「いや、実に見事! おんしの戦いには驚かされたぞ! 負けるのは何時ぶりかの」
ルフレと白夜叉の決闘はルフレの勝利で終わり、今は問題児三人と黒ウサギを含めて談笑している。
ちなみに白夜叉が決闘で負った傷はいつの間にかもう治っている。
「よく言うよ。こっちは持てる策と技を全部使ってギリギリだったけど、君はギフトの一つも使って無かっただろ?」
確かに先ほどの決闘で白夜叉はギフトらしい物は一切使わず、ほとんど体術のみで戦っていた。それに比べてルフレは装備の一つまで消費しても"なんとか"の勝利だ。
本気を出すと言っておきながらこの結果では正直言って嘗めているとしか言いようがない。
「それでも今出せる本気は全て出していたがな。私のギフトを加減せずおんしに使えばおんしは間違いなく死ぬ。そうなってしまえば私が負けてしまうからの。・・・・・・・・・・・・さて、私との勝負に勝ったおんしらには褒美を与えねばならんが・・・・・・そう言えば黒ウサギは如何用でここに来たのだ?」
「はい、実は白夜叉様にはギフト鑑定をお願いしに来たのですが・・・・・・」
「よ、よりにもよってギフト鑑定か。専門外どころか無関係もいいところなのだがの」
困ったように白髪を書き上げ、着物の裾を引きずりながら四人の顔を両手で包んでみつめる。
「どれどれ・・・・・・ふむふむ・・・・・・うむ、四人ともに素養が高いのは分かる。しかしこれではなんとも言えんな。おんしらは自分のギフトの力をどの程度把握している?」
「企業秘密」
「右に同じ」
「以下同文」
「ギフトなんて無いと思うけど」
「うおおおおい? いやまあ、仮にも対戦相手だったものにギフトを教えるのが怖いのは分かるが、それじゃ話しが進まんだろうに」
「別に鑑定なんていらねえよ。人に値札貼られるのは趣味じゃない」
ハッキリと拒絶するような声音で否定の意を示す十六夜と、それに同意するように頷く耀と飛鳥、そしてそんな三人の様子に苦笑を浮かべるルフレ。
白夜叉はそんな四人を見て再び困ったように頭を掻く。すると突如妙案が浮かんだとばかりにニヤリと笑った。
「まあ何にせよ"
パンパンと白夜叉が二度柏手を打つと、四人の眼前に光り輝く四枚のカードが現れる。
カードにはそれぞれの名前と、身体に宿るギフトを表すネームが記されていた。
コバルトブルーのカードに逆廻十六夜・ギフトネーム"
ワインレッドのカードに久遠飛鳥・ギフトネーム"威光"
パールエメラルドのカードに春日部耀・ギフトネーム"
グレープパープルのカードにルフレ・ギフトネーム"神軍師""竜の器""????"
それぞれの名とギフトが記されたカードを受け取る。
黒ウサギは驚いたような、興奮したような顔で四人のカードを覗き込んだ。
「ギフトカード!」
「お中元?」
「お歳暮?」
「お年玉?」
「さっきも言ったけど、もう少しマシな例えは無いのかい?」
「そうですよ! なんで皆さんそんなに息が合ってるのです!? このギフトカードは顕現しているギフトを収納できる超高価なカードですよ! 耀さんの"生命の目録"だって収納可能で、それも好きな時に顕現できるのですよ!」
「つまり素敵アイテムってことでオッケーか? ルフレさまさまだな」
「だからなんで適当に聞き流すんですか! あーもうそうです、超素敵アイテムなんです!」
黒ウサギに叱られながら三人はそれぞれのカードを物珍しそうにみつめる。しかし何故かルフレだけは訝しげな表情でカードを眺めていた。
「我らの双女神の紋のように、本来はコミュニティの名と旗印も記されているのだが、おんしらは"ノーネーム"だからの。少々味気ない絵になっているが、文句は黒ウサギに言ってくれ」
「ふぅん・・・・・・もしかして水樹って奴も収納できるのか?」
何気なく水樹にカードを向ける。すると水樹は光の粒子となってカードの中に飲み込まれた。
十六夜のカードに溢れる程の水を生み出す樹の絵が差し込まれ、ギフト欄の"正体不明"の下に新しく"水樹"の名前が並べられる。
「おお?これ面白いな。もしかしてこのまま水を出せるのか?」
「出せるとも。試すか?」
「だ、駄目です! 水の無駄遣い反対! その水はコミュニティの溜めに使ってください!」
つまらなそうにい軽く舌打ちをする。黒ウサギはまだ安心できないような顔でハラハラと十六夜を監視している。白夜叉はその様子を高らかに笑いながら見つめた。
「そのギフトカードは、正式名称を"ラプラスの紙片"、即ち全知の一端だ。そこに刻まれているギフトネームとはおんしらの魂と繋がった"恩恵"の名称。鑑定は出来ずともそれを見れば大体のギフトの正体は分かるというもの」
「へえ? じゃあ俺のはレアケースなわけだ?」
ん? と白夜叉が十六夜のギフトカードを覗き込む。そこには確かに正体不明の四文字が刻まれている。ヤハハと笑う十六夜とは対照的に、白夜叉の表情の変化は劇的だった。
「・・・・・・いや、そんな馬鹿な。・・・・・・"正体不明"だと・・・・・・? いいやありえん、全知である"ラプラスの紙片"がエラーを起こすはずなど」
「何にせよ、鑑定は出来なかったってことだろ。俺的にはこの方がありがたいさ」
納得いかないような怪訝な瞳で十六夜を睨む白夜叉。それほどまでに"正体不明"というのはありえないことなのだろう。
そこで思わぬところから横槍が入れられた。
「十六夜の"正体不明"がギフトカードのエラーなら、僕のカードは不良品もいいところだよ」
ほら、と言ってカードを白夜叉に見せる。それを横から覗き込む問題児一行と黒ウサギ。
カードを見た白夜叉と黒ウサギは表情を驚愕に染め、十六夜達は不思議そうにルフレのギフトカードを眺める。
「オイオイなんだよ"????"って。名前すら出ないってどんなギフトだよ」
「"竜の器"っていうのも気になるわね」
「それよりもギフトカードに
ルフレのギフトカードには"恩恵"の他にカードの色よりも濃い紫色で六つの瞳のような絵が描かれていた。
先ほどの白夜叉の話しではギフトに描かれるのはコミュニティの旗印と十六夜が見せた時のようにカードに収納したギフトの絵が刻まれるとのことだ。しかしルフレのギフトには収納するような物はない、となるともう片方の旗印の方が理由としては必然的である。
「いや、こんなコミュニティの旗印は存在しない。おそらくギフトネームが明記されていない"????"というのが関係しているのだろう。しかし、この紋は・・・・・・」
◇◆◇◆ ◆◇◆◇
日が暮れ始めて辺りはすっかり緋色に染まっていた。オレンジ色の陽の光が白夜叉の私室に差し込む。ここにいるのは黒ウサギと白夜叉のみ、四人には店前で待ってもらっている。
黒ウサギ自身も何故自分だけがここに残されたのかは分からない。ただ白夜叉の真剣な顔をみてすぐに自分達にとって重大なことだと察して彼女が口を開くのを待っているのだ。
重い口を動かして白夜叉は話し始める。
「さて、おんしをここに残したのはルフレについて少し話しておきたいことがあったからだ」
「確かにルフレさんのギフトは不可解でしたが、そんなに重大なことなのですか?」
「いや、今から話すのはギフトの事ではない、寧ろそんなことは今から話す事に比べれば些事にすぎん」
一拍置いてから再び口を開く。
「率直に言う。奴は箱庭とその周囲にある世界までもを終末寸前にまで追いやった過去最恐最悪の天災、邪竜ギムレーに関係している。それもかなり近しい、な」
「ギムレーですか!?」
「ああ。数千年も前の事だが、その時の事は今でもハッキリと覚えている。箱庭だけでなく、その周辺にある幾つもの世界も崩壊しかけたと言うことで歴史書にも綴られるくらいだからの」
それはずっと昔、黒ウサギが生まれるよりもずっと昔に起きた大惨事。箱庭を絶望の淵にまで追いやったその存在は、箱庭の様々な修羅神仏、天災と言われる魔王までと手を組む事でようやく別の世界に退けることができた。
しかし箱庭側も無傷ではなかった。数多の命とその存在を箱庭に来させないようにする為に一人の神が犠牲となった。
以来人々はこの惨事を忘れないために、何より自分達のために犠牲になった者が居たことを忘れないために歴史書にこの存在の事を記した。
「でも、どうしてルフレさんがギムレーと関係しているなんて事がわかるのですか?」
「ギフトカードに刻まれたあの紋様、歴史書には記されておらんが、あれはギムレー自身にも刻まれていたものなのだ。それがギフトカードに浮かんだということは、少なくともギムレーに近しい存在であるということは間違いない」
「じゃあ、ルフレさんは魔王ということなのですか?」
「それは相手によるな。何せ数千年も前のことだ、下層の者であればギムレーの関係者どころか魔王認定もされない。しかし、私のように惨事の当事者も上層には居る。その者にギフトカードを見せれば問答無用で殺されるぞ。さらに言ってしまえば、ノーネームが元の力を取り戻せば取り戻すほど、ルフレの身の危険は高まるということだ」
「そんな・・・・・・そんなの納得できるわけありませんっ!」
「黒ウサギがどう思うかは勝手だが、これは紛れもない事実。奴はギムレーの関係者で箱庭はギムレーを恐れている、とにかくこの事は他言無用で頼むぞ。・・・・・・それにしても」
話しをそこで一旦区切ると、白夜叉は思考し始める。他に気になる点があるのかと気になった黒ウサギは白夜叉に話しかけた。
「まだ何かあるのですか?」
「いや、あの紋様は確かにギムレーのものなのだが、少々形が変化していた。それに"竜の器"というのも不可解と言えば不可解だ」
「どうしてですか?」
「そもそも龍に"器"があること自体おかしな話なのだ。知ってのとおり龍の純血種は
器のギフトとはその存在の命や魂、そしてその後に続く生命の全てを受け止める物を指す。
例を挙げると、犬の器のギフトがあるとする。その器は"犬"という生物の命と宿る魂、そしてその犬から生まれる全ての存在を受け止める、といった具合に器のギフトは人が担うにはとても手に余るのなのだ。
系統樹を持たない龍の物ともなれば器は想像もできない程巨大な物となる。極端に言えば"器"が龍という一系統を担う系統樹その物にならなければならない。そんな器は箱庭の最強種の一角である"星霊"でも"神霊"でも背負いきれない、それこそ全ての生物の原点存在でもなければ背負うことはできないだろう。
「とにかくルフレには目を見張っておけ、最悪の場合は手を下さねばならん。覚悟はしておくとよい」
「はい・・・・・・」
白夜叉の最後の言葉に力なく答えて部屋を後にする黒ウサギ。
部屋に一人残ったの白夜叉は夕日に染まる中庭を眺めてルフレの事について思案していた。
(ギムレーの紋様に龍の器のギフト。あの童、一体何者だ・・・・・・?)
◇◆◇◆ ◆◇◆◇
"サウザンドアイズ"を後にし、噴水広場を越えて五人は半刻ほど歩いた後、"ノーネーム"の居住区画の門前に着いた。門を見上げると、旗が掲げてあった名残のようなものが見える。
「この中が我々のコミュニティでございます。しかし本拠の館は入口から更に歩かねばならないので御容赦ください。この近辺にはまだ戦いの名残がありますので・・・・・・」
「戦いの名残? 噂の魔王って素敵ネーミングな奴との戦いか?」
「は、はい」
「ちょうどいいわ。箱庭最悪の天災が残した傷跡、見せてもらおうかしら」
箱庭における天災と謳われる魔王。白夜叉は元魔王らしいがルフレとの決闘で負けた、決して白夜叉が弱いというわけではなく己に制限を掛けていたため補強が効かなく負けてしまったと言うだけだ。ならば本当の本気の魔王はどれほどの実力なのか、それは飛鳥だけでなく他の三人も気になる所だった。
黒ウサギが躊躇いつつ門を開けると、完全に水分の抜けた砂漠に吹くようなカラッとした乾いた風が四人の間を吹き抜けた。
砂塵から顔を庇うようにする四人。視界には一面の廃墟が広がっていた。
「っ、これは・・・・・・!?」
街並みに刻まれた傷跡を見た飛鳥と耀は息を呑み、十六夜はスッと目を細め、ルフレは信じられない物を見たように驚愕する。
十六夜は木造の廃墟に歩み寄って囲いの残骸と思しき木材を拾い上げて軽く握った、すると木材は乾いた音を立ててボロボロに崩れて行った。
「・・・・・・おい、黒ウサギ。魔王のギフトゲームがあったのは――――今から何百年前の話しだ」
「僅か三年前でございます」
「ハッ、そりゃ面白いな。いやマジデ面白いぞ。この風化しきった街並みが三年前だと?」
そう、彼ら"ノーネーム"のコミュニティは――――まるで何百年という時間経過で滅んだように崩れ去っていたのだ。
美しく整備されていたはずの街路は砂に埋もれ、木造建築物は軒並み腐って倒れ落ちている。要所で使われていた鉄筋や針金は錆にむしばまれて折れ曲がり、街路樹は石碑のように薄白く枯れて放置され、風が吹く度にボロボロになった木の皮が粉末状で飛ばされていく。そこには人が住んでいたというような景観は欠片も見られず、長い間放置されてきたというようにしか見えない
「・・・・・・断言するぜ。どんな力がぶつかっても、こんな壊れ方はありえない。この木造の崩れ方なんて、膨大な時間をかけて自然崩壊したようにしか見えない」
普通に考えれば三年という年月でここまで無残な有様は絶対にないことだ。しかしルフレには分かる、というより知っている。こんな悲惨な惨状を引き起こす存在を。アレが引き起こした惨状に比べればこの風化しきった街並みはまだ復興できる分だけましというものだった。
「悪いけどイザヨイの断言は僕が否定させてもらうよ。無茶苦茶な方法だけど、こんな惨状を結果として持って来れる現象は幾つかある」
「なるほど? ならその方法とやらを聞かせてもらおうじゃねえか」
「まず一つ目の方法としては、時間を操るギフトが関係している。物の時間を自由に動かすことができれば十秒経っただけで対象物を何千年もの時間経過した物にすることだって可能だからね。通常の人間では無理だけど箱庭では僕達の基準値なんてあってないような物だ、可能な現象の一つとして考えていいと思う。第二の方法としては天候と天候の力が衝突した時に発生す力の流れだ、水が物を腐らせ、風が建物を侵食し、日差しが土地を干上がらせる。白夜叉だって白夜の、一つの太陽を力の象徴として持っている、ならば天候を自分の力として扱う魔王がいたってなんら不思議はない」
「言われてみれば確かにそうだ、時間が操れれば年月なんて関係なしに時間経過を動かせる。風化の原因も影響としてデカイのは風や雨といった天候が一番だ」
「そして三つ目、環境を汚染する何かしらの瘴気が長時間あてられた」
「それはないだろ。瘴気って言っても影響力なんてたかが知れてる、酷くはなっていただろうがここまでじゃないはずだ」
十六夜の否定の言葉をルフレは真正面から切り捨てた。
「いや、有り得るんだよ。実際、僕の世界はたった一日でこれ以上に酷い事になったんだから」
それは自分達の力が足りていなかった時の、未来の分岐点の片方を進んだ時に訪れる絶望の未来。
もしルフレが自分の正体に気付き思考の一部が狂ってしまったら、もし未来から運命を変える子供達が来なかったら、本来訪れる
その世界でもルフレは確定された運命に抗うために戦い、そしてほんの小さな変化を持って絶望に染まった未来は変わった。
「だから、こんな景観はあってはならない、あるはずがないんだ・・・・・・!」
「おい、急にどうした?」
「みんなが命を賭けて戦い、そして勝ち取った未来なんだ! なのに! これじゃまるっきりあの時と同じじゃないか! あの戦いは全然無意味な事だったとでも言うのか!?」
いきなり叫び出したルフレの瞳は焦点があっておらず、拳を固く握りしめて叫び続ける。まるで見たくない現実から目を逸らし、叫んで目の前の現実を否定するかのようなその動作は全員から見て異常な物だった。
異常な雰囲気のルフレに声を掛けることができず、ようやく彼が落ち着いた所で飛鳥が声を掛けた。
「いきなりどうしたのよ? 急に叫んだりして」
「・・・・・・ごめん、取り乱して。理由については聞かないでもらえると助かる」
予想もしていなかったいきなりの出来事と、ルフレの悲しげな表情と声音で辺りの空気が一気に重くなる。
場の空気の重たさに耐えられなくなった黒ウサギが何とか雰囲気を元に戻そうとわざと明るい声で言葉を発した
「と、とにかく先へ進みましょう! コミュニティの子供達にも皆さんの事を紹介しないといけませんし!」
色々と聞かなければならない所はあったが、取りあえず今は黒ウサギの提案に乗る事にした。
◇◆◇◆ ◆◇◆◇
時は進み、十六夜が持ってきた水樹の苗を貯水池に植え終え、ルフレはジンに案内されてコミュニティの宝物庫に来ていた。
理由は白夜叉との決闘で破損してしまったサンダーソードの代わりとなる武器を探すためだ。
「ここには伝承や逸話に残る武器や備品が幾つかありました。三年前の魔王との戦いでレプリカを含めてほとんどなくなってしまい数はありませんが、武器として扱える物はあると思いますよ」
ジンの言う通り、宝物庫の中はほとんど空と言っていい状態だった。
宝物庫の片隅に申し訳程度に置かれている物を物色し始めるが、使い道が全く分からない物や欠損が激しくほとんどガラクタと言っていいものしかなく、武器どころかマトモに使えそうな物すら残っていない。唯一見つけた強度の高い
武器を使う上で一番大事なのは強度もそうだが、それが手に馴染むかどうかである。どんな宝剣を使っていても、武器に振り回されているようじゃ
「他にはないかな? 此処にある物はどうにも僕には合わない」
此処にある物以外はないということは分かっているが、これから先も白夜叉の時程とは言わないが激しい戦闘があることを考えるとそう聞かずにはいられなかった。
ジンは少し困った顔をして少し考え込むと、突如何かを思い出したような顔をして宝物庫の壁を触り始めた。
「そう言えば、確か黒ウサギが"宝物庫には仕掛け扉がある"と言っていたような・・・・・・」
言いながら壁のブロックを一つ一つ押して確認していく。一つだけ他のブロックとはほんの少しだけ色が濃いブロックに手が当てられ、それを軽く押すとガコンッ、という重い音を響かせて壁が下に下がって行く。
扉の先は神殿のような空間になっていてとても広い。地面は時の流れを感じさせない白い大理石となっており、等間隔に柱が並んでいて、先には一本の剣が台座の上に突き刺さっている。
明らかにこの空間だけ異質だった。異質だったがその空間の神聖さを壊す異質な物は台座に突き刺さっている剣だ。
「どうして・・・・・・」
その剣を見たルフレはうわ言のように呟いて台座の下に歩み寄って行く。近づくにつれて剣の色や形が鮮明になってくる。
刀身は周りの空間とは真逆で夜よりも闇よりも濃い漆黒、刃の部分は禍々しい紫、鍔と柄には血のような紅いラインが入っており、鍔の中心にはポッカリと穴が開いている。
神聖な雰囲気をぶち壊す異形の剣にルフレは見覚えがあった。
「ファルシオン・・・・・・」
それはルフレの友と未来から来たその子供が使っていた神竜ナーガの力を顕現させる剣。そしてその剣は世界に一振りしかないはずなのだ。
箱庭がルフレのいた世界とは違うと言われればそれまでだが、作られた目的が無い。ファルシオンはナーガから力を授かり、その力で邪竜ギムレーを封印するための剣だ。
色はまったく違うが形はルフレの知っているファルシオンと寸分違わず同じ。神剣ファルシオンを"光"と例えるなら目の前のファルシオンは"闇"だ、姿形は全く同じでも合わせ鏡のように決して相容れない存在、そんな物を目の前の剣からは感じる。
「どんな伝承や逸話から生じたギフトかはわかりませんが、この剣は今の"ノーネーム"が立ち上げられるよりもずっと昔にあったそうです。扱える人も、銘を知っている人も、ギフトカードに収納できた人すらいません」
ジンの言葉を聞きながらルフレはおもむろに剣の柄を握り台座から引き抜いた。剣は滑るように台座から抜き放たれてその全貌を露わにする。
軽く振っても違和感は全く感じない、むしろサンダーソードより手に馴染む感じだ。
懐から取り出したギフトカードをおもむろに剣に翳すと、剣は水樹の時と同じように光の粒子となってルフレのギフトカードに吸い込まれていく。そして粒子が全部ギフトカードの中に入ると、"????"の下に新しく今しまった剣の名称が刻まれた。
――――"魔剣ファルシオン"
その剣は形だけでなく、銘までも友の世界を救う神竜の剣とは合わせ鏡になっていた。