Vtuberの陰キャとギャルが百合する話   作:二葉ベス

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第72話:青の結論。夢心地な1周年記念

 配信を無理やり終わらせて。それから数分が経過した。

 お互いに羞恥状態というか、わたしも勢いに任せて配信での公開告白とかしちゃったし、赤城さんも慣れないわたしからの言葉を受け止めてしまって、照れている状態だった。

 

 今まで、本音を口にする機会がなかったけれど、こうして口にして、言葉にしてやっとわかった。

 実際、今もまだ恋愛としての好きは分からない。けど、赤城さんがわたしに向けているものを理解して、なんとなく自分と通じるものがあるのなら、それが愛情何だと思ったんだ。

 

 好意なんて基本曖昧なものだ。

 ガチ恋勢なんて呼ばれる人は、大体自分が好きだから相手も好きになってほしいとワガママな活動ばかりをして、結果好きな相手が迷惑を被ってしまう。

 わたしは露草さんがそうだとは思ってなかったけれど、結果としてみたらガチ恋勢だった。

 彼らと決定的に違うのは、関係の作り方が上手だったからに他ならない。

 やっぱりギャルだから距離感の図り方がわたしなんかより、ずっと上手だ。わたしにもそういう優しさがあれば。そう思っていたけれど、仮にできたとしても心労が祟ってしまうので、自分でもオススメできなさそうだ。

 

 ともかく。わたしは多分赤城さんが好きだ。

 それを確かめるためにも、今日から恋人として付き合ってみたい。

 

「あの……」

「……ん? な、なに?」

 

 お互いにまだ照れはある。

 でも先に告白した方がそんなに照れないでほしい。わたしも気まずいから。

 

「その。両想いになったから、ごっこは外しても、いいんですよね?」

「……ま、まぁ。そうだけど」

 

 それって恋人ですよね、と口をすぼみ過ぎて言葉を詰まらせていたところ、赤城さんから早口でまくし立てるような確認が入った。

 

「あ、あれはさ! 百合営業的なパフォーマンスってことでいいんだよね?! ほら、青原ってそういうエンタメ強いし、百合営業的にはそっちの方が盛り上がるっていうか! す、素直じゃないし!」

 

 そ、それマジで言ってるのかおい。

 わたしが結構本気で、真面目に口にしたことを取り下げさせないでくださいよ!

 パフォーマンスとしては確かに成功している。だけど、そうじゃない。わたしは本気の本気。マジだったんだから。

 

「そんな、ひねくれたこと言わないでください……。本百合だったんですけど……」

 

 自分でもわかってる。わたしが素直じゃないってことぐらい。

 でもこういう土壇場というか、記念配信で嘘をつくなんてことはしない。

 今更そっちがひねくれたって、もう遅いんですから。

 

「あ、あはは……。そっか。マジか。マジであたしのこと好きなんだ……っ」

「そうですよ! だから……ひゃっ!」

 

 肯定しようとしたその瞬間だった。

 座っていたわたしに対して、赤城さんはわたしの腕を思いっきり引っ張った。

 もちろん体勢を崩したわたしは、そのまま彼女の胸の中へとダイブすることになってしまった。

 衝撃はいつも大きいな、とムッツリしていた彼女の胸で緩和。赤城さんの熱とか、鼓動とか。そういうの諸々を全部味わってしまった。

 

「あ、あのっ!」

「あー、ヤバ。マジ好き。青原大好き。好きすぎて心臓破裂しそう!」

「いま破裂したら、わたし血まみれになっちゃいますけど」

「それシャレにならねー! あはははは!!」

 

 その割には心臓のドキドキが耳元でドンドンしてるんですが。

 でもわたしも赤城さんの想いとか、心臓の音を聞いてたら、お腹の奥底から熱がじわりじわりと全身に伝わってくる感じがする。

 ……これ、この体勢。すごく好きかも。

 赤城さんに抱きかかえられて、わたしはなんか冗談ばっかり言うんだ。素直じゃないことを。で、それを赤城さんがウケるー! とか笑えるわー! とか言っちゃうの。

 それだけでときめく、っていうか。すごく安心できる。

 

「ねぇ」

「はい?」

「本気で、あたしの彼女になってくれるん?」

「当たり前じゃないですか。じゃなかったら公開告白なんてしません」

「……そっか」

 

 ちょっと意外だった。

 赤城さんって誰からも好きになってもらえると思っているから、本気で好きな人とかもさくっと信じるもんだと思ってたから。

 意外だけど、その面倒臭ささも今はちょっとだけ愛おしい。

 

「なんか、らしいですね」

「何が?」

「両想いになったらなったで、疑り深くなるの」

「……うるさい」

「むふっ!」

 

 冗談で言った反撃のせいで胸の中に顔を沈める刑に処されてしまった。おぉ、苦しい苦しい。

 背中を叩いて、ギブアップの合図を出すと、彼女はようやくわたしを解放してくれた。柔らかかったなぁ……。

 

「向き合ったら向き合ったで、なんかマジで恥ずいわ……」

「あはは。確かにそうですね」

 

 沈黙も1つの愛情表現なのかな? 今までとは別の意味で、赤城さんと目線を合わせられなさそう。

 あ、そうだ。もう1つ赤城さんには言わなきゃいけないことがあったんだった。

 わたしは改めて姿勢を正し、赤城さんに向き合う。彼女も何か別の気配を察知したように、向き直ってくれた。

 

「えっとですね。わたしも今回の件で、赤城さんが無茶するタイプだと分かりました」

「あー、1周年記念だったしねー」

「でも睡眠不足は尋常じゃなさそうでしたし。だから罰と言うか、なんというか……」

 

 これは告白がどうこう、とかよりも前に推しと推されるVtuberとしてきちっとした距離感を定めたかった。

 確かにPCを用意してくれたり、一緒にコンビとして活動できたことは嬉しい。

 でもそれと懐事情はぜんぜん違う。無理してまでわたしに合わせないでほしかった。

 だから、その。予防線というか。もっと愛情を与えたら、無理しないでくれるかなー、という名目でわたしは口にした。

 

「わたしのこと、下の名前で呼んでくれませんか? わたしも赤城さんのこと、その……。露久沙さんって呼ぶので……」

「……っ! そ、それって罰じゃなくねっ?!」

「もっと恋人らしくしたら無理しないでくれるかな、って」

「マジで……っ。青原って時々マジで破壊力高いよね」

「文佳……」

 

 あ、露久沙さんが苦い顔した。

 ダメです、そんな顔しても。ジトっと睨むと、観念したかのようにため息を吐き出して、わたしの手と自分の手をそっと重ねた。

 

「……文佳」

「っ……。ホントに、破壊力高いですね、これ……」

「文佳」

「いや、ホントに……」

「文佳ぁ~!」

「調子に乗らないでくださいよ、露久沙さん!」

 

 あはは、とそんなにわたしの言ったことが面白かったのか、盛大に笑った。

 もう。ホント、言わなきゃよかったかも。わたしの方が持たない気がする。

 

「好きだよ、文佳!」

「くっ! これっきりですからね、無茶しないのは!!」

「分かってるってー! 文佳ー!」

「ホントに分かってるんですかぁ?!」

「じゃあ、あたしからももう一声欲しいなー、って」

 

 そう言って彼女はゆっくりと人差し指を自分の口元へと運んだ。

 指差す位置は、人がもっとも愛情表現を行う場所だ。

 それって、キ、キス。してほしいって、ことですよね……。

 流石のわたしも分かってる。で、でも無茶しないって約束したいし……。何よりわたしが、ちょっとしてみたい。

 

「わ、分かりました」

「うん、ありがとね!」

「……好きな、相手だからですよ」

 

 再びわたしの手と露久沙さんの手が重なる。

 お互いに前のめりになるように顔を近づけていく。

 今まで見てきた顔のはずなのに、今からこの人とキスするんだって思ったら別物みたいに見えてきて、口から心臓が吐き出しそうなぐらい緊張してきた。

 

「やっぱ顔いいね」

「なんですか、面食い」

「褒めてるの。素直に受け取ってよ」

 

 吐息が重なる。もう彼女の顔は目と鼻の先だった。

 視線が唇に吸い寄せられる。あぁ、なんか変な気分。

 さっきまで、数ヶ月前までは赤の他人だったのに。

 

 今は手を重ねても、こんなに顔を近づけても、許してしまう相手になってしまうなんて。

 露久沙さんのまぶたがゆっくりと落ちる。

 キスなんて初めてだけど、こうやって夢に落ちていく感覚なのかな。

 わたしもただ身に任せて、視界を閉じた。

 

 やがて、唇に柔らかな愛情が口づけされた。

 

「……。しちゃいましたね」

「あはは……。どーすか、あたしのファーストキス」

「……ごちそうさまでした」

「えへへ、お粗末様でした」

 

 もう何もかも夢みたいで。

 でも夢じゃなくて。

 

 きっと今日はずっと夢心地のまま寝てしまって、翌朝露久沙さんと顔を合わせた時に真っ赤になるんだろうな。

 あまりにも読める。陰キャにだってそのぐらいの未来は丸見えだ。

 でも。忘れられない1日になるんだろうな。

 

 配信を終えた真っ暗な画面の前で、わたしはそんなことを考えるのであった。




なんと言いますか。次でエピローグです
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