ちょっと不幸なイッセーくん   作:高町廻ル

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元ネタはコナン


兵藤一誠少年の冒険

「やあ、兵藤さん。これを」

「いつも主人がお世話になっています」

「トウジさんに奥さんも、ありがとうございます」

 

 先日とは逆で兵藤家に紫藤一家がお邪魔する形になる。

 

「こんにちわー!」

「イリナちゃんもこんにちは」

 

 彼の娘のイリナは元気な挨拶をかます。

 その元気さに三希は癒される。

 

「あれ、お話の子は…」

「ともだちはー?」

 

 目的は引き取った子供を一目見たかったから。だがトウジは噂の子供の姿を探したが見当たらない。

 イリナにはどうやら友達ができるとでも伝えたのか。

 恥ずかしがり屋なのかなと思ったが、兵藤夫妻の雰囲気から違うのを察した。恥ずかしくて前に出ないのなら深刻な空気にはならない。

 

「ちょっと…」「そうですね…」

 

 二人は言い淀んだ。病院で話していた時から覚悟はしていたが思った以上に気難しい子供だった。

 

 

『出ないのか』

「しんどい…」

 

 自分にあてがわれた子供部屋、そこで一誠は床に転がっていた。

 引き取られてから一週間ほどが経った。施設よりは間違いなく恵まれている環境に置かれている。

 やりたい事も欲しいものもない今の彼は空っぽだった。

 

『気にするな、あの二人はただの人間だ。ただの善意だろう』

「…うん」

 

 二人が優しい人達なのは分かっている。だとしてもこの場所にいる自分に納得出来ないのだ。

 生まれた場所での思い出が血みどろで埋め尽くされた事実に納得出来ない。

 

 ―とっとっとっ…

 

 誰かの足音が聞こえる。音の幅的に階段を上っている。

 

「…?」

 

 こんなに元気よく階段を駆け上る音を兵藤夫妻がこれまで出しただろうかと思う。

 扉がバン!と勢いよく開かれる。

 

「こんにちわー!」

「ええ!?」

 

 イリナが勢いよく飛び込んでくる。見たことのない相手と対峙して一誠は驚く。

 

「ねーねー!何する?何して遊ぶ?」

 

 イリナは周りを見渡しながらそう言う。

 殺風景な部屋だった。まだ部屋をあてがわれて日が浅く。両親二人が住んでいた時は物置にしていたのを整理整頓して空けただけ。

 本人の物欲が無いため、何も欲しがらないのでオモチャが殆どない。

 

「いい、遊ばない」

「えー…うーん」

 

 一誠はみっともない事をしているなという自覚があった。

 相手の厚意を素直に受け取らないのはとてもカッコ悪い。苦しみ悩んで引きこもっている事が贖罪と思っているのは筋違い。

 

「ばあっ」

「……」

 

 シーツのお化けがいた。イリナが部屋に置いてあるタオルケットを被っているのだ。

 

「何それ?」

「ゴーストマン~!」

「なにそれ?」

 

 相手は反応が薄い相手に不満気だった。

 いつもなら父親にしたら楽しそうに抱きしめられて盛り上がるというのに。ただそれは楽しいからというよりは、娘が可愛いからというだけだが。

 

「うーん…ならっ!」

「うわっ!」

 

 イリナはタオルケットを被ったまま一誠に飛び掛かった。

 その不意打ちに反応が遅れてしまう。

 

「笑わないとこうだ!」

「えっなにっ!わひゃっ!」

 

 イリナは相手に抱き着いてタオルケットを相手に巻き付けてその体をくすぐる。

 ふと思った、笑ったのなんていつぶりだろう。いつぶりどころか初めてかもしれないと。

 

「ちょっまって!」

 

 とはいえ恥ずかしいものは恥ずかしいわけで。

 

「笑うまでだめー!」

 

 イッセーは突然のスキンシップに戸惑ってしまう。

 まさか抱き着かれてくすぐられるなんて思ってもみなかった。そんなのされた事すら無かったから。

 

「なにすんだー!」

 

 ここに来てついに言い返してしまう。

 拒否とも取れるその反応にイリナは満面の笑みを浮かべる。

 

「やっと私の目、見てくれた!」

 

 ここで初めて二人の視線がバッチリと合った。

 目の前にいたのは短めの栗毛のショートカットの女の子だった。印象はまさに元気印といった感じ。

 

「名前!名前教えて?」

「…兵藤一誠」

「いっせーね!分かった」

「いっせいだけど…」

「いっせー!」

 

 今まで会ったのことの無いテンションの高さに戸惑ってしまう。だが不思議と嫌な気分にはならなかった。

 

「あ、私はイリナね!」

 

 自身の名前を名乗る。

 よく考えたら彼女は名前を名乗らずにじゃれ合っていたという事になる。

 

「遊ぼう、遊ぼう!」

「あ、遊ぶって言われても…」

 

 同世代の女の子と遊ぶと言っても何をするのか分からない。友達も誰かと遊んだ事も無いのだから。

 おままごととかがこの世代のトレンドなのだろうか。

 

「何したいの?」

 

 同世代の女の子が何を好んでいるかなど分かりようが無いため尋ねる。

 

「冒険!」

「は?」

 

 イリナから告げられたのは冒険という意味不明の提案。一誠はそれに対してポカンとしてしまう。

 

「冒険行こ!」

「え、ええっ!」

 

 一誠はイリナに手を取られて部屋から無理矢理出される。その勢いにごねる隙すら与えられなかった。

 

 

「なるほど、一誠くんがなかなか心を開いてくれないと」

「そうなんです。入院した時からそんな感じだったんですけど」

 

 兵藤夫妻は相談をしていた。

そもそもが相談のつもりで今日はセッティングしたものでは無かったのだが、一誠が積極的に出てこない為空気が重くなってしまったのだ。

 

「子供部屋から全く出てこないわけではないんですよね?」

 

 トウジの奥さんは質問をした。

 もし仮に人と関わりたくないと言った精神的なトラウマから触れ合い全般をシャットアウトしているなら問題になる。

 

「それはそうなんですけど…お風呂も嫌がらず入りますし、リビングで食事もします、それも好き嫌いとか一切せずに」

 

 子供はとても物覚えは良かった。まるで最低限親に嫌われない為のノルマをこなしているかの様に。

 

 ―どんどん!

 

「イリナちゃんったら…」

 

 自分の娘が暴れているのを察して彼女は苦笑いをする。

 

「だっ、大丈夫なんですか…」

「大丈夫ですよ。イリナちゃんは天使ですから!」

 

 五郎の不安など気にも留めず笑顔でトウジは言い切った。

 扉を比較音がしたのち、階段を駆け降りる音がする。

 

「いってきまーす!」

 

 イリナは一誠の手を取って外へと飛び出して行く。

 耳を澄ましてみれば一人の男の子の短い悲鳴が聞こえる。

 

「いってらっしゃい」

 

 トウジは元気いっぱいのその声に返事をする。こうなるのは分かっていたかのようにそこには動揺はない。

 

「ちょっ、いいんですか?」

 

 五郎はまだ一桁の小学校にすら通っていない子供を二人きりで外に出す。不安になるのも仕方ない。

 

「大丈夫です。子供は大人が思っているほど幼くはないんですよ。本当に危ない事はしない判断は出来ます」

 

 彼は余裕そうにそう言った。

 だがただ意味もなく無防備で娘を外に出しているわけでは無い。

 イリナの首には十字架のペンダントがかけられている。それはこの辺一帯の教会の加護を受けている証明にもなっている。

 十字架の存在がこの辺りを根城にしている悪魔に対しての牽制になっている。今の天使、堕天使、悪魔の三竦は疲弊しており、人間界の拠点が無ければ存続が厳しい状況。

 その中で一人の小娘をわざわざ狙うのはリスクに対して旨みが無い。

 何より昼間は暗黙の了解として教会側の時間、そして夜が悪魔や堕天使の時間と決まっている。仮にイリナが悪魔とすれ違ったとしてもお互い不干渉と決まっている。

 

 

「どこ行きたい?」

「外歩いた事ない」

 

 手を引っ張られながら聞かれたが、この街に来てから自宅の周りしか散策していないため何があるかを知らない。

 

「じゃあ神社いこ!」

 

 力強く引っ張られる。どうやら拒否権は無い。

 

『先に伝えておく、この娘は天界の加護を受けている』

(かご?)

 

 ドライグの説明を受けるが、幼い彼は世界の情勢と自分の立ち位置というのを理解出来ていない。

 

『要は白い翼を持つ者達の仲間だ』

「えっ!?」

 

 つい反射的に声を出してしまう。

その返事は神社に行くのに対して拒否しているようにも取れなくはない。

 

「いやなの?」

「う、ううん、そんな事無いよ」

「そう?」

 

 イリナは反応こそしたがすぐに気を取り直して歩き出す。

 

『言い方が悪かった。その子自身は天使たちの直接的な…そうだな…お前の敵ではない…』

 

 ドライグは言い方に困る。

 目の前にいる紫藤イリナは無自覚に天界の加護を得ているだけ、ただ新しい友達と遊んでいるだけのつもりなのだ。。

 

『とにかく目の前の友達と気兼ねなく遊んだらいい。その子はあの時の奴らとは違う。昔の事は今くらい忘れろ』

 

 説明の下手さが嫌になる。

 長くドライグ自身人間というものを見てきたがまだうまく心というのを察して立ち回れない。

 

「お菓子!」

 

 歩いていると駄菓子屋が見える。店先に品物が置いてるいわゆる古き良きと言った感じ。

 

「これとこれ…欲しいのある」

「無い」

 

 手を離すとイリナは並べられているお菓子を物色し始める。

 一誠はお腹が空いているわけでも、甘味に興味があるわけでもない。

 

「色々あるんだ」

 

 ガムに飴、そしてオモチャそして、カウンター席にはクジも置いてある。

この場所は小さな子供からしたら宝箱の中に放り込まれたように感じる場所だ。

 

「これ頂戴!」

 

 イリナはお菓子をカウンターに載せて五百円玉を置く。店員はどうぞと袋にお菓子を入れておつりを渡す。

 

「あげる!」

「あ、ありがとう」

 

 相手からガムを渡される。取りあえずそれを口に頬張る。

 食べ歩きをしていると目の前を小さな猫が一匹通り抜ける。

 

「あ、猫だ!にゃー!」

「そうだね」

 

 イリナはせわしなく様々なものに反応する。

 毎日のように街中を駆けずり回っているだろうに元気だった。

 

『…………』

(ドライグ?)

 

 ドライグはその猫の正体に気が付いた。

 一誠とイリナは気が付いていなかったが目の前を横切った猫は悪魔の使い魔だった。既にイリナの十字架の存在はバレてしまっている。

 いくら悪魔が教会を敵と定めていたとしても、その事情を知らないであろう子供一人を執拗に狙うとは考えにくい。

 

『大丈夫だ。なんだ…その…かわいい猫だとおもっただけだ。お前はこの子の事だけ気をつければいい』

 

 ドライグはこれまでないくらいに気分が落ち着いている一誠を初めて見たため、あまりストレスを蓄積させたくないと考え、あえてこの場では伏せた。

 

「見えた」

 

 目的地だった場所が見える。

 そこは神社だが周りは雑草や地面も手が入っていない。どうやら壊れており、かなり前に破棄されているのが分かる。子供目線からしたら不気味さもあるが、なんかワクワクしそうだ。

 

「どう?凄いでしょ!」

「うん」

 

 建物は既に一部が朽ちており雑草は伸び放題。ここだけが世界から切り抜かれたかのような錯覚を与えてくる。

 男の子としては冒険心をくすぐられるのは確かだ。

 二人が神社の前ではしゃいでいると人影が一人分現れる。

 

「…………」

 

 一人の女性がイリナと一誠をじっと見つめている。

 

『…………』

 

 ドライグは気が付いた。先ほどの猫の使い魔の主である悪魔が様子を見るために現れたのだと。

 静かに相手は歩みを進める。確実に一歩ずつ二人と距離を縮めていく。

 

「……?」

 

 イリナはここで自分たちのすぐそばに人がいる事に気が付いた。

 相手はイリナの首にかけられている十字架を見つめている。

 

「お姉さんどうかしたの?」

「…っ」

 

 イリナは見つめられて困惑していたが、一誠はそこで相手が人ではない事に気が付いて息を呑んだ。

 脳裏に過ぎるのは二ヶ月ほど前に起きた惨劇だった。その事を思い出すと呼吸が荒くなりそうになる。

 

『落ち着け!相手はその子の十字架に反応しているだけだ!お前は何もされない!』

「うっ」

 

 その声が彼の脳内に響いて何とか我に帰って落ち着きを取り戻す。

 一誠はイリナの手をギュッと握って視線を相手の悪魔に送る。

 

「どうしたの?」

 

 突然力強く握られて彼女は困惑する。いったい一誠はなんで顔をこわばらせているのかと。

 

「怖がらせてごめんなさいね。この神社は崩れるかもしれないから入っちゃダメよ。役所にも伝えてるんだけど対応が遅いのよね」

 

 悪魔の女性は表情を柔らかいものに変えてそう言った。

 

「えー…」

 

 イリナはそう言われて不満顔。

 目の前にワクワクする建物があってそれのお預けを食らったらそれは楽しくないだろう。

 だが一誠からすれば渡りに船の提案だった。

 

「イリナ、危ないから帰ろ」

「えっ…でもぉ…」

 

 イリナは名残惜しそうにしているが一誠からすれば冷や汗ものだ。

 

「疲れちゃった、帰りたい」

 

 何とか理由を絞り出す。正直言い分としては微妙な内容。

 相手はとても不服そうだが、大人に目を付けられてしまった以上はこれ以上粘っても状況が好転しない。

 

「むー…わかった」

 

 何とか必死に説得を図った結果、イリナを折れさせることに成功する。

 

「それがいいわ。子供だけで出歩くなんて危ないもの」

 

 悪魔の女性はそう言った。

 イリナはふと思った事を口にする。

 

「そうだ。おねーさんの名前は?」

「私?私は…クレーリアよ」

 

 女性は尋ねられて一瞬迷ったがクレーリアと名乗った。

 一誠はお辞儀をしてその場からイリナの手を引っ張り歩き始める。イリナは呑気に手を振っている。相手もまた微笑みながら手を振り返している。

 彼は人生であの時以来の冷や汗をかいていた。もし何かを間違えたら自分だけでなくイリナまで巻き込んでしまう。この短い時間の中でも、彼の中での紫藤イリナの存在は大きくなっていた。

 悪魔の視線が途切れるその瞬間まで緊張を解くことなく歩き続ける。

 

 

 

「汗べたべた~」

「へっあ…ごめん…」

 

 そう指摘され、慌てて相手の手を離して自分の掌を見つめる。

 相手からの指摘にやっと周りが見えるようになった。もう既にクレーリアと名乗った女性はいない。

 

「どうしたの?風邪ひいた?」

「そうじゃないけど…」

 

 人間ではない誰かにマークされていましたよとは言えるはずもない。仮に真実を言ったところで相手に理解してもらえるはずもない。

 会話を繋ぐのに苦心していると新たな人影が現れる。

 

「あれ、イリナちゃん?」

 

 スーツ姿の男性がそこにはいた。髪は僅かだが長めだが、手入れされているからか不潔な印象は与えない。

 話をかけられた相手は顔を知っているのか顔を明るくする。

 

「あっ、八重垣おじちゃん!」

 

 彼女にとっては知り合いである男性が現れる。

 一誠からすれば正体不明の男が出て来ただけだが。

 

「あはは…おじちゃんって年じゃないんだけどね…こんな所でどうしたの?彼は友達かい?」

「うん!いっせーくん!」

「ど、どうも…」

 

 彼はイリナに紹介されて戸惑いながら挨拶を返す。

 

「そろそろトウジさんも心配しているよ?」

 

 諭し方の中ではかなり怪しい部類だったが小さな子供がそれを察するはずもない。

 

「うーん…まだ遊びたいな…」

 

 まだまだ元気アピールをするのだが周りの大人たちからしたら冷や冷やして仕方ない。

 

「そろそろ帰りたいなー…」

「えーほんとなの?」

 

 一誠は乗っかる形で懇願し始める。

 イリナは何やら疑わしそうに視線を向けるがここでやっと観念した。

 

「むー…分かった。じゃあ家まで競争ね!よいどん!」

「ええ!?」

 

 イリナはそう言って不意打ちのスタートダッシュを繰り出して走り出す。

 八重垣は手を振って二人を見送った。

 

 

「……ふぅ、何事も無くてよかった」

 

 子供二人の背中が見えなくなってから男、八重垣正臣はほっと息を吐く。

 

 二人は気が付きようなど無いのだが、八重垣という男性はたまたまこの場に居合わせただけの教会側のエージェントだ。

 もし仮に悪魔側に悪意があったとしたら一触即発では済まなかった。幸いにもそのような事をしない相手だったから助かった。

 彼は端末を取り出して連絡を取る。

 

「クレーリア、イリナちゃんをありがとう。また後で」

 

 最愛の人の声を聞きたくてつい通話をしてしまう。

 

 

「今日はありがとうございます」

 

 トウジはまだ日は高かったが帰って来た一誠がイリナに連れ回され相当疲れているのを察して帰る事にした。

 

「いっせーくんまたね!」

「うん…またね…」

 

 腕をぶんぶん振り回すイリナと力なく手を振る一誠。元気いっぱいと疲労困憊のコラボになっているが、周りから見たら随分仲良くなっているように見えた。

 

 紫藤家の三人が見えなくなってから話始める。

 

「イリナちゃん良い子ね」

「そうだな。一誠楽しかったか」

 

 二人は家を出る前よりも表情が幾分かほぐれたかのように感じる息子に話しかける。

 一誠は少し顔を赤らめて「別に…」と言った。

 彼はイリナに対して大分心を許していた。冷や冷やこそしたが楽しかった。久しぶりに誰かといた時間はこれまで凍っていた彼の時間を、その短針を少し動かした。

 息子の中の何かが変わったのを二人は察して自然と笑みを浮かべた。

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