次の日、サーゼクスとグレイフィアの二人は視察と言って家から出立していった。
「アーシア、宿題は済ませたか?」
ゼノヴィアはアーシアに話しかける。
出会い方は最悪だったが、彼女なりにこの場所に馴染もうと努力している。
「はい、ゼノヴィアさんは?」
「私はまだ日本語で分からない事があってね」
学校の校門前でオカルト研究部の面々は集合していた。
アーシアとゼノヴィアは喋っている途中で祈り出してダメージを受けている。忙しそうだった。
休みの日ではあったが今日は昼間から集まる事になっている。理由は単純、プール掃除をするからだ。最初にプールを使っていいという条件と引き換えに請け負った形。
因みにリアスに家で新調したという水着を見せてもらっていたが、つける前からとんでもないのは見て分かった。
(去年までとは違う女子に囲まれた夏休み!ぐふふ…)
イッセーは脳内で既に卒業を済ませた。その槍はまだ何も貫いていないというのに…
「…イッセーさん、エッチな事考えてますね?」
アーシアは涙目で相手の頬をつねったが、彼のスケベ顔が緩まる事は無い。
◎
プール掃除を終わらせてお遊びタイムが始まる。
「イッセー。私の水着どうかしら?」
布面積の少ない赤いビキニ、下乳がこれでもかと見えている。白い肌を存分に見せつけてくる。
「あらあら部長ったら張り切ってますわね。私もどうでしょう?」
朱乃のそれはリアスとは対極の真っ白なもの。リアスと同じで布面積というのを極限まで削減したようなそれ。
「お二人ともお似合いかと…」
腰をかがめつつも赤いものがこぼれないように上を見るという、それはとてもみっともない姿になっているイッセー。
「イッセーさんどうですか?」
アーシアと小猫が現れる。
二人ともスクール水着を着ている。胸には「あーしあ」と「こねこ」と書かれている。ある意味この場で一番合っていた。
「似合っていると思うよ」
学校のプールにスク水って正装だよね。
可愛い美少女二人が水着姿という事実それだけで彼は元気をもらえた。
「卑猥な目で見られ無いのはそれはそれでって感じです…」
乙女心は複雑なのだ。
リアスはイッセーに話しかける。
「ちょっといいかしらイッセー」
「はい」
「お願いがあるのだけれど…」
◎
「少し足の動きが硬いかな。もっと力を抜いて滑らかに動かすんだよ。例えるなら…そうだね、足に水かきがあるってイメージしてゆっくりと足を振るんだよ」
イッセーは小猫の手を取りながらそうアドバイスをする。
リアスから受けた指示は泳げない小猫に教えると言ったもの。イッセーは泳ぐこと自体は得意ではないが、年齢相応に泳げはする。
「いちに、いちに…」
小猫は必至に息継ぎをしながらバタ足をしている。
「頑張ってください小猫ちゃん!」
アーシアも声援を送る、因みに彼女も泳げない。教会暮らしからか娯楽的なものに触れたことが無いそうだ。
木場はプールの端のレーンでひたすら泳いでいる。
(そういやゼノヴィアいねえ)
アーシア曰く水着を着るのに苦戦しているとの事。
水着を着るのを手間取るとはこれいかに…
「ほい、端まで着いたよ」
イッセーとしてはそんな意図は全くなかったが、小猫の勢いが余ってぶつかる。結果軽くハグをするような形になる。
「ぷはー…ありがとうございます」
小猫は特に何も言わなかった。いつもならスケベとかツッコミそうなものだが。
相手がそう思ったのを察したのか小猫は思った事を口にした。
「イッセー先輩は優しいですよね。面倒見もいいですし…ドスケベですけど…」
彼女の中では兵藤一誠とは実力者ではあるが品性に欠けるというのが一番の印象だった。実際間違ってはいない。
だが木場の一件で身を切ってでも力になってくれた。それから相手の評価の一部を改めた。
今もいい年して泳げないという小猫に対し、一切バカにする事なく練習に付き合っている。正直クスリと笑ってもおかしくはない。
「そう?まあ悪魔になった以上は長い付き合いになるし、俺が助けてもらう事あるだろうし。お互い様でしょ」
彼は何のことも無さそうに言った。
因みに小猫は少し恥ずかしそうに俯いているから気が付いていないが、彼は必ず視界の片隅にはリアスと朱乃のお体を入れている。
「じゃあアーシアもやるか」
「はい!」
アーシアのレッスンも始める。
◎
「疲れましたぁ…」
アーシアはプールサイドに敷かれたビニールシートの上で休んでいる。
因みに隣で小猫が本を読んでいる。
「ちゃんと水分補給しなよ…はっ!」
イッセーはアーシアにそう言って自分も泳ごうかと思った。だがそこでリアスが手招きしているのを察知する。
この状況で手招きをされるなど一つしかありえない。
彼は猛ダッシュで傍まで飛び込んでいった。
「兵藤一誠!ただいま到着しました」
「まったくもう…手招きしただけよ…」
「えー」
「ふふっ、あなたを呼んだのはその通りなんだけれど。悪魔は日焼けしないわ、けれど太陽の光は外敵よね?」
イッセーは「へぇー」と頷いた。
悪魔って日焼けしないんだという豆知識にちょっと驚いた。言われてみれば先ほどから誰も日焼け止めの類を塗っていなかったなと。
悪魔って女性の味方なのねと内心思った。
「そこで…」
リアスは瓶に入ったオイルを取り出した。このシチュエーションでそれを飲み物だとおもうバカはおるまい。
「これを塗ってくれないかしら?」
「はい!」
イッセーが返事をするよりも早くリアスは水着のブラ部分を外した。まるでイッセーが拒むことは絶対にないと確信しているかのように。
「そんな躊躇いもなく!?男の目の前でそんな勢いの良い脱ぎっぷりでいいんですか!」
大人のエッチなビデオだってここまでの脱ぎっぷりはそうそうあるもんじゃない。
「別にあなただからいいのよ?」
「マジで!?」
その宣言に涙が止まらない。
リアスは敷いてあったビニールシートの上にうつぶせになって誘ってくる。彼が有名な大泥棒だったら女体に飛び込んでいる。
「行きます…!」
瓶を開けて掌にオイルを馴染ませる。そして手をワキワキとさせる。
「イッセーくん♪私にも塗ってくださるかしら?」
「わあああぁぁぁ!」
突然背後から抱き着かれて驚く。思いっきり胸が当たっている、というよりも当てている。
声の主はとうぜん朱乃。
「ちょっと朱乃!私のイッセーを誘惑しないで頂戴!」
朱乃が茶々を入れて来たためリアスは慌てて上体を上げる。
だが水着を脱いでいる状態の為、胸が丸見えになってしまっているのだが今のリアスはそんな事を気にしている余裕はない。
「ひんっ」
イッセーは朱乃に耳を甘噛みされてつい顔を赤くして変な声を出してしまう。
「イッセーくんは可愛いですわね」
朱乃が悪戯が成功して楽しそうに笑っていた。揶揄われているのだが不快な感じはしない、彼女の持つ魔性ともいえる才能だろうか。
「私が将来独立する時に連れて行きたいですわ。下さらない?」
「ダメよ!絶対にあげたりしないんだから!」
「たまにはいいでしょう?」
「ダメ!アーシアなら仕方ないけれど…朱乃はダメ」
お姉さまコンビが何やら口論を始める。
(てか早くオイル塗りてー…)
イッセーはその真ん中にいたのだがお預けを食らってしょんぼりしていた。
ドオン!とプールサイドに響く爆発音。
「えっなにこれは…」
彼は音のする方をよく見てみるとプールの飛び込み台が爆破されていた。
「朱乃?ちょっと調子に乗り過ぎね?」
「あらあら、そんな風に思われるだなんて心外ですわ」
リアスの投げつけた魔力を朱乃がギリギリ躱した。イッセーが意気消沈している内に二人の喧嘩がヒートアップしていた。
「大体朱乃は男が嫌いだったはずでしょ!どうしてイッセーに興味を向けるのよ!」
「そういうリアスは男なんて興味ない、どれも同じに見えるって言ってたわ!」
「イッセーは特別なのよ!」
「私だってやっとそう思える相手を見つけたのよ!少しくらいいいじゃない!」
二人が口論をしつつ魔力を投げつけ合うとんでもない喧嘩が繰り広げられる。
(なんだろう、女の喧嘩って怖いなぁ…)
イッセーはその場から逃げた。
◎
断続的に破壊音が鳴り響く。
「どっと疲れた…」
同時に情けなくなる。ハーレムを形成したらこんな事は日常茶飯事だろう。
男なら二人とも満足させてなんぼだろう。それが出来ていない時点でハーレム王からは程遠いのが現状だ。
(あれ…おかしいな…もうとっくに女の子に囲まれているはずなのに…)
一人途方に暮れる男のそばに人影が。
「おや、兵藤一誠か、どうしたんだ?」
「ん、あ、ゼノヴィアか。お前こそここで何してんだ?」
「初めて水着を着るからね、手間取っていた。似合うかな?」
ゼノヴィアの格好はリアスや朱乃のように際どいような代物ではなかったが、これまで鍛えているおかげか誰もが羨ましがるボディラインだった。あと出るところは出ている。
「似合ってると思うぞ。教会の規則的に水着とか厳しい感じか」
「それもある…が、私自身そういう事に興味が無かったんだ。周囲の修道女たちは不満を漏らしていたな」
シスターも人である以上は遊びたいよなという当然の事を思う。
一方のゼノヴィアは戦闘とかにしか興味がなさそうに見える。自分磨きよりも聖剣を磨いていそうだ。
イッセーはそんな雑談をしながら周りを見渡して誰もいないなと思った。ここなら周りの目を気にしなくていい。
彼はゼノヴィアに対して向き直る。
「ごめん」
「どうした?」
突然頭を下げたイッセーに相手は困惑した。
イッセーが自分に何かしたのかと考え込んでしまう。
「初めて会った時に言い過ぎたからな。いつかは謝らないとって思ってた。けど中々機会が無くて…」
初めて会った時に二人はかなり険悪な関係から始まっていた。
その後共闘したりしてなあなあになったが、同じ眷属としてやっていくならここで一度ケジメはつけるべきだと思ったのだ。
「いやそれを言うなら私もだ。そもそも兵藤一誠の」
「イッセーでいいよ」
「そうか、なら先にイッセーの逆鱗に触れたのは私だ。そっちが謝る必要はない」
「いや、そういうわけにはいかないんだが…」
「うーん…」
ゼノヴィアは困ってしまう。彼女からしたら悪魔と口論になるなどおかしい話ではない。
あの時は敵同士、互いに敵意をバチバチに散らせるのは普通だ。そこに罪悪感を持つなどおかしな男だな。それが彼女の感想だった。
相手が感情に任せて強い言葉を使ってしまった罪悪感、そもそも悪魔だから敵であるエクソシストに噛みついたのではないという事をまだ察せられるほど、ゼノヴィアは人というのを知らないのだ。
「では一つだけ頼みを聞いてもらってもいいか?」
「おう、なんだ?」
このまま謝り続けられても困る為、彼女はかねてからの話をする事に。
「私と子供を作らないか?」
「はい?」
イッセーは一瞬何を言われたのか分からなくなった。
可愛い女の子にエッチしようと迫られるシチュエーション、それを妄想したことが無かったのかといったら嘘になる。だがあまりにも脈絡が無さすぎた。
一方のゼノヴィアは「聞こえなかったか?」と不思議そうにしていた。
「私と子作りをしよう」
聞き間違いや疑いようもないほどにハッキリと言い切った。
「それってエッチって事か…?」
イッセーは何とか言葉を絞り出す。まさかこの娘からそんなことを言われるとは。
「いきなりすぎる、取りあえず順を追って話してくれ」
悪魔になったからといっていきなり処女を捨てたいと目の前の相手が簡単に考えるとは思えなかった。彼は詳しい説明を求めた。
ゼノヴィアはローマで生まれ育ち、その時から既に聖剣の使い手として素質を持っていた。彼女の中の信念と目標のほとんどは信仰に関する事ばかり。
戦うのは神の為、布教するのはヴァチカンの為、そう信じていたしそれが当たり前だと思っていた。
悪魔になった瞬間、それらは全て失われた。残ったのは聖剣使いとしての才覚だけ。夢も目標もない人が出来上がる。
「ん?それがどうしてエッチにつながるんだ?」
「リアス部長に相談したんだ。そうしたら『悪魔は欲を持ち、欲を叶え、欲を与え、欲を望む者。好きに生きてみなさい』とそう言われた。私は一人の人間として、また女として封印していたモノを解き放ち、堪能してみようと思う」
少し突飛で割り切りすぎな気がしたが言いたいことは彼でも分かった。
「あー…つまり、悪魔になる前は抑えてた女性的な事をやってみようって事か…信徒だった時はそういうの禁止されてたから」
「そういう事だ、理解が早くて助かるよ」
「で、なぜ俺?」
自分に何故白羽の矢を立てたのかが分からなかった。
正直まだそこまで仲が良いとは思っていない、これから関係が深まる事はあるかもしれないが、少なくとも現時点でそこまで好感度はお互い高くない。
「仮に子供を授かるのなら強い子を望んでいるんだ。イリナを見て思ったが赤龍帝の力は他者に宿る事がある」
イリナは実際にイッセーの持っている『赤龍帝の籠手』の加護を受けてドラゴンの力を持っていた。
ドラゴンに関係のない生まれでも力を宿せるなら、直接血を分けた子供は言うまでも無さそうだった。
「神器そのものを受け継ぐことは無いだろう、がドラゴンの力は遺伝すると思うんだ。実際君は強い、正直本気を出されたら私とデュランダでも勝てないかもしれない。パートナーは強い男の方が好ましいんだ」
「あそ…」
強く熱弁されたがお互いの熱量に差があり過ぎた。だが次の瞬間、ゼノヴィアは水着の上部分を脱ぎ棄てた。
「躊躇いはないのか!?」
そう言いながらもゼノヴィアのこれまで神に捧げて来た、誰も触れてこなかった体をしっかりと眼に焼きつけていた。
「抱いてくれ、私は生憎男性経験が無いが事を成してくれるなら好きにしてくれて構わない。子供についても基本育てるのは私一人でやる、ただ子供が会いたがった時だけ相手をしてやって欲しいんだ」
ゼノヴィアはそのまま相手にギュッと抱き着いた。
「マジか、そこまで考えてんの」
イッセーはここでゼノヴィアの体が僅かに震えているのを感じた。
彼女の心の中に緊張と恐怖があるのだ。いくら知識があっても本番は別物、それでも勇気を出している。
「いいんだな?」
「頼む」
ここまでやらせておいて手を出さないというのは、ゼノヴィアの事をバカにしているのと同義だ。
嫌いなら別に拒否でいい、そうでないならもう抱くしかないのだ。
「これはどういう事かしらイッセー」
「げえっ」
リアスの声が聞こえてつい変な声を出してしまう。
周りを木場を除いたメンバーが取り囲んでいる。
上を脱いだゼノヴィアとそれを抱きしめるイッセー。言い訳の余地もない、言い訳以前にやる気満々だったのだが。
「イッセーくんの貞操は私が貰うはずですのに」
「うぅ…イッセーさん…言ってくれれば…」
「油断も隙も無い…」
女性陣がそれぞれコメントをする。
いくつか気になる言葉があったが、取りあえず童貞卒業はお預けのようだ。
「どうしたイッセー?早く子供を作ろう」
「空気を読んでくれ…」
童貞卒業はご破綻になった。
因みに木場はずっと泳いでいたそうだ。何往復したのだろう?
「ん…?」
イッセーはここで左手に痺れるような感覚が走る。それは数日前に感じた危険信号。
抱き着いているゼノヴィアを引きはがす。
「あ、すみません。ちょっとめまいが、先に上がってます」
「ちょっとイッセー!」
リアスからしたら逃げるように去っていた童貞にしか見えないだろう。
だが今の彼はリアスを気遣ってやれるほど余裕がない。
◎
「よう」
着替えて校門から出たイッセーは校舎を眺めていた男に声をかけた。
イケメンと評されるくらいには整った顔だった。銀髪だが色が黒みがかっており、ダークな印象を与えてくる。年齢はイッセー同世代くらいに思える。
だが一方で年下にも見える幼さがあれば、その逆の擦れたような年上の印象を与える。
「やあ」
その男は微笑みながらそう返してくる。木場のような爽やかさとは違い、確実に仮面をかぶっているのは分かる。
「白龍皇が何の用だ?」
先日コカビエルを圧倒した相手が目の前に現れた。
相手はそう言われて苦笑いをする。
「気が付いていたんだね」
「分かりやすくオーラむんむんに出しておいてよく言うぜ」
殺気はなかった。だがイッセーに興味を持って接触を図っているのは分かった。
目の前の男が堕天使側の人間なのは知っている、ここで接触して来るのはどのような意図があるのかと勘繰る。
「いや、ここで戦争をするつもりはない、少なくともね」
「じゃあなんだ」
対峙してからというもの神器から流れてくる戦意とも言える信号が彼を苛立たせる。
イッセーとしては戦いたくはないが、神器が最大限の殺意を流し込んでくる。
(これが宿命って奴か?めんどくせえな…)
「兵藤一誠、君は世界で自分が何番目に強いと思う?」
「はあ?」
相手からの問いかけに困惑する。
これまで自分の強さを客観的に見た事が彼には無い。少なくとも並の上級悪魔は一撃で倒せるのは間違いない。
そもそもこれまで兵藤一誠は一度たりとも全力で戦った経験が無い、本人が未熟で禁手の力を最大限に引き出せないからだ。仮に禁手を発動したら力量差を吹き飛ばして勝ててしまう。
「本人の成長性もあるが君は大体三桁以内には入っているはずだ。力をもっと使いこなせば百以内に食い込めてもおかしくはないかな?」
そう言われてもイッセーはだから何?としか思わない。
これまで力を手放したいと思ったことはあっても、その逆の高めたいと思った事は無いからだ。
「お前は何が言いたいんだ」
「君に期待と失望をしているんだよ」
男はそう言った。
突然そんなことを言われても理解が出来ない。
「期待と失望?」
「君は才能だけなら俺とタメを張れるはずだ、それが期待だ。同時に今の君はやろうと思えばいつでも殺せてしまう、そしてそれを危機にも感じず強くなる気もない、それが失望さ。こうして対峙しているのに君自身からは殺意も敵意も感じない」
イッセーは目の前の男がコカビエルのような戦闘狂である事は理解した。
「もし仮に今君を排除したとして次の赤龍帝が強いとは限らない。もしかしたらもう二度と君以上の存在は現れないかもしれない。どうしたものか」
「知らんがな…」
白龍皇は一人で悩んでいて忙しい奴だなと思う。
「何をするつもりだい?」
「ここで赤龍帝との決戦をさせるわけにはいかない」
会話が硬直していると木場とゼノヴィアが得物を取り出して間に入って来る。
「やめておいた方が良い、手が震えているじゃないか」
相手の指摘の通り、二人の剣を握る手は震えている。
コカビエルを無傷で倒せるほどの強者を前に二人は冷静な精神状態ではいられない、もしくは冷静だからこそ実力の差を知って震えているのか。
「誇っていい、相手との実力差が分かるのは強い証拠だ」
男は首に二振りの剣をつきつけられても微動だにしない。
「世界でどれくらい強いかって俺に聞いたな。お前はこの世界で一番になりたいのか?」
イッセーが初めて自主的に質問をした。
それを聞いて『騎士』の二人は矛を収めた、どちらもここでやりあうつもりが無い事を察したのだ。
一方の相手は初めて自分に興味を持ったこともあってかすこしだけ饒舌になる。
「それもいい。だが一番だけは決まっている、不動の存在がね」
「まさかそれが自分だとでも?」
「いずれ分かる、ただ俺じゃない」
彼はそう言ってその場から立ち去ろうとした。
その際にリアスに話しかけた。
「兵藤一誠は貴重な存在だ、大切に育てるといい」
「どういうつもりなのかしら?あなたが堕天使側なら必要以上の接触は禁物よ」
「過去『二天龍』と関わったものはろくな生き方をしていない。貴方はどうなるんだろうな?」
そう言ってその場から去っていく。
その背中が消えるまで誰も動けなかった。
(ろくな生き方をしてないね…)
それはイッセーにとって身に覚えがあり過ぎる事だった。『赤龍帝の籠手』をめぐって多くの人が血を流した。