ちょっと不幸なイッセーくん   作:高町廻ル

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王子様抱っこ

「くそっ」

 

 イッセーはライザーの動きに気が付いてリアスのもとに向かう事に。

 

「させませんわ」

 

 その動きを止めようとするのはレイヴェル。

 

「戦わないんじゃないのか?それともスカしたポリシーを曲ないといけないくらい焦ってるのか?」

 

 イッセーは取りあえず煽りながら図星を突く。少しでもこれで頭に血を上らせて冷静さを失えば隙が作れる。

 予想通りにレイヴェルは怒りを顔に滲ませていたが、ライザーへの道を阻むのは止めなかった。ここで盾になって少しでも時間を稼ごうという構えか。

 フェニックスの妹なら当然不死の強みを持っていると考えられる。彼女からすれば仮に倒せなくてもひたすら耐久して一、二分稼ぐだけで勝負は決する。

 

「お兄ちゃんの婚約がそんだけ大事か」

(まずいな)

 

 レイヴェルを倒すのは難しい話ではない。

 問題はフェニックスを戦闘不能にするだけの技を使うのは一日に一回が限度だという事だ。それをレイヴェルに使っていてはライザーまでは届かない。

 

「あらあら、余裕がなさそうですわね」

「なっ!」

 

 レイヴェルの背後から聞こえてくるのは朱乃の声。聞こえてきた方へと視線を向けた。

 

「みんな頼んだ!」

 

 イッセーは自分のマークが外れた瞬間に飛び出して行く。

 木場も小猫も大勢に囲まれているためそう長くは持たない。レイヴェルの実力は未知数だが上級悪魔の血筋と考えると相当の実力を持っていると考えられ、既に「女王」を一人倒して消耗している朱乃が勝利するのは難しい。

 何よりも捨て駒として扱ってしまう事に心苦しさはある。可能なら全員一丸になって勝ちたかった。どんなに過程で仲間がやられたとしても相手の「王」さえ討ち取ればそれで勝ちになる。

 

「このっ」

「私はそう簡単に逃がしませんもの」

 

 レイヴェルは苦い顔をして追撃しようとしたが、朱乃は煽りを入れながら食い止める。

 彼女がそう簡単に逃がすのを許すはずもない。

 

「そうだね。僕も最後まで足掻こうじゃないか」

「はい、負けていられません」

 

 ライザーの他の眷属達も追いかけようとするが木場と小猫が壁になって逃がさない。

 

 イッセー仲間を踏み台にするその決断を皆は笑みを見せて応えた。イッセーの本気がライザーを上回ると信じて。

 

 

「皆が稼げる時間はそう長くないんだ。悪いが一撃で終わらせてもらうぜ」

 

 リアスはイッセーの宣言に耳を疑った。

 

(一撃…?)

 

 あのライザー・フェニックスをたったの一撃で倒すと言ったのだ。

 しかもそれは強がってビックマウスになっているのではない、本気で言っている。

 それはアーシアも同じで困惑している。

 

『Welsh Dragon Balance Breaker!!!!!!!!』

 

 眩い光が辺り一体を埋め尽くした。

 

『ライザー・フェニックス様、リタイア。リアス・グレモリーチームの勝利です』

 

 そのアナウンスと共に爆発音と衝撃波が一帯を包む。

 

「きゃあっ!」「ッ!」

 

 アーシアの叫び声、リアスは咄嗟にアーシアを抱き寄せて伏せる事で爆風から身を守った。

 視界が晴れるとそこには倒れ込んで息をあげているイッセーがいた。

 

「そんなことが…」

 

 リアスはイッセーよりも目を奪われたものがあった。

 ゲームのフィールドに穴が空いていたのだ。

 本来であれば上級悪魔の全力の一撃ですら破壊するのが困難な程の強度を誇る。少なくともリアスとライザーは破壊できない。

 今回のゲームは御家騒動、だがルールも条件もプロのゲームの仕様と大差はない。

 イッセーが瞬間的に出した力は並の上級悪魔を超越していた。

 

「あのー…いいですか?」

 

 誰もが停止した中でイッセーだけは動き出す。

 座り込んだままで二人を呼んでいる、どうやら疲労困憊で立てないのだ。

 二人は慌てて寄り添う。そしてアーシアはギアをイッセーの体に当てて傷を治す。

 

「うーっ…ぽかぽかする…アーシア悪いな疲れてるのに」

「大丈夫です。よかったです、勝てて…本当にイッセーさん凄いです…」

「謙遜しなくていいって、勝てたのは間違いなくアーシアのおかげだよ。全部は見てないけどライザー相手に時間稼いでたじゃないか。それがなかったら間に合わなかった」

 

 イッセーはそう言いながらアーシア頭を撫でる。その彼女は褒められてとても嬉しそうにしている。

 決してお世辞ではない、一瞬の時間稼ぎが結果を百八十度変えた。

 

「あれっ…」

 

 イッセーは立ち上がれなかった。神器の力でも体力の消耗と疲労は回復させることは出来ない。

 

「あはは…すみません。ちょっと休んだら…っ」

 

 恥ずかしそうにそう言った相手をリアスは何とお姫様抱っこをした。

 女性とは言え悪魔の身体能力なら男一人を抱きかかえることは出来なくはない。

 

「ちょっちょっと!」

「良いからちょっとは甘えなさい」

「…………」

 

 当然イッセーは驚くのだがリアスは何のことかと気にもしない。

 因みにアーシアはちょっとむくれている。ボディタッチを超えて抱きかかえているというのが気に入らないのだろう。

 

(えっ!なっなんだ!っておっぱいやわらけー)

 

 抱っこされているためか左腕に柔らかい感覚が継続的に発生している。

 当然リアスの巨乳が無造作に当たっているのだがあえて何も言わない。もしかしたら気が付いていない可能性が高いからだ。実際ライザーを相手にした後でそこまで気が回らない可能性が高いし、この状況を楽しみたい。

 

「…………」

「…ふふん」

 

 黙って柔らかさを堪能しているとリアスがちょっと苦笑いした。どうやら当たっているのではなく当てているようだった。

 故意に当てているこの状況、イッセーにとっては喜ばしい状況。そして気が付いてしまった。

 

(あ、もしかしてご褒美ってこれ!?)

 

 ラッキースケベがご褒美に変換されてしまった。

 彼は感触を忘れない様に死に物狂いで皮膚の感覚を過敏にした。

 

 

 観戦室は静まり帰っていた。

 理由は単純、ライザー・フェニックスの敗北だった。

 だがいつまでも黙り続けるわけにもいかずグレモリー側から話しかける。

 

「フェニックス卿。今回の婚約このような形になってしまい、大変申し訳ない」

「みなまで言わないでくださいグレモリー卿。純血の悪魔同士いい縁談だったが、どうやらお互い欲を重ねすぎたようだ。お互いに純血の孫がいる。それでも欲したのは悪魔ゆえの強欲か、先の戦争で地獄を見たせいか」

「…いえ私もあの子に欲を重ねすぎました」

 

 ただ不安だった。

 悪魔として純血の一族としての義務が今回の縁談を強行する結果になった。やろうとした事は間違っていなかったのかもしれない、それでもあまりにも一方的に進めた結果、彼らは失敗した。

 だが今は二人ともその失敗を悔いる気持ちも焦りも無かった。沸騰していた頭から血の気が引いて冷静になれた。

 

「兵藤君だったかな、彼には礼を言いたい。息子に足りなかったのは敗北だ。アレは一族の才能を過信しすぎていた。フェニックスは絶対ではない、それを学べただけでもこの婚約は意味があった」

「フェニックス卿…」

「あなたの娘は良い下僕を持った。これからの冥界は退屈しないでしょうな」

 

 フェニックス家当主はそう言った。

 

 その後、今回のゲームの映像は各家に流されリアスは未成年でありながらレーティングゲームの最有望株に勝利した事、そして赤龍帝の存在が大きく広まる事になる。

 

 

 本来の旧校舎、試合後皆で帰ってきた。

 何一つ戦う前から失うことなく、皆が笑顔で。

 

「私達の勝利に乾杯!」

「「「乾杯!!!」」」

「か、かんぱい…」

 

 リアスの音頭に眷属達も続く。

 イッセー以外はテンションが高めだった。ただ一人は疲労からがどうにも元気が出ない。

 最速で小猫がテーブルに所狭しと並べられたご馳走を平らげていく。

 

(よくあんな小さな体に詰め込めるなぁ…)

「何か思いましたか?」

「いや別に」

 

 冷汗をかきながらしらばっくれる。何故小猫は心が読めるのか。

 小猫だけではなく皆が料理に舌を喜ばせる。皆が笑顔で帰ってこれたのならあそこで無理したのも無駄ではなかったなと思うのだ。

 

「イッセーさん、はい」

「おーありがと」

「いえいえ」

 

 アーシアから皿に盛りつけられた料理たちが渡される。結構彼女はこういう面倒を見たがるのだ、イッセーに対しては特に。

 リアスはその光景を見て自身の取っていた皿をずいっと渡す。

 

「イッセー私のものが受け取れないっていうの?」

「パワハラ上司?」

 

 

「…………」

 

 イッセーは一人で旧校舎の外を歩いていた。皆には少し休みたいと言った。実際に疲れていたし嘘ではない。

 

(…………)

『不安か?』

「まあな…」

 

 思い出すのはライザーとの一戦。

 彼は禁手を使って勝利を収めた。だがあれはあまりにも未完成な技だった。彼の保有する力に対して、イッセーは力をコントロール出来ない。戦いは力を適切な力を適時引き出して使うのが胆だ。

 だが今の彼はコントロールが未熟で、百の力を持っていたらいきなり百を使ってしまうのだ。結果としてほんの一瞬だけしか禁手を維持できない。

 もし仮にライザーの耐久力が高ければ、一撃を警戒して逃げに徹していたら負けていた。相手が不死と高い回復力に胡坐をかいていたらこそ上手くいったのだ。資料でも躱せる攻撃をあえて受けて実力を見せつけるシーンを見た事があった。

 

「ドライグ」

『なんだ?』

「俺はドライグのこと嫌いじゃない、嫌いじゃないけど…この力は嫌いだった」

 

 彼は自分の左手を見つめる。そこには神すらも恐れる力が間違いなく宿っている。

 

『そうか』

「でも今日力を振る事が嫌ってだけじゃなかった…」

 

 いつもなら顔をしかめながら、苦しそうに腕を振るっていた。今もそうなのは間違いないのだが、心のどこかで他の誰かの為に使えた事を誇らしく思う気持ちが芽生えていた。

 きっと仲間想いなあの連中に感化されたのだろう。

 

 彼が自分の中の気持ちに戸惑っていると話しかけてくる声がする。

 

「イッセー、遅いわよ。みんな心配しているわ」

「部長?」

 

 振り向いた先にはリアスがいた。今日の主役だ。

 

「いやーちょっと疲れが取れなくて、まだ休んでいます」

「そう?ならお姫様抱っこ…王子様抱っこして連れて行こうかしら…」

「勘弁してください……」

 

 試合終了直後に行われたあれは恥ずかしかった。

 何故ならあのまま朱乃達の所まで連れていかれたため、それを見た皆が笑っていたから。ちなみに小猫はボソッと「赤ちゃん」と言っていた。

 二人は黙ってその場に立ち尽くしていた。

 イッセーはただ呼び戻しに来たんじゃないのは何となく察していた為、相手が口を開くのを待っている。

 

「ありがとうね。イッセー」

「どうしたんですか?」

「あの力は相応のリスクがあるのよね?だから直前になっても誰にも言わなかった」

「……」

 

 イッセーはその問いかけに否定も肯定もしなかった。ただ沈黙という反応だけを返す。

 

「体大丈夫なの?」

「運良く良い方の出目を引いたんで大丈夫です」

 

 彼は嘘はついていない。ミスをすれば命を削っていた可能性はあったが。

 リアスは何となくだが察した。

 

「まぁなんです。とりあえず今回は破談にしても、また次が来るんじゃないですか?」

「そうね」

「どうするんですか?」

 

 やった事はその場しのぎ、根本的な解決にはならない。ウダウダしていたら次の話が入ってくる。

 リアスは結婚が嫌なのではなく、意中の人と結ばれたいというそれなりに難儀な夢を持っている。

 見合い相手が意中の相手なら即結婚なのだ。

 

「私は自分の理想は自分で作る事にしたの」

「はあ?」

 

 突然の発言に彼はついていけなくなる。理想?作る?いきなりそんな単語を叩きつけられて困惑する。

 

「周りに自分、リアス個人を好きになってくれてかつ、親も周りの貴族の人たちも認めるような都合のいい人を求めるんじゃなくて。私が好きな人を誰もが認める存在に育てれば良いと思わない?」

「いや…そんな家具屋で欲しい品がないから日曜大工すればいいみたいなノリの人生観に肯定を求められても」

 

 発想が現代の光源氏だなぁ…と思うイッセー。

 因みに彼の知識は幼女を自分好みに育てた好色家の話というレベルの知識しか持っていない。

 

「もう」

 

 彼女は割と告白寄りだったセリフに対して、イマイチ察しの悪い相手にヤキモキしてしまう。

 でも今はそれで良い、この時だけはまだ好きな人が出来た自分を楽しもうと思った。

 それにライザーを倒せる力があるなら、そこまで困る事なく上に上がれるだろうし、頭の硬い貴族達の意見など簡単に握り潰せるだろう。

 

「そうだ。ご褒美」

「へっ」

 

 リアスはイッセーの手を取るとそれを何と自分の胸に誘導したのだ。

 

「えっえ、ええっ!?」

 

 手から突然伝わる幸せな感触にパンクする。

 胸を揉んでいるという状況に気を取られていると、彼の唇にふっと温かい感覚が通り過ぎた。

 

「ファーストキスって日本じゃ貴重なものらしいわよ?」

 

 リアスはぺろっと下を出したイタズラチックな笑みでそう言った。

 舌を出す行為がキスという事象に対するイメージを連想させてくる。

 それはディープなものではなくソフトなもの。でも確かに存在する親愛の気持ち。

 

「じゃあ戻りましょう」

「えっ」

 

 リアスは驚きで動かない相手の手を取って引っ張っていく。

 彼から表情は見えなかったが、リアスの顔は真っ赤になっている。

 

「そうだ。今度あなたのご両親に挨拶させて頂戴」

「どうしてですか?」

 

 リアスはふと思いついたかの様に振り返って話し始める。

 

「貴方の家に住む事にしたわ」

「はい?」

 

 日本語がうまく通じていなかったのかな?とリアスは思いもう一回。

 

「貴方の家に住む事にしたわ」

「はい?」

 

 彼はうっかり同じ返事を二度してしまった。

 

 

「と、その様な感じで私、リアス・グレモリーもこの兵藤家に住まわせてもらう事になりました」

 

 兵藤家のリビングは紅髪の美女が席巻していた。両親と大テーブルを挟んでイッセーの左右に美女という高嶺の花。

 どうやらリアスは「下僕との交流を深めたい」という理由で押しかけてきた。

 因みにアーシアは頬を膨らませてむくれている。

 

「まぁ、どうしましょう。アーシアちゃんにリアスさん、娘が二人もできちゃうのね」

 

 兵藤母は嬉しそうだった。

 アーシアが下宿する際は多少難色を示していたが、一度その牙城が崩れたら本来の子供好きな部分が前面に出ていた。

 

「うんうん。男の夢だよな、女の子がいっぱいって!」

 

 父親の態度を見て血が違えど、この人は間違いなく自分の父親だなと感慨深くなる。

 

「さぁイッセー。ご両親の許可は得たわ。今日からよろしくね。さっそく荷物入れるのを手伝ってくれるかしら」

 

 リアスは元気よく号令をかける。

 

「は、はい」

「私も手伝います」

 

 イッセーの後ろをアーシアはついていく。その顔色は優れない。

 

「あうぅ…一夫多妻制しか希望がなさそうです…でもでも…主の教えに反してしまいますし…どうすれば…」

「アーシア?」

「何でもありません」

「ええ…」

 

 何やらぶつぶつと呟いている相手に話しかけるが、プイっと顔を逸らされてしまう。

 それに対して一体何で…と軽くショックを受ける。

 リアスは段ボールを開けながら話しかける。

 

「そうそう。イッセー、これが終わったらお風呂に入りたいわ…そうね、背中流してあげる」

「マジっすか!?」

 

 荷解きが終わったら突然のスキンシップ宣言。これにはいつも以上に反応してしまう。

 そこにアーシアが慌てて話に割って入る。

 

「もう!裸のお付き合いなら私もします!私だけ仲間外れにしないでください!」

「誰だ!アーシアに裸の付き合いなんて単語を教えたやつは!」

 

 透き通るような聖女にこびり付いてる小さな汚れを発見する。

 

「アーシア、悪いけれどそういう事だから。宣戦布告って事でいいかしら?」

「うぅ…負けたくないけど、負けそうです!」

 

 女子二人の間に火花が散る。

 イッセーはそれを見て色々と騒がしくなりそうだなと思った。

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