大公から出た依頼、それは「はぐれ悪魔」と呼ばれる存在の討伐。
はぐれ悪魔は主人となった悪魔から逃げだし暴れ回る者の事。転生前よりも強大な力を手にした事でそれを利欲の為に振おうと暴走した者の総称。
イッセーからすれば理解から程遠い思想だが、その様な存在が居てもおかしくは無いとは思う。
歩く道中、特にグレモリー眷属たちと話す事がないため中にいるドラゴンと話始める。
『過去の赤龍帝には力に溺れ覇龍を乱用し暴れ回り、最後に討伐された者もいた』
(そうなん?)
深夜、グレモリー一行は例のはぐれ悪魔が隠れているという廃墟へと向かっていた。
大公からの指示でリアス・グレモリーの領土内に逃げ込んだはぐれ悪魔を討伐しろとの命が出た。
因みに徒歩移動なのはテレポートの類を使うとそれを察知され、逃げられたり待ち伏せをされる可能性があるからだ。
結果として皆が無言でピリついた雰囲気を纏う。
(覇龍使って負けるって、その代の白龍皇ってのはすげーんだな)
『いや、白いのにやられたのでは無い。赤龍帝を危険視した魔法使いの一団に討伐された』
(白龍皇じゃ無くても負けんのか)
『いくら強くても大人数に取り囲まれれば体力も集中力も底をつく。かつて天使、堕天使、悪魔の連合軍に討たれた時もそうだった。それこそ無限でもない限り無敵など存在しない』
何やら思う所がある様なドライグの発言。
『だからこそ、こうしてグレモリーのバックに着いた決断は間違ってはいない。どれほどの力を得ても堕天使の大軍に襲われ続ければ必ず負ける。今のお前の力では…勝てん』
今のお前という言葉を使ったのは、本来の赤龍帝の力がこの程度では無いと分かっているからか、人の身の中に封印されながらも失わないドラゴンのプライドか。
(肝に銘じておくよ)
可能なら平穏に暮らしたいのだ。他勢力に喧嘩を売るなどあり得なかった。
「血の匂い」
心の中で話し合っているうちに子猫が何やら気配を察知した。
ふと前を見るとそこには誰が見ても分かるくらいにボロボロな廃屋があった。
(すっげぇ殺気…)
特段そういうのに長けていなくても意識を向ければ察知する事が彼でも出来た。それと同時にそりゃ討伐指令が出るわと納得もしていた。
「イッセー」
「はい」
「今回は悪魔の成り立ちや歴史の一部をレクチャーするわ」
「レクチャーって…まさかはぐれ悪魔を俺が倒せと?」
「そうね、貴方の実力を見せて貰いたい所だけど今日は大丈夫よ」
相手の懐疑的な感じに少し苦笑いをしながらもリアスは話し始める。
かつて悪魔は天使と堕天使の三すくみで大掛かりな戦争をしていた事。そしてその三すくみの争いは決着が着かず互いに大きく頭数を減らして終わった。
悪魔は種を存続させる為に「悪魔の駒」というものを作り、数を増やす事と軍備の強化を図った。
「『イーヴィルピース』ですか?」
イッセーは降って湧いてきた新しい単語に少し困惑する。
リアスは無知な相手にも苛立つ雰囲気を出す事なく説明をする。
爵位を持つ悪魔には「悪魔の駒」という悪魔に転生させるためのチェスの駒に習ったアイテムが与えられる。
これを使う事で悪魔の頭数そのものを増やすだけで無く、強い存在を転生させれば悪魔の軍備も上げられるというものだ。
そして行くうちにお互いの駒、転生悪魔のどちらが強いのかという自慢合戦になり、そこからレーティングゲームという駒同士を戦わせるゲームが発案される。
このゲームが大きく業界にウケて、ゲームでの成績がその悪魔のステータスに左右する様になった。
「そりぁ…大変ですね」
イッセーのどうでも良さそうな、ある意味素直な感想に一同苦笑いの様な雰囲気が流れる。
「とはいえ正式に参加出来るのは成人になってからだけど」
リアスはそう締めくくって話を本筋に戻す。
「今回のはぐれ悪魔は他の上級悪魔から逃げて来たというわけ、指示は討伐、あまりにも暴れ回るから殺す様言われているわ」
「殺す…ですか」
はっきりと断言しているのを聞いて何とも言えなくなる。
決してリアス達を嫌悪しているわけではない。
普遍的かつ善人的思考なら止めるべきなのだろう。だが彼自身強大な力には周りの人を変える魔力があるのを知っている。
「これ以上暴れ回られると天界や他業界に影響を与えかねないわ。そうなれば戦争よ、見逃す事はあり得ないわ。この指令はそういう事なの」
リアスはそう言い切って意識を建物の中にいるバケモノへと向ける。
イッセーは廃屋の中を歩きながらも先ほどの会話の内容について考えていた。
危険な因子だからこそ大事になる前に始末する。悪魔という大きな枠組みを守るために必要な悪。
かつて自分の村に襲撃をかけた堕天使や天使たちはどのような大義名分と使命感を振りかざしたのだろうかと。もう既に手遅れで取り戻せない己の過去について考える。
何やら考え事をしている様に見えるイッセーに対して見かねた小猫が話しかける。
「イッセー先輩」
「…なに?」
「はぐれ悪魔の事を見逃すべきだと思いますか?」
「どうして?」
「そんな雰囲気がしたので」
彼女の問いかけ。
悪魔業界からしたら常識。だが人間からすれば、平和ボケした日本人からすればそこまでドライに割り切れないであろう事も事実だった。
「うーん…どうだろ?そのはぐれってのがどんな理由で逃げてるのか分からないからさ」
「理由ですか?」
「うん。例えば主人の人がかなり人使いの荒い人で仕方なくかもしれないしさ」
「……」
彼のその一言に相手は黙り込んでしまう。
それを彼は不機嫌になったと解釈する。
「ま、まぁ悪魔業界全体に迷惑が掛かるなら仕方ないと思うけど」
イッセーは何やら地雷を踏んでしまったと察知して話に修正を入れる。
「逃げて、それで家族に迷惑が掛かっても許されますか?」
「はい?」
「もし残された家族に責任の矛先が来ても逃げる事が許されますか?」
「ど、どうしたの小猫ちゃん…」
これまで見たことが無いほどに気持ちのこもった詰めにたじろいでしまう。
「小猫ちゃん、ここは敵地ですわ。緊張感を持ってください」
「はい…ごめんなさい…」
だがこの状況を見かねた朱乃が口を挟んだ。
するとハッとしたのか直ぐにいつもの仏頂な感じに戻る。そして頭を下げる。
「イッセー先輩すみません…」
「い、いや気にしてないから…」
相手の本心からの謝罪に彼は受け入れた。そもそも怒っていないのだが。
「不味そうな匂いがするぞ?でも美味そうな匂いもするぞ?甘いのかな?苦いのかな?」
周りへの警戒を怠ることなく程よい緊張感を持ちながら廃墟の中を歩いていると広めのロビー、または広間のような開けた場所に着いた。
そこで腹の奥底から捻りだしたの様な醜悪な声が響く。
『…………』
皆がそちらへ視線を向けると太い柱の陰から何やら巨体が姿を現す。
「おお…」
上半身こそ半裸の女性。結構おっぱいが大きかったのでイッセーはちょっと反応してしまう。
だがその儚い願いは打ち砕かれる。
「えぇ…」
次のシーンで出て来たのは四足歩行の獣に長い尾を携えたとても人とは思えない化けの物の下半身だった。
嫌な予感はしていた。何故なら上半身が出て来たのは地面から四メートルほど宙にある場所だったからだ。全長は約五メートル程あった。
人魚でも上半身のスタイルが抜群で可愛ければギリギリ行ける彼でも流石に守備範囲外だった。
「はぐれ悪魔バイザー、あなたを消滅しに来たわ」
そんなバケモノを前にしてもリアスは一切怯むことなく堂々を立ち振る舞う。
「主の元を逃げ、己の欲求を満たすためだけに暴れ回るのは万死に値するわ。グレモリー公爵の名においてあなたを消し飛ばしてあげる!」
「小賢しい!小娘ごときがぁ!その紅の髪のようにお前の身を鮮血で染め上げてやるわ!!」
「雑魚ほど洒落のきいたセリフを吐くものね、祐斗!」
そのやり取りと共に戦いが始まる。
「イッセーには悪魔の駒について説明をするわ」
リアスのその言葉と共に木場は腰の鞘に納めていた剣を抜刀し飛び出して行く。
(速え)
そのスピードはまさに神速、イッセーは何とかそれを目で追っていたが敵の方はその動きについて行けていないようで闇雲に手足を振り回していた。
「祐斗の役割は『騎士』。その駒を与えられた者はスピードが増すの」
「ぎゃああああっ!!!!」
その説明をしている間にもいつの間にか敵の両腕が切り落とされた。
そこで敵の巨体の下にいたのは子猫だった。
「ちょっ…」
イッセーはとっさにその状況を見て神器を出しフォローをしようとする。
だがリアスは手でその動きを制する。
「子猫、あの子の役割は『戦車』。その特性はバカげた攻撃力と防御力」
「子虫めえええっ!!」
敵は前足でそのまま相手を踏みつぶそうとする。だが小猫はその一撃を受け止めるどころかそのまま腕力で跳ね返してしまう。
ドドンッと体勢を崩した相手は地面に倒れこんでしまう。自分の体重を自身でコントロール出来ない哀れな光景だった。
(やべー…あのまま絡まれてたらぶっ飛ばされてたかもな)
あのパワフルな細腕で殴られたら流石に無傷ではいくまい。今更ながら瀬戸際にいたという自覚で背中に汗が滲む。
内心朱乃に感謝だった。
「最後に朱乃」
「はい」
それまでリアスの傍で戦況を見守っていた彼女が倒れ伏している相手に向かって歩いて行く。
「朱乃は『女王』。『兵士』『僧侶』『騎士』『戦車』全ての特性を持つ最強の副部長よ」
その説明と共に朱乃の手から雷が放たれる。
「ぎゃあああ!!!?」
敵は雷に焼かれ叫びながらのた打ち回る。
「あらあら、まだ叫べるなんて元気そうでよかったですわ」
「ええ…」
そう言うと更に雷撃の威力が増した。
その光景を見てイッセーは若干引く。どこか楽しそうに魔力を扱い敵を蹂躙するその姿はどこか怖かった。
「安心して、朱乃はSよ」
「何も安心できませんが!?怖いっす!」
今日の昼間の弁当の一件。もしあのまま続けていればとんでもない世界に巻き込まれたのかもしれない、そう思うと先ほど感じた感謝の念も吹き飛んでしまう。
このままだと悪魔の世界にも心を閉ざしそうだった。
「大丈夫よ。朱乃は味方には優しいから。貴方の事も気に入っていたわ」
「その気に入っていたはどっちの意味なんですかね…」
既に勝負はついていた。
敵悪魔のバイザーは既に虫の息、立ち上がる力すら残っていないのはどう見ても明らかだった。
それ故かリアスだけでなく木場も子猫も油断していた。
「ッ!」
リアスは自分の背後に何かが迫っているのを、それこそ真後ろに来るまで気が付かなかった。
それは最初に木場が切断した敵の腕だった、最後の力を振り絞ってせめて一矢報いようとしたのだ。
気が付いた時には既に回避どころか防御すら難しい間合い。リアスはとっさに両腕をクロスして守ろうとする。
「うりゃっ!」
『Boost!!』
だが攻撃が当たる前に横から一撃が加えられ彼女への攻撃は逸らされる。彼の左腕に装着された籠手による一撃であっさり吹き飛ばされた。
『…………』
皆がポカンとしていた。
朱乃は攻撃を加えたまま、木場は抜刀しようとしたまま、そして小猫は飛び出す一歩手前で。
「大丈夫っすか?」
そんな中でもイッセーは何でも無さそうな感じて軽く問いかける。
「…ええ、ありがとう…」
リアスは最初は驚いていたがすぐに立ち直ると敵に向かって歩みを進める。
「最後に言い残す事はあるかしら?」
それは最後の死刑宣告。勝者と敗者が決定した瞬間。
「殺せ」
「そう」
それが最後のやり取りだった。
リアスの手からドス黒い魔力が放出される。そしてはぐれ悪魔バイザーはこの世から完全に消滅した。