Vtuberの陰キャとギャルが百合する話   作:二葉ベス

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第50話:青の配信。ガチで作っちゃった

 コラボ配信のときはいつだって緊張する。

 なんたってわたしとオキテさんをそういう目で見られるから。

 仲良し2人組の不仲説なんてあまり聞きたくないだろう。だからわたしが出来るだけツッコミを遠慮しつつ、オキテさんに構いつつ。いつもより気を使うけど、安心できるような場所にしたいから。

 

:待機

:待機

 

『音瑠香ちゃん、そろそろだけど準備はいい?』

「はい、ちゃんと冷蔵庫からチョコ持ってきました」

『そうじゃなくて、配信の方なんだけど……』

「そっちは万全です。わたしの方が先輩なんですから」

『分かってるよー! じゃあ、いくよー!』

 

 オープニングの画面がトランジションによって切り替わり、いつものコラボ画面が配信画面に映った。

 

『おきてーーーーー!!! 朝だよーーーー!!! バーチャル目覚ましギャルの朝田世オキテだよ! 今日もよろしくねー!』

 

:朝(夜)

:おはよーーーーーーーー!!!!!

:おはよう!(夜)

:こんばんわー!

:初見ですが、おはようございます!

 

『うぉ、今日は初見さんもいるー! やっほやほー!』

 

:百合配信と聞いて

:オキマシタワーへようこそ

:初見さんだ囲え囲え!

 

『それをする前に、早く音瑠香ちゃんを紹介したいんだけど!』

 

:すまん

:せやったわ

 

『じゃあ音瑠香ちゃんカモーン!』

「え、なんかこの状態で言われるの気まずいんだけど」

 

 初見さんに構っちゃったからこういうちょっと挨拶がずれてしまった感じになってしまい、ソロ配信との違いを感じてしまう。まぁわたしが気まずいだけだからいいんだけども。

 

「えーっと。こんねる。バーチャルいつも眠たい系Vtuberの秋達 音瑠香です。今日も割と眠いです」

 

:こんねるー

:ねるー

:こんねるー!

:ヒャッハー! 新鮮なオキマシタワーだぁ!!!

 

 実際この時間帯はいつも眠い。ご飯を食べたからなのか、それとも別の原因からなのか。

 どちらにせよこうやってキャラ付けできているんだからVtuberとしての印象付けにはぴったりだ。ともあれ眠いんだけど。

 

「というかなんか今日、人多くない?」

『バレンタインデーだからじゃないの?』

 

:推しカプのバレンタインが見たかったので

:俺らにチョコは……?

:推しカプの栄養を吸いたい

:おきねるからしか取れない栄養素はある

:友だちに紹介されてコラボのアーカイブは全部見ました!

 

 優秀か、この初見さん?!

 わたしとしてはとても嬉しい限りだし、ネットワークの向こう側にいるオキテさんだって同じことを考えていると思う。

 こうやってわたしたちのことを熱心に見てくれる人って、貴重だったりするし。

 特にわたしの方となると、それこそ露草さんぐらいしかいない。まぁその人が今のコラボ相手なんだけどさ。

 

「バレンタインかぁ……」

『音瑠香ちゃん。何か言いたげじゃん』

「いや、チョコ作り面倒だったなぁ、って」

 

:草

:草

:これは陰キャ

:根っからの陰キャ助かる

:草

 

 実際面倒くさかったし。

 余ったチョコでトリュフチョコは作ったけど、最後の食器洗いがもう地獄で。

 今後作りたくないとすら思ってしまうぐらいの工程数だったので、来年以降は高いデパートのチョコでお茶を濁してしまうかも。

 

『でもチョコ作ってくれたじゃん』

「……まぁ」

 

:えっ?!

:あっ、ふーん……

:ツンデレおつ

:陰デレですね

:百合営業助かる

 

『ってことでー! 今回は雑談しながらお互いに渡したチョコを食べてもらうって企画だよー!』

 

:やったー!

:やったぜ!!

:ありがとう神よ

:おきねるがすでにチョコを渡しあった後、だった?!

:需要をわかっている

 

 これを提案したのも実はオキテさんからの方なので、わたしは実質何もしてなかったりする。

 サムネを作る時に、専用のイラストを描いたりはしたけどそれっきり。あ、あとチョコも作ったっけか。

 わたしとオキテさんが一緒にキッチンでチョコを作る、みたいなイラスト。描いてて平和そうだなぁ、かわいいなぁこいつら。と考えつつも、中身がわたしらだと考えたら最後だと思って、無心で描いてたよね。

 でも結果的にいいイラストに仕上がったし、ふたりとも笑顔だし。うん、やっぱり音瑠香もオキテさんも、笑ってる方がかわいい。

 

『じゃー! 早速食べちゃおうかなー! 聞こえるー?』

 

 ヘッドホンの向こう側からガサガサという袋と物が擦れ合う音が聞こえる。

 あまり数は多くない。それはそう。だってわたしが作ったチョコは大きなハート型のチョコレートだから。

 型に流すだけだったけど、作っている最中あのギャルに渡すんだ。と考えていたので、意外と表面はガタガタに仕上がってしまった印象だ。

 

:どんなのか気になる!

:見た目は? ハート?

 

『ちょっち待ってねー』

 

 今日はオキテさんのチャンネルの方で配信をしているのだが、どうやら配信画面に写真が載るみたいだ。大丈夫かな、身バレとか。反射とかしないよね? とか考えつつ、お出しされた写真にわたしも度肝を抜くことになる。

 

:映えとる

:インスタか?

:ハート型だ!!

:加工つよつよ勢だったか

 

「な、なにこれ」

『何って。音瑠香ちゃんが作ってくれたハートのチョコじゃん!』

 

 いや分かってるけど、そうじゃないって!

 輪郭をポワポワしたなにかのエフェクトで囲みながら、中心のチョコを目立たせ、他の周りはぼやけさせている。いわゆるインスタ映えするような写真の加工。

 これがギャルの映える加工の仕方、というやつなのか……!

 

「これ、何時間かけたんですか?!」

『ん、加工ならちょちょいっと』

「そのちょちょいっとって、何時間なんですか?!」

 

:ガチ動揺してて草

:陰キャと陽キャの差がこれか

:ワイも分からん

:Vtuberなのにインスタ加工しないのか

 

 加工するしないじゃない。このレベルの加工をしたことがないだけ!

 多分そういうスマホのアプリを使っているんだろうけど、こんなの聞いたことがない。わたし、知りませんこんな加工の仕方!

 

『まーいいじゃん! あとで教えたげっから!』

「ま、まぁ。それなら……」

『じゃー、いただきまーす!』

 

 固まったチョコが小気味いい音でパキっとマイクに入ってくる。

 こんなにいい感じに固めたイメージはなかったけど、冷蔵庫に入れていたのならそこそこ固まっていても不思議ではないか。

 で、味のほどはどうなのだろうか。星守さん曰く、可もなく不可もなしみたいな反応だったけど……。

 

『んん~、美味しい!』

「ホントですか?!」

『うん、甘すぎず、かと言って苦すぎず。ちゃんとあたしのことを考えながら味を調整してくれたのかなーって思ってさ!』

「うっ、まぁ。そうですけど……」

 

:てぇてぇ

:スゥーーーーーーーーーー

:百合の塔が建っちまった

:ありがとう……

:てぇてぇ

:てぇてぇ

 

 まぁ、確かに気を使いましたよ。甘いのが好きだって言うから、とことん甘めにしようかなぁ、とも考えた。でもミルクチョコ自体が元々甘いから、甘すぎてもしつこいだけかな、と思っていろいろ足したりはしたけど……。

 そこまで分かっちゃうんだ。どんだけ普段からチョコ食べてるんだよ。

 

『あれ、照れてる?』

「照れてない」

『照れてるでしょ!』

「照れてないですってば」

 

:あー、おきねる助かる

:オキマシタワー!!!

:てぇてぇ……

:これがリアルおきねるかぁ……助かる

 

 ホント。こういうグイグイ来るところだけは勘弁して欲しい。リアルでも恋人ごっこだなんて事をしてるから、より一層勘違いしてしまう。

 

「そんなことはいいですから! 今度はオキテさんのチョコを食べます!」

『ういー、どーぞー!』

「まず袋から出して、っと……」

 

 実はまだラッピングされた袋から出してはいなかった。

 こういうサプライズは配信の時に新鮮な反応を見せたほうがいいかなぁ、と考えたからだ。

 リボンを解き、中から少し冷たいチョコの質感を感じながら、わたしは中のものを表に出した。

 

「……おう」

 

:どんなの?

:写真はよぉ!

:実況頼む!

 

「これ、いくつか複数のが入ってたりします?」

『うん! みんなに配る分とかの材料も余ったから、それでね!』

「へー……」

 

 じゃあこの星の形とか、ハートの形とかも、きっとわたしのことなんかじゃなくて、みんなのことを考えたときの余りなのかな。

 ちょっとだけ曇った声を振り払うように、わたしはその中にある1つを口にした。

 口の中には市販のミルクチョコの味がしたけど、なんだかわたしが作って試食した時のと比べて、濃度かな。甘さの深みが全然違う気がする。よく言えば上品で、丁寧に裏ごしされたようななめらかな味わい。

 それから囓ってみると、ふんわりとジェルの味が混ざる。これ、本当にオキテさんが作ったんですか?! 店売りとかじゃなくって?!

 

『えへへ、チョコ作りはいっぱいやるからいろんな味を作ってみたんだ! もちろん、音瑠香ちゃんだけの特別製! みんなに作ったのは普通のチョコだから』

「そ、そうですか……」

 

 わたしだけの特別。わたしのためだけに作られたチョコ。

 こんなになめらかで濃厚で上品な味わいにするのは、きっと時間がかかっただろう。

 それを何個も。何個も。形を変えて、わたしの目も楽しませるために……。

 

「……やっぱり、オキテさんはすごいですね」

『え? 何が?』

「わたしなんかよりずっと上手にチョコが作れて。いろんなこと考えながら作ったんだろうなぁ、って思ったらなんだか負けた気がして」

『……そんなこと考えてないし』

「え?」

 

 その瞬間。その時だけ空気がスッと軽くなって。

 ヘッドホンから聞こえる声が傷ついたわたしの頬をそっと指でなぞるような優しいものとして再生された。

 

『音瑠香ちゃんに食べてほしいって思ったから』

「……わたしに?」

『うん。渡したときはそっけなくてごめんね。でもちょっと恥ずかしかったからさ。ガチで作りすぎたかな、って』

 

 ガチで、って。そんなの。そんなのをわたしにくれたんだ。

 他の誰でもない、わたしに。

 

「……そういうところですよ」

『え、なんて? 小声で聞き取れなかった!』

「なんでもない」

 

:アァーーーーーーーーーーーーー

:あらぁ~

:スゥーーーーーーーーーー

:てぇてぇ

:てぇてぇ

:てぇてぇ

:仰げば尊死

 

 やばい。ホント。本気で勘違いしそうになっちゃう。

 わたしとオキテさんは、赤城さんは百合営業。そう百合営業なんだってば!!

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