オラリオ総異端児化計画   作:夜月工房

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前回のあらすじ:爆弾テロしに来たから闇派閥だと思って無力化したら【ソーマ・ファミリア】で、パルゥムで、アーデ姓なんだよぉぉぉ! って叫びながら爆散したけど無傷で生還してた(プロットより)


第二十話:芸術は爆発だ――髪がアフロで済む威力じゃなかったっていうか何だよアフロになるっておかしいだろ、と獄中で告白――

 取り敢えず捕縛した闇派閥(イヴィルス)及びギルド職員の言う『ラジルカ・アーデ』なるパルゥムは普段通りの流れで引っ立てて貰い、ギルドとしては無事な設備で炊き出しを再開した。

 最初の一度きりとはいえ、爆弾まで使われた襲撃という恐ろしい目に遭っても空腹は紛れなかった様で、むしろ爆発を聞き付けた野次馬がそのまま炊き出しを利用した事もあり、用意した食材は全て使い切ったし、作ったスープも尽きてしまった。

 ノーカは大鍋等の食器を纏め、コテージの解体を手伝い、現場でできる片付けを終えると、爆発の余波でアフロヘアーになってしまった事を理由に直帰を申請し、もぎ取った。

 流石にアフロヘアーのままオラリオの街並みを通るのは恥ずかしいので、トラスーツに着替えて移動を開始する。目的地はアイアム・ガネーシャ。捕縛した者への尋問に参加させて貰うためである。

 

 

 

「お引き取り願おう」

 

 【ガネーシャ・ファミリア】の本拠を訪ねたノーカを迎えたのは拒絶の言葉であった。

 

「えー。理由をお聞かせ願っても?」

 

「ギルドに所属しても、担当でない者へ情報を漏らすわけにはいかん。唯でさえ成り代わりや連れ込みを警戒される着ぐるみ姿なんだぞ今のお前は」

 

「うーむ、一理も二理もある正論。仕方ありません」 

 

 シャクティの言葉は簡潔で説得力に満ちていた。よってノーカは素直に

 

「これが私の本体のハンサム髪だ!」

 

「ぶっ!? ふっ、ふふ……」

 

「……んっ、ふ……ッ!」

 

 頭部を外して見事なアフロヘアーを披露する。シャクティは無反応を貫いたが、左右に展開して門番を担っている団員は耐え切れなかった。反応に満足できたので両手を上げ、若干背を反らしながらのドヤ顔を晒すノーカであったが、【象神の杖(アンクーシャ)】の二つ名を持つ麗人は揺るがなかった。

 

「よし、帰れ」

 

「アイ、アイ。ギルドから許可を貰って来ますので、例の【ソーマ・ファミリア】だけは処刑を待って下さいねー」

 

 頭部を被り直すと、ノーカは飛び立った。

 しばしそれを眺めたシャクティは、小さく溜め息を吐いて本拠の中へと戻って行く。玄関から離れると、誰も使っていなさそうな部屋に入り

 

「……くっ、今になって効いてきた……アフロだと……アフロだぞ? 何故そうなるんだ」

 

 先程の光景がフラッシュバックして笑いそうになるのを我慢する羽目になっていた。

 その後も定期的にフラッシュバックが起き、夕食時に我慢の限界が来た。集まっていた主神も、妹も、眷族も、突然口元を抑えて静かに笑い始めた麗人の姿に戸惑い、場の空気は混沌としたのだが、【ファミリア】だけの機密情報として語られる事はなかった。

 

 

 

 

 

第二十話:芸術は爆発だ――髪がアフロで済む威力じゃなかったっていうか何だよアフロになるっておかしいだろ、と獄中で告白――

 

 

 

 

 

「と、いうわけで私は被害者の権利を主張します!」

 

「えぇい、分かったからアフロヘアーを押し付けるな! チリチリしてタワシか紙ヤスリかみたいな感触を想像していたら羽毛のようなサラサラした感触で混乱する!」

 

 ロイマンはノーカの申請に対して許可を出すべきではないと渋っていたが、食い下がるノーカに根負けして許可を出してしまった。

 関係ないが、弛んだ頬肉にポヨポヨと軽い頭突きで押し付けられるボリューミーなアフロヘアーの感触は、何故か非常に柔らかく滑らかで、極東から輸入した耳掻き棒の梵天を思わせた。別に感触が許可に繋がったわけではなく、行為のウザさに耐えかねて要求に屈したわけだが、敗けは敗けだ。

 

 直帰しておきながらギルドへ舞い戻って来たノーカの、襲撃と呼んでも差し支えない訪問に驚くロイマンは、炊き出し襲撃犯の一人である【ソーマ・ファミリア】の団員との面会許可を出すべきか少しだけ悩んだ。

 加害者と被害者を会わせて新たな問題が起きた例は多い。闇派閥(イヴィルス)の場合だと、加害者側がわざと煽り、逆上した被害者に命を奪わせる事で最後の爪痕を残して行く事がある。今回は所属こそ【ソーマ・ファミリア】ではあるが、やった事はギルドの炊き出しに対する爆発物テロであるため、実質闇派閥(イヴィルス)と見なす方が自然だ。

 また、【ソーマ・ファミリア】の【芸術家(ファイアワーカー)】と言えば、大量に持ち込んだ爆発物を用いた罠の連鎖によりミノタウロスの群れを追い詰め殲滅した事が偉業として認められて【ランクアップ】を果たしたとされている冒険者である。その時の流れが即席でありながら同行者も思わず見惚れる程に芸術的だった事から、神も花火師ではなく芸術家としたのだとか。当の本人も閃きがあったのか、二つ名を貰ってからは魔剣の様な効果を発揮する、独自に設計したらしい魔石製品『打ち下ろし花火』を武器にしている。神酒(ソーマ)を狙って襲撃してきたとある【ファミリア】の眷族を唯の一撃で纏めて爆殺したとの報告もギルドに上がっている過激派でもある。

 爆発物の被害者でありながら捕縛した加害者でもあるノーカがノコノコと面会に行って、或いは煽って、【芸術家(ファイアワーカー)】が我を忘れて自爆するなんて事になれば目も当てられない。巻き添えになるであろう建物や眷族、民衆への補償などロイマンは考えたくもなかった。

 

「面会を認める代わりだ。手間を省くために【ソーマ・ファミリア】から賠償を確約させろ……まずは罰金。ついでに下手人の身柄。最低でもこの二つは絶対だ」

 

 まぁ、結果として根負けして許可を与えてしまったわけだが。

 ロイマンはせめてもの抵抗として、面談に先んじて【ソーマ・ファミリア】と処置に関して交渉を行い、最低でも管理不行き届きを理由にギルドからの定期監査の受け入れと、【芸術家(ファイアワーカー)】の【神の恩恵(ファルナ)】剥奪及び【ファミリア】からの除籍、そして団員によるギルドの炊き出しという関連施設への襲撃に対する罰金として五百万ヴァリス以上を約束させる事を条件として命令した。してしまった。

 

「心得ました。尻の毛は疎か拡大鏡でようやく気付く産毛の一本までも毟り取ってご覧に見せます。そう言えば、神酒(ソーマ)に対する課税の件ですが……」

 

 何を隠そう、【ソーマ・ファミリア】こそはノーカ調べによる帳簿の怪しい【ファミリア】ランキング堂々の第一位。内容としては単純な数値間違い、計算間違い、誤字脱字謎言語……それらが無くとも液体を溢して紙がふやけていたり、書き直しが多過ぎて目が痛くなったりする書類が散見されていた。はっきり私怨ではあるが、恨み骨髄、なのである。

 

「本来ならば眷族の活動内容が参照されるものであり、神ソーマの製造した酒に関して税の対象にするなど恐れ多い話ではある。あるのだが……我等が主、大神ウラノスより【ソーマ・ファミリア】の醜聞は目に余るため、これに灸を据える必要があるとのご意見を賜った。つまりこれは……神意である」

 

 ノーカの振った話題に対応したロイマンの表情はウラノスの意を含む内容である事から厳粛ではあったが、隠し切れない歓喜が滲んでいた。台詞の最後と共に決裁済の書類を元にした通知書を差し出して来た際には、背後に笑顔を浮かべる夢追い人(レジライ)の幻影が見える程であった。

 

「拝受します……確かに。大神ウラノスの神意、恙無く神ソーマの了解を得られる事でしょう」

 

 受け取った側が浮かべるのは狂気を隠さないが清々しさを感じる喜びの笑みだ。もはやこの場を見た百名の内、九十七名は悪と断じそうな空気が流れている。残る三名の内で二名は現場のロイマンとノーカだが、最後に残る一名はこんなものは悪じゃないとメギド72(親の顔より見た号泣)する邪神エレボスである。髪型的にイケるイケる。

 

 【ソーマ・ファミリア】の帳簿だが、探索系で登録されているせいか、酒類の取引が記載されていなかった。

 どうやっても酒一本の方が中層程度までの魔石やドロップ品の総額よりも高いのだから、脱税扱いにして良いのではないかと思ったノーカは、意見書を作製したものの、内容的にギルド長の決裁が必要となるので自分だけで完結できず、決裁待ちとなっていたわけだ。

 そして説明を受けたノーカは、神の行動であるから非課税という内容に物凄く納得し、反省する事となった。【ソーマ・ファミリア】を合法的に叩ける事実に浮かれ過ぎてオリジナル笑顔を披露していたが、些細な問題である。

 

 

 

「……信じられない」

(何故だ……どうしてこんな事に……ッ!)

 

 【ソーマ・ファミリア】団長、【酒守(ガンダルヴァ)】ザニス・ルストラは自分の招いた危機に焦っていた。

 彼はLv.2に至ったことで『神酒』の魔力に対応できるようになり、他の候補を蹴落とす事で派閥内の権力闘争を勝ち抜き団長の座を手にした男である。

 【ソーマ・ファミリア】では、今年に入って新たな【ランクアップ】を果たしてLv.2となった団員が居た。それだけでもザニスとしては自分の座を脅かす要注意人物に当たるのだが、そいつは何と一年と少しで偉業を達成しその器を拡張した期待の星と呼ぶべき存在だった。

 はっきり言ってうだつが上がらない派閥であるはずの【ソーマ・ファミリア】に現れた、ある種の異端者。それはオラリオ全体で見ても希望足り得る存在であり、派閥内に置いても新しい風を吹き込んでくれるのではないかという期待を寄せられる存在となっていた。

 そうなれば、当然ザニスは蹴落とすために手を尽くす……例え闇派閥(イヴィルス)を使ってでも。

 【芸術家《ファイアワーカー》】の二つ名を貰ったそいつ、ラジルカ・アーデには妹が居た。姉妹仲は良く、観察すれば姉はやや過保護な面が見受けられた。

 当然、ザニスにこれを利用しない手はなかった。姉と違ってまだ右も左も分かってないような年頃の少女だ。表情を取り繕って声色を作れば簡単に信じて踊ってくれた。本拠の内部での出来事なので、神からロリコンの汚名を被せられる事はない。派閥内で受ける視線に妙な色が混じる様になり立場が若干揺らぎ掛けている気もするが、恐らくは気のせいだろう。

 言ってしまえば人質作戦である。【芸術家(ファイアワーカー)】は、名前の通り爆弾を用いた戦法を得意とする。つまり、実力行使の際は周囲を巻き込むのだ。人質を取られればもはや手を出せなくなるのである。

 闇派閥(イヴィルス)に妹を誘拐させ、姉に爆弾を使った混乱を巻き起こす様に強要させる。これでどう転んでも【芸術家《ファイアワーカー》】の立場は悪くなり、自分の地位は守られる――その筈だったのに。

 

「ふむ、その様子では余程あの団員に期待を寄せているので?」

 

 今、ザニスの前に居るのは自称:ギルドからの使者だ。

 【ソーマ・ファミリア】の実権を握って上納金制度を作り出した事で濡れ手に粟の生活を続けられる様になりダンジョンに向かわなくなって久しいザニスからすれば、初見の怪し過ぎる風貌をした相手だったが、他の団員の話ではここ最近になって現れた有名な存在らしい。実際に相対して、渡された書簡の中に珍妙な外見をしているが間違いなくギルドの職員であるとの注意が明記されているのを見てしまえば、無下に扱う事も出来なかった。

 しかも、書簡の中身は通知書となっており、闇派閥(イヴィルス)に服従する様に仕向けた【芸術家(ファイアワーカー)】がよりにもよってギルドの炊き出しにテロを仕掛けたと記されている。時間を置かずに使い潰すよう闇派閥(イヴィルス)には言っておいたが、まさかこの様な使われ方をされるとはザニスも思っていなかった。

 そのせいで闇派閥(イヴィルス)と繋がっているのではと疑われ、問題は【ソーマ・ファミリア】そのものの存続にまで波及してしまっている。ザニスとしても裏の世界に潜るかどうかの瀬戸際に立たされていた。当然、ザニスにとって御免被りたい最後の手段である。地下に潜ってしまえばやりたい事など殆どが叶わなくなり、実力主義な世界ではLv.2程度が自由に振る舞う権利など持てない。

 あくまで個人による協力であると認めた場合でも、眷族の管理不行き届きに対する罰として一定期間ギルドの監査を受け入れる事、神ソーマの作った酒に関する取引に税を課す事、賠償金として2億ヴァリスをギルドに支払う事が記されている。他にもラジルカ及び関係者の『神の恩恵(ファルナ)』剥奪と【ファミリア】からの除籍もあったが、権力を脅かす政敵を合法的に排除できるいい機会でしかなかった。

 

「え、えぇ、まぁ。偉業に関しては『恩恵』の有無に関係ない方法だったとは言え、仮にもLv.2の最速記録に匹敵する有望な者でしたからね」 

 

「ですが団長としては大変でしょう。探索系では力こそが重要視される傾向にあるそうですから、追い抜かれて団長の座を奪われるのではないかと気が気でなかったのでは?」

 

 笑顔で取り繕うザニスだったが、労いに見せ掛けた煽りの言葉に頬を引き攣らせこめかみの血管を浮かせた。しかも内容はまさにザニスの心理そのもの。図星を突かれて憤りを覚えたザニスだったが、同時に実は既に闇派閥(イヴィルス)の自白を引き出してから来たのではないかと心中で冷や汗を垂れ流している。

 

「いやいや、当【ファミリア】は主神が趣味に没頭する性質ですから、団長はそのまま【ファミリア】の運営に時間を取られてしまいます。アーデはまだ幼いので、そういった部分を任せるわけにはいきません。優秀な戦力はそのような事に気を取られずダンジョンで稼いで来て欲しい本音もありますがね。それがまぁ今回の件で……書面にある様に、管理不行き届きは……認めねばなりませんね」

 

 ザニスは言葉を進めるに連れて段々と調子を落としていき、最後はがっくりと項垂れる。

 なまじ【ファミリア】を私物化して運営を取り仕切っているが故に、億単位の罰金も払えなくはない額だと理解できてしまう。自分の懐に入れて来た上納金から出せば余裕だ。自腹を切る事になるが、闇派閥(イヴィルス)認定されて表舞台から追われるのに比べればよっぽどマシである。

 

「ギルドの監査も受け入れざるを得ませんね。本来なら運営に口を出さないとは言え、今回は闇派閥(イヴィルス)の疑いなわけですし」

 

 これがかなり痛い。その実、ザニスは闇派閥(イヴィルス)と個人的な伝を持ち、更には派閥の運営を実質的に行っていることから他の団員を闇派閥(イヴィルス)の依頼に手伝わせた事がある。そういった依頼は非合法であるからこそ多額の資金が動き、ザニスの懐を潤してくれるのである。監査が入る期間はこれが封じられてしまい、収入が落ち込む事で今まで出来ていたアレコレに手が伸ばせなくなってしまう。まぁ、監査期間中はまともな運営を心掛けて四苦八苦せねばならないので遊ぶ暇も無くなるだろうと予想は出来るのだが。

 

「最後の【芸術家(ファイアワーカー)】と関係者の処遇も……残念ではありますが、当然ですね。むしろギルドの恩情に感謝しなければ」

 

 これに関してはザニスにとって大手を振って邪魔者を排除できる有難い処置であるため、大歓迎である。殆どの団員は主神が作った『酒』の魔力にやられたものばかりで、集りに対して力尽くで黙らせてきたラジルカ・アーデは居なくなってもデメリットにならないと考えるはずだ。そうして自分を脅かす者が消えてザニスの地位が磐石の物となれば、ギルドの監査期間さえ耐え凌げば上納金を復活させて再び栄光の日々が戻って来るのだ。

 

「お気の毒とは思いますが、私としましても襲撃に居合わせ被害を受けた身ですからね。思う所が無いわけでもないのですよ」

 

 その朗らかな声を聞き、ザニスは胃がきゅっと窄まり、迫り上がり、込み上げて来る何かを飲み込んで必死に堪えた。

 ギルドの職員は【ウラノス・ファミリア】として見られるが、中立性を示す意味で『神の恩恵(ファルナ)』を刻まれておらず、肉体的には一般人だ。まさか爆発物を用いたテロの標的とされたにも関わらず精神的に参る事もなくこうして交渉に赴くなんて、とザニスは恐怖した。

 

「それは、その、誠に申し訳なく」

 

「いえいえ、幸いにも一部器材の破壊と参加者の怪我人数名で済みましたからね。炊き出しそのものも再開出来ましたし」

 

「そうでしたか。あぁ、多少なりとも救われた気持ちです」

 

「えぇ、後はお宅から追放されるであろう主犯の妹さんを洗の、教育して立派になった姿を姉御さんに見せて上げれば私としても溜飲は下がります」

 

 ここでもギルドの使者はぶっ込んできた。まさか除籍を免れないとは言えど、未だ【ファミリア】に所属している団員を相手にやや捻くれた形ではあるが復讐すると告げて来るとは、果たしてこいつはギルドが中立である事を理解しているのだろうかとザニスは疑問を抱いた。

 が、ここでザニスの心中を一番多い割合で占めているのは一言

 

(ヤバい)

 

 である。何故かと問われれば、答えは単純。ザニスはラジルカを蹴落とすために妹のリリルカを闇派閥(イヴィルス)に渡したから、である。

 妹の行方が知れないとなれば、この公私混同ギルド職員はどんな難癖を付けてくるか理解できたものではない。管理不行き届きのペナルティは受けるのだから勘弁しろと言いたいが、感情で動く輩には通じないだろう。さりとて替え玉を用意できるかと言われれば、シスコン気味の姉を騙せる仕上がりにできる気がしない。ザニスは内心で物凄く焦りながら言い訳を考えて

 

「と、ところで本日はこの後どのようにするおつもりで? 賠償金は金庫に閉まってある運用資金だけでは少々足りませんので、団員から徴収する必要がありまして。関係者の引き渡しも迷宮に潜っている者もおりますし」

 

 未来の自分に投げた。だが、この場を切り抜ける言い訳としては及第点なのではなかろうかと自賛する。【ファミリア】の管理をしているとはいえ、団員の予定を正確に把握しているわけではない。アーデ(マイナー)は調べてみたら少し前から姿を見せていないためダンジョンアタックに参加していると思われていたが、そう……実はそこで闇派閥(イヴィルス)に通じる姉に誘われるがまま、自らも闇派閥(イヴィルス)へと身を堕としていたのだ!

 

「なるほど、では後はこちらの誓約書にサインをお願いでかますか? 今日のところはそれで」

 

「えぇ、わかりました」

 

 勝った――ザニスは内心で口の端を吊り上げた。気分を高揚させたまま、しかし誓約書の内容を精査してから署名する。

 

「一応、闇派閥(イヴィルス)の協力者の協力者になるわけですし、このまま彼女の捕縛を知って雲隠れしなければいいのですがね」

 

「――えぇ。正直に申しますと、現時点でそれをされたら……申し訳ありませんが、手が届かない可能性は高い。なるべく早めに動きます」

 

「はい、お願いします。それでは本日はこれで」

 

 最後の一刺しを忘れない実に厄介な来訪者の帰還を見送ったザニスは、一縷の望みに賭けてリリルカ・アーデの身柄を返還させるべく闇派閥(イヴィルス)に連絡を取るのであった。

 この様な場合、疑い自体はしばらく晴れないのだから、泳がされている可能性を考えて自重するべきなのだが、ザニスは敢えて危険を冒した。

 闇派閥(イヴィルス)の面子は大抵が人格破綻者である。リリルカ・アーデの身の安全など何処にもないのだ。何なら既に殺されていたり壊されていたりする可能性の方が高い。が、【ファミリア】の、引いては自らの地位の危機である。危ない橋を渡るだけの価値がそこにはあった。何だ彼んだ言っても【酒守(ガンダルヴァ)】ザニス、未だに心の一部は冒険者なのである。十年後はどうか不明だが。

 

 ちなみに、ギルドからの使者ことノーカは狭く浅い原作知識に影も形も存在してないラジルカ・アーデの存在に気を取られていたため、ザニスの追跡調査について頭からすっぽり抜けていた。当然ながら、原作にも外伝にも公式の何処を見たってそんな人物は居ない。

 ノーカとしては「ラジカル、リリカル、るるるるる~」の掛け声と共に変身して、変身が終わると同時に起きる背後の爆発に合わせてポーズと共に「ロジックなんざレ○プする」の台詞をキメる魔法少女ものを製作している最中なのである。ディックスいじ()のアレとは別の、全く新しい魔法少女ものである。そこに、リリルカだけでなくラジルカと来たからには、実写化の際は二人に演者を頼むしかなかった。何なら毎回貧乏くじを引かされる男の娘な弟ロジルカきゅんは居たりしないのかアーデェ! 等と血迷った事を考えていた。彼女は狂っていた。

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