「な、なんであの時間に"フォレス・ガロ"のリーダーと接触してしかも喧嘩を売る状況になったのですか!?」「しかもゲームの日取りは明日!?」「それも敵のテリトリー内で戦うなんて!」「準備している時間もお金もありません!」「一体どういう心算があってのことです!」「聞いているのですか四人とも!!」
「「「ムシャクシャしてやった。今は反省している」」」
「間違ったことはしてないと思ってる。だから反省してない」
「黙らっしゃい!!!」
黒ウサギによる嵐のような説教と質問に対してルフレを除く三人は、まるで口裏を合わせていたかのような言い訳をする。ルフレに至っては反省もしておらず、挙句の果てには自分達の行動が間違っていないとも言う始末だ。真面目である分こういった所では問題児よりも扱いにくい。
四人の言葉に激怒する黒ウサギをニヤニヤと笑っていた十六夜が止める。
「別にいいじゃねえか。見境なく選んで喧嘩を売ったわけじゃないんだから許してやれよ」
「い、十六夜さんは面白ければいいと思っているかもしれませんけど、このゲームで得られるものは自己満足だけなんですよ? この"
黒ウサギの見せた"契約書類"は"
「"参加者が勝利した場合、主催者は参加者の言及する全ての罪を認め、箱庭の法の下で正しい裁きを受けた後、コミュニティを解散する"―――まあ確かに自己満足だ。時間をかければ立証できるものを、わざわざ取り逃がすリスクを背負ってまで短縮させるんだからな」
ちなみにルフレ達のチップは"罪を黙認する"というものだ。それは今回に限りというわけはなく、今後一切口外しないという意味である。
「でも、時間さえかければ、彼らの罪は必ず暴かれます。だって肝心の子供達は・・・・・・その、」
黒ウサギが言い淀む。彼女も"フォレス・ガロ"の悪評は聞いていたが、まさか殺人までするほど酷い状態になっているとは思っていなかったのだろう。
「そう、人質はもう既にこの世にいない。やつらが裏でやっていたことを攻めたてれば必ず証拠は出る。でも、黒ウサギはそれで納得できるのかい?」
「それは・・・・・・」
言葉を濁す黒ウサギ、彼女だってそれでは納得ができない。だが行動を起こすことができないのだ。
黒ウサギもかつての魔王による略奪で仲間が自分の前から姿を消す辛さを知っている、だからガルドの話しには黙っていられない。だが彼女の立場や責任といった諸々のことを踏まえた上で今のような行動に出るのは責任放棄に他ならない。リーダーではなくとも崖っぷちに立たされたノーネームを一番支えているのは黒ウサギなのだから。
「確かに時間をかけてガルドを追い詰めるのも間違った選択じゃない、立場や責任を考えた行動としてはもっとも正しく賢い選択だ。でも、必ずしも正しい=良いという方式が成り立つわけじゃない。この場合、
ルフレは軍師だ。戦場で何度も"正しい選択"と"良い選択"の二択を迫られていた、だが戦争というのは無情な物で、どちらを取っても喜ぶ人と涙を流す人がいる。そんな人達を彼は何人も見てきた。だから彼は選択肢のどちらかに隠れた"最善"となる選択肢を見つけ出さねばならないのだ。
笑顔の裏には必ずその犠牲になった人がいる。だが今回の場合は違う、天秤に掛けられた二つの選択肢に最善という物はなく"正"と"良"がそのまま答えに繋がるのだ。だからルフレは人として取るべき行動として"良"の選択肢を取った。幾つもの場面で数えるのが馬鹿らしくなってくるほど選択を迫られたからこそ、迷うことなく選択できたのだ。―――感情的になった点は除いておこう。
「はぁ~・・・・・・。仕方がない人達です。まあいいデス。腹立たしいのは黒ウサギも同じですし。"フォレス・ガロ"程度なら十六夜さんが一人いれば楽勝でしょう」
「何言ってんだよ。俺は参加しねえよ?」
「当り前よ。貴方なんて参加させないわ」
フン、と鼻を鳴らす二人。黒ウサギは慌てて二人に食ってかかる。
「だ、駄目ですよ! 御二人はコミュニティの仲間なんですからちゃんと協力しないと」
「そういうことじゃねえよ黒ウサギ。いいか?この喧嘩は、コイツらが売った。そしてやつらが買った。なのに俺が手を出すのは無粋だって言ってるんだよ」
「あら、分かっているじゃない」
「・・・・・・。ああもう、好きにしてください」
丸一日振り回され続けて疲弊した黒ウサギはもう言い返す気力も残っていない。
犠牲になった人達には悪いが、どうせノーネームが失う物はなにも無いゲーム、もうどうにでもなればいいと呟いて肩を落とすのだった。
◇◆◇◆ ◆◇◆◇
ギフトゲームが明日に行われるため、ルフレ達五人は"サウザンドアイズ"という箱庭の超巨大商業コミュニティで自分達のギフト鑑定をすることとなった。近くに商店があるということでさっそくその店へ向かう。
道中、飛鳥がカフェテラスでの一件をルフレに聞いた。
「そう言えばルフレ君、さっきにカフェテラスのことそろそろ教えてくれる?」
「ああ、そうだね。あそこまで感情的になったのは僕も二児の父親だからなんだ。そしてその子達がどんな辛さを味わってきたのかも知ってる」
「そこまでは分かったけど、あの口ぶりだとその子達は亡くなったように聞こえたけど」
「いや、子供達は今も元気だよ。二人目の子供が生まれてすぐに僕と妻は死んじゃったようだけど」
ここまで聞けば誰でも気づくだろう。じゃあ今目の前にいるルフレは何なのだと。
「それじゃあ私達の目の前にいるルフレ君は何者なの?」
「・・・・・・幽霊?」
「僕は僕だよ。ちゃんと生きてる」
「じゃあどうして貴方は死んだ後の子供達の事を知ってるのよ」
ルフレの言っていることは明らかに矛盾している。彼は二人目の子供が生まれてすぐに死んだ、なのに自分が死んだ後の子供の事を知っている。
未来の子供に直接話しを聞く、つまりタイムトラベルでもしなければ説明がつかない内容なのだ。
「う~ん・・・・・・タイムトラベル、といって信じてもらえる?」
「「「「タイムトラベル!?」」」」
それしか知る術がないとは思っていたが、まさか本当に時を渡ったなんて思ってもいなかった。異世界に来たのだから時を渡ったことに驚くのも今更のような気がするがそれでも驚かずにはいられない。
箱庭でも時間関係のギフトはとても強力で希少なため、黒ウサギも驚愕する。
「まあ子供達のことはわかったわ。その後に言ってたリーダーがどうとか言うのは?」
「それについてはそのままとしか言いようがないね。僕の世界では様々な国の間で戦争が起きていたんだ。僕も一国の軍師として軍の一員となっていてね、その軍のリーダーが僕の親友であり、国の王だったんだ。その王は人間としてとてもできた人で、地位とか名誉なんて関係なく皆が悲しまないような国を望んで努力していた。そんな彼とあんな奴が同じ所に立っているのが許せなかったんだ」
ルフレは皆が思っている以上の壮絶な世界で様々な局面に立ち合い、二度と味わうことのできない経験を積んできた。
自分が使えるギフトは他の三人のように与えられた物とは違い、努力さえすれば誰でも手に入れることができる、その点ではルフレは他三人と比べれば一番弱い。だが本当の実力で言えば努力のみで才能を磨き上げ、様々な経験と培ってきたルフレは他の三人より格段に強いと言えるだろう。幾多もの戦争で他の命を己の知識と力で守り抜いてきたのだから。
そんなことを話している内に店に着いた。商店の旗には、蒼い生地に互いが向かい合う二人の女神像が記されている。あれが"サウザンドアイズ"の旗なのだろう。
日が暮れて看板を下げる割烹着の女性、黒ウサギは滑り込みでストップを、
「まっ」
「待った無しです御客様。うちは時間外営業はやっていません」
かける事も出来なかった。黒ウサギは悔しそうに店員を睨みつけるが、流石は超大手の商業コミュニティといったところだろうか、押し入る客の拒み方にも隙が一切ない。今回の場合は時間ぎりぎりに来る自分達に否があるため、文句は言えないが。
「なんて商売っ気の無い店なのかしら」
「ま、全くです! 閉店時間の五分前に客を締め出すなんて!」
「閉店数分前に閉店準備をするのは店側の常識だと思うけど・・・・・・」
しかしルフレの呟きは黒ウサギには届いておらず、黒ウサギはそのままキャーキャーと喚く。性質の悪い客に対して女性店員は冷めたような眼を向けるだけである。
(もしかして黒ウサギもこう言った点では問題児?)
ルフレの中で黒ウサギの評価が若干変わりつつある時、突如ルフレの横を猛スピードで何かが通り過ぎた。そして飛来物はそのまま黒ウサギに激突して街道の向こうにある浅い水路まで吹き飛んで行った。
何事かと水路の方を見ると、飛来物によって吹き飛ばされた黒ウサギの胸に飛来物の正体である着物風の服を着た真っ白い髪の少女が顔を埋めてなすり付けている奇妙な光景が広がっていた。
「何あれ?」
その奇妙な光景に首を傾げていると、黒ウサギが少女を無理やり引き剥がし、頭を掴んで店に向かって投げつける。
縦回転をして飛んで来る少女が落ちてくる丁度その位置には十六夜がおり、彼はそのまま飛んできた少女を足で受け止めた。
「てい」
「ゴバァ! お、おんし、飛んできた初対面の美少女を足で受け止めるとは何様だ!」
「十六夜様だぜ。以後よろしく和装ロリ」
ヤハハと笑いながら自己紹介をする十六夜。
一連の流れの中で呆気にとられていた飛鳥は、思い出したように少女に話しかける。
「貴方はこの店の人?」
「おお、そうだとも。この"サウザンドアイズ"の幹部様で白夜叉様だよご令嬢。仕事の依頼ならおんしのその年齢のわりに発育がいい胸をワンタッチ生揉みで引き受けるぞ」
「自己紹介もいいけど、いつまでも濡れたままだと風邪ひくよ」
そう言ってルフレは白夜叉の頭にタオルを被せわしゃわしゃと少し乱暴に白夜叉の髪の毛を拭く。二児の父親であるためか、子供の扱いには慣れているようだ。
「こ、こら! もう少し優しくせんか! それに、この程度で風邪など引かんわ」
「ははっ、それはごめん。でも、この世に絶対なんてないんだ。些細な事でも気にしておいた方がいいよ。・・・・・・可愛い"星霊"さん」
ルフレの囁きを聞いた白夜叉は驚きで目を剥く。まさか一目見ただけで自分の正体を看破されるとは思ってもいなかったのだろう。
心中を探ってみようと顔を見るがルフレはニコニコと笑っているだけだ。いや、そもそも目的など無いのかもしれない。ただ気づいたから言ってみたというだけのことかも。
「はい、終わったよ。黒ウサギも水分を拭き取っとかないと風邪引くよ」
そう言って持っていたタオルを黒ウサギに渡し、そのタオルを貸してくれた女性店員に頭を下げてお礼を言った。どうやら白夜叉がルフレについて考えている内にびしょ濡れになった体は拭き終わったようだ。
ルフレについては特に深く考えず、店先で十六夜達を見回してニヤリと笑った。
「ふふん。お前達が黒ウサギの新しい同士か。異世界の人間が私の元に来たという事は・・・・・・遂に黒ウサギが私のペットに」
「なりません! どういう起承転結があってそんなことになるんですか!」
ウサ耳を逆立てて怒る黒ウサギどこまで本気かわからない白夜叉は笑って店に招く。
「まあいい話しがあるなら店内で聞こう」
「よろしいのですか? 彼らは旗も持たない"ノーネーム"のはず。規定では」
「"ノーネーム"だと分かっていながら名を尋ねる、性悪店員に対する詫びだ。身元は私が保障するし、ボスに睨まれても私が責任を取る。いいから入れてやれ」
む、っと拗ねるような顔をする女性店員。彼女にしてみればルールを守っただけなのだから気を悪くするのは仕方がない事だろう。店のオーナーである白夜叉が最初に入り、最後にルフレが女性店員から借りたタオルを返し「すいません」と一言添えてから暖簾をくぐった。
「生憎と店は閉めてしまったのでな。私の私室で勘弁してくれ」
五人と一匹は和風の中庭を進み、縁側で足を止める。
障子を開けて招かれた場所は香の様な物が焚かれており、風邪と共に四人の鼻をくすぐる。
個室というにはやや広い和室の上座に腰を下ろした白夜叉は、大きく背伸びをしてから一行に向きなおる。
「もう一度自己紹介しておこうかの。私は四桁の門、三三四五外門に本拠を構えている"サウザンドアイズ"幹部の白夜叉だ。この黒ウサギとは少々縁があってな。コミュニティが崩壊してからもちょくちょく手を貸してやっている器の大きな美少女と認識しておいてくれ」
「はいはい、お世話になっております本当に」
投げやりな言葉で白夜叉の言葉を受け流す黒ウサギ。その中で気になる物を感じた耀が小首を傾げて問う。
「外門、って何?」
「箱庭の階層を示す外壁にある門ですよ。数字が若いほど都市の中心部に近く、同時に強大な力を持つ者達が住んでいるのです」
箱庭の都市は上層から下層まで七つの支配層に分かれており、それに伴ってそれぞれを区切る門には数字が与えられている。
都市の中心にいくにつれて数字は若くなり、数字が若いとは即ちそのまま層に住む者の強さに直結している。四桁の外門ともなれば、名のある修羅神仏が割拠する完全な人外魔境だ。三桁、二桁となれば世界一つを壊すことも実現可能な者達が集まり、一桁とはそれこそ箱庭でも神を崇められる者達が住まう神域だ。
黒ウサギが描く上空から見た箱庭の図は、外門によって幾重もの階層に分かれている。
その図を見た三人は口を揃えて、
「・・・・・・超巨大タマネギ?」
「いえ、超巨大バームクーヘンじゃないかしら?」
「そうだな。どちらかといえばバームクーヘンだ」
「もう少しまともな例えはないのかい・・・・・・?」
うん、と頷き合う三人。身も蓋もない感想に溜め息をつくルフレと肩を落とす黒ウサギ。
対照的に白夜叉は哄笑を上げて二度三度と頷いた。
「ふふ、うまいこと例える。その例えなら今いる七桁の外門はバームクーヘンの一番薄い皮の部分に当たるな。更に説明するなら、東西南北の四つの区切りの東側あたり、外門のすぐ外は"世界の果て"と向かい合う場所になる。あそこにはコミュニティに所属していないものの、強力なギフトを持ったもの達が棲んでおるぞ――――その水樹の持ち主などな」
白夜叉は薄く笑って黒ウサギの持つ水樹の苗に視線を向ける。それは世界の果てで十六夜が叩きのめした蛇神から手に入れた苗だ。
「して、一体誰が、どのようなゲームで勝ったのだ? 知恵比べか? 勇気を試したのか?」
「いえいえ。この水樹は十六夜さんがここに来る前に、蛇神様を素手で叩きのめしてきたのですよ」
「なんと!? クリアではなく直接的に倒したとな!? ではその童は神格持ちの神童か?」
「いえ、黒ウサギはそう思えません。神格なら一目見ればわかるはずですし」
「む、それもそうか。しかし神格を倒すには同じ神格を持つか、互いの種族によほど崩れたパワーバランスがある時だけのはず。種族の力でいうなら蛇と人ではドングリの背比べだぞ」
神格とは生来の神様そのものではなく、種の最高ランクに体を変化させるギフトを指す。
蛇に神格を与えれば巨躯の蛇神に。
人に神格を与えれば現人神や神童に。
鬼に神格を与えれば天地を揺るがす鬼神と化す。
更に神格を持つことで他のギフトも強化される。箱庭にあるコミュニティの多くは各々の目的のため神格を手に入れることを第一目標とし、彼らは上層を目指し続けているのだ。
力=強さ、暴力こそが最も優れた力とされるのはどこの世界でも共通の最強意識らしい。どれだけ知恵を持っていても、どれだけ速さを有していても最後に物を言うのはやはり力だ。弱肉強食、それが最も単純で最も明確な自然の摂理なのだから。
「白夜叉様はあの蛇神様とお知り合いだったのですか?」
「知り合いも何も、アレに神格を与えたのはこの私だぞ。もう何百年も前の話しだがの」
小さな胸を張り。呵々と豪快に笑う白夜叉。普通であれば容姿に似つかわしくない仕草だが、彼女から放たれる威圧感がその常識を否定していた。
それを聞いた十六夜は物騒な瞳を光らせて問いただす。
「へえ? じゃあオマエはあのヘビより強いのか?」
「ふふん、当然だ。私は東側の"
"最強の主催者"―――その言葉に、十六夜、飛鳥、耀の三人は一斉に瞳を輝かせ、ルフレはそんな三人を見て呆れたように溜め息を吐いた。
「そう・・・・・・ふふ。ではつまり、貴方のゲームをクリア出来れば、私達のコミュニティは東がで最強のコミュニティという事になるのかしら?」
「無論、そうなるのう」
「そりゃ景気のいい話しだ。探す手間が省けた」
三人は剥き出しの闘争心を視線に込めて白夜叉を見る。しかしその闘争心を一気に削り取る言葉がルフレから発せられた。
「君達がやろうとしているのは無謀を通り越した無駄な行動だ」
三人の視線が一気にルフレに注がれる。しかしルフレはそんなことに構わず言葉を続ける。
「まあ今の状態で彼女の強さに気付けないのも仕方ないことだよ、強さを相手に悟らせないのも強者の印だからね。でもすぐに思い知らされるよ、君達と白夜叉の間にどれだけの差があるか」
それを伝えるとルフレは口を閉じた。勝負を薦めるわけでも、止めるわけでもない単なる警告。その警告が妙に引っかかったが、三人は気に止めず闘争心の籠った目で再び白夜叉を見る。
「ふふ、そこの童は私の力を理解しているようだ。しかし他の三人はそうではあるまい? よい、私も遊び相手に飢えている。しかし、ゲームの前に一つ確認しておく事がある」
白夜叉は着物の裾から"サウザンドアイズ"の旗印―――向かい合う双女神の紋が入ったカードを取り出し、壮絶な笑みで一言、
「おんしらが望むは"挑戦"か――――もしくは、"決闘"か?」