元・邪竜も異世界から来るそうですよ?   作:黒牙

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神軍師VS元魔王

「おんしらが望むは"挑戦"か――――もしくは"決闘"か?」

 

 白夜叉が一枚のカードを取り出してその言葉を告げた刹那、四人の視界に爆発的な変化が起きた。

 視界は意味を泣くし、様々な情景が脳裏で回転し始める。

 脳裏を掠めたのは黄金色の穂波が揺れる草原。白い地平線を覗く丘。森林の湖畔といった全く記憶にない場所。それが流転を繰り返し、四人を足元から四人を呑みこんでいく。

 四人が投げ出されたのは、白い雪原を凍る湖畔――――そして、水平に太陽が廻る世界だった。

 

「・・・・・・なっ・・・・・・!?」

 

 余りの異常さに、一同は息を呑む。しかしそれとは対照的にルフレは特に驚いた様子は見せずに平静を保っていた。

 

(僕達を別の場所に強制召喚した・・・・・・? いや違う、別の場所を此処に召喚した、という表現の方が正しいのか)

 

 彼は元の世界で"異界の門"という場所を何度か潜った。その時に異界に渡る感覚が今味わった感覚と酷似していたため、まるで世界一つを創りだしたかのような奇跡の現象を目にしても驚くことなく冷静に考えをまとめることができたのだ。

 だが他の三人はそうはいかなかった。神が成す御業の如きそれを目にして唖然と立ち竦んでいる。

 

「今一度名乗り直し、問おうかのう。私は"白き夜の魔王"――――太陽と白夜の星霊・白夜叉。おんしらが望むは、試練への"挑戦"か? それとも対等な"決闘"か?」

 

 魔王。今さっきまでそのような素振りは何一つ見せなかった目の前の少女が持つ力の一片を見せつけられた三人は再度息を呑む。彼女の正体を知っていたルフレの表情にも緊張が伺えた。

 "星霊"とは、惑星級以上の星に存在する主精霊を指す。妖精や鬼・悪魔などの概念の最上級種であり、同時に"与える側"の存在でもある。

 神という存在を知る者にも、知らぬ者にも等しく天上の存在であるという事を認識させる程の力を目の前の少女は有しているのだ。

 

「水平に廻る太陽と・・・・・・・・・・・・そうか、()()()()。あの水平に廻る太陽やこの土地は、オマエを表現してるってことか」

 

「如何にも。この白夜の湖畔と雪原。永遠に世界を薄明に照らす太陽こそ、私が持つゲーム盤の一つだ」

 

 舞台の主役のように白夜叉が両手を広げると、地平線の彼方の雲海が瞬く間に裂け、薄明の太陽が姿を晒す。

 

 "白夜"の星霊。十六夜の指す白夜とはある一定の経緯に位置する所で見られる太陽が沈まない現象の事である。

 そして"夜叉"とは、水と大地をつかさどる神霊を指し示すと同時に、悪神としての側面を持つ鬼神である。

 数多の修羅神仏が集うこの箱庭で、最強種と名高い"星霊"にして"神霊"。

 彼女はまさに、箱庭の代表ともいえるほど――――強大な"魔王"だった。

 

「これだけ莫大な土地が、ただのゲーム盤・・・・・・!?」

 

「如何にも。して、おんしらの返答は? "挑戦"であるならば、手慰み程度に遊んでやる。――――だがしかし"決闘"を望むなら話しは別。魔王として、命と誇りの限り闘おうではないか」

 

「・・・・・・・・・・・・っ」

 

 圧倒的で絶対的な力を前にして飛鳥と耀、十六夜でさえ即答できずに返答を躊躇った。

 白夜叉が如何なるギフトを持つかは定かではない。だが勝ち目がないことだけは一目瞭然だ。しかし自ら売った喧嘩を、このような形で取り下げるのは彼らのプライドが許さなかった。

 しばしの静寂の後――――諦めたように笑う十六夜が、ゆっくりて手を上げ、

 

「参った。やられたよ。降参だ、白夜叉」

 

「ふむ? それは決闘ではなく、試練を受けるという事かの?」

 

「ああ。これだけのゲーム盤を用意出来るんだからな。アンタには資格がある。――――いいぜ。今回は黙って()()()()()()()、魔王様」

 

 苦笑と共に吐き捨てるような物言いをした十六夜を、白夜叉は堪え切れず高らかと笑い飛ばした。プライドの高い十六夜にしては最大限の譲歩なのだろうが、『試されてやる』とはずいぶん可愛らしい意地の張り方があったものだと、白夜叉は腹を抱えて哄笑をあげた。

 一頻り笑った白夜叉は笑いを噛み殺して飛鳥と耀の二人にも問う。

 

「く、くく・・・・・・して、他の童達も同じか?」

 

「・・・・・・ええ。私も試されてあげてもいいわ」

 

「右に同じ」

 

 苦虫を噛み潰したような表情で返事をする二人。白夜叉はそんな二人に満足そうに声を上げると、ここまで一切話しに加わらず静観していたルフレの方に顔を向けて問う。

 

「して、おんしはどうするのだ?」

 

 白夜叉にしてみれば喧嘩を吹っかけて己の存在をアピールしてきた十六夜達よりも、関わるまいとしているようにも見えるルフレの方が注意すべき対象だった。

 はっきり言ってしまえば十六夜達が待ち掛けてきた勝負と言うのは"最強"という称号を聞いて試したくなったという子供のような単純な理由だったため、よく見かける一人の挑戦者としか見ないため特に気にする風もなかった。

 だがルフレだけは違う。なんの素振りも見せていない自分をすぐに"星霊"だと見破り、恐らくこちらの出所やギフトについても大雑把に推測できているかもしれない。

 見ただけでこちらの正体を看破したという事は、ルフレは瞳に関係するギフトを持っているか、神またはそれに精通する何かと関係があるという二通りのことが予想できるが、どちらにしても彼への興味が他とは比べものにならない程にあった。

 

 顎に手を当てて考える素振りを見せると、ルフレは躊躇うことなく言ってのけた。

 

「それじゃあ"決闘"にしようかな」

 

 これには一同驚きを隠せない。さっきまで無謀な行動だの力の差がどうだのと言っていたくせに決闘を望むなんてどういうことだ? と思うものである。

 当然疑問に思った十六夜が口を開く。

 

「おい、どういうことだよ。お前さっき俺達がやろうとしてるのは無謀な行動とか言ってたじゃねぇか。なのに"決闘"を選ぶなんておかしいだろ」

 

「確かに無謀だとは言ったけど、それはなんの考えもなくただ真正面から突っ込んだ場合だ。策があれば勝てるかもしれないだろ? だから僕は考えられる行動と起こり得る現象の全てを"可能性"の中に入れて彼女のギフトについて色々と模索してみた、そしてさっきの話しで大体の予想は出来た。けど、それでも勝てるかどうかは別問題だけどね。だから幾つもの策を用意しておく必要があるんだ。でも、君達の場合こんな方法じゃ納得なんてしないだろ?」

 

「当然だろ、喧嘩なんて正面からぶつかってなんぼのもんだからな」

 

「だから無謀なんだ。知略を持って相手を制する。それが僕のやり方さ」

 

「・・・・・・そこまで言うからには勝てんだろうな?」

 

 十六夜がやや挑発気味の笑みを浮かべてルフレに問うと、彼はそれでも断言はしない。

 

「どうだろうね。いくつか策はあるけど勝てる可能性はどれも望み薄と言った所だ、まあ時間はもう少しある事だしギリギリまで考えてみるけど、予想外のことなんていつでも起こるからね。でも選択は変わらないよ」

 

「話しはまとまったかの?」

 

「ああ。僕は貴女に決闘を望む」

 

 辺りに漂う霧のようにあやふやな答えに十六夜はまだ納得のいかない表情をするが、ルフレはそんな事は気にせずに再度白夜叉に決闘を申し出た。白夜叉もその申し出に笑みでもって答える。

 

「よかろう! ならば互いの本気でぶつかり合い死力をもって闘おうではないか! おんしの策とやらがどこまで通用するか試してみるがいい!・・・・・・・・・・・・さて、まずは"決闘"の前におんしらの"挑戦"を済ませるかの。しかし、何かいいゲームはあったものか・・・・・・」

 

 ううむと白夜叉が考えていた時、彼方にある山脈から獣とも野鳥とも思える甲高い叫び声が聞こえた。その叫び声に逸早く気づいたのは、耀。次いで同じような叫び声を聞いたことのあるルフレと正体を知っている白夜叉がほぼ同じタイミングで山脈に目を向け、十六夜達もすぐに顔を山脈の方に向ける。

 

「何、今の鳴き声。初めて聞いた」

 

「ふむ・・・・・・あやつか。あやつならばおんしら三人を試すには打ってつけかもしれんの」

 

 湖畔を挟んだ向こう岸にある山脈に、チョイチョイと手招きをする白夜叉。すると体長5mはあろうかという巨大な獣が翼を広げて空を滑空し、風の如く四人の前に現れた。

 鋭い眼光と嘴を持つ鷲の頭と空を翔る翼、しっかりと大地を踏みしめ地上を駆ける獅子の下半身。伝説や逸話で語られてきた生物を見て、耀は驚愕と歓喜の籠った声を上げた。

 

「グリフォン・・・・・・嘘、本物!?」

 

「フフン、如何にも。あやつこそ鳥の王にして獣の王。"力""知恵""勇気"の全てを備えた、ギフトゲームを代表する獣だ」

 

 白夜叉が手招きする。グリフォンは彼女の下に降り立ち、深く頭を下げて礼を示した。

 そんなグリフォンをルフレはどこか懐かしむような顔で見て、かつての世界での思い出を思い出していた。

 

(グリフォンか・・・・・・。元の世界だと当たり前のように思っていたけど、こうして別の所に来ると自分の知っている物がすごく懐かしく感じるなぁ。彼らも今は元気かな?)

 

 ルフレはグリフォンという幻獣を見るのは初めてではない、むしろ見慣れていると言ってもいい。故にルフレの世界では幻獣が"あたりまえ"として存在して存在する生物であったため、彼ら幻獣達がどのようなギフトを持っているのか考えることができなかった。

 

「さて、肝心の試練だがの。おんしら三人とこのグリフォンで"力""知恵""勇気"のいずれかを比べ合い、背に跨って湖畔を舞う事ができればクリア、という事にしようか」

 

「それだけ!?」

 

「なんでルフレが反応するんだよ? お前はこの試練と何も関係ないだろ」

 

「・・・・・・なんでもない。今のは忘れて」

 

 ルフレにしてみればこんなのはごく自然に見ていた風景である為、あまりにも簡単すぎるのではないか? 試練にすらならないのではないか? と思ってしまい、思わず声を上げてしまったのだ。

 彼の世界には「グリフォンナイト」という兵士がおり、彼らはその名の通りグリフォンに跨り戦う騎士のことである。ルフレの所属していたイーリス軍にも何人かおり、騎士達はなんの苦もなくグリフォンを乗りこなし、さらにその上で敵の空中兵と戦うという技までしてのけていた。というよりそれができなければグリフォンナイトではない。

 

(こんなのグリフォンナイトの基本中の基本として教えられることだと思うんだが・・・・・・)

 

 だがそれはあえて言うまい。もし言ってしまえば目の前のグリフォンの精神を深く抉ることになる。そうなってしまえばもはや試練どころではない。

 言葉をグッと呑み込んで成り行きを見守るルフレであった。

 

『ギフトゲーム名 "鷲獅子の手綱"

 

 ・プレイヤー名 逆廻 十六夜

         久遠 飛鳥

         春日部 耀

 

 ・クリア条件 グリフォンの背に跨り、湖畔を舞う。

 

 ・クリア方法 "力""知恵""勇気"の何れかでグリフォンに認められる。

 

 ・敗北条件 降参か、プレイヤーが上記の勝利条件を満たせなくなった場合。

 

 

 宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。

                               "サウザンドアイズ"印』

 

「私がやる」

 

 虚空から現れた羊皮紙に目を通すや否やピシ! と勢いよく指先まで綺麗に挙手したのは耀だった。彼女の瞳はグリフォンを羨望の眼差しで見つめている。今まで大人しい雰囲気しか見せなかった彼女が初めて見せる熱い視線だった。

 

『お、お嬢・・・・・・大丈夫か? なんや獅子の旦那より遥かに怖そうやしデカイけど』

 

「大丈夫、問題ない」

 

「ふむ、自信があるようだが、コレは結構な難物だぞ? 失敗すれば大怪我では済まんが」

 

「大丈夫、問題ない」

 

 最早耀にはグリフォンしか映っておらず、何を聞いても同じ答えをするだけだ。彼女のキラキラと光る瞳は、ずっと探し続けていた宝物をようやく見つけた子供のように純粋に輝いていた。隣で呆れたように苦笑いを漏らす十六夜と飛鳥。

 

「OK、先手は譲ってやる。失敗するなよ」

 

「気を付けてね、春日部さん」

 

「うん。頑張る」

 

 頷き、すぐにグリフォンに駆け寄る。しかしそんな彼女にルフレは少し待ったをかけた。

 

「あ、ヨウ。少し待って」

 

「なに?」

 

 呼び止められたことに対して耀は表情を僅かに(しか)めてじれったいと言いたげな顔を向ける。

 気持ちは分からなくはないが、ルフレは自分の知識の中からグリフォンとのファーストコンタクトの取り方を耀に教える事にした。いくら他の生物と話せるからと言って気持ちまで読み取れると言うわけではない、正しい接し方をすればこれから先もその生物と円滑な関係を築くことができる。

 

「グリフォンはとても誇りが高く礼節を重んじる生き物だ、だから初対面の時は相手の瞳を正面から真っ直ぐ捉えて一礼するのが彼らとのファーストコンタクトで一番大切な動作となる。そこから先は自分で考えてみるといいよ」

 

「ありがとう。でもなんでそんな事知ってるの?」

 

「ちょっとした豆知識とでも思ってくれいいよ」

 

 その答えに腑に落ちないような表情をするが、そんなことよりも目の前のグリフォンの方が彼女の優先順位では上の位置にあったため、特に気にすることなく再びグリフォンのいる方へ足を向けた。

 

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆ ◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 結果を言えば試練はクリアとなった。だがそれは無事にというには少々危ういところも見られた。

 耀は見事にグリフォンを乗りこなし、湖畔を舞って戻ってきた、しかし最後の最後と言う所で耀はグリフォンの手綱を離してしまい、空中に投げ出されることとなる。だが落下する前にグリフォンの持つギフトを己の物として扱って見せた。それが彼女の持つギフトの一つであるという事は簡単に想像ができた。

 "他の生き物の特性を手に入れる"というギフトは後天性の物で、しかもそれは彼女が身に着けている木彫りのおかげという事に白夜叉が大変興味を示したが今では些事にすぎない。

 これから行われるルフレと白夜叉の双方が死力を尽くしてぶつかり合う決闘。当事者を含めて全員の興味はそちらに向いていた。

 

「念のためもう一度聞くぞ。それなりの場数は踏んで来たようだが、それでも力の差は圧倒的と言っても過言ではない。本気で決闘を望むか?」

 

「確かに僕は歴戦の戦士には程遠い。だけど、僕はただの剣士ではないぞ!」

 

 声を上げると共に黄色い表紙の本がルフレの左手に収まり、喫茶店で見た稲妻を模した不安定な刀身の剣が右手に出現し、雷を散らす。

 剣と本を持った瞬間、ルフレの雰囲気が一気に変わった。今までは風当たりの良い親しみ易いような柔らかな雰囲気だったが、今ではそれがガラリと変わって戦場に立つ兵士のそれとなっている。

 それを感じ取った白夜叉は納得した言った感じの表情を浮かべると、耀の時と同じく虚空から羊皮紙を出現させる。

 

『ギフトゲーム名 "白夜の魔王と聖王の軍師"

 

 ・プレイヤー名 ルフレ

 

 ・クリア条件 白夜叉に防がれず一撃を入れる

 

 ・敗北条件 相手を死亡させる、降参、上記の勝利条件を満たせなくなった場合。

 

 

 宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。

                              "サウザンドアイズ"印』

 

「決闘の割にはちょっと緩い勝利条件だね」

 

「まあ、互いに敵対していない相手を殺すというのは目覚めが悪いだろう。後はハンデといった所だな。無論本気は出すがの」

 

羊皮紙に目を通して勝負の内容を確認すると、互いに構える。とは言ってもルフレは自然体、白夜叉は始めから先手を譲るつもりなのか口元に扇子を当てて挑発的な笑みを浮かべているだけで、両者共に構えらしいものを取っていない。

 

 先に動いたのはルフレの方だった。掌大の雷球を飛ばして牽制攻撃を放ち、次いで烈風の刃を飛ばす。どちらも加減こそしてはいるものの重傷を負わせてお釣りが来るくらいの威力を持っている。

 しかし白夜叉はまったく身動ぎせず、雷球は手で払いのけ、烈風は広げた扇を一振りして相殺する。

 

「どうした? よもやこの程度なわけではなかろう?」

 

 再度ルフレに挑発的な笑みを向ける、しかしルフレも不敵な笑みを浮かべて答えた。

 

「当然だろう。今のは両方とも時間稼ぎを含めた牽制攻撃だ」

 

 上にあげた両の手を振り下ろすと、数メートル上空から火球が白夜叉に向かって急降下して来た。それを見てすぐさま攻撃をいなそうと構えるが、何かに気付いたのか咄嗟に構えを解いて後方に飛ぶ。すると、火球は地面に着弾すると同時にその大きさからは考えられない爆発を巻き起こした。

 火球の大きさは精々人の頭位の大きさ、しかし爆発の規模は火球が内蔵する火力を遥かに上回っていた。咄嗟にその威力を察知し、迎撃から回避に移った白夜叉の実力はやはりと言わざるを得ない。

 爆風によって辺りの雪が舞い上がり、二人の姿を覆い隠す。

 

「目くらまし、と言った所か。しかしこの程度を策と豪語するのならば、おんしの作戦もたかが知れるぞ!」

 

 パチンッという鋭い音を立てて開いた扇子を閉じる。すると、辺りを待っていた雪煙が一瞬にして吹き飛び視界が明確になる。

 視界が不安定なうちに何かを仕掛けるつもりであったのならルフレの考えていた事は一気に潰れることとなる、しかし彼の発した声はこの事態さえも想定しての行動だった。

 

「読み通り」

 

 ルフレは左手に紫色の表紙をした本を持ち、右手を白夜叉に(かざ)しながらそんなことを言った。一瞬なんのことか解らずその場で呆けるが、それが決定的な隙となる。

 白夜叉の足元から黒紫の霧が出現し、彼女の動きを拘束しに掛かる。気付いて回避を試みるが時既に遅し。膝から下は霧に覆われて自由を失っており、すぐに体全体の自由を奪う。

 

「なにっ!?」

 

「さっきの火炎魔法も、そしてその前の雷と風魔法もこの攻撃のための布石ということさ。幾ら力を持っていても、動けなければどうということはないからね」

 

 白夜叉の動きを拘束したまま雷を散らす剣を持って一気に距離を詰めるルフレ。

 強力な力も身体の自由を完全に奪われてしまっては"あるだけ"の飾りとなってしまう。それは白夜叉も例外ではない。迎撃するにも防御するにも構えが必要だ、だがそれさえもできなければ相手の攻撃をダイレクトに受けてしまう。それはそのままこの決闘の敗北を意味している。

 攻撃が届く距離まで迫り、剣を振り上げるルフレ。これが決まれば決闘は彼の勝利となる。

 だがそこは東側最強の階層支配者、簡単には勝利を許さない。

 

「先の先を見据えて考え行動する。なかなか見事なものだ、しかしまだまだ甘いぞ小僧!」

 

 叫んだのと同時に白夜叉の自由を奪っていた霧が弾け飛んだ。しかしルフレはそんなことを気に止めず振り上げた剣を勢いよく振り下ろす、だがそれは白夜叉に届く前に彼女の持った扇子で防がれる。そしてそのまま力任せに剣を跳ね上げると、もう片方の手で拳を作って腹に一撃を入れる為に腕を引く、そこでルフレの持っている本の表紙の色が紫から緑に変わっているのに気付いた。

 また何かを仕掛けてくる。瞬時にそれを察した白夜叉は腕を引いたまま無理やり後ろに跳び、それでも足りないと判断して腕を前で交差させて防御の態勢を取る。直後、ルフレは跳ね上げられた剣を離してそこから烈風の刃を放つ。

 刃は斜めに飛んでいき、着地した白夜叉を襲う。だがこの攻撃は防御されてしまったため勝利の一手には届かなかった。

 烈風を防いだ白夜叉は目の前で交差させていた腕を解いて挑発的な笑みを浮かべるが、彼女の頬を一滴の冷や汗が伝う。

 

「まさかここまで想定していたとは、今のはかなり危なかったぞ」

 

「いけると思ったんだけど、やっぱり防がれちゃったか」

 

 宙を浮遊していた剣を掴みながら答えるルフレ。彼の表情からは余裕が消えつつあった。

 始めから簡単に勝てる相手だとは思っていなかった。しかしそれが予想外過ぎたのだ。魔導書の方はいい、本の魔力の消費量は変わらないため、数分すれば元に戻る。しかしそれ以上に危ないのは剣の方だ。内臓されている雷の魔力はさほど変わらないが、耐久力が著しく削られ次に打ち合えばポッキリと折れてしまいそうなほど、先ほど跳ね上げられた時の威力は驚異的だった。

 形状と造りが特殊なため、これを直せる鍛冶師もしくは設備がノーネームのコミュニティ近くにあるなんて都合のいい考えは捨てる。となると魔力で耐久力が元に戻るまで剣は使わないと考えるのが妥当だ。しかし目の前に居る存在はそんな甘いことを考えて勝てるような相手ではない。

 となると残る手段はあと一つ。

 

(仕方ない、サンダーソードは捨てるか)

 

 とても策とは言えない捨て身の特攻策であったが、最早なりふりを構っている暇はない。逆にサンダーソードを捨てるという考えによって戦い方が幾つか増えたと言ってもいい。

 剣を捨て身で投じて次の一撃に賭けるも良し、その逆で一撃を入れてから不意打ちで剣を投じて攻撃するも良し、どちらにせよ次に繋げる一手としてはこれ以上にない程選択肢が無限に増え続ける。

 だが問題はその後だ。剣を失った後の近接戦は全て格闘戦闘となる。力もさることながらそれ以上に経験が圧倒的に不足している、つまり剣を投じたらそこで確実に決めなければ勝つことはできないというわけだ。慎重に慎重を重ねて、かつ即効で策を選び抜く必要がある。

 

(いや、もうさっきみたいな小細工は恐らく通用しない。なら相手の本能を刺激する心理的な方法を取る)

 

 この考えによって無限にある選択肢は一気に限定される。その中から通用するであろう一策を選択し、それに全てを賭ける。

 捨て身の一撃なんて策を考えている時点で軍師としては三流以下だが、それも頭の中で構築しなければ目の前の存在から勝利を掴み取るのは到底不可能な事、ならば軍師として底辺に落ちようとも勝利への貪欲さを持つことで強大な敵にも勝つことができる、ルフレはそれを経験で知っていた。

 

「来ないのなら、次はこちらから行かせてもらうぞ!」

 

 白夜叉が駆け出す。迷う時間さえない。すぐに剣を構えて白夜叉に向かって思いっきり投擲する、サンダーソードはそれこそ雷のように真っ直ぐに飛んでいき、刀身から散らされる小さな雷が軌跡を残しながら白夜叉に吸い込まれていった。

 己の武器を一つ捨てるような行動を取ったルフレに一瞬驚いた表情をするが、すぐに戻り、刀身を蹴る事で迎撃する。剣はバキィンッ! という音を響かせて中心から折れて役目を終えた、しかしそれは()としての役目を終えたに過ぎず、()()()()()()()()の役目はまだ残っている。

 器を失った事でサンダーソードの中に溜まっていた魔力は零れ出し、リミッターを失った事で魔力は一気に暴発した。

 

「っ!?」

 

 本日二度目の驚愕。片足を上げた無理な体勢から全力で横に飛んでなんとか直撃を回避する、よもや捨て身の一撃に第二波があるなんて誰も想像できないだろう。だがこれでルフレは近接戦闘の手段を失った、懐に入る事さえできれば白夜叉の勝利は確定する。すぐさま体勢を立て直してルフレに向かって走り出す、また面倒なことをされる前に決着を付けに掛かる、

 

「ギガファイアー!」

 

 しかし数歩手前で後ろに跳び退く事となった。眼前にいきなり火柱が立ち上り、それが何か悟る前に本能がそうさせたのだ。

 生き物は目の前で起きた突発的現象に理性よりも先に本能が反応する、とはいってもそれはほんの一瞬の間だけの話で無理やりそれを抑え込める者も居るにはいるが、今回の場合は生き物の本能に植え付けられた共通する弱点である"火"がトリガーとなったため星霊である白夜叉も驚いて火柱との距離をオーバーに取ってしまった。

 

「トロン!」

 

 立ち上る火柱を貫いて雷のレーザーが高速で白夜叉に迫る。すぐに回避は不可能と判断した白夜叉は再び手を腕の前で交差させて防御の姿勢を取る。

 

「ぐうううぅぅぅぅぅっっ!!」

 

 衝突と同時に激しい痺れと腕が焦げるような熱を感じて苦悶の表情を浮かべながらもそれを防ぎきる。

 今の一撃は間違いなくルフレの攻撃の中で一番の威力を誇る物であった、常人であれば重症はまず間違いなしの攻撃であったが、白夜叉はそれを腕の火傷という比較的軽い傷で凌ぎきったのだ。

 全てを賭けたであろう今の攻撃を防ぎきった事に白夜叉に少しの余裕が生まれる。しかしそれが()となった。

 

「読みが甘いね」

 

 その言葉で回りの僅かな異変に気付いた。白夜叉の回りには不自然な風が吹いており、彼女を囲うように逆巻いていた。微風は強風となり、強風は突風となり、突風は竜巻となり吹き荒れる。

 そこで彼女は理解した。先ほどの雷魔法は()()()()()()()()であっても()()()()()ではなかったのだ、そしてこれが正真正銘の最後の一撃。

 

「レクスカリバー!」

 

 竜巻は白夜叉の華奢な体躯を宙に放り上げる。そして白夜叉はそのまま背中から地面に叩きつけられた。

 

「ガハッ!・・・・・・ゲホッ、ゲホッ」

 

 肺にある空気を全て吐き出してむせ返る。今この瞬間を持ってルフレの勝利が決定した。

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