オラリオ総異端児化計画   作:夜月工房

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前回のあらすじ

「そういやイカロスってダイダロスの息子だったっけ。よっしゃディックスも蝋の翼みたいに陽光で灼いたろ!」
 そんな企画を持ち込まれたイケロスは秒で快諾。物語の裏で着々と進む『ディックスこんがり計画』……危うしディックス!

 そして別の日に持ち込まれた
「何ならディックス分割して大量のディックになるよう改造しようぜ!」
 という計画。
 詳細を聞いたイケロスは神妙な様子でこう答えた。
「むしろDXって書いてディックスって読むようオラリオ中に広めようぜぇ」

 これが後にオラリオで大ヒットする漫画『魔法少女DXぺるDX-っ(ディックス・ペルディクス)!』誕生の瞬間であった


第十四話:あふたぁふぁいぶ――実は別ゲーにドハマりしてサ終前二年くらい季節イベントさえ放置してた――

 ノーカは激怒した。必ず、かの邪智暴虐の者を除かなければならぬと決意した。ノーカには経理が解らぬ。簿記3級のテキストを読んでも理屈は分かるし役立つのは分かるが専門用語が一切入って来なくて試験は絶対通らないと確信できた。2級の工業簿記のテキストを読むとやはり固有名詞はご縁がなかったが生産管理部時代に必要だったのでExcelで自作してた内容だったりして微妙に混乱した。そんなんでよくギルドの財政部門に食い込もうと思ったなと言われれば全く反論の仕様もない。ノーカは、ギルドの職員である。法螺を吹き、数字と遊んで暮らして来た。けれども邪悪に対しては、人一倍に敏感であった。同族嫌悪という奴である。

 

 

 

 

 

第十四話:あふたぁふぁいぶ(仕事のお時間)――実は別ゲーにドハマりしてサ終前二年くらい季節イベントさえ放置してた――

 

 

 

 

 

 そんなわけで、ディックス一同の襲撃を凌ぎ、彼らの隠れ家である人造迷宮(クノッソス)へ侵入し、彼らの主神イケロス(ギルドの珍獣なんだから調べられたらすぐバレる、とあっさり教えてくれた)と友宜を結んだ次の日。

 ノーカ・ウントはギルドに出勤すると、まずはギルド長ロイマンに突発的な休暇を詫びると共に謝辞を述べ、お土産と称して飛空庭のたんすに入っていたオリハルコンの刀身を数本渡してから早速お仕事の続きに入った。オリハルコンからディックスが指を咥えて物欲しそうにしている幻影を連想したが、即座に振り払った。思い出し笑いの種になるので止めて欲しいとノーカは切に願った。

 業務を勧めた結果、残った半分の【ファミリア】から結構な申請漏れ、手抜きコピペ書類、明らかに一項目だけ桁を間違えてトチ狂った取引をした事になって全体の収支が大赤字になっているこれが本当ならお前の【ファミリア】冬越せないだろと言いたくなるような書類等が見付かっている。その大半が闇派閥と繋がるような後ろ暗さとは無縁な、ただの怠慢なのである。これでは確かに『探索系【ファミリア】は眷族のレベルと人数で人頭税』のようにシンプルなやり方をしないと、書類の精査だけで一月、最悪一年が終わりかねない。

 幸い、オラリオ全体で見れば魔石産業のおかげで景気は悪くないため、税収を多少削っても余裕はある。もちろん、シンプルにして手間が掛からなくしてあげたんだから書類作成の時間を減らした分だけ増やした本業で稼げるよねさぁ税を納めろと増税する方向に話を進めて貰うのだが。そのための統一書式。そのための無料配布。本音は仕事を楽にしたい、なのは内緒だ。金で時間を買えるのなら安いものだろう。

 

 そんな感じで仕事をこなしていたら、夕暮れ時になって「余り遅くまで残られると外聞が……」と控え目なとっとと帰れ令を頂いてしまった。

 神会(デナトゥス)まで日がないので、アパテー探しをする必要を考えれば定時退社はノーカにとっても悪い話ではなかった。というわけで、了承する。

 

 帰り道、すっかり依存気味なイベントナビを確認しながらダイダロス通りをブ~ラブラ。現在は薄暗い程度なので、夜目の利く冒険者を警戒して飛んでショートカットは控えている。

 憂いなく飛ぶと言えば、どうにもこのダイダロス通りはECO基準でダンジョン扱いになるらしく、次元安定石を使ってDDに侵入できる。無数の犯罪者がたむろし襲撃を掛けて来るような場所だからなのだろうか。

 とはいえ、先日の様にイベント発生地点への誘導であればDD化してからの目的地まで飛行移動ですむのだが、現時点ではダイダロス通りでバスラムなる人物を探すのが目標となっている。

 そのバスラムの位置だが、微妙に案内してくれる矢印が震えるのだ。つまり移動している。それがホーム内なのか、複雑に入り組んだ広域住宅街の道なのか、距離も合わせて判別が付かない。

 いっそオラリオの冒険者では太刀打ちできないであろう、ECOではパートナー装備のロック鳥だったはずがこちらで確認したら変化していたフレースヴェルグを囮に放とうかという気分にもなってくる。間違いなく加減を失敗してオラリオを滅ぼすので余程の事でもない限りやらないが。

 

 なんて益体のない徘徊をしている内に、ふと閃く。善は急げとばかりに懐から装飾品を取り出し、胸に装着。この瞬間、ノーカはハーヴェストではなくブリーダーになったのだ。

 これはジョイントジョブという、装備により一時的に転職するシステムだ。ブリーダーとガーデナーの二種類が確認されており、それぞれペット……パートナーの育成に有利な能力と飛空庭に関する能力とを持つ。戦闘に関するステータス補正が低くなるのが難点だが、そもそも自分のステータスを用いて戦闘する職ではない。

 そして今回の思い付きはブリーダーの持つメタモルフォーゼという、装備中のパートナーと同じ外見に変身するスキルを利用するものである。手持ちのモモンガなるピンク色の小動物に変身すれば目立たず壁登りからの屋根を跳んで飛行移動することなくショートカットできると考えたのだ。

 ちなみにこのメタモルフォーゼだが、パートナーの姿に変身するという事は当然ノーカが見せたドラッキー・アルマのような人型の存在にも変身できる。つまり、設定上は青年に差し掛かろうかという若者の制限を逃れられないプレイヤーキャラがオッサンになったり幼女になったりできるのだ。だからどうしたと言われればパンツの確認が捗るぞと答える程度だが、こうしてゲームの制限から半ば外れた現在では諜報やアリバイ作りに広く悪よげふんげふん有効活用できるのである。或いはパートナーだけでなくその辺の知人や知神にもメタモれないか試す必要があるとノーカは考えた……悪用するならバラすのはまずいなとも考えたので、見せしめ前に試しておこうかと心の中の予定表に書き込んでおく。

 

 早速モモンガにメタモったノーカは、建物の隙間や壁を最大限利用し、案内の矢印が指す方向に進んでいく。

 すると赤点の集まっているとある地点を過ぎた辺りで大きく矢印が向きを変えたため、目標の付近に辿り着いたと判断したノーカはメタモル解除からのブリーダーブローチ付け替えによる戦闘態勢へと移行。

 今回は殺しを避けるつもりがないため、ハルバード(LV45武器)ではなく闇葬鎌・タルタロス(LV110武器)を起用。憑依が外れイレイザーのアサ子ちゃんがべちゃりと屋根に落ちるが、音を出さない辺りプロである。ジト目を向けられたので肩を竦めて見せると、クローキングを発動したらしく姿が消える。再憑依を待ちながら、どうせなら手伝ってくれていいのにと愚痴るノーカに対して、アサ子は一言まそっぷとウィスパーチャットを送って来るだけだった。受け取ったノーカは今から刺されるのかと恐怖に震えたが、すぐに右手武器に憑依されたので未遂に終わったらしかった。なお、神刎斧・アイレム(クトゥルフ神話の地名)は私のECOには未実装である。してたら神狩(BYE×2 BYDO)が捗るところであった。

 

 それと、アルマ達パートナーの起用は避けた。

 ECOはハートフルを掲げているゲームだが、世界設定を読めば思い切り戦争をしていたり、兵器として戦い続けたり大切な人を失ったりと暗い過去を持ったキャラがいたり、ストーリーが進行するとシリアスに内容が寄っていく法則から逃れられなかったりする。

 それでも、パートナーには仲良くのんびりふわふわキラキラなまま過ごして欲しいというのがノーカの本音である。なお、ECOでバンディットやドミニオン背徳者といったモンスターに分類されているが明らかに人間な存在を狩りまくっていた事実からは目を背けるとする。スタンプを持たされている後者はモンスターでいいのだろうが、前者は……。

 

「そんな! わけで! お邪魔します!!」

 

 立っていた建物の屋根を踏み抜きダイナミック入室。同時にプラントエッジLV1をちょうど人口密度の高かった入り口方面に放つ。荒れ狂う風に乗った切れ味鋭い木の葉の刃で切り刻まれた相手はもはや原形を留めておらす、撒き散らされた血肉が室内の一角を彩った。

 

「なんだてミ゛ッ!!!」

 

 荒事に慣れているらしく、すぐに戦闘態勢を取る推定【アパテー・ファミリア】の面々。だが、彼らが行動する前にノーカは二発目のプラントエッジを自分中心に放ち周囲を一層する。FF(同士討ち)機能のないゲーム仕様はこのような場面で恐ろしく有効な戦術を可能にしていた。なお、念のため速攻魔法に偽装するべく魔法名「お邪魔します」を唱えるようにしてあったのだが、挨拶の声を掛ける度に人間の集団を人間だったものに仕上げていく様はサイコパスとしか表現できなかった。

 

 バスラムがそれに気付けたのは偶然としか言い様がなかった。ふと何か嫌な予感を覚えて神経を尖らせていたおかげで、上方からの殺気を感じ取る事が出来た。舌打ちをすると、近くの団員を引き寄せ肉盾にしながら後方へと下がる。

 直後、天井が崩れると共に何かが落ちて来た。舞い上がる土埃ではっきり見えないが、大きさと輪郭の形とから判断する分には人間のようだっだ。

 落ちて来たそれは借宿にしている建物の表口側に向かって手を伸ばしながら暢気に来訪の挨拶を告げる。すると、局地的な小型の嵐とでも呼ぶべき現象が起きた。巻き込まれた団員達は多少の肉片と血霞とに変わった。

 恐ろしい事に、殺気は落下の寸前――恐らくは屋根を踏み抜く際にだけ漏れており、今は収まっている。殺気が、ないのだ。あれだけの虐殺を行っているにも関わらず、殺気を放つ事なく単純な作業を繰り返しているかの様に。

 相手の正体を確認している暇はなかった。即座に撤退するべく掴んでいた肉盾を手放して奥の倉庫へと駆ける。

 後方で何度か怒号と悲鳴が響き、何故かその前に挨拶が聞こえていた。まさか速攻魔法の名前が【お邪魔します】だの言うのだろうが。どんな人生を歩めばそんな発現の仕方をするのか。

 バスラムはどこか現実感を欠いた心地の中、それでも追われる棚をずらして隠し通路に入り込む。ずらした棚は隠し通路の扉を閉める動作に連動して戻る仕組みなので多少は時間が稼げるはずだ。

 外に出てしまえば後はダイダロス通りの構造が自分を隠してくれる。そう信じてバスラムは通路を急いだ。

 

 

 

「ふぅ……」

 

 賢者モードの如く一息吐いたノーカは、未だ達成されていないイベントナビの項目を見て一つの結論に至った。

 

「やっちゃったZE☆」

「いや、やっちゃったぜじゃないですよ!?」

 

 腹話術と声帯模写とを駆使した痛々しい小芝居でセルフツッコミまで済ませると、ノーカはミニマップを眺め若干ながら途方に暮れた。

 バスラムは敵である。ECOはスパロボじゃないので説得コマンドもなければ反撃を含めた攻撃を加えないまま一定ターン経過で加入イベントが始まる事もない。一度敵対したからにはぶん殴って分からせるか、ぶん殴って大人しくしてから対話するかの二択なのである。もっとも、ECOですらない上に寝返らせるつもりもない今回は単純に対象の逃走を許す間抜けを晒しただけの話だ。

 

「武闘派とはいったい……うごごご!」

 

 言いながら、戦闘跡地となった建物内を見回す。どこへ視線を向けても飛び散った血と肉片とにデコレーションされた光景は惨状と呼んで問題なさそうだ。漂う臭いも血と糞尿の混じった酷いもので、ノーカとしても現場に立ち入った者の精神が心配になる程だ。

 奥地に進めば、物置だった。床には、逃げたバスラムのものだろう、くっきりした足跡が見て取れる。辿って行くと、何も並んでいない棚に向かって続いており、そこで足跡が途切れている。何と言うか、在り来り過ぎた。罠の可能性も疑ったが、これだけしっかりとした足跡を結構な間隔で残しているのなら、偽装する暇があったら少しでも距離を取りたいと思っていたのではなかろうか。まぁ、夢では無力な一般人の状態で化物から追われる側になるなんて珍しくないので気持ちは良く理解できる。むしろ動けただけ凄い(けんぞくぅつよーい!)とすらノーカは思う。

 苦笑を漏らしながらノーカが確認すると、棚の動かした跡も残っている。それに従って棚を横にずらすと、丁寧に掘られた穴が現れた。光が漏れているのを見るに、そう長くはないのだろうが……

 

「狭っ」

 

 穴の径はおよそ1(メドル)程度。這って進む分には困らないかも知れないが、それこそ壁のレバーを引くと撒菱が設置されて追跡者の足を遅らせるくらいの罠は作られていそうだ。自分ならそれくらいの備えはする。何なら毒菱を撒く。坂道にして服だけ溶かす液体を天井から降らせたりする。軽度な嫌がらせは甘えと同義、人生を彩ってくれる大事なスパイスなのだ。ツンデレという奴さ。

 

 と、いうわけでノーカは馬鹿正直に同じルートで追うのを諦めた。

 標的の確保への第一歩で躓いた感はあるが、殺しへのスタンスを確認するという二次目標は達成できた。

 特に何も感じないというのはある意味で最善だ。殺しへのスタンスは夢によって変わる。生娘のように蹲り嘔吐して動けなくなる場合もあれば、逆に快楽を覚えて歯止めが利かなくなる場合もある。アルマ達を想えば、なるべくなら普段から殺しを選択肢に入れるのは避けたい。かといって、完全に排除できるほどこの世界は優しくない。特に今は暗黒期で、闇派閥(イヴィルス)が活気付いている時代なのだ。自分より強い上にチームを組んでの活動を徹底しているアルマの安全を脅かす事ができるのかという部分からはそっと目を逸らしておく。体が丈夫でも心がそうとは限らないのだ。あぁ、その意味ではアクロニアの面々は実に善良だった……変態しかいなかった気もするが。

 ほんの一週間前まで居た世界の色々とヘビーな記憶を思い出して、疲れが押し寄せて来る。或いは殺しそのものや、平気であった自分に関して負荷があったのかも知らん。

 今日は帰って休もう。そんな気分だった。

 

 

 

「ようやく出てきたか」

 

 建物を出たノーカにどことなく拗ねた声が掛かる。

 

「……何故ここに?」

 

 周囲は既に闇が濃くなっており、顔の判別はできない。とはいえ、ここ一週間で聞き慣れた声を間違えることはない。ひっそりギルドに雑貨屋の名目で立ち上げた『なんでもクエストカウンターオラリオ支部』の受付をして貰っている受付嬢ことデス・アルマだ。代表者名に受付嬢と書いてしまうポンコツな部分もあるが、アルマの中では人間社会への習熟度が高く地に足の着いた馴染み方が出来ている貴重な存在である。元のモンスターは幽霊じみた死神で、アルマとしての姿でも浮遊しているが。

 

「いやなに、仕事終わりに同志が一人でふらふらと治安の悪い迷路の様な住宅街へと迷い込んでいたようなのでな。心配で尾行してみたのよ」

 

「単独行動は控えろとお願いしていたはずですが……」

 

「まぁ、そう言うな。せっかくの土産もあるのだ」

 

 そう言って、引き摺って体の前に持って来ながら放り投げてきたのは顔が腫れて気絶している人間だった。

 

「仮にもギルド職員の前で拉致事件とは剛毅な」

 

 ボケるノーカの頭にチョップが落ちる。一息で距離を詰める足運びは実に自然であり、デス・アルマの実力の高さを感じさせた。ついでに言うなら現在の彼女は二本の足でしっかりと地面に立つ人間の姿で、人外要素を欠片も感じさせない。

 

「そなたの暴れていた場所から逃げる魂があったので追跡してな。余りに隙だらけだったからこう、つい」

 

「なるほど」

 

 どうやらノーカがプラントエッジを連発するだけの簡単なお仕事に夢中で逃してしまった標的を確保してくれていたらしい。それを理解したノーカは嬉しいやら恥ずかしいやらで上手く反応を返せなかった。

 

「助かりました。ありがとうございます」

 

 これではいけないと思い、感謝を伝える。返って来たのは、満足気な猫口のドヤ顔だった。全力で(脳内)スクショした。

 

 

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