「ふわぁ…」
イッセーは教室で自分に割り当てられた椅子で眠たそうにする。
本日は授業参観の日だった。玄関先で両親が見に行く(主にアーシアを)と言っていた。
アーシアは嬉しそうにしていた。二人は特に彼女の事を娘同然の扱いをしている。
一方のリアスは頭が痛そうにしていた。兄だけではなく、父親も来るそうで恥ずかしいのだろう。
「イッセー」
「ん?」
ゼノヴィアが話しかけてくる。つい気の抜けた返事をする。
「なにさ?」
「先日は突然あんなことを言ってすまなかった」
先日というのはプールの一件だ。二人が経験者になる直前まで行ったやつだ。
「アレね」
個人的には惜しい事をしたと思わなくもない。あと一分でもあれば卒業まで持ち込めたかもしれない。
「わたしは君のことを考えずに突っ走っていたようだ。やはりいきなりは難しいと思う」
「まぁ確かにお互い知らない事も多いしな」
ゼノヴィアはスカートのポケットに手を突っ込む。
「ああ、まずはこれを使って練習しようか」
「アホかお前は!そっちじゃねぇよ!」
彼女が取り出したのはコンドームだった。
多感な世代の高校生にとってそれはあまりにも刺激的で、皆の視線が一気に集まる。そしてヒソヒソ話を始める。
明日からのあだ名がゴムになるのは確実だった。
「やはりお国柄的につけた方がいいんだろう?」
「それよりこの空気をどうにかしてくれよ!」
皆から集まる奇異の視線。
アーシアはその会話を引いた場所から聞いていたが何を話しているのか分かっていないようだった。
「アーシアも使うといい、無計画な性行はお互い傷つくそうだ。男女の関係は難しいね」
ゼノヴィアは恐らく厚意なのだろうが、アーシアに例のそれを渡す。
一方の貰った側は疑問符を浮かべている。桐生はそれが何なのか分かっていない相手を見て耳打ちをする。
「うぅん…」
顔を真っ赤にして卒倒してしまう。
桐生はそれを見て呆れたように嘆息する。
「アーシア、前も言ったけど早くモーションかけないと手遅れになるわよ?」
「うう…」
「心配なのよ、わたしくらい味方でもいいでしょ?アーシアだって食べ頃なのよ」
「た、食べ頃なのですか?」
アーシアはイッセーに対して強引なパスを送ってくる。
「え?あー…うん、そうなんじゃない?」
何で男にそんな質問をするんだろうと彼は思う。
ここで仮に否定したらアーシアが女性として魅力がないみたいではないか。
「アーシア!良かったわね!食べてもらえるわ!」
桐生は周りに聞こえるように大声でそう言った。
「ちくしょおおおっ!アーシアちゃん食べられちゃうぜ!」
「『アーシアちゃん委員会』に連絡をして対策せねば…」
桐生の言葉に反応するハゲとメガネ。
「イッセーがモテるなんて間違ってるんだ!」
松田は血涙を流して悔しがる。
周りも野獣だとか、汚されるとか色々と言ってくる。
「モテる…ねぇ…」
イッセーはそう言われて自問する。
男ならハーレムは夢見る対象の一つだと思う。彼もそうだった。
同時に自分に関わった人が不幸になるのではないのかと、心のどこかで引っかかっていたのだ。
不安なのだ、彼の好きな人たちがドラゴンの因果に巻き込まれるかもしれないのが。
そして先日、白龍皇がそれを口にして以降意識する事が増えた。
何となくだがリアス達の好意も察してはいる。なのに今の関係性を延ばしているのは彼の意気地の無さと言っていい。
情けない話だが、まだ下僕以上の感情をイッセーに持っていなかった頃のリアスだったら、イッセーとしても気軽に抱いていたかもしれない。
仲良くなればなるほどその先にある景色が怖くなる。
「ところでイッセー、性交の予定だが」
「人前でそんなこと言うな…」
ゼノヴィアだけはは相変わらずだった。
◎
授業参観は英語だった。
イッセーからしたら英語は得意だった。悪魔はありとあらゆる言語を喋ることが出来る特性を持っている。
全ての言語彼にとっては馴染み深い日本語に聞こえて、自分が口にする日本語が相手の理解出来る言語に自動的に変換される。
よって今の彼は問答無用でネイティブな高校生になっている。
「なにこれ?紙粘土?」
配られたのは粘土だった。何故に英語の授業で粘土が配られるのだろうか。
「今日の授業はまずその紙粘土で好きなものを作ってください。動物でも人でも何でもいい、心の中に思った事を思い浮かべてください。そういう英会話もある」
「あるわけねぇだろ!」
「レッツトライ!」
「レッツトライじゃねえ!」
そう言って教師が授業を始める。いくら授業参観とはいえ内容がスペシャルすぎる。
「む、難しいです…」
「何で順応してんの…」
アーシアはもう既に粘土で何かを作り始めていた。何故疑問に感じないのか謎だった。
「アーシアちゃん、ファイト!」
「アーシアちゃん、可愛いぞぉ!」
いつの間にか兵藤夫妻が入室してハンディカム片手に応援をしていた。
イッセーとしては変な目立ちかたをしていて恥ずかしかったが、アーシアが恥ずかしそうにしながらも嬉しさが滲んでいたため少しほっこりする。
皆がこの授業に文句はありつつも粘土をこねくり回しているのをみてイッセーも諦めた。
「うーん…心の中に思い浮かんだものかぁ…」
最近目に焼き付いたもの、それはオカルト研究部女子たちの体だ。
特にリアスは凄かった、あの水着と堂々と上を脱ぐ大胆さ。あれだけで数日はいけた。
「ひ、兵藤君…」
「はい?」
彼の肩に手をやる人影が一人、それは英語教諭だった。
相手は体を小刻み震わせている。相手の視線、つまりイッセーの手元に視線をやるとそこにはリアスの像が出来ていた。
「す、素晴らしい、兵藤君…君にこんな才能があったなんて…この授業は間違いではなかった…」
教師は涙で顔を汚していた。
「そ、それリアス先輩か?」「嘘よ!リアス様が野獣とそんな…!」
クラスメイト達の悲鳴が聞こえてくる。
その後、リアスの像をめぐってオークションが起こったが売る理由は特になかった。
◎
「あげます」
「よく出来ているわね」
イッセーは授業終了後、アーシアと共に一階の隅っこにある自販機前でリアス、朱乃と合流して例の紙粘土を渡した。
気に入るかは微妙だが、リアスは大切そうにしていた。
「おい魔女っ娘だってよ!」
先ほどから騒がしい、今日は特別な日の為、浮足立っている人も多いが変な盛り上がりを見せていた。
『?』
皆が魔女っ子と言われて疑問符を浮かべる。
イッセーは気になってその魔女っ娘の元へと向かう事に。
廊下の隅っこでフラッシュが響いていた。
そこで一人の女の子がコスプレをしていた。中学生くらいだろうか、顔立ちは幼いものを感じる。
「あれはっ!『魔法少女ミルキースパイラル7オルタナティブ』のミルキーじゃん」
「詳しいですね…」
アーシアはイッセーが突然発した早口言葉に驚いていた。
彼のお得意様の一人がその手のアニメ好きで色々と教えてもらっていたのだ。
「なっ!」
リアスは人垣を乗り越えて出てくると魔法少女を見て驚いていた。
「ほらほら解散解散!今日は公開授業なんだから騒ぎを起こすな」
すると生徒会のメンバーの一人である匙がたむろする生徒たちを吹き散らしていく。
彼はそれを見てまじめに仕事してるなと思う。
「何事ですかサジ。問題は簡潔に解決しなさいと」
続いて現れたソーナ会長だが一瞬でフリーズする。どうやら予想外のものを見たようだった。
「ソーナちゃん見つけた☆」
ミルキーはソーナにぎゅっと抱き着いた。
ソーナはフリーズしたままだった。先ほどから死にそうな顔をしている、どうやら知人のようだが会いたくなかったのか。
「おや、セラフォルーか。来ていたのか」
「あ、魔王様」
そこに現れたのは現魔王であるサーゼクス。そしてその隣には赤髪の男性、恐らくだがグレモリー家の当主だろう。
イッセーが状況を把握できていないのを見てサーゼクスは説明をする。
「彼女はセラフォルー・レヴィアタン。そしてソーナ・シトリーくんの姉だよ」
「えええええ!!」
イッセーはレヴィアタンと言えば美女だと聞いていた。
確かに可愛いが彼の中にある可愛いのベクトルが違った。彼の持つ勝手なイメージはもっと妖艶だった。
実際にコスプレしている彼女が可愛いのは間違いない。
「お久しぶりです、セラフォルー様」
「あらリアスちゃん。ねえ聞いて!ソーナちゃんったら今日の事黙ってたんだから!ショックで天界に攻め込んじゃうところだった」
「そんな理由で戦争を!?」
イッセーはうっかりツッコんでしまう。その声を聞いてセラフォルーは不思議そうな顔を、考えてみればここでは新顔だ。
「すみません。自分はリアス・グレモリー様の『兵士』の兵藤一誠です」
「あら噂のドライグ君?」
セラフォルーにも話は通っていたようで得心が行ったようだ。
彼は先ほどからずっとソーナに抱き着いているのが気になっていた。そろそろソーナの顔色が悪い。
サーゼクスの代わりにリアスの父親であるジオティクス・グレモリーが返事をする。
「そう、彼が『赤い龍』を宿す。兵藤一誠くんだ」
「あらあらグレモリーの叔父様」
「それはそうとセラフォルー殿、その恰好はいささか問題かと」
「今この国ではこれが流行りなんですよ?」
「これは私が無知だったようだ」
「ハハハ、父上、信じてはなりませんよ」
セラフォルーに嘘知識を教え込まれそうになっている父親を嗜めるサーゼクスという図が出来上がっていた。
「軽いノリだって思った?」
呆気に取られているイッセーにリアスが話しかける。
「え、まぁそうですね」
「現四大魔王さまはみなプライベートでは軽いのよ」
プライベートが軽くても仕事をキチンとこなせるのなら問題は無いが、これではあまりにも威厳が無い。
「もう耐えられません!」
ソーナは姉を振り切って走って行った。恥ずか死というやつか。
魔王という誇れる肩書を持っているなら言動もそうであって欲しいのだろう。
ソーナが前にコカビエルの件でセラフォルーを呼ばなかったのは、彼女が来たら即戦争が確定するからだと分かった。だってシスコンだもん。
「待ってソーナちゃん!」
そう言って逃げていく妹を追いかける姉。
その背中二つを見て笑顔になるサーゼクス。
「うむ、シトリー家は平和だ。そう思うだろうリーアたん」
「私の愛称を『たん』付けで呼ばないでください…」
「昔はお兄様、お兄様と後ろをついてきてくれたのに…これが反抗期か…」
「もう!」
「私も今日来れなかった妻の分まで頑張ろうかな」
「やめてください!」
グレモリー家も平和な会話を繰り広げていた。
後でイッセーはこっそり「リーア」と呼んでみようと思った。
羨ましい事だと思ってしまう。
リアスとソーナ、二人にとってはきっと当たり前に享受できる家族との会話。
イッセーからしたらそれはとても眩しかった。