよ。そしてそれは相手も同じ、今後の全てにもつながる大切な場。僕は歓喜と共に恐怖も感じてる、それらすべてを糧にしてもっと強くなるよ」

 

 イッセーは木場の独白に素直に凄いなと言う簡潔な意見しか思えなかった。

 これまで自分の力は自分の為に振るって来た、でも今はそれだけではない、誰かの為に神器の力を振るっている。

 リアスたちに関わってから面倒に巻き込まれてばかり、でもなぜか嫌じゃない。

 

「…私もこのゲーム勝ちたいです。部長の為にも…」

 

 小猫もこの場の空気に当てられたのか簡潔述べた。

 木場は驚いていたいつも無表情気味で何を考えているの変わらない事が多い、それだけにこうして感情を見せるのは久しぶりだった。

 十日間とはいえ一緒に修業をした影響なのか、ほんの一部とはいえ心の中に隠していた本音が三人から不思議と出て来た。

 

「勝とうぜ」

「うん」

「はい」

 

 まだまだ仲間にはなりきれていない。でも今は目的が一つだからこそそこに向かって行けばいい。

 

「私はライザー様に仕える『騎士』カーラマイン!」

 

 話し合っているとグラウンド側から勇ましい女性の声がする。

 

「こそこそと腹の探り合いをするのも飽きた!リアス・グレモリーの『騎士』よ、いざ尋常に剣を交えようではないか!」

 

 カーラマインと名乗った女性はグラウンド真ん中で大声を上げている。どうみても的になりに来ているとしか思えない。

 

「なんだありゃ、罠か?」

 

 イッセーは一番ありそう理由を口にする。

 木場はふっと笑み浮かべて倉庫の影から出て行く。

 

「名乗られてしまったら『騎士』として剣士として、隠れているわけにもいかないか」

「え、何それ…カッコイイ……」

 

 あまりにも様になり過ぎて嫉妬する気すら起こらなかった。

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