オラリオ総異端児化計画   作:夜月工房

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前回の荒すぎ:すごかったね


第二十二話:シスコン――十年後、そこには爆風に紛れて早着替えする姉と変身魔法で手間要らずな妹の姿が――

 【芸術家(ファイアワーカー)】との面会を終えたノーカは、久方振りの帰宅に際して『なんでもクエストカウンターオラリオ支部』へと赴き、パートナー達との触れ合い(アニマルセラピー)を通して精神的な疲労を癒し明日への英気を養った。

 

 受付嬢(デス・アルマ)の言では、殆どのアルマがオラリオの街――正確には表通りだが――には馴染む事ができたとの事で、民からの評判は上々だとか。

 依頼は日雇いの売り子や、家事代行、お使い等が多いらしい。何でも、暗黒期のオラリオにあって明るさを失わず花咲く笑顔で対応してくれる若者や幼子の存在は需要が高いのだそうだ。身形が整っている事も大きいと推測されている。それだけ裕福だと判断され、最初こそ金持ちの道楽と思われたらしいが、だからこそ不正に走る理由がないと利用者が現れ、仕事振りが口コミで広がり今に至るわけだ。

 神に対しては建物の入り口にでかでかと書かれた『神お断り』の一文により侵入を防いでいるらしい。依頼中に遭遇した場合は逃げの一手だが、極一部の例外を除けば神にすら認識されない各種ネコマタの肉球が猛威を振るったようだ。ギルドにも届いていた、神々が幸せそうな笑顔を浮かべたままノックアウトされる奇妙な現象の噂は、蓋を開ければ身内の仕業であった。たまに山吹のハリセンやミケのステッキによる殴打で気絶させられた神や、トラの爪で無残な姿にされた神も出たそうだが、送還報告0件(しなやす)なので問題ない。

 

 サービス業としてギルドに申請・登録されている『なんでもクエストカウンターオラリオ支部』だが、極最近になって新たに建物内部に併設された――むしろ床面積で言えばこちらの方が多い――同名の商店も営業し始めた。

 内訳としては食料品店及び雑貨屋となっており、テイクアウト可能な料理や、シャクティの言及した醤油のような加工品を取り扱っている。地味に雑貨屋では鞄や属性矢及び属性コロンという、ダンまち世界ではオーパーツ扱いされそうな品物もひっそりと取り扱っているのだが、アルマに認められた上でノーカにも認められた者だけが所持を許される謹製のメンバーカードを所持していなければ公開されないため、知る者はいない。後日こっそり【イケロス・ファミリア】の面々に融通した所、単純に属性があるだけで物理と魔法と双方の属性を持つらしく、物理に強い敵も魔法に強い敵もセオリー無視の力押しが通用し、当然ながら弱点属性を突けば更なる楽が出来たため、ダンジョンの下層でもサクサク進めたとの感想が返ってきた。

 この商売の背景として、ノーカが28連勤している最中、まだ拠点となる建物が完成していないため飛空庭で寝泊まりしていたアルマ達から、突如として現れたと報告のあった飛空城の存在がある。

 この空を飛び、次元の壁を越えて別世界へ移動する事すら可能な施設は、ある意味でECOのリングにおけるエンドコンテンツの一つであった。が、実装時に残っているプレイヤーは基本的に廃人としての性質を持っていたため、普通にありふれてもいた。機能としては、飛空庭だけでは移動できない世界間ファストトラベルの中継や、ブースと呼ばれる店舗でのちょっとした買い物の他、飛空城ファームなる農場や釣り堀のような趣味コンテンツを内包した複合施設である。

 すわ他のプレイヤーが転移して来たのかと身構えたノーカであったが、デス・アルマが報告する隙を突いて二台目の飛空庭をハイジャックして飛び出した好奇心旺盛な面々の先行調査により、プレイヤーの姿はなかったとの追加報告が来た。ファームと釣り堀も設置されており、ファームには大量の手のひらサイズ田舎属性妖精カルティーと、本来は家具扱いの畑を耕すモーションを取り続ける疲れ知らずのマスコット農場タイニーが、作物のお世話をしていたらしい。

 そしてリングハウスに残されていた一通の手紙から、城がノーカのリアフレで構成された小規模リングの所有する物であった事、リングのマスターがミニスケールアクシズ落としを夢見ていた事が判明したので、ノーカは遠慮なく私物化する事を決めた。

 余談だが、後日ノーカが乗り込んで確認した所、ブースに何故かでじこがゲーマーズの出張所を構えていた以外は至って平均的な飛空城であった。おかげでオタクコンテンツによる文化侵略が捗りそうだが、原作及び外伝の小説まで取り揃えていたので、治安の悪さを理由に待機して頂く様にお願いした。いっそ城で天界に行ってゲーマーズの支店を開いてから地上に漫画や小説を撒き『続きは天界で』とかやれば神々が一斉に送還されてくれるのではないかとも考えたが、翻訳作業が面倒過ぎて諦めた。

 

 

 

 

 

第二十二話:百合姉妹(シスコン)――十年後、そこには爆風に紛れて早着替えする姉と変身魔法で手間要らずな妹の姿が――

 

 

 

 

 

 一夜明けて仕事である。ノーカにとっては相も変わらず商人の不正を探すために膨大な量の書類と格闘する時間の始まりだ。

 単純作業の傍ら、考えなければならないのは、やはり闇派閥(イヴィルス)に誘拐されたリリルカ・アーデの事である。

 原作におけるリリルカ・アーデは、生粋のトラブルメイカー的特異点である主人公ベル・クラネル――引いては彼の下に集う【ヘスティア・ファミリア】にとってまさに縁の下の力持ちであり、無くてはならない存在だ。具体的には書類業務。特に会計、即ち経理。ノーカのお仕事に直結する部分である。というか、彼女の居ない【ヘスティア・ファミリア】はダンジョンの知識が足りず計画性も金銭感覚もイマイチで計略と呼べるか怪しい策にも簡単に引っ掛かりそうなお人好し集団である。もはや最初の半年を待たずに破産してどこかの傘下に入ってしまう気がしてならない。

 そんな彼らが提出してくる書類……ノーカは想像するだけで頭が痛くなった。幸い、どう足掻いても小規模なので追跡調査は簡単に済みそうではあるのだが、それはそれ。記入や計算のミスといったヒューマンエラーだけに留めて欲しいものである。それこそが一番厄介な部分である事実からは目を背けるとする。

 善ではあるものの法に縛られない部分が見受けられる【ヘスティア・ファミリア】と上手くやっていける人材は、広いオラリオで見ても貴重だ。

 何しろ唯一の眷族のためにコネと耐久土下座を駆使して鍛治神から直接武器を打って貰い、眷族の協力を禁じられた個神の返済義務ではあるが家族に内緒で借金二億ヴァリスを背負う主神である。唯一の眷族を心配する余り他派閥を巻き込んで自らダンジョンに入ってしまう主神である。一応、後者に関してはベルにちょっかいを掛けようと最初からダンジョンに入るつもりだったヘルメスの存在が大きいのだが。

 田舎から出て来たばかりの団長と、眷族を持たないばかりか勤労意欲を持たず無職のまま友に養われていた神とが悪魔合体を起こした零細【ファミリア】の常識知らずっ振りは、他派閥及びギルドと、或いはオラリオそのものとだって敵対し兼ねない行為にも比較的容易く及ぶのである。生半可な覚悟で所属し続ける事は出来ない。それこそ執着や思慕といったクソデカ感情で食らい付く位は出来なければ脱退(ドロップアウト)待ったなしだ。

 まぁ、ベル・クラネルの輝きを最高のものに出来るのは善の純心ヘタレ処女神と評される神ヘスティア下なのであろうが、神ロキや神フレイヤのような善悪を呑み込めたり気にしない神、或いは神タケミカヅチや神ミァハのようないざというときは覚悟を決めて責任を取る気満々になるイケメン神等の下に居ても一級品の輝きを見せると思われる。根本的に間違っている(オカンの存在する)世界なのだから、とことんif(もしも)を楽しむのも有りなのではなかろうか。例えば、そう、クラフター・ベルやヒーラー・ベル、光速の異名を持ち重力を自在に操る高貴なる女性騎士ベル・クラネルなんて想定外で攻めて来ないとも限らないのだ(てたまるか)

 話が逸れたが、ミーハーなノーカとしては原作シーンを見たい欲を持っている。リリルカ・アーデにはベル・クラネルに惚れて欲しいし、神ヘスティアと外敵相手には協力しつつも普段は鎬を削って欲しい。よって五体満足で闇派閥(イヴィルス)から無事に身柄を確保したいのであり、干支スーツ(たつ)で変装した謎の着ぐるみ農家ノーカリオンとして焼き畑農業を実践の形で教えるべくダイダロス通りを火の海にする事も辞さない。

 そんな感じで午前中の業務は終わりそうだったのだが、昼前に【ガネーシャ・ファミリア】から昨晩の件で報告があったらしく、ギルド長に呼び出されお叱りを受けた。精一杯の誠意を込めた渾身のDOGEZA(袖の下)を添えて謝罪したので、何とか書面通り罰金だけの致命傷で済んだ事を記しておく。28連勤のお給料なんて無かったんや。

 

 

 

 時は飛んで三日後。【ソーマ・ファミリア】から【芸術家(ファイアワーカー)】の件で発生した罰則である眷族の追放に関する準備が出来たとの連絡があったため、ノーカはギルドの担当として本拠へと向かう事となった。

 【ガネーシャ・ファミリア】の地下牢に入れられていた実行犯のラジルカ・アーデは、闇派閥(イヴィルス)に人質を取られていた事と実質的な被害が0だった事を理由に被害者であるギルドから情状酌量の余地があると判断され、既に解放されている。

 そんな彼女だが、まだ牢の中に居た時、面会に来たザニスから散々に罵倒された後にギルド側からの要求を突き付けられ、最後に決死の覚悟で闇派閥(イヴィルス)のアジトを襲撃しリリルカ・アーデを取り戻した事を告げられ、情緒が滅茶苦茶になっていた。釈放後、ホームで妹の無事を確認すると即座に謝り倒し、許しを得た後は過剰な程にべったり張り付いて現在も離れない様になっている。もはやそういう生態の動物と言われた方が納得できる様子に、ノーカはドン引きした。ついでにリリルカは原作の生活無理だな、と見切りを付ける外なかった。

 

「では、確かに。彼女等の処遇はギルドで決まりますが、悪い様にはしませんので」

 

「いやいや、こちらこそ寛大な処置に感謝しておりますとも。今後は再発の防止に全力で取り組ませて頂きます」

 

 【ソーマ・ファミリア】から預かった人数はアーデ姉妹の他に三名。ギルドのアドバイザーから話を聞いた限り、三人で別【ファミリア】と半固定のパーティーを組んでおり、稼ぎは悪くなく、【ランクアップ】も間近ではないかとの見解を得ているメンバーだった。ザニスの話では、そのパーティーメンバーに身分を偽っていたガチの闇派閥(イヴィルス)が紛れ込んでいたため、今回の除籍になったそうだ。

 

「えぇ、監査の担当は未定なので私が見届けられるかは不明ですが、今後の発展を祈っております……では、神ソーマにも宜しくお伝え願います」

 

 引き渡しは終始穏やかな空気の中で行われた。該当者は既に『神の恩恵(ファルナ)』を剥奪されており、一般人と変わらぬ実力しか持っていないため、下手に騒ぐ事はしなかった。

 

「……おい、珍獣」

 

「何ですか魔法少女アーデ☆ラジカル」

 

「ンだよその呼び方!?」

 

 道中、ラジルカが呼ぶので応じるノーカだが、今の格好は真面目な全身黒尽くめコーデである。故に不適切な珍獣呼びには不適切な魔法少女呼びで返す。

 

「お姉ちゃん……」

 

 ノーカの呼んだ名前から何か思うところがあったのか、顔を向けながら気持ち距離を取ろうとして頭を後ろに仰け反らせるリリルカ。これを受けたラジルカは慌てて弁明を始める。

 

「待ってくれ愛しいリリ。お前のお姉ちゃんは年甲斐もなく爆弾使ってはしゃぐ真似はしても魔法少女なんかじゃ断じて無いんだ」

 

「妹呼ぶのに愛しいとか付ける人、初めて見ました」

 

「うるせぇ! てかお前ぇよ、ザニスの野郎に(なン)かするとか言ってたよな?」

 

 何とも言い難い弁明の一部にノーカが言及すると、即座に言い返して来るアーデ姉。気を取り直したらしい妹から頭を撫でられている事で精神が安定したのか、恐らくは本題であろう問いを続ける。

 

「個人的に許すつもりは毛頭ありませんよ。ですが、恐らく狂言とは言え闇派閥(イヴィルス)の拠点に襲撃を掛けて仲間を助け出した上に土産の捕虜まで持って来られては表立って制裁を加える訳にもいきません。なので――」

 

「日和るつもりかよテメー」

 

 怒気のみに収まらず殺気まで含めて睨み付けて来るラジルカに対し、ノーカは頭部を軸に背を反らして空中で逆さまになりながらラジルカを見上げて事も無げに言う。

 

「まさか。闇派閥(イヴィルス)の報復に見せ掛けて闇討ちするに決まってるでしょう」

 

 このギルド職員、悪事に慣れ過ぎていた。

 沈黙を保っていた三名を含んだ全員がドン引きするが、ノーカは側方宙返りの要領で着地してからフワリと浮かび上がり、言葉を続ける。

 

「ザニスをザニス子ちゃんにするのは後です。まずは【ソーマ・ファミリア】の監査に託つけて探索系から商業系に鞍替えさせて、酒場の開業まで持って行かなくてはなりません。サクラを雇って日常的に問題を起こす事で評判を下げ、客足が遠退いた所で襲撃を実行。慰めとテコ入れを兼用した奇策としてオカマバーを提案。今度は評判をV字回復させるサクラを雇って正解であったと印象付けます」

 

「……ひ、ひでぇ」

 

「何食ってたらこんな悪い事を考え付くんだ」

 

 計画を聞いて迂遠さよりも悪どさに気が向く元【ソーマ・ファミリア】の面々だったが、ノーカは気にした風もなく言葉を続ける。

 

「本人は最後まで気付かず何も知らないまま、或いは感謝すらするかも知れませんね。全部が全部上手く行くとは思っていませんが、むしろ本物の闇派閥(イヴィルス)による報復が起きる可能性もあります。餌にもなるなんて素晴らしいと思いませんか? もちろんそんな横槍を許すつもりなどありませんがね。面白くない」

 

「お姉ちゃん……このような計画を聞かされて、リリ達はどうなってしまうんでしょう?」

 

「わからンが、アタシの命に替えても愛しいリリの心身は守るさ」

 

 ノーカがつらつらと述べる中、聡いリリルカは冥土の土産という言葉が頭に浮かんだため、恐怖から姉に相談を持ち掛けた。対する(シスコン)は決死の覚悟を表明し、妹の胴体にしがみつく手足に力を込めた。

 

「駄目ですよ! リリはお姉ちゃんが居なくなるなんて耐えられません。だから、だから……」

 

 そんな姉の悲痛な覚悟に嘆き、弱音を吐く(シスコン)の泣きそうな様子に、(シスコン)の心は静かに、しかし激しく燃えた。

 

「すまない。アタシが悪かった。そうだよな、アタシ達姉妹はずっと一緒だ」

 

 優しい笑顔を向け、妹の目尻に浮かぶ涙を掬いながら、妹を安心させるべく言葉を掛ける姉は自らも泥を啜ってでも生き延びて妹を守り続ける覚悟を新たにする。そして見詰め合う二人は、やがて感極まりどちらともなく顔の距離を縮めていき

 

「お姉ちゃん……!」

 

「リリ……!」

 

「「ガッシリ!!」」

 

 なんて茶番が終わる頃、ノーカ率いる暫定犯罪奴隷集団は漸くギルドへ到着した。

 アーデ姉妹のついで扱いな三名は、最初から最後まで非常に居心地が悪かった……と後に酒場で愚痴っている姿が見られたそうな。

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