オラリオ総異端児化計画   作:夜月工房

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前回のあらすじ:遠く離れたとある村、光が走る直感エフェクトと共に幻視()た、美しい姉妹愛。純粋な想いを感じ取り近親百合の新境地に辿り着いた神ゼウスであったが、不変の存在(デウスデア)故に女好きの虫が騒ぎ出し、二人の間に挟まりたいと思ってしまった。そこへ唐突に――恐らくは未来(浮気の気配)予知(察知)していたために現れた(メン)ヘラ!

 ゼウスは今まで当然のように生きてきた。

    その“当然”がくずれたとき

  ゼウスはすべてを棄てて逃げ出した…。

 こうして何の前触れもなく家族を失ってしまったベル・クラネル(5)は、常日頃から祖父が語り聞かせてくれた運命的な出会いとハーレムを求めてオラリオを目指す事になる……原作開始十年前の出来事であった。世はまさに暗黒期、天然で素直で純真無垢なちょっぴり思想が汚染されているショタには色々と厳しいご時世である。ちなみに、彼は東の森にお使いだと叫びながら沈む夕陽に向かって走って行った過去を持っていた。今回も、逆方向に突っ走って行った。まだゴブリンにも勝てない幼子が、であっあっまって原作が崩れ


第二十三話:リリルカ・アーデ(6)の受難――魔法少女、始めさせられそうです――

「というわけで連れてきましたよギルド長」

 

「……うむ」

 

 ノーカの連れて来た計五名を順に見やり、数十年前に神が考案し一世を風靡した抱っこちゃんを思わせるしがみ付き具合の一名と、しがみ付かれながらもしっかと抱き締めている一名、計二名の小人族(パルゥム)を見なかった事にして、大仰に頷く。

 

「ヒソヒソお姉ちゃん、何故オークが?」

 

「ヒソヒソアレでエルフなんだよ。信じられンがな」

 

「聞こえているぞ、犯罪者共」

 

 ロイマンとて自覚はあり、聞き慣れた言葉。とは言え侮辱は侮辱、何も感じない訳ではない。ましてや彼は気位の高いエルフであり、彼女等は卑しい身分である犯罪者とその身内である。本来ならば激怒して私情を交えた判断で罰を決め告げるのだが、今回はそれをした所で同室している規格外から横槍が入り不完全燃焼になる未来が見えているため、ギルドの長としてどっしり構える方向で臨んだ。

 

「さて、貴様らは闇派閥(イヴィルス)と関係を持ちオラリオに不利益をもたらした……一名は完全に巻き込まれただけの様だが、姉妹仲はオラリオ中に知られている事だしな。直接の罪には問わんが分担は許そう」

 

(マジでか、知らんかった)

 

 【ランクアップ】までの期間からパルゥムである事、扱う武器まで、様々な方面から有望株として注目されていたのが【芸術家(ファイアワーカー)】の名を冠する新米冒険者である。

 数字でオラリオを見る立場のロイマンであっても、その存在を覚えるに値しないとは思っておらず、むしろ堕ちた場合にオラリオへ与える被害の規模を考えれば当然、身辺調査はさせていた。悪い方向の実現する可能性としては最も高いと知りながらも、妹まで届く程に大きな手で無かった事が悔やまれた。

 一方で、ロイマンの言葉にオラリオで有名だったと判明した――それもノーカにとってはイレギュラーな――存在を知らなかった事に内心凹むノーカは、善悪問わず広がる情報網の構築を急務と位置付けた。取り返しこそ付くが、生まれてそのまま流れる様に仕事漬けの日々へ移行した者に対して送られるべきは『今更』の一言だろう。後ろ楯のためとは言え、真っ直ぐに全力投球し過ぎであった。

 

「そちらの三名だが、知らず組んでいた闇派閥(イヴィルス)は捕縛できた事だし、行動自体は冒険者としての正道だと確認できておる……買い取りに関しては粘り強い交渉と言えば聞こえは良いが、往生際が悪いと職員のみならず冒険者からも証言があったがな」

 

「「「うぐっ」」」

 

 買い取りに関する指摘を受けて胸を手で押さえ前傾する三名は、重い罪には問えまい、と締めるロイマンの言葉を受けて、胸を当てていた手で撫で下ろした。

 

「オラリオは噂の足が速い。既に【ファミリア】から除籍された事実とその原因は知れ渡ったはずだ。ある意味ではそれが最も重い罰に当たるかも知れんぞ?」

 

 噂という物は、尾鰭が付いて回る。その癖、肝心の身は削れる事が多いのも噂である。今頃はパーティーの中に潜んでいた闇派閥(イヴィルス)ではなく三名こそが闇派閥(イヴィルス)だったとか、ダンジョンの中で他の冒険者を襲って金品を強奪していたとか、そんな感じに改変されている事だろう。冒険者に戻るにせよ、引退するにせよ、再就職への道は険しそうである。もちろん、闇派閥(イヴィルス)に引き込まれるなぞ三名としては御免である。

 

「まー、一ヶ月貸し切った宿屋があるので就職活動にはそこを拠点に使って下さい。冒険者は引退したけど『神の恩恵(ファルナ)』は持ったままのご夫婦が経営してますから、多少は安全ですよ。何なら薪割りや風呂炊きなんかの手伝いは歓迎だそうです」

 

「おい、まだ罰を言い渡しておらんぞ」

 

 ノーカの言葉に目を丸くする元【ソーマ・ファミリア】達。ロイマンの文句にも呆れが多分に混じっており、空気が一気に弛緩した様に感じられた。

 

「有って無いような内容でしょう? それなら別に……駄洒落じゃないですよ?」

 

「誰も言っとらんわ。おほん、三名にはオラリオを去る選択肢も含めた上で必ず再就職し、そのための支度金と一ヶ月分の宿代とを稼ぎギルドへ返還する事。オラリオに留まる場合は定期的にこれと面談する事。以上が貴様等の処分だ」

 

 言い渡された処分を聞いて、三名はその場に崩れ落ちたり互いに抱き合ったりしていた。面談相手と指差されたこれ(ノーカ)が特級危険物である事を彼等はまだ知らない。彼等に向けるロイマンの細めた目に込められた感情が慈愛ではなく憐憫であり、心中では神が良くやる十字を切る仕草をしていた事も、また。既に【ソーマ・ファミリア】が泥舟化している事を知った時には感謝さえ抱くであろう……どちらがマシか判明するのは数年後の事だが。

 

「取り敢えずお三方は別途雇った者が案内しますので、少々お待ち下さい」

 

 そう言って一度退室したノーカは、数分で担当者を連れて戻って来た。案内役として紹介されたのはオラリオの者から見て狐人(ルナール)虎人(ワータイガー)に見える二名の少女であった。

 

「お初にお目にかかるのじゃ。私はローキー・アルマと申す」

 

「バルル・アルマ……よろしく、です」

 

 気品溢れる狐人(ルナール)と、ぶっきらぼうな虎人(ワータイガー)の組み合わせは、どこか姫と護衛の様にも見えた。が、如何せん、どちらも少女である。宿屋の位置が何処なのかは知らされていないが、闇派閥(イヴィルス)からすれば引き込めそうな三名の案内であるからには護衛の役割も含んでいて欲しい所である。

 

「あー、その、大丈夫……なのだな?」

 

「……あ゛?」

 

「ヒィ!?」

 

 思わず、といった具合に出たロイマンの懸念に、侮られたと感じたバルルが鋭い眼光で睨みを利かせる。その様は実力者のそれで、室温が下がった心地を覚えたロイマンは悲鳴が漏れ、失言を悔いた。考えてみれば連れて来たのは天界の使者(ただし嘘設定)である。普通の筈が無いのだ。

 

「これ、バルル」

 

「……はい、すみませんです」

 

「私に謝ってどうする。相手が違うじゃろ?」

 

「うっ……その、すみま、せんです」

 

 仮にも主の上司。無礼を働いたバルル・アルマを、ローキー・アルマは嗜めないわけにはいかなかった。その声が響くだけで空気が張り詰めた様に感じた室内の一同は、ローキー・アルマもまた守られるだけの存在ではないのだと察する。肝を冷やしながらもロイマンは冷静に算盤を弾き、オラリオのためにどのような活用方法があるのか考え、単純にノーカを酷使するのが一番だと結論付けた。大正解である。ギルドからの依頼になって予算がどんどん計上されていくがコスパで見れば上々である。一方で『神の恩恵(ファルナ)』を剥奪された身なれど冒険者として生き死にの場に居た経験を持つ者達は、ダンジョンですら感じた事のない動と静とで方向の違う二種類の迫力に戦慄した。

 

「はいはい、それじゃ後はお願いしますね。終わったらギルドへの報告も忘れずに」

 

 ピリピリした空気の中、ノーカが手を叩いてそれを霧散させながらアルマ達に三名の移送を頼む。

 

「うむ、任されたのじゃ!」

 

「子供じゃねーんですから……いや、頑張ります」

 

 勢い良く返事するローキー・アルマと、不貞腐れた様子を見せるも隣のローキー・アルマから発せられる圧を感じ即座に態度を改めるバルル・アルマ。微妙に不安を覚えている該当者三名を引き連れて、そのまま執務室を後にする。ローキー・アルマは笑顔でぶんぶんと手と尾を振りながらの退室であった。可愛い。

 

「さて、では本題と行こうか」

 

 最後の最後で弛んだ空気を表情と共に締め直して、ロイマンはアーデ姉妹へと沙汰を下す。

 

「襲撃の被害は極軽微な範囲に収まったが、闇派閥(イヴィルス)に渡った爆弾を考えれば依然として罪は重い。お前の爆弾により多くの命が失われる可能性は低くなく、場合によっては上級冒険者……神の身すら危ぶまれる。家族を人質に取られたとしても言い訳に出来るものではない。それは理解できるな?」

 

「……はい」

 

 妹にしがみつくのを止めて、自らの足で床に立ったラジルカは、俯き拳をきつく握り絞めて震えながら言葉の続きを待つ。

 

「本来ならば現時点で処刑されてもおかしくはないし、被害が出てからは当然それを求める声が上がるだろう」

 

「……はい」

 

 或いはその爆弾がお前や妹の命を奪うかも知れないのだ、と告げるロイマンの言葉は、ラジルカにとって最も起きて欲しくない、しかして決して可能性が低くない未来でもあった。妹が失われる恐怖に自然と妹の服を掴み、妹もまた姉に身を寄せる。

 

「故に……今後これ(ノーカ)の指示に従って動く事を命ずる」

 

「はい……はい?」

 

「流れ変わったな」

 

 ラジルカは言い渡された『刑罰』を粛々と受け止め、その内容を噛み砕こうとして、明らかにおかしいそれに疑問を提示した。顔を上げて見たロイマンの表情は何故かげんなりとしており、次いで顔を向けたノーカはうんうんと腕を片方だけ組み、そこにもう片方の肘を置いて、手を顎に当てて支える様なポーズを取りながら満足気に頷いている。

 

「自由裁量権万歳。好きに使える部下最高。しかも今なら妹もセットで断然お得」

 

 恐ろしい言葉が聞こえて来たので、ラジルカは改めてロイマンに向き直る。何たる事か、まるで養豚場のブタでも見るかのような冷たい目だった。残酷な目だった。かわいそうだけど、明日の朝にはお肉屋さんの店頭に並ぶ運命なのだな、とでも言いそうな。憐憫を含みながらも助ける義理は無いと不干渉または無関心を貫く構えがありありと見て取れる。豚は手前だとキレ散らかさなかった自分を褒めてやりたいとラジルカは思ったが、褒める以前に半分以上は被害妄想である。

 実際のロイマンは、前途有望な若い芽を摘まれてしまいオラリオの繁栄が遠退いた哀しみで一杯だった。が、ノーカから横領案件を証拠と共にこれでもかと並び立てられた彼は、余りに無力だった。中にはノーカ自身の送った賄賂も含まれていたのが尚の事腹立たしかった。だからと言って改めるつもりは全く無いのがロイマンという男なのだが。

 

「それで、リリ……ルカさん、でしたっけ? どうしますか?」

 

「リリは、お姉ちゃんと一緒が良いです」

 

 即答だった。何をとは一切聞かずに、考える時間を欲する事も無く、姉と運命を共にする選択をした。どうやら覚悟は既に決まっていたらしい。

 ノーカの心中では弱って情に訴えようとした夢魔の如く原作を探し求める声が響いたが、何処からともなく響いて来た原作はもういないのよ、というオカンの声。そしてそのままその場で閃いたナイアガラバスターを受けたノーカの精神はマットに沈められたのであった。ててててーてーてっててー。催眠見切りの極意を取得した。

 

「では、お二人の住まいに案内しましょう。案内頂くのはこちら」

 

「アンジュですわ。よろしくお願いいたしますね」

 

「あらあら、このような場では正式な名前からですわよ。こんにちは、アルケー・アルマです」

 

 現れた二人は翼を持っていた。翼を、持っていた。

 この瞬間、ノーカと同系統の種族だと思った(勘違いした)ロイマンは急激な胃痛に襲われた。アーデ姉妹は珍しい種族なのかな、程度の認識で、深刻には思っていなかった。

 

「先方に話は通してありますので、そちらの指示に従って下さい。お給金は弾みますし、冒険者に返り咲く準備として実技指導もあります。楽しんで下さいね」

 

 姉妹は曖昧に頷くと、アルマ達に連れられて退室する。向かう先は『なんでもクエストカウンターオラリオ支部』である。本日を境に二人の日常は一変し、常識は日夜更新され続ける事になるだろう。たまに気を抜いてモンスターの姿に戻る子がいるらしいし。犯罪者の寝言なんて誰も信じないので、見られても問題はない。実力的に逃げる事も不可能で、互いに相手を残して無謀な真似は出来ない。そのまま惰性で暮らしていけば慣れてしまう事だろう。

 現状を鑑みるに、もしも姉のラジルカが居なくなったとしたら、妹のリリルカは良くて精神崩壊、悪くて後追いが関の山だろう。原作はノーカの知らない内に旅に出たらしいので、会いたければこちらから追うしかない。新劇『二次創作に原作を求めるのは間違っているだろうか』開幕です。

 だが、だからと言ってノーカは全てを諦めた訳ではない。せめてベル・クラネルを神ヘスティアへ直行便で送り届けてでも【ヘスティア・ファミリア】を立ち上げ、他の面子をこちらで確保、一つや二つ握れるであろう弱味に突け込んで押し付ける形でもいいので加入させて、見た目だけでも原作再現する位の事はしなければ、と義務感に近い欲を抱いている。

 なればこそ、リリルカ保全のためにラジルカを死なせるわけにはいかず、手元に置くのが一番早くて確実だとの結論に至った。同時にうまい食事と適度な運動(アルマズブートキャンプ)を通して『神の恩恵(ファルナ)』なぞ惰弱の極みとばかりに強化して、神の居ないクリーンな地上の実現に向けた第一歩とする。言わば過去の英雄の再現である。その上で『神の恩恵(ファルナ)』を刻めば現行の英雄。常識を破壊してモンスターに対する認識まで改めさせる事で『異端児(ゼノス)』の受け入れと共闘まで持って行ければ、もはや未来の英雄だ。そのまま黒竜を物理的な意味でもいいから骨抜きにして、オカンを脅迫しつつアルマを同行させた面子でダンジョンの攻略も済ませてしまえば最後の英雄にだってなれるのではなかろうか。或いは、一度は受けた『神の恩恵(ファルナ)』を敢えて棄てる事が最後の英雄に至る鍵となるのかも知れない。ご禁制のアイテムを入手するために闇派閥(イヴィルス)を襲撃しなければ。

 

「あ、あの!」

 

 そんな思考をぎゅんぎゅん回しているノーカに対して、退室したはずのリリルカが戻って来て呼び掛けて来る。原作以上に小さな年齢一桁のリリルカはロリを上回りペドの領域にあり、暴力的な愛らしさは見る者の下半身ではなく胸を温める。しゃがんで目線の高さを合わせ、ノーカは言葉の続きを待つ事にした。

 

「はい、どうしました?」

 

「あ、ありがとうございます! お姉ちゃんを、救って下さって!」

 

 まさかの謝礼であった。確かにするかどうか分からないが確実に仕込んであったから顎を外して自爆を阻止した。その意味では救った事になる。でも、顎は一度外れると癖になって大変なんだぞ。

 

「お礼は不要ですよ。私は場の被害を抑えただけ。貴女のお姉さんを救おうとしたわけではありません」

 

「でも、それでもリリは嬉しいんです。お姉ちゃんと一緒に居られて……だから」

 

「ふむ、ならばお礼を受け取りましょう。ですがあの二人はマイペースなので待ってくれるか微妙です。置いていかれない内にお行きなさい」

 

 年齢一桁とは思えないしっかりした応対。パルゥムが特別早熟な種族なのかも知れないが、子役俳優並にしっかりしているとノーカは感心し、頭を撫でてからそっと小さな物体を渡す。

 

「あの、これは……?」

 

 困惑するリリルカに、ノーカはそっと微笑みながら

 

まどマギコラボ(アクロニア大陸)原産のグリーフシード(ドロップアイテム)です。大切にしてあげて下さいね」

 

 とんでもない厄ネタを押し付けている事実を白状していた。勿論、特に意図はなく、唯のノリで渡しているだけである。




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