次の日の放課後、旧校舎に存在する通称「開かずの扉」前に全員が集合していた。
イッセーはこれまで不審に思っていたがあえて触れてこなかったが、サーゼクスがこの部屋に封印されている『僧侶』を開放していいとのお達しが出た。
これまでライザーとのゲームやコカビエルとの一件でも姿を現さなかった。話では危険な力を持っておりそれを制御できないため部屋で引きこもっている。
だがリアスはこれまでフェニックス家やコカビエルとの戦いで制御できると判断されたのだ。
扉には刻印の入ったお札や「KEEP OUT」と描かれたテープ。あまりにも怪しい。
「ここにいるのよ。一応夜は術が解けて出られるのだけれど、中にいる子はそれを拒否しているの」
「なるほど、引きこもりと」
「そうね」
イッセーのバッサリとした評価にリアスは苦笑い。
「『僧侶』さん、一体どんな方なのでしょうか」
アーシアはちょっとワクワクしていた。前々から挨拶をしたいと言っていたのだ。
「なかにいる子は眷属の中でも一番の稼ぎ頭だったりするのですよ」
「引きこもりなのに?」
「パソコンを使った特殊な契約方法を行っているのです。人間の中には直接会いたくないという人もいますから」
朱乃がそう説明をする。
イッセーはそんな方法があったのかと感心した。
その説明中もリアスは扉の封印を解いていく。
「開けるわね」
リアスが僅かに扉を開く。
「イヤアアアァァァァ!!!!」
その瞬間中から叫び声が響いて来る。
アーシアとゼノヴィア以外の面々はその声を聞いて一切驚かず、嘆息をしている。
『ごきげんよう、元気そうで良かったわ』
『な、何事なんですかぁぁぁ!!』
『あらあら、もう出てもいいんですわよ?』
『嫌ですぅぅぅっ!!』
リアスと朱乃が先んじて入室して話しかけているが相手のリアクションは悪い。
「おいおい…」
イッセーはこれは重症だなと思う。
ここまでお姉さまたちに優しくしてもらっておきながら拒否とは。
他の面々も後に続いて部屋の中に入る。
部屋の中央には棺桶、亡くなった人を入れるようなやつ。部屋は可愛らしく装飾されており、女の子っぽさが醸し出されている。
部屋の隅っこにはリアスと朱乃がいた。そして人影が一つ。
それは駒王学園の女子制服を身にまとい、人形のような整った端正な顔立ちをした金髪の美少女だった。
「おっ!女の子!しかも金髪!」
金髪ダブル僧侶に彼の夢は広がる。
だがリアスはこれ以上膨らむ前に彼の夢を素早く切った。
「見た目女の子だけれど、立派な男の子よ」
「え、いやいや、あはは…冗談が下手ですね…」
「…………」
「…………マジで?」
「…………」
「…………あぁ」
リアスの無言の反応が全てだった。
イッセーは膝をついた。人の夢と書いて儚いそれを体現していた。
「マジか…こんな残酷な話があってもいいのか…」
彼はすぐに気持ちを立て直して疑問をぶつけた。
「何で引きこもりなのに女装してるんだ?」
いったい誰に見せるつもりの女装なのだろうか。似合っているだけにタチが悪かった。
「だ、だって女の子の服の方が可愛いんだもん」
「あれか、男がゲームだと可愛いからってあえて女の子キャラを選ぶみたいなやつか。女の子キャラは可愛いスキンとか服の種類も多いもんな」
「あ、はい。ボクも女の子キャラを選びます」
「分かるわー…俺もソシャゲだと胸のおっきい子を選んじゃうな、なるほどなるほど…って分かるか!!」
「ひいいいっ!!」
イッセーのノリツッコミに相手はまたも悲鳴を上げてしまう。男だというのに甲高い声を出せる声帯だった。
「と、ところでこの方々は誰ですか?」
そう言えば一度も相手に名乗っていなかった。
「あなたがここにいる間に増えた眷属よ。『兵士』の兵藤一誠。『騎士』のゼノヴィア。そしてあなたと同じ『僧侶』のアーシア・アルジェントよ」
リアスの紹介と共に三人は挨拶をしたが、問題の相手は人がいっぱいと叫んでいた。
「お願いだから外に出ましょう?」
「嫌ですうううぅぅ!!」
リアスが優しく説得を図るが嫌よ嫌よで応じる気配がない。
相手に付き合うのも面倒になって来たイッセーは強硬手段に出ることにした。
「部長がそう言ってんだからさっさと部屋から出ろよ」
その瞬間、世界がブレる感覚がした。
「あれ…?」
イッセーは無意識に『赤龍帝の籠手』を発動させていた。
これまで力のコントロールが全くと言っていいほど出来なかったが、発動の有無を間違えた経験はなかった。
『俺が無理矢理籠手を出した』
「え、何で…」
それ以前に何かがおかしい。
辺りを見回すと女装少年がそそくさと部屋の端っこに逃げている。だが誰もそれを咎めない、それどころか動いてすらいない。
「おっと」
直ぐに何かが動き出す。
皆が一様に辺りを見回して相手を探す、そして隅っこで怯えている相手を見つける。不思議なことに皆が相手の動きを目で追えていなかった。
「おかしいです。今一瞬…」
「何かをされたのは確かだね…」
アーシアとゼノヴィアは驚いていたが、他の皆は嘆息していた。
「目で追えたのかい?」
木場はイッセーだけは女子二人とは違うリアクションを取ったため問いかけたのだ。
「目で追えた?どういうことだ。あいつが歩いて逃げただけだろ?」
意味が分からなかった。そんなに相手は早く動いていない、赤子でも見失うはずがない。
「その子は視界に入った物を停止させる神器を持っているのですわ」
朱乃がイッセーに説明をする。
それを聞いた彼はあんぐりとする。それはあまりにも反則とも思える力だった。
「この子はギャスパー・ウラディ。私の眷属『僧侶』。一応駒王学園の一年生なの。転生前は人間と吸血鬼のハーフよ」
リアスはそう言った。
◎
いったん皆は部室内に集まり説明をする流れに。
「『停止世界の邪眼』?」
「そう。それがギャスパーの持っている神器よ。とても強力なの」
リアスはギャスパーがこれまで封印されていた理由について説明する。
要は神器が瞳、つまり五感を介して発動するタイプの為、力のコントロールを上手く行えず無意識に暴発させてしまう。
周りに悪影響を出してしまうため今日まで封印という形で引きこもっていた。
「というかよく駒一個だけで済みましたね」
彼はふと思ったのだ。
アーシアが『僧侶』として転生できたのなら、ギャスパーも駒一つで転生したという事。
時間を止めるなんて強力な力が『僧侶』一つでいけたのかと。
その疑問に答えたのは木場だった。
「『変異の駒』だよ」
「なんだそれ?」
木場はイッセーの無知さに対して丁寧に説明を重ねる。
「通常の駒と違って明らかに複数の駒を必要とする転生体が一つで済んでしまったりする特異な現象を起こす駒の事だよ」
見方を変えれば不正やバグの類だが、イレギュラーを好む層が一定数いる為、それは了承されている。
リアスはそれを踏まえて現状を説明する。
「問題はギャスパーの才能なのよ」
「才能?あいつ凄いんですか?」
「類稀な才能の持ち主で、何もしなくても神器の力が高まっていくようなの。将来的には禁手へ至る可能性も高いそうなの」
「それは…厄介ですね…」
イッセーはなるほどと納得した。
彼自身、精神的にも肉体的にも未熟なまま神器の覚醒と禁手に至った。しかもまともに特訓をする事も教えてくれる人も出来ないまま今日までずるずる来てしまった。
ギャスパーの処遇もそして彼の抱える問題もある程度は理解できてしまう。
あの吸血鬼は精神的に未熟なまま、五感で作用する神器を持て余しているのだ。
任意で発動する『赤龍帝の籠手』よりも厄介だ。
「ライザーやコカビエルの件で上もギャスパーをコントロール出来ると判断したの」
ライザーを非公式とはいえレーティングゲームで破り、木場が禁手になってコカビエルとの戦いで生き残った。
ここ近年、表面上は平和な冥界での戦果としては破格のものだ。
「ぼ、僕の話なんてして欲しくないのに…」
ギャスパーはぶるぶる震えながら。因みに彼は大きな段ボールの中に潜り込んでいる。
「何をやってるんだお前は…」
イッセーは立ち上がってゴンと隅っこに置いていある段ボールを軽く蹴る。
「ひいいいっっっ!!」
ギャスパーは相変わらずちょっとでもショックを受けると叫び出す。
「そう言えば吸血鬼って日光に弱いですよね?こいつは大丈夫なんですか?」
彼はふと思ったのだ、日光が苦手だからこそ外が嫌なのではないのかと。それなら無理強いはいけない。
「彼はデイウォーカーと呼ばれる日中でも活動できる特殊な血を継いでいるから問題ないわ」
「だそうだ、早く外に出ろ」
「太陽の光嫌いですううううっっっ!!箱入り息子って事で許してくださいぃっ!」
「意味が分からん」
相変わらずのリアクション。
「そう言えば血は?飲まないと不味いんじゃないんですか?」
彼の浅い知識でも吸血鬼は血を飲む事で体力を維持している。イメージは女性の首元に噛みついて血を補給する。
リアスはその疑問に答える。
「ハーフだからそこまで飲まなくても大丈夫なの。十日に一度輸血用の血液を飲むけれど」
「だそうだ、さっさと血を飲んで外に出ろ」
「血、嫌いですううううっっっ!!生臭いのダメえええっっ!!」
「何でだよ」
好き嫌いが激しすぎる吸血鬼だった。
「…へたれヴァンパイア」
「うわあああんっ!小猫ちゃんがいじめるぅ!」
小猫の吐き捨てるような一撃に大ダメージを受ける。
「リアスそろそろ…」
朱乃はリアスそう耳打ちをする。
「そうね、それでイッセーにお願いがあるのだけれど」
「何ですか?」
「あなたにギャスパーの教育係をお願いしてみたいと思うの」
「俺がです?」
何故自分と思った。指示が嫌なのではなく、同性に任せたいならそれこそ木場でもいいだろうと。
その疑問にリアスは答える。
「これから会談の打ち合わせがあるの、それで魔王様が祐斗の禁手も見たいそうなの」
木場の禁手は聖魔剣と特殊な物だ。一度目で見て確認したいと思うだろう。
「分かりましたけど…」
イッセーは正直不安しかなかった。
そもそも何とか出来るのならリアスたちでとっくに解決しているはずで、出来ていないからギャスパーはこのザマなのだ。
その言葉を聞いてリアスと朱乃、そして木場は魔方陣で転移していった。
◎
「ほらほら走れ!早くしないとデュランダルの錆になるぞ!」
「うわあああんっ!!ヴァンパイアハントされるぅぅぅっ!!」
デュランダルを片手にゼノヴィアがギャスパーを追いかけていた。
彼女はとても楽しそうに追いかけている。エクソシストの血でも騒いだか。
「吸血鬼狩りにしか見えねえぞ…」
「ゼノヴィアさん、あのようなノリがお好きだそうですから…」
「…………」
それを傍で見ていたイッセーとアーシア、そして小猫はそんな感想を抱く。
その後、走り回されて倒れこんでいた。引きこもっているせいかあまりにも体力がない。疲れ切って動けそうにない。
倒れこんでいる相手の傍によって小猫は話しかける。
「ギャー君お疲れ」
「うぅ…ありがとう小猫ちゃん…」
「ニンニクを食べれば健康になれる」
「いやぁぁぁぁん!小猫ちゃんがいじめるうぅぅっ!!」
次は小猫がニンニクを片手に追いかけ回す。
ギャスパーは再び逃げ出す。どうやら体力はまだ余力があるらしい。
「おーおーやってんな」
訓練に混ざってきたのは生徒会の匙だった。
「よう、匙か」
「引きこもり眷属が解禁されたからって身に来たぜ、って金髪美少女!」
匙はイッセーの思った通りにギャスパーに反応を示した。だが残念なことに現実は厳しいのだ。
「残念、女装だけどな」
イッセーの説明で匙は分かりやすく膝を突いた。
「それはないぜ…女装って誰かに見せるものだろ…それで引きこもりって…難易度高いなぁ…」
「だよな、意味の分からん女装癖だ」
そんな雑談をしていると人影が現れる。
「魔王眷属の悪魔さん達はここで集まってお遊戯をしてるってわけか」
「アザゼルッ!」
現れたのはアザゼル、何故か浴衣姿だった。
イッセーの声で反応出来たのは彼を除いたらゼノヴィアだけだった。彼女はデュランダルを取り出して構えた。
「ひ、兵藤!まさかアザゼルって…!」
「本物だよ。気を抜くな」
先ほどとは打って変わってイッセーの顔つきが変わって、匙は自分が危険な状況に置かれているのに気が付く。
彼は左手にトカゲのようなものを発生させ構える。
「おいおい、お前らが束になっても俺には勝てねぇよ。赤龍帝はここ辺一帯を更地にする気か?」
アザゼルは全員からの敵意を真正面から受け止めてなお余裕そうな笑みを見せた。
「それよか聖魔剣使いはいないのか?ちょっくら見に来たんだがな」
「木場はここにはいねえよ。帰れ」
「おいおい、あんなに契約料をくれてやったってのに敵対的じゃねえか。昔の事をまだ根に持ってんのか?」
その言葉を聞いた途端イッセーの中に閉じ込めていた黒い感情が溢れそうになっている。
―この目の前の堕天使は俺の故郷で起きた事を知っている!
目の前にいる堕天使の総督はイッセー過去を分かって目の前に立っている。その事実が許せなくなる、どの面を下げて来たのかと。
(落ち着け…落ち着け…)
イッセーは必至に感情を抑える。
ここで暴走して力を使ったらこの街に大きな被害が出るだけではない。
ここにいる皆の命、そしてギャスパーの教育係を任されている以上はそれを守る義務が課せられている。
「今出て行くならここに来たのは黙っておいてやる」
イッセーはギリギリそう言葉を絞り出した。
「へぇ…」
アザゼルは素直に感心した。
自身の怒りに身を任せず、周りの被害を考えて建設的に動けるその忍耐力に敬意を持った。
「そうだな、取りあえずそこのヴァンパイア『停止世界の邪眼』を持ってるな?」
「ひっ!」
相手に呼ばれたギャスパーは木陰に隠れていたがチラリと顔だけ出した。
「そうだな、そこの『黒い龍脈』を使って力を吸収して散らしてから訓練すればいい。そうすれば暴走のリスクも減るはずだ」
次に視線を向けたのは匙の神器。
トカゲのベロみたいなのが相手に引っ付いて拘束する力があるのは分かっていた。思っていた以上に器用な力なのか。
「お、俺の神器が相手の力を吸ったりできるのか…?ただ弱らせるだけかと…」
その発言に対してアザゼルは呆れたような表情になる。
「全く…自分の力なんだからしっかりと把握しとけ。それは五大龍王の一匹『黒邪の龍王』ヴリトラの力を持っている。そのラインの本数を増やしたり一時的にラインを切り離して他の者に接続も出来るはずだ」
「まさか俺のラインを…例えば兵藤に引っ付けることが出来るのか?そんで奪った力を兵藤に渡したり…そんな事が…」
アザゼルの説明を聞いて匙は自身の力の可能性を模索し始めた。
仮に本当なら匙は強くなれる可能性を秘めている事になる。
「ヴァ―リ…うちの白龍皇が勝手に接触して悪かったな。なに、今すぐ赤白決着を着けようなんて思ってないさ」
「アンタは謝らないのかよ?」
「謝って欲しいのか?」
イッセーはめつけるがアザゼルは軽く受け流す。そして興味が失せたのか背中を見せて消えていった。
気配が完全に消えたところで皆が深く呼吸をした。肩に力を抜いて脱力をする。ラスボスを前に緊張を超えたものを受けた。
「取りあえず、そこの新顔くんに俺の神器を取り付けてみるか?」
匙が口火を切ってそう言った。
それに対して皆が頷いた。
◎
「行くぜギャスパー」
「は、はい!」
イッセーは体育倉庫からボールを取り出して構える。
ギャスパーは何故かブルマ姿で構えた。
「そりゃ」
ギャスパーは魔眼を発動させて投げられたボールを止めようとする。
だがコントロールが未熟な彼はボールだけをピンポイントで止める事が出来ないため、他の人や物までまとめて止めてしまうのだ。
「ううっ!やってしまったぁ…!僕はダメな子なんだぁ…」
「いやだから逃げようとすんな」
「何で止まらないんですかぁぁぁ!」
ギャスパーは止めた隙を狙って逃げようとするのだが、イッセーは一瞬で抑え込んで逃がさない。
「お前より何倍も強いから」
イッセーはギャスパーの服を引っ張りながら連れ戻す。既にギャスパーは涙目になっている。
「てか兵藤凄いな、停止を防げるのか…」
「もう何度か見て力を使うタイミングとか癖が分かって来たからな。ならあとはタイミングを合わせて籠手を出すだけだよ。瞳を使って神器を発動するって分かってるならその出を見切るのはそう難しくないしな」
イッセーは匙の疑問に簡単そうに答えたが、実際やろうとすると難しい。
この中でイッセー以外にそれが出来そうなのはゼノヴィアくらいだ。事実、彼女は何やらタイミングを計っているようで。
「じゃあ匙、そのベロでギャスパーの力を散らしてくれ」
「はいよ」
匙は神器をギャスパーの頭に接続した。
イッセーは何だかんだ無償で付き合ってくれる相手に感謝した。
「てか悪いな、一応会長には話通してあるけど時間貰ってさ。あとで生徒会の雑用手伝うよ」
「いいってことよ、俺も神器の可能性を試せるしな」
匙はギャスパーの神器の力を吸い取りながらもあれこれ模索しているようだった。
「しかしこれでは特訓そのものが難しいな…」
ゼノヴィアはその光景を見てそうごちた。
ギャスパーは力のコントロール以前の問題が山積みだった。