ガルドとのギフトゲームを終え、本拠に戻ったルフレは本拠の地下三階にある書庫で本を読んでいた。何故そんな事をしているかと聞かれれば、それは今後の為だ。
ギフトは様々な伝承から生じる、そしてギフトゲームの謎解きのヒントもその伝承の中に入っている、そのためゲームクリアや相手のギフトの特性を知る一番の近道は様々な伝承を知ることから始まる。
しかしルフレのいた世界と箱庭の伝承には全くと言っていいほど繋がりが無い。軍師でありながら策を立てられないというのは本末転倒だ、だから別の世界の伝承や伝説、歴史や童話に至るまで調べられるだけ調べて知識を詰め込んでおこうと思い、このように本を片っ端から読み漁っているのだ。
苦ではない、寧ろ自分の知らないことを知れて楽しく思えてページを捲る手も自然と早くなる。
「ふぅ・・・・・・さすがにちょっと疲れたかな」
読んでいた本を棚に戻し、上に戻ろうとしたところで本棚にある一冊の本が目に入った。別段特質するところもない他の本と同じようなものだが、何故かその本に目を惹かれた。
手に取って本棚から引き出すと、突如ガコンと言う音が階段の方から聞こえてきた。
階段の方に歩いて行くと、来たときには無かったさらに下へ続く新たな階段が出現していた。どうやら距離は長いようで、覗き込んでも階段が延々と続いている。
「どういうことだ?」
本を開いて内容を確かめようとしても、ページは全て白紙だった。どうやらこの本は隠し階段を出現させるためのスイッチのようだ。
白紙の本を持ったまま現れた階段を下りること五分、ようやく地面に着いた。
その部屋は階段以外はほとんど人の手が加えられておらず、人工的な物と言えば壁に幾つか備え付けられた燭台くらいだ。燭台には青い炎が灯っており、暗い部屋をぼんやりと照らしている。
ふと気が付いた。部屋を照らしている光源は燭台の炎だけではない、自然の物とはまた違う淡い光が暗い部屋の奥で輝いており、光源体の形を明瞭にしている。
門だ。それもかなり巨大な、部屋の天井にまで到達するくらいの大きさである。
「異界の門!?」
それはルフレが元の世界で異界に渡る手段として用いた異界の門だった。門を潜ればどこか別の異界に渡ることができ、潜ってきた門を潜れば元の世界に戻れるというとても不思議な物である。
この門を潜ればルフレは元の世界に戻ることができる、しかし潜ることができればの話だ。異界の門は扉を固く閉ざしており、押しても引いても門が開く気配はない。
「目の前に元の世界に戻れる手段があるっていうのに、ここでまた行き止まりかぁ」
とにかく元の世界に戻るための手段を見つけただけでもルフレの本来の目的に近づいた。今はせれだけでも大きな収穫だ。
来る時と同じ時間をかけて書庫に戻り、白紙の本を元あった場所に戻すと地下四階に続く階段は閉じられた。
◇◆◇◆ ◆◇◆◇
「帰ってきたと思ったら黒ウサギは思いつめた表情で部屋に戻っちゃったし、アスカもアスカで神妙な顔つきをしていたし、出かけた先で一体何があったんだい?」
ルフレが書庫から上がって来ると十六夜、飛鳥、黒ウサギの三人が"ノーネーム"の本拠からいなくなっており、帰ってきた黒ウサギと飛鳥の様子は明らかに変だった。その原因を十六夜に聞いてみると、彼は詰まらなそうにいきさつをルフレに説明した。
まず、ルフレが地下の書庫に居る間にノーネームの元仲間である吸血鬼のレティシアという少女がノーネームに訪れた。そして彼女は"ペルセウス"と言うコミュニティの所有物となってしまい、箱庭の外に売られてしまうという。サウザンドアイズの支店で"ペルセウス"のリーダーであるルイオスという人物に交渉を持ち掛けたが、相手はそれに応じなかった。しかし、ルイオスは黒ウサギを差し出せばレティシアを返すと言ってきたのだ。期限は一週間
箱庭のウサギは仲間のためなら煉獄の炎に焼かれるのが本望だと言う。黒ウサギはレティシアを取り戻すために自分を犠牲にしようか考え、飛鳥がそれに怒って今のような何とも言えない空気が流れている。というのが十六夜の説明だった。
「確かに、それはなんとも言えない物だね。僕達が何と言おうがこういった場合で最終的決断をするのは黒ウサギ自身だし、助けなかった時は仲間が売られる。もし自己犠牲を選んだ場合は助けたレティシアっていう娘も含めてコミュニティにいる子供達が悲しむ悲しむ。黒ウサギにとってはどちらも酷な選択だね」
「ああ、ったくホント詰まんねえ真似しやがる」
「そう言えば、イザヨイは何に対してそんなに不機嫌なんだい?」
「ペルセウスが開催するゲームは元々俺が参加するゲームだったんだよ。それを私情で中止すんのはエンターティナーとして五流以下だ」
「成る程、それで。でも、ゲームに参加することは可能だよ」
「どういうことだ?」
「君達が出かけてる間に書庫で色々と調べていたら箱庭のギフトゲームの詳細についてちょっと面白い事を見つけてね。力のあるコミュニティは自分達の伝説を誇示する為に、伝説を再現したギフトゲームを用意する場合があるんだ。アーサー王の聖杯伝説やヘラクレスの十二の試練、ペルセウスのゴーゴン退治みたいなね」
それはルフレが書庫で伝説を調べている時に見つけた箱庭で開催されるギフトゲームの種類や一部のコミュニティが開催するゲームの種類についてだった。
掲示された二つのゲームをクリアし、その証を示せばコミュニティの意志に関係なく伝説と旗印を賭けたギフトゲームに挑戦できるのだ。そのゲームを上手く利用すればレティシアを取り戻すことが可能かもしれない。
「へぇ? つまり伝説通りグライアイとクラーケンから挑戦権を奪えばゲームに参加できるってことか?」
「ああ、けど、ちょっと問題があるんだよ」
「問題?」
「挑戦権を取れるギフトゲームはこの場から凄く離れている。十六夜の脚でも二日は掛かる、そしてクラーケンとグライアイが開催するギフトゲームの場所も離れているから移動時間に一日、戻って来るのに二日、二つのゲーム時間を合わせて一日と考えるとかなりギリギリだ。取引は今日から一週間後なら今から移動しても間に合う確率は0に近い。ジンに聞いたから移動時間の方は恐らく間違いはないと思うよ」
「じゃあゲームの時間を短縮するしかねえな」
「いや、悪いけど今のイザヨイに二つのギフトゲームを任せることはできない」
「あ? どういうことだよ?」
ルフレの言葉に不機嫌そうに疑問を投げかける十六夜、ルフレは彼に対して淡々と言ってのけた。
「君は自分の力に慢心している。そしてその力を上回る存在に出会ってもプライドが邪魔をして自分の弱さを正面から見ようとしない。白夜叉の時がいい例だ、予想外の相手に会った時君はまたその時と同じ繰り返しをして間違いを正す努力を怠ってしまう」
「俺が弱いとでも言いたいの――――」
言い終わる前にブォンッという風切音を立てて漆黒の剣が十六夜の首筋に当てられる。紫の刃が今にも十六夜の首を刈り取らんばかりにギラリと光り、冷たい鉄の感触が十六夜の意識を支配する。刃が当てられたところをツーと一筋の血が伝うが、それすらも意識の中には入らない。
「君は油断していた。剣を突き立てる前に殺気を出して明確に敵であるということを示していたというのにだ。それは自分の方が相手より格上であると慢心していたから、油断していたからだ。君は今一度死んだんだぞ? それでも君は自分が弱くない、予想外の事に対処できる、そう言い切れるのか?」
「・・・・・・・・・・・・わかった、素直に認めるよ。俺は弱い、油断もしてた、だから手伝ってくれ。これでいいか?」
「態度に問題があるけど、まあいいか」
「それで、どうすんだ? 俺とルフレで手分けすりゃどうにかなるだろうが、移動手段が無いんじゃ俺一人よりも時間が掛かるぞ」
「方法はあるんだ、でも実行に移せるかどうかが分からない」
その言葉に十六夜は疑問符を浮かべるが、ルフレはその疑問に答えず「ついてきて」と言って地下に続く階段を下りて行った。
地下三階の書庫に降りると一つの本棚の下へ一直線に歩いて行き、一冊の本を本棚から出すと今日二度目の仕掛け階段が出現した。
「さ、こっちに来て。降りた先に色々な可能性がある」
言われるまま十六夜はルフレの後をついて行く。長い階段を降りた先にはルフレには見慣れた、十六夜にとってはこれ以上ない程面白い物である世界を渡る扉、異界の門があった。
「この門が開けば移動手段どころか戦力の方も心配いらなくなるんだけど・・・・・・」
「オイオイなんだよこれ。こんな面白そうな物があったのかよ」
「これは異界の門と呼ばれる世界を渡るための扉なんだ。この門を潜れば元の世界に戻ることも仲間を連れてくることも可能なんだけど・・・・・・」
しかし、少し時間がたっただけでは扉は開かない。未だ扉を固く閉ざしたままだ。
門が開けばペガサスやグリフォンなどの移動の時の足としても役目を果たしてくれる幻獣だけでなくルフレの所属していた軍の兵士たちもノーネームに連れてくる事もできる。さらに付け加えれば、門が一度開けば自由に箱庭と元の世界を行き来することだって出来る。
まさに不可能を可能にする夢のような扉、それが異界の門だ。だが開いていないとなってはそれも夢の域を出ない。
「うう~ん・・・・・・」
頭を捻ってどうするか考えるが妙案が浮かんでこない。そもそもこういった物は人の手でどうにかするのではなく、自然と時が来るのを待つのが基本である。だが今はそんなことは言っていられない、どうにかできなければ仲間が売られてしまうのだ。
どうしたものかと頭を捻ること数分、他の方法を探そうかと考え始めたその時、突如異界の門が強く光を放ち始め、ルフレも十六夜も表情を驚きの物にする。
光は目を覆いたくなるほどの強さを放っても尚収まることを知らない。門の中心に魔法陣の様な物が現れると扉はバンッ! と勢いよく開かれる。開かれた門の先に三つの人影が見えた、影はこちらに近づいてきてだんだんと大きくなってくるが、それでも全て背丈は十歳前後位だ。
全ての人影が門を出ると異界の門は開いたときと同じくバンッ! という大きな音を響かせて再び扉を固く閉ざしてしまった。閉ざされたのと同時に光も収まって行き、部屋全体を照らしていた異界の門は、最初の時と全く同じ淡い光で暗い部屋をぼんやりと照らし始める。
まだ目が慣れていないため門から出てきた人影の正体を見ることはできなかったが、耳に届いた声はとても懐かしい物だった。
「ルフレーーー!!」
姿を確認しなくともわかった。それは彼が生涯の愛を誓った人、それは彼が最も幸せであるようにと願った人。
胸部に軽い衝撃が走り、すぐに腹部が圧迫される感覚を覚える。ルフレはその存在の背中に手を回し、あることを確かめるように強く抱きしめて名前を呼んだ。
「ノノ!」
名前を呼ばれたノノは顔を埋めたまま何度も頷いて涙交じりの声で彼女も名前を呼んだ。
「ルフレ!・・・・・・ルフレ!・・・・・・」
「父さん!」
「お父さん!」
ノノに続いて後の二人もルフレに飛びつく。ルフレはその二人も受け止めて名前を呼んだ。これが幻でないように、存在がある事を確かめるように。
「マーク! ンン!」
ルフレの頬を一筋の涙が伝う。会えないと思っていた家族とこんなにも早い再会をし、ずっと一緒にいられるというのはルフレにとって最高の幸せだった。
しばらくの間、いきなりすぎる急展開に置いてけぼりを食らっていた十六夜が声を掛けにくそうな表情で口を開いた。
「あー・・・・・・。状況を説明してもらえると助かるんだが」
その言葉を聞いてルフレは顔を上げて十六夜の方に向ける、手は未だに三人の背に回されていてしっかりと抱きしめている。
「ごめん、感極まっちゃって。三人は元の世界にいた僕の家族なんだ」
「家族? そういや前にそんな事言ってたな。ってことはそいつらはお前の子供か?」
十六夜の言う"そいつら"とは、今ルフレに抱き着いているノノ、ンン、マークの三人の事である。確かに一見しただけでは三人ともルフレの子供のように見えるが思い出してほしい。彼は子供は
その事について話そうとルフレが口を開く前に顔を
「ノノはルフレの奥さんだよ!」
この言葉に十六夜絶句、そして冷たい視線をルフレに送る。まあ当然と言えば当然だろう、ノノは見た目に反して千歳を超える長寿だが、外見、言動、仕草の全てがあまりにも子供っぽい。単純な年齢で考えれば結婚は可能だろう、だが見た目を踏まえればそれは常識的に考えて犯罪ギリギリのラインだ。
「お前、マジかよ」
「ああいいいよ。そういう反応にはもう慣れたから特に感じる物はないよ」
「オイ待てコラ、流石にスルーはないだろ。せめてなにか反応しなきゃボケる意味がねえだろ」
「ボケだったんだね。今の」
とにかくこれで手札は揃った。後はそれを実行に移すだけだ。
「まあとにかくだ、これでギフトゲームの方はどうにかなる」
「どうにかなるって、お前の家族が来ただけだろ」
「そこが重要な点なんだ。明日になればわかるさ」
ルフレの言葉を聞いて、腑に落ちないといったような表情をしながらも十六夜は階段を上って行った。それを見送るとルフレは三人から手を離して異界の門に近づいて扉を強く押してみるがびくともしない、自分の方に引いてみるがやはり動かない。
現段階で門が開く条件は二つ考えられる。一つは特定の時間、特定の日にちにのみ開く。もう一つは向こう側からの一方通行でこちら側から世界を渡ることはできない。この二つの条件が満たされた時、もしくは一方が満たされた時にのみ門は開かれるというのがルフレの考えだった。
(その事についてはまた今度かな?)
一旦考えを止め、ノノ、ンン、マークの三人の方に向き直る。彼女達はここが何処か分かっていない、ならば説明が先だろう。
「みんなに話しておくことがあるんだ」
「話しておくことですか?」
「異界の門を潜ってきたから分かると思うけどここは僕達が居た世界ではなく、"箱庭"という異世界なんだ」