「あ、あり得ない。あり得ないのですよ。まさか話を聞いてもらうために小一時間も消費してしまうとは。学級崩壊とはきっとこのような状況を言うに違いないのデス。というか、ルフレさんはどうして止めてくれなかったのですか!? 貴方は三人と違って真面目な優等生タイプの人だと思っていたのに!」
約一時間を消費して、ようやく三人から解放された黒ウサギは岸辺に座り込みそんなことを言った。どうやら彼女の中では十六夜、飛鳥、耀の三人が問題児でルフレが優等生という何故か学校の生徒によくいるタイプに分けられているようだ。だとしたら黒ウサギは教師の立ち位置だろうか?
何故基準が学校になっているのか、と、こんなに情けない教師はいないだろうとルフレは思ったがあえて言わない。
前者を述べれば、黒ウサギの言葉しだいで再び問題児三人の餌食となって時間を消費する。後者を述べれば黒ウサギにとどめを刺し時間を消費する、もしかしたら前者よりも長いかもしれない。
ルフレとしては早いところこの世界についての情報が欲しいため、聞かれたことを率直に答えるのが得策だろう。
「まぁ止めようとは思ったんだけど、なんだか話を聞いてもらえそうな雰囲気じゃなかったし、手荒なことはできるだけしたくないからね」
その点については黒ウサギも納得がいった。耳を引っ張られながらもなんとか話を聞いてもらおうと声を掛けたが三人はそれが聞こえていなかったのか、それとも意図的にスルーしていたのか――恐らく後者だろうが――わからないが、全く聞いていなかった。だから話しかけても無駄だと判断したのだろう。
手荒なことはしたくないというのも本当だろう。先ほど放った雷球は演出こそ派手であったがその実雷球は思ったより小さく、威力もそんなに高い物ではなかった。それが
ルフレがこの中で唯一問題児でないことを再確認すると、黒ウサギは気を取り直し、一つ咳払いをして語り出した。
「それではいいですか、御四人様。定例文で言いますよ? 言いますよ? さあ、言います! ようこそ、"箱庭の世界"へ! 我々は御四人様にギフトを与えられた者達だけが参加できる『ギフトゲーム』への参加権をプレゼントさせていただこうかと召喚いたしました!」
「ギフトゲーム?」
「そうです! 既に気づいていらっしゃるでしょうが、御四人様は皆、普通の人間ではございません! その得意な力は様々な修羅神仏から、悪魔から、精霊から、星から与えられた恩恵でございます。『ギフトゲーム』はその"恩恵"を用いて競い合う為のゲーム。そしてこの箱庭の世界は強大な力を持つギフト保有者がオモシロオカシク生活できる為に作られたステージなのでございますよ!」
両手を広げて箱庭をアピールする黒ウサギ。そんな彼女に質問をするために飛鳥は挙手をした。
「まず初歩的な質問からしていい? 貴方の言う"我々"とは貴女を含めた誰かなの?」
「YES! 異世界から呼び出されたギフト保持者は箱庭で生活するにあたって数多とある"コミュニティ"かに必ず属していただきます♪」
「嫌だね」
「属していただきます! そして『ギフトゲーム』の勝者はゲームの"
十六夜の否定の言葉を受け付けず、そのまま強引に話を進める黒ウサギ。と、今度は燿が手を上げて質問を投げかけた。
「……。"主催者"って誰?」
「様々ですね。暇を持て余した修羅神仏が人を試すための試練と称して開催されるゲームもあれば、コミュニティの力を誇示するために独自開催するグループもございます。特徴として、前者は自由参加が多いですが"主催者"が修羅神仏なだけあって凶悪かつ難解なものが多く、命の危険もあるでしょう。しかし見返りは大きいです。"主催者"次第ですが、新たな"
「後者は結構俗物ね・・・・・・チップには何を?」
「それも様々ですね。金品・土地・利権・名誉・人間・・・・・・そしてギフトを賭けあうことも可能です。新たな才能を他人から奪えばより高度なギフトゲームに挑む事も可能でしょう。ただし、ギフトを賭けた戦いに負ければ当然―――ご自身の才能も失われるのであしからず」
愛嬌たっぷりの笑顔を見せるが、そこには黒い影が宿っている。
挑発ともとれるその笑顔に、同じく黒ウサギを挑発するような声音で飛鳥が問う。
「そう。なら最後にもう一つだけ質問させてもらっていいかしら?」
「どうぞどうぞ♪」
「ゲームそのものはどうやったら始められるの?」
「コミュニティ同士のゲームを除けば、それぞれの期日内に登録していただければOK! 商店街でも商店が小規模のゲームを開催しているのでよかったら参加していってくださいな」
「・・・・・・つまり『ギフトゲーム』とはこの世界の法そのもの、と考えてもいいのかしら?」
お? と驚く黒ウサギ。どうやらこんなに早く箱庭のシステムを理解するとは思わなかったのだろう。だがルフレに言わせればその考えでは箱庭には強者しか住めない。金品による物々交換、窃盗なんかの犯罪行為、これらが全てギフトゲームで許されてしまっては、箱庭は今頃強力な犯罪者たちがそこら中をうろつく無法地帯となっている。
ギフトゲームはあくまでシステムの一つであり、基本的な法律と品物のやりとりは自分のいた、そして他の三人の世界とほとんど変わらないだろう、というのがルフレの考えだ。
「ふふん? 中々鋭いですね。しかしそれは八割正解の二割間違いです。我々の世界でも強盗や窃盗は禁止ですし、金品による物々交換も存在します。ギフトを用いた犯罪などもってのほか! そんな不逞な輩は
その言葉を聞いて自分の考えがあまりにも的確であったため思わず小さく笑ってしまった。
「どうしました?」
「いや、考えが見事に的中したなと思っただけさ。アスカの言う通り『ギフトゲーム』がそのまま箱庭の法になってしまってはここは手の付けられない無法地帯だ。そうしないためにも、犯罪は犯罪として区別されているとすぐに考えてね」
「どうやらルフレさんはたいへん頭が切れるようですね」
「まぁね。考えついでにもう一つの考えの答え合わせもいいかな? ――――黒ウサギ、君のコミュニティは今、そんなにいい状況ではないだろう?」
ルフレの言葉を聞いた瞬間、先ほどまで見せいていた自分たちを挑発するような笑みが黒ウサギから消えた。さすがにこんなことを言われるとは思っていなかったのだろう。
ここですぐに何を言っているのか等と返せばそれで終わるのだが、それが言えないということはルフレの言ったことは当たっていると言っているのと同じだ。
「行動と言動を観察していれば矛盾点や奇妙な点はいくつか見つけられるよ。君は茂みから出てきた時に僕らを値踏みでもするような視線で見ていたよね? 最初はここでやっていけるのかどうかを調べるためかと思ったけど、君が言ったように箱庭の世界でオモシロオカシク生活するだけならそんな事する必要はない。僕らのことを値踏みしていた、それって僕らが使えるかどうかを判断するためだよね?」
黒ウサギの顔が引き
自分のコミュニティのことなど一言も言っていないのに今の説明と最初の行動、それらを少しも見逃すことなく観察し、幾つもの可能性と仮定から推測して矛盾点を見つけ出す。
ルフレが見つけ出したの矛盾点は一つだけではない、さらに奇妙だと思った点を挙げていき、推測を述べていく。
「それにイザヨイの否定の言葉に過剰とも取れる反応を見せた、これも奇妙と言えば奇妙だ。彼らが話をまともに聞いてくれないと言うのは君もわかっているはずだ、なら軽く流すのが普通なんじゃないかな? もっとも、これは彼らが居るからわかったことだけどね。イザヨイの否定を受け流さなかったのって、僕らが役に立つもしくは力があるから絶対に迎え入れたいからじゃないかな? 本当は箱庭の世界での生活を満喫してもらうために僕らをここに呼んだわけじゃない、増強要員として箱庭に呼んだ。違うかい?」
この青年に頭で勝つのは不可能だ。例えどれだけ上手く嘘を言えたとしても絶対にこの青年に見破られる、ならば素直に話して信頼を与えた方がいいだろうと考え、黒ウサギは自分達のコミュニティについて話すことにした。
「確かにその通りです。頭が切れる方だとは分かっていましたが、まさかここまで頭が回る方だったとは、ルフレさんのような方は箱庭でも数えるくらいしかいないでしょう」
「頭が回らなけなければ軍師は務まらないからね」
「いいでしょう。精々オモシロオカシク聞こえるように我々コミュニティの惨状を説明しましょう」
先ほどとは打って変わって黒ウサギの表情が真剣なものとなる。その雰囲気に押され、互いに挑発的だった問題児たちの表情も真剣になる。
黒ウサギから語られた話の内容は悲惨としか表現できないものだった。
まず、黒ウサギのコミュニティには名前がない。どんなものにも名前は必要だ、名前が無ければコミュニティが何なのかを明確に示すことができないということだ。
そしてコミュニティの誇りである旗印がない。旗印はコミュニティのテリトリーを示すいわば信頼を形に表した物だ。それがないということは、信頼が無い、信頼できないというのとほぼ同じ、名と旗印を奪われたことにより黒ウサギ達のコミュニティは大打撃を受ける。
さらに追い打ちをかけるようにコミュニティの中核を成す仲間達も連れ去られた、これがとどめの一撃となり、コミュニティは衰退の一途を辿って行った。
黒ウサギ達のコミュニティをここまで追いやったのは箱庭の天災と呼ばれる存在―――魔王。
魔王が略奪の限りをつくし、奪えるだけの物を奪って行き、後に残したのは自分の力を見せつけでもするかのような癒えない爪痕、それは今でもコミュニティ"ノーネーム"に残っているという。
「やっぱりどこの世界にもそういう存在はいるもんだね。また天災と戦う事になるのかぁ。でも、まぁいいか。僕は黒ウサギのコミュニティに入らせてもらうよ」
「えっ!? よろしいのですか!?」
「うん、経験者が居た方が戦いも幾分か楽になるだろうしね」
何気なく言った言葉だが、十六夜はルフレの"経験者"という言葉に食いついた。
「経験者ってことはルフレは魔王と戦ったことがあるってことか?」
「魔王よりもっと厄介な相手とならあるけどね」
「おいおい、今の話を聞く限り魔王よりもっと厄介なやつなんて想像すらできねぇぞ。どんだけ面白れぇ世界にいたんだよ」
「はは、君の考えが少し羨ましいよ」
十六夜の言葉に含まれているのは純粋な好奇心のみ、そんな感情が少し羨ましいとも思ったが実際にアレを見ればその好奇心も一瞬のうちに消え去るだろう。
その存在のことについて話たら皆はどうなるだろうか? 絶えず興味を持ち続けるか、恐怖するか。ソレがいなくなった言ったらどうなるだろうか? ガッカリするのか、安堵するのか。どちらにしろ話さない方がいいと思い、言葉を濁すだけでルフレは災厄の化身である存在について説明はしなかった
「それで、三人はどうするんだい? 黒ウサギの話を聞く限りじゃ僕たちの所属するコミュニティは御世辞にもいい暮らしができるとはいえないけど」
「俺は手伝うぜ、魔王なんて面白そうじゃねぇか」
「そうね、確かに面白そうね。それに魔王を倒すなんてちょっとカッコイイじゃない」
「・・・・・・別にどっちでも」
皆の意志を確認すると、ルフレは黒ウサギの方に振り向き「みたいだよ」と聞いた。後は黒ウサギの判断だが、もはや聞くまでもないだろう。
「み、みなさん・・・・。ありがとうございます! それでは、さっそく箱庭の世界へ参りましょう!」
「待てよ。まだ俺が質問してしてないだろ」
意気揚々と巨大な天幕の方へ歩き出そうとする黒ウサギを、十六夜は止めた。今更なにを聞くつもりなのだろうか? ギフトゲームについては説明を受けたし、コミュニティがどういう状況に置かれているのかも聞いた。
やっぱり手伝うのを止める、とでも言い出すんじゃないかと黒ウサギは一瞬不安になるが、その不安は杞憂だった。
「今更聞く必要もないと思うが、この世界は・・・・・・・・面白いか?」
本当に今更である。箱庭には人が、悪魔が、精霊が、修羅神仏がいるのだ。いるのかどうか分からない存在が居るというだけで心が躍る。そしてそれらの中でも強い部類に入る超常の存在、魔王がいるのだ。それらとギフトゲームという勝負をする、面白くないはずがない。
「YES。『ギフトゲーム』は人を越えた者達だけが参加できる神魔の遊戯。箱庭の世界は外界より格段に面白いと、黒ウサギは保証します♪」