Vtuberの陰キャとギャルが百合する話   作:二葉ベス

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第16話:青の質問。それまで知らなかったこと

 メガネ。ニューメガネ。マイニューメガネ……!

 きらり光る夕焼けをレンズに反射させて、わたしはドヤ顔を決めた。

 

「……キリッ」

「……スン」

「ギラッ」

「そんな見せびらかさんでいいから」

 

 えー、でもおニューの眼鏡なんだし、ちょっとぐらいキリキリしたって構わないでしょ。だっておニューの眼鏡なんだから。

 という冗談はさておき。いや、わたしギャルの前で冗談言ってたのか? マジ? 殺されかねない。

 すみませんでしたー! という言葉を一旦引っ込めてからわたしは改めて考える。そういえば結局このギャルの名前を知らないんだよなぁ、ってことに。

 流石に失礼、というか。わたしはわたしでそんな名も知らぬ相手にVtuberであることをバラしたわけだ。相手がその気にさせたとは言え、よくも不用心な真似をしたなぁ。

 そんな意味も込めて、わたしはとりあえずすみません、と口にしておくことにした。

 

「なんで謝るのさ」

「いや、その……不愉快極まりないことをしたかなぁ、と」

「全然気にしてないし! むしろあたしの方がごめんって感じ?」

 

 え、どういうこと?

 そりゃあ逃げたわたしを追ったり、強引にお昼休みまで迫ったり、放課後まで無理やり連れて行かれてるけど。特にこのギャルがわたしのことを悪く言ったりすることはなかったはずだ。だから言っている意味がイマイチ理解できなかった。

 

「いやいやいやいや! こっちこそ塩対応しててすみません、っていうか……。その……」

 

 今だ! 今言うしかない! 名前を知らなくてごめんなさいってことを!

 

「……あなたの名前、知らなくて」

「へ?」

「わたし、あなたのリアルネーム、知らないんです……」

「……えぇ」

 

 まぁドン引きしますよね。

 それまで知らなかったっていうか、そもそもクラスの人とか全然関わりないし。関わりがない人の名前なんて覚えているわけがない。例え相手がクラスカーストトップのギャルだったとしても、関わってないんだから名前を覚える理由にはならないのだ。

 

「え、マジ?」

 

 うなずく。

 

「普通クラスの子の名前、全員覚えない?」

「関わりがなかったもので……」

 

 すみませんでした。心の中では「あのギャル」とか「あの人」とか「オキテさん」とかしか言ってなくて。特にあのギャルはないよ。他人行儀がすぎる。これも謝っておこう、心の中で。

 

「それはマジで謝罪案件だわ」

「すみません……」

「あたしのなんてずっと地味って思っててごめんレベルだったし」

 

 それはそれで失礼では?! 実際地味だけども……。

 あー、でもそっか。このギャルはずっとわたしのことを地味地味思ってたのか。なんか、そう考えたらちょっとメンタルが沈んできたかもしれない。

 心配されない程度にへこむとして、いい加減この人のことをちゃんと名前で呼びたい。いつまでもVtuberネームのオキテさんって言うのは身バレにも繋がってしまうし。

 何より自分がVtuberであることを打ち明けた相手だ。相手のことを、これから関わりのある人のことは知っておきたかった。

 

「んー、でも普通に名前教えるのつまんないなー」

「えぇ……」

「あ! じゃあさじゃあさぁ、青原の名前も教えてよ! あたし下の名前知らんし」

「……そんなことでいいんですか?」

 

 そっちもそっちでわたしの下の名前知らなかったんじゃんか、この野郎。

 まぁいいけど。その辺はお互い様、ということで。

 

 11月の風が肌を痛める。そうか、そろそろ冬の季節かぁ。などと思い耽っていると隣りにいたはずのギャルが地面を蹴って、わたしの前に躍り出る。

 ガシャガシャ揺れる背中のスクールバッグとチャームポイントのサイドテールがふわりと遠心力で宙を舞う。夕暮れに沈みゆく太陽が2つになったような錯覚。まるでフラメンコで空を翔ける踊り子のようだ。

 

「んじゃー! 覚えて帰れよー!」

 

 わたしはその名を聞いて、ハッとする。

 もしかして、今までわたしのことを支えてくれた人って……。

 

「赤城、露久沙……さん」

「ん! 赤城露久沙!」

「もしかして、ですけど……。わたしの配信をずっと見ててくれたのって」

「さっ! どーだろうねー!」

 

 でも、そんなのありえるの?

 露久沙を変換して露草。こんな極小コミュニティで珍しい名前なんてこの世に何個も存在するはずもない。そっか。……そっ、かぁ。

 

 今まではギラギラ輝く夏の太陽のように鬱陶しかったのに、今は冬の朝の太陽みたいに心地よくて。

 自分はとんだ都合のいい女だとは思う。でも。だけど。こんな気持ちは生まれて初めてかもしれない。

 

「……ありがとう」

「ん? なんか言ったー?」

「わたしの名前は文佳。青原文佳です!」

 

 優しくて、暖かくて。こんな人に今まで推されていたことに少しだけ誇らしげに思って。

 同時に少しだけ罪悪感が湧き上がった。どうしてわたしだったんだろう、って。

 

 ◇

 

「ただいまー。ふぅ……」

 

 誰もいない部屋に入ると思わず寒くて身震いした。

 すぐさま暖房をつけて、寝間着に着替えてからベッドに潜り込んだ。

 

「どうしてわたしだったんだろうか。ってなんでなんだろうなぁ」

 

 自分の中からこんな感情が浮かび上がるなんて思わなかった。最初、露草さんはとてもいい人で、宣伝までしてくれる完璧なリスナー像があった。きっとこの人はリアルでも気遣いができて、他人にとても親しまれている。そんな立派な人間像がわたしの中で作り上げられていた。

 次に会った赤城さんも、結局いい子だった。ギャルだのなんだのと悪い目線は向けていたかもしれないけど、きっとそんなことはなくて。ネットと変わらない、わたしを気遣ってくれるオタクに優しいギャルそのものだった。

 赤城さんのことをもっと知っていれば、オキテさんのことだってもっと分かっただろうに。

 オキテさんは純粋にV活動を楽しむ赤城さんそのもので。でもこの人のせいで、わたしは少し劣等感を覚えてしまった。

 わたしよりコミュニケーションが上手で、気さくに話しかけられる女の子Vtuber。見れば見るほど、音瑠香と比べてVtuber適正はあるし人気だって実際出ている。もう300人だったっけ、早いなぁ。

 

 だから思う。遠い存在になってしまった露草さんはどうしてわたしなんかを気にしてくれているのか、って。

 これからどう接すのが正しいのか、って。

 

「なんか、自分が情けないな」

 

 どの赤城さんもきっと正しい。接し方に違いを作ってはいけないんだろうけど……。

 自分より優れている相手から施しを受けるのって、恐ろしく怖い。どんな見返りがほしいのかが分からなくて。わたしなんか、何の役に立つんだろう。

 

 その日の夜はこれからが不安だったけど、眠れないことはなかった。

 ずっと赤城さんの事を考えながら、これからどう接していけばいいのだろう。と頭の中で反芻しながら睡魔に落ちていった。

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