(禁手が出せる!)
イッセーはこれまでにないほど維持できる鎧に驚いていた。
これまで数秒で力尽きて倒れていたが、今は完全にとは言わないがまとい続けられる。
『だが気を付けろ、リングのおかげで力の出力は抑えられているが、倍加や譲渡を使えば使うほど禁手の使用時間は減っていくぞ。リングもそう長くは使えないだろう』
ドライグはそう助言をする。
「分かってる、一瞬で片付ける」
これまで禁手こそ覚醒させてはいたが使い方は一撃必殺、本格的に使うのは今がこの時が初めて。
「ははは…いいドラゴンの波動だ。何より素晴らしい。これまで俺が魔王の血族で『白龍皇』だと知った奴らは皆一様に畏怖と恐怖で顔を歪ませていた。だが君はそれがどうしたと言わんばかりだ。それでこそ俺のライバル」
ヴァ―リは立ち上がり楽しそうな口調で話し始めた。
既に壊された鎧は修復されており、砕けた破片は空気へと溶けるように消えた。
神器の中に封じられているドラゴン、アルビオンは窘め始める。
『気を付けろヴァ―リ、先ほどの一撃で分かった。歴代でも屈指の使い手だ。気を抜けばいくらお前でもやられる』
「素晴らしい話だ」
その情報ですら嬉々として受け入れ始める。
ヴァ―リは全身から膨大な魔力とドラゴンのオーラを噴き出しながら飛び出して行く。
二人の拳がぶつかり合う、その衝撃は大地を余波だけでかち割るほどだった。
「がっ!」
力で競り負けたのはイッセーだった。
鎧の所々が砕けて先ほどのヴァ―リのように地面に叩きつけられてしまう。
「イッセー!」
リアスはその光景を見て飛び出そうとする。
「来るな!」
「ッ!」
彼は素早く立ち上がって手で制止する。
仮にリアスがドラゴン同士の戦いに割って入ったら、二人のオーラに巻き込まれて焼け死んでしまう。
ヴァ―リは先ほどと同じように空中から悠々と眺めている。
「この程度で終わりではないだろう?」
『Divide!』
白銀の鎧から発される半減を知らせる音声。
イッセーは体から強烈な虚脱感を感じる。
「チッ…半減か」
『Boost!』
イッセーは半減させられた力を鎧の倍加の力で元に戻す。同時に鎧そのものも修復する。
相手の神器は触れた対象の力を半減させる効果がある、しかも奪った力を自分に加算するとんでもないおまけ付きで。
「くっそ…」
既にかなりの消耗をしている。
先程半減のダメージだけでなく、アザゼルから貰ったリングによって必要以上の出力を抑えているとはいえ、力を使えば当たり前だが消耗はする。
(あの野郎…余裕そうじゃねえか…)
『恐らくだがヴァ―リは持っている体力と魔力の総量が桁違いなのだろうな。貯蔵できる量が膨大なら使える時間も維持する力も膨大だろう。こちらは補助付きの制限ありだ、まともに戦えば勝機は無いぞ』
ドライグの冷静な判断。イッセーも同じ感想を抱いた。
厳しい事実ではあるが、それを込みで戦わなければ犬死は必至だ。
『半減は倍加で戻るが、それよりももう一つの力が厄介だ』
イッセーはドライグの説明を聞きながら飛び出して行く。
真正面に捉えるのはヴァ―リ。
『奴は相手の力を奪い自分に加算する、ただしパワーだけだ。体力までは戻らない』
「面白いっ!格闘戦かっ!!」
再び二人の殴り合いが始まる。
お互いの拳がクロスカウンターのように決まって、互いの兜を砕いてしまう。
『だがどんな奴でも上限はある。キャパティシイを超える力はあの翼から放出して上限を維持しているのさ』
「食らっとけっ!」
「くっ!」
イッセーは一瞬怯んだ相手に向かって左拳を振りぬこうとする。
ヴァ―リはかわせないと悟ってとっさに防御壁を生み出した。
大量の魔力を使って生み出した分厚い障壁、だがそれは強力である代償として悪魔とドラゴンの力の双方が加わっている。
「ドライグここだ!」
『承知ッ!』『Transfar!』
「なんだと?」
ヴァ―リはここで何に譲渡したのか分からなかった。
ゴン!と障壁がまるで紙屑のように砕け散った。相手の顔面に拳が突き刺さった。
「ッッ????」
思いがけないダメージにヴァ―リは理解が追いつていないのか疑問符を浮かべながらも態勢をぐらりと崩した。
「もう一発食らっとけっ!!」
ヴァ―リは防御する事もかなわずにアスカロンの力をまとった拳を真正面から受けた。
「信じらんねぇ…」
その戦いを見ていたアザゼルの感想はそれに尽きた。
間違いなくヴァ―リはこの世界でも上澄みに分類される強者だ。誇張でも何でもなく歴代最強の『白龍皇』だ。
だがイッセーはその相手と対峙して十分すぎるほどに食らいついている。
彼の予定ではピンチになったら横槍を入れて助けるつもりだった。
仮に悪魔サイドの赤龍帝が、裏切ったとはいえ堕天使側に属している白龍皇に殺されれば大問題になる。
そもそも誰もがイッセーは瞬殺されると思っていたのだ。
ポテンシャルは認める、けれど現状それを持て余しており、リングによって無理矢理抑えて形を整えているだけ。それで勝てるだろうと予想を立てるのが難しい。
同じ感想を抱くのは彼だけではない。
「…サーゼクスちゃん、あの子あれで下級悪魔なの?」
「私も驚いている、ここまで力を隠していたとはね。既にイッセーくんの力は最上級悪魔並だ」
セラフォルーとサーゼクスもまた驚く。
二人は機を見て助力しようと思ってはいたが、戦っている二人の余波が外に影響を与えないように結界を維持するので精一杯だった。
皆が驚き、ただ眺めている事しか出来ない。そしてヴァ―リという化け物相手によく頑張ったとそのような感想を抱いた。
「げふっ!?」
ヴァ―リの蹴りが腹にモロに入ってイッセーは地面に叩きつけられる。
「強いよ、君は間違いなく強い。あと十年でも鍛錬を積めば俺ともっと強く熱く戦えるはずだ。だがその未完成な力では俺には届かない」
既に勝ったと思っているのかヴァ―リは余裕そうに総評を口にする。
実際に余裕なのだろう、既にイッセーが出せる力も把握して、体術から戦闘の癖などの分析も完了している。一度目は不意を突かれたが既に聖剣も把握している。
この戦いは既に自分の勝ちだと確信している。
「…………」
イッセーは相手が喋っている間も何とか意識を保ちながらも思いついた。
今の自分の手札でヴァ―リに勝つ、まるで蜘蛛の糸を掴むような奇跡の方法を。
「ドライグ、これは賭けだ」
彼はふらつきそうになる体を必死に起こした。
既に腕輪の力も限界が近い、禁手を維持するもの五分と保たない、力を使えばもっと短いだろう。
『なんだと…?』
「最後まで付き合ってもらうぜ!」
イッセーは最後の賭けへと飛び込んだ。
『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!!』
イッセーは残った力を全て倍加に費やして右拳全てに溜め込む。
「面白いッ!最後の力を振り絞って来たか!!」
ヴァ―リもまた同じように全身の魔力とドラゴンのオーラを腕に集中させて真正面から受け止めようとする。
「これで最後だああああっ!!」
互いの力が真正面からぶつかり合う。
「いかん!」
サーゼクスはとっさに防御用の結界を張って皆を守る。
その二つの力の奔流は辺り一帯を吹き飛ばす。校庭も校舎も辺り一帯を破壊しながら音も光も全てを吹っ飛ばした。
◎
「いったい…」
サーゼクス達がとっさに張った結界のおかげで木場たちは何とか戦いの流れ弾から逃れることが出来た。
周りが土煙で覆われており視界は茶色に染まっている。
「あれ!」
小猫は土煙の中に人影を見つけてとっさにそう言った。
少しずつ煙が薄くなり、そこにいたのはヴァ―リだった。
「はぁーっ…危なかった…あと少しで…」
鎧の節々が砕けながらもなんとか二本足で立っていた。
全身から血を流しており、間違いなく満身創痍だった。
ヴァ―リがいるならイッセーは何処にいるのかと皆が必死に探す。そしてヴァ―リの前の土煙が薄くなると、そこには赤い鎧が倒れていた。
「そんなっ…」
アーシアは口に手をやってショックを受けていた。それは皆も同じで絶望に近い感情が生まれる。
ヴァ―リは何も言わなくなった鎧を相手に話しかける。
「流石俺のライバル…もっと鍛錬を積めば俺と同じ場所に立ってくれるはずだ…だがここでは俺の勝ちだ…何年かかってもいい…次やる時はもっと激しくやろう」
彼から出るのは称賛の言葉、それも先ほどのような一方的な上から目線ではなく、自分と肩を並べる同格のライバルとしてイッセーを見ている。
皆がヴァ―リの勝どきを黙って聞いていた。