オラリオ総異端児化計画   作:夜月工房

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前回のあらすじ:主神の命を受け、今日も週一の予約を取るため『なんでもクエストカウンターオラリオ支店』へと走る【猛者(おうじゃ)】オッタル。もはや通い慣れた道ではあったが、その日は普段と違う点があった。何らかの荷運びをする少年少女達の中で不真面目な者がおり、別の者が叱ったのだが、言葉と一緒に飛んだ蹴りが凄まじく素早かった。叱りと蹴りを受けた側も痛がりはしたが吹き飛ぶこともなく、その場で腹部を押さえるのみに留まっている。初めて依頼した日に敗北を味わったオッタルではあったが、今までは相手(受付嬢)が特別強いのだと思っていた。だが、目にした光景からするに、彼ら彼女らは皆一様に自分よりも強いのではないかと思い直す事となった。故に予約を済ませたオッタルは主神へ報告した後に『なんでもクエストカウンターオラリオ支部』へ鍛錬の依頼をしたい胸の裡を語った。主神は暫く考え込んだ後、月一ペースであれば自分の依頼分から割り当てる許可を与えた。オッタルは深く感謝し、鍛錬の依頼予約も無事に終え、帰り道でギルドの珍獣が駆るネコスクーターに轢かれ全治一ヶ月の怪我を負った。怪我はポーションで治ったが、【ファミリア】の面子を理由にツンデレ猫(アレン)が仇討ちに向かった。今度は巨大な南京錠に撥ねられて全治三ヶ月の重傷を負った。怪我はポーションで治ったが、今度はブラコン猫(アーニャ)が兄の仇と襲撃し、仏でさえ三度までなんだぞとキレた珍獣により槍を取り上げられ、代わりに機神の爪を取り付けられ、ロリチャイナワンピース(白青)を着せられ、語尾がアルになる呪いを掛けられた上で、何故か大量の各種ふんどしと共に本拠に引き渡されたため引き籠った。これが長きに渡る【フレイヤ・ファミリア】とギルドの珍獣との因縁の始まりである。


第三十話:日常への帰還――仕事が増えるよ! おいばかやめろ――

 ノーカから見て、開拓地の視察と報告された問題の解決は成功したと評価できる内容だった。

 未来(原作)の主人公ベル・クラネルはifの歴史の更にif(完全体アルフィア)進む気配な(育てられる)ため、適宜あちらの要望に応える形で接しておけば良さそうだ。取り敢えずフェルズを説得(振り回)して、魔導書(グリモア)を入手する必要がある。

 DDに関してはECO成分が強い要素であり、MOBの内容が混沌としている空間であるため、最悪クジラ岩のような侵食効果も考えられる。長期的な調査が必要だ。神エレボスとヴィトーの様子から、短期では目に見える影響は出ていない様だが。

 そしてその神エレボスは意外な事に協力的だった。締めるときは締めるがそれ以外は緩い性格に見えたが、闇派閥(イヴィルス)のトップが腹芸の一つも出来ない筈もない。人を見る目になど自信を持たないノーカとしては、協力的な態度もその場凌ぎで口から出任せだったり土壇場で気分が変わったりする可能性を考慮せねばならず、計画をメタの張り難い正攻法――単純な数値の暴力による力押し(レベルを上げて物理で殴る)主体に変えるべきかは悩む所であった。

 

「……という事で、こちら開拓地で取れた野菜各種です」

 

「嫌がらせか? 嫌がらせなんだな? この()を知ってその選択(チョイス)は悪意に満ちていると受け取るぞ私は」

 

 オラリオに帰還したノーカは『なんでもクエストカウンター』を経由してアーデ姉妹の様子を確認した後に、神ウラノスを訪ね開拓地の現状を報告して胃にダメージを与えつつ、同席していたフェルズに籠一杯の農作物(おみやげ)を渡していた。

 

「落ち着くホネ。そしてよく見るホネ。これは見た目も実態も野菜ホネけど武器としても使える野菜ホネよ」

 

「その取って付けた語尾がなくても信じられるかぁぁぁぁ!」

 

 言いながらレンコンアックス(LV30片手斧)を素振りして見せるノーカに対して、怒りを湧かせ(沸かせ)続けるフェルズ。ノーカとしてはバナナソードを見せて野菜ではなく果物だとツッコミを入れて欲しかったのだが、装備適正(機能する仕様)の壁は越えられなかったため断念せざるを得なかった。

 

「開拓地の現状は把握した。次元断層とやらが起きているのを確認してしまった以上、どんな影響があるのか調査は必要だろう。引き続き経過観察を頼む」

 

「かしこまりました。それでフェルズさんへの依頼についてですが……」

 

魔導書(グリモア)か。こちらからの頼み事が佳境なので後回しになるが……その間に材料の確保を済ませられると考えれば丁度良いのかも知れんな。問題は……」

 

 言葉を切って視線を向けた先では

 

「凄まじいな、この白菜。原理は全くわからんが魔力の含有量がやけに高い。まさかポリフェノールなのか? これを剥いだ葉そのままが、本来なら特殊な加工を施す必要のある魔導書(グリモア)用の紙にできる。他の野菜だって簡単な加工とも呼べない工程だけで魔道具を作れそうだ」

 

 愚者(フェルズ)が静かに陥落して(はしゃいで)いた。神秘と魔導の発展アビリティを持つ凄腕発明家(クラフター)は、未知の――そして上等な素材の前に屈したのだ。

 ノーカのセールストークに引っ掛かり魔導書(グリモア)の制作も請け負ってしまったのだが、この分では現状の抱えているタスクを何もかも投げ出して趣味に走り兼ねなかった。

 

「……まぁ、長生きしている貫禄に賭けましょう」

 

「お前がそれでいいのなら、今はそっとしておくとしよう」

 

 ウラノスの溜め息を合図に、その場は解散の運びとなった。出番の度に眉間を揉み解し溜め息を吐く大神の苦労は推して知るべしである。

 心配したノーカから追加で差し入れられた高級フルーツジュースを飲んだウラノスはやけに調子が良くなり、新しい心配の種(やらかし)を発見して心労は重なった。

 

 

 

 

 

第三十話:日常への帰還――仕事が増えるよ! おいばかやめろ――

 

 

 

 

 

 その後、今度はロイマンと上司、部署の面々に挨拶と土産を渡したノーカは自分の仕事に入った……のだが

 

「私が【ソーマ・ファミリア】の監査を?」

 

 上司に新しい仕事を振られてしまった。ノーカの参加した襲撃とノーカが始めた調査とが関係して発生させた仕事なので適任と言えば適任なのだが、新人に任せる内容ではない。今更と言えば今更ではあるのだが。

 

「ギルド長が言うには最後まで責任を持て、と。今回は特例中の特例でギルドが中立の立場を外れる以上、他の職員では色々と負担が大き過ぎますからね」

 

「なるほど。下手に担当した職員が味を占めても困りますもんね」

 

「……まぁ、それは確かに困りますね。実を言えば、最大の理由は『神の恩恵(ファルナ)』を授かった酔っ払いから絡まれた場合に命の危険性が生じるからなのですが」

 

「……慎んで拝命します」

 

 上司の発言内容は十分に考えられる事態ではあった。理性の失せた酔っ払いを抜きに考えても、普段から買い取り額の交渉で不満を抱えている眷族達の本拠地だ。身体能力で劣るギルド職員に行きたがる者も行かせたい者も居ないのは当然であった。

 よって、ノーカとしては渋い様な酸っぱい様な気分で監査を請け負うしかなかった。

 

 

 

「言ってしまえばエタノールですからね。米や大麦小麦のようなデンプン、ブドウやサトウキビといった果糖やショ糖、それら炭水化物を素にして、酵母菌の働きによりアルコールや炭酸ガスに分解される発酵の工程を経て酒になるわけです。もちろんそこから更に手間を加えることもありますが、基礎となる原料と酵母、この二つは外せません。お酒造りの神を名乗るなら最終的な目標は収穫前の原料と酵母菌に『神の恩恵(ファルナ)』を授けて頂かねば」

 

 数時間後、ノーカはザニスの用意した運営計画表へダメ出しを決めて今日中の再提出を命じた後、神ソーマの相談事……酒造り談義に付き合っていた。

 『神酒(ソーマ)』の製造方法は権能が関与するため本人以外では再現性がなく、故にノーカは視野を広げるべきだと聞き齧った知識を用いて別の酒作りにも手を出させようとしていた。

 

「酷い無茶振りをされた」

 

 悩まし気に呆れの混じった溜め息を吐く神ソーマだが、口元には笑みが浮かび、目の奥には揺らめく炎が灯っていた。

 実を言えば、『神酒(ソーマ)』の素材となる植物に関しては神ソーマ自ら丹念に世話をする畑で取れたものを使っているため、権能の影響を受けて酒作りの素材としては最上級の質であり、これ以上の向上を見込むのは難しい。

 だが、畑仕事に使っている道具は原始的で、改良の余地が残っていた。収穫物の品質が権能によって保証されている以上は速さを正義と捉えても構わないはずだとノーカは考え、農具の改良や自動化を提案した。畑仕事に割く時間が減れば酒造りに回せる時間が増え、試行回数も増やせるので改良のペースも上がる可能性は高まる。

 科学の光によって細部まで暴かれた現代日本で入手出来る知識は、固有名詞を除いても一部は神ソーマにとっての未知でもあり、好奇心を刺激するのに十分であった。『神酒(ソーマ)』以外に目を向ける回り道が巡り巡って『神酒(ソーマ)』の製造に役立つ展開に浪漫を感じる心も神ソーマは持っていた。

 

「ワインなんかはブドウの皮に酵母菌が棲み着くので果実をつぶして放置してるだけでも勝手に発酵して出来上がるそうからね。美味しさを求めるなら一手間も二手間も加える必要はありますが」

 

「だろうな。だが、そうか、その酵母菌とやらにも種類はあるのだろう?」

 

「えぇ。生憎と詳しくはないのですが、微生物は世代交代のサイクルが早いので環境への対応ですとかで突然変異も起きやすく新種も発生しやすいと思われます。それが絶滅せずに生き残るかはまた別問題ですけど」

 

「ふむ、そう考えると理想的な酵母の実現に『神の恩恵(ファルナ)』を与える案が魅力的に思えてくるから恐ろしい」

 

 流石に【ランクアップ】は望めまいが、と真剣な表情で告げる神ソーマに、ノーカは無責任な発言をした事に対する詫びとして正体バレした後は畑の世話に役立つカルティーと農場タイニーとを進呈しようと考えた。草取りや防虫、農具や水の準備等では役立つだろう。

 

「……酒に『神の恩恵(ファルナ)』?」

 

 ふと、脳裏を掠めた案が口を衝いて出た。言ってからまたも無責任な発言をしてしまったと後悔したノーカであったが、神ソーマの様子は冷静そのものだった。

 

「いや、それは既に試した」

 

 そう、その発想は周回遅れだったのだ。かつて神ソーマは情熱を注いで造られた酒は実質我が子の理論で何度も試したが、終ぞ成功する事は無かった。

 ノーカとしては、未来(原作)ではあるが【ステイタス】を持つ無機物(ヘスティア・ナイフ)の成功例があるため、酒にも出来そうなものだと思ったが、ソーマが当時を振り返って言うには『神酒(ソーマ)』の場合は液体であることから神血(イコル)が溶けて混ざってしまい、新種の混合酒(カクテル)になってしまうらしかった。物は試しと飲んでみたが即座に噴き出す程に不味かったとソーマは溢した。

 本神は酒を駄目にした悲しみで気付かなかったが、実はその神ソーマが噴き出した混合酒の掛かった場所は、拭き取られた後でも恒久的な殺菌、ウイルス除去効果が発揮されており、酒造りに利のある種を例外に持つ以外は例え疫病を司る神であろうと侵害出来ない聖域を敷いていたりする。

 

 その後も酒造りの各工程において改善点は無いかの話し合いをし、そろそろ計画書の訂正も済んだだろうと解散した。そして執務室を訪ね、指摘された点をしっかり修正した計画書を回収したノーカは【ソーマ・ファミリア】を跡にしたのだった。

 

 

 

「ふーん、アタシらが抜けた後で多少マトモになられてもなァ」

 

 『なんでもクエストカウンターオラリオ支部』の一階に併設された軽食コーナーにて、ノーカから古巣の最新情報を受け取ったラジルカ・アーデは、実にどうでも良さ気な態度を見せていた。焼きそばを作る手を止める事もなく、そのコテ捌きは巧みであった。

 リリルカはその傍らで手伝いをしており、アルマ達が自作した特製野菜カッターに洗った野菜をセットし全体重を掛けて一口サイズに刻んでいた。

 

「まぁ、暫定ザニスちゃんへの復讐が一歩進んだと思って頂ければ。源氏名も考えてくれてもいいんですよ?」

 

「どーでも良すぎて気が乗らンな……雲隠で」

 

「しっかり答えてるじゃないですか」

 

「るせぇ、考えろって言ったのはオメーだろうがよ……あいよ、お待ちどう」

 

 調理を終えて皿に乗せてノーカの前に置く。大量に作った残りも持ち帰り用の耐水・耐油加工のされた紙容器に順次詰められていった。

 

「ところで、昨日の晩にチラッと言ってた話なンだが」

 

らんれひはっへ(なんでしたっけ)?」

 

「……ベルの事だよ。どーすンだ?」

 

 原作主人公が前倒しで村を出て、本来存在しない開拓地(ばしょ)に移り住む。おまけに原作者の書いたifに出て来た叔母が鍛え上げる予定。如何にこの世界に根付いた一個の命としてある程度は原作と切り離して考えているラジルカであっても、寝耳に水どころの話ではなかった。

 

「……神ヘスティアはまだ降臨なさっていない様でして。下手にオラリオへ招くと……その、粘着質な美神が居ますから」

 

「あぁ、うん」

 

 ノーカの答えを聞いて、ラジルカは納得すると同時にげんなりした。転生者ではあるが特典や特殊能力を持たず、前世も一般人であるため魂も現地民と変わらないと思われるラジルカは、幸か不幸か目を付けられてはいない。

 だが、目の前の人型特異点(ノーカ)は独自裁量で神を害せる能力を持つらしいが、明確な異常である。美の女神から目を付けられちょっかいを出される可能性は十分にあった。ラジルカの予想では魂が悪徳側に振り切れて透明だの真っ白だのとは真逆でブラックホール並の黒さになっていそうだと考えてはいるが。

 と、ここでラジルカはフレイヤの話題から連想される案件を思い出した。

 

「あー、そういや受付嬢から聞いたか? ここに【フレイヤ・ファミリア】が仕事を持って来た」

 

「げ、マジで?」

 

「聞いてねぇのか。報連相はどうしたよ」

 

 思い出した件を話題に出すと、意外にもノーカは驚いて聞き返して来た。むしろ目の前の性悪(ノーカ)の事だから、てっきり予め依頼を断る様に言い含めていると思っていたラジルカは、ノーカの素を見られて満足を覚えながらも表向き呆れて見せた。

 

「内容によってはバベルの高さが半分くらいになるかもしれません」

 

「止めて差し上げろ。無関係な他の神まで巻き込まれてるじゃねーか」

 

 物騒な事を言い始めるノーカに常識的な制止を掛けるラジルカ。初遭遇の襲撃を含めても片手で済む程度にしか言葉を交わしていないが、ラジルカはノーカのキャラクター(ツッコミ待ち体質)を把握していた。

 

「思えばデス・アルマの性質って神フレイヤに近いんですよね……死神イメージで綺麗な魂に目が無い。何故か私も綺麗な魂判定もらってますからセンスは疑わしいですけど」

 

「安心しろ。アタシも愛しのリリも合格判定出されてる」

 

「姉妹愛は美しいから仕方ないね……ごちそうさまです。ちょっとデスに確認してバベりに行くデス」

 

「デスデス言われても候補多くて誰ネタか判別つかねーよ。でもってバベルは動詞じゃねぇ」

 

 ノーカは焼きそばを完食して食器を指定の場所に片付けると、単に仕事をしにギルドへ行くのか最上階へカチコミに行くのか判断が難しい言葉を残して去って行った。ツッコミには翼を振って返事とし、然りげ無くチップとしてヴァリスの詰まった皮袋を置くのも忘れない。

 

「相変わらず忙しい方ですね」

 

「見てるこっちまで疲れるくらいに、な……どうした?」

 

 リリルカが素直な感想を漏らし、ラジルカが同意する。その際、妹の嬉しそうな様子を疑問に思った姉は理由を尋ねた。

 

「いえ、あの方が来るとお姉ちゃんが楽しそうですから、リリも楽しくなるんです」

 

「そうか、どうやらアタシらはちょっと話し合う必要があるみたいだな、リリ?」

 

「え?」

 

「今夜は寝かさないぜ」

 

「え? え?」

 

 この日の夜、姉妹は熱く燃える様な時間を過ごした。そして途中で乱入してきた受付嬢(デス・アルマ)に絞られて、強制的に意識を落とす羽目になった。

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