最近になってイッセーは気がついた、自分は思っていたより体を動かすのが好きという事だ。
赤龍帝である事を隠す為にあまり体を動かさないように努めていたが、今はグレモリーの後ろ盾がある為そこまで気にする必要性がなくなった。
―カキーン!と青空に向かって打球が上がる。
「おーらい」
イッセーはフライをグローブでキャッチする。
「ナイスキャッチよイッセー!」
リアスは親指をグッと立てる。
オカルト研究部は旧校舎の裏にある少し開けた空き地で野球の練習をしていた。
リアス曰く『来週は駒王学園球技大会よ。負けるわけにはいかないわ』だそう。
球技大会はクラス別や男女別などさまざまな区分けで球技が行われる。その中の一つに部活対抗という文科系体育会系問わない基準もある。
普通にやればまず負けることはない、だって悪魔だから。いくら身体能力が高いとはいえ球技での体の動かし方やルールを体に染み込ませていなければいざ本番になっても力は発揮できない。
「じゃあ四番は小猫ね」
「はい部長」
バッティング練習の結果四番に指名される小猫。
イッセーはだろうなと思う。何ならドラフト一位でもおかしくない。
「次はノックよ皆!グローブをはめてグラウンドにばらけなさい!」
リアスの号令によってそれぞれが移動する。
彼はやたらお嬢様は元気だなと思う。
「うふふ、部長はこの手のイベントが大好きですから」
「負けず嫌いですもんね」
「まあ私達が負けることは基本とないと思いますが」
朱乃とイッセーは二人で話し合う。
悪魔が本気を出せば今現在存在する世界記録の全ては紙屑のようにボロボロになる。
大会本番では手加減する事が前提となるが、間違っても負けたくないリアスは練習を強行する事に。
「ほらアーシア!行くわよ!」
カーンと相手の方へ打球が飛んで行く。
「あう!はぅはぅ…あっ!」
アーシアの股の下を打球がすり抜けて転がっていく。
正直彼女の運動神経は酷いと言っても差し支えない、偶に何もない所で転ぶくらいだ。
「アーシア!転がったボールは自分で取りに行くのよ!」
「は、はいっ!」
そう言われて外野へと転がっていくボールを追いかけていく。
なんかの漫画やドラマの影響でも受けたのかな?と思った。
「次、祐斗!行くわ!」
リアスは木場に向かって打球を飛ばす。
今更ながらだが打球を特定の場所に打ちあげるの上手いなとイッセーは思った。いくら身体能力が高かろうがバットをコントロールして力をボールに正しく伝えるのは難しい、それが出来るのは彼女のセンスか。
だがその打球もコンと木場の頭に直撃する。当たってはいるのだが木場はその事に気が付いていない、ぼけっと考え事をしている。
「木場!シャキッとしろよ!」
イッセーは木場との距離が空いているため大きな声でそう呼びかける。
それを耳にして相手はやっと前を向いた。きょとんとしており何が起きているのか分かっていない様子だった。
「あ、すみません。ぼーっとしていました」
そう言って木場は転がっているボールを拾いに行く。
イッセーは何となくだが相手が本心から謝罪の言葉を口にしているとは思えなかった。別にそこまで猛省する必要性の無い事であるし、口だけ謝罪こそするが内心では全く省みていない例など腐るほどある。
だが少なくとも兵藤一誠の知っている木場祐斗という男は、いつもクールフェイスで相手の不快に思う可能性を潰すはずなのだ。
ボールを拾うとリアスの元へと投げる。
「どうしたの祐斗?あなたらしくないわよ」
「すみません」
リアスは心配そうに話しかけるが、問題の相手はまるでのっぺりとした反応。
「…………」
イッセーは具体的に木場の心の中でどのようなことがあって気持ちが乱れているのかは分からなかった。
だが切っ掛けには心当たりがあった。前に聖剣の写っている写真を見た事、そして前にレーティングゲーム中にいきなり「聖剣」という単語を聞いた途端に暴れ出した。
写真をチェックしておけばよかったと少しだけ後悔していた。
(まあ今はいいか)
本当に困っているのなら何かしらのアクションがあるだろうし、聖剣関連を下手につつけば不快に思うかもしれない。
前ほど隠すものでは無くなっているが、イッセー自身もまた過去の事をあまり触れられたくはない。
「ふむ…」
ある程度ノックを終えると一時休憩を挟む。そこでリアスは本を読みだす、読んでいるのは野球に関するマニュアル本。
リアスは読書家だ。兵藤家でも難しそうな本を読んでいる。
朱乃は面白そうな顔で話しかける。
「あらあらところでイッセーくんご存じ?」
「ん?何がですか?」
「最近部長ったら恋愛のマニュアル本を読んでいるんですよ?」
「へぇーっ!」
彼は素直に驚いた。
前に女版光源氏計画を口にしていたが、まさか本当に実行に移しているのかと驚いた。
相手を改造する計画が正しいかは分からないが、理想の相手と出会おうと努力をしている時点でイッセーよりは立派だ。
「うふふ…イッセーくん、大変になりますわね」
いたずらげに朱乃は微笑む。
◎
次の日の昼休み。
イッセーはいつもの二人と昼食を取っていた。
「今日も部活か?」
「まあな、多忙ってやつだ」
松田からの質問にそう答える。
今日は昼食後にアーシアを連れて旧校舎の部室に来るように指示を受けている。生徒会の人達と新顔の紹介の予定になっている。
相手は最近一人男子生徒が生徒会に入っているためそれだろうと当たりをつける。
「おい気を付けろよイッセー。最近お前に変な噂が流れているぞ」
「噂だあ?」
元浜から突然告げられる。噂と言われてもあまりに身に覚えがありすぎる。
「美女をとっかえひっかえする野獣イッセー。オカルト研究部の美少女たちの弱みを握り次から次へとお手付きに。二大お姉さまに対して乱行に次ぐ乱行」
「なんじゃそりゃ」
突然そんなことを言われても正直リアクションに困る。
ここまで統合性も何もないめちゃくちゃな噂だと逆に笑い話でしかない。このレベルの噂を本気で信じているような頭の弱い人など一握りだろう。
仮に松田か元浜が同じ噂が流れたとしてもちょっといじってリアクションを見るくらいで、間違っても本気で信じない。
元浜は続けてアーシアに鬼畜な授業をとか、小猫のロリボディがどうかとか根も葉もない噂を披露していくが苦笑しか出来ない。
「えー俺ってそんな風に見えてんの」
あまりにも統合性もへったくれもないとはいえあまり気分は良くない。オカルト研究部の女性陣には嫌われたくないものだ。
「まあ俺達が流しているんだがな」
「死ね」
信じられないかもしれないがこの三人は友人関係だ。彼の鉄拳がアホ二人に下される。
本気では殴っていない、じゃれ合いのようなものだ。
「ふふふ…まぁいいだろう」
先ほどまで雰囲気から一転イッセーは余裕そうな感じに。
松田と元浜の二人は不審そうにしている。
「男どもの嫉妬が心地よいぜ」
「「死ね!」」
女の子の知り合いが増えた事に対する自慢をされているようで、他二人は殺意を漲らせる。
松田と元浜はイッセーが複数の女性と関係を持っているという噂を流していて虚しくはないのだろうかと思う。特にそんな事なんて考えてないんだろうと。
あーそうそうと二人は追加で話始める。
「イッセーと木場にはホモ疑惑も流れているな」
「こっちは女子たちに根強い人気だ」
「それでいいのか!?」
木場はモテてはいるがどちらかといえば真剣に異性として好きだというよりは、アイドル的かもしくは観賞用としての人気という方が正しいのかもしれない。
何度か告白した女の子の話は聞いているが、フラれて本気で凹んでいる子は殆どいないらしい。
そうやってじゃれていると弁当箱が空っぽになる。
「そろそろ抜けるわ」
イッセーは椅子から立ち上がってそう言う。
「おー精が出るねぇ。ご苦労さん」
「お前が部活に熱心なんて意外だよな。正直幽霊部員狙いだと思ってた」
松田と元浜はそのような反応。
これまでエロ話をするくらいで、これと言って趣味を前面に出すわけでもなく、何となく日々を過ごしていた相手が突然部活に熱を入れたため驚く。
「結構部活って楽しいんだぜ?」
自分でも案外悪魔としての生活を楽しみつつあるという自覚はある。
面倒くさいしがらみこそあるが学園でも随一の美女軍団と楽しく放課後を過ごせて、学校から家に帰ってもエッチなエピソードが絶えない。
「お前変わり過ぎじゃね?」
「生乳見ると人生変わるのか?」
「あはは、まあ生乳は良いものだよ」
「「死ね!」」
二人はもしかして自分たちが流した噂が実は真になっているのではと思い、何となくカマをかけたつもりで質問した。だが帰って来たその返事は肯定のそれ。当然殺意マシマシになる。
「アーシア大丈夫かー?」
そろそろ待ち合わせの時間になるので同じ教室にいる相手に話しかける。
アーシアと一緒に食事を摂っていたグループの一人、桐生藍華はその言葉を聞いてにんまりといたずらな笑みを。
「アーシア、彼氏呼んでるよ」
「かっ…かかか彼氏いっっ!」
その言葉を聞いて顔を真っ赤にして慌てだすアーシア。
周りはどこか可愛いものを見る優しい視線、客観的に見てもアーシアがイッセーに並以上の好意を持っているのはそれとなく察せられる。
桐生はそれを見ていいオモチャを見つけたとニヤニヤを止めない。
「え、違うの?てっきり付き合ってると思っちゃった」
「そ、そそそそ…そんな事お…」
実際は付き合っていないのだが、自身の願望と板挟みになり結果として否定も肯定もしない。
皆が視線をイッセーに向ける。早く拾ってやれよとその目が告げている。
「あーうん、まぁ無理して弁当かき込む必要ないし、食べ終わるまで待つから無理しないようにな。遅くなるなら部長にメール送るし」
イッセーは取りあえず無難に相手を急かすことなく気遣う安牌を取る。
それを見ていた桐生は何かを思い出したようで。
「そう言えば楽しんでくれた?」
「何がだ?」
「アーシアに『裸の付き合い』を教えたんだけど、その様子じゃまだみたいね」
「犯人はお前か!」
アーシアが「裸の付き合い」なんて素敵な単語をいつインプットしたんだろうと不思議に思っていたが、犯人はすぐそばにいたのだ。
「うーん…おかしいなぁ、アーシアってあんたのこ…むがっ」
「あーあーあーっ!桐生さん、やめてくださいぃぃぃ!」
アーシアは慌てて相手の口を塞ぐ。そのお顔は真っ赤に紅潮している。
「あー…忙しいなら先に行っとこうか?」
何やら女子二人で女子女子している為、あまり男が混ざらない方がいいのではと思いそう提案する。
「い、いえ、行きます!」
アーシアは慌てて弁当箱を片付けて立ち上がる。
◎
「失礼します」
イッセーは部室内に他の悪魔たちがいるのを察知していた為、いつも以上に落ち着いて丁寧に入室する。
ソファーに座っているのは支取蒼那先輩、この学校の生徒会長で悪魔というのがイッセーの知っている情報。冷たく厳しいオーラを放つスレンダーさんというのがお外見的な印象。
そしてその側で立って待っているのは最近生徒会に入ったと噂の男子生徒だった。名前は覚えていないが同じ一年生なのを彼は知っている。
そしてテーブルを挟んで向かい側のソファーにリアス、そしてその側で朱乃が給仕をしている。
「えっと、生徒会長…ですよね」
一応相手の役職は知ってたし、上級悪魔のシトリー家関連の人かもとは思っていたが、リアスに説明をしてもらったわけでは無い為、慎重にコンタクトを図る。
「なんだ、リアス先輩。俺たちのこと話してないんですか?同じ悪魔なのに気がついていないのもおかしいけどさ」
イッセーの態度に新たな生徒会役員の男子は小馬鹿にするような態度を取る。
イラッとはしたが、悪魔としての経験が浅いのも事実な為特に何も言い返さない。
「サジ、私たちは基本的には『表』では干渉しない事になっているから仕方ないのよ。それに彼は悪魔になってから日が浅いし、説明の機会が設けられなかっただけ」
生徒会会長は役員の働いている無礼を嗜める。
その説明で彼はやっぱり生徒会は悪魔の集まりなんだなと確信した。
そのやりとりを見ていたイッセーのそばに朱乃がやってくる。
「この学園の生徒会長、支取蒼那さまの真実のお名前はソーナ・シトリー。シトリー家の次期当主さまですわ。そしてこの学園の表の統治をされてますわ」
つまり立場はリアスと同じという事。
生徒会が学園を統治、まるで漫画の設定みたいだなと思う。普通生徒会はただの雑用係なのだが、支配していると来た。
「会長とシトリー眷属が日中動いているからこそ平和な学園生活を送れているんだ。それだけは覚えといてくれてもバチは当たらないぜ?」
何やら誇らしげに語り出すサジと呼ばれていた男。
その態度にどうしたらいいのか困惑する。
(何だこいつ恩着せがましいな)
『お前の事を下に見ているのだろう。こいつは神器をしかもドラゴン系のそれを持っている。思うに悪魔になった事で覚醒して気が大きくなったのだろう。早死にするタイプだ』
(へぇーこいつがね…)
ドライグの冷静な分析。
イッセーもだろうなと思う。今まで普通の学生だったのに、突然悪魔の身体能力を与えられたらそりゃ気が大きくなる。一夜にして世の中のありとあらゆる世界記録をゴミクズに出来るのだ、楽しくて仕方ないだろう。
「俺は兵藤一誠、『兵士』だ。よろしく」
相手ほど語りたい事も無かった為、簡潔に挨拶を済ませる。
「俺は匙源士郎。二年生で会長の『兵士』だ」
「へー俺と同じか」
相手の挨拶に特に意味もなく思った事をそのまま口にする。
「俺としては、変態三人組の一人であるお前と同じなんてのが酷くプライドが傷つくんだがな」
「まぁ変態ってのは事実だけど、初対面相手に失礼な奴だ…」
イッセーは呆れた声を出す。
過去にライザーに対して失礼な言動をしていた気がしたが忘れた事にする。
「サジおやめなさい。今日ここに集まったのはお互い最近下僕にしたものを紹介するためです。眷属が振る舞いで主に恥をかかせないように」
ソーナは下僕の失礼な物言いをたしなめる。
眷属云々に限らず、例えば社会人として外回りをして、相手先に好評な営業をすれば上司がその教育を評価され、その逆なら上の人間が頭を下げることになる。
「し、しかしでもっ…」
匙は納得がいかないのか食い下がる。
甥っ子に生意気を言われて大人げなくやり返してしまうざ様な幼稚さがある。
「それにサジ、兵藤君を下に見ているようですが今のあなたでは勝てません。フェニックス家の三男を直接倒したのは彼です。現時点での彼の実力は私やリアスよりも上。『兵士』の駒を八つ消費したというのは伊達ではないという事です」
「駒八つ!?っていうかフェニックスをこいつが!?あのライザーを倒したのがこいつだなんて…俺はてっきり木場か姫島先輩が助けたものだと…」
ソーナの口から明かされる事実に匙は驚愕する。
先日のレーティングゲームの情報は一部の御家に配られたと聞いた。
ライザー・フェニックスが真正面から戦って負けたのも、リアスがジャイアントキリングを達成したというのも。
そしてリアス・グレモリーは赤龍帝の力を使って我儘を通したとも。
イッセーはただ必死にやっただけ、結果として勝ったがそれが正しかったかは分からない。
リアスはイッセーの様な優秀な眷属をグレモリー家が所有したのを快く思わない連中が、一言文句を言っているだけと断じていたが。
(まぁこれが普通だよな)
匙は目元を引きつらせながらイッセーに視線を向ける。かつて彼の生まれた村の人達と同じ視線。まるで野生のクマと対面しているかのような警戒の視線。
ソーナはその場から立ち上がって体をイッセー達の方へ向ける。彼はそれを見てライザーと比べて丁寧な人だなと思う。
「ごめんなさい、兵藤一誠くん、アーシア・アルジェントさん。うちの眷属はあなた達よりも実績がないので失礼な部分が多いのです。よろしければ新人悪魔同士、仲良くしてあげてください」
そう言って頭を下げる。
表情は薄い微笑み、氷の微笑とも呼べる。悪意的なものは無い、元々そのような表情しか出来ないのかもしれない。
「サジ」
「え、は、はい!…よろしく」
主からの指示に渋々頭を下げる。
自身の主が冷静に下僕の尻拭いをしているのに態度は仕方なく嫌々やってますが滲み出ている。
「はい、よろしくお願いします」
これまで状況を見ていたアーシアが屈託のない笑みでそういう。
「アーシアさんなら大歓迎だよ!」
匙は途端に元気になってアーシアの手を取ろうとする。
イッセーはこいつも同じ穴のムジナだなと確信する。年齢イコールで彼女いない歴だろう。
「おーそうか、よろしくな匙くん?」
「は?」
「そんなに熱烈な挨拶をしてくれるなんて、ただアーシアに手を出したら殺すから!」
イッセーはアーシアに触れられる前に間に割り込んで匙の手を取って握手をする。その表情は迫力のある笑み。
匙は一瞬目の前にイッセーがいる事実に理解が追いつかなかった、だが自分の手がガッチリとイッセーの手を取っている事に気が付く。
一瞬で間に入られた、それも自身が察知できないほどの速度で。
「うんうんよろしくね兵藤君!いやー美少女を独り占めなんて噂通りの鬼畜くんなんだね!や―天罰でも下らないかな!落雷落ちて死んでしまえ!」
どうやら力の差がどうこうよりもアーシアとのスキンシップを妨害されたのが許せないようで。
「いや悪魔が天罰って…神に祈るなよ…」
これ以上言い合っていても仕方ないため話を切る。
リアスとソーナはお互い大変ねと励まし合っていた。
「ちっ、俺んところの生徒会のメンバーはお前んところより強いんだからな」
匙は手を離して捨て台詞を吐く。
相手は気に入らないが、別に生徒会全員に悪意があるわけでもない、仲良く出来るのならそうするべきなため何も言い返さない。
「私はこの学園を愛しています。生徒会の仕事もやりがいのあるものだと思っています。ですから学園の平和を乱すものは悪魔であろうと許しません。それはあなたでもリアスであっても同様です」
ソーナは再び椅子に座り紅茶に口を付けた後、そう語った。
厳しいような冷たい印象を与える物言いだと誰もが思う。だがイッセーはこの人はとても不器用な言い方しか出来ない人なのだろうと思った。
(要はめっちゃ学校が好きって事か)
彼はソーナ・シトリーをそう解釈する事にした。
「お互いのルーキーの紹介はこれで十分でしょうね。では私達は生徒会室に戻ります、残っている書類もありますから」
そう言って彼女は立ち上がる。
「リアス、球技大会が楽しみね」
「えぇ、本当に」
二人の間に火花が散る。何やら盛り上がっている。
イッセーはそのやり取りを見て、この二人は凄く仲が良いんだと分かった。それと同時に何故婚約騒動の時に何もしなかったのだろうとも。
本当に大切な相手なら御家どうこうなんて乗り越えて助けるだろうに。それこそかつてアーシアを助けたイッセーのように。
(まぁ俺みたいな平民と違って上級悪魔ってのは沢山の人の人生を背負ってるんだろうけどな)
彼がそんな事を考えていると、ソーナがふと真横を通り過ぎる。
「リアスの事、ありがとう」
「!」
去り際に小さな声が聞こえた。
慌ててソーナの方を振り返る。そこには相手の後姿だけで表情を伺うことが出来ず本当に言われたのか確信は無かった。
匙はイッセーが耳打ちを受けたのを見ていたのかイッセーを睨んでいた。
ああ、そうか、と彼は分かった。
ソーナ・シトリーはリアスの一件をどうにかしたい、してあげたいと思っていた。
だが貴族の責務と風評という垣根を乗り越えることが最後まで出来なかった。
彼女は羨んだのだ。悪魔になるという選択を取ってでも敵であったアーシア・アルジェントを助けた彼を。
自分が正しいと思ったら真っ直ぐつき進める彼を。
こうして新たな眷属のお披露目会は終わった。