『ギフトゲーム名 "ハンティング"
・プレイヤー一覧 久遠飛鳥
春日部耀
ルフレ
ジン=ラッセル
・クリア条件 ホストの本拠内に潜むガルド=ガスパーの討伐
・クリア方法 ホスト側が指定した特定の武具でのみ討伐可能。指定武具以外は"
・敗北条件 降参か、プレイヤーが上記の勝利条件を満たせなくなった場合。
・指定武具 ゲームテリトリーにて配置。
宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗の下、"ノーネーム"はギフトゲームに参加します。
"フォレス・ガロ"印』
ギフトゲーム当日、フォレス・ガロの居住区の門柱に貼られた羊皮紙には今回のゲーム内容が記されていた、しかしその内容はあまり良い物とは言えない。
「ガルドの身をクリア条件に・・・・・・指定武具で打倒!?」
「こ、これはまずいです!」
ジンと黒ウサギが悲鳴のような声をあげる。飛鳥は心配そうに問う。
「このゲームはそんなに危険なの?」
「いえ、ゲームそのものは単純です。問題なのはこのルールです。 このルールでは、飛鳥さんのギフトで彼を操る事も、耀さんのギフトで傷つける事も出来ない事になります・・・・・・!」
「・・・・・・どういうこと?」
「"
「すいません、僕の落ち度でした。初めに"契約書類"を作った時にルールもその場で決めておけばよかったのに・・・・・・!」
ルールを決めるのが"主催者"である以上、白紙のゲームを承諾するというのは自殺行為に等しい。紙に書かれた文面で絶対に逆らうことのできないルールを作る事ができるということは、自分に都合のいいルールを作ることが幾らでも可能だからだ。
ギフトゲームに参加した事がないジンは、ルールが白紙んおギフトゲームに参加する事がいかに愚かな事か分かっていなかった。
「敵は命がけで五分に持ち込んだってことか。観客にしてみれば面白くていいけどな」
「気軽に言ってくれるわね・・・・・・条件はかなり厳しいわよ。指定武具が何かも書かれていないし、このまま戦えば厳しいかもしれない」
「そうか? 我らが軍師様はもう何か考えてるみたいだがな」
言われて飛鳥は契約書類を覗き込んでいた顔を上げてルフレの方を見てみる。ルフレはいつもと同じように顎に手を当ててギフトゲームの勝利の仕方を思案し始めていた。
ルフレの頭の回転は、まだ出会って日は浅いが嫌と言う程見せつけられてきた。しかし今回は幾ら何でも厳しいだろう、そう思った矢先。
「このゲーム、案外楽に終わらせられるかもしれない」
本当にこの青年の頭はどうなっているのだ? ルフレの発言は時々同じ人間であることを疑わせるような事を平気で言ってのける。
飛鳥も耀も十六夜も、決して頭が悪いわけではない、寧ろ十六夜なんかは博識だ。しかしルフレは次元が違う、知識と閃きと言った己の持つ頭で戦場の行方を操っていたのだ。この場に居る、というより半端な知識しか持っていない者では彼の足元にも及ばないだろう。
「さ、早く行こう。罪人には罰を、それが世界の常だ」
臆することなく門を開け放つと、四人はルフレを先頭に居住区の中に入って行った。
◇◆◇◆ ◆◇◆◇
「ガルドは恐らく本拠に居る。そして僕達四人とガルド以外はゲームに参加していない、この辺りは緊張せずに行こう」
「あら、どうしてそう言い切れるのかしら?」
「入口付近で不意打ちをしてこなかったからさ。僕達が門の中に入った瞬間に襲撃すれば間違いなく僕達は死んでいた、当然だよね、向こうの身体には指定武具以外では傷さえも付けられないんだから。そして部下がいないのはルールには"指定武具以外は
「それなら他の建物に潜んでる可能性もあるじゃない。それはどうなのよ?」
「指定武具があるんだから構造を把握しきれてない建物よりも自分の本拠に隠した方がいい、そしてそれを放って別の場所で待ち構えるよりも指定武具の前で守護していた方が守りとしては一番硬い構えになる。ここまで言えばアスカも指定武具がどこにあるかわかるよね?」
「つまり、指定武具は本拠にあって、その前にガルドがいる。そういうことね?」
「その通り」
話してる間に耀が鷹の目を用いて偵察を終え、ルフレの推測が当たっていたことに三人は感嘆の息を漏らした。
一同はルフレの推測の下、警戒は最小限に、しかし緊張は緩めずに本拠へ足を進めた。侵入を阻むように道を侵食している木々はまるで命じられたかのように絡み合っている。
「見て。館まで呑みこまれてるわよ」
"フォレス・ガロ"の本拠に着く。虎の紋様を施された扉は取り払われ、窓ガラスは無惨に砕かれている。豪奢な外観はツタに蝕まれて塗装もろとも剥ぎ取られていた。
「ガルドは二階に居た。入っても大丈夫」
促されて中に入ると、内装も酷かった。外のツタが内部まで侵食し、贅を尽くして作らせた家具は打倒されて散在して荒れ放題である。
流石に四人はこの舞台に疑問を持ち始めていた。
「この奇妙な森の舞台は・・・・・・本当に彼が作ったものなの?」
「・・・・・・・分かりません。"主催者"側の人間はガルドだけに縛られていますが、舞台作るのは代理を頼めますから」
「にしても雑な仕事をするよね。ガルドは森の舞台という自分の持つギフトに有利な舞台で戦うと言うのに奇襲はしない、それどころか罠の一つもなかった。本拠だって荒らす必要はないのにこんなに滅茶苦茶だ。適当にそれらしく見せて、ジン君の言う"代理人"が僕達をこのゲームで試そうとしている、という捉え方もできる」
「どうしてそんな事しようとするの?」
「そこまでは分からないよ。僕にできることは現状を観察して可能性を推測していくだけ、見たことのない相手の心情を理解するなんてできないさ」
一階にはガルドの姿が見られないため、ここには指定武具はないと分かっているが、それでも念には念を入れて一階を散策する。もしかしたら爪の先位の小さな針かもしれないし、人が持ち上げるのが不可能な鉄塊という可能性だってある。例え勝負には関係ない違和感や、ほとんど0に近い可能性だって慎重に事を運んで損をすることはない。
部屋の隅から隅まで探して指定武具らしい物がなかった所を見ると、やはり指定武具はガルドの居る二階にあると見てまず間違いないだろう。
「さて、ここまでは推測通りと言った所か。けど、重要なのはここから先の動き方だ。さっきも言った通り、恐らくガルドは指定武具を自分の目の届くところに置いている、となれば指定武具は必然的にガルドのいる部屋にあるということだ」
言葉を一旦区切り、ルフレは全員の顔を見渡す。
「そこで役割を三つにわける。一つ目はガルドの注意を引く役、二つ目は隙を見つけて指定武具を取る役、三つ目は二つ目の役を守る役。なんの捻りもないありきたりな作戦だけど、互いに会って日が浅い僕達では変に凝った策を実行しようとするとかえって身を危険に晒す。異論はないかい?」
三人は頷く。彼女達としてもルフレの思いつく策について行ける自信はまだない、一番堅実かつ安全性が期待できるベタな方法は三人にとっても有難かった。
「よし、それともう一つ。ジン、君はここで退路の確保をして待機しててくれ」
「ど、どうしてですか? 僕だってギフトを持っています。足手まといには」
「厳しいようだけど君も一緒に来ると戦いが難しくなる。今から行われるギフトゲームは正真正銘、命を賭けた殺し合いだ。力もそうだが、何より君には経験が圧倒的に不足している。誰かを守りながら戦う余裕はない、理解してほしい」
「・・・・・・わかりました」
理に敵った回答だが、それでもジンは不満だった。しかしルフレの言う通りこのギフトゲームでは死亡もありえる。その可能性を聞いて戦いはしたくない、でも三人について行きたいというのは些か都合が良すぎる。そんな考えのまま二階に上がればそれこそ足手まといだ。
胸の内にそんな矛盾を抱えたままジンは階下で待つ事にした。
三人は根に囲まれた階段を物音を立てずにゆっくりと進む。階段を上がった先にあった最後の扉の前でルフレは三人の役割を簡単に割り振る。
「囮は僕、指定武具の確保は耀、耀を守る役を飛鳥、ガルドを攻撃するのは指定武具を持っている人という事でいいね?」
ルフレの言葉に飛鳥と耀は頷く。それを確認するとルフレは扉に手を当てて勢いよく押し開ける。すると中から、
「ギ・・・・・・」
「――――・・・・・・GEEEEEYAAAAAaaaa!!!」
言葉を失った虎の怪物が十字剣を背に守って立ち塞がった。
◇◆◇◆ ◆◇◆◇
目にも留まらぬ突進を仕掛ける虎を受け止めたのは囮役を引き受けたルフレだった。ルフレは部屋に入る前に予めギフトカードから取り出した魔剣ファルシオンを眼前に掲げ、刀身で正気を失ったガルドの突進を受け止めた。
「事前に決めた通り、二人は自分の役目を!」
その言葉に飛鳥と耀は視線で答えて指定武具であろう銀の十字剣の確保に向かう。今のガルドは先日のワータイガーではなく、赤い瞳を光らせる虎の怪物その物となっていた。階段を守っていたジンはガルドの姿を見るや否や、彼の身に何が起こったのかを理解する。
「鬼、しかも吸血種! やっぱり彼女が」
「今は戦闘に直接関係ないことはこの場に持ち込まない! ジンは最初に言った通り下がってて!」
突進をなんとか押し返し、ガルドの足元に風魔法を放つ。
ガルドは"契約"によって守られているが、それはガルド自身に通じないだけであってギフト自体は正常に機能する。そしてガルドは理性を失い本能で動く獣となっている、つまりダメージを与えることはできなくとも本能に刻まれた恐怖はダメージを受けないと分かっていても防御や回避行動を取らせて動きを鈍らせることができるということだ。例えば視界外からの衝撃、火、記憶の根元に植え付けられた恐怖など、とにかく色々とある。
せっかく自分が圧倒的優位に立てるルールだというのに、これではほとんど意味が無い。
(本当、雑なゲームメイクだ)
勝負の最中だと言うのに思わずそんな事を考えてしまった。だがルフレにとってそう思わずにはいられない程雑な物だったのだ。
耀と飛鳥がガルドの後ろに回り込もうとすると、ガルドはそちらに反応して目の前のルフレよりも十字剣を取ろうとする二人に狙いを定めた。
「目の前の敵から目を逸らすのは致命的なミスだぞ!」
その隙を見逃さず、ガルドの死角からファルシオンの一撃を浴びせる。斬撃は確かにガルドに命中したが、契約によって守られているためガルドの身体に傷はつかない。しかしいきなりの衝撃によってガルドの注意を引き付けることに成功した。今はそれだけで十分だ。
「
飛鳥の意志を持った言葉が耀の身体を剣を取るように動かし、動物のギフトで強化された身体がさらに耀の身体能力をブーストする。
飛びあがり、十字剣を取るとそのままガルドの背を切り裂こうとする。
「GEEEEEYAAAAAA!!」
「春日部さん!」
「ウィンド!」
剣が抜けた時の音に反応したガルドが、目の前の恐怖を上回る種としての恐怖を感じ取り背中を切り裂こうとする耀を喰らわんとして飛びかかる。それを見て飛鳥は悲鳴に似た叫びを上げ、ルフレは耀に風魔法を当てて軌道から外す。
少々乱暴なやり方だったが、ギリギリ無傷で済んだ。
「完全にルフレ君を無視して十字剣を狙いに来てるわね」
「でも剣は取った、どうにかなるはず」
ガルドは飛鳥と耀に警戒心を向け、ルフレには背を向けて完全に眼中に入っていない。しかしそれでも存在自体は忘れておらず、そこだけが意志を持ったように尻尾が振るわれてルフレの行く手を阻む
剣を取った以上、囮役の役目はほとんど終わったような物だが、それでも人数が多いに越したことはない。加えてルフレはこの中で唯一命のやり取りをする本当の戦いという物を知っている、戦闘に加われないというのは手痛い。
「私達だけでどうにかしないと、春日部さん、行ける?」
「傷は無いから大丈夫。でもどうするの?」
「ルフレ君ほどじゃないけど、私も少し作戦を考てみたの。一瞬だけ隙を作るからその間に攻撃して」
「わかった」
耀が頷くのを見て、二人はガルドを正面に捉える。相手はこちらの様子を窺っているだけでまだ仕掛けてこない。
「
飛鳥の一喝が部屋中に響くと館の内部にまで侵食していた鬼種化したツタや根が一斉に伸びてガルドの動きの自由を奪いに掛かる。
先も述べた通りガルドの身体は"守られているだけ"であってギフト自体は正常に機能する。そして動きを制御するギフトも"契約"によって守られているガルドには通じない。しかしそれはあくまで直接的な話であって関節的に動きを制御することはできる。
鬼種化しているといってもガルドの動きを制御しているのはただの木だ、傷をつけることができなくても自由を奪うことはできる、それがルールに潜む穴だ。
四肢をツタや根によって縛られて自由を制限されたガルドに向かって耀が十字剣を振りかざし、左前足の肩口を切り裂く。ようやく明確なダメージを与えたことに緊張が少し緩むが、このゲームはガルドを討伐する事がクリア条件である。
「GEEYAAAAaaa!!」
力ずくで右足の拘束を解き、その巨木のような足を油断したように向かって振り下ろした。
「っ!!」
強烈な一撃を受けて壁まで吹き飛ばされ、鋭い爪によって切られた左腕からは鮮血が垂れる。油断が招いたのは決して軽くない傷、さらに衝撃によって剣を落としてしまうという正に絶望的状況だった。
ガルドを縛っていた拘束も引き千切られまた最初と同じ、もしくは最初よりも酷い状況になってしまった。
吹き飛ばされた耀を心配し、彼女の下まで駆け寄る飛鳥
「春日部さん! 大丈夫!?」
「大丈夫じゃ・・・・・・ない。凄く痛い。ちょっと本気で泣きそうかも」
そんなやり取りをしてる間にガルドは追い打ちをかけるように飛鳥と耀に向かって飛び出す、しかしその牙が二人に届く前にガルドと耀、飛鳥の間に落ちていた十字剣が回転しながらガルドに向かって一直線に飛んでいく。それを横に飛んで避けると、ガルドの後ろにいた人物、ルフレが回転して飛んできた十字剣を掴み取った。
「GEEYAAAaaaa!!」
ガルドは手負いの耀を無視して十字剣を持つルフレに向かって飛びかかり、右前足の鋭い爪を振り下ろした。ルフレはそれに動じず、ファルシオンで跳ね上げる、そして左手に持った十字剣で目の前に迫ったガルドの喉を貫いた。
破魔の力を内包した銀の十字剣は虎の怪物の喉をいとも簡単に突き抜け、貫通した切っ先は光を浴びて銀の光を放つ。
剣を捻り、引き抜くとガルドは呻き声にもならない悲鳴を上げて絶命した。
「今回の傷は二人の軽率な思いつきと余裕から生じた油断が生んだものだ。これから先は二度と同じような事を繰り返さないようにその傷の痛みをよく覚えておくといい」
ルフレが放ったその一言は勝利を喜ぶ物でも負傷を悲しむ物でもなく、軽率な考えと行動をした二人に対する怒りの言葉だった。