ちょっと不幸なイッセーくん   作:高町廻ル

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聖剣大捜索

 イッセーたち一行はエクソシストの白いローブを被っておとり捜索を敢行していた。

 数日間こうして放課後や深夜に捜索を行っているがまだ結果は出ていない。

 

「うーむ…」

 

 イッセーは唸る。

 あのフリードならエクソシストを見たらすぐに飛び込んでくると思っていたが、思っていた以上に警戒心が高いのか姿を見せない。

 もう既にオカルト研究部と生徒会にバレつつある。

 流石に眷属悪魔が集まって放課後にほっつき歩いていたら何かしているのではと勘図かれるのも仕方ない。

 

「祐斗先輩…」

 

 小猫はここで何かに気が付いたようで小さな声で話しかける。

 木場もイッセーも既に何者かがこちらを見ているのを察した。まだ実践が少ないであろう匙も寒気を感じている。

 

「上だ!」

 

 匙がそう叫ぶよりも先に他三人は臨戦態勢を作っている。

 

「神父の一団にご加護あれってね!」

 

 聞き覚えのある声が一体に響く。

 ギィィン!と木場は素早く魔剣を作り出して少年神父、フリードの一撃を防ぐ。

 

「やっぱりお前か」

 

 イッセーはうんざりした口調で話しかける。

 不快極まりないその金切り声と口調、好きになれる日はないだろう。

 

「その声はイッセーくんですかい?これまた珍妙な再会劇でござんすね。そろそろ殺していい?」

 

 相も変わらずふざけた男だが木場と斬りあっている。

 そして相手の持っている光の剣がエクスカリバー、悪魔にとって必殺の効果を持っている。

 

『Boost!』

 

 イッセーは白いローブを脱いで神器を起動する。

 今回の彼はあくまでサポート、木場がフリードを倒せばそれでいい、だが危険ならすぐさま助力に入る。

 

「伸びろラインよ!」

 

 匙の手の甲にトカゲのデフォルメの様なものが装着されている。それのベロがフリードの元へと飛んで行く。

 

「うぜえっす!」

 

 フリードはそれを聖剣で薙ぎ払応答するのだが、ベロは剣先を軽やかにかわして相手の足に絡みついて離さない。

 相手は苛ついて剣で切り裂こうとするのだが、まるで実体がないかのようにすり抜ける。

 

「おお、やるじゃん」

 

 イッセーは感心した。

 何となくだが自分が目を光らせて逃がさなければいいと思っており、具体的に相手の退路を断つ方法を考えていなかったのだ。

 

「木場!そいつは逃げられねえ!存分にやっちまえ!」

「ありがたい!」

 

 木場はそう匙に返してフリードとの距離を詰める。

 

「複数の魔剣所持、もしかして『魔剣創造』でございますか?わーお、中々レアの神器をお持ちですこと」

 

 相手の持つ二振りの魔剣をみて木場の神器を察する。その口調は愉快で楽しそうだった。

 

「だが俺の持ってるエクスカリバーちゃんはそんじょそこらの魔剣じゃ倒せませんぞ?」

「くそっ」

 

 木場の魔剣は鍔ぜりあう事も無くことごとく砕かれていく。

 ゼノヴィアの『破壊の聖剣』ほどのパワーは持っていないようだが、それでも木場の魔剣は強度で負けている。

 

(まずいな…)

 

 イッセーは木場が剣を砕かれるたびに躍起になって冷静さを失っているのを感じていた。

 剣士としての技量であれば負けていないが、持っている武器の性能に差が大きすぎる。フリードのスピードが前に戦った時よりも増大しており、聖剣の力が上乗せされていると思われる。

 正直フリードの実力ならイッセーが力を使って全員で取り囲めば楽勝で倒せる程度でしかない。だがそれで木場が満足するかといえば否だろう。

 

「ならっ!」

 

 木場は地面に手をやると光出して剣がそこから生えてフリードに向かって突き立てていく。まさに雨あられと言った感じだ。

 並のエクソシストなら一瞬で串刺しだろう。だが相手は最強クラスの武装を持っているのだ。

 

「この腐れ悪魔があッッ!!」

 

 フリードはそう叫ぶとエクスカリバーを滅茶苦茶に振り回し始める。そして一つ一つの剣を破壊していく。

 

「俺様のエクスカリバーは『天閃の聖剣』!速度だけなら負けないんだよォッ!」

 

 剣先がどんどん加速していってその剣先が殆ど視認できないレベルになる。

 その剣を破壊する速度が木場の生成する速さを上回り始めていた。このままでは聖剣が木場を襲うのも時間の問題。

 

(割り込むしかねえか)

 

 木場としては不本意かもしれない、けれどこのまま聖剣の餌食になるよりはマシだった。

 

「やらせるか!」

 

 匙はこの状況でいち早く動いた。これまで相手を拘束していたトカゲの舌を引っ張って足元を崩して足止めをする。

 トカゲの舌が淡く光り始める。

 

「これはクソッ!俺っちの力を吸収すんのかよ!?」

 

 フリードは驚き、そう言って聖剣で切り裂こうとするが実態を持たないのか特殊な物質なのか斬撃を受け付けない。

 

「これが俺の神器『黒い龍脈』だ!こいつに繋がれている以上、お前の力は吸収され続ける!」

 

 匙は自身の力をそう言った。

 拘束したうえで相手の力を減少させて弱らせる、直接的かつ分かりやすい強さでは無いが相手が警戒を裂かなくてはいけない厄介な性能をしている。

 

『なるほどヴリトラか』

(なんだよそれ?)

 

 匙の神器を見ていたドライグは呟いた。

 

『かつていた龍王の一匹だ。俺と同じで討伐され神器に封じられている。あいつの神器はその力の一部が封じられている』

(まじか、あ、じゃあ俺みたいに話せんのか?)

『いやヴリトラは体を切り刻まれて複数に分けられ封印されている。俺のように意識は無いはずだ』

 

 匙もまたドラゴンの力を持って生まれた人間という事だ。

 

「木場!そいつは危ねぇ!とりあえずもう倒せ!聖剣の事は後で考えろ!これ以上そいつを放っておいたら会長まで害が出そうだ、弱らせてる今がチャンスなんだ!」

 

 匙は建設的な意見を出す、というよりも焦って怒号を発したというほうが近い。

 正直、イッセーからしてもそれがベストな選択肢だと思う。木場のプライドという一点を除いたら。

 フリードをここで逃したらどれだけの被害が出るかわからない。それこそ駒王学園の生徒や兵藤家にも魔の手は伸びるかもしれない。

 木場の脳裏にはかつてイッセーがまだ人間だった頃にフリードに蹂躙された人の姿が。もしここで逃したら同じ被害者が出るのは想像に難くない。

 仮にエクスカリバーを破壊出来たとして、自分の我儘を優先して多くの被害者が出た時、かつての仲間達に胸を張って見せられるだろうか?

 

「不本意だけどここで君を始末する事にしよう。残り二本の使い手に期待するさ」

「はっ!他の使い手は俺様より弱いんだぜ?俺様を殺したら満足できる聖剣バトルは出来なくなるんだぜ?」

 

 フリードは木場のセリフに対して挑発をする。

 正直嘘か本当かは不明だが相手を躊躇わせる効果はある。事実、木場は目元を引き攣らせている。

 

「ほう『魔剣創造』か?使い手の技量次第で無類の力を発揮する神器だ」

 

 突如現れた声。そこには初老で神父服を着た男が立っていた。

 この場で相手のことを知ってるのはフリード。

 

「バルパーの爺さんか」

 

 その一言に全員が驚く。

 まさに木場にとっては怨敵だ。

 

「バルパー・ガリレイッ!」

「いかにも」

 

 肯定を男は述べる。そしてフリードの足に絡みついているベロを見て嘆息する。

 

「フリード、何をしている」

「このベロが邪魔で逃げられねえんすよ!」

 

 聖剣を何度も突き立てるが切れる様子がない。

 

「私の与えた因子をもっと有効活用してくれたまえ、体に流れる因子をできるだけ刀身に込めろ。そうすれば自ずと切れ味は上がる」

 

 その言葉を聞いてフリードが集中するとエクスカリバーの刀身が強い輝きを放ち始める。

 そして放った一撃は簡単に神器を切り裂いた。となれば相手が取るのは一つしかない。

 

「逃げさせてもらうぜ!次に会う時が最高のバトルだ!」

「逃がさん!」

 

 素早く動く影が一つ。ゼノヴィアが飛び出してフリードに切り込む。

 

「やっほー。来たよ?」

 

 イリナも同じく到着する。ここでやっと共同戦線の助っ人が合流する。

 

「フリード、バルパー。神の名の下に断罪してくれる!」

「神の名前を出すんじゃねぇ!このクソビッチが!」

 

 斬り合いながらも懐に手を入れる。そして小さな球を取り出す。それは前も使っていた閃光玉。

 

「バルパーの爺さん、撤退だ!」

 

 そう言って辺り一帯が光に包まれる。

 一瞬で二人は逃げたが、イッセーの目にはどちらの方へ走っていったのか見えていた。

 

「追うぞイリナ!」

「うん!」

 

 エクソシスト組は素早く追走する。

 木場もまたついていこうとする。

 

「逃すか!」

「バカやろ!三人とも追うな!」

 

 頭に血が上っている木場はイッセーの注意を無視して追いかけていった。

 

「イッセー先輩、私たちも…」

「ダメだ!」

 

 イッセーは無視された事に苛立っているのか、小猫につい大声で怒鳴ってしまう。

 小猫はその声にビクッと体を振るえさせて縮こまった。

 

「おい兵藤!」

 

 感情的になるイッセーに匙は肩を掴んで嗜める。

 

「わ、わりぃ…ごめん小猫ちゃん」

「い、いえ、大丈夫です。でもなんで追いかけては…」

 

 小猫は相手の大声自体はあまり気にはしていなかった。だが追撃をやめた理由は気になったのだ。

 

「これまでは俺たちが有利な条件と場所で敵を迎え撃てるようにしてた。最悪追い詰められても部長が来てくれる場所で」

 

 情けない話だがリアスに迷惑を最悪かけてもいいと思っていた。

 

「だけどいまフリードを追いかけたらどんな罠があるのか、どれだけの刺客がいるのか分からない。敵陣に何の備えもなく飛び込むのは無謀すぎる」

 

 相手は必ず迎え撃ってくる。そうしたら狩る側だったのが狩られる側になってしまう。

 近くで魔方陣が光出す。それも二つ。

 

「それに時間切れみたいだ」

 

 主様たちが騒ぎを聞きつけてやって来た。

 

 

「…エクスカリバーの破壊ってあなたね」

 

 リアスは額に手を当てて頭痛を堪えていた。極めて機嫌はよろしくない。

 そしてその隣には朱乃がいる、特に機嫌が悪そうではない。自分たちが出来なかったことをやってくれたといった感じか。

 小猫とイッセーは共に正座をしていた。一応謝罪と反省のポーズは取る。

 

「サジ。貴方はこんな勝手なことをしていたのね。本当に困った子ね」

 

 会長は冷たい表情で詰め寄っている。淡々としているのが怖さを引き出してくる。

 

「あうぅ…すみません、会長…」

 

 匙は正座を超えて土下座をしている。頭を勢いよく額に擦り付けている、横顔しか見えないが顔色は真っ青になっている。

 

「祐斗は?」

「一応何かあったら連絡はくれる話はしています」

「復讐に燃える祐斗が連絡をくれるかしら?」

「ですよねー…」

 

 木場はバルパーを見た瞬間からもう正常にものを考えられなくなっている。普段なら落ち着いてその場で体勢を整える方を選ぶはずだ。

 そんな相手が落ち着いて電話するなどあり得ない。

 

「小猫」

「…はい」

「どうしてこんなことを?」

「…祐斗先輩がいなくなるのは嫌です…」

 

 リアスの問いかけに小猫はそう返事をした。彼女から漏れ出てくる素直な思い。

 

(木場のバカ野郎が…何、全部失ったみたいな顔してんだ…こんなに思ってくれる人がいて、その人達を悲しい顔させんなよ…)

 

 イッセーはそのやり取りを見て改めてそう思った。

 

「過ぎた事をあれこれ言うのもね」

 

 リアスは弱々しくなっている小猫を見てこれ以上問い詰めるのを止める。

 

「ただ、あなた達のやったことは大きく見れば悪魔の世界に大きな影響を与えかねなかったのよ?」

『…はい』

 

 最後にリアスは一言だけそう言った。

 だが謝った二人は上手くそれを理解出来なかった。ただ漠然と危ない事をしているとは思っていなかった。

 ベシッ!ベシッ!

 どこからか何かを叩く音が。音の方へと視線を向けると匙がお尻をぶたれていた。

 

「えっなにそれは…」

 

 イッセーは匙が尻を突き出して打たれるそのあまりにも情けない姿に呟いてしまう。

 会長が叩く手には魔力が込められている。そこには相当な威力が込められているはずだ。

 

「あなたには反省が必要ですね」

「会長許してくださいぃぃ!!」

「ダメです」

 

 可愛い眷属の懇願を受けても一切手の力を緩める事をしない。これは厳しくて厳しい。

 

「コラ、イッセー。よそ見しない」

「すみません」

 

 リアスからの指摘に彼は慌てて視線を元に戻す。

 

「使い魔を祐斗探索に出させたから、見つけ次第みんなで迎えに行きましょう。それからの事はその時決めるわ。いいわね?」

『はい』

 

 二人は素直に返事をした。

 そしてリアスは二人をぎゅっと抱きしめる。その優しさは間違いなく二人に伝わっている。

 

「…バカな子達ね、本当に心配ばかりかけて…」

 

 それはこの場にいる二人だけでなく木場も含まれている。

 

「うわあああぁぁぁん!会長おおおぉぉぉ!!あっちはいい感じで終わってますけどぉぉぉ!!!!」

「よそはよそ、うちはうちです」

 

 このやり取りの間も叩く音は継続して発生していた。

 出来ちゃった結婚とは程遠い光景がそこには広がっていた。

 

「さてイッセー、お尻を出しなさい」

 

 リアスは魔力を右手に溜めていた。

 これから何が起きるのかを想像できないほど考えが及ばないわけではない。

 

「まじかい…?」

「下僕の躾けは主の仕事よ」

 

 イッセーの尻は死んだ。

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