リアスは生徒会長と話し合いが入ったという事で、今日はイッセーとアーシアの二人で帰る事になった。
「はーしんどいなぁ…」
「大丈夫ですか?イッセーさん」
今日は久しぶりに悪魔の仕事がない日だった。
理由は単純に仕事が無かったからだ。昔と比べて悪魔を信じる人も呼び出そうとする人も格段に減った。たまにこうして暇な日も出来る。
「いやさ、木場のやつの事も考えないといけないし。だいぶ荒れるぞ、ありゃ」
「そうですね…」
木場はいつも通りに学校には来ていた。いつも通りに女子たちに囲まれて、いつも通りににニコニコフェイスを撒き散らしていた。
まるで前日に何もなかったかのように思える、または吹っ切れたかのように錯覚しそうになる。だがイッセーは木場の体が負傷しているのを見逃さなかった。
傷こそ薬などで誤魔化しているが体の重心が少し傾いていた。何かしら戦闘をしていたのは明白、そしてそれを恐らくだがリアスに報告していない。
アーシアはそれを知って治したがっていたが、この件を木場が隠している以上は突っ込むなとイッセーが言って放置している。
「ん?」
自宅前に到着した段階になって家の中に何者かが入り込んでいるのが分かった。
異物感からくる寒気と同時にどこか懐かしい雰囲気。
「イッセーさん…」
アーシアは何かを察したのか震えながらイッセーの服を掴む。
彼はあり得ないと思う。
悪魔になった時の契約で兵藤家とその一帯はリアスが結界を張っており、一部の悪魔とスタッフの魔力やオーラを登録しており、それ以外が侵入したらすぐ報告が来るようになっている。
誠実で高潔である事を誇りに思うリアスが契約に対して手を抜くはずがない。だが侵入者はそれをすり抜けて家の中にいる。
「俺の後ろに隠れてろ」
いつもの優し気な口調など投げ捨ててアーシアに指示を出す。
彼女はびくりと体を震わせて頷いて下がる。
脳裏に浮かぶのはかつてフリードと呼ばれていたエクソシストが起こした殺人現場。もし母親が同じ目になったらと考えてしまう。
彼は焦る気持ちを抑えながらドアノブを握ってゆっくりと開く。
「靴…」
玄関先にこの家の物ではない靴が二足分置かれていた。
そしてリビングの方から聞こえてくる話し声。足音を殺しながらゆっくりと家の中を歩く、侵入者に気取られないように。アーシアには何も指示を出さなかったが、彼女も同じように静かにしている。
「でね。こっちが小学生の頃の写真なの。ほらこっちなんて海で海パンが破れた時ね。やぶれたままで海に入ってしまって」
「へー」
イッセーの視線の先にはアルバムを囲む母親と見知らぬ女性が二人。
栗毛の髪と緑のメッシュを入れた目つきがキツめの二人の美少女、容姿は彼と同世代に見えるが、白いローブを着ていた。
何か尋問されたりしている風では無かった、むしろ知り合いの距離感に見えた。
だが外見高校生二人と専業主婦が知り合いというのはどうにもしっくりこない。
「母さん?」
「あらイッセーおかえりなさい。今日は早いのね」
息子が帰って来た状況でも何一つおかしい所は見られ無い。いつも通り普通の状態。
「はううぅぅっ…良かったですぅ…」
アーシアは無事を確認して体中の緊張を解いた。
それに対してイッセーは母親の無事に当然安堵したのだが、それ以上の衝撃が目の前にあった。
「お前イリナか…?」
小さい頃はやんちゃ坊主と言った感じだった彼女も、今は誰もが見間違えない一人の女性になっていた。
自分だと即座に気が付いたのが嬉しかったのか、ニッコリ笑顔でイリナは話しかける。
「久しぶり、一誠くん。お互い暫く合わない内に色々とあったみたいね」
◎
「イッセーさん、心配です…」
「そうね…」
アーシアとリアスはイッセーの部屋の前で話し合っていた。
今日は一人にして欲しいと言われたのだ。これまでの恥ずかしがるような態度ではなく、今までに見たことの無い思い詰めた表情で。
そんな状態の相手に深く突っ込むほど彼女は傲慢ではない。
リアスはエクソシストが侵入したという報告を受けて慌てて兵藤家に戻った。幸いにも教会側は悪魔とやりあう気が無かったため事なきを得た。
明日の放課後に話し合う約束だけをしてその場は一旦お開きになったのだ。
そして知ったのはエクソシストの一人が先日写真で見たイリナいう幼馴染の女の子だった。イッセーの顔色が悪いのは間違いなくそのせいだった。
(どうやって彼女たちはこの家に入れたのかしら…)
リアスが気になったのは結界を突破した方法だった。
相手は恐らくだが聖剣を持ったエクソシスト、そんな異物は確実に結界が反応する対象のはず。
リアスは木場に続いてイッセーもふさぎ込んでしまった現状に頭を抱えたくなる。現状は彼女一人が抱え込むには手が回らない。
◎
久しぶりに静かな夜を過ごしていた。
ほんの数週間前まで一人で寝ていたいうのに部屋がとても広く感じる。
「やっちまった」
『彼女の事か』
「イリナもだけど…部長やアーシアに冷たくしちまった…」
彼の中の兵藤一誠はいつだってエロと熱血の男子高校生のはずだ。実際に頭の中はエロエロだ。
いつもなら世界が滅ぶようなどんな事があっても女子と寝る事を選ぶはず。なのに今日は拒否してしまった。
「くそ、イリナがエクソシストになってるなんてあり得る話だろ…」
自分の未熟さというものを痛感する。
木場の事をバカに出来る立場じゃないなと彼は思う。一晩寝てキチンと頭を整理して仕切り直そうと誓った。
◎
エクソシストの二人は借りている安ホテルの一室で休んでいた。
「…………」
「イリナ?どうした?」
相棒である紫藤イリナが静かなのを見て、彼女の仲間である緑のメッシュを髪に入れた女性、ゼノヴィアは心配する。
元気印と言えばの代名詞である彼女が、口を開かず先ほどから深刻そうにしている理由が彼女にはよく分からなかった。
「悪魔になってた」
イリナはポツリと呟いた。
「ああ、あの兵藤一誠とかいう男か」
ゼノヴィアは心の機微に疎い部分がある。
幼馴染が悪魔になっていたから何?くらいにしか捉えていない。ショックだろうとというのは想像できなくは無いが、そんなにかと思ってしまう。
「私…やっと会えるって…十年前の事をやっと謝れるって思ったのに…」
兵藤一誠だけではなく、紫藤イリナにとっても十年前の出会いは大きかった。
十年前に小さな事で突っかかってしまい、お互いに気まずいまま顔を会わせずに別れることになってしまった。
そして十年ぶりに会った自分を一瞬で「紫藤イリナ」だと気が付いてくれた時は不覚にもときめいてしまった。
まずは一言謝りたかった、もう一度遊びに行きたかった。ワンチャン、デートなんて出来たら最高だっただろう。
あの時、悪魔になったイッセーを見て絶望を顔に出さなかったのは奇跡だった。
その時には謝らなければいけないとか、自分の積もっていた想いを言わなくてはいけなかったが、頭が真っ白になっていた。
「私何やってるんだろ…」
「…………」
これまでにないほど落ち込むイリナ。ゼノヴィアはそんな相棒に対してかける言葉が見つからなかった。
そして明日また会って会談をしなくてはいけない。それを考えると体が重くなる。
◎
グレモリー眷属達は次の日の放課後、オカルト研究部の部室に全員集合していた。
テーブル越しの二つのソファーにイリナとゼノヴィア、もう片方にリアスと朱乃が座る。そして他のメンバーは部屋の壁を背にしてやり取りを見守る。
皆がイリナとゼノヴィアの持っている白い布の包に警戒をしている。本能で理解はできる、それが悪魔にとって危険なのだと。
(にしても…)
この場で一番危険なオーラを発しているのは木場だった。
分かりやすい怨恨の眼差し、いつでも斬りかかれるよう準備を怠らない。目の前には一番嫌いであろう現役信徒。腹の中はどれだけ煮えくり返っているのか想像するのは難しくない。
(ここで剣なんか抜いたら一発で戦争だぞ、分かってんのかコイツ…)
そんな危うい空気の中、会談が始まる。
最初に口火を切ったのはイリナだった。
「先日、カトリック教団本部ヴァチカン及び、プロテスタント側、正教会側に保管、管理されていた聖剣エクスカリバーが奪われました」
イッセー以外はその事態の深刻さを受け止め息を呑んだ。
彼は剣が盗まれたどうこうよりも、一本の剣が何故三か所で盗まれるのかと不思議に思ったのだ。
「おとぎ話に出るような聖剣エクスカリバーそのものは現存していないわ」
彼の疑問符を察したのはリアスだった。
彼女はイッセーがまだ悪魔になりたてなので、聖剣の説明込みで話を進めていいかと相手に確認を取った。
イリナは首を縦に振って話始める。
「イッセーくん、エクスカリバーは大昔の戦争で壊れたの」
イリナは何とか平静を装って喋る事に成功した。
内心ではまだ幼馴染の彼が悪魔になった事に混乱はしていたが、一晩寝た事によって何とか気持ちを整理していた。
「今はこのような姿さ」
ゼノヴィアは布で巻かれた物体を解き始める。そこから出て来たのは一本の剣。
それを見た途端イッセーは寒気がした。恐怖、戦慄、畏怖。悪魔の本能がそれを危険だと教えてくる。
「これが私の持っているエクスカリバー『破壊の聖剣』。七つのうちの一つだ。カトリックが管理している」
「そして私が…」
イリナは懐から一本のヒモを取り出す。するとそれがうねうねと変形すると一本の日本刀になる。
「私の方は『擬態の聖剣』。こうやって自在に形を変えられるの、運ぶのに便利なんだから。これはプロテスタント側が管理しているわ」
彼女は自慢げに言う。
だが相方の方は楽しくなさそうで。
「イリナ、相手に剣の力を教えるな」
「大丈夫よ。相手方の信頼を得なければこの場は難しいでしょう。ゼノヴィアだって私の実力知ってるでしょ?いざとなったら奥の手もあるし」
ゼノヴィアは剣の力を喋る相方に不満そうだったが、イリナからしたら仮にここで戦う事になったとしても余裕で勝てる算段なのか。
この状況でも一人だけは殺意を増していた。
木場だった。目の前で目当ての聖剣が現れたらもう我慢できるものでは無いだろう。それでも斬りかからないのは、それをしたらリアスを本当の意味で裏切ってしまうからか。
「それで奪われたエクスカリバーがどうしてこんな極東の島国の地方都市と関係があるのかしら」
リアスは堂々とした態度で会談に臨んでいた。
エクスカリバーの脅威を感じていないはずは無い、それでも不安そうな素振りは一切見せない。
聖剣エクスカリバーは現在七本に分かれてしまっている。目の前にある二本と、堕天使が強奪した三本、一本は教会が厳重に管理、そして残りの一本だけが行方不明。
「エクスカリバーを奪ったのは?」
「グリゴリだよ」
ゼノヴィアの回答にリアスは目を細める。
グリゴリとは堕天使たちをまとめている組織の名前だ。
「奪った主犯は?」
「コカビエル、堕天使の幹部だ」
その答えに皆が驚く。
コカビエル、それは堕天使の組織の幹部、聖書にその名前は記されている。
だとしたらこの二人は何故ここに来たのかという疑問が生じる。考えられる理由の一つは協力を結びたいとかだろうか。
「この街に先日からエクソシストをもぐりこませているのだが、ことごとく始末されている。私達の依頼、いや注文は私たちエクスカリバーの争奪にこの地に巣食う悪魔が関与しない事だ」
ゼノヴィアはそう言い切った。
それを聞いた途端、リアスから剣呑なオーラが発される。
上級悪魔としてこの地を納めている自負と、プライドを持っている彼女からしたら、勝手に領地を荒らされて、後からやってきた奴らに言いたい放題は到底許せないだろう。腹が立って当たり前だ。
何よりこの一件は教会側の失態によって起こっているのだから。
「随分とした物言いね。私達が堕天使たちと組むとでも?」
「本部はその可能性もあると考えている。堕天使と手を組むのなら例え魔王の妹だとしても消滅させる」
キレ気味のリアスに対峙してもゼノヴィアは態度を変えない。敵地のど真ん中で宣言するそれは命を捨てているとしか思えない。
「私が魔王の妹だと知っているという事はあなたたちは相当上に通じているという事ね…」
教会とてバカではない。
もし仮にこの場でリアス・グレモリーに手を出せば戦争になる。この場所、駒王町がそれほど繊細な場所だと分かっているからこそ、小さな偵察を複数回送り、こうして交渉に来ている。
ゼノヴィアの挑発的な言い方に問題はあるが、そもそも敵対関係である以上は腰を低くするのも難しいという事か。
リアスは相手の事情をそこまで汲んで返事をする。
「なら私も言わせてもらうわ。堕天使などと絶対に組みはしない。グレモリーの名に懸けて、魔王の顔に泥を塗るようなことはしない」
ゼノヴィアその言葉を聞いてフッと笑った。
「それが聞けただけでも十分さ。この町にエクスカリバーが三本潜んでいる事を伝えなければ様々な勢力に恨まれる。協力は仰がない。そちらも神側と手を組んだら問題だろう、特に魔王の妹ならなおさら」
イッセーはめんどくさいやり取りだなと思う。
素人的には協力したら楽じゃんと思うが何千年も前から起きる確執はそう簡単に解消できる話では無いんだなと思う。
「正教会からの派遣は?」
リアスは質問をする。この場の二人だけでコカビエルとやりあえるとはとても思えなかったのだ。
「奴らは今回のこの話を保留にした。仮に私とイリナが奪還に失敗したとして、最後の一本を死守するつもりなのさ」
イッセーは耳を疑った。たった二人で堕天使の幹部といるであろうその部下を相手取るというのだ。
二人の実力もエクスカリバーの力もまだ測れたわけでは無いが、無謀だというのは彼にも分かる。
(捨て駒…)
彼は何となくだがエクソシストの二人が置かれている状況を理解した。
エクスカリバーの奪還は、これを切っ掛けに戦争になるリスクが大きいため本来はしたくない、だが教会としても面子を守るために切り捨てても構わない端の先兵を送ったのだ。
それがエクスカリバーとその使い手だとしても、戦争が起きるリスクを天秤にかけたら小さい出費なのだろう。
「二人で?」
リアスも同じ事を思ったようで短く一言発した、無謀だ、死ぬつもりなのかと。
イリナとゼノヴィアはその言葉に一切揺れない決意の瞳を見せた。
「そうよ」
「私もイリナと同意見だ、出来れば死にたくはないが」
「ッ」
リアスは絶句した。だが何とか気を持ち直す。
「死ぬつもりでここに来たというの?相変わらずあなた達の信仰は常軌を逸しているわね」
「我々の信仰をバカにしないで頂戴。ね?ゼノヴィア?」
「まあね、上はエクスカリバーが利用されるくらいなら壊しても構わないと決定した。最低でも堕天使たちの手からエクスカリバーを無くすこと。その為なら私達は死んでもいいのさ。エクスカリバーに対抗できるのはエクスカリバーだけさ」
二人は何のことも無さそうにそう言った。それが本心なのか、自分たちの現状から見て見ぬふりをしているのかは不明。
基本的にみんな無事ならオッケーと考えるイッセーからしたら理解不能な考え方だ。
『…………』
リアスとゼノヴィアは少しの間睨み合っていたが、すぐにその緊張状態は解けた。
「そろそろお暇させてもらうよ」
「そう、お茶は飲んでいかないの?」
「いらない」
リアスの厚意を無下にするゼノヴィア。悪魔からの施しは受けないという構えか。
彼女はそんな態度を取られても苛立ち一つ見せなかった。そう来ると思っていたためだ。
二人が立ち上がり帰ろうとするが、その視線の先にはアーシアがいた。
「兵藤一誠の家であった時、もしやと思ったが『魔女』アーシア・アルジェントか?」
ゼノヴィアが口火を切る。
「あなたが一時期噂になっていた元聖女の『魔女』さん?どこかに流されたと聞いたけど悪魔になっているとは思わなかったわ」
そしてイリナの発した一言にイッセーは途方もない吐き気がする。それだけは聞きたくなかった。
どこかで願っていたのだ。紫藤イリナは悪魔だとか聖女だとか、そんな垣根など気にしない人間なのだと。
かつてただ不貞腐れるだけだった自分を立ち直らせてくれた相手ならそうであって欲しいと、勝手に期待していた。
(ああ、そうか。これが信徒ってやつなんだ。アーシアが特別なだけだったんだ…)
アーシアはイッセーが悪魔と分かっても友達になりたいと思ってくれた、なってくれた、理解してくれた、そんな前例があったからこそ偏見を持たないで接してくれると何の根拠もなく信じていた。
だがその期待は淡いものだった。
「あ、あの…」
アーシアは詰め寄られて困惑していた。
それだけではない、今の自分を見られるのが辛い気持ちもあるのだろう。これまで聖女として神を信仰してきた彼女からしたら、悪魔に転生するという選択はこれまでの生き方を否定したようなものだ。
それを現役の信徒に見られるのは辛いのだろう。
「しかし悪魔か。堕ちるところまで堕ちたものだな。まだ神を信じているのか」
「ゼノヴィア、悪魔になった彼女が神を信仰しているのかしら」
イリナは呆れたようにゼノヴィアに指摘する。
だが彼女の口は止まらない。
「いやその子からは信仰の匂いがする。背信行為をする輩には罪を感じながらも信仰を忘れないものもいる」
その発言にイリナは興味深そうにアーシアに視線を向ける。それは人に対するものではない、まるで珍しい植物でも見つけたようなそれだった。
「忘れられないだけです。ずっと信じてきたものですから」
アーシアは簡潔に答えた。
それを聞いて相手は目を細める。気に入らないのだろう。
「そうか、ならば今すぐ私達に斬られるといい。今なら神の名のもとに断罪しよう。罪深くとも、我らの神ならば救いの手を差し伸べてくださるはずだ」
ゼノヴィアはそう言って布に包まれた物を相手に突きつける。
もう限界だった。イッセーは今すぐにでもゼノヴィアに一発食らわせなければ気が済まなかった。
だがそんな彼を止めたのはアーシアだった。
「罪、私は自分が悪い事をしたとは思っていません。ここで皆さんと一緒にいるのが今の私の幸せです。もしあの時…傷ついた悪魔さんがいた時間まで戻れたとしても絶対に助けます、どれだけ茨の道だとしても何度でも同じ事をします。この力は主に頂いた私の誇りです」
『…ッ』
彼女は聖剣を突き付けられて怖くても一切相手から視線を逸らさずに言い切った。
エクソシストの二人はアーシアの何一つ揺るがない瞳に一瞬怯んだ。目の前にいるのは間違いなく聖女だった。
「ああ、そうだな。こんなに優しいアーシアを認めない神様がいるなら…そいつは神じゃねぇよ。クソ野郎だ」
イッセーはアーシアを守るようにゼノヴィアの前に立った。
イリナはその光景を見て顔をこわばらせた。悪魔になった彼がアーシアを守るように自分たちの前に立ちふさがったその事実に。
「主に対してその一言は我々を敵に回すという事で相違ないか?」
「敵に回すも何も俺は教会もエクソシストも堕天使の奴らも全部嫌いなんだよ。それより神様を後ろ盾にしてないでかかって来いよ、相手してやる」
その一言がアーシアもイリナもどっちも傷つけているなという自覚はあったが、彼の腹の中で抑え込んでいた怒りがその口を止める事を許さなかった。
「一介の悪魔にすぎない君が大きな口を叩くね」
「こんな島国の田舎で使い捨てにされる程度の聖剣使いがなんだって?ああ、神ってやつはお前を見捨てるくらいの実力なんだな」
ゼノヴィアの殺気を受け止めても彼のその口は止まらない。
彼女からしたら口ぶりとは別にここで悪魔とやりあう気は無かったはずだ。だが相手が敵対的なら態度も変わると言うものだ。
「滅する」
「殺す気で来いよ。言い訳出来ないくらいボコボコにしてアーシアに治させてやる」
売り言葉に買い言葉、ゼノヴィアは剣、イッセーは拳を構える。
「イッセーお止め―」
リアスは眷属を嗜めようとする。
だがそこに割り込んでくる男がいた。
「丁度いい僕が相手をしよう」
木場だった。イッセー以上の特大の殺気を撒き散らしながら壁から離れる。
突然入って来た相手に不審そうな視線を向けるゼノヴィア。
「誰だ君は?」
「君たちの先輩だよ。失敗だったそうだけどね」
そう言って足元に魔剣たちを生み出した。