Vtuberの陰キャとギャルが百合する話   作:二葉ベス

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第35話:赤の聖夜。愛してるゲームって知ってる?

「チキンうまー!」

「やっぱこの時期は焼き鮭に限る……」

 

:なんか片割れおっさん臭いな

:クリスマスには鮭を食え!!

:やっぱりクリスマスは鮭なんだよなー

 

 え、なんでみんなチキンじゃなくて鮭をやたら推すの? 最近のクリスマスのトレンドってもしかして鮭だったりする? いやいや、そんな話聞いたことないし。でももしかしたら、あたしが知らないだけでひょっとしたら鮭が今のトレンドなのか?!

 

「ねぇ。クリスマスに鮭って、ふつーなの?」

「え? ……えーっと」

 

:困惑しとるww

:これには深い訳と歴史があってじゃの……

:クリスマスには鮭を食べよと古事記にも書かれていたし

:困ってて草

:まぁ困るわな

 

「え、どういうこと?」

 

 もしかして配信上で触れたらいけないやつなのか?

 そうあらぬ考えをしていたところ、隣からトントンと指で肩を突かれる。くすったいなもう。

 とかじゃなくて、音瑠香ちゃんが見せてきたのはとある画像だった。そこに描かれていたのは鮭のような頭にいくらっぽい赤い丸が装飾についている怪人? みたいな画像。その下に書かれている字幕には「クリスマスには鮭を食え!」と書かれていた。

 んん???

 

「え、どういうこと?」

「これが元ネタ」

「…………うん?」

 

:ダメだ、理解してないww

:まぁそうなるわな

:俺も分かんねぇけど、クリスマスには鮭なんだよ!

:説明しろって言われたら俺も困惑する

 

「なんて言えばいいんだろう。元々はそういう創作ネタなんだよ、鮭を食べろっていう」

「へ、へぇー……」

 

 オタクの世界にはたまによく分からない文化がある。

 例え始めると、それこそ膨大な量のネタが上がってくるけど、そのどれもが元ネタを解読してもよく分からない、という結論に陥ってしまう。

 オタクくんたちは何が面白くて、その言葉を呟いているのか。これもそのネタのひとつなんだと思う。

 

 ちなみに配信の後に調べてみたら、クリスマス=鮭、というのは結構一般的にも浸透し始めているらしい。やれ鳥インフルエンザがどうのでチキンの値段が高くなってるから、鮭の方がいいとか、そういう理由作りが広がっていた。

 でもクリスマスには七面鳥。七面鳥がないからフライドチキンを食べるのが一般的なのでは?

 

「じゃ、じゃあ! はい、ゲームの時間です」

「あっ! 無理やり話題戻したなー?」

「じゃあわたしにもチキンください」

「えー、ダメー! クリスマスには鮭なんでしょ?」

 

:インガオホー

:まぁ、そうなるな

:音瑠香! クリスマスには鮭だぞ!

:チキン派に下るな!

:鮭しか勝たん!

 

「うわー、過激派いっぱい」

「でもあたしが舐め回した骨付きチキンとか食べたいの?」

「えっ?」

 

:え

:え?

:エッッッッッッッッッッ

:舐め回した……?

:ん?

 

 ん? なんかやばいこと言ったか、あたし?

 まぁいいか。とりあえず手元に持っていた最後のフライドチキンを持ち上げる。

 

「ここにあるのは最後のチキン。食べかけだけど、それでよかったら?」

「……遠慮します」

 

:間接キスは?

:食べかけは、うーん

:百合営業、なのか?

:ギャルの距離感が分からない

 

 あ、やっぱそっちね。はいはいはい、理解した。

 まぁあたしも食べかけのチキンを食べろって言われたら流石にドン引きするわ。

 むしゃむしゃと最後のチキンを食べながら、事前に用意していたゲームの内容を明かす。と言うのもこの抽選ボックスにランダムに入っている紙の中から、書いてあるゲームをするだけなんだけどね。

 ってことで、ドーン!

 

緑茶レモン:ちゃんとVtuberらしい企画持ってきてて草

:やるやんおきねる

:音瑠香ちゃんのことだからめんどくさがってやらないと思ってた

:さすオキ

:これは朝

 

「フッフッフー! ありがとー! 準備してきてよかったー!」

「わたしだったら多分やらないですからね」

「でしょうな!!」

 

 カサカサーと音を立てて、音だけしか届かない配信に抽選ボックスの存在を明かす。

 紙が擦れる音がちょっとだけ心地良い。でもしばらくしたら煩わしい音に聞こえるようになるんだから、人間の耳っていうのも、よくわからないよね。

 

「どっちからやります?」

「そこは言い出しっぺのあたしから~」

 

 ガサゴソ。紙製の抽選ボックスに手を突っ込んで、この紙にするか。はたまた別のにするか。ということを決めていく。

 内容は2人で合作したものではあるが、お互いにお互いが書いたものは知らない。ミニゲームの範疇なのでどんなのが来てもいいんだけど、あたしが書いたあのゲームだけはちょっとやりたくないなー。

 よし、これにしよう! と、抽選ボックスから1枚紙を引っ張り出す。

 二つ折りに折られた紙を広げると、そこに書いてある内容を音読した。

 

「……愛してるゲーム」

「え?」

 

:おん?!

:愛してるゲーム?!!

:愛してるゲーム!!!

:百合営業だ!!!!

:オキマシタワー!!!!!

:勝ったな。風呂入ってくる

 

「ナ、ナンテモノガハイッテルンダー」

「それあなたが入れたやつじゃないですか!」

 

 そうだ。これはあたしが書いたミニゲームだった。

 愛してるゲーム。お互いの目を見て自分は「愛してる」と愛の言葉を口にする。それで顔を赤らめたり、反応してしまえば愛の言葉を囁いた方の勝ち。反応がなければ、次は相手のターン、と言う訳だ。

 でもまさか、冗談半分で入れた愛してるゲームをこの一番最初に引くなんて、ツイてないのかはたまた配信者としてはツイているのか。

 

「でもこれはあたしが勝ったも同然だよねー!」

「……どうしてですか?」

「音瑠香ちゃん、あんまり目を見て喋ってくれないし」

「うっ!!」

 

:やめてくれ、その言葉は俺にも刺さるぞ

:チクチク言葉やめろ

:それ以上はアウトだぞ

:ライン超え

 

「このゲームは『相手の目を見て』勝負するから、目も合わせられない音瑠香ちゃんにはまず勝負の土俵にも立てないってことだー!」

 

 ってことにしよう。だって、その。

 いま目の前にいるのは音瑠香ちゃんだけど、青原なわけで。そんな……相手に目の前で愛の言葉を囁かれた、最悪あたしの方が負けてしまう。それだけは絶対避けたい。

 

「な、なんですと?」

「はいだからこのゲームはあたしの勝ちってことで!」

 

:草

:八百長

:オキテ!!! 勝負して!!

:音瑠香ちゃん、オキテちゃんにギャフンと言わせよう!

 

「……ギャフン、と」

「それができるかなー?」

 

 頼むから、それ以上音瑠香ちゃんを焚き付けないでほしい。この女、というか意外にも青原はこういう勝負事からは逃げない。こういうことにでもしないと絶対に……。

 

「言わせたい。わたしオキテさんにギャフンって言わせたい!」

 

 ほーら、速攻で堕ちた。

 やらなきゃかー。愛してるゲームに勝たなければ。あたしの好意を出す前に。

 

「ふーん、じゃあやってみればいいじゃん。お互いに腰を持って立てば、あたしの方しか向けないよね?」

「……い、いい度胸ですね。逃げるなら今のうちですよ?」

「逃げるぅー? その言葉をそっくりそのままお返しするよ?」

 

 今からでもいいから逃げてくれないかなー?

 

「逃げません。日頃からオキテさんには振り回されてばかりなので、こんな時でもない限りギャフンと言わせられないので!」

 

:やれー!

:がんばれふたりともー!

:どうせ建つのはキマシタワーだぞ

:てぇてぇ

:ケンカップルてぇてぇ

緑茶レモン:かわいいね、2人とも

 

 目を合わせるのは画面じゃない。生の相手。

 音瑠香ちゃん、もとい青原とまともに顔を合わせたのなんて、いつぶりだろう。意図的に避けていたわけではないけど、顔だけは本当にいいから困る。

 少し半開きだけど、清らかに見つめてくる瞳。通りがいい鼻に、桃色に赤色している小さくぷっくりとした唇。肌だってさっき確認した時にモチモチだったのを覚えている。あの感触よりも唇はそれ以上なんだと物語っているみたいに。

 

 ドクンドクン。ヤバい、緊張してきた。あたしの心臓の音、音瑠香ちゃんに、青原に伝わってないよね?

 相手のことを意識する度に、配信前の会話の内容を思い出す。

 

『自分のママであるにか先生と赤城さんの間に割り込んだわたしを疎ましく思っているということです!』

 

 明らかに筋が通っていない内容でも、それを逆さにしたら意味が通じてしまう。

 音瑠香ちゃんとにか先生が一緒に仲良さそうに話している。それだけであたしは嫉妬してしまうんだ。

 あたしはその感情の正体がなんとなく分かってしまっていた。ちょっと前から。あの日あの時、あたしが青原に対して『かわいい』って口に出せなかった日から。

 でもその結論を出したくなくて。ひょっとしたら特別な感情の行き先は友情の延長線なんだって思って。よくあるんだよ、友だち同士でも自分だけに特別にして欲しいって感情が。

 

 あたしのはそうじゃない。

 かわいいって軽率に言えないぐらい相手のことで胸がいっぱいで、あたしが、あたしらしくないことを永遠悩んで悩んで悩んで。

 そうなったらもう、友だち、だなんてふんわりとした枠組みからは逸脱してしまう。

 

「先手はどうしますか?」

「じゃああたしからー!」

「あ、卑怯ですよ!」

「目を見て」

 

 音瑠香ちゃんの腰に力を入れる。その言葉とチカラに対して彼女はピクリと肩を震わせて、遠慮がちにこちらの目を見る。うつむきながら、上目遣いで。

 この子は自信がなくて、あまりにも情けない地味な子だと思ってた。

 でも本格的に音瑠香ちゃんと出会って、交流を始めてしまい、Vtuberになって、青原を知ってしまった。

 

 もしかしたら、その頃から間違いだったのかもしれない。推しへの好きとあたしの好きは違う。今までのあたしだったら、無遠慮で傲慢で、それでも届かない無償の愛を口にできていた。

 けれど、あたしは知ってしまった。見返りのない愛が、想いがこんなにも辛くて苦しいことに。

 だからVtuberになった。なってしまった。見返りを求めてしまった。

 悪いことなのかは分からない。いいことなのかも知らない。だけど、あたしはとうとう知ってしまった。自分の心の奥にある、今まで成長していた感情を。

 

 心臓の鼓動が早まる。顔が赤くなっていくのを感じる。

 だけど、目だけはしっかり見て、堂々と自分の気持ちにも前を向いて、あたしは口にした。

 

「好きだよ、音瑠香ちゃん」

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