オラリオ総異端児化計画   作:夜月工房

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前回のあらすじ:新しく称号を獲得しました!

――ゲロイン――
――デビュー失敗!――
――ギルドの猛獣(テイム済)――
――ギルドの番犬(チワワ)――



第十八話:戦い、終わって――の、はずでしたが! 嘔吐やお着替えでロスタイムがあるので神会を続行します!――

(私は何を見せられているのだろう……)

 

 フェルズは現実感のない光景に虚無感と脱力感、僅かな怒りと嫉妬を覚えていた。今ならノーカの設定上の天界の神々の気持ちも理解が出来ようと言うものだ。のが多い。

 

「さ、先程は……失礼、致しししまし、た……」

 

 ステージの上には神ガネーシャとノーカの姿。これだけなら予定と変わらない。だが、だがしかし、だ。

 

「……私、の、名前……は、ノノノノ、ノーカです。ノーカ・ウント。天界の、方、から……来まし、た」

 

 本日の主役、フェルズに対しては常にふてぶてしい態度を崩さず、ぞんざいに扱ってくるノーカ・ウントは、今この瞬間に限っては普段からかけ離れた全く未知の姿を晒している。

 腕を組んで仁王立ちするガネーシャの後ろに回り、腰の引けた前屈みの格好で体を震わせ、ガネーシャの服……腰部分の布を握り締め、顔を半分だけ出してステージの前にいる神々の様子を伺いながら、ボソボソと途切れ途切れに自己紹介をしている全身黒尽くめの何故か拘束具のような目隠しをしている不審な少女。それが現在のノーカであった。頭上の輪は力なく点滅して全体的に薄れているし、二対四枚の翼は畳まれており怯える犬の尾を思わせた。

 

「いや、ほんとこれ何? 何と言うか……何?」

 

 フェルズの混乱は、しかし唯でさえ舞台の袖に待機している上に、姿隠しのマント型魔道具を装着しているため、誰にも分かち合う事が出来なかった。

 

 

 

 

 

第十八話:戦い、終わって――の、はずでしたが! 嘔吐やお着替えでロスタイムがあるので神会(デナトゥス)を続行します!――

 

 

 

 

 

「天界の、神々は、お怒り、です。皆さんの抜け、抜けた穴、を、埋めるため、に……働き通しに、なて……ます」

「だだだ、だから……遊んで、ばっかりの、神様、は……神様を、無理矢理送還させ、るために……私、を造り、ました」

「皆さん、の、おかげ……で……昔よっ、よりっも、人は死ななく、なりまし、た……だから、天界も何とか、回って、ま、す」

「けど、そのせ、い? 天界、のっく、空気は、良くな、いです。あと、魂の……記憶? 平凡で、つまらない、と。モチベ、枯渇、の危機。このまま、だと……残りの神様、天界で、戦争かも?」

「だか、ら、天界、の、一部の神、さまは、闇派閥(イヴィ、ルス)を、必要悪、と見て……まふ」

「逆、に……ダンジョン、の、攻略に、貢献でき、てないとこ、ろは……間引け、戻して仕事をさせ、ろ、と」

「それ、は、それ、と、して……神様、も、私も、楽しい……土産話? 持って帰、れるよう……その……あっ、頑張れ、って、送り出され、ました……以上、です。ご静聴、ありが、とう、ござい、ま、ひゅ」

 

 その拙い喋りは、まるで幼児が覚えた言葉を必死に思い出しながら声に出しているだけといった有り様で、含まれる物騒な内容への警戒を持てた神は少なかった。

 絆された多数の神々は、ノーカが頭を下げ自己紹介を終わらせるや否や万雷の拍手や指笛、歓声を送っている。ノーカを見る神々の目は、完全に孫を見守る祖父母のそれである。一部の神は血の涙を流したりハンカチを噛んで、視線を遮るための壁にされているガネーシャに嫉妬の念を送ってさえいた。

 フェルズからすると詐欺の現場を見せられているようで釈然としない。顔に肉と皮があればきっとチベスナ顔をしていた事であろう。

 

「あー、今聞いて貰った通りだ。ノーカは我々の仕事振りを監査する役割と、送還させる権利を与えられているらしい。ついでに救界の一環として、神に頼らずとも暮らせる地上の実現を目標としている。具体的にはダンジョンの攻略だとか、残った三大クエストの討伐だとか、またそういった中間目標のために不可欠な生活基盤の安定にも携わる。そのため普段はギルドで働くそうだ。既に帳簿を確認して齟齬や不正がないかの調査をしているので近く訪問されるかもな」

 

 ガネーシャが補足して、今度こそ自己紹介が終わる。しかし、それは能動的な分だけである。是より先は残された受動的な分、即ち――

 

「それではお待ちかね! ノーカに何か聞きたい事ある(ひと)、手を挙げろー!」

 

「「「「「「はーい!」」」」」」

 

 ――質問タイムの始まりである。

 

 真面目な質問から戯言、勧誘や売り込みまでありとあらゆる質問が飛び、酷いと判断されたものは適宜ガネーシャに弾かれたり周囲の神に発言者が封殺されたりしていた。その間もずっとガネーシャを壁にしていたのだが、ある男神の質問時に

 

「ガネーシャには随分と懐いてるけど、やっぱりそういう関係? もうやることはやっ「黙れ」はい! 調子乗りました申し訳ありません!」

 

 言葉の最後まで待たずにガネーシャの脇を抜けて前に立ち、明らかに虚空から取り出した長柄の斧を片手で保持して男神に向けながら、透明な殺意を乗せた冷たい声の、有無を言わせぬ命令口調で応じたため、神々はその永き神生経験からノーカを狂信者タイプ(死んでも殺す系)だとしっかり認識し、心に刻んだ。

 一部の後ろ暗い事に手を染めている神はビクビクし、また一部の特殊な感性をお持ちの神はビクンビクンしていた。

 質問をした男神は即座に謝罪。内心ではノーカを天界へ還って若返りの泉(カナトス)に入ってから忘却の河(レーテー)の水を飲んで別神判定をもぎ取ってきたヘラだったりしないかと恐怖に震えていた。すぐに斧を消し再度ガネーシャの後ろに隠れる姿も、今となっては物陰から獲物の様子を伺う幽鬼か何かにしか見えない。

 その後も好きな食べ物や趣味といった定番のプライベートに関する質問はあったが、徐々に真面目な仕事とやらに関連した内容が増えていった。

 

闇派閥(イヴィルス)に対する天界の認識はわかったけど、貴方個人はどうなの? やっぱり放置?」

 

「えっと、私、個人の……考え、ですと、今と、変わらない、なら、三年を目処に……処理し、したいです」

 

「今と変わらないというのは?」

 

「は、はい……連中のやり口は、甘いです。【ファミリア】の、集まり、ですから、命令、系統がバラバラ。オ、オラリオ、を、封鎖でき、れば……一月で片付きます。烏合の、衆。雑魚です。だから、先に地盤を固め、ます。向こう、が纏まる、なら、すぐ……潰し、ます」

 

「へぇ……わかったわ。ありがと」

 

 強気な言葉に、神々は先程の男神に対する姿が本性に近いのだと改めて確信した。それを可能とする実力の有無を見極めるには材料が足りなかったが、何かしらの切り札があるのだろうと予想する。実際には切り札どころか鬼札が雨のように降り注ぐ惨状が作り出されるのだが、知っているのは話を聞いたガネーシャとフェルズ、実害を被り氷山の一角を思い知ったイケロスくらいのものだ。

 

「オラリオの外にも神は居るがよぉ、そいつらはどーすんだ?」

 

「ん、お? おほん、失礼。まずはダンジョンを有するオラリオを優先する方針です。なので、オラリオを放置できるレベルまで闇派閥(イヴィルス)を弱らせるなり、オラリオの戦力を高めるなりしてからになりますが、数年以内には間違いなく監査には伺います。国家系【ファミリア】みたいな大きな所は意外にも天辺はそうでもありませんが、間違いなくそこに近い頭の方から腐ってるでしょうから、地方からでも中枢の比較的まともな所からでも革命の一つや二つ起こるよう煽動と支援をして、全土を燃やしてる内に中枢に忍び込んで病巣を切除。後の統治は人間に委ねます。それで滅ぶなら、まぁ、滅んでも別の所から人なり獣なりが移り住んで栄えるでしょうし別にいっか、と」

 

 そのイケロスの質問に、相手がイケロスだと気付いたノーカは今までの態度は何だったのかと聞きたくなる程の饒舌振りを見せた。自然と視線の一部はイケロスに集中する。イケロス本神も虚を突かれ、つい質問への回答ではなく態度に関する感想を投げる程だったが

 

「めっちゃキャラ変わんじゃん」

 

「人見知りなもので」

 

 当の本人は抜け抜けとそんな事を言って退けたのであった。数柱から向けられるイケロスの視線が強まったが、逆に小動物めいた態度の方が好ましいと考える神の方が多かった。これにより、多くの神は下手に親交を深めないようそっと見守るスタンスを決めたというのだから、サイオー・ホースである。

 なお、次の神がダンジョン及び黒竜を筆頭とした地上のモンスターへの対応について確認した際は

 

「それ、は……地上、に生きる、人の手、で、やらなきゃ……ダメで、す。『神の恩恵(ファルナ)』は、神からきょ、許可を引き出、す価値を、見せた、人の……成果? として、認めるの、が妥当、かと」

 

 ピェ、と小さく悲鳴を挙げて瞬間移動と錯覚するスピードでガネーシャの背後に回ってからのこれである。多くの神は下手に親交を深めないよう(ry

 

「あー、いいか? 仮に子供達が黒竜を討伐して、ダンジョンも制覇したら、そこで神はお役御免で全員送還とかオラリオ追放とかになるのか?」

 

「うーん、わたっ、私、は、任務遂行、以外の知識、は、持って……ないです。けど、報酬? 神様も、ロスタイム、要るか、な、と思い、ます。それに……」

 

 このように想定外の質問もあったが、自分なりに神の価値観と合致しそうな回答を考えて返し

 

「ダンジョン、が、もし、なくなっ、たら、魔石文明、の、後退が起き、ます。代わり、に新技術、が台頭する、かも。その、過渡期にっ、は、まだ……神の助力、が、必要かもです」

 

 地球の現代人としての意見を加えた。それを聞いた神の中には、すぐ側まで来ている全くの未知に思いを馳せ、眷族の活動を支援するために自ら動くか検討を始めた者も少なからずいたのだった。

 

「じゃあ、その時はアンタは?」

 

「どう、でしょう。私、は……天界に戻、る手段、ないですから」

 

 寿命も有限だ、と告げるノーカの言葉に、会場の空気が凍る。それが意味する事は、叶うかどうかも不明な一発勝負、それも片道切符の使い捨て。どこぞのアローヘッドか、或いは斑鳩か、そんなSTGであればありがちな悲壮感溢れる内容に、一部の神は表情を曇らせ、親交を深めても良いのではと思い始めていた。

 

「うむ、中々に有意義な質疑応答だとは思うが、今日は顔見せだ。どうせ今後も神会(デナトゥス)に出席はするのだし、未来の話はその都度すればいいと俺は思うぞ」

 

 と、これは疲れから思考が素になりつつあるのだと察したガネーシャにより、質問タイムは切り上げられた。

 最後に、神ロキから思い出したように昼過ぎ(アパテー)の送還に関する説明を求める声が挙がり、ガネーシャの口からその神が闇派閥(イヴィルス)の一派である女神アパテーであった事、ノーカが捕縛して来た事、尋問の中で回答を拒否し(ノーカに怯える余り)自分の意思で『神の力(アルカナム)』を使い天へ還った事が説明された。

 闇派閥(イヴィルス)の中でも武闘派で通っている【ファミリア】の主神を捕縛した事について、神々はノーカの戦力を上方修正させたが、当の本人がガネーシャの後ろに隠れ、背を預ける形で足を投げ出し座り込んでいるのを見て、危険度は横ばいのままにした。

 

 

 

「と、まぁこんな感じだったな」 

 

 快活に笑うガネーシャの報告を受けたウラノスは、眉間に寄った皺を揉み解しながら頭の中で内容を整理する。

 結果だけを見れば神会(デナトゥス)は目的を達成したと判断できるだろう。ノーカの存在がオラリオの神々に浸透した。質疑応答ではやや倫理観に欠けた部分が見えていたようだが、神の立場からするとそれはそれでいい刺激としか思うまい……自分の【ファミリア】が関係しない限りは、と注釈が付きそうだが。

 

「しかし、人見知りとはな……」

 

Sorry, Boss(すまねぇ、大将)

 

 ウラノスとしても予想外だった、今回の件で判明したある種の弱点。ノーカ自身は恥ずかしさからトラスーツを着込み、申し訳なさから四つん這いになって頭を横に振っている。時折手を振り上げて地面を叩いているが、勢いは弱かった。ECOのモーションである/disappoint通称orz……つまりは形だけの手抜きなわけだが。

 

「弱味を見せるのは、信を得る技術としてあるからな。最良とまでは言わないが良い結果に終わったのは間違いなかろう」

 

「袖から見ている分には気が気でなかったがな……」

 

 ガネーシャの言葉も、フェルズの言葉も、どちらも間違いではなかった。当初の予定通りに進んだ場合、何とかして弱味を握るために策を弄する輩が現れ、多くを巻き込む形での不必要な被害が出ただろうし、薄氷の上を渡る程ではないがそれなりの危ない橋を渡っていた事は確かだ。

 

「その意味では、あの時の質問があったのは良かったのかもな」

 

 ノーカは気を悪くしただろうが、と続けるガネーシャが言ったのは、ノーカが狂犬じみた一面を見せた件である。あれにより、ノーカを策に巻き込もうと企む場合は、報復を避けるために相当な回り道を余儀なくされる事が確定したも同然だった。しかも、相手の実力は嘘か真か闇派閥(イヴィルス)の武闘派を相手に出来るレベル。更には実際の報復範囲がどこまでやるか判断する材料が足りず、確かめるための罠を仕掛けるためには相当なコストが掛かるので迂闊な真似は出来ない……と葛藤する羽目になるわけだ。勿論、それでもやる神はやるのだが。

 

「さて、報告としてはもう十分だろう。今日はもう遅い。明日も仕事があるのだから、帰って休め」

 

「そうだな。俺も子供達が気掛かりだ」

 

「はい。ウラノス様も、ガネーシャ様も、今日はありがとうございました。明日からはしばらくギルドの案件に注力しますので」

 

 ウラノスの言葉により、その場は解散する運びとなった。ノーカは立ち上がると、どこか覚束ない様子であったが、転んだり倒れたりする事なく歩いて退室した。

 

 

 

「私には……ないのか……お礼……」

 

 残されたフェルズの声が虚しく木霊し、ウラノスは黙祷を捧げた。

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