「こちら、【ソーマ・ファミリア】からの誓約書です。団長の【
「なん……だと……神の署名が無ければ何の効力も持たないではないか!」
「ご安心を。帰り際に畑を耕していた神ソーマと会話する機会を得られまして。私の故郷にあるお酒を土産にしたら録に内容も確かめずご署名頂けました。ついでに神ソーマが運営を団長に全権委託して放置していたという認定・謝罪を含む証明書にもサイン貰えました」
「む……そ、それならそうと早く言え。全く……ん? これは……おぉ! なるほど、考えたな」
ロイマンはノーカの報告に一度は激昂したが、補足を受けながら手渡してきた誓約書を確認すると、ニンマリしながらノーカを労った。
その誓約書は下にカーボン複写紙と本命の書類とが仕込まれていたのだが、黒地のクリップボードに挟まれていたため気付き難くなっていた。
思い切りギルド長である自分の作った書類を改造した偽造文書を用意して署名させているのだが、その内容の単純さに反比例する様な悪辣さ……基、有効性に、ロイマンは思わず膝を打つ。早い話、黙認した。
本命と言っても、ザニスの読み込んだ一枚目の内容と大きな違いはない。一度の負担で生活が難しくなった団員の支援として、ギルドから貸付金を利用できる旨が追記されているだけだ。
借りた金額は月5%の利率を持っており、支払い方法は任意の返済以外に、賠償金として支払われた二億ヴァリスから【ファミリア】単位で毎月八百万ヴァリスずつ自動で差し引かれていく仕組みが取られている。
二億ヴァリスの口座と、使用上限額が契約上は存在しない月八百万ヴァリス固定額払いのクレジットカード……そう、悪名高きリボ払い制度がオラリオに誕生、導入される事が決定した瞬間である。
一応、今回は【ソーマ・ファミリア】の内情がボロボロである事と、神ソーマの『神酒』があるので踏み倒される危険性はない事と、理想的な条件が揃っていたために採択され、試験運用する形である。
自分達の物だった二億ヴァリスから自動引き落としされるとの記述により、団員はザニスからギルドに管理権が移って自由に使えるようになったと認識して、借金をする感覚が薄まり、それはもう景気良くじゃぶじゃぶ借りてくれる事だろう。何せ実質的な上限は二億ヴァリスである。しかも、どれだけ借りようと返済額は全体で月八百万ヴァリス。ならば十分に稼げる額だ。これにより、これくらいなら、自分一人だけなら、あいつもやってるから……と箍が外れてしまう者が大発生しても不思議はない。
ノーカが【ソーマ・ファミリア】を訪ねた帰りに会った者は神ソーマ以外にもいた。つまりは一般団員数名なのだが、ソーマへ振る舞ったのと同じ甘酒を振る舞って世間話と言う名の聞き取り調査をして来た。
その中で、ザニスの決定により上納金がある事、『
さりげなくパルゥムの団員についての話を尋ねたが、注目株の【
(ま、魔法だから。魔法で姿を変えて立ち回ってるだけだから。でも姉が原作にいない生えて来たキャラならリリの人生が変わって願いも変わって魔法も……あばばばば)
また、団員の酒を求める気持ちや『神酒』の魅力についても語られ、原作知識と変わらぬ十年前の様子に何とも言えない気持ちを抱いたのはここだけの秘密である。
今回を機に借金で『
二億ヴァリスが尽きるのは最短でも二年半後だ。そこから先は自動引き落としが出来なくなり、言われてようやく気付かされる地獄の返済生活――恐らくは自転車操業の始まりである。そこまでに膨れ上がる借入額は果たして幾らになるのだろうか。ノーカもロイマンもワクワクが止まらない。ロイマンに至っては『神酒』という強力な外交カードの合法的な定期入手すら実現するのではと期待に胸を踊らせている。エレボスの号泣が捗りそうな光景が、確かにそこには在ったのだ。
証明書についても、【
「これで私を爆殺し損ねた
「副音声が無ければ何の憂いもなく許可を出せたのだがな……」
依頼は達成したのでもはや決定事項と考えているノーカの確認に、ロイマンは【
第二十一話:ギルドの闇(金融)――後年、ウラノスにバレてめっちゃ叱られた――
夜も更けて来たと言うのに、【ガネーシャ・ファミリア】本拠『アイアム・ガネーシャ』の玄関に佇むシャクティの前では、中に勝訴と書かれた巻物を広げ、ドヤ顔を剥けて来る者が居た。言わずもがな、
「……今日はもう遅い。明日にしろ」
「事態は一刻を争うのですよ【
その外見や姿勢とは裏腹の、酷く真面目な声。これには呆れて追い返そうと決めていたシャクティも少なからず驚かされ、詳しい話を聞く気にもなる。
「聞くだけ聞こう。理由はなんだ」
「確認しなければならない事があります。不安や混乱を起こさせないために、正誤が判明するまで詳細は伏せます」
有無を言わせない、切り捨てるような言葉。着ぐるみの円らな瞳からは読み取れる情報が無く、かといって頭部を外させたとしてもアフロヘアーの洗礼が待っている。夕食時に暴発して以来、事ある毎に思い出し笑いをしてしまう状態にあるシャクティとしては、元凶からの追加摂取は御免被りたかった。
なお、アフロヘアーが無かったとしても目隠しをしているので読み取れる情報は少ない事を記載しておく。
「それが騙りでない事を証明する物は?」
「あ、そっか」
「……うん?」
珍獣は懐に手を入れ何を取り出す仕草――当然のごとく着ぐるみの懐に手は入らないのでパントマイムになっている――により虚空から筒を取り出し、筒の中から取り出した書類を突き出した。
「こちら、ギルド長ロイマンより発行された面会許可証になります」
だが、その書面を見たシャクティは台詞と合っていない内容に顔をしかめ、指摘する。
「……『魔法少女ラリ・ル・ロレ』企画書とあるが?」
「………………」
「………………」
シャクティは企画書の内容が気になって仕方無い気持ちを必至に抑えて着ぐるみの瞳を睨み付ける。寒々しい空気が満ち、冷たい風が吹いてどこからか運んで来たタンブルウィードがそのままカサカサと転がって行き、諸行無常を謳っている様だった。レッツゴーで1000歩は辛かったです。
「こちら、改めまして、面会許可証です」
取り出す仕草を繰り返し、今度こそは間違いなくギルドから発行された正式な書類であった。わざわざ『早急に』との文言が認めてあり、受け入れざるを得なかったため、シャクティは溜め息混じりに虜囚の元へ案内するのであった。
「【
「へぇ、ザニス辺りが殺しに来たンかな?」
【
「ふ……その方がまだマシだったかもな」
「はぁ? 何を……」
風が吹けばそのまま何処かへ飛んで行ってしまいそうな儚さを纏い、善神の眷属として有るまじき発言をしたシャクティを訝しむラジルカであったが、彼女の背後に見えた存在に言葉を失った。
「よう、首輪付き」
虎だ。虎が居る。頭部だけが妙にリアルな造形の虎の着ぐるみがそこに立って……いや、浮いている。
言うまでもなく
ラジルカは、ノーカがやって来る少し前に【ランクアップ】を果たし、酒造りにしか興味のない主神が不参加だった
その後、これまたノーカがやってくる直前くらいに妹の身柄を抑えられ、
「反応が薄いですね。ちゃんとご飯食べさせてます?」
「夕食はちゃんと提供したはずだが……パンとスープとジャガ丸くんだ」
「味付けは?」
「肉じゃが味だ。醤油、と言ったか。癖はあるが……癖になる」
「でしょう? 極東由来ですがアテはあるので価格は落ち着いていくと思いますよ」
「だが空からなのだろう? 広まれば供給が追い付かなくなるのでは……」
「オイ、アタシに面会じゃなかったのか!?」
どんどん話が脇道に逸れていく二人を前に、ラジルカは再起動を果たし非難を浴びせる。
「ようやくお目覚めですか」
「てめぇ、何者だ?」
肩を竦めて首を横に振る不審者を睨みながら、余りの不審者に警戒心を剥き出しにして正体を探れば
「
「ざけンなッ!」
ピントのボケた答えが返って来る。被り物で見えないが、ラジルカは確信する――こいつは今、嗤っていると。当然、その巫山戯た回答を聞いて侮られていると感じ、頭に血が上って声を荒げてしまう。
「どうにもご機嫌斜めですね。まるで――我が子を拐かされた獣のよう」
「~~~ッ!! て、め、ぇ」
正体は依然として不明。だが、
悪い方向に想像が進み、肝が、頭が、冷えていく。釣られるように顔から血の気が引き、体が震え出す。妹のいない世界など存在する価値はない。そんな無価値な場所になど、一秒たりとも存在したくない。
「……
気付けば、後先を考えない問い掛けをしていた。知りたい気持ちと知りたくない気持ちとが鬩ぎ合い、それでも一縷の希望に縋りたい気持ちが都合の良い答えを期待して言葉を投げる。
「あいつ、どいつ?」
「妹だよ。お前、知ってるんだろう? 裏で
「!?」
「絶対にノゥ!!!」
急に様子の変わったラジルカの曖昧な言葉にノーカが問い返せば、妹――おそらくは原作キャラのリリルカ・アーデ――の行方を尋ねて来た。かと思えば、妙に確信した様子でノーカを
「何でだよ! アタシが失敗したからもう用済みだって伝えて絶望するのを眺めたかったんだろう!? 特等席で!」
「夢も前世も合わせてなお初めての言い掛かりだよこん畜生!!」
ノーカ、キレた!!
台詞の正誤はさておき、少なくともこのダンまち世界に過ごして一番の憤りを覚えたノーカは、プッツンしたテンションのまま被っていたタイガーマスクを掴み、思い切り引っ張って脱がしながら勢い良く地面に叩きつける。その一撃で地面には下手な蜘蛛の巣の様な亀裂が入り、地面が揺れ、革製品が出す音としては不適当なドグォパァンという破砕音なのか破裂音なのか良く分からない音を生み出したタイガーマスクは耐久度を全損させた。これが
地味に前世とか言っちゃってるが、キレ具合と引き起こした事象により誰も気にしなかった。普段から狂っていると捉えられる言動ばかりしている弊害も存分にあったと思われるが。
なお、ロイマンから念押しされた物理的被害が起きてしまった事で、面会許可証に明記された違約金が発生しており、ノーカは地獄の28連勤で稼いだ額の七割近くを被害への補填のため回収される未来が確定していた。このご時世、【ガネーシャ・ファミリア】の地下牢が頑強さを増す事はノーカとしても望む所だろう。
「私は、ギルドの、お偉いさん、だ!! この戯け」
地味にオラリオ初公開、ウラノスやガネーシャですら見た事の無いノーカの貴重な素顔は、ぼんやり可愛い守護魔・ハヅキ顔とは思えない程に目が吊り上がり、歯を剥き出しにした凶相であった。瞳孔の窄まった、されど爛々とした赤い双眸を携えたそれが、ラジルカを地面すれすれから見下ろしている。端から見れば重心や捻られ具合から腰への負担が凄そうなポーズだが、ここは【ガネーシャ・ファミリア】だ。眷族の皆さんは普段からヨガやってるから余り驚かない。
ここに至り、ラジルカは己の勘違いを自覚した。明らかに怒りを見せているのに、浴びせられるのが
「捕虜を脅すな」
「痛いでごわす!」
シャクティは守衛の持っていた鎮圧用の棍棒を受け取り、ノーカの尻へ叩きつける。『
「はぁ……面会に口を出すのもなんだが、
「あ、あぁ……リリは――妹は、
見兼ねた麗人の口添えにより、ラジルカはポツポツと語り始めた。要約すれば妹を人質に取られたので
普通に考えて、
そんな中、ノーカは一人だけ原作が崩壊の幻聴を聞いていたのであった。今更な話であるとのツッコミは、誰もする事が出来なかった。
「……それに【
努めて冷静に、ノーカはラジルカに尋ねる。
「恐らくは。けど証拠が無ぇ」
俯き、力無く首を横に振りながら呟くラジルカの答えに、ノーカは自身の考えを強めた。即ち
「ザニスの
「「「「「うわぁ」」」」」
その頃、【ソーマ・ファミリア】団長、【
対応した交渉役の