オラリオ総異端児化計画   作:夜月工房

31 / 71
前回のあらすじ:神フレイヤからの依頼内容はお茶会への出席であり、場所もバベル最上階ではなく喫茶店であった。担当するアルマはオラリオに来る前(アクロニア大陸での出来事)についてはオラリオの外とぼかしつつも刺激的な冒険の思い出を語り、フレイヤを大いに楽しませた。意外な事に勧誘の類は一切無く、代わりにオッタルや、恐らく乱入するであろう他の幹部をよろしくと頼んだ。
そしてオッタルの予約した鍛練の時間がやって来た。今回は初回という事で全員参加である。実際の相手は実力が確かで冷静な対応の出来るローキー・アルマ。現場はもはや小学校の行事か何かであり、相対する二者も大人と子供であったが、【猛者(おうじゃ)】オッタルに油断も慢心も無かった。受付嬢の合図で雄叫びと共に飛び出し渾身の一撃を放ったオッタルは、次の瞬間には浮遊感を覚えていた。視界には一面に広がる蒼穹。現状を瞬時に把握し着地を、叶わぬなら受け身を取ろうとしたが、体が動かなかった。直後、衝撃。自らの突進の勢いと体重とを損なう事無く叩き付けられたオッタルは呼吸が止まり、苦悶の声を漏らす事さえ許されなかった。代わりに見物していたアルマの年少組から悲鳴が上がったのはご愛嬌であった。
バベルの屋上で眺めていた神フレイヤは思わずエセ関西弁(ロキと同郷なので)を感嘆の溜息と共に漏らしてしまい、オッタルの代わりに護衛していたアレンを驚愕させたとかなんとか。


第三十一話:イカれた仲間を紹介するぜ!――その内いつか機会があったらな!――

「ギルド《アインズ・ウール・ゴウン》NPCグロッケンバウムだ。ナザリック地下大墳墓オラリオ支店へようこそ」

 

 洒落た内装と暗めの照明、そこは冒険者の街オラリオにあっては異質と呼べそうな雰囲気の酒場(バー)だった。

 だが、案内されたノーカは店内の様子など気にする余裕もなく、体の震えを抑える事が出来なかった。人見知り発動中である。

 

「歓迎しよう……盛大にな!」

 

 そして震えの原因はそれだけではなかった。店内にいるのは数名だったが、誰も彼もが戦闘関連に疎いノーカであっても理解出来てしまう程に圧倒的な存在感を放つ格上だ。

 それだけの気配が建物の外には一切漏れていない事から、ノーカの冷静な部分は結界や亜空間の類なのだと推測し、技術的にも届かないレベルなのかと恐怖を強める。

 ノーカの反応が思っていたのと違ったのか、発言者は首を傾げ、何かに思い至った様に軽く握った拳の小指球を広げた手の平にぶつける。

 

「手こずっているようだな、尻を貸そう」

 

「あっ、同郷の方(ゲイヴン)でしたか」

 

 一瞬で恐怖は霧散した。発言していた個人に対しての人見知りも消え、安堵を滲ませた声が出る。ノーカはチョロかった。

 

 

 

 

 

第三十一話:イカれた仲間を紹介するぜ!――その内いつか機会があったらな!――

 

 

 

 

 

 開拓地から戻って来た日から二週間後の事である。相変わらずギルドに泊まり込みで屍を晒しては復活する日々を送ったノーカは、オラリオ外を拠点とする商人との取引について精査を終えた。

 流石は本職と言えば良いのか、疑わしい部分を追及して認めさせた不正な取引は数件であり、額も振るわない結果となった。これにはノーカもロイマンもがっかりである。が、ギルドの目が光っている事を知らしめる結果となり、正当な取引をしている商人からの信用を高める事は出来たので無駄にはならなかった(ただの負け惜しみであるが)

 また、今回の調査に便乗して今後は現場に対する抜き打ち検査の可能性を商人等へ示唆したため、今後は不正に対して二の足を踏んでくれるだろう。表向きの取引には影響しないため、ギルドにダメージは無い。不正業者が手を引いてくれるなら、それらの支援を受けるロクデナシの締め付けにもなるため、おおよそ歓迎される流れだ。

 地味にロイマンは賄賂が減ると嘆いていたのだが、ノーカの知った事では無かった。

 

 案件が一区切りしたため、ノーカは久方振りに定時退社した。残業組への差し入れは『なんでもクエストカウンター』に予め頼んでいたお好み焼きとたこ焼きと、飲み物が届く形にしておいた。

 そして帰り道、ふと思い出したいつか見た夢を頼りに普段は通らない道を通り、見た感じ何の変哲もない一軒の店に辿り着いた。

 

「遅かったじゃないか……」

 

 夢の流れそのままに、扉を開けて中から顔を覗かせた穏やかな物腰の青年がノーカを招き入れる。

 そして、建物内で待っていたのは夢と違ってオーラが全開で威圧感がバリバリな、少なくとも見た目は人間タイプの若者達であった。品定めする視線が物理的な圧力を持っているかのようで、ノーカは嘔吐一歩手前で堪えていた。

 その後、迎え入れた青年が主体となって挨拶をし、ノーカの様子からスタンスを明確にするネタを挟んで緊張を緩和させた。なお、青年以外の視線は変わらず突き刺さっており、下手に緊張を解いた反動で感じる圧の効果が倍増、無事ノーカは綺麗な虹を描き、床を汚された青年の絹を裂くような悲鳴が響いたのであった。

 

 

 

「うぅ、お手数をおかけします」

 

「いえいえ、こちらこそ周りを諌めるのが遅れました」

 

「「「「サーセンっしたぁ」」」」

 

 トイレへ救急搬送されたノーカが戻って嘔吐(オートリバース)の件を謝罪すると、青年も自分達側の手落ちを謝り返す。青年以外のメンバーは漫画やアニメで用いられる表現の様な数段重ねになったたん瘤を生やしており、謝罪の言葉と共に一糸乱れぬ斜め四十五度の礼を披露した。どうやら力関係は青年が頭一つ抜きん出ているらしいとノーカは認識した。

 

 

 

「えーと、つまり皆さんは別世界の転生者で、ここは中継地点的な?」

 

「当ててくるか!」

 

「認めよう、君の力を」

 

 質疑応答を一段落させ、ノーカはこの世界に来て初めて頭痛や胃痛を覚える側になった。

 ここに集まっている面々は次元の壁を越えるだけでなく、座標の指定とでも言おうか、ある程度は移動先をコントロール出来る。特化型の特殊能力頼りにも見えず、受けた圧からすれば戦闘能力も相当なものだろう。下手をすれば概念干渉のようなチートに到達している可能性も低くなく、ハッキリ言って神に比肩する存在だ……何故か隙あらば大鴉と山猫の語録を捩じ込んでくるので、友好度は高そうなのだ……危険度も高そうだが。

 

「まぁ、こんな奴らですが基本的には……えーと、改めてお名前を伺っても?」

 

「はい、改めまして、ノーカ・ウントと申します」

 

「面白い素材と聞いている。期待するぞ」

 

「よろしく頼む」

 

「新しい……惹かれるな」

 

「狙ったか、ノーカ・ウント!」

 

最後二文字(ホワイト・グリント)しか合ってねぇ!」

 

 どうやらグロッケンバウム(鈴木さん)と名乗った青年はこちらの事情に明るいらしく、ここでの名前を尋ねて来た。ノーカが名乗ると、周囲から歓迎らしき台詞が飛んで来る。

 

「収拾付かなくなるから少し黙って下さい」

 

「じょ、冗談じゃ…」

 

「イヤん!」

 

「これは…面倒なことに…なった…」

 

 しかし歓迎の言葉を放つ面々はテンションが上がって来て威圧感を出しつつあったため、グロッケンバウムの取り出したハリセンによって爽快な効果音と共に制圧される。

 この時点で、ノーカから見た彼らの印象は既に愉快な漫才集団になっていた。狙っての事ならば、大成功だと言えるだろう。ノーカには先程までの緊張は欠片も残っていなかった。

 

「失礼しました。それで、恐らくではありますが、貴女の懸念する事態にはならないと思います。我々はこの世界に手を出さず傍観に徹する予定ですから」

 

「ふむ?」

 

 青年の言葉は、ノーカにとって予想の範疇ではあるが大穴でもある可能性(不干渉)であった。

 

「我々はそれぞれの故郷――転生先ではありますが、そこでノーカさんの世話になった、いえ、救われたと言うべきでしょうね」

 

「……ふむ?」

 

 続いた言葉にノーカは首を傾げる。能力だけなら凶悪の一言に尽きる面々の何をどう救えるのか検討も付かないし、救われたのなら恩返しで協力の一つ二つ申し出そうなものである。表に出せる様な存在ではないので、ある意味で助かると言えば助かるのだが。

 

「まぁ、我々の故郷におけるノーカさんは、なんというか、こう、アナーキーなスピリッツがバーストしてクラッシュすると言いますか、エキセントリックな言動により既存の体系を徐々に崩壊させる手腕にかけては他の追随を許さない部分がありまして」

 

「なにそれこわい」

 

 青年の言葉は褒めているのか貶しているのか判断に困る評価だったが、救われたと述べている以上は褒め言葉なのだろうとノーカは一応の納得をして、それでも自分にそのような能力はないと思っているのでここに来て別人と間違えているのではないかと心配になった。

 だが、本人に自覚はないものの、この世界(ダンまち)でも不正の調査や原作キャラまたは組織への介入等を自分の意思で行っており、原作崩壊への道をそれはもう緩やかに(しっかりと)整備している。もし青年の言葉を転生者(ラジルカ)が聞いていれば、物凄く嫌そうな表情をしながら納得していた事であろう。

 とは言っても、そもそもこの世界は何の因果かノーカとは無縁なところでオカンの存在(ダンジョン)という基幹部分からして崩壊の兆しを見せている。更には原作主人公の数奇な現状(ゼウス早期失踪)の大元には原作キャラの身内(ラジルカ・アーデ)という転生者の存在がある。もっとも、こちらはノーカによる撃退、捕縛と処理によるやり取りが関係しているし、迷いショタ(ベル・クラネル)の保護を身内(ぷるぷる)がしたので無関係とは言えないのかも知れないが。

 

「そのため、下手に我々のような存在が介入すると『徐々に』の部分に変化が出てしまい一波乱起きてしまう可能性が非常に……非っっっっっ常ぉぉぉぉぉうに、高いんですよ」

 

「えぇ……」

 

 そこまで溜めるのか、と思わずノーカは引いたのだが、見回せば彼らをして沁々と頷く何かを仕出かした過去があるらしい。あくまでもノーカへの認識は別世界の可能性――言わば同位体であり、同一視して変な因縁を吹っ掛けてくる者が居ないのは幸いであった。

 

「そんなわけで、我々に出来るのは愚痴や悩みを聞いたり食事や娯楽を提供したり、精神的な部分を補助するくらいになりますね。ノーカさんも漫画やアニメの続きって気になりません?」

 

「めっちゃ気になります」

 

 グロッケンバウムの問い掛けに、ノーカは即答した。誰だって連載中の作品は続きが気になる。気持ちが前のめりになったノーカはグロッケンバウムに詰め寄っており、その速度は一時的にステータス(AGI)物理法則(音速の壁)も越えており、その場にいた転生(神の如き)者達の目にも微かに映るばかりであった。ゲーマーズの存在はあるが、あちらの在庫はECOのサ終に合わせた日付までなため、さらなる未来の作品を期待した形だ。都合が付くのであれば、ゲーマーズに卸して貰う事も考えていた。

 

「あ、ちょ、近い。近いです」

 

「おっと失礼」

 

 ほとんど無意識だったため、ノーカは懐に入ったとされる距離まで近付いてしまい、グロッケンバウムは気圧されたのか両手を挙げて降参のポーズを取りながら慌てた様な声を上げた。

 

「隊長、追撃しますか?」

 

「慌てるな…次も童貞とは限らんだろう」

 

「ふんっ!」

 

「AMIDA!」

 

「ドミナント!」

 

 すかさず茶化す他の転生者だが、即座に鎮圧される。両手を挙げたまま右手を握り締めた瞬間に断末魔が聞こえたせいで、ノーカはガッツポーズしただけで点数が入った逸話(ネタ)を持つ野球選手についてそう言えば彼も鈴木だったなぁと思い出していた。

 

「ひとまず我々の提供出来る範囲は2022年末まで、それぞれが辿り着いた微妙に歴史の異なる地球の作品となります」

 

「ほうほう、五年あれば大半の追っていた作品は完結してそうな気もしますが」

 

「まぁ、その辺はノーカさんご自身で確認して下さい」

 

「あー、でも、明日以降も仕事があるのでしばらくは時間が取れそうにないですねぃ」

 

 グロッケンバウムからの情報はノーカにとって非常に有益な内容であったが、娯楽を楽しむ時間の捻出は至難であった。

 定時上がりとまでは言わずとも、一般ギルド職員の様に四時間以内の残業で切り上げたり週のどこかに完全な休日を設けたりする事は可能だ。が、ノーカの場合はプライベートでも優先するべきアルマ達、原作キャラ、悪巧み、その他がギッシリ詰まっている。娯楽は残念ながらその他の更に底の側へ追いやられる部類であり、ノーカが描いている暗黒期の、終結後のゴタゴタを片付けて初めて訪れる安定期までは手を出せそうになかった。

 

「あぁ、それでしたらここは時間の流れが違いますので……」

 

 だが、そこへ差し込む希望の光。グロッケンバウムの言葉は、日本人の殆どが欲するであろう例の部屋を思わせる効果があるらしい事を示唆していた。

 

「精神と?」

 

「時のですね」

 

「おぉ、なんという……」

 

 短い確認の言葉に対して符丁の如く合致する返答。それが意味する事はつまり……ノーカは感極まって片手を天高く突き上げて

 

「ここで仕事をすれば効率が上がるわけですね!」

 

「あっれぇー!?」

 

 全力で仕事の消化に取り組む宣言をしながら書類を取り出し始めた。これには転生者一同梯子を外されたかの様にバランスを崩してソファーや椅子から転げ落ちる。一部の者は天井から落ちて来た金ダライが頭部を打つオマケ付きだ。これで建物の壁が外側に倒れていたら完全にコント(ドリフ)である。

 別世界のノーカはここまでワーカーホリックを拗らせてはおらず、むしろ積極的に仕事を振って自分は趣味に近い研究や採取等に勤しんでいたらしい。相違点としては所属が独自勢力を立ち上げているか既存勢力下にあるかが挙げられた。

 ノーカの自己分析では、奉仕種族的な性質を持ってはいるものの、人見知りするので基本的には責任ある立場には就きたがらず、転生者が活躍する世界ではそちらに丸投げして自身は趣味に走る可能性が高かった。

 それを伝えたところ、転生者側も納得出来る部分があったらしく、ここ(オラリオ)で万一があった場合はロイマンやウラノスに責任を押し付けてダンジョンに逃げる可能性を指摘して来た。ズバリ当てられたノーカは顔を背けながら下手な口笛を吹いて誤魔化した(せない)

 その日は転生者一同から休養の大切さを懇々と説かれ、睡眠魔法で強制的に休まされた。ECOの睡眠はダメージで解除されはするが、自然回復するまでの時間は非常に長く、ダメージを伴わない悪戯の餌食となってしまった。

 

 次の日、ギルドに出社したノーカは繋がった太い眉や立派な髭を油性マジックで描かれたままだったが、周囲からは何か深い考えがあるの(どうせしょうもないこと)だろうと放置されるに留まった。こっそり確認していた転生者連中は敗北感に打ちひしがれたとか。

 

 

 

 後日、転生者である事を理由に連れて来られたラジルカは、挨拶代わりのプレッシャーにより気絶して、ついでに乙女の尊厳を傷付けられた(レッが抜けた擬音的なアレ)

 その際、こっそり持っていた大量の時限爆弾が転がり、落ちた衝撃で起動スイッチが入り、気絶したラジルカをノーカが背後に回して庇った以外に動きはなく……それはもう盛大に爆発オチを決めたのであった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。