オラリオ総異端児化計画   作:夜月工房

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前回のあらすじ:「食べない()」のやり取りを経て和解した二人は互いに自己紹介を済ませた。ぷるぷると名乗った少女が冒険者(ただしECOの)だと知ったベルは、まだ童貞を拗らせる年齢ではないので物怖じせず、お近付きになる機会を逃してなるものかと沸騰する頭で思考を回し弟子入りを懇願。対するぷるぷるは現地民との接触に関して深入りしない様に言われていたので悩んだ。と、そこへ静かに響く声。騒がしさを聞き付けて現れたと言う若い女性。

野生のラスボスが現れた!

ベルはその風貌に母の面影を見て、思わず呟きが漏れた。女性もまたベルの正体に勘付く。蚊帳の外に置かれたぷるぷるはクールに去ろうとした……が、女性に引き留められてしまった。

……知らなかったのか…? 大魔王からは逃げられない…!!!

冒険者の先輩であるアークタイタニアの声が聞こえた気がして、ぷるぷるは今度会ったら絶対に魔法(ルミナリィノヴァ)を撃ち込もうと今から魔力を昂らせ……女性から戦う気かと問われたので直ぐに収めた。ゼンも乗せる――そう、心に決めながら。


第二十六話:視察・開拓地――メタルベルorはぐれクラネル育成計画序論――

 地味にオラリオの存亡に関わる案件がぽこぽこ出て来たので、ノーカは急遽休暇を取る事にした。

 体制的には現代日本で言う事務局財務課に属するが、取引記録の見直しを専任している立場であり、他の職員に迷惑が掛かる事はほぼ無い。勤務態度は悪くなく、勤務時間はむしろ異常で、進捗も他人に任せた場合に比べ数倍先。以上の要素も相まって、問題なく申請が通った。お土産を確約した事が決め手になったのは永遠の秘密だ。女性とは、何時であろうと、如何なる立場になろうとも、永遠に女の子(スイーツ特効)なのである。

 

 

 

ごめんねっ(ルミナリィノヴァ)(!!)

 

「ぬわーーっっ!!」

 

 そして初めてアクロニア開拓地を訪れたノーカは、それはもう熱烈な歓迎(仕様超越200%×820%魔法攻撃)を受けた。

 

 

 

 

 

第二十六話:視察・開拓地――メタルベルorはぐれクラネル育成計画序論――

 

 

 

 

 

「えぇ……」

 

「ほう、あれで無傷か」

 

 周囲の反応は様々だったが、ノーカが開拓地のメンバーにとって気安くも尊敬される家族の様な関係の、紛れもない強者であると印象付ける事に成功した。プルル・アルマ(ぷるぷる)のお手柄であったと言えよう。現在は他のアルマ達から加害者被害者双方共にしこたま叱られている姿を見せているので威厳は底値でもあったが。

 

 

 

「ドーモ、はじめまして、【静寂】=サン、ベル=サン。ノーカ・ウントです」

 

「アイエッ!?」

 

「アルフィアだ……極東の挨拶か?」

 

 その後、ノーカは要件の確認に移る。開拓の進捗具合やアルマ達の調子はそこそこに、ショタベル及び【静寂】と挨拶を交わし、互いの自己紹介を済ます。ベルがN(ノーカ)R(リアリティ)S(ショック)を発症したような声を上げたが、単純に驚いただけだった。初対面の相手から手を合わせて顔を向けたまま上半身は直角に倒してされるオジギなる世界観の(元ネタから見ても)違う挨拶をされた日には、そうもなろう。

 

 

 

「神の使い走り、か……成る程な」

 

「まぁ、それなりに好き勝手やらせて貰ってはいますがね」

 

「ほへー」

 

 相変わらずな紹介(嘘設定)を聞かされた二者の反応は、片や何かに納得し、片や良く分からないけど何か凄いのだなと受け入れる。

 

「真に受け過ぎるなよ、ベル。これは我々の反応を確かめて愉しんでいるぞ」

 

「えぇっ!? じゃ、じゃあ嘘なの!?」

 

 ベルの素直さを美徳と捉えながらも、苦笑して注意を促す【静寂】アルフィア。それを受けて極端から極端に意見を変えて慌てるベル。

 

「騒ぐな落ち着け」

 

「とても痛い!」

 

 義母の愛たる拳骨(ゴスペル・パンチ)を受けたベルは、頭を押さえて涙ぐみながらも落ち着きを取り戻した。

 

「それっぽいでしょう?」

 

 対するノーカは肩を竦め、是とも非とも答えない。その様子にベルは神様って意外といい加減なんだなーと自力で真理へ到達していた。正解だ錬き……ヒューマン。

 

「それで、ベルくんは将来的にオラリオへ行きたいそうですけど……」

 

「あぁ、十歳(とお)を迎えるまでは鍛練に専念させるつもりだがな」

 

 当初はそれまで命は持つまいと諦念を滲ませていたアルフィアであったが、何の因果かスキルにまで発展した体調不良の数々が鳴りを潜めてからもうすぐ一日に至ろうかとしている。戦闘行為に及んでも、だ。

 マルチコンディションのときでさえ、これまでに感じた事の無い、体の軽さに頭の冴え。呼吸とは負荷ではなかったのかと感動を覚えると共に愕然とすらした。或いは『黒竜』に屈辱を果たすための時間を得られるのではないかとの希望が見えた事を喜ばずには居られなかった程だ。なお、実際には当人比で軽くなっているものの、常人なら寝込む程度には酷かった事を付け加えておく。

 今ではその症状すら消えて健康体だと診断できる仕上がりとなっており、体感では【ランクアップ】しているのではないかと錯覚すらした。眠っている間にヘラが通り掛かって【ステイタス】の更新を行っていったと言われれば信じてしまいそうな心地であった。

 

 ベルの鍛練を放り出し己の研鑽に当てたい気持ちはある。だが、妹の忘れ形見が力不足で道半ばにして倒れる等あってはならない。

 鋼の精神で自制して、考え、自分のリハビリにはなる程度までベルの鍛練の度合いを高めればいいのだと思うに至った。彼女も立派なヘラの眷族、たまに思考回路が脳筋に寄ってしまうのであった。

 

「なるほど、なるほど。それが無難ですね。現在のオラリオは物騒で、此処は只管安ぜ……ん? んー、はい、安全です。えぇ……ところで、目指す方向性は?」

 

「正直、手探りだ。私は抱えた病もあって、体を動かさず魔法に比重を置いていた。修行らしい修行をした事もない」

 

「ふむ……魔導書(グリモア)が用意できそうな者に心当たりがあるのでこちらで当たって砕いてみましょう。何れにせよ基本は体力ですし、走り込みが無難かと。体力だけでなく瞬発力も……動けるに越した事はありませんから。体捌き……ドラッキーは忙しいですし、トンファーパンダはノリが合うか微妙。ホワイトファングとシナモンのコンビに頼んでみるのも手ですかねぇ」

 

 ベル本来の素質を考えれば、父親譲りと思われる(逃げ)足を活かす原作スタイルが最適なのだろうが、ノーカとしては最終的にV2ABのような奇跡の全部乗せを実現したい所である。一話も持たずにパーツ全損? 逆に考えるんだ。「壊しちゃってもいいさ」と考えるんだ。追加パーツなしだったら中破くらいには陥ってたと思う、アレ。

 高速移動しながら遠くからでも当てて来る硬い後衛とかいう地獄のような(はぐれクラネル)スタイルを実現させる場合、仲間――特に前衛盾役(ウォール)と呼ばれる役割と連携を取れるのが望ましい。敵味方判別効果付きの追尾なり範囲なりが出来れば不要だが、流石にそこまで都合の良い『魔法』は望めまい。ついでに奇襲を迎撃出来る体術、どこぞの力0技10とまでは言わずとも柔術の類が使えれば最上だろう。

 

「あの……」

 

 と、ここでベルがおずおずと手を挙げて発言の許可を求める。ノーカとアルフィアが示し合わせる事無く同時に頷いて先を促せば

 

「僕、強くなれるでしょうか?」

 

 吐かれたのは弱音を含む疑問であった。許可を得た時点から俯き続けているベルの表情は、見るまでもなく曇っているとその場の誰もが判断できた。

 幸か不幸か、村を出てから最初に出会ったのがぷるぷる(カンストパートナー)で、次がLv.7である。開拓地に来てから見た本人達曰く『軽い手合わせ』ですら地形を変える様な有り様だったのだ。

 劣勢を認めたアルフィアが現状のオラリオ(最大戦力)そのものと渡り合えそうなかつての最強(ヘラの幹部)だとは知らないベルの中で、強さの基準は果てしなく高い事になっている。おかげでベルは自信を喪失してしまっている真っ最中だった。

 

「「なれるし、する」」

 

 重なった肯定の声が、弱音を溢しながらも強くなりたいと願うベルを持ち上げ、後押しする。弾かれる様に顔を上げて声の主を見たベルは

 

「ひっ!?」

 

 真顔な義母に気圧され、とても悪~い笑顔を浮かべる黒尽くめに恐怖した。

 直後、黒尽くめは横から物凄い勢いで飛んできたタランチュラ・アルマ渾身のフライングドロップキックを受けて吹き飛んで行った。吹き飛ばされながらも、ノーカはベル・クラネルの持つオネショタ誘引能力に戦慄し、それはそれとしてタランチュラ・アルマへ親指を立ててGJ(グッジョブ)する事だけは忘れなかった。

 ここで着弾先が火薬庫だったりして花火と共に打ち上げられるのが筋なのではあろうが、生憎と至って普通の物置小屋であった。建物の損壊にモーモー・アルマが悲鳴を上げ、実行犯のタランチュラ・アルマ(タラちゃん)は蒼褪めた。

 

 

 

「あいたたた……」

 

 吹き飛ばされたノーカは近くにあった小屋の壁を突き破り、内部へと突入。高く積まれていた藁に顔面が突き刺さって埋まり、首で全体重を支える格好で宙にプラプラ浮く羽目になっていた。

 

*わらのなかにいる*

 

 補足すれば、ノーカには浮遊能力があるので負荷は掛かっていない。蹴りのダメージはそれなりだが、甘噛みレベルの可愛らしいものである。欠損無効の常態効果(パッシブ)がなければ腕の関節が増えている様に見えたかも知れないが。

 

「見ろよヴィトー、何か飛んできたと思ったら人が突き刺さってるぞ。怖いなーここ」

 

「いや、全く。端から見ればおままごとをして遊んでそうな子供が最強(ヘラ)に余裕を持って競り勝つ事と言い、信じられない事ばかり起きますね」

 

 固められていない藁に手を突いても、沈んでいくばかりで押さえにならず、抜け出せない。そんな藁の海に沈んだノーカの耳に、胡散臭い声が届く。それも一つではなく二つだ。

 

「そこに御座すは何者か。さぞかし名のある悪の神と見受けたが、何故そのように鎮まるのか!? 荒ぶれ! 荒ぶり給え!」

 

「「うわぁ……」」

 

 声の主を報告にあった闇派閥(イヴィルス)の親玉とその護衛であると判断し、邪神だろうと神は神だろうと全力で戯言を吐いて様子を伺って見るが、意外や意外、返ってきたのはドン引きであった。傍目には首から先が埋まり宙吊りになった者が助けを呼ぶでもなく荒ぶれと言って来るのだから、至って正常な反応ではある。

 

「何と言うか、こう……『濃い』な」

 

「灰色の四枚翼、最近オラリオで噂になっている天の使い様では?」

 

「おぉ、それだ。冴えてるじゃないか、我が眷族」

 

「白々しい。私でも簡単に辿り着く事を、貴方が気付かないはずもないでしょうに」

 

 やり取りを聞く限り、ノーカの予想は当たっているらしかった。可能性として、初見の相手は全力で騙す主義ならば入れ替わりや成り済ましで一芝居打つ事も考えられるが。闇派閥(イヴィルス)の首魁ともなれば、神威の隠蔽も容易い事だろう。

 

「しかしアレだ。ギルドの珍獣、一度はこの目で見てみたかった」

 

「……はぁ」

 

「……あのー」

 

「お、待てヴィトー。何か喋るぞ」

 

 どことなく浮わついた声をさせた推定神の言葉に、推定眷族が溜め息を吐いて何事かを口にしようとした所で、ノーカは二者に呼び掛ける。ミニマップ上は敵判定の二名だが、背に腹は変えられない。

 

「実際何方様かは存じませんが、助けてプリーズ」

 

「すまない……俺たちは縄で縛られている」

 

「oh...神は死んだ!」

 

「え、俺死んだの?」

 

「おお えれぼす! しんでしまうとは なにごとか!」

 

「我が眷族、お前昨日から愉快な性格になってないか?」

 

「ははは、何分、生まれ変わった気分ですので」

 

「ちくしょう稚児の様なあどけない笑顔を浮かべやがって! 『顔無し』の名が泣いてるぞ!」

 

 腹を括って求めた助けは無惨にも打ち砕かれた。仕方がないので会話を続け盛り上がる二人を他所に、ノーカは藁の海に腕を突っ込み、掻き分けて一旦全身を潜り込ませ、向きを変えてから再び掻き進む事で藁の中から這い出す事に成功した。

 

「すげぇ、珍獣だ」

 

「私あの動き知ってますよ。ウダイオスが出て来る時あんな感じです。向きは違いますが」

 

「ウダイオス……あの『迷宮の孤王(モンスター・レックス)』を名乗りながら取り巻きの骸骨戦士を従える詐欺でお馴染みの!」

 

「そう……我こそは右大雄(ウダイオス)の『稀少種(レアモンスター)』である左小雌(サショウメス)……此度は憎き神々を地上より一層せんと大穴より参った」

 

 藁の中から完全に抜け出して、足をくっ付け爪先立ち気味になり、大仰に腕を広げるポーズを決めて、推定闇派閥(イヴィルス)の二名を見下ろしながら、ゆっくり床へと降下するノーカは即興で名乗りを上げる。作った低く威圧感に溢れる声とは逆に、その全身は藁だらけであり、威厳は欠片ほども存在しなかった。

 

「無事ならさっさと戻って来なさいよね!」

 

「グワーッ!」

 

 こっそり糸の反動まで使った事で今までにない会心の()応えであった自負から、それなりに受けたダメージが大きかったのではと心配して迎えに来たタランチュラ・アルマは、直前まで相手にしていたベルとアルフィアを其方退けにして別枠の相手をしていたノーカを見て、華麗なドロップキックを再度見舞った。

 

 今度は半身だけが綺麗に埋まり、それを瞬時に把握したノーカは露出している側の足を上げてドヤ顔を披露する。

 

「それは鏡があって初めて空中浮遊になるやつだぞ」

 

「しかも普段から浮いてますよね、彼女」

 

 渾身のネタは正論で打ち砕かれてしまった。気落ちしたノーカは脱力し

 

「ふざけてないでさっさと来る!」

 

「ありがとうございます!」

 

 残る半身をタランチュラ・アルマに埋められるのであった。

 推定闇派閥(イヴィルス)の二名は、下手に反応を見せると飛び火しそうだとの極めて高度かつ柔軟性のある的確な判断に基づき、無言を貫いた。表情はドン引きしていたが。

 

 

 

*わらのなかにいる*

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