「悪かったって」
現在使われている校舎の裏手にある、かつて使用されていた旧校舎と呼ばれる場所にいつものスケベトリオはいた。
謝っているのはイッセーで片手だけを上げてすまんすまんと言った感じの安い謝罪をする。
正直なところ本気で申し訳ないと感じて謝っているとは思えなかった。
それも仕方のない話で、覗きが相手にバレているのに気が付いて素早く自分だけ逃げて、仲間二人をその場に放置したわけだが罪悪感で胸を痛めようはずもない。
そもそも罪悪感を感じる性格なら覗きなどしない。
一方、謝罪を受けた二人はワナワナと肩を怒らせながら問い詰めてくる。二人の顔はボコボコにされており、折檻を受けた跡がしっかりと残っている。
「貴様許さんぞ!自分だけ!」
「村山の胸はどうだったんだ!片瀬の足は素晴らしいのか!?答えろちくしょおおおおっ!!」
どうやら二人は先んじて逃げた事よりも、自分だけが眼福体験独占したという事実に対しての方が怒り心頭のようだ。
「まあまあいいじゃねえか、そういう事もあるだろ?」
いい加減言い寄られるのも面倒くさくなったのか話を切ろうとする。
そんなイッセーのスカした態度が気に食わないのか、何故自分達がここまで食い下がるのかを二人のうちの元浜が代表して懇切丁寧に説明へとかかる。
「じゃあ何かイッセー?お前は俺たちだけが村山や片瀬の半裸を堪能したとしても許せるのか?」
「血祭だな」
その質問に対して彼は憤怒の形相になりながら答える。それはもう地獄から閻魔大王がやって来たかのような表情で。
「だろ?殴らせろ?」
松田は相手に理解してもらったのを感じ、そしてそう言って有無を言わせずに殴りかかりに行く。
だがそんな怒りをしっかりと込めた拳はイッセーからすればスローモーションのようにしか映らず簡単にかわしてしまう。そんな簡単に捌いてしまう相手を見て松田だけでなく元浜も怒りを拳に込めて突貫するのだが、無情にもそれも簡単にかわしてしまう。
『ぜーはー……』
五分後、旧校舎には二人のバテバテな男子高校生がいた。エロ眼鏡の元浜とエロハゲの松田である。
「おまっ…マジで一発も当たらねぇ…」
「…帰宅部のくせに…何なんだ……」
二人は息を荒げながら疑問を口にする。
イッセー本人の自己申告、そして彼の事を知っている周りの人間もこれまで一度も運動系の部活に参加していないのを知っている。なのに一般人離れした体裁きを見せるのだから疑問を口にしたくもなる。
「痛いの嫌だし」
イッセーは倒れ込む友人二人を尻目にサラッと言い放つ。
それは全くといって答えにはなっていないが、そもそも二人は相手の謎を本気で解明したいというわけでは無い。
「…ん?」
そこでイッセーは自分に向けられる視線が一つ多いことに気がついた。
その方向へ視線を向けると旧校舎の二回の窓の一つから人影が一つ存在した。そこにはこの学園でも一、二を争うほどの知名度を持つ美女が。
彼女は妖艶でコケティッシュな流し目と共に窓から離れ部屋の奥へと戻っていく。
「旧校舎って…人がいたんだなぁ…」
松田は件の人物よりもほとんど使用用途のないと思っていた建物に人がいる事に驚きを感じたようだった。
イッセーはこの場にいたのに相手の気配を気取れなかったためか、若干だが警戒レベルを上げながらもその人物の名前を口にする。
彼は誰も自分達を監視していないのを確認してから口を開く。
「リアス・グレモリー…先輩…」
「99、58、90。三年オカルト研究部部長。出身は北欧という噂だ」
元浜は彼の集めていた美少女データと照らし合わせて話始める。
だがイッセーはそのデータが正確なものではないのを知っている。
何故なら彼女は人間ではなく悪魔であり、出身は北欧ではなく恐らく冥界。その事を彼は知っている。
「オカルト研究部の部室ってもしかしたら旧校舎を間借りしてんのかもな」
イッセーは知っていた情報をさも今しがた思いついたかのように言った。
だがその情報に対して彼の悪友二人のリアクションは何か違和感を感じるものだった。
「ん…あーそうかもな」
「それよりも女子更衣室が次から覗けなくなっちまうな」
「いやマジでどうするよ!?」
突如現れた美女の話題から再び覗きの話へと話題は戻る。
まるでオカルト研究部の事を深く知ろうとすると、脳内が勝手に別の事を考えるように誘導されているかのようだ。
「あ、まー…そうだな」
その事に気が付いてイッセーは素早く話を悪友二人に合わせる。
若干だが不安そうにしているイッセーを横に、元浜と松田は次はどうやって女子の着替えを覗こうかという話に花を咲かせる。
オカルト研究部のメンバーは正体は兎も角として、学園屈指の美男美女の人気者ばかりで固められているのは知っていた。
だが一方で入部希望者が殺到しているという話は聞いた事も無ければ、そもそもの話が部室が旧校舎にある事すら多くの生徒が把握出来てはいなかった。
前から何となく気にかかっていたのだが下手に探ろうとして正体を知られるという、木乃伊取りが木乃伊になる現象を避けるためあまり深く探ってこなかったのだ。
「取りあえず今日は帰ろうぜ」
イッセーはこれ以上この場にいても仕方ないので悪友二人に帰宅を促す。
それを聞いた二人は「そうだな」と頷きながら自分たちの鞄を置きっぱなしにしているホームルーム教室へと戻っていく。
◎
エロ三人組が旧校舎から見えなくなった頃、リアス・グレモリーは部室内のソファーに腰掛けながら、セットになっている長テーブル上に置かれたチェスのボードとその上に並べられている駒を見つめながら深く考え事をしている。
オカルト研究部副部長という役職を持つ巨乳ポニーテールお姉さまの姫島朱乃、誰もが憧れる学園のアイドルの一人。
そんな光景を一歩下がった所から紅茶を用意しながらも意識を向けていた彼女は、そんな雰囲気が少し引っかかり話しかける。
「どうされましたか?部長?」
紅茶を差し出しながらそう質問をした。
二人は長いつき合いの親友同士であるため、二人っきりの時であればため口で話すことは珍しくない。だがリアスの真剣味の濃い表情を見ると対等な友人ではなく、主と僕の関係で接しなければ許されないと感じてしまったのだ。
「…………いまの子」
「はい?」
「真ん中にいた子よ」
話がスムーズに進まない事に対して少しだけピリついた雰囲気になるリアス。
普通の人間であればその圧で怯んでしまうのだが、朱乃は一切ペースを乱すことなくおっとりとした口調で返す。
「二年B組の…確か…兵藤とか言う…」
朱乃は何とか脳内に残る電気信号の残滓をかき集めて、相手に可能な限りの情報を提供する。
とはいえ一年年下の更に異性の情報など大して持っているはずもなく、学年とクラスと何となく覚えている名前という曖昧な事しか言えない。
あとエロい事で有名という話も聞いた事が有るような無いような。だが直接自分自身が被害に遭っているわけでは無いため対して記憶に残る相手では無かった。
「あの男の子が何か?」
この学園の生徒で彼女の記憶に留める相手というのは、自分達と同族かもしくは世界の裏側に足を踏み入れている相手だけだ。兵藤一誠という男子生徒がそういう存在であるという話は通されていない。
気の知れた間柄であれば「もしかして一目惚れ~?」などど言って盛り上がっちゃうところだが、生憎今のリアスはそのようなからかいが通じにくい状況に身を置いている。
「いいえ…勘違い…気にしすぎ…だと思うけど…ね……」
リアスは煮え切らなそうな雰囲気を出しつつも盤上のチェスの駒を掴み動かす。駒を置いてから一言「チェックメイト」と言ってソファーから立ち上がる。
「あらー…」
朱乃は自分が必死に考えて用意した詰めチェスの問題を簡単に、それも別の考え事や話し半分の状態であっさり解かれたのだからもう呆れるしかない。
「簡単な問題だったわね」
「うふふ、なら次こそはリアスの手を止めさせる問題を用意してきますわ」
そんな何気ないやり取りが行われる。
だがリアスの表情は何処か晴れなかった。歯の間に何かのカスが挟まって取れないかのようなそんなモヤモヤした気分の悪さ。
リアスは小さな違和感を解消するために口を開く。
「ねえ朱乃」
「はい?」