周囲からのサイコパス認定を受けて傷心したノーカは次の案件である
そこで、流れについていけなさそうなペペン・アルマとサラマンダー・アルマにお願いしたのだが、場所以前に確保された事すら知らなかった。
取り敢えず二名にお礼を述べて上等なマジックキャンディーを渡して解放する。そして深呼吸を一つ。次に懐から次元安定石を取り出して、砕く。
「狩りの時間だオラァ!」
憑依装備の面々からNDKとウィスパーチャットが届く中、切り替わる景色。
キレ散らかしながらも自力で賄える範囲のバフを掛け、
今のノーカには、八つ当たりの行為が、それを向ける対象が必要だった。そういう事にしておこう。
尚、その様子は好意的に見れば凄腕テイマーだったが、そうでない場合は前線指揮官タイプのモンスターであった。途中で某武蔵の国の妖精にメタモルして、試験がてらパズドラコラボで大量に確保してあった
本人は射程や攻撃範囲が広がる副次効果を発見して大喜びしていたが、当然ながら被弾面積が広がるデメリットもあり、今回は巨大化のタイミングが悪く自分の召喚したサモン・シューターの矢を膝に受けた。目撃者が居なくともどこかしらでアホな真似をする奴である。
第二十八話:続々・開拓地――
「気は済みましたか?」
「ぼちぼちですねぃ」
御魂・アリアの質問に答えつつ、ノーカはDDの情報を整頓する。その表情は満足げだ。
長閑な農村の風景をECOで見掛けた外見のMOBが闊歩する様はどこか歪であり、ノーカは言い知れぬ不安感を抱く。少なくとも今回は特筆するべき事態は起こらなかったが、定期的な調査は必要だろうと考え、ギルドの仕事を早く通常業務に戻すため時間外労働を増やす決心をした。
生息しているMOBは頭にDが付く命名法則からは外れていないが、通常は強化されるはずの強さが元になったMOBと変わらない種や、むしろ弱くなっている種も見受けられた……というか、個体差すらあった。
また、アクロニアにおける生息域を考えると滅茶苦茶な生態系であり、無限回廊並の節操の無い印象を受けた。記憶にある限り、アルマが実装されている種が見受けられなかったため、或いは『そう言う事』なのかも知れないとノーカは嬉しいような怖いような気持ちになった。
ドロップアイテムはディメンジョンダンジョンお馴染みの石類としてディメンジョン魔石なる結晶の破片、他には各種ポーションやブランクイリスカードといったラインナップだが、植物系統のMOBからは種や花びら、植物系パートナー等のECO産アイテムが入手出来た。植物知識のスキルが仕事をしているらしい。憑依装備の面々にも協力して貰い検証したところ、それぞれの持つ知識スキルの影響を確認できた。
ついでに収集ゴーレムと呼ばれる、稼働させると自動でアイテムを採集してくれるアイテムを放流するのも忘れない。ログアウト時に残す事が出来、ログアウト中しか活動しないはずだったそれもまた、ECOの仕様から外れて自立稼働していた。何なら自分からMOBを狩っていた。アイテムってそうやって集めもしたんだーとノーカは感心したのであった。
「浅い層は強さ的にDDとは思えないですし、ベルくん達の鍛練に使えるのでは」
「例のダンジョンに出て来るゴブリン? よりも弱いので、装備や憑依で底上げすれば子供でもいけるかと」
思い付きに対する御魂・アリアの条件付き肯定を受けて、ノーカは割と乗り気になって試験運用の
適当な
こうなると
「いや、待てよ……」
そこまで考えて、ノーカは先送りにした案件を思い出す。そう、捕縛された
「神と眷族と、想いが深いのはどちらでしょうか」
強制送還と眷族の命、『
まぁ、神が送還されてしまえば『
本来であれば神殺しのために神の前――オラリオまで輸送したり処分が下され実行されるまで捕らえておいたりする猶予期間が発生し、助けが来る可能性に賭ける事も出来るのだが、対神粛清兵器の物騒な肩書きを持つノーカの存在がそれを恐ろしく分の悪い賭けに変えてしまっている。
ここに来て設定が足を引っ張りそうな事にノーカは内心で舌打ちした。『
先程の愉快な一柱と一人が首魁と護衛だとして、会話の内容からするとそれなりに気心の知れた仲だった。悪魔にだって友情はあるのだから、
つまり、互いに
「そんなわけで私が片方だけ助ける取引を持ち掛けるので全力で互いに互いを庇い合え下さい」
「ここまで堂々とした茶番の打ち合わせは初めてですね」
「俺も初めてだよ。誰に対する建前なのか全くわからん」
DDから戻ってきたノーカは、早速壁の穴からダイレクトお邪魔しますを敢行し、小屋に縛られ放置されていた二名の説得に掛かっていた。
「でも地上の神ってこういうところありますよね?」
「あぁ、否定できないのが悔しい」
「そこは嘘でも否定して下さい」
ノーカの話術ではオラリオの裏を牛耳る
こうなればノーカには殆ど打つ手が残されていない。故に次の手――泣き落としである。
「お願いします! これが出来ないと私はオラリオに居るたくさんの冒険者を赤ちゃん扱いしつつ『
「虚仮にしてまで言った時点で本音が駄々漏れてて手遅れですよ!?」
「ててて?」
「どもった訳ではなく!」
白々しさ満点なノーカの台詞に、紅い髪の青年が極めて真面な反応を示すが、ノーカは同じフレーズが三度繰り返されると呪術の疑いを持ってしまう性質があったのでついつい反応してしまった。
「エレボス! 貴方からも……」
青年は堪らず己の主神に助力を求め、しかし言葉を途中で止めた。
「エレ……ボス?」
泣いていた。端正な顔立ちはそのままに、何かに感じ入るかの様に瞳を閉じて、涙を流していた。
しばしの沈黙の後、そっと目を開いたエレボスは抑えていた神威を戻して口を開く。
「……感動した」
「は?」
「ヴィトー、彼女は言ったのさ。今の世の中を引っくり返すと」
「それは……」
エレボスの指摘に、ヴィトーはノーカの言葉を振り返る。彼女は言った――人も神も虚仮にする、と。それは確かに現体制への否定である。同時に、千年掛けた
原因の幾つかは取り除かれたとは言え、個人的な神への、世界への恨みを抱くヴィトーには虚仮にする部分だけでも話を聞く価値はあると考えた。
「何より虚仮にするという部分が気に入った。大いに結構だ。その先はまだ聞いていないが、
ノーカは眷族を赤子と、神を毒親と、それぞれ称した。神であるエレボスとしては殴り付けられた様な衝撃を受けたし、返す言葉も無かった。
大穴に封をして安全を確保し、人間に恩恵を与えモンスターと簡単に戦える様にした。だがその後はどうだっただろうか。自分達は時に導きこそしたが、基本的に見守るだけの受け身であった。
確かに世界に人の数は増えた。文明も発達した。未だに村が壊滅する事態も起きるが、モンスターの被害はかつてと比べるまでもなく軽微になった。
だが、その一方で生きるために、強くなるために、どれだけの熱を持てる様になっただろうか。後を継ぐ者へ託す共通の夢を、より良い未来を目指して生きる者が何人残っているのか。
千年の間オラリオにおける力の頂点に君臨し続けたゼウスとヘラの失敗を経ても絶望に負けず逞しく……と言えば聞こえは良いが、実情は
生まれた時から
神とてそうだ。神とダンジョンとの間で交わされた契約はある。だが抜け道の模索は最初からしなかったか、疾うに打ち切られたかだ。或いは契約を破る愚かな真似を決行できる神等、果たして残っているだろうか。人を、子を愛するが故の自己犠牲を手放しに称賛するつもりは無い。無いが、もはや約束の刻は目前なのだ。手段を選ぶ余裕は残っていない。だからこそ『
「ダンジョン制覇前に黒竜の対処をしたいところですよね。理想としてはテイム技術を発達させてワイバーン辺りの強化種を作り出しそれら同士を掛け合わせ続け種族の壁を突破した強くて強かな特異個体の内の一体を番に差し出し繁殖させて魔石を削りつつ、卵を盗んで人間の手で育ててから親にぶつけたり、幼体の内に殺して得た素材を武具に加工したりをしたいんですよね。これが一番早くて楽だと思います」
目の前の
卵を盗まれたり子を殺されたりしたら幾ら黒竜だって怒るんじゃなかろうか。そもそもアレが繁殖なんてするのだろうか。エレボスは訝しんだ。
隣の眷族は完全に頭のおかしい奴を見る目で
「ですがそんな正攻法を試す余地があるとは思えません。人々のモンスターに対する忌避感は凄まじい。元より多少の知恵で予測した最悪の未来という被害妄想で他の種族を滅ぼすまでやらかすのが人間ですから。試しても結果が出る前の段階でネコソギにされるはずです」
そんな正攻法があって堪るか、とエレボスは痛みを覚えてきた頭を押さえる。人間に対する評価自体は同意出来るのがまた悩ましかった。
「セカンドプランは人間だけで頑張って貰うんですけど、これはこれで
それは、人類にとってそう断言できる程の大打撃だった。神々にとっても予想外の結末だった。
有史以来、唯一古の大英雄アルバートが精霊アリアの力を借りた上で命と引き換えに片眼を奪ったとされるお伽噺を除けば、傷らしい傷を受けた記録を持たない正真正銘の怪物が『隻眼の黒竜』である。
「なので、より広く深く巻き込む必要があるでしょうね。質より量、ではなく質も量も。具体的には先程とまではいきませんがテイムしたモンスターや、
言葉にするだけなら簡単だが、ゼウスとヘラであってもそれを成せなかった事実が高く遠く険しい山脈の様に横たわる無理難題でもある。
「正直、
エレボスはノーカの言葉を吟味し、黒竜の一撃を受け止められるレベルについて想像してみる。が、想像の中の『生ける厄災』は初手から最後まで空中を飛び回りブレスを吐き続けるクソモンスターだったので、最早防御力とか関係なかった。こりゃ勝てないわけだ。
ところでどうしてこいつは対黒竜戦の妄言を垂れ流しているのだろうか。エレボスは今更ではあるが首を傾げた。
「だからここでこの実験をする必要があるんですよね。『
「あ、それは爆散するぞ」
「おや、肉体が耐え切れない系の?」
「そうなるな。まぁ、誰もやってないってことはそういうことさ」
ノーカの話がここまで進んだ事でエレボスもようやく合点がいった。早い話、ヴィトーを実験台にしたいのだろう。『
「なるほど。で、ここで思い出して欲しいのは私これでもオラリオのギルドに属しておりまして」
「大変だ我が眷属。急にお腹が痛くなってきた」
「偶然ですね我が神。私も寒気が止まりません」
「このまま
「済まないヴィトー、『
「そんなトイレを我慢しているみたいな軽さで
「安心しろ。俺たち
「その割に汗が凄いですよ。諦めて下さい私も命を張る覚悟は決めました。せっかく色付いた世界に生まれたのです石に齧り付いてでも生き延びますよ、私は」
「私“は”って何だ“は”って。
「私としてもその程度で済ませげふんげふん、そんな酷い真似はしたくないので、一芝居打ってお二人の互いを想う気持ちに感化されたという体で減刑を図り多少の肉体労働に従事して貰おうと考えた次第」
「水臭いぜ我が眷属。俺たちの絆でこの難題を乗り越えようじゃないか」
「おぉ、我が神。貴方の信が得られるのならば私はどのような困難も乗り越えられることでしょう」
「「友よー!!」」
ちなみにこのやり取り、小屋の周囲に集まった開拓地在住の面々が揃って聞いている。ベルだけはアルフィアに耳を塞がれているので聞こえていないが、一部アルマ達は教育に悪そうなやり取りを真似して他のアルマ達から叱られたりしていた。
「おぉ、なんという。みぶんをこえたユウジョウ! わたくしかつてここまでこころをうたれたことがあったでしょうか。かんどうでなみだがとまりません。いいでしょう、あなたがたのふけーきずなにけーいをひょーしてつみいっとーをげんじげんばでのほうしかつどーをめーじmuscle」
「なんで棒読みなのに一部だけ妙に発音がいいんだ。というか途中から明らかに棒読みですらなかったぞ」
「神エレボス、まっそぅって何です?」
「筋肉だ」
「筋肉」
ノーカの宣言により
時に死は救いであると知る筈の彼らだが、地味に未知への期待によって天秤が傾いていた。そして詳細を聞いて神は人の成長を願い、人は見返す形での復讐を誓い、それぞれ前向きな姿勢での協力を約束するのであった。
後に
なお、このやり取りをデス・アルマに説明した際に尋ねられた「実際の対黒竜戦に関する想定」に対してノーカはこう語った。
「敵も味方もDDに隔離して黒竜がMOB判定になるかを確認。少なくとも味方は死ねない状況に持ち込んでますので黒竜が学習するまで粘って疲れさせます。当然、味方は交代制で。学習後にどうせ傷つけられないと高を括って眠ったりしたら騒音で妨害を試みストレスを与え続け、それでも本気で寝入ったら目を覚ますまで睡眠学習に切り替えて徐々に洗脳します。生態や精神構造が分からないですけど、問題なく友好的になれば良し、ならなくても知能が高ければ高いほど