オラリオ総異端児化計画   作:夜月工房

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前回のあらすじ:走れアパテーRTA失敗ルート

アパテーは激怒した。必ず、かの邪智暴虐の者を除かなければならぬと決意した。アパテーには敵の正体がわからぬ。アパテーは、闇派閥(イヴィルス)の神である。大言壮語を吹き、獲物を弄んで暮して来た。けれども邪悪に対しては、人一倍に敏感であった。きょう夕暮れアパテーはアジトを出発し、即座に狩られた。この台詞送りが最後の入力となりますのでここでムービーエンドです。後はこのルート限定の特殊エンディングを垂れ流しにしておきますのでご自由にお楽しみ下さい。


第十六話:説得――最初に強く当たって後は流れで――

 書類を元の棚に戻したノーカは、ガネーシャを尋ねる前にギルドの仕事をとしなければ、と思い直してその日の業務をこなした。

 ダンジョン内のトレインやMPKがあったとかなかったとか仕方なかったとかが判明して複数の【ファミリア】間で小競り合いが起きたらしいが、特筆するべき問題は起きず、無事に定時を迎える。或いは闇派閥(イヴィルス)としても人知れず壊滅した【アパテー・ファミリア】の調査に力を割かねばならず動けなかったのかも知れなかったが。

 ギルドに登録されている【ファミリア】の内、簡易検査で疑いが持ち上がったのは約150。精査に掛かる時間は膨大なものになりそうだが、予想よりは少ない結果となった。

 分布としては地球で言うギリシャと北欧の出身が多い。これは単純な母数が多いのもあるだろうが、何となく主神の性格に影響していそうだ。どちらの神話も傾向として大体これくらいという丼勘定をしていそうな印象がある。

 登録の分布では次点に上がるが、帳簿はしっかりしているのがインドとケルトだった。失礼な話ではあるが、ノーカとしては正直ケルトに関しては意外だった。英雄ではなく神という部分がポイントなのだろう。原作の主なケルト出身となれば二柱の医療神なので、何となく納得できた。

 ダンまち世界の地理が地球を大雑把に踏襲しているならば、オラリオはとりあえずヨーロッパにあると見て良さそうだ……ローマ神話勢は同一視される神が多く、歴史の古さや日本における知名度でも勝るギリシャ神話により出せないのだろう。ユピテルとか言われても直にゼウス相当と答える人数よりは『ゆきてる』くんのニックネームだとか、公輝をハムテルと読む理論を基にした命名則でそう呼ばれる日本人かなと考える人数の方が多そうなのが現代日本人である。酷い偏見だと思われるかもしれないが、ゼウスと聞けば一発で各々の知るキャラクターと、そのルーツがギリシャ神話にあるとの知識が出て来る。仮にユピテルではなくジュピターと聞いたところで、惑星が出て終わるだろうと思われる。

 

 そんな感じでいよいよ地獄の蓋が開きそうな段階に進んだ業務に戦々恐々するノーカではあったが、定時である。

 ノーカとしても明日に控えた神会(デナトゥス)での見せしめに関してガネーシャを説得する必要があるのでさっさと支度を済ませてギルドを後にした。

 道中、眷族の皆さん用にお土産としてジャガ丸くんを買い占め複数の屋台を上がりへと導きながら、説得のパターンを模索する。

 付き合いの短い神ガネーシャの擬似人格は、未だノーカの脳内には存在しないに等しい。よって、仮想相手としてノーカの知る神ガネーシャに、地球の神話や後世のサブカルチャーで出演したキャラクターとしてのガネーシャ及び誰かを守る職業の上層部という役割に対する理想を混ぜた仮称:真似ーシャを相手に延々あーでもないこーでもないと殴り合っているのだが、どうにも納得させるに至らない。

 押しても引いても、上げても下げても、抑止力の必要性を認めはするが神殺しをしてまで表現する必要はないの一点張りである。

 いっそ興味本位からと伝えれば、張り手で吹き飛ばされ、着地前に追い付き号泣ながら抱き締めて来た仮称:真似ーシャにめっちゃ叱られた。認識としてはシヴァ神と女神パールヴァティの子なのに、父性が爆発しているのは何故なのか。学校の教師やスポ根のコーチにも通じる熱血具合は大層暑苦しく、しかし確かに凍った心でさえ温め溶かすだけの熱量を持っていた。

 

 

 

 

 

第十六話:説得――最初に強く当たって後は流れで――

 

 

 

 

 

「なるほど、つまりどちらも引かぬ以上は力で押し通すしかないと」

 

 【ガネーシャ・ファミリア】本拠『アイアム・ガネーシャ』の内部でガネーシャは唸った。

 彼はノーカの暴露した素性を知って、一人の見守るべき――場合によっては手を差し伸べるべき子であると認識した。元より『異端児(ゼノス)』との共存に賛同する立場、今更その大が付くほどの失敗作にして成功例が現れたからと言って立場を変える必要はない。

 そんな特殊な出自を持つ彼女が立場を確保するために考え出したのは、天界からの使いという悪魔の証明を内包した身分だった。

 天界と地上とは相互不干渉だ。神は地上に下りて来られるが、その際には取り決めに従い神としての万能性を封じた全知零能の存在として振る舞う事となる。その状態では天界との交信を行うために必要な万能の力『神の力(アルカナム)』は使うことを禁じられているため、天界の様子を知る言葉できない。

 仮に地上でノーカの言を聞いた後に天界へ送還された神が、彼女の嘘を確認したところで、一度でも地上に下りた神は二度と下りられない決まりなので地上に戻り糾弾できない。

 まだ地上に下りた経験のない神に言伝や罰の代行を頼んだところで、そういった神は真面目で職務に忠実な堅物が多い。仕事を投げ出す時点で有り得ない話だ。

 神の身で地上の者に謀られた者のために動く事など、決して友のための自己犠牲の様な美談には成り得ない。それは騙された神も、そのために動いた神も、その双方が天界に君臨する神としての矜持を持たぬ卑賤の者であると醜聞を広げるだけの愚行にしかならず、例え大きな借りを持っていたとしても断るだろう。争いは同じレベルでしか……というアレだ。

 しかし、ノーカの主張は嘘か確認できないものではあっても、だからといって真実だと証明するものでも、他者に信じさせるものでもない。

 そこで彼女が持ち出したのが、まさかの禁忌である神殺しだった。

 彼女は極めて特異な出自ながら、間違いなくダンジョンから発生したモンスターである。この時点で神への憎しみや恨みが刷り込まれていても不思議はない。精神は人間ではあるが、その故郷はまさかの異世界であり、神への信仰が薄いどころかお伽噺の類では神殺しが横行しているため、忌避感情は恐ろしく薄いとの事だった。

 だが同時に、彼女の故郷は大きな武力衝突と縁遠く、オラリオとは違い余程の事がなければ衣食住に困らずに暮らせる平和な土地なのだという。そんな場所で育った彼女もガネーシャから見ればどこか抜けており、肝心な時に失敗しそうな余寒がしていた。成功したらしたで、危険認定からの排除に動かれる可能性は低くないし、何よりも逆にやり過ぎる心配もしていた。

 そのため、ガネーシャとしてはより大きなリターンのためにリスクを抱える神殺しの実行よりは、リスクなしでそれなりのリターンが見込める神殺し可能という宣告だけに留めておいた方が良いのではないかと思ったのだ……少なくとも、神会(デナトゥス)では。

 

 そんな事を前日に問答するというのもどうなのかという、側に控えるシャクティから飛んでくる視線を感じながらも、ガネーシャはノーカの提案に応える決心した。

 

「いいだろう。俺はガネーシャだ。お前の埒外な実力は知っているが、漢には引けぬときもあるのも知っている」

 

 堂々の仁王立ち。『恩恵』を持たない一般人の枠に収まるか弱き身でありながら、纏う覇気は強者の貫禄をまざまざと見せ付けていた。

 

「それでは合意と見てよろしいですね?」

 

 ノーカから予め渡されたいた台本を見ながら確認するアーディ・ヴァルマの声に、頷いて歩み寄るノーカとガネーシャ。冷めた、呆れた目で見届けるシャクティ。

 対峙する二者は互いの右手を差し出し、親指を立てたまま残りの四本の指をくっつけて相手の指と握り合う。

 

「指相撲ぅー、ファイトぉー!」

 

 台本を読み上げる形で宣言された、アーディの合戦わ告げる合図を聞き、両者は互いの親指を抑えるべく動き出した!

 

 飛び交う声援。叫びと怒号。残像すら見える速度で繰り広げられるフェイント合戦。余りにも小規模な、しかし互いの尊厳を賭けた熱いそれは、後の世で『ポケットの中の戦争遊戯(ウォーゲーム)』と呼ばれ【ガネーシャ・ファミリア】定番の笑い話として眷族の宴を盛り上げたそうな。

 

 ちなみに、ガネーシャが勝った。

 

 

 

 翌日。報告を受けたウラノスは何とも言えない苦み走った表情を浮かべた後で

 

「そうか……」

 

 と頷くに留まった。

 

「まぁ、ガネーシャ様の言い分もわかりますし、言葉で説き伏せられなかった時点で負けみたいなものでした。我が不徳の致すところです」

 

 ノーカの態度は普段通りで、変に気を落としたり荒げたりといったものは感じられなかった。ウラノスはつい最初から開き直って強行するつもりだったのではないかと疑ってしまい、尋ねてみる。

 

「お前はそれで良いのか?」

 

「最終的にぶん殴れば解決すると知っていれば心に余裕は持てますから。どうせ口だけだと無礼(ナメ)る様ならその時が初の神殺しになるだけの事です」

 

 雨が降ったらどうするかと聞かれて仕事を休みますと答えるような気安さと非常識さとを感じさせる内容を返され、それでもウラノスは此度の神会(デナトゥス)で血を見る事態にはならなそうだと安堵した。約束を違えるというのは関係の拗れに繋がる。ガネーシャの協力は不可欠なのだ。

 

「あぁ、そうなると神アパテーはどうしましょう? 開催前に強制送還して、ウラノス様達に証明するため私がやりましたけど在庫切れになったのでお前らに見せるのは現場でなって伝えるのも手ですが」

 

「ふむ……」

 

「その場合でも約束があるので私の手で直接というわけにもいかないでしょうし、私というか芋蔓式に『異端児(ゼノス)』関連にもなる以上は協力者である事が最低条件。と、なればやはりガネーシャ様にお願いする必要が出てしまいますけど……」

 

 ノーカの疑問と提案に、ウラノスは思考を巡らせる。内容に致命的な破綻はない。全てが霧の中となり見通せない状態に落ち着く。疑いは決して晴れないが、真実を覆う霧もまた晴れはしない。

 神アパテーの前で機密を漏らしていた事から判断できるように、ウラノス自身はノーカというイレギュラーによる神殺しに対して、反対はしていなかった。

 仮にだが、ノーカの手に掛かった場合……『神の力(アルカナム)』が発動されず天界へ送還される事なく真の神殺しが成る可能性は、零ではない。

 彼女はただのモンスターではない。ただの『異端児(ゼノス)』でもない。天界における神程の万能性はないが、地上に住む者からすれば神の如く映る異世界の力を駆使できる存在だ。更には憑依システムや一部のスキル等から導かれる様に、魂を取り扱う技術を有しているのだ。それが神に通じてしまい『神の力(アルカナム)』を封じ込めないとは限らない。

 いっそ『異端児(ゼノス)』という部分を隠したまま異世界出身である部分を暴露してしまえれば、とウラノスは考えてしまう。それを理由に『神の力(アルカナム)』が発動しない可能性に言及すれば……神々の自主的な天界への送還ラッシュが始まり、『恩恵』を失った冒険者がダンジョンから離れ、誰もダンジョンの最深部に辿り着けないまま『約束の刻』を迎える。

 ウラノスの想像はこの上ない精度を叩き出し、映像が目に浮かんだ。絶対に避けなければならない事態である。

 

 仮に今宵の神会(デナトゥス)でノーカが神殺しを実演した場合で、真の神殺しが成ったとしても、天界の使者を詐称している分には恐ろしく過激な事をしたものだと恐れるだけで済む。神とて転生できるのだから。ノーカの成すそれが果たして通常通りになるかに関しては目を瞑るとする。

 子を真っ当に愛する神々からすれば疎む理由がないし、邪神や悪神も最悪天界に還れば粛正は免れると告げておけば面目は立つ。その場合で後日真実が発覚したとしても、ノーカの話を最終的に信じたのは神々だ。実際には彼女の存在を受け入れたウラノスも、地上の者に欺かれたという汚名は甘んじて受けるつもりである。

 

「フェルズ。ガネーシャに連絡を」

 

「了解した」

 

 深く息を吐いて、ウラノスはノーカの案を採択する方向に舵を切った。ガネーシャの協力が取り付けられなかった場合、別の『異端児(ゼノス)』関連での協力者をノーカ関連に巻き込む必要がある。心の中で犠牲者……基、候補を挙げながら考えを煮詰めていく。

 

「……どうした、ノーカ」

 

「駄洒落か」

 

「違う! 貴様は毎度そうやって……」

 

「HAHAHAいえ何、いたのかこいつと思っていた訳ではアリマセーン!」

 

「うぐぉぉぉぉ、人が気にしている事(存在感の薄さと雑な扱い)を」

 

「……なるべく早めに向かって貰えると助かるのだが……」

 

 フェルズに視線をやり怪訝な表情をしたノーカに問い掛けを返すフェルズだが意図せずどうしたのかと掛かる発言になってしまったのをどうかしたノーカからからかわれ……という仕様もない程度の低いやり取りを耳にして、ウラノスは頭の中が呆れで一色になってしまい、考えていた内容を忘れた。




えー、完走した感想ですが(中略)一応、次はヘルメス顔面陥没ルートのAny%の予定です。それではご視聴ありがとうございました。

   *   *
 *   + うそです
  n ∧_∧ n
+ (ヨ(*´∀`)E)
  Y   Y  *
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