スタートダッシュで差を付けろ! 今なら応募シールを集めてギルドに送るとジャガ丸くん引換券が当たる(無許可)!
見た目はほぼ全身を荒縄でぐるぐる巻きにされ肩から上と脛より下が露出した全長18C(セルチ)ほどに縮小された【イケロス・ファミリア】団長【暴蛮者】ディックス。通称は揚げ暴蛮者を縮めた『揚げヘイ』。なお、縄は後付けなので解けるし、解放後は手足を稼働させて好きなポーズを取らせることも可能。ただし額のゴーグルは不動。
神々の間で一瞬だけブームを起こすも、眷族からの評判が最悪過ぎて返品や不法投棄が相次いだ。
そのため製造元(ノーカ)は愛らしいぬいぐるみを被せた別商品として不良在庫を捌こうとしたのだが、叫ぶ部分の声が変わらずディックスの叫び(※本作12話参照)から変更されなかったためか結局売れ行きは伸びないままで、在庫を抱える羽目になる。
だが、ノーカさんは転んでもただは起きぬ。独断と偏見で選んだ粛清対象の商会や【ファミリア】への予告状代わりとして相当数をアジトに送り付け、恐怖のどん底に突き落とした。物陰から謎の音とか叫び声とかそらビビるわ。おかげで闇派閥に在籍した者の間では恐怖の象徴として語り継がれているらしい。
暗黒期終了後は流通数の少なさや造形自体は出来がいい事、闇派閥から恐怖の象徴とされた逸話から魔除け、幸運のお守りとして扱われ始めた事などからプレミア価値が生まれ、好事家の間でそれなりの価格で取引されているらしい。
が、製造方法がぶっちゃけオカルトだったので内臓魔石はとっくに中身が空なのに真夜中になると叫んだり、何故か巨大化して自立行動し始めたりと、事件を引き起こす原因となることも多く、話題に事欠かない。主な被害者はヘルメスとその眷族。
巨大化したついでに縄から解放されて真の意味で自由になった個体(?)がいるらしく、世界各地で目撃例が上がっている。ダンジョン内での目撃例も多く、中層で執拗に苔の巨人を狩って回る集団が特に有名。中にはアンフィスバエナを水中で単独狩りしていたという報告もある。魔石やドロップアイテムで装備をカスタマイズしているらしく、戦い方も個々で微妙に違うらしい。ダンジョンの意思ことオカン曰く「体内(?)に魔石はあるがモンスターでは間違いなくない」とコメントしており、謎は深まるばかりである。
「ひひっ、楽しみだなぁ」
人造迷宮を歩く神イケロスは上機嫌だった。
ゼウスとヘラが黒竜討伐に失敗し多くの眷族とオラリオ内での立場を失った事で追放されて以来、抑えとなる強者――周囲の評価を物ともしない恐怖の象徴――を失ったオラリオでは
とはいえ、同じ味は飽きる。たまには違うものを――そんな思いを抱いたタイミングで、別ベクトルの楽しめそうな話が聞こえて来た。なんでも、ギルドに珍獣が棲み着いたらしい。正確には着ぐるみ姿の子らしかったが、余り見掛けないタイプの馬鹿だ。この神口密度世界一と思われるオラリオでそんな目立つ真似をするのは、鴨が葱をとかいうアレだ。構って下さいと言っているのに等しい。例えギルドの庇護下にあろうとも、否、ギルド勤務であるからこそ居場所は簡単に把握されるし、出待ちもされる。
そんな新しい玩具の情報を得たからには、やはり実物を観賞せねば神とは言えまい。ちょうど神会も近い。恐らくは先週起きた
「はぁい、イケロス」
「あぁ?」
なんて事を考えながら歩いていたら、後ろから名前を呼ばれ、肩に軽い衝撃――恐らくは手を置かれた。
何者かと振り向くと、そこにはデフォルメされた獣の頭部を持った二足歩行の人間と思わしき存在。頭部の形状と胴体含む模様から、イケロスはモチーフを虎だと推測する。そう、確かデュオニッソスが……
「確保」
「委細承知」
非現実な状況に思考へ逃避していたイケロスは、聞き覚えのない声が交わす短いやり取りに反応を返すよりも速く縄で捕縛された。
「……おいおい、急に何だぁ~? 俺は神様だぞ」
腕と胴体を縄でぐるぐる巻きにされた上で地面に転がされながら、それでもイケロスは取り乱す事なく太々しい態度を崩さなかった。多少のトラブルは物事を楽しむ上で重要なスパイスだ。よほどの理由がなければ、半強制的な場面で正義を与えて追い込みでもしない限りは、子が神殺しの禁忌を背負う事はない。ならば一見すると危険なシチュエーションには乗ってやるのが神だろう。
「いえ、何。最初に一つ聞いておきたい事がありまして」
「ひひっ、いいぜぇ。何が聞きたい?」
金か、脅迫か、果たしてどんな内容が飛んで来るのか。楽しみに待つイケロスは、目の前にしゃがみ込んでこちらを覗き込むように首を傾げる下手人の外見から、今まさに捜そうとしていたギルドの珍獣なのだと当たりを付ける。
その珍獣は、イケロスを持ち上げて立たせる……と見せかけて膝立ちさせると、両肩にそれぞれ手を乗せ、しっかりと視線を合わせて
「今死ぬか後で死ぬか、どっちがいいでs「後で頼むわ」u?」
即答。もはや被っていた程の。この時、イケロスは内容を理解するより先に答えていたという。初めて見る主神の真顔にディックスは「明日は雨だな」と場違いな事を思ったそうだ。
第十三話:イケロス――モルペウスとパンタソスと三身合体でオネイロスになるんじゃろ――
(参ったなぁ……こいつは相当だ)
さながら今日の天気を尋ねるかのように軽い調子で、そもそも何も乗せられていない天秤の如く等しい――そんな価値観がありありと伝わって来る声色で提示された選択肢。
ああ、最初にそう呼んだのはどこの神なのか。少なくとも見た目だけで判断したのは確かだ。珍獣なんてとんでもない。神獣か何かと間違えたんじゃないのか。地上に居ていい存在なのかこれは。格が違う何か――信じられない事だが、或いは地上を滅ぼさないギリギリを責めてデザインされたかのような。最低でも精神的には文句なしに化物だと断言できる。
「『後で』入りましたー。その場合ですとぉ、神イケロスには幾つかご協力頂きたい事柄がですねぇ……?」
珍獣の言葉に即応して、捕縛していた縄が切断され自由が戻ってくる。それを謳歌するよりも先に、肩に置いていた手をスライドさせて今度は肩を組んでくる珍獣。距離の取り方が妙に既視感というか、神仲間のそれに近いのだとイケロスは気付き、嫌な想像をして寒気を覚えた。
「ひひっ、よくもまぁ、どの口で……で? 何をして欲しいって?」
イケロスは地上に娯楽を求めて下りてきた神だ。行動基準は単純に面白いかどうか。そのためなら無辜の民や眷族が不幸な目に遭っても許容し、楽しむ。紛う事なきクズであるが、神としては珍しいものではない。故にどのような要求が来るのか楽しみにしながら待っていると
「いえ、ちょっと時期が来たら権能でオラリオ全体に白昼夢の形で悪夢を見せて欲しいな、と」
「……へぇ」
その依頼はある意味でイケロスの望むところであり、一方で何よりも避けたい事でもあった。
権能を振り撒く事に忌避があるわけではない。が、それではつまらないのだ。あくまで傍観者、できれば最前列で。一時的に舞台へ上がるとしても、ヒーローショーの人質役やアドリブに巻き込まれただけの台本に影響しないエキストラ程度に収まりたい。先の決まっていない、どう転ぶか分からない、その上で方向として破滅に突き進む事だけはハッキリしている悲劇にして喜劇の物語をこそイケロスは望むのである。
その意味では、自らの眷族であるディックスは最高の主人公だった。ダイダロスの系譜として生まれ血に縛られた身でありながら、モンスターを甚振る事で得る快楽により優先順位を書き換え克服し、しかしそれ故に血に塗れ心を歪ませどこまでも堕ちていく――その先に待つものは、順当にいけば破滅だ。どれだけ保つのか眺めるのもまた乙なものである。どうせ数十年、神にとっては一瞬だ。
権能の行使には別の問題もある。単純な出力の問題だ。イケロスは神ではあるが、仮に神の間で格付けをする機会があれば、贔屓目に見ても中の下といった所だろう。特にこのオラリオには多くの神が暮らしており、中には自分の上位互換ともいうべき神も居るし、十二神と呼ばれるイケロスの故郷における栄誉ある称号に選ばれた神が複数含まれている。単純に同郷の神も多いため、権能を振るうリスクが高すぎる。
「オラリオ全体ってなると神や第一級冒険者に抵抗されちまうなぁ……それに、こう見えて俺は邪神じゃないんだぜぇ?」
「ふむ、薄まると? まぁ、時期は決まっていないし条件を詰めるのは後で。代わりと言っては何ですが……」
イケロスは内心で来たか、と思った。
無理難題を断らせ、次の提案を通しやすくする――交渉術の初歩的な技術だ。が、これは断ってしまった罪悪感または外聞の悪さがあればこそ効果を発揮するので、面白ければどうでもいいイケロスには通用しない。
気持ちに余裕を持って次の提案を待っていると
「適当に送還させて良さげな知神いません? ほら、
予想以上のパンチある問い掛けが飛んで来た。権能は性質の悪い悪戯で済む可能性はあるが、神の送還ともなれば重く受け止めなければならない。いかに先の評価で精神的化物と認識した珍獣とはいえ、まさかそんな内容を打ち込んで来るとは思っても見なかった。だが――
「ひひっ、仲間を売れってか~? 個神的に気に入らない奴がいないとは言わねぇが……」
「言わねぇが?」
「……アパテーとかどうよ?」
――だからこそ、面白い。
「お探しの
「こんなにも真面目な神イケロスを?」
「ぶっ、くひっ。そう! よりにもよって真面目なこの俺を! で、そんときの感じがな~なんていうか偉そうで、上から目線で、調子に乗ってて……クソウザかったんだわ」
実際には勧誘などされておらず、ただ面白い物を見せてやるから金を寄越せと毎度の如く集りに来ただけだ。面倒事を嫌ったイケロスは断らずにくれてやるのだが、受け取ったアパテーは毎回少ないだの不足分に人手も貸せだの言って来た。そんな積もり積もった過去がほんの少しだけ閾値を跨いだらしく、ついつい表情の抜けた声で本心を漏らしてしまった。
彼の女神を主神とする【ファミリア】は武闘派で、イケロス好みの事態を起こしてはくれるのだが、アパテー自身は頻繁に金や物を借りると称して盗み、使い切ったり壊したり売り払ったりして返さないという窃盗や押し入り強盗の常習犯である。何なら勝手に借りていったイケロスの眷族を尻尾切りに使って自分の眷族はノーダメージで済ませた事があり、それが機になって縁の切れ目を探していた部分もある。
「アパテー、ですか。アパテー、アパテー、あぁ、パンドラの箱。掃き溜めのゴミさんの一員ですね」
「んっふ、ふ、はっ、掃き溜めのゴミ……ちょ、ツボに入っ、ふひひひひひひっ」
屈んで腿をバンバンと叩きながら笑い、収まった頃には普段の卑屈さが嘘の様に爽やかな表情を浮かべていた。初めて目にしたディックス他眷族一同は「明日は槍が降るぞ」と震えていた。
「あー、中々に笑えたわ。とりあえず候補挙げたけど、居場所とかはわからねぇんだが」
「適当に散策すれば後ろ暗い連中の縄張りを侵した事になって排除に来るでしょうから平気ですよ。それに神イケロスへ疑いの目が向くのはこちらとしても望みませんし」
珍獣の言葉にイケロスはへにゃり、と普段の卑屈な目と軽薄な笑みとを取り戻した。ディックス達はようやくいつものあいつが帰って来たぜと言わんばかりに頭を掻いたり鼻の下を擦ったりしようとして、全身ぐるぐる巻きにされているため失敗していた。
「ところであいつらどしたん?」
話が一段落したという事で、イケロスは気になっていたらしい部分に触れた。ディックス達はまだ自分達の所属を口にしていない事実を告げるわけにもいかず、事態の推移を見守ることしかできない自分達の無力を嘆いた。これが彼らの更生に繋がる第一歩になるとは未だ珍獣に気取られぬ主神でさえも思いもしなかっただろう。
「喧嘩しましたの」
「へぇ、仲良しか」
対する珍獣――ノーカの言葉は端折り過ぎな程に簡潔であり、それを受けたイケロスの反応も簡潔で、しかも得心が行ったとばかりの様子だった。
「マジで通じんのそれ」
ディックスのツッコミ半分な疑問に返ってきたのは
「「お約束」」
揃った声だった。どうやら本当に神の間では常識になっているらしいと知って、ディックスは神に対して敬う先にはできそうにないと苦い顔を浮かべるよりなかった。
この辺は神との対話を重ねる機会に恵まれなかった弊害だろう。仲が良好であれば問い質すこともできた……かも知れないが、妄信して受け入れる可能性の方が高そうだ。他の神と交流がないのも響いている。もっとも、まともな神となるとそれこそ『
「ちなみに神イケロス」
「なんだ兄弟……ひひっ、そういや名前知らねぇな?」
その言葉を口にしたイケロスを、ディックスは憐憫と歓迎とを込めた嘲笑と共に眺めた。ただ、縄で縛られ耳を塞げない事だけが残念だった。
「あぁ、私とした事が。申し遅れました」
一方、その言葉を待っていたとばかりに珍獣は改めて神に向き直り、両手を広げ、何ならちょっと床から浮いて自己紹介を始める。
「では、改めまして。私ひょんな事から天界の神々が積み重ねてきた嫉妬や怨念が凝縮されて生まれた最新の神っぽい何か『対神粛清用自然循環式先行量産型機動
「なにそれこわい」
イケロスは自分の抱いた嫌な想像に近いらしい、嘘か本当か判らないだけでなく物騒な要素を多分に含んだ内容に本日二度目の真顔を晒し、ディックスは前回との差異から実はこいつ適当ぶっこいてるだけじゃねぇのか、とこれまたニアピン賞な感想を抱いて顔を歪めていた。ノーカ自身は大量の漢字だけが並ぶ文字列を噛まずに言えた達成感から若干ドヤ顔で、ドラッキー・アルマは周囲の警戒に回っていたため不在だった。そのドラッキー・アルマの動きを見たイケロスは仮にノーカが神だとして、彼女はディックス達を相手に一人で立ち回れる眷族って事なんだろうな、と考えていた。
その実、イケロスは自身が天界に送還される事になったとしてもさほど無念には思わない。
仮にそうなったとして、眷族は恐らく深い場所に潜り
「まぁ、御安心を。誰彼構わずとはいきませんから。臨時の
みせしめです、と語る珍獣の纏う悍ましくも厳かな雰囲気に、イケロスは言い様のない感情が湧き上がり思わず体を震わせた。恐らくだが、目の前の存在は、自分好みの悪夢を、獣の夢を顕現させることも、演出することもできる。実際にするかどうかはわからないし、誘導しようとした時点で報復が来そうな気配があるのが困りものだが、注目株であることは疑い様がなかった。一先ず恩を売って損はないとイケロスは考え、札を一枚切っておくことにした。
「あー、権能な。神も含めるとなれば【ファミリア】二つが精々だ。できれば夜。代わりにその条件なら例えゼウスやヘラにだって無理矢理ご招待からの一晩ぐっすり最悪の目覚めを提供してやれる」
「素晴らしい……では取り敢えず【フレイヤ・ファミリア】で」
「……これ絶対ヤバイ奴ぅ~」
イケロスは思った。こいつは相手に今死ぬか後で死ぬかの選択を突き付けるのが趣味なのだろうか、と。或いは自己紹介の嫉妬や怨念が事実で、そうさせているのだろうか、とも。
ちなみに、当のノーカは取り敢えずの言葉通りイケロスに何度も権能を行使させる。
その様子はまさに酷使と表現されるものであり、力に溺れる者の末路や実行に移す前の計画の失敗パターンといった悪夢を利用した他【ファミリア】への注意勧告や
【イケロス・ファミリア】もまた、将来『
前書き何でこんな長くなってるの?