堂々とグラウンド中央を歩く木場の後ろをついて行く
お互いの戦力がグラウンドに集結する。
木場の言った通り戦車一人に、騎士と僧侶が二人ずつに残った二人の兵士。
(女王の人を除いたらここに全員投入か、ライザーのやつは丸裸…不死身だからって余裕だな…舐めてるのか?)
女王の戦いは今も継続して行われている。遠くから爆発音が響いている、アナウンスも聞こえない。
「僕はリアス・グレモリーの眷属の『騎士』木場祐斗」
「『兵士』、兵藤一誠」
「リアス・グレモリー様の下僕、『戦車』搭城小猫」
木場に倣って残り二人も一応名乗る。
カーラマインと名乗っていた女性は嬉しそうに口元に笑みを浮かべる。
「リアス・グレモリーの眷属悪魔にお前たちのような戦士がいた事を嬉しく思うぞ。堂々と真正面から出てくるなど正気の沙汰ではないからな」
イッセーは木場が堂々としていたから頭から抜けていたが思いっきり不意打ちをかませばよかったと思った。
「『騎士』同士の戦い、待ち望んでいたよ」
木場は剣を抜きながら戦意を漲らせる。
「よく言った、リアス・グレモリー『騎士』よッ!」
二人は斬りかかり剣戟を繰り広げる。
騎士同士なだけあって二人のスピードは速く
「どうする…?」
剣士のノリについて行けないイッセーは取りあえず小猫に伺う。普通に考えるのなら木場の応援をしてさっさと敵を倒す方が良い。
小猫は一対一なら勝てると思っているのか、視線を別方向に向ける。
「あの人は祐斗先輩に任せましょう」
「そうだね」
彼らが視線を向けたのは同じく仲間であるカーラマインの名乗りを黙って聞いていたライザーの眷属悪魔たち。
イッセー達の視線に気が付いた顔の半分だけを仮面で隠した女性が反応した。手足はすらっとしており長く、手にフィンガーグローブを装着している事から見た目の情報だけながら近接格闘がメインのように見える。
「私達も始めるか」
(この人…兵士の子達より明らかに強い)
イッセーは相手に呼応して油断なく構える。
カーラマインと名乗った女性だけが一騎打ちを望んでいるだけで、他の眷属は全員で取り囲んで来てもおかしくはない。
相手がタイマンのつもりでもその仲間は隙あらば横やりをしてきてもおかしくない。常に意識から外さないように努める。
「まったく…頭の中が剣剣剣で塗りつぶされた物同士、泥臭くてたまりませんわ。カーラマインったら兵士たちを犠牲にする時も苦い顔をしておりましたし、主である王の戦略がお嫌いなのかしら。せっかくかわいい子を見つけたと思ったらそちらも剣バカだったなんてついてませんわ」
西欧のお姫様のようなドレスを着た金髪縦ロールのお嬢様然とした少女が喋り出す。
結構余裕そうに構えも取らない、何か秘密の力を持っているのか目の前の敵を脅威とすら思っていないのか。
「あの方…男の趣味が悪いのかしら」
「失礼な!」
しれっと失礼なことを言ってくるもんだからつい言い返す。彼女いない歴が年齢とイコール関係なためそう言われるのは傷つく。
『Boost!!』
神器を構えていつでも僧侶の娘に殴りかかれるように構える。勿論目の前の戦車からも意識を外さずに。
背後にいる小猫も同じく構えを取る。
「私あなたのお相手はしませんわよ。イザベラ、あなたがお相手してあげたら?」
そう言って挑発してきたはずなのに一歩離れて観戦しだした。
「元からそのつもり。さあ私達も始めようか」
「いやまあそうだけど…」
イザベラと呼ばれた仮面の女性もまた同じように構える。
だがイッセーは釈然としない。挑発しといて高みの見物と言うのはどうにも納得いかない。
そう言えばとイッセーはライザーの試合の動画を見た際にあの縦ロールの子だけはどの試合も戦っていなかったな事を思い出した。
何かしらの情報戦を得意としているのか、サポート的な力を持っているのか不明な相手だった。
「な、なんなんだあの子は…」
「あー…気にしないでくれ…基本的にゲームには参加しない…観戦するだけだ」
イザベラは苦笑いする。恐らくこの問答は何度かしているのか、元々質問が来ると予想しているのか淀みが無い。
「なんだそりゃ!」
眷属悪魔が全て従順かつ円滑な関係性を『王』と結べるわけでは無い。はぐれ悪魔の存在を知っているためこじれた関係性があってもおかしくはない。
だが縦ロールの少女はそれには当てはまらないように感じる。
「あの方はレイヴェル・フェニックス。ライザー様の妹君だ」
「えええええ!!!!」
ある意味一番驚いた。あの男は妹すらハーレムに加えていたのだ!
「悪魔って近親相姦ありなのか!」
世界の歴史でも血筋と血統を重んじる貴族が家族同士で子作りをするケースは存在した。だが同じ血が交わるごとに容姿が奇形になるためそれらは破綻している。
悪魔も生殖で増えてかつ遺伝という概念が存在するため親等の近い者同士でというのは考えにくい。
「いや、ライザー様曰く『妹をハーレムに入れる事に意義がある。ほら近親相姦にあこがれるやつとかいるじゃん。まあ俺は妹萌えとかじゃないからカタチとして眷属って事で』だそうだ」
イザベラも少しだけ呆れているようだった。
ハーレムの一員とはいえ別にライザーのやる事や思想全てに肯定というわけでもないらしい。
「バカなのか!?」
(羨ましい。俺も妹が欲しかった!)
イッセーは何とか本音を隠して建前だけ口にする。
よく言われる妹なんて可愛くとも何ともない。たしかにそうなのかもしれない、だがそれは一人っ子には決して理解してもらえないものだ。
兵藤夫妻の前で妹が欲しいなど死んでも言えないが。
「いくぞっ!」
一瞬で間合いを詰めて殴りかかっていく。
反射的にかわす。
(ボクシング!)
人体を破壊するための格闘技に悪魔としてのパワーと魔力が上乗せされている。直撃すれば体によろしくない影響を与えるのは確実。
相手の拳を真正面から受けずにいなすように躱す。彼は相手の腕が伸びた時点でカウンターの要領で殴りかかるが、うまく体重移動で後ろにいなされる。
「思っていた以上にやるな。ここまでいなされるのは久しぶりだ。流石赤龍帝、神器を振り回すだけではないな」
「そりゃどーも」
褒められても浮かれているのを表に出さず気を引き締める。
相手からの賞賛とはいえ褒められて悪い気はしない。
この技術を付け焼刃とはいえ身に付けられたのは皆が親身になって教えてくれたからこそ。リアスとその仲間たちの力だからだ。
そして戦いながらも周りにも注意を払う。
「…………」
小猫は獣人っぽい兵士の二人と僧侶にマークされていた。
防戦一方、相手の一撃は軽く小猫ならノックダウンするほどでは無いが、小刻み攻撃を加えて反撃の隙を与えないように立ち回っている。その様子から何度も連携の練習してきたのだと分かる。
『Boost!!』
(あんまり時間を使ってる余裕はないな…)
早く小猫の援護をしたいのだがイザベラ自身が思っていた以上に粘って来る。与えているダメージはイッセーのほうが上なのだが致命傷だけは避けてくる。
倍加の危険性を分かっているのか掴みかかられるのを避けつつも、距離を置いて魔力砲の餌食になるのも気を配っている。何度も格上の相手とやりあってきた証拠、少しでも粘ってイッセーの体力を削ごうとしているのだ。
武道家としての矜持と冷静にチームとして勝つための判断を併せ持っているのだ。
『ライザー・フェニックス様の「女王」一名、リタイア』
『なっ…』
そのアナウンスにライザーの眷属の皆が驚く。
「女王」つまり駒としては最大戦力がやられた事を意味しているのだから。
「まさかユーベルーナが…」
レイヴェルが特に狼狽していた。まさか女王が負けるなど思っていなかったのだろう。
それは他の眷属達も同じようで動き精細が無くなっている。
(ここだ!)
『Explosion!!』
イザベラもレイヴェルと同じく動揺からか動きが止まっている。その隙を見逃してやるほど彼は優しくはない。
手のひらに体中の魔力をかき集めて、力を解放した神器の能力でその質量を増幅させる。
「しまっ」
彼女は相手の攻め手に気が付いたが既に魔力を発射する用意は出来ている。
ドシュゥゥッ!!
イザベラは膨大な魔力の波動に包み込まれて消えていった。
『ライザー・フェニックス様の「戦車」一名、リタイア』
一瞬にして主力が二人立て続けに倒されて事でこれまでにないほどライザーの眷属達は動揺していく。
「決して侮っていたわけでは無いが…赤龍帝…その実力は下級悪魔の域は余裕で超えている…イザベラは上級悪魔並なのだが」
木場と斬りあっていたカーラマインはそう分析した。決して侮っていた話ではない、警戒は怠らなかった。それでなおイザベラを倒して見せた。
「しかし魔剣使い…数奇なものだ。私は特別な剣の使い手と戦い合う運命なのかもしれない」
「へぇ、僕以外の魔剣使いでもいたのかな」
木場は相手の軽口に付き合っている。
だが次の一言でその雰囲気も一変する。
「いや魔剣ではない。聖剣だ」
「―っ」
聖剣という単語を耳にした途端に雰囲気が剣呑になる。
「その聖剣使いについて訊かせてもらおうか」
明らかに殺意に満ち満ちている。
先ほどよりも剣筋が荒くなっている。いつもなら相手の出方を見ながら適切な魔剣を選択、そして繰り出して隙を作ろうとするはずなのに。
(何やってんだ木場!)
イッセーは小猫の援護をしながらも内心で苛立つ。
リアスの勝利の為に凄んだり、必死なあまりに殺意が出てしまうのはあるかもしれない、いつもよりも武器に持つ手に力が入り込んでしまう事もあるだろう。
だが今の木場はここがレーティングゲームの舞台であり、リアスの名誉の為に剣を振るっているという感覚を失っている。
チラリと小猫を見ると申し訳なさそうに顔を逸らされた。木場が冷静さを失っている理由は分かっているが口外は出来ないという事か。
突然ドン!と爆発音が鳴り響いた。
「なんだ?」
イッセーは遠くから聞こえる爆発音に不審そうにする。この場以外で戦闘音など聞こえるはずがないのに。
「…まさか」
小猫はここで何が起きているのか察した。
「お兄様ったら…予定よりも早いですわね」
レイヴェルは呆れているようだった。
彼女は何が起きているのか分かっている。
「早いって…まさか」
イッセーは呟きながらも気が付いた。
爆発音は旧校舎側から聞こえて来た。そしてフェニックス側でこの場にいない人物は誰がいたのか。