オラリオ総異端児化計画   作:夜月工房

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前回のあらすじ:野犬の襲撃から生き延びる事が出来たベル・クラネル。しかし危機が去ったかと思えば目の前には謎のモンスター。状況的に助かった理由は目の前のモンスターだが、普通に考えれば餌の横取りをしたのだろう。思わずベルは言葉が通じるかどうかという簡単な判断すら投げ捨てて、叫びながら頭を抱えて背を向ける。「食べないで下さい!」「食べないよ!」まさかの回答であった。驚いて振り返ると、そこにモンスターの姿はなく、青を基調とした帽子にケープ、長袖の服とスカート、タイツとブーツで身を包んだ年上だけど幼い女の子。どこからともなく聞こえて来た祖父の嘆き声。「おぉ、ベルよ。お前が墜ちるとは情けない」あぁ、何たる事か。少女の整った外見、命の危機を迎えそして脱した状況、吊り橋効果までが起きて、ベル・クラネルの初恋は謎の少女に向けられてしまったのであった。


第二十五話:検疫、大事――一部は手遅れだった件――

「また今朝もノーカ氏が死んでおられますね」

 

「まぁ……慣れとは怖いものですわね」

 

 何かを始めると止め時を逃す者、その名はノーカ・ウント。今回は一週間不眠不休で働き通した。

 精査が必要な相手への手紙を書いて送り、オラリオ内部の調査にも手を付け、精査用の資料が順次届いて来るのでそちらの調査に戻る日々であった。ほぼ専任なため喫緊の案件が舞い込んで来ない事はせめてもの救いだったと言えよう。

 

 始業前の現在、ノーカは『なんでもクエストカウンターオラリオ支部』からの定期報告を確認していた。

 オラリオの外での活動に関する報告で、ECOにおける冒険者(MMORPG並のフリーランス)として動いていたプルル・アルマ(ぷるぷる)が、ベルと名乗る白髪赤目の少年を保護し同行させていると知らされて死んだ。

 同行先の森でベルの血縁らしい女性と出会い、一悶着あった後で同行している事を知って死んだ。

 ベルが『神の恩恵(ファルナ)』を持たないまま鍛練を始めた事を知りガッツポーズしたが、血縁さんが提案即実行した内容の苛烈さを聞かされて死んだ。

 アーデ姉妹の度々見せる遠い目はまだしも、何故か日に日に失われていく瞳の光について聞き取り調査をしたら、どうやら食事の栄養が有りすぎた(アルマ達の惚気話が酷かった)らしく糖尿病予備軍(甘い話アレルギー)になっていたと返された事を知り嬉し恥ずか死んだ。

 ついでに過労とは別の心労なる状態異常が発生し、MP毒とでも言うべき内容だと把握して放置していたらMPが0になって死んだ(マインドダウン)

 周囲が慣れるのも無理はない頻度であった。

 

「……ハッ!? 綺麗なお花畑が人面を敷き詰めたおどろおどろしい床に変わって最終的にチョップの打ち合いを制して爆発四散させたダークなファルスから【赤い輪(レッドリング)】が!」

 

「あ、復活しましたね」

 

 最早、ノーカが死んでも気に留める者はギルドに居なくなった。

 流石に誤魔化せる段階にないきれいな顔してるだろ(死んでるんだぜ。それで)を披露している事から、ギルド内ではノーカについて只人に非ず(例の嘘設定)の説明がされている。タダノヒトナリと押し通そうとしたらバケツ被って南極まで行ってシュバルツバースを破壊しなければならなくなるので仕方ない。

 当然、漏れてオラリオに広まっているが、頭上の光輪と翼、浮遊移動の時点で納得されている。

 

「天界でも神々がこのように倒れては『神の力(アルカナム)』で復活しを繰り返す仕事漬けになっているのでしょうか」

 

「そりゃ、地上に逃げたくもなるわよねぇ」

 

 そしてその生態から天界に対して風評被害が発生し、残業が恒常化しているギルド職員達の間では他人事ではない気がして神々への僅かな同情が寄せられた。

 

「そういえば、ウラノス様は……」

 

「千年の間、ダンジョンを鎮めるため祈祷に専念なさっておられますわね」

 

「………………」

 

「ち、違います! 狙ったわけでは……」

 

 ギルド職員達は神の代表格である主神、大神ウラノスの在り方を思い、天界への風評被害(ブラック企業説)が真実味を帯びたのであった。

 暗黒期真っ只中ではあるが、この時のギルドは平和であった。

 

「リコォォォォォ!! 愛してるー!!」

 

 ……平和だった!!

 

 

 

 

 

第二十五話:検疫、大事――一部は手遅れだった件――

 

 

 

 

 

 そんなわけでオラリオの外、何処の所有地なのか確認すらしていない場所――それなりの規模を誇っていたであろう廃村にひっそりと建設された農場兼牧場を主体とした『アクロニア開拓地』(命名:タイニー・アルマ)に【静寂】と呼ばれるLv.7が住み着いたらしい。軽く手合わせした感じではまだまだ余裕との報告が上がってはいるが、余波だけでも地形への影響は甚大らしい。せめてもの救いは好戦的な性格ではないらしい事か。家畜として飼養していた(モーモー)(ピッグー)鶏とひよこ(コッコーとココッコー)がそれぞれ巻き込まれて、何故か肉やミルク、卵といったアイテムをドロップしつつ親密度が減ったそうなので後でお話しなければならないとノーカは決意した。

 そこで扱っている農作物も畜産もECO由来なのである種の劇物ばかりな環境だが、あっさり適応して甥に当たる少年ベルの鍛錬に時間を割く毎日を送っているそうだ。巨麦雑草(大)とか実在していたらノーカなら間違いなく滅茶苦茶ビビるのだが、母は強しという事なのだろう。或いはダンジョンに似た物が存在するのか。ベルには叔母ではなく義母(はは)と呼ぶ様に強く言い付けているらしいので間違ってはいない。

 また、先天性の病気を持っているらしいが、生憎とECOに病気なるステータス以上は存在せず、猛毒のように回復不可能なステータス異常の例があるため、マルチコンディションを試してはみたが、一時的な症状緩和にしかならず進行を食い止める事しか出来ていないらしい。

 

「いやできるんかい」

 

 思わずツッコミを入れてしまったが、マルチコンディションは飛空城のブースで購入できる一般的な品である。供給が尽きることはほぼない。

 進行を食い止められるとは言え、医療用機械のモンスターが人化したという頭の痛くなる経歴を持つオトメことオートメディック・アルマが基本的に絶対安静と診断するレベルの病状である。それでも残り少ない時間をベルの鍛錬に当てるつもりらしく大人しくしてくれないため、効果があるかは不明だが……との前置きがされた上でびっくり回復BOXの中身各種についての使用許可が申請されてきた。エリクサー症候群を患っているノーカとしては使う理由が出来てむしろ助かるとさえ思ったので、迷わず許可する。ついでにマタンガ・アルマに新薬の開発依頼も出しておいた。

 思えば、ノーカは外来種の持って来る菌やウイルスについて知識はあれど、今回の事態に際して確認はしていなかった。ECO出身者には害のない病原がオラリオでは猛威を振るう可能性はあるし、逆もまた然り。恐らくオートメディック・アルマが健康診断の一つや二つしてくれているだろうが、念のため確認と指示を出しておく。

 ちなみにやり取りは手紙を使っているが、各種チャットの方が便利なのは言うまでもない。そうしない理由は、アルマの教育の一環だからである。アルマは幼子故の吸収力なのか、ノーカより断然賢い。なので一から習得した共通語(コイネー)を難なく使いこなす。【神聖文字(ヒエログリフ)】に対応している者も多い。ノーカはオカン特製の『異端児(ゼノス)』であった事から知識が刷り込まれていたらしく、最初からマルチリンガルである。

 

(に、しても……Lv.7、原作の【猛者】に匹敵。情報がギルドに残っているのでは?)

 

 圧倒的だが人間の範囲内に収まる実力者の存在は非常に魅力的だ。アルマ達の安全……は守られそうなので平穏を守るためにも、その人柄を見極める必要はある。

 現状からすれば余命が延びてもベル少年の強化期間が延長されるだけに留まりそうだが、それはそれで助け甲斐が無い。どうせなら闇派閥(イヴィルス)を裏から支配して、オラリオ全体を巻き込む盛大な茶番劇『皆一斉に【ランクアップ】しようぜ祭』とか開催する手伝いをして欲しい。貴重なLv.7を遊ばせておく理由など無いのだ……まぁ、本人の意向次第ではあるが。

 

「ふむ、まぁ今は書類仕事(こっち)ですね」

 

 気を取り直し、『何でもクエストカウンターオラリオ支部』からの報告への回答を用意してから始業時刻を迎えたノーカは、オラリオ内の目ぼしい商店の取引記録を片端から記憶、照会し始めるのだった。

 

 

 

 定時後、ノーカはギルド内にある機密情報を管理する棚へと向かう。【ファミリア】や所属する冒険者の記録は、言うまでもなく機密情報である。自慢したり推測されたりで知れ渡る事も多いが、同じ派閥にすら隠し通す札を持つ者も少なくない。そのため、【静寂】の情報がギルドに記録されているかは賭けでもあった。

 

「わーお、ヘラの眷属。こっちのヘラは……ギリ神と変わらない感じですね。しかも夫婦。珍しい。ただし共同任務で双方が『黒竜』相手に全滅……軍用語の方? 場合によっては何らかの理由で不参加だったか……」

 

 ノーカの心配を余所に、【静寂】の情報は割とあっさり見つかった。

 丁度良い機会なので嘗ての最強(ゼウスとヘラ)について記録を漁る。中々に個性派揃いで、兎に角物騒。それがノーカの抱いた感想だ。【静寂】についても、二つ名の通りに静寂を愛し喧騒を嫌ったとあり、周囲で騒ぐ面々を鎮圧した案件が多数報告に上がっていた。

 また、【ステイタス】は『基本アビリティ』の数値まで記載されており、『スキル』や『魔法』、『発展アビリティ』についても記載があった。ハッキリ言ってこの情報が流出したら相当な痛手になる。信用問題の時点で話にならないのも確かだが、手札を丸裸にされてしまえば対策されるのが世の常である。Lv.7であっても十分な対策をされて一確出来ない状況にされてしまえば反撃される様になり、徐々に削られていって数の暴力に屈する最期を迎える。一週間も眠らせず休ませずをすれば人間は死ぬ。オカンから強さ黒竜並じゃね(ただし当時の記憶)、と評価されたノーカであっても尽きる事の無い書類の前では力及ばず死ぬのだから。

 

「外の担当を大人しめの子たちにした方がいいんでしょうかねぃ」

 

 肉体労働の必要性から活動的なアルマを派遣しているため、開拓地では元気一杯なやり取りが交わされている事が予想される。病人を前にすれば騒ぐ事はないだろうが、それを逆手に取ってオカズ一品やおやつの類をくすねて相手を怒らせるような案件を起こさないとも限らない。特にペペンとミニ―。タイニーとダンプティーも危ない。怒る役はサラマンダー、アンブレラ、タランチュラにクイーンビー他と候補が多い。主張の弱いモーモー辺りが被害に遭って周囲がキレるパターンもありそうだ。

 どうやら【静寂】は二十代前半の女性だ(おばさん呼びはダメージでかい)そうなので、アルマ達の良き母に……姉になってくれれば良いなと思わなくもない。モンスター時代を含めると長い者では三桁四桁も視野に入るが、人化後年齢は一桁なアルマ達である。アミス先生の授業とノーカ他プレイヤーとの冒険によって成長したとは言え、まだまだ手本になる大人を必要としている者も多いのだ。子供嫌いの可能性もあるが、ベルを鍛える位だし、懐に入れた者ならば平気だろう。こう言っては何だが、アルマは例え最終日に露店から購入したとしても皆が自慢のパートナーである。【静寂】が人間的に真面な部分を持っていない破綻者ならばその限りでは無いが、持っているならば必ずや信頼を勝ち取ってくれるとノーカは信じている。

 

 途中で寄り道をした所為もあってか、調べ物をしていたらすっかり太陽が落ちてしまっていた。とはいえ此処は激務に定評のあるギルドだ。職員はまだまだ残って仕事をしている。尤も、日中に冒険者を相手にしている職員からすれば日中の業務に関する報告書を作成する必要があるので、これからが本番だとも言えよう。

 

「適当にご飯作ってきますけどシチューとカレーどっちが良いですー?」

 

 ノーカは嘘設定の周知によりECOのスキルを常用するようになり、アイテム精製や料理は人心掌握に有効とあってフル活用している。戦場と化した職場では食事を疎かに――それこそ片手で済ませる完全栄養食の異名を持つ(と勝手に呼んでいる)ジャガ丸くんを愛食する者も少なくない。が、叶うなら彼等彼女等とて肉を、スイーツを食べたいのである。だが、移動時間と待ち時間がそれを許さない。ならばどうするか――その答えが出前(スキル)である。

 注文から到着まで数分、手洗いを済ませて食事用のスペースに移動する頃には既に並んでいる事もある程スピーディ。メニューはメインこそ固定だが、サイドメニューとしてテリヤキなりケーキなりを頼める。味は【フレイヤ・ファミリア】の現団長(ミア母さん)により保証済。更にお値段はロハ……只である。クレイモア地雷では決してない。これは純粋に好感度稼ぎという打算の効果を高めるための善意(スパイス)であり、中には申し訳ないとお気持ちを渡す者もいるが、その場合は受け取るようにしている。代わりに持ち帰り(テイクアウト)できる一品がサービスされるわけだが。たまにウェディングケーキとかが渡されて持ち運べないからその場で切り分けて食べるという笑い話になる事もある。

 ちなみに、オラリオの人間からすれば人知を超えた所業であるため、嘘設定が補強されており、一部からはひっそり加工を司る神扱いされていたりする。

 

「俺カレー」

 

「私はプリンが欲しい」

 

「肉だ、肉をくれ!」

 

 返って来る声を聞き分けて、本日のメインはカレーになった。辛さは甘口オンリー。

 材料はミネラルウォーター1、上等な肉1、にんじん1またはじゃがいも1、香辛料1。以上を用意して料理スキルを使うだけである。実にお手軽だ。出来た時点で皿に盛られた一人前であるため、お代わり合わせて30人前程作っておく。サイドメニューに串焼き肉とパンプキンプリン、高級ゆで卵とミルク。ECO由来かつモンスター由来の食材であるため、最近(今朝)になって意識する様になったギルド職員への変な影響が出ないかは心配な所である。少なくとも、ノーカの視界には食べ終わった時点で職員の頭上に青、緑、黄色の数字――回復の表示が出ている。割合回復のアイテムもあるため、職員の最大HP等が割り出せるのは微妙に楽しかった。これを悪用すれば冒険者の強さランキングの様な物も作れるのでは、と思わなくもなかったノーカである。

 ちなみにこの心配は近く現実のものとなり、ギルド職員は疲れ知らず病気知らずのワーカーホリックばかりになっていく。一部のエルフ職員は『神の恩恵(ファルナ)』もなしに魔法が発現していたり、闇派閥(イヴィルス)の襲撃を受けても近くに置いてあった丸太も持って一丸となり撃退できてしまったり、人間を辞めていると噂されるまでになってしまったという。何ならロイマンまで食事のために残業するようになって贅肉が筋肉に変わったマッチョエルフとしてオラリオの威光を周辺国に示す様になってしまったし、知られていない所ではフェルズの骨密度がウダイオス並に上がった。

 

 用意した夕食は完食された。食べ終わると食器も消える仕様なので後片付けの手間も不要だ。念のため、夜食のたこ焼きと焼きそばを用意してからノーカも仕事に戻る。今夜も張り切って泊まり込み、ギルドの夜は更けていくのだった。

 

 

 

 

「え、治った? びっくりシリーズの後で特濃ぐんぐんミルク飲ませたらいけた? 嘘やろ自分」

 

「は? 開拓地に次元断層が確認されて? 次元安定石を使ったらごちゃ混ぜな分布でECOのモンスターが湧いてる?」

 

闇派閥(イヴィルス)の首魁が護衛一人しか付けずに訪ねて来たから捕縛したぁ!? 何が起きてるんです一体……」

 

 翌日の昼、緊急案件が立て続けに……というか一度の報告で舞い込んできて、ノーカは死んだ。

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