朱乃はソファーに座っている客人にお茶を振舞う。
「粗茶です」
「ありがとうございます」
イッセーは出されたそれに口を付ける。
「美味いです」
「あらあら、ありがとうございます」
彼女はうふふと手を口に当てて嬉しそうな仕草、並の人間なら簡単にコロッと行ってしまうだろう。
ソファーに座るイッセー、その対面にいるのは悪魔側の代表であるリアス、そしてその背後には木場と小猫の両名が立っている。
リアスは朱乃に横に座るように言う。その指示通りにソファーの隣に座る。
そして場が落ち着いたところで彼女はこの場を設けたそもそもの話の本題に入る。
「単刀直入に言うわね。私達は悪魔よ」
「…ですね」
「驚かないのね」
「何となく人間じゃないんだろうなとは思ってましたし…」
今更な感じがするちょっと間抜けさのある会話。
これまで悪魔と直接接触を持つ機会が無かったというだけで、個人の調査やドライグの知識からそれなりの情報は蓄えていた。
「まずは昨日の件だけど…あなたは異形の存在についてどこまで把握しているのかしら?」
リアスから出てくるのはお互いの距離感と認識の齟齬をすり合わせるための質問。
自分たち悪魔をどう思っているのか、イッセー自身に堕天使に狙われた事に対する心当たりがあるのか、堕天使についてどのような認識を持っているのか。
様々な説明を省いたこの時点で彼女は彼に対して何も知らない無知な存在ではなく、一定の知識を持っている対等な交渉相手だと認識する。
(どうするのがいいのかな…?)
『そうだな…堕天使は神器を持つ人間を狙う組織だ。取りあえず下手に神器を持っているのを隠さない方がいいのではないか?』
イッセーはこの場で唯一相談する事の出来る相手に話しかける。
「あの堕天使は俺の神器を狙ったんだと思います」
彼はそう言って左手に力を溜める。そして赤色の籠手が顕現する。
悪魔たちは一瞬警戒態勢に入るが害意が無いのを見て構えを解く。そしてそれぞれ驚いたリアクションと興味深そうな視線を向ける。リアスは一番最初に口を開く。
「それがあなたの神器なのね」
「ええ『龍の手』って言います」
イッセーは表情一つ変えることなく嘘をつく。
本当はドラゴン系のセイクリッドギアの中でも最高峰のそれを持っている。
仮に神器持ちである事がバレたとしても被害を最小限に抑えるため、ありふれた神器であるかのように偽装をしていた。
「…だから兵藤君は堕天使に狙われたのですわね…グリゴリ…特にトップのアザゼルは神器に造詣が深いと聞きます」
朱乃は若干だが苦しそうな表情でそう言う。
リアスは少し心配そうな雰囲気を出したが直ぐにイッセーの方を向き直す。
「という事は堕天使についても知っているのね?」
「はい」
リアスは神器の話をすぐにしたことから人間が稀に宿す力の事とそれを巡る存在の話をのあらかたを分かっているのを察した。
イッセーからすれば知っているではなく、目の前で自分の故郷と親を奪い、その危険性を身をもって教え込まれた憎悪しなければいけない相手。
だがそんな不穏な態度など全く見せない、心の奥底に抑え込む。
リアスはその返事を聞いて頷く。
「なら話が早いわ。なら私たち悪魔と契約しない?」
「契約…ですか…」
突然契約と言われてもイッセーからすれば何が何やら状態。
悪魔が人間と契約を交わし夢や目的を叶える、そしてその内容に見合った代価を得るというのは知識として知っている。
だが何故自分にその契約を相手が申し出したのか分からない。
「今のあなたは堕天使に狙われてる。また狙われてもおかしくないし、家族や周りの人に手を出してきてもおかしくないわ。事実として昨日あなたの家の周りには堕天使たちが待ち伏せていたのよ」
「…………」
「そんな怖い顔しないでちょうだい。あの日は朱乃を行かせていたからイッセーの両親には手を出させなかったわ」
リアスは警戒を解くために慌てて説明をする。
悪魔と堕天使が家の近くで待ち伏せしていたと聞いたら構えるのも仕方ない。
(イッセー落ち着け。相手は少なくともこちらに危害を加える気は無さそうだぞ)
(わりぃドライグ…ちょっと頭に血の気行き過ぎたわ…)
ドライグの言葉で彼は冷静さを取り戻す。
一度でも助けてくれたから絶対の信頼を預けるという話では無いのだが、ここで敵対するのはこの街での居場所を放棄するに等しい。その事を思い出して何とか落ち着きを取り戻す。
「…いつから姫島先輩に家の監視をさせてたんですか?」
彼は疑問に思った。自分がどこで正体を勘付かれるようなヘマをしたのかと。
「この前貴方が旧校舎に来た時にこの…」
リアスは生徒手帳を取り出す。
「生徒手帳に仕込まれていた術式に貴方がかかっていなかったから変だと思ったのよ」
それを聞いてイッセーは慌てて胸ポケットに入れていた生徒手帳を取り出す。
そしてまじまじと見つめる。知らないうちに未知の物体を家に持ち込んでいたという事実。
「盗聴機能は付いてないわ」
「…そんな事…疑ってませ…んよ?」
リアスに言い当てられて分かりやすく動揺するイッセー。
一方の彼女はそんなバレバレなリアクションに対して呆れながらも微笑む。
「話を逸らしてすいません。それで…契約って何ですか?」
イッセーは先ほど提案された事を復唱する。
「私の縄張り内で堕天使の侵入、そして神器所有者が現れた以上、この土地を収める悪魔としてそれをグレモリー家当主や魔王様に報告しなければならない義務が当然あるわ」
「…………」
イッセーはリアスのその説明に対して理不尽だと思うより、まったくその通りだなと思った。
彼は悪魔社会のルールや風習の事を理解しているわけでは無かったが、一土地を預かる立場であればしっかりとその責務を果たさないといけないのは分かる。
「でもまだあなたの事は報告してないのよ」
「へ…」
リアスから飛び出したセリフ。
イッセーは一瞬相手が何を言っているのか分からなくなる。
異形の存在が自分たちの脅威になりかねない存在である神器所有者を簡単に見逃すはずがないのは、幼い頃の苦い経験から理解出来ていた。
彼女は困惑する相手を見て少し面白そうな、そしてイタズラが成功したような笑みを浮かべる。
「あなたが事を大きくしないために立ち回っているのは何となく分かったわ。だからこその契約なのよ」
イッセーはここで相手が何を言わんとしているのかが理解できた。
「俺の秘密と家族の安全を守る代わりに代価を要求するって事ですか?」
「ええ、具体的にあなたの要望を聞かせてちょうだい。それに合わせたプラン提示をさせて貰うわ。朱乃、アレを」
「はい、部長」
リアスに言われた朱乃は立ち上がって小さな魔法陣を展開、そこからパンフレットを取り出してイッセーの前に置く。
相手から視線でどうぞと促される。
パンフレットを開くとそこにはリアス・グレモリーとその眷属一人一人のプロフィール、特技などが細かく書かれている。
他にもここ数年の実績から、細かい料金プラン、契約不履行時の補填やキャンセル料の有無など、顧客に対して齟齬が出ないよう懇切丁寧に説明がある。
「…………」
イッセーはわなわなと肩を震わせる。
これまで抱いていたシリアスな雰囲気が一気に吹き飛んでしまう。そして一言。
「営業かよ!!!!」
◎
「じゃあ俺ん家に集合だな!」
「堪能しようじゃないか、お宝を」
次の日、松田と元浜は放課後に突入という学生のパラダイスを余すことなく堪能しようと張り切る。ただしその楽しむ内容はAV観賞なので周りからの視線は絶対零度なのだが。
「はぁ……」
誘われているイッセー、だがあまり乗り気ではないようで、いつもなら話に食い気味に乗っかってくるところがちょっと塩対応。
彼の悪友二人は不安そうになる。
「お前最近大丈夫か…?」
「…まさかイッセーのドッペルゲンガーじゃないよな…いやそれならエロいはずだ……」
「いやいいだろ…別に性欲に駆られない俺がいても…」
自分に対する散々な人物評にふててしまう。その自覚があるとはいえ同じ人種の相手から言われるのはどうにも納得できない。
「いやさ、今日から部活に入る事になってさー…」
友人との観賞会に対して前向きではない理由、それを素直に伝える。
それを聞いて二人は意外そうな表情になる。
「え?マジか部活興味ないって言ってたのにな」
「まあな」
「で、何部に入るんだ?お前って運動神経良いし運動系か?」
「いんや、オカルト研究部」
二人の質問に対して別に何とも無さそうにイッセーは答える。
いつもであれば女の子を紹介しろなどと要求してくるところなのだがイッセーはそうならない
「あ、へー…お前がオカルトねぇ…もしかしてトイレの花子さんや貞子って美女美少女なのか?」
「もしかして学園のアイドル達と親密な仲に!ぜひご紹介を!…いや、まぁいいか相手にされなさそうだし」
「…………」
何故か突然部活の話、厳密にはメンバーの話を二人は避けだす。
イッセーからすれば異常に見えてしまう光景。つい上着の胸ポケットに入っている例の物を自分の手で確認してしまう。
(変な副作用とか残らないだろうな?)
いざ真実を知ってしまうと不安になってしまう。