オラリオ総異端児化計画   作:夜月工房

27 / 71
前回のあらすじ:甥の存在は知っていたけど会わせる顔が無いため距離を置こうと決心し、人里離れた森の奥でひっそり暮らしていた【ヘラ・ファミリア】Lv.7【静寂】アルフィア。ある日、森の喧騒を聞きつけたので原因を排除するべく赴く事に。途中ですれ違った怯えた野犬を見逃して、辿り着いたそこには何と愛する妹の面影(白い髪)を持った少年の姿。逸る心を抑えつつ冷静を装って姿を現せば、自分を見てお母さんと漏らす声。辛抱堪らず近寄って、名前を問い、確信を持ってしまえば堤防は決壊して崩れ落ちてしまった。涙は流さなかった。心では泣いていた。そんな自分の姿に何かを感じ取ったのか、ベルと名乗った少年はそっと、けれど力強く抱き締めてきた。まだ五歳、その手は背中に回り切らない。受け継がれた(やさしさ)に、姉の甲斐性と母性が芽吹いた。そしてその本能が赴くまま、その場を去ろうとしていた少女を逃がすまいと呼び止めた。見た目、良し。度胸、愛嬌、妥協点。強さ……不明。だが優先するべきはベルである。アルフィアは少女にどこか落ち着ける場所はないか尋ねるのであった。


第二十七話:続投、開拓地――暗黒期が黒歴史的な意味を得る日まで、あと――

 藁の中に埋め込まれたノーカは、唐突な閃きに身を任せ全身に藁を纏う事で藁からの異物判定をすり抜け藁の海を自由に泳げる様に……なるわけはなく、出来の悪い藁人形のような姿で積まれた藁の中から現れた。

 

「がおー」

 

「……いいからさっさと行きましょう。話の途中だったから待たせてるの」

 

「ッス、ッセン」

 

 タランチュラ・アルマは珍妙な格好には何も触れず、ただノーカの手を引いて小屋を後にする。

 ノーカとしてはその場から離れた時点で話も一度終わった認識だったので、タランチュラ・アルマの指摘に申し訳なさを感じており、されるがままだった。

 見送る推定闇派閥(イヴィルス)の視線は生温かった。

 

 

 

 

 

第二十七話:続投、開拓地――暗黒期が黒歴史的な意味を得る日まで、あと――

 

 

 

 

 

連行し(つれ)てきたわよー」

 

「恥ずかしがりながら帰って参りました」

 

「あ、本当に無事なんですね」

 

「……これだけ台詞と態度が合わないのは神でもそう見かけないぞ」

 

 格好には触れず、無事を知り安心と感心が混ざった顔のベル。無事は予測出来ていたため驚きはしなかったが、堂々とした態度と珍妙な格好での登場に呆れと後悔を隠せないアルフィア。お子様の教育に良いとは思えない相手なのは確かである。

 

「とはいえ、目的は顔合わせですので果たされてるんですよね。今後のやり取りはうちの子を経由する事になりそうですから、何か直接見極めたいとかで聞いておきたい事があればどうぞ」

 

「特には……いや、一つ聞かせろ」

 

「はいな」

 

「オラリオの暗黒期、どう終わらせる?」

 

 アルフィアの問いは、この世界の行く末を憂いてのものだった。

 最強(ゼウスとヘラ)という暴力を持ち人の形を取った苛烈を失い、闇派閥(イヴィルス)の台頭を許してしまった事で幕を開けた暗黒期。それまでの抑圧があった分だけ大きく弾けたのかも知れないが、抑えにならない残された(次代の)オラリオ(最強)の不甲斐なさに違いは無いので、アルフィアからすれば責任を欠片程にも感じていない。むしろヘラの眷族としては厳しい環境だからこそ成長を促す絶好の機会だとすら考えていた。

 だが、この開拓地で……そして昨夜訪ねてきた神に聞かされた現状は、余りにも情けないものだった。ベルに会わず、自分の体調に起きた劇的な変化が無ければ、自分を薪にオラリオを燃やし次世代の糧になる覚悟を決めていたかも知れない。

 仮定(原作)の条件が崩れた現在では、少なくとも命を賭してまで敵対の形で立ち塞がるつもりはない。自身が敗北者の身である事は否定出来ず、次代のための踏み台になる事に躊躇いはないが、命の危険が不幸な事故程度であれば真剣味が足りなくなり効果は半減以下だろう。

 それ以前に、ベルとの出会いが、果てない夢を抱く彼の存在が、優先順位を変えた。もはやオラリオを萎縮させる暗黒期は疎ましいものにしか感じられない。

 アルフィアの私見では、ベルが『神の恩恵(ファルナ)』を得た上で自分が鍛えたとして、Lv.3までは毎年【ランクアップ】させる自信があった……明確な根拠は無いが。

 そこまで育てば、話に聞く暗黒期でも十分に身は守れるだろう。自分が堂々とオラリオに入る訳には行かないため、目の前の藁人形(ノーカ)に必要な時以外は見守るだけの護衛を手配して貰うのも吝かではない。

 ベルに流れている妹の血(やさしさ)を尊重すれば、『神の恩恵(ファルナ)』を与える神もまた慈悲深く、有りのままを受け入れて見守るような神格の者が望ましい。というかそれ以外は認めない。候補が恐ろしく減ったが、それだけの価値を持っているとアルフィアは考えていた。

 

「そうですね……」

 

 問われたノーカは少しだけ考える様に腕を組み、空をぐるりと見回してから地面へと視線を下ろし、こちらへ向き直ると口を開く。

 

「三年を目処に闇派閥(イヴィルス)を掌握して、オラリオ全体にちょっとした仕掛けをした上で襲撃させて、敵も味方も神も人も全部纏めて一度は恥ずか死ぬ様な目に遇わせます。で、結果を見てオラリオに不要な人物を選別します」

 

 それはどこまでも無機質で、しかしある意味ではひたすらに感情的な、自分の物差しに対してではあるが絶対の判断を下す裁定者のものだった。具体的には(ヘラ)時折(ゼウスに)見せた側面だ。

 

「……いや待て、恥ずか死ぬ?」

 

 一時は空気に呑まれかけたアルフィアだったが、心中で反芻していたら明らかにおかしい文言が入っている事に気付いた。

 

「恥ずか死ぬ……それは天元突破した恥ずかしさからいっそ殺せと悶える余り脳がその願い叶えてやろうとばかりに意識または魂を手放す現象を言います」

 

「……つまり?」

 

「盛大に壮大で悲劇的な喜劇でオラリオを世界中の笑い者にします」

 

 脳が理解を拒むのを無理矢理押し通し、内容を咀嚼する。仮にも目的の一つに救界(マキア)があると宣うならば、そこには何らかのそれを必要とする理由が有る筈だ。

 

「……死者は?」

 

「制御不能な快楽殺人者(シリアルキラー)や一部のコミュ障(サイコパス)にはご退場(おくたばり)願います。他は矯正(せんのう)するなり強制(きょうはく)するなりで共生(どれい)を目指しオラリオの発展に繋げますとも」

 

 酷かった。当初とは真逆のベクトルになったが、血の通った人間の考える内容ではない。堕神共でさえ見守るスタンスは崩さず、そこまでの手間を掛ける面倒は厭うだろう。アルフィアは戒め(ゴスペ)るべきか真剣に悩んだ。

 

「あの……シリアル……とかサイコとかって何ですか?」

 

 ここでベルの素朴な疑問が投げられた。ノーカはすかさずキャッチアンドリリース。解放されるまでの僅かな時間で答えを得た疑問はそのままベルの元を目指し、アルフィアに踏み潰された。純真なベルのイメージに合わない多脚でカサカサ走っていたのが悪かったと推測される。

 

「シリアルキラーというのは人殺しを何度もする人を言います。今回の場合は弱い者虐めが好きで罪の無い人を襲う連中や、標的以外を手に掛ける三下暗殺者なんかですね。そういうモンスターみたいな人が居ると理解はした方が良いですが、納得も共感も不要です」

 

 ノーカの説明を聞いたベルは、単純に悪い人としか認識出来なかった。まだ年齢は一桁の中盤、必要な殺人の是非を考える段階ではないので、理解としてはそれでも十分だと言えよう。

 

「また、ここで言うサイコパスは性格的に社会――ギルドの目指すオラリオの街に馴染めない人の中で、特に良心や共感能力が無いし育めない……えー、他の人の痛みや哀しみ、逆に喜びなんかを理解して、慰めたり一緒に泣いたり喜んだり出来ない人です」

 

 今度の説明も良く分からなかった。ベル自身は他人が泣いていたら泣き止ませるために理由を聞き、泣かせている原因をなくするために頑張れてしまう子だ。そしてそれをしない人を見て、そういう人もいると流すのではなく、泣き顔よりも笑顔の方が良いのになぜ泣き止ませようとしないのか、と疑問に思う段階である。しないどころかできない人の存在など想像すらしたこともなかった。

 そんなベルの困惑が顔に出ているのを見て、ノーカは苦笑した。これは共感性の欠落(サイコパス)ではなく成長不足(純粋無垢)。生来の気質に加え、恐らくは蝶よ花よと愛でられて育ち、優しさに極振りされているベルにとっては自然な反応だ。ゼウスはショタも余裕でイケただろうしなー、とノーカは一瞬だけ遠い目をした。独白やらかした原作時空のヘルメスに感謝するべきかは微妙なラインである。

 気を取り直してアルフィアに追加の説明をしてもいいかと視線をやれば、同じく苦笑しており、軽く頷きを帰して来た。

 ノーカは虚空から紙芝居セットを取り出し、サイコパスについての凡例を出して説明を始める。その動作にアルフィアが目を丸くし、ベルは目を輝かせたが、説明が始まってしまったため疑問を挟む事は出来なかった。

 

「例えばゴミ拾いをして街を綺麗にするのが好きな人がいたとします」

 

 言いながら、ピカピカ光る綺麗な街並みに立つ一人の棒人間が描かれたスライドを写す。背景に対して貧弱過ぎるメインキャラの画力に、あのアルフィアがずっこけた。ベルはスライドと説明の声に夢中で気付かなかったため、義母の威厳は保たれた。

 

「でも、その人は綺麗な街が好きなわけではなく、綺麗にする事が好きなんです」

 

「???」

 

 ベルからすれば何が違うのか分からなかったので、頭の上で疑問符が踊っていた。

 

「だから綺麗な街にわざわざゴミをバラ撒く人もいるんですよ」

 

「えぇ!? なんで!?」

 

 ゴミを撒くと言いつつ新しいスライドには炎に包まれた街並みにモヒカンと刺々しい肩パッドを着けた棒人間。唐突な悪行に、ベルはハッキリ理解出来ないと混乱した。それが視覚情報に対してなのか、聴覚情報に対してなのかは不明である。

 この辺りは大人でも理解出来ない人は出来ない。その場合は自分と違う異常者の理屈を大多数(じぶん)の掲げる正義という一方向の視点から――単なる感情だけで――判断し否定している事が多く、単にその大人が別種のサイコパス候補なだけなのだが。

 

「ゴミ一つ落ちていない綺麗な街では大好きなゴミ拾いが出来ないから、です。他の人は綺麗な街に住みたいからゴミ拾いをして街を綺麗にしますが、この人はゴミ拾いが好きでやってるから結果的に街が綺麗になるだけなんです」

 

「えーと、じゃあその人は汚い町に引っ越ししないの?」

 

 内容の理解に努めるベルは、自らの理解度に対する確認の意味も込めて、一つの質問してみた。これにはノーカも感心する。

 

「そうですね。同じような趣味の人でも、綺麗な街を好きな人の気持ちが分かるなら、自分のためだけにゴミを捨てて汚したりしません。別の趣味を見付けたり、ベルくんの言ったように新しいゴミ拾いできる街を探す人だっているでしょう」

 

「あ……そっか。だから他の人の気持ちが分からない」

 

 ベルが理解に至ったのを確信して、大きく頷きながら新しいスライドに移り、説明を続ける。

 

「周りの人は街を汚さないでとやめるように言いますが、他人の気持ちが分からないので聞いてくれず、自分のために何度でもゴミを捨ててしまいます。周りの人が先に片付けてしまうと怒り出して襲い掛かったりもします。そんな困った人には街から出て行って貰わなければなりません」

 

 ノーカの台詞と共に若干内容の違うスライドが表示されていき、最終的にサイコパス役の棒人間は首を吊られて死んでいた。その首の、生者にはあり得ない角度が、シンプルな棒人間でありながら不要なリアリティーを醸し出していた。何なら槍で貫かれていたりもしている。

 

「ふん!」

 

「ウボァー」

 

「えぇぇぇぇ!?」

 

 放たれた安定のドロップキック……と思いきやまさかのライダーキックがノーカを襲ったが、その場にいたノーカを含めた(ベル以外の)誰もが妥当であると判断し、キックを受けたノーカは気の抜けた悲鳴を上げ、紙芝居セットを巻き込みながら爆発した。タランチュラ・アルマの背中から生えた蜘蛛の脚が蹴り脚の先で収束し(穿)行して対象(ノーカ)の胴体を貫いて行ったのは幻覚だろう、多分。

 

 

 

「と、まぁオラリオから出て行ってもらう悪い人の説明でしたが、ベルくんはわかりましたか?」

 

 爆炎の中から当たり前の様に現れたノーカは、藁が焼け落ちて黒尽くめに格好が戻っていた以外は何も変化が見られなかった。ぷるぷるに出会って以来続く非現実な光景に慣れつつあったベルは声を掛けられても平常心で

 

「あ、はい」

 

 無かった様だ。若干笑顔が引き攣っている。若干で済んでいる辺り、子供の適応力は素晴らしいとノーカは内心で拍手を送っていた。

 

「うんうん、善哉。でもサイコパスは距離の取り方や気の遣い方が難しいだけで、殴れば死ぬ普通の人に変わりありませんから、鍛えれば問題ありませんよ。サイコパスだから悪なんて道具の使い方も分かってない頭悪い考え方をしないよう、ベルくんも気を付けて下さいね」

 

「はい……えっと、サイコパスって見分けが付きますか?」

 

「その場のノリで調子のいい言葉(うそ)を吐く、人を人とも思わない犠牲者だらけの計画を立てる、自信に満ち溢れて見える、すぐ飽きる、無責任……そんな感じが見え隠れする人は可能性が高いと言われていますね」

 

 指折り数えて考えられる要素を列挙したノーカだが、その要素が挙がる度にベルの笑顔が引き攣っていき、アルマ達は頭を抑え天を仰ぐ。言い終わって改めてベル達の方に向き直った時、そこに彼らの姿は無かった。

 

「な、何故……」

 

 ノーカの疑問に対し、返って来た答えは手鏡だった。

 その場の思い付きで吐かれるバレバレな嘘。概要だけでは荒唐無稽な大言壮語にしか聞こえない人道に悖る計画。時間を置かずに披露される多種多様な奇行。破壊されたまま修復されていない小屋の壁……傍目には要件を満たし過ぎていた。

 

 がっくりと膝を突きorzのポーズを取るノーカの肩にポンと乗せられた手。ノーカが顔を上げて振り向けば、そこには笑顔のタイニー・アルマ。視線が合うと、タイニーアルマは肩に置いた手を離し、すっと人差し指を向けて

 

「 m9(^Д^)プギャー 」

 

 膝から下は使えないが十分に腰の回転を使った右フックがタイニーアルマの腹部を捉えたのは、その2秒後の出来事だった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。