オラリオ総異端児化計画   作:夜月工房

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前々回から前回までのあらすじ

ギルド勤務一日目
 ノーカさん、正体を隠すためトラスーツにて出勤。ギルドの珍獣と噂になる。
 雑務をこなしていたら書類の不備に気付き、不正が発覚。調査の担当者に立候補。調査したら規模が大きいので自由裁量権を申請。

ギルド勤務二日目
 大事なので自由裁量は認められなかったが、今回の不正案件に関してのみ決裁権を獲得。
 拡大解釈して各種提出用書類の書式を作成、各組織へ現物支給するため印刷所に大量発注を掛ける。
 オラリオの事情に疎いので他の職員にも協力を仰ぎ仕事を割り振り始める。その間隙を突いてギルド内部の不正調査もこっそり始める。

ギルド勤務三日目
 次々発覚していく杜撰な不正とそれを見逃す管理とにキレ始め、トラスーツからかぼちゃマスクと妥協してライダースーツとに着替えてオラリオに反省を促すダンスを踊る。ギルドの奇行種と噂になる。
 トラスーツに着替え直してから何事もなかったかのように仕事を始めるが、一部職員から精神疲労を心配する声が囁かれ始める。
 ギルド内部の不正についてまとめた書類をお気遣いメモを添えた上でロイマンの机に目立つように置く。

ギルド勤務四日目
 遠回しに休暇を推奨される。


第十話:暴蛮者――お前なんだか擬人化したアンジャナフの特異個体みたいな二つ名してるよな――

 ニンジャ……それは古き時代に猛威を振るい、カラテによる闘争と支配を行っていた半神的存在である。その記録は神話や伝説の形でしか残っておらず、故に、現代ではフィクション上の存在との見方が優勢であり、事実を知る者は少ない。そればかりか、特定地域を除いては言い伝えられてすらいなかった。

 だが、おお、見よ! このオラリオには、否、今や地上の至る所に神の姿がある。そして神はモータルを眷属に変え召し抱えているではないか! 眷属の多くは自ら望んでそう成っている。だが、全てでは決してない。或いは今日もどこかで……ブッダよ、あなたは眠っているのですか。いつ起きるのですか。

 賢明なる読者諸氏ならばお気付きだろうが、『神の恩恵(ファルナ)』の形で神血(イコル)を取り込んでいる眷属は言わば半神的存在と言えなくもないので実際ニンジャ。そう、ニンジャだったのだ! 即ちハナミ儀式とは『神の恩恵(ファルナ)』を刻むためのものであり、【ファミリア】とは各々の神が構えるニンジャクランのことなのだ!

 眷属よ、カラテを鍛えろ! チョップを繰り出せ! スリケンを生み出すのだ! ダンジョン・ニンジャクランがマッポーカリプスを引き起こす日は近い。生き抜くためにはカラテあるのみ。ノー・カラテ、ノー・ニンジャ。カラテを磨けば実際世界が変わる! カラテだ、カラテを鍛えるのだ! イヤーッ!

 

 

 

 

 

第十話:暴蛮者(ヘイザー)――お前なんだか擬人化したアンジャナフの特異個体みたいな二つ名してるよな――

 

 

 

 

 

 というかあちらではゼウスだのカグヅチだのディアナだのはニンジャである。絶対に成り代わるなよ特にゼウス。等と前世の(或いは別世界の)記憶があったばかりに熱暴走からのフリーズをしそうになっていた思考をニュートラルに戻すノーカ・ウント。繫げればノーカウントだが、氏名を入れ替えるとウントノーカ。平仮名と漢字とに変換すればうんと農家。実に農家というわけだ。どうやら未だ冷静とは言い難いらしい。

 

 だがしかし、である。ドラッキー・アルマは元のモンスターが蝙蝠に近いせいなのか、どこか暗殺者(しかも何故かどことなく和風)を想わせる特徴を持っており、とある人物からは実際に忍者っぽいと評されている。なので、ディックスの閃き自体はニアピン賞といったところだ。何故今それを言ったという疑問は残されているのだが。

 

「えーと?」

 

「……はっ!? げふんげふん、んんっ!」

 

 唐突な忍者発言に首を傾げるという、余りにも人間らしい反応を見せる化物を目にして、ディックスは正気を取り戻した。空気的には取り返しがつかない気もするが、鋼の精神を以て立て直すため軽く頭を振ってから咳払いで調子を整えて

 

「とんでもないな、化物」

 

 不敵で皮肉な笑みを浮かべながら惨劇を繰り広げた者への侮蔑を吐き捨てる様に言う。首を振る動きが薄皮を破る寸前まで食い込んでいた刃で容赦なく引っ掻く形になったため、彼の首の後ろ側は血だらけだ。幸い、目の前にいる化物の方からは見えていない。

 背後にいるドラッキー・アルマからは丸見えなわけで、突き付けていた武器を引くべきか悩んだが、直後の台詞が主と仰ぐ少女への侮辱であったためそのままにしておいた。何なら小さく手首を回して傷口を抉っていた。ディックスが強い子(二十代)でなくば情けなく泣き叫び地面を転がっていたであろう仕打ちだ。

 

「実は自分でも驚いてます」

 

 言われた側の少女は気にした、そして気付いた風もなく、堂々とした態度で肩を竦めて見せる。

 

「まぁ、何人か身体の一部が欠損しちゃいましたけど、死者は出さずに済みましたからね。殺意を向けられて怖くなった身としましては正当防衛の範囲で片が付きそうで何より、といったところでしょう」

 

 恩恵持ちの一般職も欲しかった事ですし、と続ける化物の言葉は余りにも慣れた人間の様で、どこまでもディックスを苛立たせる。

 

「くそが……!」

 

 自分の命が既に相手の掌の上に乗せられている現状にも構わず、ディックスは呪詛を吐く。背後に控えるドラッキー・アルマの視線が一層温度を下げるが、主たる少女は手を横に振って手出しどころか警戒すら不要だと告げる。

 

「んっ、んんっ……なぁ、ディックス。私達はどうやら多少の……そう、不幸な行き違いからぶつかり合ってしまったわけだが」

 

 親しい友人に語りかけるように、しかしながらどこか芝居がかっており誠意が全く感じられない薄っぺらな言葉を並べながら、馴れ馴れしく小さく上げていたディックスの手を下ろし、肩を組むノーカ。

 ディックスは嫌悪感を隠さないが、さりとて振り払おうと力を行使したところでビクともしないであろう事を予測し、なすがままだ。

 

「前向きに考えようじゃないか。私達は解り合える。お前だって眷属だ、神が口にしたのを聞いたことがあるんじゃないか? 喧嘩をすると――仲良くなれる」

 

「ねぇよ。狂ってんのか――ッ!?」

 

 ほとんど反射だった。背後の薄い気配が一気に濃密な殺気へと膨れ上がり、ディックスは臓腑が押し潰されるような圧を覚えたが、化物の少女が小さく名前を呼ぶと直ぐ様霧散した。

 

「すまんね。有り難いことに愛されてるのさ、それ以上に愛しているが。あー、どこまで言ったっけ?」

 

「……喧嘩すれば仲良くなるとかいう戯れ言だよ」

 

 殺気に中てられて余裕を失ったディックスは一時的に心が折れそうになっており、つい憎しみの対象である化物の少女の問い掛けに答えてしまった。直後、問い掛けは自分ではなく背後の少女を対象に、或いは独り言に近いものだったのではないかと自らの失態に臍を噛む。

 

「そうそう、そうだった……戯れ言、か。だがなディックス。こっちで言うところの極東? の含蓄ある言葉に『雨降って地固まる』というものがある。これは歩いたり物を置いたりする地面は固い方が好ましいという前提の元、雨が降ると地面は一度ぬかるんで悪くなってしまうが雨が上がりお日様が顔を覗かせれば乾いた地面は以前より固くなってしっかりとしたものになっている現象をそのまま言っている。そこから何か悪い事が起きた後は起きる前よりも状態が良くなる場合もあるって例えになった」

 

「今回のこれがそうだって? はっ、ふざけるのも大概にしろよ」

 

「まぁ聞け。持論だがな、世の中はフラクタルだ。合同や相似に溢れている……まぁ、私が言うのは正確な意味とは違うんだがね。人間というか知性体――そう、心を持った対象にしている分にはどちらかと言えば原型論が近いし、体験談や作り話のパターンにも通じる。要は距離やジャンルが離れた無関係に思える場所や文化といった要素なのに共通するものがたくさんあるってことだ。そうだな、例えば……法律、条令、家訓にポリシーみたいなのは場所や規模が違っても似た内容が並ぶし、そのどれもが守らなきゃないものだろう?」

 

 家訓のところでディックスから全方位に殺気が撒き散らされる。地雷を踏んだらしいと察したノーカだったが、家や家族が地雷な者などそれこそ星の数だけいる。先走りそうなドラッキーにウィスパーチャットを繫げて待機をお願いし、ディックスの傍目にも察することができる程に折れかかっていた心が憎悪と怒りとに燃え盛る様を見ていたら、ふと実力者の戦い方というものを体験しておこうと思い付き安易なオリチャーを発動させる。

 

「殺気が漏れてるぞ? だが、いい傾向だ。仲良くなるには喧嘩が一番だからな」

 

 肩に回していた腕を放し、立ち上がらせ、地面に落ちていた槍を拾い、握り締めた拳を解してから槍を持たせ、背を向けて十歩ほど進むと振り返り、話を再開する。この時、ノーカは背を向けていたタイミングで懐から紫色の小石を取り出すと握り締め砕いていた。

 

「家訓なんてのは言ってしまえば決めた奴の勝手な目的を叶えるためのもんだ。家族を守る事もあれば……縛り付ける呪いになる事もある。大抵は数世代で時代の流れ――知識の累積や技術の発達による常識の変化に付いていけなくなるせいで子孫から馬鹿にされて廃れる運命なんだが、新しい知識や技術に適応出来ない年寄りは後生大事にする上に押し付けて来るもんだから若い連中に嫌われる。そんなとき年寄り連中が決まって口にするのが、こうだ」

 

 言いながら、少女は先程まで見せもしなかったハルバードを明らかにスペースの足りない懐から引き抜き、片手で棒回しをして調子を確かめる。長物を扱う者にとっては基本の動きだが、ディックスには妙に危うく見えた。

 解放されたディックスもまた、持たされた自分の槍を振り回して馴染み具合と体の解れ具合を確認する。蹂躙劇を見せ付けられたりプレッシャーを与えられたり怒りのツボを押されたりといった事があったので、コンディションは決して良いものではない。さりとて最悪でもない。十分に動ける。

 

(あぁ、全く嫌になる)

 

 目の前の少女は背中から灰色の翼が二組生えていて、頭の上に光の輪が浮いている。

 鳥の翼は人間でいう腕だ。つまり一対の腕と二対の翼で合計六本の腕を有している。こんなものが人間であるはずがない。脚を合わせたら八本だ。蜘蛛か蛸かでいらっしゃる? そう思ってモンスター扱いして鎌を掛けたが無反応、少なくとも否定はしなかった。

 例の喋るモンスターは、知る限りダンジョンで見掛けるモンスターの姿そのままだった。見覚えのない外見をしているということは、人類の未到達領域――深層のモンスターである可能性が高かった。

 情報が必要だ。そう確信して煽りの一つも入れてやろうとしたタイミングで、馬鹿が短慮を起こした。そうして現れたのは、予想を上回る化物の中でも飛び抜けた化物。その先は蹂躙だ。やはり人間ではない。そう、信じたかった。

 それがどうだ。どこまでも滑らかに言葉を操って、人間社会で暮らして来た様な口振りで、知った風な口を利きやがる。

 家訓という言葉から自分を縛る血の呪いを連想し殺気が漏れたが、意に介さないどころか喧嘩しようぜなどと嘯きながら武器を持たせて。普通なら重要視されるものを扱き下ろし、終いにはおおよそ誰もが知っている老害の定番まで持ち出した。

 

 互いに武器を構えるが、ノーカの構えはディックスから見て隙だらけだった。お世辞にも戦う生物には思えない。生まれた瞬間から人間を襲うための本能が備わっているのがモンスターだ。『異端児(ゼノス)』ともなれば、モンスターの本能とは別に歴戦の戦士を思わせる技巧を備えた者も多かった。こちらが重傷を負った事も一度や二度ではない。もっとも、下手な仲間意識を逆手にとって挑発や人質等で冷静さを奪ってやれば集団相手でも容易く瓦解させられたが……。

 思えば、見た目が知っているモンスターではなく少女のように未発見種の――或いは面影すらないほど元の姿から離れた――人間に近い見た目をしていたら、何か違ったのだろうか。異形の見た目をスキルや魔法と偽られていたら、或いは――騙して資金源にしていたとしか考えられない。執着なく人身売買か、手駒にして同士討ちさせる様を眺め暗い悦びに浸るか、合わせ技か。表に出せない事には変わりないし、見た目がほぼ人間で輪郭が異性となれば下手に近くに置けば怪物趣味などと侮辱されるのは目に見えている。それでも手元に置く選択肢が生まれている時点でディックスはいつの間にか自分が変わっているの、と自覚を持つ。

 見た目はほぼ人間、考え方も癖が強いが十分人間。個人によっては人魔の境界を越えた扱いをしても理解出来てしまう。接すればするほど、忌々しいまでに。

 

(認めてやるよ化物。てめぇは人間だってな)

 

 改めて相対すれば、自然と笑みが漏れていた。その気になれば何もさせて貰えないまま殺される。幾らでも残酷に弄ばれ、壊される。かつて自分が見付けた人語を話すモンスターにしたように。そんな結果になったとして、ただ今までの行いが返って来るだけだ。若しくは自分の番が来ただけだ。それなりに修羅場は潜って来た自負はあり、だからこそ覚悟も決まる。

 

 ほぼ同時のタイミングで飛び出した両者は、同じく声と得物とを重ねる。

 

「「最近の若いもんは」」

 

 互いの穂先を捉えた状態から、両者は武器の質と技量でディックスが、単純な身体能力でノーカが勝っている事を察する。度合いの関係で有利なのは後者だ。

 ディックスが豊富な経験から力の入れ具合や向きを調節すれば、ノーカはあっさりと体勢を崩す。が、圧倒的な身体能力に任せた強引な修正で隙を突く事を許さない。

 ならば、と半身になって槍を引き、相手が前のめりになったところへ十分に引いて溜めを作った槍の一突きを放つ。が、前傾する勢いを乗せてハルバードを地面に叩き付けながら、それを支点にして棒高跳びの要領で突きを避けつつ変則的な跳び後ろ回し蹴りの反撃。それをダッキングしてやり過ごしながら空いている方の手を槍に添えながら横に振って地面に立つハルバードの柄を弾き、相手が滞空中の内に体勢を整え着地狩りするべく振り返り突きを放とうとして

 

「ちょ……」

 

 少女は未だ滞空していた。というか、槍の届かない高さを浮遊していた。弾かれて地面から離れ少女の手からも放れたハルバードが地面を転がる音を背景に、ディックスは空中の相手に槍を突き付けながら叫んだ。

 

「それは反則だろうがぁぁぁ!」

 

 まだ温まってもいないという不満を隠しつつ、しかし同時にどことなく気が抜けてもういいのではないかという思いも抱いていた。正直、調子が狂いっ放しで疲れていたのだ。一度人間に見えてしまえば敵意も憎悪も薄れていく一方だが、弱みを見せるような間柄ではないのだし、表面上はしっかり憤りを保っておく。

 

 少女は寄せられた心からの苦情を真摯に受け止めた結果

 

「てへぺろ☆」

 

 舌を出しながら自分の側頭部に拳骨で軽く小突くのだった。

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