「終わりですわ」
朱乃はその手から雷撃を迸らせユーベルーナを葬る。
『ライザー・フェニックス様の「女王」一名、リタイア』
ここまで苦戦したのは初めてだった。
朱乃自身も腕には確固たるものがあった、だが相手のそれも同じで一進一退の攻防こそあったが退けることに成功した。
多少の手傷はおっているし、息も上がっていたがリタイアするほどではないし、やり遂げた達成感はある。
「先輩ですもの、うふふ」
これまで頼られる事は当たり前だった。眷属の中でも一番の古株で年齢も上なためかそれが当たり前だった。
だがイッセーは先輩後輩は最低限わきまえた上で、同じ場所に立つ仲間として同じ目線で話してくれているような気がする。分け隔てないと言えばそうなるが。一方的に頼るのではなく、力を認めてこの場を任せる。それは悪い気がしない。
彼女の評価は可愛らしい後輩といったところか、男性が比較的苦手な彼女からしたら最上級の評価を下している。
正直、仮に告白をされたら異性として付き合ってもいいと思えるくらいには許せる。
「さて、グラウンドに向かいましょうか…それとも一度アーシアちゃんに…」
『ライザー・フェニックス様の「戦車」一名、リタイア』
「ッ!」
鳴り響いたのは敵兵を一人削ったというメッセージ。これで相手はキャスリングの択を失ってしまう。
(残りの相手眷属はリアスの所まで帰るよりも予定通り援護に向かった方が)
朱乃はまず取り囲まれているであろう後輩たちの援護に向かう事にした。そして取り囲まれながらもうまく立ち回り善戦している後輩たちが見える。
―ドン!
大きな音が彼女の足を止める。
「いったい…」
援護へと向かっている途中で爆発音が響く。
「…リアス!」
断片的に流れてくる情報からライザー以外こちらの本陣に奇襲をかけれる人物はいない。
これまでの『犠牲』も戦力を一点に集中させていたのもこのため、リアスの策に乗せられているように見せかけて王で王を取りに来た。
◎
「皆さん大丈夫でしょうか…」
アーシアは不安でたまらない。
自信を守る力がない上で回復役と言う大役を任されている以上、下手に前線に出ることが出来ない。
決してその事を責めるような仲間はいないが、自身の罪悪感という拭えない敵がいた。一応特訓をしてそれなりの逃げ足は鍛えたしイッセーから色々とアドバイスは貰ったが、それでも戦闘力は皆無に近い。
リアスは不安で押し潰されそうな相手に回答をする。
「そうね。先制攻撃は成功したわ。相手の『女王』が出張ってきたのは予想外だけど。こちらは無傷で相手の駒だけを削れているわ。今のところは順調」
今のところは順調であるのは間違いないのだ、それはアーシアも分かっている。なのに表現できない不安が支配するのはリアスも同じ。
相手は既に成熟した悪魔、それもフェニックス家の才児だ。リアスも冥界では天才ともてはやされてきたが、ライザーはその比ではない。
(私は恵まれているわね…)
彼女にとって渡りに船だったのは赤龍帝であるイッセーの加入とアーシアという貴重な回復役を獲得できた事。
朱乃、木場、小猫、そして今回はある理由から参戦が見送られた僧侶が一人いる。彼らはいずれも将来は冥界を背負うほどの素養を持った自慢の眷属達だった。だが現時点ではライザーを倒すのには物足りない。
訓練の中で見た神滅具の底知れない力とアーシアの持つ癒しはフェニックスと渡り合える。
『ライザー・フェニックス様の「女王」一名、リタイア』
「朱乃!」
その報告を聞いてついリアスは歓喜と共に立ち上がる。
ライザーにとって最大の配下を失った事になる。これは相手の士気に大きく関わる。
「部長さんっ!」
「ええ、油断は禁物…でも勝機は見えて来たわ」
そうしているとまた続けてアナウンスが入る。
『ライザー・フェニックス様の「戦車」一名、リタイア』
リアスはそれを聞いてテーブルの上に置いてある地図を弄る。
フィールドである学校にそれぞれ色分けされた駒を配置している。
「ライザーは今本陣で一人…」
これまで相手の駒を殲滅する事ばかり考えてきたが気が付けば自身の守りをここまで手薄にしているのは異常に思えた。
確かにフェニックスはあり得ない回復力を持っている為にレーティングゲームの上位に居座る一族。だが例えば昏倒させる魔術等を食らえば無傷でも戦闘不能として判定されて負けてしまう。
最低でも自分のフォロー出来る眷属は配置するべきだ。だからリアスはアーシアを傍に置き続けているのだから。
考えば考えるほど分からなくなる。
―ドン!と部室の壁が破壊される。
「なっ!?」「きゃあっ!」
土埃が撒き散らされる。視界は不良だったが覚えのある声が聞こえる。
「よう、愛しのりーあーす。引導を渡しにきたぜ?」
「ライザー…?」
ライザーが直接乗り込んできた。
よく見ると相手の顔も服も傷だらけ、仕掛けておいた罠を無理やり突破してきたのだ。不死身の特性にものを言わせて。
リアスは何とか目の前で起こっている出来事を整理する。王で王を詰ませに来たあまりにも強引な一手。だがリアスにとっては致命的。
何故ならこのゲームにおいては「王」同士が一番力の差が出るマッチアップだからだ。
「「……」」
二人は睨み合う。だがライザーが余裕そうなのに対してリアスは切羽詰まっている。
バッとお互いに手のひらを相手に向けて魔力を放出する。互いの一撃がぶつかり合い、旧校舎の部室が吹き飛んだ。
爆発に紛れてアーシアを抱えたままリアスは校舎の屋上に避難した。服の端は破れて息も荒い、ここに来るまでの緊張で精神的に疲労をしているというのもある。
「リザインしろリアス。花嫁を傷つけるのは趣味じゃないんだ」
「誰が!」
アーシアを背中に隠すように庇いながら吠える。
そして魔力塊をぶつける。当たった先が消滅をするのだが、体が炎に包まれるとすぐに何事もなかったかのように再生する。
「その『僧侶』は切り札か何かか?それにしては怖がっているようだが」
そう言われてもギリギリまで教えない。
一見アーシアは無限に対象を回復できるように見えるが、一度力が割れたら次は回復役が集中して狙われる。
そもそも回復しても体力は元には戻らない、それはフェニックスも同様ではあるが。仮にお互いダメージを受けて回復を繰り返したら体力的にジリ貧はリアス側。
「もう良いだろうリアス。お前の眷属たちは立派だ、認めよう。あと一、二年鍛えていたら結果は違っていたはずだ。正直驚いた、ここまで追い込まれるとは思っていなかったからな」
ライザーの賞賛はおふざけ無しの真剣なものだった。お世辞や揶揄するような色は一切混ざっていない。
彼からしたらこうして一騎打ちに持ち込む状況は一種の屈辱だからだ。
眷属が揃っておらず未成熟な悪魔だけのリアスとフルメンバーが揃っているライザー。普通の評論家ならライザーは拠点から一切動かずに勝てるだろうと見る。彼もまた傲慢でもなくそう思っていた。
だが蓋を開ければフェニックスの涙という一手を使ってなおリアスの眷属を一人も削れない。
引導を直接渡す為に乗り込んだという大義名分で動いてはいる。だが実の所はグレモリー眷属の成長速度と赤龍帝の実力が予想以上に高かったからだ。
何か一つでも噛み合えば負けるのは自分かもしれない、その考えが彼を支配した。
彼にはイメージが出来ない、プライドの高い自分が負けたらどれほどのものを失うのか。
「さぁ、リザインしろリアス!」
「誰が!」
ライザーから放たれる炎の一撃を魔方陣で抑えるが、その一撃は到底防ぎ切れるものではなく彼女の体の節々は傷ついていく。
「くっううっ…!」
攻撃を一度は防ぎきった。だが既に疲労困憊で次の一撃は防げない。
「部長さん!」
アーシアは慌てて神器を取り出す。その力でリアスを癒していく。
リアスの体から傷が消えていく。ライザーはそれを見ていた。
「へぇ…」
僧侶を何故スカウトしたのか、戦場に連れて行かずにそばに置いていたのかを彼は理解する。
だが一度タネが割れれば対応するのは難しくない。回復する余裕を与えないだけのダメージをリアスに与えてリタイアさせるか、アーシアを直接狙って回復元を断つでもいい。
もう既に盤面は詰み、そう思えた。
『お兄さま!』
ライザーのインカムに妹のレイヴェルの通信が入る。
彼は珍しいなと思った。あまりゲームに積極的ではなく、試合を通してライザーの横で何もしない事すら珍しくない。
今回はイッセーという不確定な要素があったため、前線に出てもらったのだが。
「どうした」
彼は訝しげになる。だが通信内容のせいでその余裕さは無くなる。
『赤龍帝がそちらに向かっています!』
「なに…」
ここに来て、不穏な因子がチラつく。圧倒的に優位なはずなのに何故か寒気がする。
『リアス!今イッセーくんが向かっていますわ!それまで何とか!』
リアスもまた連絡が入る。それはアーシアにも入っており、目に見えて顔色が良くなる。
その瞬間、リアスとライザーの目が合う。何故かイッセーが間に合うか否かがこの戦いの焦点にすり替わっていた。
「決着をつけさせてもらうぞ、リアス!」
「くっ!」
ライザーは先程よりも強い力を込めた一撃を放とうとする。
リアスは何とか心を奮い立たせてはいるが、力の差は歴然で防ぐのは難しい。
放たれた火炎はリアスとアーシアを飲み込んだ。その炎は辺り一体を灼熱に包み込んだ。飛び火した火の粉は辺りに生えている森にも引火をして火事を起こす。
ゲームであるが故に死ぬことはないが、もし仮に実戦で直撃したら骨も残らない。
「……?」
ライザーは疑問符を浮かべた。
間違いなく全力で放ったはずの攻撃。なのにアナウンスが響かない。
「なにっ!」
ライザーの視線の先、そこにはアーシアがいた。
手を組んで祈るようにその場に佇んでいた。全身から癒しのオーラを放出していた。
自身を無理矢理癒す事でライザーの炎によるダメージを塗り潰したのだ。
「アーシア…」
リアスは驚いていた。あのアーシアが自分の前に立ち塞がるように前に出たことを。
「私だって…グレモリー眷属です…戦えます!」
顔に疲労が現れており、お世辞にも様になっているとは言い難かった。
強い力を使った反動が既にフラフラで、足元もおぼつかない、だがその口で力強くそう宣言した。
「頑張ったなアーシア。あとは任せろ」
倒れそうになった彼女を支える人がいた。
かつてのように助けに来てくれた時のことが彼女の脳裏にフラッシュバックするが、何とか気は保つ。気絶をしたら即失格になるからだ。
イッセーは彼女を抱き抱えるとリアスに渡す。
「お願いします」
「来てくれたのね」
決してライザーに勝てると決まったわけではなかった。それでも先程までの絶望感は不思議と消えていた。
「勿論ですよ!だからご褒美お願いしますね!」
いつもの通り明るく朗らかに返す。
リアスは一見すればいつものスケベ根性が出ているかのように思えるが、その雰囲気には剣呑なものがあった。まるで何かを覚悟したかのような。
これから何かリスクのある事をする気なのか。
「イッセーあなた…」
「負けるのは嫌なんですよ。やるからには勝ちます」
彼はそう言ってライザーに向かって歩いていく。
二人は踏み込めが攻撃が当たる位置まで詰め合う。
「レイヴェル達をかわしてここに来たか」
「ああ、うちの女王が来てくれてなんとかな」
「俺はフェニックス、赤龍帝とはいえ勝てるとは大きく出たな」
ライザーは強気にそう返す。それは強気な発言によって自分を鼓舞しようとしている様にも見えた。
だがイッセーにはそんなプロレスに付き合っている余裕はない。
「皆んなが稼げる時間はそう長くないんだ。悪いが一撃で終わらせてもらうぜ」
彼はそう宣言して籠手を構える。
「一撃だと、調子に乗るなっ!」
ライザーはコケにされて苛立ちを見せる。
これまで勝つことが当たり前で畏怖され、敬われるのは当たり前だった。
リアスのような類の敵意はあったが、英雄色を好むという格言がある様に、力も地位があれば相応の嫉妬や敵意が付いてくるのは仕方ないと思っている。だからこそこれまでは多少の挑発は流せていた。
これまでフェニックスと対峙した者は一様に絶望と畏怖の視線を送ってきた。だが目の前の敵は勝てるつもりでいる。
イッセーは周りに赤いオーラを撒き散らす。
「なんだっ!」
ライザーは目の前で起きている現象をただ見ていることしか出来ない。
『Welsh Dragon Balance Breaker!!!!!!!!』
理不尽な力の権化がこのフィールドを支配する。