「リアス先輩。学園を大きな結界で覆ってます。よほどのことが無い限り外に外は出ません」
匙はリアスに現状の説明をする。
木場を除いたこの街の全悪魔は学校前に集合していた。生徒会のメンバーは結界を張っている。
結界は校舎中の被害を周りに出さない事だが、仮にコカビエルが力を振るったら簡単に結界など吹き飛ばされる、それどころかこの街一帯が消し飛ばされる。
「もう既にコカビエルとその部下がグラウンドで何かしらの術式の準備をしています。その被害は軽く見積もってもこの街が消し飛ぶでしょう」
ソーナが報告を行う。その内容は要約すると絶望だった。
彼女はイッセーに話しかける。
「兵藤一誠くん」
「はい?」
「あなたの実力は映像で見させてもらいました。そしてライザー・フェニックスを一撃で倒したあの力、私も把握しています」
「はい」
「この戦場で禁手は使用禁止でお願いします」
ソーナのその一言にこの場にいた全員が驚く。
既にここにいる全員がイッセーが並の上級悪魔を瞬殺できるのを知っている。それだけにもしかしたら何とかしてくれるのでは期待していたのだ。
「まぁ…ですよね…」
張本人は素直に首を縦に振った。
イッセーはコカビエルとの戦いで極力禁手を使う気は無かった。というよりも使うことが出来ないのだ。
「会長!何でですか、兵藤は会長やリアス先輩より強いんですよね。こっちには出し惜しみしてる余裕なんて…」
「サジ黙りなさい。これは決定事項です」
「匙、会長の言ってることは正しいよ」
会長は意見をしてきた匙を当然嗜める。
そしてイッセーもそれに乗っかって匙に話しかける。
「俺は禁手は使えるけど全くコントロール出来ないんだ。もし使ったら蓄えた力を一気に放出しちまう。開幕から全力でオーラぶっ放したら、この辺一帯が焦土になっちまうと思う。それじゃあコカビエルのやる事と大差ないだろうよ」
彼の禁手は全身鎧を纏うもの。
だが現状本人の力量ではそれはコントロール不可能で、踏ん張っても維持できるのは三秒が限界なのだ。
仮に力が百あるとしたらその三秒でその百を一気に放出してしまう。
ライザーとの試合で使ったのはどれだけ破壊しても影響の出ない特別な空間かつ、相手が不死身の耐久力を持っているからこそ。
下手に地球上で使ったらどれほどの悪影響を与えるか想像すらできない。
『…ッ!』
それを聞いた皆が絶句していた。最大戦力が使い物にならないと言われたらどうすればいいのかと。
「私達が結界を張って外への影響を最小限に抑えます。校舎が破壊されるのは耐えがたいですが、致し方ありません…」
ソーナは悔しそうにそう言った。もし仮に自分に力があれば校舎ごと守れるのにと思っているのだ。
「ありがとうソーナ。後は私達でどうにかするわ」
「リアス。このままでは確実に負けます。今からでも遅くはありません、早くお兄様を」
「あなただってお姉さまを呼ばなかったでしょう」
「私の所は…でもサーゼクスさまはあなたを愛しています。必ず動いてくれます。だから」
二人は先ほどから上に報告しない方向で話を付けようとしていた。
そしてその話し合いに割って入ってのは朱乃だった。
「既にサーゼクス様に連絡を入れました」
「朱乃!」
リアスは朱乃が無断で行動したことに非難の声をあげた。
だが朱乃は怯むどころか怒りを表情に出した。
「リアス。あなたがサーゼクス様に迷惑をかけたくないのは分かっています。貴方の領土で起きた問題ですものね。でも既に私達で解決出来るレベルを超えています。魔王様に助けを求めましょう」
朱乃は有無を言わせずに詰めた、譲らないと言外に言っていた。お前には言い訳も駄々をこねるのも許さないとその視線を向けていた。
「…………」
リアスは数秒睨み返したが、ふっと肩の力を抜いて静かにうなずいた。
イッセーはそのやり取りを見てこの二人の間に存在する信頼をというのを垣間見た。
これほどずけずけとモノを言える関係性がこの二人にはあるのだ。
「サーゼクス様の加勢が到着するのは一時間後だそうですわ」
「一時間…分かりました。それまでシトリー眷属の名に懸けて結界を張り続けてみせます」
ソーナの顔が少し歪む。
一時間結界を張るだけでも厳しい、それに加えて内部で戦闘が行われればその負担は倍どころではない。それでも弱い所は見せるわけにはいかない。
「一時間…ね…分かったわ。私の下僕悪魔たち、私達はオフェンスよ。ただこれはフェニックスの時と違い死戦よ!それでも死ぬことは許されない!生きて帰ってあの学園に通うわよ!」
『はい!』
リアスは自分の心の中にある暗雲を散らすように発破をかける。
眷属達もまた鼓舞するように声をあげた。
◎
正門をくぐって真正面から堂々を学園内に入る。
校庭のど真ん中に巨大な魔法陣が展開されている。そしてその中心にエクスカリバーが鎮座している。
そして魔法陣の中央に人影、初老の男性バルパー・ガリレイがいる。
「これはいったい…」
イッセーは疑問をそのまま口にする。
「四本のエクスカリバーを一つにするのだよ」
バルパーはおかしそうにそう言った。
「バルパー、あとどれくらいでエクスカリバーは統合する?」
空から聞こえてくる声に皆が一斉に上に向かって視線を向ける。
そこには月光を背景にしたコカビエルがいた。宙に浮いている椅子の上で高みの見物を決め込んでいる。余裕そうに足を組んでいる。
「五分もいらんよコカビエル」
「そうか。では頼むぞ」
リアスたちが目の前にいる状況でも二人は余裕そうな態度を崩さない。
「サーゼクスは来るのか?」
視線をバルパーからリアスに移してそう問いかける。
「お兄様とレヴィアタン様の代わりに私達が―」
リアスが言い切る前にコカビエルの手から光の槍が発射される。
ドオン!と一瞬の閃光と爆風が吹き荒れる。
そして一瞬で体育館が吹き飛んだ。その跡地には槍というにはあまりにも巨大で直径が一メートルは余裕で越えている巨大なそれが刺さっていた。
皆がそれぞれ畏怖を感じていた。そして実感する、目の前の敵と自分達の間に存在する次元を二分するほどの実力差を。
「つまらん、まあ余興にはなるか」
コカビエルは動揺を隠せないリアスたちを以前そのままに見下ろす。
(くそっ、禁手抜きであいつを倒せるのかよ)
『無理だな。仮に禁手を使えたとしてもたった三秒で倒し切るのは厳しい』
(魔王様頼みって事か、くそったれがっ)
イッセーは心の中で毒づく。分かってはいたが地力の差が開きすぎている。
双方の力の差は相手が象でこちらは蟻がいい所だ。戦うどころか力比べにすらなっていない。
「さて、地獄から連れて来た俺のペットと遊んでもらおうか」
―ギャオオオオォォォォン!!
巨大な魔法陣が展開されてそこから二体の魔物が叫びながら現れる。
真っ黒な体表に巨大な図体、そして鋭い爪はどんな守りも紙のように切り裂きそうな恐ろしさを連想させる。
八メートルほどの巨体だが犬を連想させる、だが一部違うのは頭が三つあるという事だ。
「ケルベロス!」
リアスは忌々しそうに口を開く。
イッセーはゲームや漫画等で聞いた事のある名前だった。
「それって…」
「地獄の番犬の異名を持つ魔物よ。冥界へと続く門の周辺に生息しているわ。まさか連れてくるなんて!」
リアスの焦りようから相当マズイバケモノが目の前にいるのが彼にも分かった。
『Boost!』
敵を定めて神器を作動させる。
リアスは素早く指示を出す。
「朱乃!行くわよ!小猫とイッセーはアーシアを守りながらもう一体をお願い!倒せなくてもいいわ!」
彼女の掛け声と共に皆が飛び出す。
ケルベロスの口から炎が漏れる。口から火球が放たれる。
「はあっ!」
リアスの放った魔力と火球が相殺される。
彼女は間違いなく上級悪魔の中でも強い部類に入っている。ケルベロスはそれに劣らない力を持っているのだ。
朱乃も隙を突いて雷撃を加えて少しずつだが手傷を負わせていく。
「ここね!」
リアスは雷撃によって怯んだ隙を見逃さず溜めた魔力を叩き込む。滅びの性質を帯びた魔力を持っている。触れたものを消し飛ばす破壊力に特化した性質を持っている。
ケルベロスはその一撃を浴びて叫び声をあげる。黒い煙を上げて血まみれになっているがまだ戦意は健在。
一方リアスと朱乃が相手をしていない方のケルベロスの片割れがイッセーに向かって飛び込んでくる。
彼は敵の足元に魔力の一撃を加えた。それはリアスや朱乃に比べたら屁のような攻撃。だが自分に意識を集中させるには十分なブラフになる。
「隙あり」
小猫は自分が意識から外れたのを見て横合いからケルベロスの顔面を殴り飛ばす。
『Boost!』
(五回目のパワーアップかそろそろケルベロスを倒せるくらい。自分か譲渡か、どうする)
仮に自分をパワーアップすればケルベロス一匹は倒せる。だが譲渡なら一度で二人をパワーアップできる、だがその分一人あたりに渡せる力は小さくなる。
可能なら二体同時に仕留めたい。一匹倒した途端に警戒して敵が参戦したら困る。
「もう一匹かよ!」
背後から唸り声が聞こえると思い後ろを見ると三匹目のケルベロスが。
イッセーはもう悩んでいられないと自分の力を高める選択を取る事にする。
一匹をこのまま放置してアーシアに何かあってはこの戦線は崩壊する。彼女の回復能力込みで無理な作戦を立てられるのだから。
力を発動させる瞬間、ケルベロスの首の一つが宙を舞った。
「加勢に来たぞ」
聖剣を持ったゼノヴィアだった。彼女のエクスカリバーが首を刎ねたのだ。
そして剣を振り上げるとケルベロスの胴体が真っ二つに。魔物にとって聖剣は必殺の威力、それを証明する光景。
小猫が時間を稼いでいた一匹がアーシアのもとに向かう。
イッセーは手のひらをそちらに向けて魔力攻撃を発射する準備をする。
だがザシュッと地面から大量の魔剣たちが飛び出してきてケルベロスを串刺しにする。アーシアを庇うように、立ちふさがるように木場は現れた。
「木場!」
グッドタイミングでやってきた男に声をかける。
「よし、これなら…部長!朱乃さん!譲渡を!」
「朱乃!」
「分かりましたわ」
声かけられた二人は顔を見合わせて彼のもとに集まる。この場の頭数が増えたのなら譲渡の方が上手く立ち回れる。
そして二人にタッチして力を流す。
『Transfer!』
「よし、これなら。行くわよ朱乃!」
「はい!」
朱乃は木場が足止めているケルベロスに対して雷撃を放つ、先ほどまでとは桁の違う雷の柱が衝撃と轟音を撒き散らし消滅させた。
「ほぅ…ここまで」
ゼノヴィアは神器の力に感心していた。
リアスも魔力を放ち先ほどまで戦って弱らせていた敵を確実に消滅させる。
「食らいなさい!」
残った力をコカビエルに向けて放つ。
皆が滅びて消えろと心の中で思いながら力の飛んで行く先を見る。だが肝心の相手は立ち上がることなく片手をあげて受け止めた。
「マジかよ…!」
間違いなく譲渡された力を上乗せた身の丈を超えた攻撃だった、だがコカビエルはそれを手首を捻っていなした。
「…………」
だが無傷ではない。コカビエルは黙って掌を見る。
手のひらは血まみれになっている。攻撃は通っていなわけじゃない、だが防御の力すら上から消滅させる攻撃力特化の滅びの魔力が抑え込まれた。
決して軽い攻撃ではない、ライザーすら食らえば即時回復は難しい威力だった。
「面白いぞ。赤龍帝の力があればリアス・グレモリーの力もここまで高まるのか」
当の本人は楽しそうに笑っているが。
「完成だ」
バルパーがそう言うと校庭の真ん中に鎮座していたエクスカリバーが力強く輝き始める。
七本に分かれていたエクスカリバーの内の四本が一つになって力強いオーラを辺り一帯に撒き散らす。悪魔は直視するのも辛いほどだ。
「エクスカリバーが一つになった時の光で下の術式も完成した。あと二十分もしないうちにこの街も崩壊するだろう。解くにはコカビエルを倒すしかないぞ」
それは絶望的な宣言だった。二十分、魔王軍が来るまであまりにも時間が足りない。
「フリード!」
「はいな」
バルパーの呼びかけにどこからともなくフリードが現れる。
「エクスカリバーを使え。最後の余興だ、一つになったそれを使ってみろ」
「えへへ…ちょっくら悪魔さんをチョンパしちゃいますかねぇ!」
フリードは下賤な笑みを浮かべて陣の中央にあるエクスカリバーを手に取って振り回している。
「リアス・グレモリーの『騎士』、もし共同戦線が敷かれたままなら共にエクスカリバーを破壊しようじゃないか」
「…いいのかい?」
木場は驚いていた。ゼノヴィアからそんなことを言われるとは思っていなかったのだ。
「聖剣の核になる欠片さえ回収できればいい。フリードが握るあの剣は聖剣ではない、異形の剣だ」
彼女は不敵に笑う。
「バルパー・ガリレイ、僕は聖剣計画の生き残りだ。正確にはあなたに殺されて悪魔になって生き永らえている」
彼の瞳に映っているのは明確な憎悪。
「ほう、あの計画の生き残りか…ふふふ、こんな極東で会うとは奇妙な縁を感じるな」
バルパーは目の前の聖剣が完成したのを見て気持ちが高揚しているのかいきなり自分語りを始める。
彼は聖剣というものに大きな憧れを持っていた、いつかそれを握って戦う事を夢に見ていた。だが彼にはその手の才能は無く絶望をした。そして彼の行き着いた先は聖剣の使い手を人工的に増やすという事だった。
そして人体実験を続けるうちにある一つの事実に気が付いた。
聖剣の才能、いわゆる因子というやつは誰もが大なり小なり持っているもので、それに気が付いた彼はその因子を抽出し一か所に集めれば一人分の因子を賄えるのでは?という事だった。
「なるほど…読めたぞ」
ゼノヴィアは話の行き着く先に気が付いて歯噛みした。
彼女は何度か聖堂で聖剣の使い手として認められた者が祝福を受ける瞬間を見て来た。その際に小さな結晶のようなものを埋め込まれていた。
バルパーは懐から光の球、聖剣因子を取り出した。
「どうやら誰かが聖剣計画を引き継いでいるのだろう。ミカエルめ私をあれだけ断罪しておいて結果がこれか。まあ、あの天使の事だ因子だけを抜いて殺しはしないか。その分私よりは人道的と言えるのかもしれないがな。くくくくく…」
愉快そうにバルパーは笑う。
楽しくて仕方ないのだろう、自分の編み出した聖剣因子の理論と伝説の剣が目の前にあるのが。
「その聖剣因子の為に同志たちを殺したのか?」
木場の口調には殺気が漏れ出ている、内心は荒れ狂っているのは想像に難くない。
「そうだ。これはその時の一つだぞ?これ以外はすべて使ってしまったがね」
「ヒャハハ!俺様以外は死んじまったがね!そう考えた俺様はスペシャルだねぇ」
その殺気を受けても二人の減らず口は止まらない。この状況で自分達が負けるはずもないと思っているのか豪胆だ。
「バルパー・ガリレイ。自分の欲望と研究の為にどれだけの命を弄んだんだ…」
木場の剣を握る手に力が入り、魔力が感情に呼応しているのか漏れ出ている。
「欲しければくれてやる。もう量産できる段階まで来ている」
そう言って聖剣因子を投げつける。それは木場の足元に転がる。
木場は剣を手放してそれをそっと手に取った。様々な感情がごちゃ混ぜになりながら撫でていた。
「…皆…」
彼の目からは涙が流れていた。それは悲哀と憤怒様々な感情。
すると木場の持っていたその結晶から光が溢れ出す。それは校庭すべてを包み込んでいく。だが光を苦手にする悪魔だが何故かその光を浴びても傷つくどころか優しく包み込んでくる。
木場を中心に何か光の塊たちがぽつぽつと現れる。彼を囲うように現れた少年少女たち。
「これは…」
「この場所に漂っている力があの子たちの魂を解き放ったのでしょう」
朱乃がこの現象に説明をしようとする。だが今目の前に起きている事を簡潔に説明するのなら奇跡と表現するが正しいのかもしれない。
木場も自分の周りにいる人達に気が付いたのか、懐かしそうな表情になる。
「皆!僕は…僕はっ…!」
今の彼には憎しみなんてものは微塵もなかった。
魂に形になったともいえる存在は何かを話しているが、それは木場にしか聞こえないのか口パクになっている。
「『自分たちの事はいい。キミだけでも生きてくれ』。彼らはそう言っているのです」
朱乃が読唇術か特別な力なのか代わりに教えてくれる。
木場には思いは伝わっているのか涙が溢れ続ける。
辺り一帯に歌が流れ始める。イッセーには覚えのない歌詞だった。
「聖歌」
この場で唯一聖職者だった経験のあるアーシアは正体に気がついた。
悪魔であればダメージを受けるはずなのに何故か頭痛も何も起きない、それどころか心に優しくしみわたって来る。
先程よりも強く、眩い白い輝きが木場を中心に広がっていく。
『僕らは、一人ではダメだった』
『私達は聖剣を扱える因子が足りなかった。けど―』
『皆が集まればきっと大丈夫』
木場の同志たちが眩く輝き、彼を包み込んでいく。
『あの「騎士」は至った』
ドライグが突然そう言った。
至るというその意味が分からないはずもない。
「まさか…」
『神器は持ち主の思いによって強くなっていく。だがその思いが世界の流れに逆らうほど劇的な転じ方をした時、神器は至る』
イッセーは木場に起きた変化を理解した。
『「禁手」』